あらし 氏名 ・(本籍) はる卦 嵐 治夫(三重県) 学位の種類 理学博士 学位記番号 理博第233号 学位授与年月日 昭和46年3月25日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 研究科専門 課程 東北 大学 大学 院理学研 究科 (博士課 程)物理学専攻修了 学位論文題目 酸化物結晶 中の遷移 金属 イオンの吸収 スペク トル 1スピネル結晶中のNi齢 イオンのスペクトル 亘立 方晶 ジルコニア 中のEr3 +イ オンのスペク トル 卓 論文審査委員 譲主蕩)桜井武麿教授上田正康 教授糟谷忠雄 教授小島忠宣 目 文 『=一目 △欄 次 第 1 部 スピネル結晶中のNi2+イオンのスペクトル 第1章緒論 第 2 章 Ni2+イオンに対する結晶場理論 第3章実験 第4 章 吸収スペクトルの解析 第 5 章 吸収スペクトルにおけるMgO濃度依存性 第6章結論 第 E 部 立方晶ジルコニア中のEr3+イオンのスペクトル 第1章詰論 第2章実験 第3章考察 18 論文内容要旨 第1部 スピネル結晶中のNi2+イオンのスペクトル 第1章緒 論 ス ピネル(MgA1204)結晶では酸素イオ ンが立方稠密をなし, 八面体配位と四 面体配位を作 り, 0・6硫血盟∠(0ん.) と T86rα舵4犯∠ (丁己.)の対称性をもった2種類 の結晶場を作っている。 従来, 多 くの結晶にお いてNi2+ イオ ンには近接イ オンが作る八面体 の中心に入る習性があ るこ とが知 られてい る。 スピネル結晶では八面体中心と四 面体中心とが共存しているので, N正2+イ オンが いずれ か一方の中 心に のみ入るのか, それとも両方の中心に入るのかを調べること は興味深 い。 またス ヒ。ネ ル結晶で は, MgO 濃度が減少すると, スヒ。ネル型結晶の状態のままで, 格子定数が一様に変化するので, 結晶場の 強さ Dg とイオン間距離 の関係を実験的に求めるこ とが可能であ る。 本研究で は, MgO 濃度 を変えたNi2+ イオンを含 む各種スピネル結晶 を太 陽炉で作製 し, それらの 結晶の吸収スペク トルを測定し, その帰属 を行なうとともに, MgO濃度とNi2+ イオ ンの占めている si te の関係についても考察を行なった。 第2章 Ni2+イオンに対する結晶場理論 Ballhausen は〆 の電子配置のイ オンが 0ん.または丁己. の対称{生 の結晶場を受けた場合 に, ス ヒ。 ン ー軌道相互作用も同時に取入れた固有値方程式を与えてい る。 これらはSla ter 『GondOn パラ メ∼ター である F2, F4 とスピンー軌道相互作用のパラメーターλと結晶場の強さ Dg を用いて cubiC group の 各既約表現に対して与え られている。 実験結果 の解析にこれらの理論式が用いられた。 第3章実 験 ス ヒ。ネル結晶の融点は 2135℃ で極めて高い。 従来, 高融点酸化物結晶の作製には, しばしば酸水素 炎による加熱方法が用い られてきた。 こ の方法で は結晶作製中に水素が混入 し, dope した遷移金属イ オンのス ペク トル に影響 を及ぼすおそれがあ る。 そこ で本研 究で は大型太陽炉 を用いて結晶を作ること にした。 太陽炉は Imaging Fumace であ り, 作製中の試料汚染の心配がない。 結晶の作製にあたって は、 Ai203 とMgO を種々の割合で混合し, これに3%のNio を加えた粉末試料を円板状に加圧成型 し・ これ らを 1200。G で約100時間熱処理したのち, 太 陽炉で溶融して結晶を作った。 MgOの量は 13∼ 50 mole % の範囲で 5種類 をえ らんだ。 吸収スペク トルの測定の結果, 4500, 10000, 16500, 27000c㎡1 付近にNi2'ト イオンによ る多くの吸収 が観測された。 第4章 吸収スペクトルの解析 Ni2+ イオンは八面体配位をと りやすいので, まずこの場合について考えることにし仁。 Ni2+ イオ ンが八面体配位をとるとされているMgO:Ni2+な どの吸収と比較して, 観測された吸収のうち 10000 19 cm-1 付近のものがス ピネ ル結晶中で八面体中心に入ったNi2+イ オンの 10 Dg に相当するものと考え られた。 この考えに基づき第2章の理論に従って帰属を行なった。 25mole %MgO のス ピネル結晶で, F2 = 1400, F4 コ 100, λ二一 275, 1)g二一 1015 cm-t とすると吸収の多くについて観測値と計算値の 最もよい一致がみ られだ。 しかし, 4500 cm一し を含めた4本の吸収はこのよ うな立場か らでは説明する ことができなかった。 そこでこれらをNi2+イ オンが四面体中心に入った ものとして考えてみることとした。 Ni2+ イオン が四面体 配位をとるZnO:N12+な どの吸収と比較し, スピネル結晶で 4500 cmd 付近の吸収を四面体 中心に入っだNi2+イ オンの 10.oq に相当するものとして帰属を行なったとこ ろ, F2 = 1400, F4 = 100, リエ λ=一 275, 1〕g二 452 cm として4本の吸収が極めてよく説明された。 実験からえ られた四面体配位と八面体配位 の結晶場の強さ.Og の比 は一 4、008/9 となり点電荷モ デル から 戸想さ 1じる一 4/9 と極めてよく 一致した。 さ らに, 吸収 の相対強度もNi2+ イオンが八面体中心と四 面体中心にあるものについて妥当な値がえ られた。 第5章 吸収スペクトルにおけるMgO濃度依存性 ス ビ。ネル結晶において, MgO の量をへらすと, 格子定数が小さくな り, イオン間距離が短くなるこ とが知られている。 そこでMgO のモル数を変えたNi2+ イオンを含 む各種スピネ ル結晶を作 り, Og のイオン間距離に対する依存性を実験的に求める と, 1〕g がイオン間距離の一5乗に 比例して変化する ことがわかった。 これは点電荷モデルから予想される結果 とよく一致する。 さ らにMgO をへらすと八面体中心にあるNi2+ イオ ンの数が四面体中心にあ るものに比し て増すこ とが見出された。 MgO をへらすとA1計が四面体中心に移動して八面体中心にA13+ の空孔が生ずるこ とが知 られてい るので, この空孔にN i2+ イオ ンが入りやすいと考え るな らばこ の現象を理解すること ができ る。 第6章結 論 本研 究をまとめると次の通りであ る。 1. 太陽炉を用いてNi2+ イオンを含むス ヒ。ネル結晶を作り, 吸収スペク トルを測定し, 結晶場理論に よってそ の帰 属が 行なわ れた。 2. 吸収位置と相対強度からNi2+ イオンは八面体中心ばかりでなく四面体中心にも入っていることが わか り, 各々の結晶場の強き 1)g の比は点電荷モデルから予想される値と一致 した。 3. MgO の量を変化したス ヒ。ネル結晶で測定を行ないDg がイオン間距離の一 5乗に比例することが わ かった。 4. MgO をへらすと八面体中心のN i2+ イオンの数が増し1 これは八面体中心に生ずるAし3+ の空乱 にN l2+ イオ ンが入りやすいためと考え られ る。 20 第五部 立方晶ジルコニア中のEr3+イオンのスペクトル 第1章緒 論 ZrO2 は, 融点 28000C で, それ以下 1800℃までは立方晶系の蛍石(GaF2) 型結晶構造, 1800∼ 1000℃で正方晶系の歪曲した蛍石型構造, 1000。G 以下では単斜晶系の歪曲した蛍石型 構造をとる。 し かし, これに希土類三二酸化物やCaO, MgOなどを少量漉入すると, 常温でも安定な立方晶ジルコニ ァがえられ る。 こ の結晶は従来X線回折の結果か ら蛍石型構造をとるときれているが, 酸素イオンの配 位につ いて は明確 な知 見がえ られ ていな い。 そこで本研 究で は広 い範囲で単一の固溶体を作るZrO2 - Y203 系立方晶ジルコニ アにEr3+ イオン を dope した試料 を太陽炉を用いて作 り, その吸収スペクトルを測定して帰属を行ない, Er3+ イオン を probe とし て立方晶ジルコニ ア結晶の酸素イオンの局所的配位 について考察 を行なった。 第2章実 験 結晶の作製にあたってはZrO2 と Y⊇03 を種々の割合で混合し, これに 1.5mo!e%Er203 を加えた 粉末試料 を加圧成型 し, 熱処理を行なつだ。 Y203 の量は4∼ 50mole% の範囲で7種をえ らんだ。 こ れらを太陽炉で溶融して結晶を作った。 X線回折 の結果これらは全て蛍石型構造を示し ブこ。 吸収スペク トルはグループに分類され, 全部で 12グルー プが観測されだ。 各グループは Y203 の 量に 対して顕著な変化を示した。 第3章考 察 観測された吸収 は結晶場で分裂 したEr3+イ オンの多 重項聞の∫ ←ザ 遷移によ るものとし て帰属され た。 結晶中の希土類イオンで も多重項の重心の位置は自由なとき とあまり変化しないので, 自由イ オン の多重項と consistent になるように各グループを多重項に帰属させた。 吸収スペク トルの乃03 濃度に対する変化では特に4S脆, 2H 脇 のグルー プについて調べ ∫こ。 4S馳 についてみれば、 Y203 の量が少ない時は4本の吸収が観測され, Y203 が増すと2本が一組になって、 一万の組 は強くな り, 他方 は弱くなって 40mole % Y203 では消失す る。 このことから立方晶ジルコニ ア中ではE r3+イオンに対して2種類の site があ り, 各 si te が2本の吸収を示していると考え られ る。 これ らの site はY203を加えるこ とによ って生じる酸素 の空乳と関係してお り, Y203 の量とともに強 くなる吸収を与える sl te は酸素の空孔をともなうもので, 他は空孔をともなわない site と思われる。 3/2 の∫ 値の多重項が2本に分裂していることか ら, X線回折で は蛍石型構造 を与えていても酸素 イオンはその構造 の陰イオンの位置か ら多 少ずれているこ とが明らかにされた。 さらに, 立方晶ジルコ ニア中のE r3+ イ オンの吸収線の巾 を他 の結晶中のものと比較 するとかなり広いことか ら, 立方晶 ジル コニア中の各E r3+ イオンのまわりの結晶場 は極めて一定ではないこ とがわ かった。 21 論文審査結果の要旨 嵐治夫 の論文 「酸化物結晶中の遷移金属イ オンの吸収スペク トル」 は2部から成り立っている。 第1 部 「ス ピネル結晶中のNi2+イオンのスペク トル」 はNi2トイオンを含 み, MgO 濃度の異なる数種の スピネル(M竃A l204) 結晶を太陽炉 を用 いて作 り, Ni2 'ト ィオ ンの吸収スペク トルを測定してこれら を結晶場理論に従って解析し, その結果に対して考察を加えた ものであ る。 測定された吸収帯 は, これらが結晶場によって分裂したN i2'← イオ ンの4∼ 己遷移によ るものであ り, Ni2 'ト イオンが八面体中心のみな らず四 面体中心に も存在するものとして説明された。 実験 から得 られ た四面体中心と八面体中心の結晶場の強さ Dg の比は一 4.008/9とな り, 点電荷モデルから導かれる値 一 4/9 に極めて近い値を示した。 MgO濃度 を変えることによってイ オ ン間距離 を変化さ せ 1)g を測定 した結果, その値がイオン間距離の一5乗に比例することがわかった。 さらに, MgO 濃度が減少する と八面体中心にあ るNi2+イ オンの吸収が四面体中心にあ るN i2+イ オンによるものに比し て強くなる現 象を見出し, これを, 八面体中心に生ずる空孔と関連して考察 を行なった。 これらの結果は酸化物の結 晶場についての重要な知見といってよい。 本論文の第聾部 「立方晶ジルコニァ中のEr3+ イオンのスペク トル」 は渥合比の広い範囲で単一 固溶 体を作るZrO2 一 ¥203 系立方晶ジルコニアにE r3+イ オ ンぞ入れだ試料を太陽炉で作 り, Er3+イオン を探針としてそ の吸収スペク トルから立方晶 ジル コニ ア結晶の局所的酸素イオ ンの配位につい て研究し たものである。 こ の結晶は従来X 線画 折 の結 果か ら蛍 石型構造 をと るものとみなき れてきた が, 本研 究によってえ ら れたスペク トル の分裂 の有様か ら, 酸素イオンは正しく蛍 石型構造 の陰イオンの位置にあるのではない 乙と, 吸収の線巾が広いことから結晶場が極めて一定なものではない乙となどが朋らかにされた。 きら にE r3+イ オンの占める位置には2種類あ り, Y203の濃度によって, それらの位置にあるイオンのスペ ク トルの相対強度が変化することが認められ, この現象を Y203 添加によって生ずる酸素の空孔に結び つけて論議を加えた。 これらの結果はこの種の酸化物の構造に対する貴重な知見で, 今後の研究に寄与 するところ大であ る。 よって, 嵐 治夫提出の論文は理学博士の学位論文として合格 と認め る。 22
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