清明文庫解説 文教大学越谷図書館 〇はじめに かって、 立正学園(現在の文教大学学園)旗の台校舎にあった短期大学部の図書室に、「勝海 舟文書を含んだ旧清明文庫本」である和洋古書が、昭和 28(1953)年の短期大学開設時に洋装本を、 昭和 31(1956)年に和装本を、登録受入しただけで未整理のまま保管されていた。 昭和 60(1985)年に短期大学部が湘南キャンパスに移転した際にこれらの資料も移管され、平成 14 (2002)年に湘南図書館でリストの作成を行った。その後、湘南図書館と越谷図書館の間で、資 料内容と学部構成などの関連から「清明文庫本」は越谷で整理保管した方が適切であるという判 断がなされ、一緒に保管されていた小野光洋先生(本学創始者)寄贈の和本とを合わせて、和装 本 602 冊(184 タイトル)と洋装本 261 冊が越谷図書館に移籍された。 越谷図書館では、2005 年度の特別事業として、上記の資料について、和装本の帙作製、洋装本 の補修製本、データ作成と国立情報学研究所への登録および目録リスト作成を行った。 清明文庫の沿革と資料の内容については、項を改めて解説する。 〇清明文庫 清明文庫の設立は、日蓮宗系の精神修養団体である財団法人清明会の主管であった宮原六郎氏 が、大正 12(1923)年 10 月、東京府荏原郡の洗足池西畔に日蓮上人の銅像を建てた際、同じ洗足 池の東畔にあり、海舟没後使われなくなっていた勝家別邸を、清明会の講堂として譲り受けたい と意図したことに端を発する。 幾人かの仲介者を経て、宮原氏が海舟の養子である勝精(かつ,くわし)氏と面談・交渉し、清 明会が勝家から別邸隣地の寄贈を受け、海舟の遺蹟保存も行うという計画が大正 13(1924)年に決 定した。大正 14(1925)年から、講演会や海舟の事蹟資料展覧会等を開催すると同時に寄附金の募 集を行い、清明文庫図書館本館の建設が完成したのは昭和 3(1928)年 4 月のことである。 『清明文 庫寄贈圖書一覽表』によると、文庫発足にあたって勝家以外からも 5,000 冊以上の図書の寄贈を 受けている。しかし宮原氏の体調不良が原因で、閲覧等の図書館活動を開始したのは昭和 8(1933) 年 6 月のことであり、わずか 2 年後の昭和 10(1935)年 2 月には、自らの余命幾ばくも無いことを 覚悟した宮原氏によって、清明会の活動終結が宣言された。 勝家から譲渡された土地と清明文庫の建物は、当初の約束通り東京府に寄附され、海舟関係文 書をはじめとした書籍類は、そのとき寄贈者に返還されたと推測される。今回、文教大学湘南図 書館から移籍された「清明文庫旧蔵図書」は、文教大学の前身である立正学園が、清明文庫と直 線距離にして 1.5 キロの距離にあり、同じ日蓮宗関係の組織であった関係で、当時何らかの理由 で返還出来なかった書籍を託されたとものと思われる。 宮原六郎氏とは、清明文庫の発行物に書き残した文章によると、千葉県出身の行動的で政治力 のある激情型の憂国の士であったらしい。また、現在の大田区南千束にある元清明文庫本館は、 建物正面に掲げられた鳳凰閣の名で登録有形文化財に指定されている。 (裏面へ) 勝家に返却された「海舟蔵書」は、昭和 22(1947)年に古書肆弘文荘から売立てに出された。昭 和 26(1951)年、国立国会図書館に稿本・書翰・書籍・蘭文写本など 400 点余が一括購入され、憲 政資料室に「勝海舟文書」として所蔵されている。また、東京都江戸東京博物館も平成になって から「勝海舟関係資料」の収集を始め、平成 13(2001)年には『勝海舟関係資料 文書の部』と『海 舟日記 1-3』を発刊している。 なお、 『夢酔独言他』の解説の中で、勝部真長氏が「もともと「勝家文書」は、戦前、清明会の 清明文庫が保管し、同会の宮原六郎氏がその管理に当たっておられた。しかるに宮原氏は病没さ れ、洗足池畔の清明文庫は戦争中に分散し、その一部は立正学園に移管された。その立正学園も 戦災をうけたのである。」と記しているが、実際には、ほとんどの「勝家文書」は返還され、立正 学園に移管された書物は、現在まで保管されていたということになる。 <参考文献・参考資料> ① 国立国会図書館 HP 蔵書印の世界:勝海舟 <http://www.ndl.go.jp/zoshoin/zousyo/07_katu.html 2006/02/20> ② 清明会要覧. -- 清明会, 大正 11(1922) ③ 清明文庫設立と信仰の體驗:清明文庫開館記念/ 宮原六郎述. -- 清明文庫, 昭和 8(1933) ④ 清明文庫寄贈圖書一覽表 / 宮原六郎編輯 ; 第 1 號. -- 清明文庫, 昭和 8(1933) ⑤ 勝海舟先生戊辰日記:清明文庫終結記念 / 宮原六郎編輯 --清明文庫, 昭和 10(1935) ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ かつべみたけ 『夢酔独言他』(東洋文庫 138)1969 年刊。179 ページ。勝部真長(1916-)の解説より 「長崎海軍伝習所の伝習人総名前」朝倉治彦。 『国立国会図書館月報』157 号、1974。 国立国会図書館所蔵勝海舟文書について」付目録。広瀬順皓。『参考書誌研究』10 号、1974。 「政治家の読書-その蔵書からみる」広瀬順晧、村山久江。 『日本古書通信』748 号、1991。 『勝海舟関係資料 文書の部』東京都江戸東京博物館都市歴史研究室編 平成 13(2001) 〇資料解説 [移管図書冊数] 和装本 洋装本 合計 清明文庫本 551(166) 261 812(427) 小野光洋本 51(18) 合計 602(184) 51(18) ― 261 863(445) ( )内はタイトル数 清明文庫の和装本の半数以上は、江戸から明治にかけて日本人の書いた漢詩・漢文であり、 『日 本目録規則』による「漢籍」と「和古書」のいずれの定義にもあてはまらない。当館では、漢文 で書かれた和綴本は「漢籍コレクションコーナー」に配架して漢籍扱いとしているので、日本人 によって書かれた漢文の和本も漢籍に含まれる。 当初、これらの資料の中に勝海舟の自筆本が含まれているのではと期待されたが、海舟自身の 筆らしいものは、『聲畫集』(No.059)の本文欄外への 30 ヶ所ほどの書込みと、他の数点の写本表 紙上への朱書だけと思われる。また『本朝寶貨通用事略』(No.167)は、本文末に「従五位下筑後 守源君美(新井白石の別名)著」とあり、恐らく別人による写本とは思われるものの自筆本の可 能性が無いわけではない。これらについては今後の確認が必要である。 (平成 18 年 5 月 25 日発行『清明文庫図書目録:立正学園所蔵旧清明文庫蔵書』解説文より)
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