急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL) - NIHS

急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL)
HCFC 141b [1,1-dichloro-1-fluoroethane] (1717-00-6)
HCFC 141b (1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン)
Table
HCFC 141b
AEGL 設定値
1717-00-6
(Final)
ppm
10 min
30 min
60 min
4 hr
8 hr
AEGL 1
1,000
1,000
1,000
1,000
1,000
AEGL 2
1,700
1,700
1,700
1,700
1,700
AEGL 3
3,000
3,000
3,000
3,000
3,000
設定根拠(要約):
ハイドロクロロフルオロカーボン-141b(化学名:1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン)(HCFC-141b)は、
完全ハロゲン化クロロフルオロカーボンの代替品として開発された化合物である。現在使用され
ているクロロフルオロカーボンよりも、大気中での滞留時間が短く、オゾン層破壊係数も小さい。
HCFC-141b の用途は、硬質ポリウレタンフォームおよび硬質ポリイソシアヌレートフォームの製
造や、住居・商業用建築物向けの硬質フェノール樹脂発泡断熱材の製造である。また、電子工学
やその他の分野で、精密洗浄用の溶剤として使用されることもある。
HCFC-141b の吸入毒性は低い。取り込みと排泄は速やかであり、吸収された HCFC-141b は、ほと
んどが呼気中に未変化のまま排出される。HCFC-141b の影響については、これまでに、ヒトや数
種類の動物(サル、イヌ、ラット、マウス、ウサギなど)を対象に試験が行われており、反復およ
び慢性曝露、遺伝毒性、発がん性、神経毒性、心臓感作に関するデータも得られている。ハロゲ
ン化炭化水素は、高濃度では不整脈を引き起こすことがあり、AEGL 値を導出する際には、この
感受性の高い評価項目を検討した。健常被験者の空気中臭気閾値は、約 250 ppm であり(Utell et al.
1997)、そのエーテル臭は、不快なものではない。
3 段階の AEGL 値を導出するのに十分なデータが得られている。曝露濃度-曝露時間の関係式を算
出するのに十分なデータは得られなかった。ただし、ヒトにおいて血中濃度が速やかに平衡に達
することや、ラットにおいて致死率が 4 時間曝露と 6 時間曝露で近似していること、心臓感作作
用については曝露期間に依存しているというよりも濃度閾値に基づいて発現すると考えられるこ
とから、AEGL の同じ段階のすべての曝露期間に対して、同一の AEGL 値を適用した。ヒトの試
験でも動物試験でも、4~6 時間といった長い曝露期間が設定されており、その結果からも、すべ
ての曝露期間に同じ値を適用することの妥当性が裏付けられる。
1
AEGL-1 値は、Utell et al.(1997)の試験に基づいた。この試験では、健康な被験者に運動をしても
らい、その最中に 500 ppm または 1,000 ppm の濃度で曝露させたが、彼らは 4 時間の曝露に耐え、
肺機能変化や呼吸器症状、感覚刺激、心臓症状といった有害な影響も示さなかった。その運動は、
緊急の状況を模したもので、肺からの取り込みを促進させ、被験者の毎分換気量を 3 倍にするも
のであった。500 ppm 群の被験者 2 名にさらに 2 時間、1,000 ppm 群の被験者 1 名にさらに 2 時間
の曝露を受けさせたが、いずれも神経行動学的なパラメータにおける明確な変化を誘発すること
はできなかった。1,000 ppm の濃度での 4 時間または 6 時間曝露が運動中の被験者における NOAEL
であること、被験者間に反応の差がみられなかったこと、および有害な影響はかなり高い濃度で
しか起こらないことが動物実験で示されていることから、1,000 ppm という値についての不確実係
数を 1 とした。1 という種内不確実係数の妥当性は、重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息の患
者を、化学的に類似したクロロフルオロカーボンの定量噴霧吸入器による投与で治療した例で、
有害な影響が認められていないことで裏付けられる。HCFC-141b の血中濃度が速やかに平衡状態
に達していることと、曝露開始から 55 分後にそれほど大きく上昇していないことから、1,000 ppm
という値を AEGL-1 のすべての曝露期間に適用した。1,000 ppm という AEGL-1 値の妥当性は、動
物験を用いた急性試験(Brock et al. 1995)において、11,000 ppm の濃度で 6 時間曝露させたラット
に有害な影響がみられなかったことで裏付けられる。その 6 時間曝露での 11,000 ppm という濃度
を、種間不確実係数 3 と種内不確実係数 3(したがって、総不確実係数 10)で補正すると、ヒトの
データから導出した濃度と実質的に同じ濃度(1,100 ppm)になる。また、ラットを用いた試験
(Brock et al. 1995)で得られた 8,000 ppm という亜慢性 NOAEL を選択した場合も、曝露期間の差を
考慮し、適切な不確実係数を適用すると、近似した濃度となる。
AEGL-2 値は、Mullin(1977)の試験において、イヌに心臓感作が引き起こされた最も低い濃度に基
づいた。この試験では、外因性エピネフリンを投与した後、HCFC-141b に 2,600、5,200、10,000、
または 21,600 ppm の濃度で 10 分間曝露した。その濃度は 5,200 ppm で、Hardy et al.(1989a)の試
験において、心停止による死亡が引き起こされた最も低い濃度(10,000~20,000 ppm)よりも低い。
イヌの心臓はヒトの心臓のモデルとして適切であるため、種間不確実係数として 1 を適用した。
心臓感作試験では、外因性エピネフリンに対する反応を最適化させているので感度が極めて高く、
そのため、種内不確実係数として 3 を適用した。心臓感作は濃度依存性であり、曝露期間は、心
臓感作が引き起こされる濃度に影響を及ぼさない。HCFC-141b による心臓感作では、ピーク循環
血中濃度が決定要因であり、曝露期間は重要性が低いため、得られた値(1,700 ppm)をすべての曝
露期間に適用した。1,700 ppm という濃度の妥当性は、動物試験(Vlachos 1988; Hardy et al. 1989b;
Brock et al. 1995)において、約 30,000 ppm の濃度で 4 時間または 6 時間曝露させても、ラットやマ
ウスで前麻酔の徴候や昏睡以外には影響が認められなかったことで裏付けられる。30,000 ppm と
いう濃度を、種間不確実係数 3 と種内不確実係数 3(したがって、総不確実係数 10)で補正すると、
心臓感作試験データから導出した濃度より高い濃度(3,000 ppm)になる。
AEGL-3 値は、9,000 ppm という濃度に基づいた。この濃度は、イヌを用いた心臓感作試験(Hardy
et al. 1989a)で、心臓が軽度~顕著な反応を示したが、死亡は引き起こさなかった、最高濃度であ
る。イヌの心臓はヒトの心臓のモデルとして適切であるため、種間不確実係数として 1 を適用し
2
た。心臓感作試験では、外因性エピネフリンに対する反応を最適化させているので感度が極めて
高く、そのため、種内不確実係数として一桁の 3 を適用した。心臓感作は濃度依存性であり、曝
露期間は、心臓感作が引き起こされる濃度に影響を及ぼさない。HCFC-141b による心臓感作では
ピーク循環血中濃度が決定要因であり、曝露期間は重要性が低いため、得られた値(3,000 ppm)を
すべての曝露期間に適用した。3,000 ppm という濃度の妥当性は、動物試験(Brock et al. 1995)にお
いて、42,800 ppm の濃度で 6 時間または 45,781 ppm の濃度で 4 時間曝露させても、ラットで死亡
が認められなかったことで裏付けられる。45,781 ppm という濃度を、種間不確実係数 3 と種内不
確実係数 3(したがって、総不確実係数 10)で補正すると、心臓感作試験データから導出した濃度
より高い濃度(4,600 ppm)になる。
Table に、AEGL 値をまとめて示す。
----------------------注:本物質の特性理解のため、参考として国際化学物質安全性カード(ICSC)を添付する。
3
国際化学物質安全性カード
ICSC番号:1712
1,1ジクロロ-1-フルオロエタン
1,1ジクロロ-1-フルオロエタン
1,1-DICHLORO-1-FLUOROETHANE
Ethane, 1,1-dichloro-1-fluoro
Dichlorofluoroethane
HCFC-141b
C2H3Cl2F/CH3CCl2F
分子量:117
CAS登録番号:1717-00-6
RTECS番号:KI0997000
ICSC番号:1712
EC番号:602-084-00-X
災害/
暴露のタイプ
一次災害/
急性症状
予防
火災時に刺激性あるいは有毒な 高温面との接触禁止。
フュームやガスを放出する。
火災
応急処置/
消火薬剤
周辺の火災時:水噴霧、泡消火
薬剤、粉末消火薬剤、二酸化
炭素。
火災時:水を噴霧して容器類を
冷却する。
爆発
身体への暴露
吸入
皮膚
眼
嗜眠、錯乱、意識喪失。
密閉系および換気。
新鮮な空気、安静。医療機関に
連絡する。
発赤、痛み。
保護手袋。
洗い流してから水と石鹸で皮膚を
洗浄する。
発赤、痛み。
安全ゴーグル
多量の水で洗い流す(できればコ
ンタクトレンズをはずして)。
経口摂取
吐かせない。
漏洩物処理
貯蔵
・個人用保護具:自給式呼吸器。
・換気。
・漏れた液を密閉式の容器に集める。
・残留液を砂または不活性吸収剤に吸
収させて安全な場所に移す。
・残留分を注意深く集め、安全な場所
に移す。
・この物質を環境中に放出してはならな
い。
包装・表示
・強酸から離しておく。
・EU分類
・涼しい場所。
記号 : N
・換気のよい場所に保管。
R : 52/53-59
・排水管や下水管へのアクセスのない場 S : 59-61
で貯蔵する。
・GHS分類
注意喚起語:警告
シンボル:感嘆符
眼刺激
眠気やめまいの恐れ
水生生物に有害
重要データは次ページ参照
ICSC番号:1712
Prepared in the context of cooperation between the International Programme on Chemical Safety & the
Commission of the European Communities © IPCS CEC 1993
国際化学物質安全性カード
ICSC番号:1712
1,1ジクロロ-1-フルオロエタン
重
要
デ
|
タ
物理的性質
環境に関する
データ
物理的状態; 外観:
特徴的な臭気のある、無色の液体。
暴露の経路:
体内への吸収経路:吸入。
物理的危険性:
この物質の蒸気は空気より重い。天井が低い場
所では滞留して酸素欠乏を引き起こすことがあ
る。
吸入の危険性:
容器を開放すると液体がきわめて急速に気化し、
閉ざされた場所では空気を追い出し、窒息の危
険を生じる。
化学的危険性:
短期暴露の影響:
高温面や炎と接触すると分解し、塩化水素、フッ この物質は軽度に眼を刺激する。中枢神経系や
化水素、ホスゲンを生じる。強酸と反応する。
心血管系に影響を与え、意識低下や心臓障害
を生じることがある。窒息。
許容濃度:
TLVは設定されていない。
長期または反復暴露の影響:
MAK は設定されていない。
・沸点:32℃
・融点:-103.5℃
・密度:1.24 g/cm3
・水への溶解性:0.4g/100ml(20℃)
・蒸気圧:76.3 kPa(25℃)
・相対蒸気密度(空気=1):4.0
・20℃での蒸気/空気混合気体の相対密度(空
気=1):3.3 (計算値)
・粘度:0.33 mm2/s(25℃)
・発火温度:530~550℃
・爆発限界:5.6~17.7 vol%(空気中)
・log Pow (オクタノール/水分配係数):2.3
・水生生物に対して有害である。
・環境に有害な場合がある。オゾン層への影響にとくに注意すること。
注
・空気中の濃度が高いと酸素の欠乏が起こり、意識喪失または死亡の危険を伴う。
・区域内に入る前に酸素濃度を測定する。
付加情報
ICSC番号:1712
作成日2008.04
1,1ジクロロ-1-フルオロエタン
© IPCS, CEC, 1993
国立医薬品食品衛生研究所