20 Open Universe 1章 情報産業は全産業の ライフラインの自覚 エグゼクティブ・サマリー 情報産業は,現在あらゆる産業・組織機能・生活を支える社会システムのライフライン のひとつになっています。世界の産業が着々とグローバルに向かっている中で,相まって 情報産業の役割は非常に大きいものがあります。また,情報産業自体のグローバル化も進 んでいます。ここで改めて,情報産業にとってのグローバル化とは何でしょうか。それぞ 大局的長期的な 関係を築く事業 れの国家にそれぞれの産業があることを配慮して相互の事業観の上に立ち,世界市場の市 民・都市・国に向けて大局的で長期的な関係を築く事業として進めることが肝要と考えて います。真のグローバル・システムが不可欠になっています[1] 。 産業相互の参画意識 イノベーション そこで,世界のあらゆる活動を支える産業として,情報産業自体の意識改革とイノベー ションが必須になっています。この意識改革とは,産業の相互の参画意識から始まり,す でに世界中のあらゆる組織で活動している人々のその組織的経験や個々人の経験がシス 世界の人々の経験を 組み込んだシステム テムに活かされるようなものです。積極的ないい方では「世界の人々の経験を組み込んだ システム」によって,広く人々が「使うシステムに参画している意識を持った」システムへ 大きな変革が進行していると思います[2] 。 世界のニーズに 組織的総合的に 応え得る事業観 グローバルの基本 この経験(=エクスペリエンス)は,顧客ニーズやその国の固有なものもありますが,基 本となる作業やサービスのモジュール機能では共通性が多く,世界諸処のニーズに組織 的,総合的に応え得る事業観が,グローバルな流れを意識的に実現する上で基本的な要素 となります。 新しい発展 基盤の確立 経営戦略を 根本から変革 利用経験の集積が 本質的な オープン化の時代 日本の企業はもとより国際企業においても,この新しいグローバル化の本質的な改革の 波があらゆる産業とあらゆる事業シーンで認識され,大局的に見て経営哲学にかかわるこ とや具体的経営戦略をも,根本から変革することもあり得ます。 以上から情報産業は,企業でも個人でも,あらゆる利用シーンでの活用経験や知恵を, いかにして獲得し体系的にそれぞれの顧客へ還元するか,そのしくみを創る中で,新しい 発展の基盤が確立してゆくものと思います。その基盤として,世界に遍在する開発技術力 を資源として活用するためにシステムのプラットフォームの共通化とそのオープン化は, 継続的発展の哲学と 知恵の集積時代 あらゆる面で避けて通れない道ですから,むしろこれを積極的に活かす戦略を先行するこ とで事業の優位性をつかむことができると思います。 システムのオープン化は長い道程ですが,システムでは当初 OS の UNIX への移行やア プリケーションのオープン化などの段階から,利用経験の集積がもたらす非常に本質的な イノベーションを 人類共通の資産 として次世代へ継承 オープン化の時代へと向かっています[3] 。 システムは,従来の提供者と利用者という典型的な境界の意味を一新し,継続的な発展 の哲学と知恵の集積時代を迎え,そのビジョンを描き,個々人や組織が参画する意識改革 をもって,このイノベーションを人類共通の資産として,次世代へ継承する基本的な姿勢 をもつことが望ましいことと思っています。 1.1. Open Universe システムの中に 「ひと」がいる エンジニアの意識改革 システムの中に「人」を積極的にいれて設計や開発をするとき,人の研究が設計要素と して基本的に必要になります。人の行動の誤りや,ときには人による意図的な攻撃などが 第 1部 サマリー ◉ 1章 エグゼクティブ・サマリー 21 あるわけですが,これらをエンジニアリングすることが 21 世紀の本質的なシステム概念 であるというコンセプトを「Open Universe」に託しています。これは大きく開かれた宇 宙観で,これから人類として立ち向かうべき多くの課題に対して人類のすべての英知を結 集し,解決へ向け協力する姿がエンジニアの姿であると思います。 その役割が世界規模に,宇宙規模に広がってきています。20 世紀の探求的宇宙観は, 21 世紀には学問としても事業としてもシステムとしても,また国家としても,すでに現実 的で実用的な新しい概念を築き上げる人類にとっての決定的な観点となっています。グロ ーバル概念も広くとらえれば,あらゆることの見直しや考え方の「イノベーション」の観点 です。大きく開かれた宇宙観というのは, 宇宙技術の進歩という従来の認識から一歩進め, 宇宙観をもって世界を見直しグローバルを一歩進めた意識で世界を見直すものです。こ ういう時代が実際に来ていて,この新世紀の創造的な観点として Open Universe を提言 探求的宇宙観から 現実的で実用的な 宇宙観 宇宙観をもって 世界を見直し, グローバルを 一歩進めた意識 新世紀の創造的な観点 しています。 1.2. サービス・イノベーション 本書では,まずビジョンを創造します。そして,各国の状況,ビジョンと先端技術を説 明します。次にグローバルの本質を検討しますが,このあたりから,読者の所見を必要と する内容になります。批判的に閲読して反論するなど,独創的な思考環境の場の提供を目 的としています。読みながら全く反対のことを考えることも望ましいですし,多面的視点 が得られるようにもくろんでいます。そのようなスタンスこそ新しい創造的思考を啓発す 先ず「ビジョン」から 批判的に, 閲読や反論など 新しい創造的思考を啓発 るものだと思います。本書は個々人においてもグループにおいても, その思考や議論の「た たき台」としての目的を持って執筆しており,そうなることが望ましいと思っています。 これからの 20 年先,30 年先を考えますと,自国の産業構造は,グローバルな産業全体 の中での役割を担うように変化していくでしょう。各国の陣取りのような形で,グローバ ルな産業の全体像が見えつつもすべてを担うことができず,自己完結ができない中で,産 20 年先,30 年先 グローバルな産業全体の 役割分担,陣取り 業構造の移行が進展することでしょう。これが大きな規模の事業でも,またひとつの国と しての事業でも,そのような状況下で自己の位置を望ましい形に進化してゆくような事業 観と,グローバルな産業と密着度の高い事業展開が必要です。 その典型的な事業観は, 「サービス」を事業の中心において,コアの事業(現在もこれか らも続ける事業)でより深く「顧客の好み」を先取りするような事業観です。そこは理想的 な確信を持っていない事業の世界で,自己のユニークな部分を市場に訴求するわけですか サービスを事業の中心に ユニークな部分を市場へ 訴求 ら, プロダクツや販売活動とともにサービスが非常に重要になっているはずです。この「は ず」を使う理由は,そうなっていない現実があるからです。 もし,サービスを最優先に経営を考えているなら,すでに情報システムやネットワーキ ングに相当厳しいニーズやデマンドがあってしかりです。しかし現実の設計マージンは, クリティカルな最大負荷などに,経験則を基にした予備性能や予備容量を妥当な値で実装 サービスを最優先に考え ているなら相当厳しい ニーズやデマンド してできています。事業継続のための必要最小限で,現在のコア事業に必須なシステム機 能の維持管理という「システム業務」に資源を集中せざるを得ない状況なわけです。 事業の競争力がサービスに本当に依存しているなら,サービスの意味をしっかりと見直 すべきです。そのサービスを発展的な構造として開発し,可能な英知を総動員すれば,事 業を発展させることができるでしょう。それが現在まだできていない状態です。現在,世 界で活躍しているサービス産業というくくりの事業でも,まだまだ「次世代のサービス」 可能な英知を総動員 「次世代のサービス」 さらに利便性を提供 サービスの プロフェッショナル それぞれ大きく違う サービスの発想 22 Open Universe は続くでしょう。 「さらに利便性を提供する統合サービス」という看板を掲げ,その研究開 発に勤しんでいるプロフェッショナルの現状があります。 付加価値の源泉 事業の「主」が無い中で 「付加を追求する」 そこで,サービスの意味ですが,事業ごとにそれぞれ大きく違うサービスの発想が必要 となります。その違いこそが,意味の異なる事業価値の違いを生み出すことであり,それ が付加価値の源泉となるわけです。この付加価値についてですが,これからほとんどの事 業が「主」となるものが無い中で「付加を追求する」という苦しい開発をすることになると 推察しています。これは極論ですが, 「無」に付加は無いから,初めからゼロベースで取引 取引できる価値を創造 できる価値を創造する,生み出す必要があります。本書では, 「付加価値」の章で「付加」 新しいアイデアは 先ず現場にあり ができるという展開をしますが,現実の世界観から余り離さない意図があってそのように しました。 新しいアイデアは 現場の第一線から サービスに関する新しいアイデアは,概して現場の第一線から生じやすいものです。こ のことは周知の通りで,まず現場ありきとなります。本書で提案しているのは, 「情報の再 真剣にサービス開発に 取り組む 強化によるイノベーションを誘発する情報環境」です。これは,特に先進国ユーザーでは 経営の源泉が先行してシフトすることを前提に,真剣にサービス開発に取り組むことを新 製品開発と同等に重要な戦略として位置づけることです。 情報の再強化による イノベーションを誘発 1.3. 経営と情報技術 ∼情報の再強化によるイノベーションを誘発する情報環境∼ 本書では,情報技術が本来持っている潜在的な可能性が,この産業にかかわる非常に広 時間関係と同時に 因果関係 範囲な人々の技術を進展し続ける知識エネルギーの充溢をもたらしていると認識してい ます。特に本書ではその重要な知識や技術の発生時点からの時間経過に注目しています。 20 年前後にスケールを合わせて見直しますと,過去・現在・将来という時間関係と同時 に因果関係が見えやすくなります[4] [5] [6] 。 半導体技術の進展 相互に補完して進歩 特に半導体技術の進展は,コンピュータの性能に直接影響を与え続けているコア技術で あることはいうまでもありません(図 表 1-1) 。またこの進歩を情報技術全 40 年間で機能 性能が 100 万倍 1000 倍 (機能/Chip) MF 1000 倍 (性能) Server WS Mini Micro 1965 Molecular Quantum Bio Tech Super/Cell Nano Tech ームの各アーキテクチャ技術が次々 と技術クラスターを作りながら進歩 してきているのがわかります。 線,光技術が集積され,現在ナノ技 術が次世代技術として集積が進めら Wireless れています。技術全体がムーアの法 則に沿うように生産技術から試験技 LAN 20 年間 1975 ン,ワークステーション,メインフレ 一方,ネットワークは LAN から無 Optical 1985 術などが相互に補完して進歩を促し 20 年間 1995 図表1-1 半導体産業の集積力の外観図 体から見ると,その性能と集積化の 進展は,マイコンに始まってミニコ 2005 2015 こ の図では40 年間で100 万倍,24カ月で2 倍と書いていますが,もともとの ムーアの法則は18カ月〜24カ月で2倍といわれてきていますので,30年間で 100万倍になる予測も正当なものです。詳細は19.1節で述べます 続けてきました[7] 。 詳細は,19.1 節ロードマップとそ の意義の研究で述べますが,半導体 産業では研究開発と生産設備投資が 第 1部 サマリー ◉ 1章 エグゼクティブ・サマリー 23 1 社の事業から拠出できる規模を超え始めたときから企業間で分業や協業,統廃合が進展 しています。いわゆる垂直分離から水平統合化が世界規模で進んでいます。 コンピュータやネットワークのハードウエアは,半導体産業の合い言葉となっている, 「すべてをチップに,システムをチップにしよう(SoC,System on Chip) 」としています。 PC や PDA など量が見込めるシステムのサブシステムとそのモジュールは逐次,単一チッ 研究開発と設備投資が 1社の規模を超える 産業 プの中に入ります。いつどの規模が対象になるかは, 「量」がまとまれば加速されることか System on Chip SoC の加速度化 速度的に進めるものと考えています。これらはオープンでグローバルなシステムが半導 量のまとまりが シリコン産業の命 グローバル市場規模の 再点検,再認識 ら,中国とインドの市場規模のインパクトが携帯電話に現れている通り,SoC をさらに加 体チップとして,そのスケール・メリットを活かす形で市場をリードするような事業観が 基本的にあると見ています。 コンピュータの設計で発熱対策は CPU(中央処理ユニット)のチップから電源モジュー ル,さらに画像処理チップなどの熱設計をして,全体の消費電力つまり発熱を妥当な値にす ることが基本でした。特に発熱が集中する CPU には,まるで自動車エンジンと同様に空冷 から水冷まで冷却技術開発も重要でした。しかしコンピュータと自動車のエンジンで決定 新しい物差しを見いだす 価値の主張 一歩進んだ価値基準 的に異なることは,1 台のコンピュータには数 10 個以上のプロセッサ・チップが組み込ま れていることです。そこで,半導体産業の死活問題としてチップの消費電力を決定的に小 さくする技術開発が必要となっています。世界全体に数カ月間で普及するチップの数は数 億個にも上ります。そのすべての消費するエネルギーは掛け算になりますので,エコロジ ーや地球温暖化対策をはじめ社会に対するインパクトが非常に大きいわけです。携帯電話 改革の一歩 イノベーションを集団的 に進める一歩 の充電後の通話時間も注目する仕様の値ですが,携帯機器のプロセッサは,半導体設計の 知的財産権(IP)とその設計仕様の売買で事業関係が消費電力と性能を厳しく見ています。 一般的な家庭用電気機器を含めて半導体事業全体で SoC の対応は加速されていきます。 1.4. 次世代技術の研究 半導体の集積力は,コンピュータ,PC からナノ技術,分子技術,バイオ技術など広範囲 な微細化技術へと進展します。日本のナノ技術の展開は,技術開発とユニークな応用から ベンチャービジネス・チャンスへと発展する道筋もあるわけですが,プロセッサ・ユニッ ト,SoC など具体的な市場のニーズに順次応える展開でナノ技術が「集積」され実用化す 半導体集積回路 量子集積化技術 ナノ集積化知識 る道筋も非常にイノベーティブなインパクトが予見されます。 1.5. 参画の時代 何のためのビジョンか,オープンか,グローバルか,イノベーションか。広く社会の中 に活きる組織像と個人像を,多元的な意義をもった小社会の群像へ参画者として再度検討 します。この視点を現在の企業組織ではなく,先駆的に始まっている企業活動に必要なプ 参加と違うのは, まだないことにも 参画して創り上げて その中心になる ロフェショナル組織の重要性が顕在化するという立場で考えます。 企業組織構造の組み込み方をひとつのモデルとして,17.1 節の次世代情報システム概 念で説明します。なぜ組み込むという考え方かというと,システムの中心が人でありその 組織なわけです。今後ますます,人を中心として情報システムを組み込んでいくという展 開が大切になります。21 世紀末ごろに完全自動無人化「企業」が多くなっていても人が中 心であることを主張しています。 個人から組織の参画 展示会,フォーラム 標準化,研究への参画 教育,地域… 参画型社会がリーダー
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