III-B144 立 立坑掘削における土留壁背面地盤の変形影響範囲の特性とその評価手法 大阪大学大学院 学生会員 吉田 浩 大阪大学大学院 正会員 小田和広 大阪大学大学院 フェロー松井 保 中央復建コンサルタンツ 正会員 初田浩也 1 .はじめに に 近年,都市部では土地制約上の理由から構造物の過密化が進んでいる.筆者らは,近接施工のうち最もポピュラーな 掘削工事を取りあげ,土留壁背面地盤の三次元的変形特性について検討を行ってきた1).今回の発表では,粘性土地 盤を対象とした立坑掘削工事での土留壁背面地盤の変形影響範囲について,その特性を明らかにする。次に,それを 筆者らが既に明らかにした砂質土地盤における変形影響範囲の特性 2) と比較する。最後に,立坑掘削における土留 z 壁背面地盤の変形範囲の評価手法を提案する. 2 . 有 限 要 素 解 析 3)4) 図 -1 は掘削領域と解析領域の関係を示している.今回の解析では,掘 削幅(W),掘削深度(D)の立坑掘削を想定し,土留壁背面地盤のみを 解析領域として取り挙げた 5).図 -2 は解析モデルを示している.解析モ デルの前面には,土留壁の変形を想定し,水平方向に台形分布,深度方 向に三角形分布の強制変位を与えている.ここで,強制変位の最大値 (δmax)は掘削深度において生じさせている. 非排水状態にある粘性土地盤を対象としているため,地盤材料は von Mises の破壊基準に基づく弾塑性体としてモデル化した.その際,粘着 力 c は 0.3σz(σz は土被り圧)として与えた.また,弾性係数(E)を次 式によって与えた. E = E 0 ( p©p©0 ) m 20m 30.25m 解析領域 10m 20m 掘削範囲 30m 10m x y 図 -1 掘削領域と解析領域の関係 z (1) 20m ここに,p’ は平均主応力,E0 および p’0 は基準時における弾性係数と平 均主応力であり,それぞれ 24.5Mpa および 49.0kPa とした.また,m は 材料定数であり 0.5 とした. 表 -1 は解析ケースを示している.Dを 10m と 20mの2パターンとし,W を W/D が所定の値になるように決定した。また,W/D=∞ は掘削幅が無 限大,すなわち二次元掘削の場合を示している. 30.25m 地表面 10m 30m 10m 対称面 20m 強制変位 δmax 3 . 変形メカニズムと変形影響範囲 x 図 -3 は土留壁背面地盤の変形メカニズムを模式的に示し ている 3)4).すなわち,土留壁の変位の増加に伴い, その背面地盤に発生した破壊域は拡大し,やがて土 表 -1 解析ケース 図 -2 解析モデル 留壁と地表面に達する.破壊域ではせん断変形に対 する抵抗機構が完全にモビライズしているため,破 10m 壊域にせん断変形が集中して生じる。このため,地 D 20m 表面,土留め壁および破壊域によって囲まれる領域 が剛体的に滑り移動する 4)。この変形メカニズムに基づけ ば, 土留壁背面地盤の変形範囲は破壊域の位置によって評 価できる 3).ただし,破壊域は幅を持っているため変形影 響範囲を代表する位置を何らかの方法によって決定しなけ ればならない.そこで,図 -4 に示すように,地表面部分に おける γ の分布を求め,地盤が破壊している領域におい て,γ の最大値が発生する位置と土留壁との距離を変形影 響範囲(e)と定義した 3). y W/D 0.5 1.0 2.0 3.0 4.0 6.0 C-10-05 C-10-10 C-10-20 C-10-30 C-10-40 C-10-60 8.0 ∞ C-10-80 C-10-∞ C-20-10 C-20-20 C-20-40 C-20-60 C-20-80 C-20-120 C-20-160 C-20-∞ 土 留 め 壁 の 変 形 破壊域 土 塊 が 滑 る 土 留 め 壁 の 変 形 破壊域が拡大し,やがて地 表面に達することにより, すべり抵抗がすべてモビラ イズされる 図 - 3 変形メカニズム キーワード:有限要素法,立坑掘削,変形メカニズム,変形影響範囲,評価手法 連絡先:〒 565-0871 吹田市山田丘 2-1 TEL:06-6879-7626(FAX 兼 ) -288- 土木学会第56回年次学術講演会(平成13年10月) III-B144 4 . 変形影響範囲の特性 図-5は,粘性土地盤におけるeとWの関係を示している.D=10m では W=40m,D=20m では W=80m までは,e は W の増加ととも に単調に増加している.Wがそれら以上の範囲では,Wに関わ らず e は一定となっている.図 -6 は,粘性土地盤における W=∞ のときの e(=e∞)によって正規化された変形影響範囲(e/e∞)と 掘削深度によって正規化された掘削幅(W/D)の関係を示して いる.シリーズ C-10 と C-20 における e/e∞ と W/D の関係は一致 している.また,W/D が4以上であれば,e/e∞ はほぼ 1.0である. したがって,W が D の 4 倍以上であれば,e におよぼす W の影 響は無く,二次元掘削の場合と同様に取り扱うことができる. γ 変形影響範囲 (e) 土留め壁 からの距離 土留壁か らの距離 ハッチング:破壊域 破壊域 工学会研究発表会発表講演集, (投稿 中). 4)吉田・小田・松井(2001):土留 め壁背面地盤の変形メカニズムに及 45゜+φ/2 ぼす地盤の材料特性の影響,H13 土 木学会関西支部年次学術講演会概要 集(投稿中) 5)小田・初田・松井(1999) :三次元 数値解析による土留め壁背面地盤の変 形挙動におよぼす解析領域の影響, H11 土木学会関西支部年次学術講演会 正規化変形範囲(e/e∞) (参考文献) 1)小田・初田・松井(1999) :立坑掘削における土留め壁背面地盤の三次元的変 形メカニズム,第34回地盤工学会研究発表会発表講演集,pp.1625-1626. 2)初田・小田・松井(2000) :土留め壁背面地盤の変形範囲の特性とその評価手法, 土木学会全国大会第55回年次学術講演会講演概要集,Ш -B185. 3)吉田・小田・松井(2001):粘性 土地盤の立坑掘削における土留め壁 e∞ 1.2 背面地盤の変形特性,第36回地盤 正規化変形範囲(e/e∞) 変形範囲e(m) 正規化変形影響範囲(e/e∞) 図 -4 変形影響範囲の決定方法 5 . 変形影響範囲の評価手法 図 -7 は,粘性土・砂質土における e/e∞ と W/D の関係の 40 1.2 2) 比較を示している 。両者はほぼ一致しており,地盤材 1 30 料の違いにかかわらず,e/e∞ とW/Dにはある固有な関係 0.8 が存在すると考えられる。したがって,筆者らが既に提 0.6 20 D=10m 案している砂質土地盤を対象とした土留め壁背面地盤の 0.4 10 変形影響範囲の評価手法 2)(図 -8)は地盤材料の種類に 0.2 D=20m D=10 D=20 関わらず適用できることが示唆される。 0 0 0 2 4 6 8 10 0 50 100 150 200 6.ま と め 正規化掘削幅(W/D) 掘削幅W(m) 本研究では,数値シミュレーションにより,既に提案 図 -6 粘性土における 図 - 5 粘性土における された立坑掘削における土留壁背面地盤の変形影響範 正規化変形影響範囲と 変形影響範囲と掘削幅 囲の評価手法の検証を行った.その結果, 正規化掘削幅の関係 の関係 1)粘性土地盤においても,正規化変形影響範囲と正 1.2 規化掘削幅との間には固有な関係が存在する。 2)正規化変形範囲と正規化掘削幅との間には,地盤材料に関わらず固有な関係が存 1 在する。 0.8 3) 筆者らが既に提案している土留め壁背面地盤の変形影響範囲の評価手法は地盤材 0.6 粘性土 料に関わらず適用できる。 0.4 砂質土 0.2 0 0 2 4 6 8 10 正規化掘削幅(W/D) 図 -7 粘性土・砂質土にお ける e/e∞ と W/D の関係の 比較 e 1 0.8 0.6 0.4 粘性土 0.2 砂質土 0 0 2 4 6 8 10 正規化掘削幅(W/D) 1)既往の設計基準に基 づいて e ∞を求める 2)図より W/D に対応する e/ e ∞を求める 3)e を求める 図 -8 土留め壁背面地盤の変形影響範囲の評価手法 概要集,III-64-1-2. -289- 土木学会第56回年次学術講演会(平成13年10月)
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