監 修 第 13 回 福田恵一(ふくだ けいいち) 心室中部閉塞性肥大型心筋症に心尖瘤を伴った症例 V1 Ⅰ 慶應義塾大学医学部 循環器内科 教授 1983 年 慶應義塾大学医学部卒業。1990 年 慶應義 塾大学医学部 助手,1991 年 国立がんセンター研究 所 細胞増殖因子研究部 留学,1992 年 ハーバード大学ベスイスラエ ル病院 留学,1995 年 慶應義塾大学医学部 助手,1999 年 同 講師, 2005 年 同 再生医学 教授を経て,2010 年より現職。 木村謙介(きむら けんすけ) 慶應義塾大学医学部 循環器内科 講師 白い症例,興味深い症例を紹介していきます。実際の議論の様子をそのままお伝えして 1993 年 北海道大学医学部卒業。1997 年 慶應義塾 いきます。その臨場感を感じながら,楽しく,かつ勉強になるコーナーにしていきたい と考えています。 大学 循環器内科 助手,2001 年 済生会宇都宮病院 循 環器内科 副医長,2005 年 慶應義塾大学 循環器内科 特別研究助手, 2008 年 カリフォルニア大学サンディエゴ校 留学,2010 年 慶應義 塾大学医学部 循環器内科 助教を経て,2011 年より現職。 第 13 回 心室中部閉塞性肥大型心筋症に 心尖瘤を伴った症例 参加者 受 修 専 Ⅲ 受診時 医 ER の 図1 前 75/ 分 心拍数 : 見 など 所 ロック 心電図 房室ブ , で 認めま 調律 負荷も 正常洞 な心房 か ら 回転を ず,明 計方向 は認め 位,時 偏 V6, 軸 軸は左 の V4 〜 せん。 部誘導 胸 を 。 化 陰転 います T 波の 認めて L で V a 昇 , 上 のⅠ はやや 肢誘導 ST 部分 おり, て め 認 ます。 してい 司 会 本連載では,慶應義塾大学病院循環器内科で実際に行われたカンファレンスのなかで面 V2 Ⅱ V3 aVR V4 aVL V5 aVF V6 受 研 学 〔受持医〕 〔専修医〕 〔専門医〕 〔研修医〕 〔学生〕 introduction 今回取り上げた心室中部閉塞性肥大 す。鑑別では,左室造影における独特な所見か 型心筋症に心室瘤を伴った症例は,左 ら,たこつぼ心筋症が鑑別に挙がります。さら 室心尖部瘤をキーワードに,まず鑑別をどう行 に,致死性不整脈を合併することから,不整脈 うかを考え,さらに疾患の特徴を把握したうえ に対する治療の他,不整脈を引き起こす瘤や閉 で,その治療法について多角的に検討してみま 塞起点そのものに対する治療に関しても検討し ていきます。 ら,臨床的にたこつぼ心筋症と診断,という流 はじめに れです。試験の不合格通知を見た際に初めて胸 :皆さんと,この症例を追体験しなが :今回は診断を考えるうえで面白い症 部圧迫感が出現したようですが,この患者さん らみていきたいと思います。 例をピックアップしてみました。肥大 にとってこの試験の不合格というのは相当スト 型心筋症に,心尖部の瘤を伴う症例です。 それでは症例のプレゼンテーションを,担 レスだったのでしょうか? 受 当オーベンの先生からお願いします。 症 例 受 度上昇を認めていました。 受持医:症例は 48 歳の男性で,主訴 受持医:生計を立てていくうえで,この 当院搬送までのエピソード 資格試験は相当重要だったようです。 :急性期の心電図を出してください (図 1) 。 :その後に,自転車で坂道を走行中に これは近院の ER に到着したときの急性 胸部絞扼感を自覚していますが,これ 期の心電図です。急性期にしては,レートがそ 症例:48 歳・男性 で躁鬱病を発症。 主訴:動悸 生 活歴:喫煙は脳出血で入院する 5 年前まで 高血圧で投薬されていました。1 年前,夜に資 現病歴:45 歳時より高血圧で投薬されていた。 1 日 30 〜 40 本,飲酒は連日焼酎を 1 日に 2 合。 格試験の不合格通知を見た際に,初めて胸部圧 1 年前,資格試験の不合格通知を見た際に初め 家 族歴:特記すべきことなし 迫感を自覚しましたが,その際は数分で軽快し いの坂道を,いつも自転車で一気に駆 房室ブロックなどは認めず,明らかな て胸部圧迫感を自覚したが,その際は数分で軽 ました。それから 4 日後の朝,自転車で坂道 け上るのを日課にされていたようで,その日も 心房負荷も認めません。軸は左軸偏位,時計方 快。それから数日後の朝,自転車で坂道を走行 を走行中に胸部絞扼感を自覚し,近院の ER を 同じように一気に自転車で登りきった後に,胸 向回転を認めています。胸部誘導の V4 〜 V6, 中に胸部絞扼感を自覚し,近院の ER を受診。 受診されました。そこで採血,心電図検査を受 痛が起きたということです。 肢誘導のⅠ,aVL で T 波の陰転化を認めてお 採血,心電図検査の結果から,急性冠症候群の けた結果,ACS1 の疑いがあるということで, :300 m の坂道を全力で自転車で駆け り,ST 部分はやや上昇しています。他はとく 疑いがみられ,緊急冠動脈造影を施行。明らか 緊急 CAG を施行されました。明らかな冠動脈 上った後,ということですか? に QT の延長などはみられません。 な冠動脈病変は認めないものの,左室造影で心 病変を認めませんでしたが,LVG で心尖部の 尖部の瘤の形成と左室中部の閉塞所見を認め, 瘤の形成と左室中部の閉塞所見が認められ,た たこつぼ心筋症と診断。入院となり,抗凝固療 こつぼ心筋症と診断されました。その後入院と :近院の ER を受診して,採血されて 法とβ遮断薬(アーチスト ®5 mg)を開始。 なり,抗凝固療法とβ遮断薬(アーチスト ®5 いますが,入院後の経過も含めて,心 既 往歴:20 歳代で X 線像で心拡大を指摘され mg)を開始されました。 る。その他,45 歳で高血圧と橋出血,47 歳 は動悸です。現病歴は,45 歳時より はどのぐらいの労作だったんでしょうか? 受 2 3 :ここまでのアナムネで何か質問のあ る先生はいますか? 前医では,経過か 受 受持医:はい,頂上まで 300 m くら 受 受 持 医:CK は 113 IU/l が 最 高 で し 受持医:心拍数 75/ 分の正常洞調律で, :この心電図から,患者さんのどういっ 受持医:そうです。 筋逸脱酵素などはどうだったのでしょうか? 受 んなに速くないですね。では解説してください。 た心臓の状態,病態が推測されますか? 受 受持医:エピソードと ST 変化があるこ とを兼ね合わせると,トロポニンも漏れ ていますし,不安定狭心症もしくは心筋梗塞に 至るような急性冠症候群が考えられます。 たが,トロポニンが 0.141 ng/l と軽 脚注:1 急性冠症候群,2 冠動脈造影,3 左室造影 106 レジデント 2012/12 Vol.5 No.12 レジデント 2012/12 Vol.5 No.12 107
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