ASEAN・中国FTA(ACFTA)~修正議定書と最近の - みずほ総合研究所

2010 年 8 月 3 日発行
ASEAN・中国 FTA(ACFTA)
~修正議定書と最近の状況~
〈WTO/FTA Watch 10-01〉
っっっっっっっっっっっっっっっっっっっx
本誌に関するお問い合わせ先
みずほ総合研究所株式会社 調査本部
政策調査部 上席主任研究員 菅原淳一
[email protected]
本資料は、情報提供のみを目的として作成されたものであり、法務・貿易・投資等の助言やコン
サルティング等を目的とするものではありません。また、本資料は、当社が信頼できると判断した
各種資料・データ等に基づき作成されておりますが、その正確性・確実性を保証するものではあり
ません。利用者が、個人の財産や事業に影響を及ぼす可能性のある何らかの決定や行動をとる際に
は、利用者ご自身の責任においてご判断ください。
【 本稿の目的 】
¾
2010 年 1 月より、ASEAN 先行加盟 6 か国と中国が ASEAN・中国 FTA(ACFTA)
に基づき、大半の品目について関税を撤廃した。東アジア域内での FTA の進展を機に、
FTA の活用に新たに乗り出す企業や、事業再編に取り組む企業が増えており、ACFTA
への関心も高まっている。
¾
ACFTA は締結後、2006 年 12 月に合意された「枠組み協定」第二修正議定書及び「物
品貿易協定」修正議定書により、未確定であったベトナムの扱いの確定など、いくつ
かの重要な修正が施されている。そこで本稿では、これらの修正点について概観する。
¾
ただし、この後も国・品目によっては、ACFTA 上の関税譲許区分の変更などが行わ
れており、修正議定書からさらに修正されている点もある。これらの点についても、
公表資料を用いていくつかの事例につき可能な限り最新の状況を解説する。
◆関心集まる ASEAN・中国 FTA
近年、東アジア域内では自由貿易協定(FTA)締結が積極的に進められているが、2010
年はその画期となる年とみられている。その理由は、ひとつには、ASEAN(東南アジア諸
国連合)をハブとする FTA ネットワークが完成したためである。今年 1 月に ASEAN とイ
ンド、豪州・ニュージーランドの間の FTA が発効したことにより、ASEAN とその周辺主
要 6 か国(日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)の間の FTA がすべて発
効した。ASEAN に多くの現地拠点を有する日本企業にとっては、ASEAN 拠点を中核とし
た新たなビジネス・チャンスが生まれたことになる。
もうひとつの理由は、FTA の本格的な活用の時代に入ったことである。上述の新たに発
効した FTA に加え、2010 年 1 月から既存の FTA でも自由化が大きく進んだ。ASEAN 域
内(ASEAN 自由貿易地域:AFTA)では、ASEAN 先行加盟 6 か国(ASEAN6:ブルネイ、
インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)が大半の品目について関
税を撤廃した。また、ASEAN・中国 FTA(ACFTA)に基づき、ASEAN6 と中国がやはり
大半の品目について関税を撤廃した。こうした東アジア域内での ASEAN をハブとした FTA
ネットワークの完成と、既存の FTA に基づく関税撤廃の実現により、企業による FTA 活
用のチャンスとメリットは大きく拡大した。これを機に、FTA の活用に新たに乗り出す企
業や、FTA に基づく自由化の進展に対応して事業再編に取り組む企業が増えている。
なかでも、昨秋来、ACFTAへの関心が高まっている。ACFTAについては、2006 年 8 月
に拙稿「開始後 1 年のASEAN-中国FTA(ACFTA)~ACFTAの効果と我が国企業による
活用~」を発行し、その概要について解説したが、ACFTAにはその後いくつかの重要な修
正がなされている。そこで本稿では、これらの修正点について概観し、あわせて最新の状
況にも触れてみたい。なお、ASEAN・中国間ではその後サービス貿易・投資に関する協定
も締結されているが、ここでは物品貿易のみを扱う。
1
◆ACFTA の概要と修正点
ACFTA は、2002 年 11 月に締結された「ASEAN-中国包括的経済協力枠組み協定」
(以
下、
「枠組み協定」)と、2004 年 11 月に締結された「ASEAN-中国包括的経済協力枠組み
協定における物品貿易協定」
(以下、
「物品貿易協定」)を 2 本の柱として、それぞれの関連・
修正諸規定から成っている。
「枠組み協定」では、ASEAN-中国自由貿易地域を 10 年以内に実現すること、物品貿
易分野の自由化は、ASEAN6 と中国は 2010 年、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマ
ー、ベトナム)は 2015 年までに実施することなどの大枠が決められている。これに基づき、
「物品貿易協定」ではその実現のためのより具体的な方法が規定されている。また、「枠組
み協定」では、「物品貿易協定」に先行して関税削減・撤廃を行う「早期収穫措置(EHP:
Early Harvest Programme)」について定められている。EHP の対象にならなかった品目
が「物品貿易協定」の対象となっているため、
「枠組み協定」に関して現在押さえておくべ
き点はこの EHP に関する規定である。
「物品貿易協定」は、EHP対象品目以外のすべての品目に関する関税削減・撤廃のスケ
ジュールを規定している。「物品貿易協定」に基づく関税引き下げ措置は、2005 年 7 月 20
日より開始された。「物品貿易協定」では、期限までに関税を撤廃する「ノーマル・トラッ
ク(NT)品目」と、関税は削減されるものの撤廃はされない「センシティブ・トラック(ST)
品目」に分けられている。ASEAN6 と中国は、ST品目を輸入額(2001 年統計)の 10%以
下にしなければならないとの規定があるため、これら 7 か国は期限までに輸入額の 90%以
上の品目につき関税を撤廃する義務を負っていることになる 1 。
さらに、NT品目は、期限までに関税を撤廃する品目(NT-1)と、撤廃期限が猶予されて
いる品目(NT-2)に分けられている。NT-2 品目は、ASEAN6 と中国は 150 品目、CLMV
は 250 品目を超えない範囲で各国が指定するものと規定されている 2 。また、ST品目も、期
限までに関税率を 5%以下に削減しなければならない「センシティブ・リスト(SL)品目」
と、期限までに関税率を 50%以下にすればよい「高度センシティブ・リスト(HSL)品目」
に分けられている。したがって、ACFTA上の関税削減・撤廃スケジュール上の分類は、EHP、
NT-1、NT-2、SL、HSLの 5 区分となり、これらがASEAN6 と中国、CLMVのそれぞれに
分けて規定されている(図表 1)。
1
ここでは、互恵関税率(後述)の適用に関しては考慮していない。
ただし、インドネシアは「物品貿易協定」において 397 品目を指定している。詳細は、菅原(2006)参
照。なお、本文中の品目数は、特段の断りがない限り、HS6 桁水準の品目数である。
2
2
図表 1:ACFTA の関税譲許区分
中国及びASEAN6
早期収穫品目
EHP 2006年より関税撤廃
NT-1 2010年より関税撤廃
ノーマル・トラック品目
NT-2 2012年より関税撤廃
2012年より20%以下に
SL
センシティブ・トラック品目
2018年より5%以下に
HSL 2015年より50%以下に
CLMV
2010年より関税撤廃(注)
2015年より関税撤廃
2018年より関税撤廃
2015年より20%以下に
2020年より5%以下に
2018年より50%以下に
(注)ベトナムは 2008 年、ラオス、ミャンマーは 2009 年に関税撤廃。
(資料)「枠組み協定」及び「物品貿易協定」並びに各修正議定書よりみずほ総合研究所作成
「枠組み協定」及びその修正議定書でEHPの対象品目と関税削減・撤廃スケジュールが
規定され、「物品貿易協定」でNT品目及びST品目の扱いが規定された 3 。これに、2006 年
12 月に合意された「枠組み協定」第二修正議定書及び「物品貿易協定」修正議定書により
修正が施されている。主な修正点は、①未確定であったフィリピンのEHP対象品目の確定、
②未確定であったベトナムの扱い(ST品目など)の確定、③7 か国によるST品目の修正、
④未合意であった品目別原産地規則(PSR)の策定、⑤互恵関税率規定の明確化、である。
以下では、主な修正点のそれぞれにつき、概要を解説する。なお、以下の記述は、原則
として 2006 年 12 月に合意された「枠組み協定」第二修正議定書及び「物品貿易協定」修
正議定書に基づいており、現在各国が両議定書に定められた通りに ACFTA を運用している
ことを保証するものではない。現在の各国による運用状況に関しては、最新の各国関税率
表など、責任ある当局の情報を確認する必要があることを予めお断りしておく。
◆修正点 1:フィリピンの EHP 対象品目の確定
EHP 対象品目については、最も早い ASEAN6 と中国は 2006 年 1 月より、最も遅いカン
ボジアでも 2010 年 1 月より関税を撤廃することが「枠組み協定」で規定されている。対象
品目は農水産品(HS01-08 類)を原則とし、各国がそれぞれ関税撤廃の例外となる除外品
目や、農水産品(HS01-08 類)以外で関税撤廃を約束する追加品目を定めている。
「枠組み協定」第二修正議定書における修正は主に、それまで未定であったフィリピン
について対象品目を確定したことである 4 。フィリピンのEHP対象品目は他国とは異なり、
農水産品(HS01-08 類)全品目を原則とした上で除外品目を定める方式(Exclusion List)
ではなく、農水産品(HS01-08 類)の中からEHPの対象となる品目を選定する方式
(Inclusion List)がとられている。フィリピンは、農水産品(HS01-08 類)のうち 209 品
3
その詳細は菅原(2006)参照。菅原(2006)は、
「物品貿易協定」締結時の情報、すなわち、
「枠組み協
定」及び修正議定書並びに「物品貿易協定」に基づいて作成されていることに留意願いたい。
4 その他、インドネシアの追加品目に関してなど、若干の変更がある。
3
目を選定し、それ以外の追加品目 5 品目を指定しているため、計 214 品目をEHP対象品目
としている(図表 2)。
図表 2:EHP 対象品目
除外品目
追加品目
ブルネイ
-
他国の追加品目すべて(一部例外あり)
インドネシア
-
20品目(コーヒー、パーム油、消しゴムな
ど)
(中国向け)-
19品目(コーヒー、パーム油、コークスな
ど)
シンガポール
-
他国の追加品目すべて(一部例外あり)
タイ
-
2品目(無煙炭、コークス)
カンボジア
27品目(鶏肉、鯉、トマト、たまねぎ、にん
にく、オレンジなど)
-
ラオス
56品目(牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、トマト、
にんじん、たまねぎ、オレンジなど)
-
ミャンマー
-
-
15品目(鶏肉、レモン、グレープフルーツ
など)
-
-
NA
対象品目
追加品目
マレーシア
ベトナム
中国
フィリピン
209品目を対象品目に指定(牛肉、豚肉、
5品目を対象品目に追加(ココナッツなど)
鶏肉、多くの野菜などを除外)
(資料)「枠組み協定」第二修正議定書よりみずほ総合研究所作成
◆修正点 2:ベトナムの扱いの確定
「物品貿易協定」修正議定書では、「物品貿易協定」で 2004 年末までに定められるとさ
れていたベトナムの扱いについて規定した。「物品貿易協定」では、CLMVについては
ASEAN6 よりも関税撤廃期限を猶予するなど、経済発展水準を考慮した一定の配慮がなさ
れている(図表 1参照)
。ただし、ベトナムに関しては、CLMよりもやや高い自由化水準と
することが想定されていた。しかし、修正議定書で規定されたベトナムの扱いは、当初の
想定とは異なり、CLMと同待遇となったものが多い。例えば、ST品目数は、物品貿易協定
でCLMが「500 品目以下」とされていたのに対し、ベトナムは「500 品目かつ輸入額の〔今
後合意される一定割合〕以下」とされていたが、修正議定書では輸入額による上限の要件
4
がはずされ、CLMと同じ「500 品目以下」となった。
修正議定書により、ベトナムがCLMよりも高い自由化を求められた点は 2 点ある。ひと
つは、NT品目につき、品目数の 45%について 2013 年 1 月 1 日までに関税を撤廃しなけれ
ばならない(CLMは品目数の 40%)。もうひとつは、HSL品目数につき、ST品目数の 40%
あるいは 140 品目のどちらか少ない方の品目数が上限とされた(CLMは 150 品目)
(図表 3)。
図表 3:ST 品目数
ST品目数
ASEAN6及び中国
HSL品目数
400品目かつ輸入額の10%以下
CLM
500品目以下
ベトナム
500品目以下
ST品目の40%あるいは100品目のど
ちらか少ない方の品目数が上限
ST品目の40%あるいは150品目のど
ちらか少ない方の品目数が上限
ST品目の40%あるいは140品目のど
ちらか少ない方の品目数が上限
(資料)「物品貿易協定」及び同修正議定書よりみずほ総合研究所作成
また、修正議定書では、ベトナムの NT 品目のうち 383 品目(HS8 桁水準)につき、通
常の NT 品目とは異なる関税引き下げスケジュールが規定されている。これは、他国にはな
い品目区分であり、注意を要する。
修正議定書で規定されたベトナムの各品目区分は概要以下の通りである。
まず、NT-2 品目は、上限の 250 品目が指定されている。自動車等(HS87 類)が 24 品
目で最も多く、電気機器(HS85 類)が 22 品目、一般機械(HS84 類)が 19 品目と続いて
いる。鉄鋼(HS72 類)と鉄鋼製品(HS73 類)も合わせると 20 品目ある。
続いて ST 品目は、420 品目が指定されており、そのうち HSL 品目は上限の 140 品目、
残る 280 品目が SL 品目となっている。SL 品目の内訳は、綿・綿織物(HS52 類)が 46
品目で最多であり、これに電気機器(HS85 類)の 42 品目が続いている。繊維・衣類(HS50-63
類)全体では 119 品目を占め、SL 品目全体の 4 割を超えている。HSL 品目では、自動車
等(HS87 類)が 30 品目で最も多く、続いて一般機械(HS84 類)が 24 品目となっている。
ST 品目全体でみると、電気機器(HS85 類)が 54 品目で最多となる。鉄鋼(HS72 類)・
鉄鋼製品(HS73 類)の合計も 40 品目と多くなっている。
ベトナムの場合、NT-2 品目、ST 品目をみると、繊維・衣類(HS50-63 類)、鉄鋼(HS72
類)
・鉄鋼製品(HS73 類)、一般機械(HS84 類)、電気機器(HS85 類)、自動車等(HS87
類)などでの自由化が限定的となっている。
5
図表 4:ベトナムの NT-2 品目・ST 品目
NT-2品目
自動車等(87)
電気機器(85)
一般機械(84)
紙製品(48)
鉄鋼製品(73)
プラスチック(39)
アルコール等(22)
鉄鋼(72)
塩・石灰等(25)
人造短繊維・織物(55)
石製品等(68)
SL品目
24
22
19
13
11
10
9
9
7
7
7
綿・綿織物(52)
電気機器(85)
人造短繊維・織物(55)
メリヤス・クロセ編物(60)
一般機械(84)
自動車等(87)
特殊織物(58)
陶磁製品(69)
鉄鋼製品(73)
肉・魚等調製品(16)
家具等(94)
HSL品目
46
42
33
14
14
12
11
11
9
8
8
自動車等(87)
一般機械(84)
鉄鋼(72)
ガラス製品(70)
電気機器(85)
たばこ類(24)
ゴム(40)
陶磁製品(69)
鉄鋼製品(73)
塩・石灰等(25)
鉱物性燃料(27)
30
24
18
14
12
9
6
6
6
4
4
(注)HS2 桁水準でみた品目数上位 10 分類。数字は品目数。括弧内の数字は HS 番号(2 桁)。
(資料)「物品貿易協定」修正議定書よりみずほ総合研究所作成
◆修正点 3:ST 品目の修正
「物品貿易協定」において合意されたST品目について、7 か国が修正議定書によって品
目を入れ替えている。品目数だけみると、中国とインドネシアが品目を大きく入れ替えて
いる。ただし、中国の場合、関税分類番号(HSコード)の変更に伴うものと思われる同種
産品での入れ替えが多くみられる。インドネシアの場合は、SL品目を大きく削減しており、
品目数でみた場合には、「物品貿易協定」よりも自由化を進めている(図表 5)。インドネ
シアがSL品目より削除した品目は、有機化学品(HS29 類、11 品目)、衣類等(HS62-63
類、11 品目)などで多くなっている。その他の国は、変更した品目数が少なく、全体の傾
向は「物品貿易協定」と大きく変わっていない 5 。
図表 5:修正議定書による ST 品目の修正
SL品目
HSL品目
ブルネイ
4品目追加
12品目追加
インドネシア 49品目削除、4品目追加
4品目削除、1品目追加
マレーシア
9品目追加
フィリピン
5品目削除、4品目追加
タイ
9品目追加
カンボジア 1品目削除、1品目追加
中国
19品目削除、35品目追加 15品目削除、16品目追加
計
16品目増
48品目減
9品目増
1品目減
9品目増
増減なし
17品目増
(資料)「物品貿易協定」修正議定書よりみずほ総合研究所作成
菅原(2006)図表 4-6 参照。品目数は変わっているため、あくまでも全体の傾向をみる上での参考であ
る。
5
6
◆修正点 4:品目別原産地規則の策定
修正議定書では、
「物品貿易協定」では未合意であった品目別原産地規則(PSR)につい
ても合意された。ACFTA における原産地規則は、原則として完全生産品基準と、実質的変
更基準のうち付加価値基準 40%が規定されている。修正議定書では、この例外となる品目
別原産地規則が 563 品目について規定されている。
品目別原産地規則は、①排他的規則(Exclusive Rule)と、②代替的規則(Alternative
Rules)の 2 つに分かれている。排他的規則は、品目別規則のみが適用され、原則は適用さ
れない品目で 9 品目のみである。このうち 6 品目は羊毛等・毛織物(HS51 類)に属する獣毛
で、ACFTA 域内で育てられた動物から生産された獣毛に原産性を認める規定となっている。
この 9 品目を除くすべての品目は、代替的規則が適用される品目である。代替的規則で
は、適用される原産地規則は、原則か品目別規則かのいずれか一方を輸出者が選択できる
こととされている。代替的規則が適用される品目は大きく 2 つに区分されており、(1)関税
番号変更基準が適用される品目と、(2)加工工程基準が適用される品目とに分かれている。
関税番号変更基準が適用されるのは 129 品目で、プラスチック製品(HS39 類)が 48 品
目、革製品(HS42 類)が 22 品目、毛皮製品(HS43 類)が 14 品目、履物(HS64 類)が
29 品目などとなっている。鉄鋼(HS72 類)も 9 品目含まれている。いずれも HS6 桁水準
の関税番号変更基準が適用されている。
残る 425 品目には加工工程基準が適用される。いずれも繊維・衣類(HS52 類、60-63 類)
に属する品目である。
◆修正点 5:互恵関税率規定の明確化
修正議定書では、互恵関税率に関する規定が改定された。「物品貿易協定」で漏れていた
EHP 対象品目の扱いが規定されたこと、付録書(appendix)によって規定がより明確にな
ったことを除けば、今回の改定で大きな変更はみられない。
互恵関税率は従来通り、当該品目につき、輸入国がEHP対象品目あるいはNT品目に指定
し、かつ、輸出国がST品目に指定している場合で、輸出国の関税率が 10%以下のときに適
用される(図表 6)。この際、輸出国は自国の関税率が 10%以下であることを他のすべての
ACFTA締約国に通知しなければならないとの規定が修正議定書に盛り込まれた。なお、こ
の規定にかかわらず、輸入国の裁量で、本来はより高い関税率(輸出国の関税率)が課さ
れる場合でも協定税率(EHP/NT関税率)を適用することが認められている。
7
図表 6:互恵関税率規定
輸
出
国
の
区
分
・
関
税
率
輸入国の区分・関税率
EHP/NT品目
ST品目
協定税率
MFN税率
EHP/NT品目
関税率10%超
S
T
品
目
輸入国の協定税率>輸出国の関税率
関税率 輸出国の関税率>輸入国のMFN税率・
10%以下
協定税率
協定税率
協定税率
MFN税率
輸入国のMFN税率>輸出国の関税率
輸出国の関税率
>輸入国の協定税率
(注)輸入国の協定税率が MFN 税率より低い(税率逆転が起きていない)場合。
(資料)「物品貿易協定」修正議定書よりみずほ総合研究所作成
◆修正議定書の積み残し案件:フィリピンの NT-2 品目
「物品貿易協定」で積み残された関税削減・撤廃品目のうち、ベトナムについては修正
議定書で確定された。ただ、フィリピンの NT-2 品目に関しては、「物品貿易協定」におい
て 2008 年以降に確定することとされており、修正議定書でも未確定であったが、現在は確
定されている。フィリピンの NT-2 品目は、「物品貿易協定」において上限である 150 品目
を越えることが認められているが、現在 ASEAN 事務局より公表されている ACFTA に基
づくフィリピンの譲許表によれば 406 品目(HS8 桁水準で 618 品目)が指定されている。
その内訳は、繊維・衣類(HS50-63 類)が 158 品目、鉄鋼・同製品(HS72-73 類)が 41
品目などとなっている。
◆現在の状況
「枠組み協定」第二修正議定書及び「物品貿易協定」修正議定書以降、ACFTA に関する
大きな改定は行われていない。ただし、この後も国・品目によっては、ACFTA 上の関税譲
許区分の変更などが行われている。例えば、フィリピンは 2009 年 6 月に ST 品目 4 品目を
NT 品目へと移行している。そこで、ASEAN 事務局が現時点で公表している譲許表を用い
て、現在の状況を中国、タイ、インドネシア、シンガポールについてみることにする。な
お、繰り返しになるが、実際に適用される関税率については、最新の各国関税率表など、
責任ある当局の情報を確認する必要があることを再度お断りしておく。
まずは中国であるが、ASEAN事務局公表の中国の譲許表はHS8 桁水準で 7923 品目とな
っている。これによれば、NT-2 品目が 232 品目、ST品目が 429 品目であり、ST品目につ
いてはSL品目とHSL品目の区分は表記されていない。これら以外の品目(EHP/NT-1 品目)
については、2010 年時点ですべて関税が撤廃されている 6 。NT-2 品目については、従量税
6
ただし、カンボジアとラオスに対しては、一部MFN税率が課されている品目がある。
8
が課されている写真用フィルム 3 品目(HS3702)を除き、2010 年時点では、MFN税率が
5%超の品目は 5%、MFN税率が 5%未満の品目はMFN税率が課されている。ただし、品目
及び国によっては一部で関税が撤廃されている。ST品目は、4 品目の例外を除き 7 、すべて
の品目でMFN税率が適用されている。同譲許表によれば、NT-2 品目に関しては 2012 年に
はすべての品目ですべてのASEAN諸国に対して関税が撤廃される。また、ST品目に関して
は 2012 年時点でも原則MFN税率が課されている。NT-2 品目及びST品目の内訳は図表 7の
通りである。
図表 7:中国の NT-2 品目及び ST 品目
NT-2品目
木材製品(44)
電気機器(85)
野菜等調製品(20)
自動車等(87)
一般機械(84)
貴金属類(71)
プラスチック(39)
衣類(61)
有機化学品(29)
アルコール等(22)
鉱物性燃料(27)
船舶等(89)
その他
総計
ST品目
38
37
24
23
21
14
8
8
7
6
6
6
34
232
紙製品(48)
自動車等(87)
木材製品(44)
電気機器(85)
写真用材料(37)
船舶等(89)
穀物(10)
動植物性油脂(15)
たばこ類(24)
穀粉等(11)
書籍等(49)
羊毛等・毛織物(51)
その他
総計
109
67
59
22
20
20
15
11
11
10
10
9
66
429
(注)図表 4に同じ。品目数はHS8 桁水準。
(資料)ASEAN 事務局資料(TRS-China-2010-2012)よりみずほ総合研究所作成
タイの譲許表は、NT品目のみが掲載されている。しかも、HS6 桁水準と 7 桁水準が混在
したものとなっているが、これを 6 桁水準に換算すると 4560 品目となる 8 。このうち、NT-2
品目は 146 品目である 9 。同譲許表に掲載されている品目では、NT-1 品目は 2010 年、NT-2
品目は 2012 年に関税が撤廃されることになっており、例外はない。NT-2 品目は、衣類等
(HS61-63 類)が 136 品目と大半を占め、その他は履物(HS64 類)が 7 品目、電気機器
(HS85 類)が 2 品目、肉・魚等調製品(HS16 類)が 1 品目となっている。
インドネシアの場合は、全関税品目とみられる 8738 品目(HS10 桁水準)を譲許表に掲
HS85287291、85287292、85287299(カラーテレビ関連製品)について、MFN税率 30%のところ、ブ
ルネイ、フィリピン、シンガポールに対して 12%の軽減関税を課している。また、HS21069040(ココナ
ッツ・ジュース)について、MFN税率 10%のところ、ミャンマーに対して関税を撤廃している。
8 EHPの追加品目 2 品目を含む。
9 HS6 桁水準に換算する際、NT-1 品目とNT-2 品目の双方が含まれる品目はNT-2 品目に換算した。
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載している。そのうち、EHP対象品目とNT-1 品目については、2010 年時点で関税が撤廃
されている(図表 8)。NT-2 品目についても 2012 年の関税撤廃が予定されている。ただし、
NT品目の中には、中国に対してはMFN税率を適用している品目がみられる。それらは中国
のST品目であるため、互恵関税率規定を適用したものとみられる。インドネシアの譲許表
で注目すべき点は、
「一般的除外(GEL)品目」という関税譲許区分が設けられていること
である。GEL品目という区分は本来ACFTAには存在しない。ただし、AFTAにおける関税
譲許区分にはGEL品目が存在し、関税削減・撤廃の例外とされている。インドネシアが
ACFTAの譲許表上GEL品目に指定している品目は、ACFTAのST品目には指定されていな
い品目であるが、AFTA上のGEL品目と同一であり、ACFTA締約国に対してもMFN税率が
適用されている。
図表 8:インドネシアの関税譲許区分別品目数
譲許区分
EHP品目
EHP-1
品目数
545
NT品目
EHP-2
48
NT-1
ST品目
NT-2
6682
474
SL
642
HSL
251
GEL品目
96
総計
8738
(注)品目数は HS10 桁水準。「EHP-2」は EHP の追加品目。「GEL」は一般的除外品目。
(資料)ASEAN 事務局資料(TRS-Indonesia-2009)よりみずほ総合研究所作成
シンガポールは、ACFTA では 2 品目(HS6 桁水準)を ST 品目に指定しているが、これ
らの品目についても ASEAN 諸国に対しては AFTA、中国に対しては中国・シンガポール
FTA によってすでに関税を撤廃している。したがって、シンガポールは ACFTA 締約国に
対してすべての品目について関税をすでに撤廃している。
以上のように、ACFTA に関しては発効後も状況は変化しており、修正議定書などで関税
譲許区分や原産地規則などの基本事項に関する修正を押さえた上で、個別の品目の関税率
に関しては協定上の扱いをチェックするとともに、責任ある当局の最新情報に当たる必要
がある。日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、今年 11 月には「物品貿易協定」の第二
修正議定書が発効し、これまで認められていなかった仲介貿易においても ACFTA が利用可
能になる見込みとのことである〔助川(2010)〕。そうなれば、ACFTA の活用メリットはさ
らに広がるだろう。今後も ACFTA の動きを注視して、自社の事業活動への影響を見定める
ことが、ASEAN・中国で事業を展開する企業にとって重要となる。
【参考文献】
菅原淳一(2006)「開始後 1 年のASEAN-中国FTA(ACFTA)~ACFTAの効果と我が国
企業による活用~」、『みずほリポート』2006 年 8 月 3 日、みずほ総合研究所
助川成也(2010)
「ASEAN・中国 FTA、11 月にも仲介貿易で利用可能に」
、
『通商弘報』2010
年 6 月 24 日、日本貿易振興機構
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