2,タンパク質

2,タンパク質
この世界に唯一のナノマシン タンパク質。 そのメカニズムは、 未だにほとんど謎である。 1,タンパク質 H2N-C*-COOH
|
R
アミノ酸 タンパク質は主としてア
ミノ酸からなる巨大なポ
リマー分子である。 触媒
作用や物理、化学シグナ
ルの受容、イオン輸送、
細胞運動など、さまざま
な細胞機能を担う、ナノ
メートルの大きさの分子
機械である a,アミノ酸 アミノ酸は不斉炭素C*にアミノ基とカルボキシル
基がついた分子で、残りの腕に結合した化学基R
の形により、異なった構造と性質を持つ。Rをア
ミノ酸の側鎖と呼ぶ。 NH2-CHR-COOH
* 20種のアミノ酸 生命は、遺伝子
の情報を20種
類のアミノ酸に
変換し、その組
み合わせでタン
パク質を作る。
アミノ酸の側鎖
の違いが、タン
パク質の構造や
機能に大きな影
響を与える。
一次構造
遺伝子によって決められるアミノ酸配列を一
次構造と呼ぶ。これだけではまだ構造は決ま
らない。 300アミノ酸からなる
タンパク質ならその種
類は20300=10390種類。 (宇宙の星の数は1023個
ぐらいと言われる。) 折れ曲がりの制限
ペプチド結合は平面内で作ら
れるので、鎖の折れ曲がりは
制限を受ける。
Ramachandran Diagram
不斉炭素の
回りの回転
φ、ψだけが
許される。
さらに特定
の回転角の
部分だけが
安定構造と
となる。(下
図の赤い部
分)
二次構造
分子内の水素と酸素の間に水素結合が作られて、2種類
の構造が安定化する。それらを2次構造と呼ぶ。
水素結合
αへリックス
βシート
熱的安定性
ψn
φn
nアミノ酸の折りたたみ角度、
φn,ψnの2n次元位相空間。
アミノ酸の結合はペプチド
結合、その鎖はペプチド鎖
と呼ばれる。
ペプチド鎖の折りたたみ
状態によって、安定化エネ
ルギーは異なる。
タンパク質は折れ曲がり
の位相空間内で、エネル
ギー極小点の構造をとる。
それは必ずしもエネルギー
最小の点ではない。
S-­‐S結合
システインCysは側
鎖にSH基をもってい
る。二つのSH基同士
がHを失って結合を
作る。これをSS結合
(ジスルフィド結合)と
呼ぶ。
SS結合は共有結合
だが、銅などの金属
イオンの存在下で容
易に酸化・還元が起
こり、結合を切ること
ができる。
三次構造
タンパク質は、疎水性側鎖の疎水性
相互作用で核を作り、回りを親水性ア
ミノ酸が取り囲むことで、水中で安定
化する。
分子内の結合により
作られる立体構造を
三次構造と呼ぶ。
myoglobin
Gタンパク質の構造。白い部分が疎水
性アミノ酸、ピンクが親水性アミノ酸。
http://www.rcsb.org/
pdb/home/home.do
タンパク質の機能
生体内で触媒作用を果たすタンパク
質を、特に酵素(Enzyme)と呼ぶ。
細胞内の生化学反応は酵素の働き
で進行する。
今までに、解糖系の酵素群、電子伝
達系、光合成系のタンパクや、DNA
合成酵素、ヘリカーゼ、ニトロゲナー
ゼ複合体など、様々な化学反応を
進める酵素が細胞に存在する。
ヘキソキナーゼ
(解糖系)
グルコース結合前
グルコース結合後
コンフォーメーション タンパク分子の立体構造を特にコンフォーメー
ションと呼ぶ。タンパク分子が機能する上で、そ
の立体構造をとることが非常に重要である。 DNA結合部位
四次構造
三次構造を持つタンパク分子が組み
合わさった機能構造を四次構造と呼
ぶ。抗体は4本の鎖でできている。
抗体
ミオグロビンの模式図
糖鎖
糖鎖の結合
さらにタンパク分子にはアミノ酸以外の
分子が結合する場合がある。糖鎖の
結合は様々なタンパクで見られる。
Man-Gal-Neu
Asn-GlcNac-GlcNac-Man-Man-Man-Man-Gal-Neu
Man-Man-Gal-Neu
Man-Gal-Neu ゴルジ体の中で順次糖が結合される。
糖タンパクの例
抗体(IgG)
HLA(ヒトの白血球抗原)
その他の補欠分子
レチナール
(ロドプシン)
ヘム
(ヘモグロビン)
クロロフィル
(光合成系ii)
分子シャペロン
分子シャペロンは当初、熱ショックによって合成が進む、緊急時対応の
ためのタンパク質、Heat Shock Protein(hsp)の一つとして発見された。
しかし、後にそれがタンパク質合成の際に補助的役割を果たすことが分
かった。
タンパク質はリボソームにおいてペプチド鎖として合成される際に、シャ
ペロンの作る筒に押し込まれて3次元形状が形成される。
14分子のGroEL蛋白質(赤,緑)と
7分子のGroES蛋白質(青)からなる。
タンパク質の形を決めるもの
遺伝的要因
アミノ酸配列
細胞膜への
消化(切断)
組み込み
輸送マーカー
物理的要因
熱的安定
回転自由度
s−s結合
水素結合
疎水性
分子的要因
分子シャペロン
補欠分子
糖鎖
タンパク質の構造決定
一般にタンパク質の構造をアミノ酸配列から予測することは
困難である。このため、タンパク質の立体構造を知るために
はナノメートルの分解能で構造を分析する技術を用いる。
○X線結晶回折
タンパク質を結晶化できれば、その結晶構造をX線の回折
像から計算することができる。X線源としては、単色でコヒーレ
ントなシンクロトロン放射光を利用する。結晶化しているため、
自然な状態の構造とは異なる。
○2次元NMR
水素原子は原子核が核スピンを持つため、距離の近い原子
間には磁気的相互作用がある。これを利用して磁気励起後
の緩和時間の相関によって水素原子間距離を測定する。結
晶化の難しいタンパク質の構造を知ることができるが、大きさ
に制限がある。
X線結晶解析の原理
回折パターン
α(k)
k1
ブラッグの法則:2層の反射波の通
過距離の差 2dsin(θ) が波長の整
数倍なら反射は増強される。
タンパク分子の連続な電子密度分
布によっても同様に回折が起こり、
パターンができる。
電子密度 n(r)
による回折
r
n(r)
k2
光路差分 k1・r - k2・r= k・r
回折パターン
! " k% = n r exp " ikir%dr
( ) $# '&
$# '&
(
実は空間フーリエ変換
加速器の
X線光源
(SPRING-8)
X線結晶回折
回折パターン
α(k)(ラウエ斑)
! "$# k%'& = ( n (r ) exp "$# ikir%'&dr
k1
タンパク質結晶
の電子密度 n(r)
k2
回折(空間
フーリエ変換)
k = k1 - k2
電子密度 n(r)
>構造を得る。 逆フーリエ変換して
n (r ) = ) ! "$# k%'& exp "$# (ikir%'&dk
NMRによるプロトン位置推定
NMR:核磁気共鳴とは・・・
スピンを持つ
原子核は、
奇数個の核子
からなる。
磁気双極子モー
メントms
µq
ms = µ0 I !A = 0 p
2m
I:電流、A:面積、q:電荷、
m:質量、p:角運動量、
µ0:真空の透磁率
pm =
電磁波
-1/2μBB
1/2μBB
磁場H
(=B/µ0)
低エネルギー 高エネルギー
電子・陽子・中性子は
1/2のスピンを持ち、電
荷があれば磁石となる。
奇数個の核子からな
る原子核も同様で、磁
場中ではコマのように
スピンしながら歳差運
動している。
スピンの向きでエネ
ルギーが違い、電磁波
のエネルギーUを吸収
放出する。
U=μ0msH=μBB 分子構造と周波数ケミカルシフト
スピンの磁場Hs
H
H+Hs H
外部
磁場H
C
H
炭素13CのNMRシグナル。原子量
水素原子1Hの共振周波数は が奇数の同位元素を用いれば、H
近傍の水素原子の磁場Hsの だけでなく、C,N,OなどのNMRも
測定できる。
影響をうけてシフトする。
簡単な分子なら、シフトの割合 しかし、タンパクは巨大でシグナ
から分子構造を推測できる。 ルが重なり、構造を解析できない。
スピンの縦緩和と横緩和
φ
θ
θ
T2
φ
T1
回転運動には二つの角度θとφ
の自由度がある。
磁場中のスピンに電磁波を当
てて向きをそろえると、歳差運
動しながら、それぞれの角度方
向へ拡散する。その時、それぞ
れの拡散緩和時間 T1とT2を
持っている。
実際に観測されるのは、原
子集団からの平均信号で、
そのなかにはいろいろな状
態の原子が含まれる。
状態の平均値は熱運動で緩
和する方向に移行する。
2次元NMR
近接したプロトンでは、スピン-スピン相互作用のため、同時に励
起されるとスピンの分布が交換し、緩和時間が変化する。
2回の励起シークエンスの周波数をスキャンすることで、どの水
素同士が近接しているかが分かる。
第1励起
相関あり
相関
なし
H
H
H
第2励起
13N,1Hの2次元NMR
さらに同位元素を導入することで、N,C,O
などの核種との距離も知ることができる。
シミュレーション
タンパク質の構造
決定は、機能解析
には麩かカツであ
るが、お金と時間・
労力を要する。
もし計算で一次構
造から立体構造を
推測することがで
きるなら、機能解
析に役に立つ。
アズリンの分子動力学シミュレー
ション。周囲の水分子も 含まれ
ている。
シミュレーションには、
分子動力学(MD)、分
子力場(MM),モンテカ
ルロ法(MC)、量子力
学(QM)などの方法が
ある。近似計算では活
性中心の詳細な動作
が予測できず、全体の
厳密な計算には計算
能力が不足する。
現実には、立体構造
データを利用して、部
分的なシミュレーション
で機能を予測する。
お疲れ様です。ここで休憩