Mg, O 同時ドーピングされた六方晶 BN 薄膜の電子放出特性

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
Author(s)
Mg、O同時ドーピングされた六方晶BN薄膜の電子放出特
性
大谷, 伸二
Citation
Issue Date
URL
Version
2013-06
http://hdl.handle.net/10297/7927
ETD
Rights
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(課程博士・様式7)(Doctoral qualification by coursework,Form 7)
学 位 論 文 要 旨
Abstract of Doctoral Thesis
専
攻:
光・ナノ物質機能
Course:
氏
名:
大谷 伸二
Name:
論文題目: Mg,O同時ドーピングされた六方晶BN薄膜の電子放出特性
Title of
Thesis:
論文要旨:
Abstract:
伝導帯のエネルギーが真空準位よりも高い位置に存在する材料は負の電子親和力を持っ
ており、こうした材料の伝導帯中に電子を生成できれば、その電子は容易に真空中に放出
される。このような負の電子親和力を持っている材料として、六方晶 BN(h-BN)、立方晶
BN、ダイヤモンドなどが知られているが、なかでもh-BN は作製が容易であり、更にダイ
ヤモンドよりも熱的安定性に優れているため、優れた電子線エミッターとしての可能性が
ある。
負の電子親和力を持つ材料をn型化するには、深いドナー準位をより浅くする必要があ
る。この方法として、同時ドーピングやクラスタードーピング法が理論的に提案されてい
る。h-BN に対しては、同時ドーピングの理論的な提案がおこなわれており、BN 層間にイ
ンターカレーションした Lii, Nai がドナーとして働き、Lii-CN-Lii,Nai-CN-Nai、が浅いド
ナーになる可能性が予想されている。
そこで本研究では、n型h-BN を得るためには、第 1 にドナーD とアクセプターA から
なる複合体 ADx( X>1 )を生成させることを考えた。複合体の生成エネルギーは負であ
ることが好ましく、正であっても出来る限り小さくなければならない。第 2 に複合体の電
子エネルギーが伝導帯の底に近い必要がある。ドナーD としては、単独のドナーでも比較
的浅いエネルギーを持っているものが好ましい。具体的には、BN にマグネシウムと酸素を
同時ドープすることで、浅いドナー準位の形成をめざして検討を行った。
まずMgドープの実験について、酸素量の少ない状態でのAr雰囲気の作製では、窒素雰
囲気の作製に比べ、より少量のMgドープ量でもMg3N2が偏析し存在してしまい高抵抗化し
た。同時に大気中の水分とも反応しやすくなり、安定したBN膜が作製できない。このとき
透過スペクトルの吸収端の長波長シフトとサンプルの白濁が発生した。
次に、酸素ドープの実験について、窒素と酸素の混合雰囲気の作製では、少量の酸素に
より BO 結合が生成してしまい安定した BN 膜を作製できない。しかしながら、Arと酸
素の混合雰囲気下では、酸素が多い環境でも BN 膜を作製することができた。透過スペク
トルの吸収端のシフトから、Ar雰囲気下での作製において、窒素欠陥の生成と窒素を置
換した酸素によるドナー準位の生成が示唆された。
最後に、MgO 同時ドープの実験について、窒素と酸素の混合雰囲気の作製では、MgO
をドープする事で、スパッタ雰囲気の酸素量が多い環境でも BN 膜を作製することが出来
た。Mg、O の共存下では BO 結合が生成しにくくなる為と考えられる。Arと酸素の混合
雰囲気の作製では、ターゲットの MgO を多くした場合、スパッタ雰囲気の酸素量が少ない
環境でないと BN 膜を作製出来ない。また、窒素雰囲気の作製では電界放出特性に大きな
変化は見られなかった。しかしながら、Ar雰囲気では undoped BN に比べ MgO をドー
プすることでより低電界で電界放出が起こった。予想通り、高いエネルギーに準位が形成
されたと考えられる。
XPS の測定結果から、サンプル中には約 16 %の炭素が混入しており、作製温度が高いほ
どより多くの炭素が混入することが判明した。
Si 基板に積層したサンプルの電界放出特性は、基板温度が 200 ℃で積層した場合は、殆
ど電気伝導が見られない。しかし、300 ℃で積層することにより、高い電流密度を得るこ
とできた。この場合、MgO ドープの効果が見られる。逆に 500 ℃において積層した場合は、
MgO のドープ量やスパッタ雰囲気による特性の差が見られないことから、炭素の混入が多
くなるために、MgO がドープされにくくなっていると考えられる。
電子放出特性の改善の為に、ピラー基板に積層させた場合、Si 基板に積層する場合より
も低電界で高い電流密度を得ることが出来た。また Si 基板に積層する場合よりも低電界で
フラッシングが起きた。フラッシングの原因は表面の酸化ではなく、大気中の水分である
可能性が高いことが判った。
大気中での電子放出には至らなかったが、Pt を蒸着した Ni ピラーではその可能性がある
結果となった。真空中でフラッシングすることなく極低電界での電子放出が確認できてい
る。また、Ni ピラー上にhBN 薄膜を積層したエミッターを用いて、絶縁性シートの帯電
性能を評価したが、-800V の印加電圧で最大-320V の表面電位をえることが出来た。