基盤整備地に展開する柑橘類の産地づくり - 農林水産省

静岡県
基盤整備地に展開する柑橘類の産地づくり
○ 静岡市清水区の新丹谷(あらたにや)地区等の柑橘産地では、急傾斜地
が多く、狭小な園地が分散して作業性が劣り、後継者確保も困難であった。
○ このため農林事務所では、産地計画の策定を支援(平成18年度)し、平坦
化された基盤整備地に優良系統の植栽を指導し、担い手の育成を図った。
○ その結果、団地化が進み、新丹谷地区、柑橘植栽面積25.3haの全てに優
良系統が、機械化を想定して植栽された。
具体的な成果
1 分散化された狭小な傾斜地の園地が、
基盤整備により平坦化され、1か所にまと
まった園地に集約された。
普及指導員の活動
1 平成15年度から継続して普及課題で取
り組み、平成16年度から開始された植栽
計画の策定段階から参画した。
2 優良品種として地元の県農林研果樹研
究センターのデータを活用して、同所
育成の青島温州の改良系統(A-44等)や
(独)果樹研究所(興津)で育成された「は
るみ」の普及を進めた。
2 主力の青島温州の改良系統(A-44等)や
ブランド化を目指す「はるみ」等の優良品種
が、機械化を想定した樹間で植栽された。
また 青島温州のわい性台木ヒリュウや
また、青島温州のわい性台木ヒリュウや
ドリップ栽培等の栽培技術も導入した。
3 担い手への農地集積が進み、後継者が
育った。
また、全国果樹技術・経営コンクールで、
また、全国果樹技術
経営コンク ルで、
新丹谷地区に園地をもつ経営面積3.2haと
4.2haの2戸が、農林水産大臣賞を受賞し
た。
3 地区の植栽組合を対象に、優良品種と
地区 植栽組合を対象に 優良品種と
して、産地の主力となる青島温州の改良
系統や特産の「はるみ」を軸に、経営モデ
ルを作成し、植栽を進めた。
4 優良品種への転換や担い手への農地
集積、機械化等による産地の将来像の
実現をめざし、農協柑橘委員会を対象
に、果樹産地構造改革計画策定・改訂
に参画(平成18年度策定、平成23年度
改訂)した。
普及指導員だからできたこと
・基盤整備地に、担い手を中心とした園地
の集約化が進められ、果樹産地構造改革
4 平成16年度の植栽計画の作成から、 計画の策定とともに、機械化等総合的視野
平成18年度に果樹産地構造改革計画を策 で産地の将来像が描けた。
定、平成23年度の改訂にすすみ、計画的 ・独立行政法人や県の試験研究機関の
な優良品種への転換、担い手への農地集 データ・情報を集め、産地の視点で、優良品
積、機械化などによる産地の将来像が明 種や新しい栽培技術の導入・普及に役立て
確になった。
ることが出来た。
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1.取組の背景
静岡県静岡市清水区の新丹谷(あらたにや)地区等の柑橘産地では、急傾斜地で
分散化された狭小な園地が多く、農作業の効率が悪かった。
また、品種更新、シートマルチ栽培が進まず、価格も不安定で、有力他産地に比
べて優れた担い手や後継者が育ちにくかった。
そのため、静岡市清水区内では昭和 63 年度から傾斜地の樹園地を平坦化する基
盤整備事業を清水農協管内で開始し、栽培面積約 400ha のうち、半分にあたる約
200ha の整備と植栽を進めている。
2.活動内容
(1)平成 15 年度に普及課題を設定し、平成 16 年度から開始された植栽計画に当初か
ら参画した。
(2)地元の県農林研果樹研究センターのデータを活用して、同所育成の青島温州の改良系
統(A-44 等)や、(独)果樹研究所(興津)で育成された「はるみ」など、優良品種の普及を
進めた。また、シートマルチを平坦化された園地に設置し、糖度と着色の優れた果実
の栽培を指導した。さらに、ドリップ灌水を導入し「はるみ」の初期生育段階での
減酸を促進するよう指導した。
(3)3地区の植栽組合を対象に、産地の主力となる青島温州の改良系統や特産の「は
るみ」を軸に、経営モデルを作成し、植栽を進めた。
(4)優良品種への転換や担い手への農地集積、機械化等による産地の将来像の実現を
めざし、農協柑橘委員会を対象に、果樹産地構造改革計画の策定・改訂(平成 18 年
度策定、平成 23 年度改訂)に参画した。
3.具体的な成果
(1)傾斜地で狭小な柑橘園が分散していたが、平坦化された一つにまとまった園地
になり、労働負担を軽減し生産性が上がった。
基盤整備された
新丹谷地区の柑
橘園地
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(2)主力の青島温州の改良系統(A-44 等)やブランド化を目指す「はるみ」等の優
良品種が、交付金事業を活用して機械化を想定した樹間で植栽された。
また、青島温州のわい性台木のヒリュウやドリップ栽培等の技術導入を図った。
「はるみ」の
ドリップ灌水
栽培
(3)担い手への農地集積が進み、後継者も育ってきた。また、全国果樹技術・経営
コンクールで、新丹谷地区に園地をもつ経営面積 3.2ha と 4.2ha の2戸が、農林水
産大臣賞を受賞した。
強い農業づくり改植事業品種別植栽面積(新丹谷地区、平成 20 年度~22 年度:3 年間計)
早生温州
品種系統名
品種別(ha)
分類計(ha)
(%)
青島系
興津
宮川
早生
早生
22.4
59.0
早生温州
計
その他
34.8
116.2
15.7
カラタチ
ヒリュウ
台
台
210.8
100.3
青島系
計
A-44
195.0
青島
4号
30.0
寿太郎
不知火
54.1
15.6
温州
18.0
中晩柑
536.1
72.4
はるみ
計
2.4
(注)カラタチ台とヒリュウ台の穂木は、青島温州
4.農家等からの評価・コメント(静岡市清水区N氏)
隣接した地区で大規模な基盤整備が行われたのをきっかけに新丹谷地区でも基盤
整備を実施したいと思った。平成 16 年度から平成 23 年度まで、継続して植栽計画
が進んだのも、農林事務所を始め、市、JA等関係機関のおかげと感謝している。
先行した他地区での反省点を生かし、土壌改良や柑橘の植栽間隔を機械化に対応
できるように広げる等の工夫をした。地区内で初期に植栽した園地では、品質の高
い果実の生産が驚異的に伸びてきている。農地の集約化も進め、作業条件も改善さ
69.7
11.9
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れ後継者も育成されつつある。今後は、改善された条件を活かして、SS 等を導入し
て機械化を図り、青島温州、はるみ等のブランド化を推進し、産地の名声を高めた
い。
5.普及指導員のコメント
(中部農林事務所 専門員
杉山和美
果樹指導担当)
基盤整備事業を実施する前の急傾斜な樹園地は、経営面積が小さく、作業効率が
悪い上、重労働であった。生産者の高齢化と、老木化による収量低下により、柑橘
経営をするには非常に厳しい条件にあった。
整備後の平坦な農地は、効率的な農地利用のため、作付けする作物のゾーン分け
を進めてきた。柑橘園地では、将来の経営を見据え、計画密植による早期成園化と、
機械化等を考慮した植栽方法を進めてきた。
また、ブランド化を図るために優良品種の植栽を推進し、シートマルチ栽培、ド
リップ灌水栽培を進めている。さらに、地域の担い手を育成するため、農地の流動
化を誘導してきた。その結果、徐々にではあるが、経営規模の拡大への道筋ができ
てきた。10 年先には本格的な機械化により、法人経営体が基盤整備地の農地を管理
する体制が築かれることを期待したい。
6.現状・今後の展開等
平成 16 年度植栽の園地がようやく成園化しつつある現状で、高齢化も進むため、
さらに集約化し、スピードスプレーヤー等の機械化を図りながら、家族経営から雇
用を入れた大型経営を進めていく必要がある。
また、同じJAしみず管内の加勢沢、茂畑、矢部等の各地区も、基盤整備の進捗
にあわせて、植栽が進むため、新丹谷地区の成果を活かしながら、普及活動を進め
ていく。