益戸雅俊 - 日本大学理工学部

平成 22 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集
K4-80
プロペラを利用したクレーン吊り荷のアクティブ振動制御
Research on a Vibration Control System Using Variable-Pitch Propeller for a Crane Load
益戸雅俊 1,渡辺亨 2,背戸一登 3
渡辺研究室
Masatoshi Masuto1,Toru Watanabe2,Kazuto Seto3
Watanabe Lab.
This paper deals with a study on a vibration control system using propellers for crane load. Vibration suppression
of crane load suspended by hoisting rope is an important issue to speed-up crane operation. In this study, a novel
vibration control system using propeller thrusts as control forces is presented. An experimental system using a
simple pendulum composed of a plate suspended by four thin strings and four propeller with motors. The motors
can be switched on/off by the controller. By switching motors according to the moving direction of the pendulum so
that the propeller thrust decelerate the pendulum, the vibration of the pendulum is expected to be reduced. In this
study,LQ control theory is applied and its superiority compared with simple switching control is examined.
1.
緒言
近年,流通の発展に伴う運搬の効率化や軽量化が社会的なニー
 [rad]
ズとして高まっている.クレーン運搬においても作業の効率化
l[m]
Fp
が求められており,その際の荷振れは問題となっている.振り
子の運動はクレーンの運動にも応用でき,荷振れは荷の加速度
が大きいほど,ロープが長いほど振幅は大きく,振れの周期は
.
 Fp  c x 
長くなる.すなわち,高速運搬は難しい。だが、本研究では荷
..
g
x  mx
l
FP
 N
m[kg]
cair x  N 
C
の付近にプロペラを取り付け,荷振れをプロペラ推力によって
Fig.1 The model
制御する方法を考案した.プロペラは回りだしてから推力が発
生するまで遅れがあるが,一方向に連続的な力を与えられる.
したがって,周期が長く振幅が大きい大型のクレーンに適した
(1)(2)
制振装置だと考えられる.
3.シミュレーションによる検討
本章ではシミュレーションにより,前掲の検討を行う.
3.1 プロペラ推力の立ち上がり遅れ時間の影響
2.理論
速度の符号のみに基づくプロペラ推力の切り替え制御におい
クレーンの運動は振り子に類似するため,この考え方を応用
て,初期振幅 1.0(m)を与え,プロペラ推力の立ち上がり遅れ時
することができる.振動を抑制する方向にプロペラ推力が働く
間τがどのように収束までの時間に影響するかを調べた.尚,
とすると,運動方程式は次の通りである.
今回のシミュレーションでは変位の振幅が 5(cm)以下になった
場合に振動が収束したとする.
mg
mx  cx 
x  Fp sign( x)
l
まずτ=0の場合,振り子が揺れはじめてから収束するまで
およそ 18(sec)かかった.時定数を変えながら,それぞれの場合
Fp の項はプロペラファンの推力,cの項は空気抵抗による減
衰項である.
次に,
本研究で用いたパラメータとモデルを Table1
における振り子が止まるまでにかかった時間を調べ,Fig.2 に結
果をまとめた.
Length of string l(m)
3.33
Mass m(kg)
1.92
Attenuation resistance c(Ns/m)
Propeller thrust delay τ(sec)
The maximum thrust of propeller p(N)
Time pendulum stops(sec)
と Fig.1 に示す.
0.02496
0.5
0.33
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
Table1 The each parameter
このときの振り子の固有周期は 2.8(sec)である.
0.2
0.4
0.6
Time constant τ (sec)
Fig.2 The comparison of time constants
897
0.8
平成 22 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集
50
40
プロペラ推力の立ち上がり遅れ時間である時定数τの値を大
30
振り子の位置 [cm]
20
きくすると,収束するまでにかかる時間が増えるということが
10
0
-10
-20
わかった.尚,時定数τを限りなく大きくすると,収束までに
-30
-40
約 315(sec)かかり,非制御時とほとんど変わらなくなることが
-50
0
10
20
30
時間 [s ]
40
50
60
Fig.4 The setting of on-off control
わかった.
3.2 最適制御(LQ制御)の導入
50
40
30
最適制御(LQ制御)の導入により,収束にかかる時間がど
振り子の位置 [cm]
20
の程度改善されるかについて,オンオフ制御と比較し,調べた.
10
0
-10
-20
-30
-40
最適制御においては,重みの設定によって性能が変化する.
-50
0
まず最初は 2 通りの状態重みを比較した.一つは速度に対する
5
10
15
20
25
時間 [s ]
30
35
40
45
50
Fig.5 The setting of LQ control
重み,もう一つは振り子の変位に対する重みである.変位重み
に比べ,速度重みによって最適化を行うほうが,振り子が止ま
Fig.4 と Fig.5 を見ると,オンオフ制御では直線的に収束して
るまでにかかった時間は尐なくなった.これは変位よりも速度
いるが,LQ制御では曲線的に収束していることがわかる.す
のほうが振幅が大きいため,最適化しやすいことが挙げられる.
なわち,切り替え制御においては,振り子の振動方向のみに依
そこで本研究では速度重みを採用した.
存してプロペラの推力方向を切り替えており,プロペラ推力は
時定数τの値については一昨年行われたプロペラ推力の立ち
振り子の振幅に依らず常に最大推力を目標とした制御力を出す
上がり特性実験の実験結果(3)を使用し,τ=0.5(sec)とする.こ
よう制御されている.このため,あたかも摩擦による減衰振動
の条件で最大推力が実験値の範囲に収まるようにLQ制御の重
のように振り子の振幅は直線状に減衰している.これに対し,
みを調節し,切り替え制御と比較を行なった.オンオフ制御の
LQ制御では制御力は状態変数に比例して変化する.このため
場合は,振り子が止まるまでにおよそ 23(sec)かかったのに対し
振幅が小さくなると制御力も減尐する.このため,あたかも速
最適制御では 35(sec)かかった.この結果を見ると,オンオフ制
度に比例する減衰振動のように,振り子の振幅は指数的に減尐
御の方が最適制御よりも制御力が高く,効率がいいということ
している.
になる.本来ならば,最適化をおこなっている方が制御力は高
このような制振性能の違いが,Fig.3 のような結果をもたらし
いはずである.なぜこのような結果になった更に検証をした.
たと推察される.つまり,τが小さい時,LQは振幅が小さく
時定数τの値を変えながら,オンオフ制御と最適制御によっ
なると制御力も減尐するのに対し,切り替え制御では常に最大
て振り子が止まるまでにかかった時間を調べた.また,それら
制御力が出されるので優位となる.しかし,τが大きくなると
を Fig.3 のようにグラフに表すことで比較した.
遅れのため切り替え制御の効率は大きく低下する一方,LQの
Time pendulum stops t(sec)
効率はあまり下がらない.
200
4.結言
on-off control
150
LQ control
クレーン吊り荷の制御に用いられるバンバン制御とオンオフ
100
制御とLQ制御の特徴について把握できた.プロペラ制振にお
50
ける推力遅れと性能について考察し比較した結果,時定数を大
きくすると性能は劣化する.時定数が大きければLQ制御,小
0
0
1
2
Time constant τ (sec)
3
Fig.3 The comparison of controls
さければ切り替え制御を用いるのがよい.
5.今後の展望
より実用化に近づけるため、人が実際に乗ったブランコの振動
Fig.3 を見ると,τ=1.0(sec)のときから最適制御の示した
制御を目指す。そのためのプロペラ設計、制作を行う。
値がオンオフ制御の値を下回っていた.よって,時定数τが
1.0(sec)よりも小さい場合にはオンオフ制御のほうが制振性能
6.参考文献
は高く,τが 1.0(sec)よりも大きい場合には最適制御のほうが制
1)背戸一登,丸山晃市,
『振動工学』
,森北出版,
(2002.10)
振性能は高くなることがわかった.その原因を検討するため,
2)長尾弘,岡野道治,
『振動工学』
,理工図書,(1991.4)
オンオフ制御とLQ制御のτ=1.0(sec)時における振り子の収束
3)小林慎平,渡辺亨,背戸一登,
『プロペラ推力を用いたクレー
への推移をグラフにしたものを Fig.4,Fig.5 に示す.縦軸は振
ン吊り荷の振動制御に関する基礎研究』,日本大学修士論文,
り子の位置(cm),横軸は時間(sec)を表している.
(2008.3)
1:日大理工・学部・機械
2:日大理工・教員・機械
3:背戸振動制御研究所
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