大型ショッピングセンター「ゆめタウン呉」 における氷蓄熱式空調熱源設備

―― 実 施 例 ――
大型ショッピングセンター「ゆめタウン呉」
における氷蓄熱式空調熱源設備
ñエネルギア・ソリューション・アンド・サービス 地域エネルギー事業部 山 崎 孝 公
プロジェクト第2本部 伊 藤 寛
三菱化学エンジニアリングñ
中国支店 石 田 和 雄
東洋熱工業ñ
■キーワード/大規模ショッピングセンター・氷蓄熱
1.はじめに
平成16年9月にオープンしたゆめタウン呉
は,これまで工場地域であったJR呉駅南口の
再開発事業のひとつとして,ñイズミが建設し
た,呉市周辺では最大規模のショッピングセン
ターである。
本施設の空調に必要な冷熱は,ñイズミから
の蓄熱受託事業として,ñエネルギア・ソリュ
ーション・アンド・サービスが設置した氷蓄熱
式空調熱源設備(以下「熱源設備」という。)か
ら供給している。この蓄熱受託事業とは,お客
さまからの委託により,蓄熱式空調熱源供給設
備の設置から運転・監視・保守をお客さまに代
写真−1 建物外観
わって行い,空調に必要な冷熱・温熱を供給し,
その対価として蓄熱受託料金を徴収する事業で
蓄熱熱源設備範囲
ある。本事業のメリットは,お客さまの初期投
給水
資を大幅に抑制できるとともに,熱源設備の運
排水
転・監視・保守に要する人員を削減することが
CT−1
CT−2
できることであり,すでに,中国地区において
BT−1
数件の実績がある。
CV
CV−1
CV
CDP−1
CV
CV−8
CDP−2
CV−9
ブラインターボ
冷凍機2基
CV
本熱源設備は,熱量管理が容易であり,製氷
(蓄熱)・解氷(放熱)特性に優れる「STL蓄熱シ
CV−2
BCR−1
BCR−2
M C
蓄熱時
5.16GJ/h
M C
施工概要および運転実績の一部を紹介する。
STL氷蓄熱槽
100m3 5基
16.7GJ/基
CV
CV
ステム」を採用した。本稿では,本熱源設備と
追いかけ時
7.09GJ/h
CV−7
CV−6
2.建物概要
CV−5
建物名称 ゆめタウン呉
CV−4
CV
CV
所 有 者 ñイズミ
BP−1,2,3
ブラインポンプ 55kW
常用2基
予備1基
建物用途 ショッピングセンター
CV−3
CV
所 在 地 広島県呉市宝町
蓄熱熱源設備範囲
HEX−1
構造規模 S造 地下1階∼地上6階
敷地面積 19,148.58fl
CP−1
建築面積 13,598.52fl
系統−1
CP−2
延床面積 73,778.12fl
系統−2
工 期 平成15年8月∼平成16年8月
設計施工 鹿島建設ñ
図−1 蓄熱熱源システム図
―5―
ヒートポンプとその応用 2005.
3.
No.66
―― 実 施 例 ――
(GJ/h)
25
3.氷蓄熱式空調熱源設備の概要
↑ 20
放
熱 15
量 10
所 有 者 ñエネルギア・ソリューション・
アンド・サービス
5
運営管理 ñエネルギア・ソリューション・
0
23 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
蓄
熱 5
量
↓ 10
15
時 刻
(時)
アンド・サービス
工 期 平成15年8月∼平成16年8月
設計監理 ñエネルギア・ソリューション・アンド・
サービス,鹿島建設ñ
蓄熱量
施 工 ñイデオ
蓄熱設備 三菱商事ñ
追いかけ(夜間負荷)
放熱量
図−2 設計運転パターン
機械設備 東洋熱工業ñ
電気設備 ñ中電工
主要機器
・STL氷蓄熱槽 100„
(18.4GJ/基)
(kW)
1,200
×5基
設計電力デマンド
1,000
・ブラインターボ冷凍機
(冷媒 R134a)
(蓄熱時 5.16GJ/h,追いかけ時 7.09GJ/h) ×2基
800
・冷却塔(冷却能力 8.5GJ/h)
×2基
600
・熱交換器(21.3GJ/h)
×1基
400
×3基
200
・ブラインポンプ 55kW(インバータ)
(常用2基,予備1基)
・冷却水ポンプ
(37kW)
×3基
・ブラインタンク(30„)
×1基
0
23 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
(時)
時 刻
図−3 熱源設備の設計電力デマンド
4.二次側空調設備概要
主要機器
・外気処理空調機
5.空調熱源システムの特徴
× 12台
合計冷房能力:1,596kW
本熱源設備の特徴は下記のとおりである。
∏
冷 水 温 度:入口 7.0℃,出口 17.0℃
・大型ファンコイルユニット
×170台
球カプセル氷蓄熱材の採用
本熱源設備では,球カプセル蓄熱材を採用している。
合計冷房能力:2,992kW
これは写真−2に示す,直径約90Ÿの球カプセルに
冷 水 温 度:入口 7.0℃,出口 17.0℃
水を封入したものを蓄熱媒体として使用するものであ
・冷水二次ポンプ
る。
× 2台
この方式では,球カプセル蓄熱材を必要蓄熱量に見
198„/h×45kW(インバータ)
・空気熱源ヒートポンプパッケージ
合った個数蓄熱槽内に投入・充てんするので,蓄熱槽
× 69台
形状の制約が他方式の氷蓄熱システムに比べ少なく,
合計冷房能力:1,678kW
合計暖房能力:1,894kW
本熱源設備の構成機器は,氷蓄熱槽,ブラインターボ
冷凍機,熱交換器,ブラインポンプ,および付帯機器で
あり,92GJの冷熱を蓄熱し,最大19GJ/hの冷熱を,氷
蓄熱槽からの放熱とブライン冷凍機の追いかけ運転によ
り,+7℃の冷水で供給可能なように設計されている。
また,13時から16時の電力デマンドのピークカットを
目的として,この時間帯の冷凍機運転台数は1基として
いる。
図−2に本熱源設備の設計運転パターンを,図−3に
熱源設備の設計電力デマンドを示す。
写真−2 球カプセル蓄熱材
ヒートポンプとその応用 2005.3.No.66
―6―
―― 実 施 例 ――
STL氷蓄熱槽
300t級クレーン
50tクレーン
前面道路
図−4 STL氷蓄熱槽搬入要領図
写真−3 タワー型蓄熱槽
ク)と4回にわたって行った。
いずれも大型重機(80ton∼350tonクレーン)により
揚重を行ったが,建物が敷地いっぱいに計画されたた
め,搬入は敷地外(周辺道路・隣接地など)より行い,
特にSTL氷蓄熱槽の据付は前面の公道を使用し,夜間
に行った。図−4にSTL氷蓄熱槽の搬入要領を示す。
π
配管工事
A
配管材料
・ブライン配管
配管用炭素鋼鋼管・黒
(JISG3452)主管 350A
・冷却水配管
配管用炭素鋼鋼管・白
(JISG3452)主管 250A
写真−4 高効率ブラインターボ冷凍機
B
配管継手
・一般配管用鋼管突き合わせ溶接式管継手
特に蓄熱槽をタワー型にすることが可能であり,蓄熱
・鋼製溶接式フランジ
槽の設置スペースを小さくできる。本熱源設備では,
・ねじ込み式可鍛鋳鉄製管継手
C
写真−3に示すように,5基のタワー型蓄熱槽を立体
駐車場の旋回通路
(シリンダスロープ)の外側の不利用
弁類
・バタフライ弁
空間に設置した。
π
10Kギャー式ウェハー形(弁体ステンレス鋼製)
・Yスト
高効率ブラインターボ冷凍機の採用
蓄熱運転時
(ブライン温度−5.5℃,冷却水温度30℃)
10Kフランジ型(ねずみ鋳鉄製)
D
COP=4.09,追いかけ運転時(ブライン温度+7.0℃,
冷却水温度32℃)COP=5.08の性能を有するHFC−
施工の特徴
・大口径配管(最大350A)が多いため,主に工場加
工を採用し,現場加工を最小限に抑えた。
134a冷媒の高効率ブラインターボ冷凍機を採用した。
・外壁に沿った屋外配管については,建物柱および
写真−4に高効率ブラインターボ冷凍機を示す。
梁よりH鋼を出し,これに配管を支持した。
6.工事概要
∫
熱源設備設置工事としては,大型機器の搬入据付工事
STL氷蓄熱槽の保冷工事はタンク周囲にビデ足場を
および大口径の配管工事,STL氷蓄熱槽の保冷工事が重
組み施工した。
保冷材には,タンクの形状に合わせたフォームポリ
要なポイントであった。
∏
STL氷蓄熱槽の保冷工事
搬入据付工事
スチレン製の工場加工品を使用し,仕上げ材にはカラ
機器搬入は,大きく分けて,A蓄熱槽アンカーフレ
ー角波亜鉛鉄板を使用した。
図−5にSTL氷蓄熱槽の鏡・胴部保冷施工要領を示
ーム,B氷蓄熱槽本体,C機械室内機器(冷凍機・ポ
ンプ・熱交換器)
,D屋外機器
(冷却塔・ブラインタン
す。
―7―
ヒートポンプとその応用 2005.
3.
No.66
―― 実 施 例 ――
表−1 9月9日運転記録
カラー鉄板(平板0.4t)
防湿材(アルコート)
テクスビス
接着剤(必要箇所に塗布)
化粧バンド
角波止バンド
(SUSバンド50W 0.5t)
ポリスチレンフォーム保冷材
鉄線
接着剤(必要箇所に塗布)
(カラー角波鉄板 0.4t)
項 目
単位
数値
単位
数値
日 間 冷 房 負 荷
GJ
130.4
最
高
気
温
℃
30.3
最 大 冷 房 負 荷
GJ/h
9.8
最
低
気
温
℃
21.8
最 小 冷 房 負 荷
GJ/h
8.8
平
均
気
温
℃
25.7
日 間 蓄 熱 量
GJ
101
最
高
湿
度
%
78
日 間 放 熱 量
GJ
83.1
最
低
湿
度
%
53
蓄 熱 移 行 率
%
63.7
平
均
湿
度
%
68
冷凍機製造熱量
GJ
95.8
冷凍機製造熱量
GJ
46.4
蓄
h
10
冷
h
14
夜間(23:00∼8:00)
図−5 鏡・胴部保冷施工要領
熱
冷
時
凍
補
熱源設備監視盤 デ遠 遠隔監視盤
防 災
センター
各種
警報
管理
データ
デ ー タ 転 送
状態表示機媒
制御・監視機媒
データ管理機媒
警報管理機媒
ー隔
タ監
視
遠隔監視
装 置
デ ー タ
収集PC
データ収集
6,340
冷
kWh
2,117
補
凍
間
機
kWh
2,570
機
kWh
1,029
冷 凍 機 C O P
4.20
冷 凍 機 C O P
5.02
シ ス テ ム C O P
3.15
シ ス テ ム C O P
3.58
↑ 10
放
熱
量 5
0
ブライン
冷凍機
23 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
蓄 5
熱
量 10
↓
15
負荷側
ブラインポンプ
kWh
機
時
(GJ/h)
15
メンテナンス会社
運転データ 運転状態
ブライン
冷凍機
機
房
警報管理
温度,流量,電力量
運転モード
STL
氷蓄熱槽
昼間(8:00∼23:00)
故障信号
発停指示
データ収集
遠隔監視センター
間
項 目
時 刻
(時)
熱交換器
ゆめタウン呉
蓄熱量
監視センター
追いかけ(夜間負荷)
放熱量
図−7 9月9日運転パターン
図−6 遠隔監視システム
負荷は設計の約50%の130.4GJである。氷蓄熱槽からの
7.システムの運転・監視
供給熱量は設計値(92GJ)に対し90%であり,蓄熱移行
図−6に本熱源設備の遠隔監視システムを示す。設備
率は約64%である。表−1に当日の運転記録を,図−
はすべて自動運転される。各種警報は遠隔監視システム
7に運転パターンを示す。
により監視センターおよび管理会社担当者の携帯電話に
設備の運転は良好であるが,蓄熱槽に約10%の蓄熱
発報される。警報の種類・レベルによっては保守委託会
量を残した状態で運転を完了している。これは,営業運
社からエンジニアが現場に急行し,必要な処置を行う。
転開始直後であるため,各種の設定値(追いかけ運転開
また,運転状況は監視センターの監視盤にリアルタイム
始条件,残蓄熱量管理機能など)が最適化されていない
で表示されるとともに,毎正時の運転データ(1次デー
ことが原因であり,今後,設定値の最適化を行い,より
タ:温度・流量・圧力,2次データ:瞬時・積算蓄放熱
効率の良い運転・運用をめざしたい。
量,各機器の消費電力量など)が,1日1回日報として
9.おわりに
監視センターに送られる。これらの運転データを基に,
運転状態の把握および機器の性能管理などを実施してい
ゆめタウン呉における氷蓄熱式空調熱源設備の概要と
る。あわせて,1カ月分のデータをとりまとめ,お客さ
運転実績の一部を示した。本設備は最夏季を過ぎて完成
まへ報告するとともに,エネルギー使用状況の把握など
したため,今年の8月にはコミッショニングを実施する
に役立てている。
予定である。
最後に,本稿の作成にあたりご協力いただいたñイズ
8.運転実績
ミ,ñイデオ,中国電力ñ,鹿島建設ñの関係者の皆さ
運転実績例として,オープン直後の9月9日の運転デ
ータを示す。当日は台風一過後で気温が高く,日間冷房
ヒートポンプとその応用 2005.3.No.66
まにお礼申しあげます。
(注記)
文中敬称は略させていただきました。
―8―