レジュメ(全て) - Osaka University

大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
携帯電話を用いた Web 検索支援のためのクリック型検索インタフェースの設計と実装
小牧 大治郎 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
近年,携帯電話で Web 検索することは一般的である.し
かし,文字入力インタフェースとして数字キーしか備えてい
ない携帯電話では,検索語の入力に煩雑な操作が必要となる.
検索語の入力における煩雑な操作を低減する手法として,
発表者の所属する研究グループではクリック型検索方式を提
案している.この方式では,ユーザが Web 閲覧をしている
際にページ内で興味を持った語にポインタを合わせてクリッ
クするだけで Web 検索を行える.しかし方向キーしか持た
ない携帯電話では,ユーザが興味を持った語に正確にポイン
タを合わせるために煩雑なスクロール操作が必要である.
そこで本研究では,携帯電話を用いた Web 閲覧のための
クリック型検索インタフェースの設計と実装を行った.提案
インタフェースでは,図 1 に示すように,円を用いて検索
語を含む範囲を指定することで,ユーザの操作量を低減さ
せる.具体的には,ユーザが決定キーを押すと円を表示し,
キーを押し続けている間,円の大きさを増減させ,検索語を
含む領域を指定する.そして,領域内に属する語について,
語の属性による重要度と円内の位置による重要度を考慮する
ことにより検索語を決定する.
2
図 2: 各タスクにおける操作回数の分布
提案インタフェース
2.1 重要度の決定
円内の語から検索語を決定するため,まず円に含まれる
文字列群を抽出し,形態素解析を行い,名詞を抽出する.連
続する名詞は複合語とする.また,円周により分断された語
は,半分以上が円に含まれていれば候補とし,含まれていな
ければ候補から除外する.次に,抽出した語に対して,語の
属性に基づく重要度の重み付けを行う.一般的に検索におい
ては,人名などの固有名詞が検索の対象になることが多い.
そこで,抽出した語に対して固有名詞を含むかどうかの重み
Fm (w) を付与する.また固有名詞以外にも,特徴的な語が
ユーザの興味をひくことも多いと考えられるため,IDF によ
る統計的な重要度 p(w) も考慮する.また,ユーザは興味を
持った語が含まれるまで円を拡大すると考えられるので,円
の中心からの距離に応じた重み D(w) を付与する.さらに,
準備実験の結果からスクロール方向と円内における注目語の
位置には関係があることが分かっている.そこで,スクロー
ル方向に応じた重み付け S(w) を行う.そして,以上の方針
に基づいて,次式により重要度 E(w) を決定する.
E(w) = Fm (w) + p(w) + D(w) + S(w)
(1)
2.2 自動選択方式とリストアップ方式
自動選択方式では,ユーザの操作を最小に抑えるため,円
内の語から最も重要度の高いものを自動的に検索語に決定す
る.一方,リストアップ方式では,重要度の高い順に 6 個選
び,画面にリスト形式で提示し,ユーザが検索語を選択する.
3
図 1: クリック型検索の例 (バラク・オバマを検索)
評価実験
8 名の被験者に実機を用いて,自動選択方式とリストアッ
プ方式,さらに比較方式として直接指定方式,文字入力方式
の 4 方式で,指定した Web ページ内で指定した語を検索す
るタスク 12 個,自由に検索するタスク 12 個を実行しても
図 3: アンケートによる主観的操作量
らった.直接指定方式では,ユーザは方向キーを用いて画面
をスクロールし,ポインタを検索したい語の上に合わせて
キーを押すことで検索語を指定する.文字入力方式では,テ
ンキーを用いて検索フォームに文字入力する.
各タスクに要した操作回数の分布を図 2 に示す.平均回数
は自動選択方式で 2.6,リストアップ方式で 4.3,直接指定方
式で 2.5,文字入力方式で 2.625 であった.リストアップ方
式と,直接指定方式が他方式より操作回数が少ないが,この
2 方式の間では大きな差は出ていない.一方,各タスク終了
後に被験者に主観的な操作量を 5 段階で評価してもらった結
果を図 3 に示す.直接指定方式と比べてリストアップ方式の
操作回数が少ないと答えた人の割合が高くなっている.この
結果から,実際の操作回数だけではなく,簡易な操作で検索
語を決定できることが重要であることがわかる.
4
おわりに
本研究では,携帯電話のためのクリック型検索インタフェー
スの設計と実装を行った.また,ユーザによる評価実験によ
り,ユーザの主観的な操作量を削減できたかことから,提案
インタフェースの有効性を確認した.
5
博士後期課程進学後の予定
今後は,複数語での検索への対応,検索結果の絞り込みな
どを行い,携帯電話における Web 検索をトータルで支援で
きるようなインタフェースについて検討する予定である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
無線センサネットワークにおけるデータ補間および通信傍受を利用した通信量削減手法
飯間 悠樹 (マルチメディアデータ工学講座)
はじめに
サイクル
2
研究内容
冗長性判定フェーズ
(1 ≤ i ≤ n).
(1)
ここで vi と Vˆi はそれぞれ,ノード Ni が実際にセンシング
したデータと,シンクがノード Ni のセンシングデータとし
て扱う値である.各ノードは,自身と通信範囲に存在する
ノード(隣接ノード)の位置情報,および E を把握してい
るものとする.
2.2 提案手法
提案手法の概要を図 1 に示す.提案手法は,ノードがデー
タの冗長性を判定する冗長性判定フェーズと,発信された
データを収集する収集フェーズから成る.冗長性判定フェー
ズは,さらに先頭フレームおよび終了フレームから成る.
2.2.1 時間的冗長性判定
各ノードは,冗長性判定フェーズの開始とともに,過去
に発信したデータを利用した時間的冗長性判定を行う.ま
ずノード Ni は,過去に発信したデータの中からもっとも新
しい二つを選択し,それらを元に二次元の線形補間を行う
ことで,現サイクルにおける予測値 vˆi を算出する.そして,
E ≥ |ˆ
vi − vi | を満たす場合,データの発信を中止する.
データ収集フェーズ
時間
開始フレーム
終了フレーム
履歴データ
による
時間的
冗長性判定
傍受データ
による
空間的
冗長性判定
図 1: 提案手法概要
250
222.1
0.45
0.403
106.0
100
74.7
34.7
50
消費電力[mJ]
0.4
0.1
0.061
0.069
0.081
0.05
0
0
提案
手法
時間
のみ
空間 Snapshot
Query
のみ
図 2: 収集データ数
2.2.2
2.1 想定環境
本研究では,n 個のノードによって,シンク(収集局)を
根とした木構造のデータ収集ネットワークが予め構築されて
いるものとする.全ノードは定期的に一斉センシングを行う
ものとし,センシングの周期をサイクルと呼ぶ.また,シス
テムにはデータに対して許容できる誤差 E が設定されてい
るものとし,システムの目的は,全ノードがセンシングした
各データに対して,誤差が E 以下に収まるような値を得る
ことであるものとする.
E ≥ vi − Vˆi
センシング
近年,センサ技術の発展に伴って,センサを搭載した無
線端末(以降,ノード)によって構築される無線センサネッ
トワーク(WSN: Wireless Sensor Network)への期待が高
まっている.WSN ではノードがバッテリによって稼動して
いることが一般的であり,サービスを長期間提供するために
はノードの消費電力抑制が重要な課題である.特に,現在の
ノードは無線通信によって電力を多く消費するため,消費電
力の抑制には通信量の削減が効果的である.現在,センサ
データ(以降,データ)を収集する際に,他のデータから予
測できるようなデータ(以降,冗長データ)を削減し,通信
量を抑える研究が多く行われているが,冗長データの判定の
ための通信が多く発生するという問題がある.
そこで本研究では,無線センサネットワークにおいて,デー
タ補間および通信傍受を利用することで冗長データの発信を
抑制し,通信量を削減する手法を提案する.提案手法では,
ノードが自身の観測したデータおよび傍受した近隣ノードの
データを利用し,自身のデータがそれらのデータを元にした
線形補間によって予測可能か否かを判定する.予測可能であ
る場合,ノードは自身のデータを冗長と判断して,データの
発信を中止する.
収集データ数
1
提案
手法
時間
のみ
空間 Snapshot
のみ Query
図 3: 消費電力
空間的冗長性判定
先頭フレームではまず,時間的冗長性判定において自身の
データを非冗長と判断したノードのうちのいくつかがパケッ
トを発信する.そのデータを傍受した隣接ノード Nj は,そ
れらのデータを元に三次元の線形補間を行ことで,自身の座
標における予測値 vˆj を算出する.そして,E ≥ |ˆ
vj − vj | を
満たす場合,データの発信を中止する.
2.2.3
データの収集
データ収集フェーズでは,冗長性判定フェーズにおいて発
信されたデータを,データ収集ネットワークを介してシンク
に収集する.以上の処理を通して,提案手法では,データの
冗長性判定のための通信を発生させることなく,時間的およ
び空間的に冗長なデータの発信を抑える.
3
手法評価と今後の課題
性能評価のために行ったシミュレーション実験の結果を図
2 および図 3 に示す.比較手法として,データ間の相関を表
すモデルを用い,一部のノードのみがデータをシンクへ発信
することで通信量を削減する Snapshot Query を用いた.ま
た,提案手法において時間的あるいは空間的な冗長データの
うち一方のみを削減する場合と比較した.図より,提案手法
が Snapshot Query に比べ,収集データ数および消費電力を
削減できていることが分かる.また,時間的冗長データおよ
び空間的冗長データを削減することで,一方のみを削減する
場合に比べ,提案手法が収集データ数および消費電力を削減
できていることが分かる.
4
おわりに
本研究では,無線センサネットワークにおけるデータ補間
および通信傍受を利用する通信量削減手法を提案した.今後
は,パケットロスを考慮した拡張や,実機による実験を行っ
ていく予定である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
携帯電話を用いた Web 閲覧のためのプレビューおよびクリッピング機能
大西 健史 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
携帯電話の普及と通信技術の発展により,携帯電話を用い
た WWW へのアクセスが一般的なものとなっている.しか
し,現在公開されている Web ページの大部分が PC の大き
な画面での閲覧を前提としているため,小さな画面と貧弱な
入力インタフェースしか備えていない携帯電話では快適に閲
覧することは困難である.特に画面サイズの制限上,携帯電
話を用いた Web 閲覧においては,周辺コンテンツを参照で
きず Web ページ内で進路を失ってしまうという問題や,複
数のコンテンツの比較や参照が困難であるという問題があ
る.そこで本研究では,携帯電話を用いた Web 閲覧のため
のプレビュー機能およびクリッピング機能の設計と実装を
行った.なお,時間の都合上,発表ではクリッピング機能に
ついてのみ述べる.
2
図 1: クリップ対象範囲の提示
クリッピング機能
提案機能では,ページ内でクリップ対象となるコンテンツ
の候補を提示し,ユーザはその候補の中からクリップしたい
コンテンツを選択する.また,クリップしたコンテンツに半
自動的にタグ付を行い,自動的に整理して提示する.これに
より,ユーザはページ内の特定のコンテンツを簡潔な操作で
記録し見返すことができる.
2.1 コンテンツの記録
提案機能では,クリップ対象となるコンテンツの候補を提
示し,ユーザはその候補の中から対応する数字キーを入力し
て実際にクリップするコンテンツを選択する (図 1).また,
クリップしたコンテンツの整理,検索を容易にするため,シ
ステムはクリップに付加するタグの候補を自動的に生成して
提示し,ユーザはタグの候補から付加するタグを選択する.
さらに,ユーザはコンテンツの重要度を 2 段階から選択する
ことができる (図 2).
2.2 クリップ対象コンテンツの生成方法
ページ内の関連する情報の集合であるコンポーネントを利
用し,クリップ用キーが押された時点で参照されているコン
ポーネント内のテキスト,画像およびテキストをクリップ対
象のコンテンツとする.
2.3 コンテンツのタグ付け
クリップされたコンテンツの種類に応じた方法で,クリッ
プされたコンテンツに対して最大 5 つのタグ候補を生成す
る.具体的には,以下の通りである.
2.3.1
テキスト
テキスト内のユーザの閲覧履歴を考慮することで,ユーザ
にとって重要な語を抽出することができると考えられる.そ
こで,提案機能ではテキストをクリップするまでのスクロー
ル履歴を考慮してタグ候補を生成する.具体的には,まずテ
キストを形態素解析し,抽出した各名詞に対して TFIDF を
求める.そして,TFIDF の高いものから上位 10 %のうち,
合計表示時間の長いものから上位 5 つをタグ候補とする.
2.3.2
画像とリンク集合
画像のキャプションおよびリンク集合のタイトルを形態素
解析して抽出した名詞のうち,固有名詞と未知語から優先的
に 5 つの語をタグ候補とする.
図 2: タグと重要度の入力
表 1: テキスト用のタグ候補生成の評価
再現率 (適合率) (F 値)
提案手法
0.520
(0.320)
(0.396)
TFIDF
0.479
(0.297)
(0.366)
2.4 コンテンツの提示
数字キー ‘0’ を押すと,クリップしたコンテンツに付けた
タグの一覧を表示する.このとき,キー ‘∗’ を入力するとコ
ンテンツのソート方法を変更し,登録順,五十音順,参照頻
度順でコンテンツをリスト表示する.ユーザがタグの一覧か
らタグに対応した数字キーを入力すると,対応したタグの付
いたコンテンツをリスト表示する.そして,リスト内でコン
テンツに対応した数字キーを入力すると,クリップしたコン
テンツを携帯電話用にフォーマットを変更して表示する.
3
評価実験
3.1 テキストのタグ候補の生成手法
12 個の指定したニュースページを用いて,10 人の被験者
が付けたタグに対する,提案手法と TFIDF で生成したタグ
候補の生成精度を調べた.その結果,表 1 に示すように提案
手法を用いることにより,TFIDF を用いた場合より高精度
のタグ候補を生成できることを確認した.
3.2 クリッピング機能
8 人の被験者に提案機能またはブックマーク機能を用いて,
それぞれ 2 日間自由閲覧を行ってもらいアンケート調査を
行った.その結果,提案機能を用いることにより,8 人全て
の被験者から「ブックマーク機能を用いた場合よりも少ない
操作量でコンテンツを再度参照できた」という意見が得ら
れ,また 8 人中 6 人の被験者から「タグを利用することでコ
ンテンツを早く探索できた」という意見が得られた.
4
おわりに
本研究では,携帯電話を用いた Web 閲覧のためのプレ
ビュー機能およびクリッピング機能の設計と実装を行った.
今後はクリッピング機能について,過去の閲覧履歴を考慮し
ユーザの興味を反映したタグ候補の生成方法と,コンテンツ
に付けられたタグの自動カテゴライズ方法について検討する
予定である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
位置依存サービスのための複数ユーザによる移動履歴を用いた滞在地推定手法
熊丸 恵太 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
近年, GPS 機能を搭載した専用機器や携帯端末など,位
置情報を容易に取得可能なデバイスが普及し,ユーザの現
在位置や過去の移動履歴に基づいてコンテンツを提供する
「位置依存サービス」が注目されている.発表者の属する研
究グループでも位置依存サービスの一例として,ユーザの移
動履歴に基づいて街案内や関連情報を提供するシステムの
研究開発や評価を実施してきた. 上記システムでは,ユーザ
の移動履歴のみから暗黙の嗜好を抽出することを目的とし,
対象ユーザの移動履歴から推定される滞在地 (以下,スポッ
ト) とその滞在時間を,ユーザ間で比較し,類似度を得るこ
とで協調フィルタリングを行なっている.本サービスにおい
ては,ユーザの移動履歴からスポットを正確に得られる必要
がある.位置依存サービスにおいてスポットを正確に得るこ
とは重要なサービス要素のひとつと考えられ,さまざまな応
用があり得る.例えば,観光などの際に初めて行った土地で
あっても,地図上には表れない近隣の名所を知る,地元民し
か知らない抜け道を知る,といったことが可能となると考え
られる.
2
(a)
(b)
図 1: 異なるスポットとして抽出される例
図 2: 異なる粒度におけるスポット抽出の例
複数ユーザの移動履歴を用いた滞在地推定手法
2.1 既存研究における問題点
従来,ユーザの移動履歴をもとにスポットを推定する研究
はいくつかあるが,十分な精度を得られるものは存在しな
い.従来研究では,基本的にスポット抽出はユーザ自身の移
動履歴をもとに行なわれ,かつ形状が円形で固定であるた
め,複数施設からなる観光地や広い範囲を持つ施設の抽出に
問題が生じる.
例えば,複数の施設をもつ観光地では,大きな粒度でとら
えた場合は同じ観光地を訪問したにも関わらず,各ユーザが
訪れた施設の所在地がスポットとみなされ,別スポットとし
て扱われてしまう.図 1(a)は大きな粒度でとらえると「清
水寺」として同一スポットであるにも関わらず,複数スポッ
トとして扱われてしまう例である.
一方,ユーザが比較的自由に行動できる神社などの広い施
設では,ユーザが移動する位置にはばらつきが見られる.こ
のような場合,従来手法では,同じ施設であっても,別ユー
ザが異なる位置を訪問したとき,それらが無関係な別スポッ
トとみなされる可能性がある.図 1(b)は「平安神宮」と
して同一スポットであるにも関わらず,複数スポットとして
扱われてしまう例である.
図 3: スポット集約の例
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
精度
再現率
清水寺
提案手法
平安神宮
清水寺
先行研究
平安神宮
図 4: 提案手法と先行研究における精度と再現率
2.2 スポット抽出粒度の設定
複数の施設をもつ観光地などでは,ユーザは移動時と比べ
緩やかな移動と停止を繰り返すと考えられる.そこで,本研
究ではそれらの動作の判定基準をスポット抽出における粒度
の閾値としてあらかじめ設定しておき,その値に基づいて
ユーザの移動履歴からスポットを推定する手法を提案する.
提案手法におけるスポット推定の流れを以下に示す.
1. 速度が閾値以下となる移動履歴をスポット候補とする
2. スポット候補を始点とし,距離と時間が閾値以下とな
る,他のスポット候補を探索する
3. 他のスポット候補が存在する場合は新たな始点として
処理 2 を実行し,存在しない場合には得られたスポッ
ト候補とその間の移動履歴をスポットとして決定する
上記により複数の施設が一つのスポットとして抽出される例
を図 2 に示す.
ある複数ユーザによる抽出スポットを集約する.これにより,
ユーザごとの散策範囲の差異を吸収することが可能となる.
複数ユーザによる抽出スポットの集約の例を図 3 に示す.赤
色の枠で囲まれたスポットが集約により同一スポットとして
識別されている.
2.3 複数ユーザによる抽出スポットの集約
本研究では 2.2 節で述べたスポット抽出粒度の変化の考慮
に加え,広範囲にわたる施設を判別可能とするために,各ス
ポットに対して重心を求め,その重心の距離が一定距離内で
本研究では,複数ユーザの移動履歴からユーザの滞在地を
精度高く推定する手法を提案した.今後の課題としては,よ
り広域・多人数の移動履歴を用いて提案手法の有効性を検証
する必要性が挙げられる.
3
提案手法の評価
11 人の被験者が清水寺と平安神宮内を実際に散策した際
の移動履歴を取得し,提案するスポット抽出手法を評価し
た.被験者には滞在した場所を記録してもらい,本評価では
それらの情報を正解集合として比較を行った.提案手法と先
行研究における精度と再現率を図 4 に示す.比較結果より,
提案手法は先行研究と比べ精度,再現率ともに向上している
ことがわかる.
4
おわりに
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
センサ観測値分布の概要把握を可能とする階層化ドロネーオーバレイネットワーク構築手法
小西 佑治(マルチメディアデータ工学講座)
はじめに
提案手法によるピア選択
2
1500
平均値
中央値
0
ランダム分布
ピアの分布
Zipf
分布
図 1: 選択されたピアのボロノイ領域の面積の分布
ピアの分布に応じた情報収集対象ピア選択手法
ピアの分布は場所によって疎密が異なるため,要求される
情報の粒度を満たすよう情報収集対象ピアを選択するために
は,ピアの分布の疎密を考慮しなければならない.しかし,
P2P ネットワークではピアの分布を把握することが困難で
あるため,自身の保持している情報のみから周囲のピアの分
布を推測し,情報収集対象ピアを選択できることが望まし
い.そこで,各ピアが自律的に情報収集対象ピアとなるかを
判断できるよう,確率的手法を用いる.
ドロネーオーバレイネットワークは計算幾何のドロネー三
角形分割を P2P ネットワークに適用したものであるため,
各ピアを母点としたボロノイ領域を定義できる.このボロノ
イ領域の面積は周囲のピアの分布に応じて変化し,密な分布
ほどその面積が小さくなる.そのため,このボロノイ領域の
面積を情報収集対象ピア選択確率に利用することを考える.
要求される情報の密度 ρ が与えられた時,面積 Svor の
ボロノイ領域内に存在すべきピア数 Nreq は Svor × ρ に
より求まる.一方,ボロノイ領域内の実際のピア数 Nreal
は 1 である.そこで,情報収集対象ピア選択確率 P rsel は
P rsel = Nreq /Nreal = Svor × ρ と定義できる.
3
布
分
の
積
面
の
域
領
イノ
ロボ
の
アピ
象
対
集
収
報
情
ピア数に基づく確率によるピア選択
1000
近年,ユビキタス環境への関心が高まっており,状況把握
のための情報収集手段としてセンサの活用が考えられている.
センサは膨大な数が高密度に配置されると考えられ,ネット
ワークを通じて様々な場所に設置されたセンサからデータを
収集できれば,詳細な情報をどこでも利用可能となる.この
センサを相互接続し P2P ネットワークを構築することで,
負荷分散やネットワーク内でのセンサ情報加工を行う研究が
盛んに進められている.本研究では,地理的な P2P ネット
ワークを構築できるドロネーオーバレイネットワークを利用
する.
このような環境におけるセンサネットワーク活用の一例と
して,広域に配置されたセンサから情報を収集し,観測値分
布の全体像を複数の地理的粒度で把握するアプリケーション
が考えられる.この時,地理的に近いセンサ観測値は類似し
ていると考えられるため,要求される粒度に対してセンサが
密に分布していると,冗長な情報を取得してしまう.そこで
本研究では,要求される粒度に近づくように選択された情報
収集対象ピアからなる上位階層ネットワークを構築すること
で,領域全体から一様に観測値情報を得て,冗長な情報なし
に観測値分布の全体像を把握可能とする.そのために,本研
究では詳細なピア分布から要求される粒度を満たすよう確率
的に選択されたピアによる上位階層ネットワークをもつ,階
層化ドロネーネットワークの構築手法を提案する.
500
1
ピア選択確率の評価
提案した確率を用いて選択されたピアの分布が領域全体に
対して一様になっていることをシミュレーションにより評価
した.比較手法としては,正確なピアの選択確率となるよう
に,要求される密度から求めた 1 ピアのみ存在する面積を
もつ円領域内のピア数に基づいた確率を用いた.評価に用い
たネットワークは,100 ピアをグリッド状に配置し,さらに
100 ピアをランダムまたは Zipf 分布に従い配置した二種類
(a) 基となる分布
(200 ピア)
(b) 提案手法 (96 ピア)
(c) 比較手法 (101 ピア)
図 2: 選択されたピアの分布の様子(Zipf 分布)
を用い,この 200 ピア配置した状態から 100 ピアを目標と
してピアを選択した.
選択された各ピアのボロノイ領域の面積の分布を箱ひげ図
を用いて表わした図 1 より,実際のピアの分布を調べて決定
された正確な確率を用いた比較手法による結果と同様の結
果を提案手法でも実現できていることが分かる.また,Zipf
分布における選択ピアの分布の例を図 2 に示す.図 2(a) の
基となったピアの分布,図 2(b) の提案手法により選択され
たピアの分布,図 2(c) の比較手法により選択されたピアの
分布より,ピアの分布に大きな偏りある場合においても提案
手法,比較手法ともに目標とする 100 ピアに近いピア数を
選択できており,選択されたピアの分布も領域全体に対して
一様であることが分かる.以上より,各ピアが保持する情報
のみに基づく確率を用いても,周囲のピアの分布状況を調べ
ることで正確に求めた確率を用いた場合と同様の結果が得ら
れ,要求される密度を満たすよう領域全体から一様にピアの
選択が可能であることが確認できた.
4
おわりに
本研究では,要求される密度を満たすように領域全体から
ピアを一様に選択し,選択されたピアからなる上位階層ネッ
トワークを構築することで,ドロネーオーバレイネットワー
クの階層化を行った.提案手法により,冗長な情報を削減し
検索領域から一様に情報を取得可能となる.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
移動型センサネットワークにおける消費電力削減のためのプッシュ型放送を用いた移動制御手法
新城 達也 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
近年,移動型センサノードを用いて構成される移動型セ
ンサネットワークが注目を集めている.移動型センサノード
(ノード)を用いることで,災害地や汚染地域など人の侵入
が困難な場所をセンシングでき,観測領域が広くノードの密
度が疎な場合でもセンシングできる.しかし,ノードの密度
が疎な場合,無線通信範囲に他のノードが存在しない可能性
が高い.そのため,センシングデータを基地局に転送する際,
多くのノードが基地局の無線通信範囲内に移動する必要があ
り,ノードは移動に多大な電力を消費するとともに,センシ
ングデータ量が減少する.これまでに発表者の所属する研究
グループでは,データ収集の際に基地局とマルチホップ通信
を行っているノードの位置を放送し,ノードはその情報をも
とに最も近いノードに接続することで一時的なネットワーク
(収集ネットワーク)を構築する SR 方式を提案した.しか
し,SR 方式では,ノードの無駄な移動により電力を浪費す
るという問題があった.
そこで本研究では,移動に要する消費電力を抑えながら,
データ収集を効率的に行うノードの移動制御手法を提案す
る.また,この手法とは別に,移動距離の削減を最優先にし
て,収集ネットワークをあらかじめ静的に決定する方法を提
案する.
2
研究内容
本研究では,図 1 に示すように,センシング領域内に複数
のノードと,放送設備を備えた基地局が 1 つ存在する環境を
想定する.基地局は,自身とマルチホップ通信可能なノード
の位置を放送する.ノードは,担当する地点でセンシングを
行い,センシングを終えると,収集ネットワークのノードと
通信可能な地点に移動し,基地局に対してセンシングデータ
を送信する.なお,ノードは,自身の位置を常に把握できる
ものとする.
上記のような環境において,ノードの移動に要する消費電
力(移動コスト)を抑えながら,データ収集を効率的に行う
SR-N2 方式を提案する.SR-N2 方式では,ノードはセンシ
ング終了後,基地局が放送するノードの位置情報をもとに,
最も近い基地局とマルチホップ通信可能な位置に向かって移
動する.また,移動中も放送を監視し,随時目的地を変更す
る.なお,他ノードの移動による消費電力を削減するため,
各ノードは全ノードが収集ネットワークに参加するまで待機
し,その後,データの中継が終了しているノードからセンシ
ング地点に戻る.また,ノードは移動中に他ノードと通信可
能になる場合がある.そこで,以上で述べたノードの基本動
作に加え,移動中に次に示す動作を行うことで,さらに移動
に要する消費電力を削減する.
1. 通信可能になった他ノードの目的地情報をもとに,移
動距離が短くなるように目的地を変更する.
2. 目的地情報を通信可能なノード同士で共有し,他ノー
ドと新たに通信可能になった場合に他ノードがその情
報を利用できるようにする.
3. 通信可能なノード同士が接近しすぎないように,ノー
ド同士の距離を保って移動する.
また,本研究では,移動距離を削減することを最優先にし
て,収集ネットワークをあらかじめ静的に決定する MST 方
放送設備
基地局
移動ノード
移動
収集ネットワーク
無線通信範囲
図 1: 想定環境
表 1: 評価結果
移動コスト [J]
取得データ量 [Gbit]
SR 方式
9,598
26.4
SR-N2 方式
7,273
29.6
MST 方式
2,134
27.0
式を提案する.MST 方式では,データを基地局に収集する
際,各ノードが,あらかじめ移動距離が短くなるように決定
された位置に毎回移動して収集ネットワークを構築し,デー
タを転送することで,移動に要する消費電力を削減する.
3
性能評価
シミュレーション実験により提案方式の性能を評価した.
評価では,2,000m 四方の正方形の観測領域に 400 個のノー
ドを配置し,基地局を領域の角に配置した.ノードの無線
通信範囲は 50m,通信帯域は 2Mbps,移動速度は 1m/s と
し,ノードはランダムに割り当てられた 1 つの地点でセンシ
ングを行うものとした.1 回当たりのセンシングデータ量は
5Mbit とした.また,通信エラーは発生しないものとした.
移動コスト,取得データ量の評価結果を表 1 に示す.移動
コストは移動に要する消費電力,取得データ量は基地局が取
得したデータ量を表す.
SR-N2 方式では,ノードが連携して移動することで,SR
方式と比べて移動コストが減少している.また,移動時間の
減少によりセンシングの時間が増加し,取得データ量が増加
している.一方,MST 方式では,移動距離の削減に着目し
て収集ネットワークを決定するため,他の手法と比べて移動
コストが大幅に減少している.しかし,収集ネットワークの
ノードの位置が固定であるため,基地局に近いノードはデー
タ転送に多くの時間を要し,再びセンシング地点に向かうま
での時間が長くなる.そのため,取得データ量は SR-N2 方
式と比べて少ない.以上の結果から,今後はさらに移動コス
トを削減しつつ取得データ量を増加させる方法を検討する必
要がある.
4
おわりに
本研究では,移動型センサネットワークにおける消費電力
削減のためのプッシュ型放送を用いた移動制御方式を提案し
た.シミュレーション実験により,SR-N2 方式では SR 方式
と比べて移動コストを削減しつつ,取得データ量を増加させ
ること,MST 方式では大幅に移動コストを削減できること
を確認した.
今後の課題としては,移動コストを削減しつつ取得データ
量を増加させる手法の提案や,実環境を考慮した拡張などが
挙げられる.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
地理的オーバレイネットワーク上での時間重要度に基づいた位置依存コンテンツ検索
高橋 健太郎 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
近年,ユビキタス環境に対する注目が高まってきている.
多数の端末が情報を発信・検索する環境では,店舗の営業時
間やキャンペーン情報といった地域コンテンツの需要が考え
られる.位置と時間に依存するコンテンツを検索するサービ
スを P2P モデルで実現する上で,ピアの位置情報に基づい
た地理的オーバレイネットワークを構成すれば,検索対象の
領域にクエリを効率的に配送できる.しかし,位置情報のみ
を考慮すると領域内のピア全てにクエリが転送され,膨大な
トラフィックが生じる.
本研究では,地理的範囲と時間帯が指定されたコンテンツ
検索要求に対し,指定された時間帯で相対的に重要度が高い
コンテンツをできるだけ少ないトラフィックで取得できる位
置依存コンテンツ検索手法の実現を目的とする.
2
P2
P1
2.1 想定環境
想定コンテンツは,位置座標,および時間に依存する適合
度をもつ.ピアは保持するコンテンツの位置によって,ドロ
ネー図となる地理的オーバレイネットワークを構築する.検
索は位置と時間を範囲指定するクエリによって行われる.
2.2 リンクテーブルの構築
ピアはクエリに適合するピアが隣接しない場合のためにド
ロネー図で n ホップ先までのピアともリンクし,リンク先
ピアのコンテンツの位置情報および時間重要度をリンク先よ
り取得しリンクテーブルに保持する.クエリ転送時にはリン
クテーブルの情報から,リンク先ピアの適合度を計算する.
2.3 学習を用いる応答判断と経路選択
クエリを受信したピアが要求コンテンツ数に適した応答判
断を行うには,検索領域内で自身より高い適合度のピア数が
分かればよい.そこで,ピアは自身より高い適合度のピア数
の密度を時間帯ごとに学習する.また,ピアの分布が地理的
に偏る場合に対応するため,自身を中心として方向別に分け
た領域毎に密度を学習する.
学習に用いる情報は,各ピアが転送時にクエリに付加す
る.情報はクエリ経由ピアの適合度,位置座標,近隣の密度,
推定順位である.密度はクエリを転送したピアより高い適合
度となるピアの単位面積当たりの数であり,リンクテーブル
から求める.
クエリを受信したピアは,クエリに付加された情報から
学習を行う.ピアはそれまでの学習回数を保持し,受信した
各クエリから求まる密度の平均値が学習結果の密度となる.
応答の判断は,推定した順位と要求コンテンツ数を比較して
行う.順位の推定は検索領域の面積と学習した密度を積算し
て行う.図 1 では,ピア P が学習結果から順位を推定して
いる.
要求コンテンツ数に適した閾値より高い適合度となるピア
をクエリの転送先に選択すれば,必要なコンテンツの取得漏
れや不要なクエリ送信を抑制できる.そのために,各ピアが
P3
P4
がこの領域の
時~6時を指定して検索
P1
5
が学習した密度
領域
時間帯 北西 北東 南西 南東
0
0.1
0.5
5時~6時 0.1
0.1
0.1
0.3
6時~7時 0.1
検索地域の面積
1
2
5
10
P2の推定順位 = 0.1 + 0 + 0.5 + 5
要求レスポンス数が6以下なら応答せず
P3をスキップしてP4に転送
P2
図 1: 学習結果を用いた応答の判断例
メッセージ数
メッセージ数
レスポンス数
取得
コンテンツ数
1000
800
600
400
200
0
研究内容
本研究では,地理的オーバレイネットワークにおいて,位
置と時間依存の重要度に着目したリンクテーブルの構築と経
路選択の手法を提案する.
適合度0
適合度5
適合度10
N
重複なし 学習拡張方式
提案手法
フラッディング
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
取得率
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
適合度
図 2: 検索メッセージ数とコンテンツ取得率
クエリに自身の適合度と推定順位をクエリに付加し,クエリ
を送信するピアは付加された情報から閾値を決定する.閾値
は各ピアがクエリに付加する推定順位から,要求コンテンツ
数に最も近いものに対応する適合度を用いる.クエリは重複
受信を防ぐために,発行元ピアに近づくピアには転送せず,
閾値以上のピアが同じ方向に複数位置するときは最も近いピ
アだけに転送する.
3
シミュレーション結果
提案手法の性能をシミュレーション実験によって評価した.
ピア数を 1000 とし,検索範囲内に適合度1から 10 までのコ
ンテンツを 50 個ずつ分布させた.また,検索範囲内の西側
に高い適合度,東側に低い適合度のコンテンツを分布させ、
クエリの要求コンテンツ数を 200 とした.このような環境
で,西側の領域から発行されたクエリあたりの平均メッセー
ジ数と適合度別のコンテンツ取得率を図 2 に示す.
図 2 のグラフから,検索領域全体で適合度別のコンテンツ
が地理的に偏るときも,高い適合度のコンテンツを取得しつ
つトラフィックを削減できることを確認した.要求より少な
いコンテンツ数となったのは,距離を考慮せずに方向別に学
習結果を保持したことと高い適合度の領域の密度情報を多く
学習したことが原因である.また,東側の領域から発行され
たクエリは経路選択の閾値が低くなり,メッセージ数と低い
適合度のコンテンツ数が図 2 より増加する結果となった.ク
エリの発行元に依存しない結果を得るためには,経路選択の
ための学習も検討する必要がある.
4
おわりに
本研究では,地理的オーバレイネットワークにおいて,リ
ンクを追加して近隣の情報をもつことで,クエリによく適合
するピアを経由したクエリの転送を行う手法を提案した.さ
らに提案手法は領域内のピアの分布を学習することで,要求
コンテンツ数に適した応答判断と経路選択を行うことによ
り,検索領域全体から高い適合度のコンテンツを少ないトラ
フィックで取得できることを示した.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
ユビキタスセンサ環境における時系列解析を用いた自律分散型観測値予測システムの提案
田中 博和 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
常時接続環境やセンサ機器の普及など背景に,LiveE!に代
表される,インターネットを用いた環境観測システムが登場
しつつあり,今後の発展が期待される.発表者の研究グルー
プではこれらに対し多数の観測ノードを地理的オーバレイ
ネットワークにより結びつけた P2P 型広域観測ネットワー
クについて研究を進めている.本研究では,これらを含むユ
ビキタスセンサ環境下において有用なセンサアプリケーショ
ンとして時系列予測に着目し,センサデータの分散性及びス
トリーム性を考慮した諸手法を含む自律分散型の予測システ
ムを提案する.
2
研究内容
2.1 予測プロセス
本研究では予測モデルとして多変量自己回帰モデルを用い
る.このモデルによる予測手順は前処理/相関算出(データ
洗浄後,センサデータ間の相関値を算出),モデル推定(予
測に有用なデータを選択,その相関値から予測モデルを推
定),予測処理(推定したモデルとセンサデータより予測値
を得る)となる.
2.2 P2P 型広域観測ネットワーク上への適用
2.1 節の予測プロセスを P2P 上に適用するにあたり,セン
サデータの分散性と半永久的に更新が続くストリーム性を考
慮すると 2 点の問題が生じる.1 点はデータのストリーム性
による各種データの変化で,もう 1 点はデータ分散による
ピア間通信の発生である.一方,予測プロセスは一般に静的
データ/一括処理を前提としていることから,その局所処理
化・漸化処理化が必要となる.本研究では,以上を踏まえま
ず P2P 上にて予測プロセスを再構成したシステム概要を図
1 に示す.これら 3 層からなる予測システムはそれぞれ下層
より 2.1 でのセンサデータの取得/共有,前処理と相関算出,
モデル推定と予測処理に対応する.
2.3 オーバレイネットワーク層
オーバレイネットワーク層は,センサピアとして P2P 型
広域観測ネットワークを構成する.各ピアにはセンサ及びセ
ンサ DB の機能を持ち,上位層へ任意ピアのセンサデータ提
供,ピア探索,ピア間のメッセージ転送などのサービスを提
供する.
2.4 相関層
相関層は,下位層を利用し,任意 2 ピア間の相関クエリに
対して相関係数/共分散等を提供する.本研究では,ピアソ
ン積率相関式及びその FFT 利用式とそれぞれの漸化式の 4
種の相関算出式を基に,処理手順として標準法/FFT 法/漸
化法/フーリエ漸化法の 4 手法を定義,高レスポンスと更新
処理コストのトレードオフを解決するためその内の 3 手法
(FFT 法/漸化法/フーリエ漸化法)を ‘相関要求の局所性’ と
‘一括処理・累積更新処理のコスト分岐点’ に基づき切り替え
る方式を提案する.
2.5 予測層
予測層は,相関層からの相関値を基に予測に有効なデータ
を持つピアの選択及びモデル構築を行う.この予測層間のピ
ア選択機構として,本研究では偏相関と位置に基づくインク
図 1: 提案予測システムの構成概要
図 2: ピア選択手順
図 3: ピア選択結果
リメンタルなピア選択手法を提案する.提案は膨大な組み合
わせの中より素早く的確なピアを選択するためにモデル理想
条件の指標として候補と主ピア間の偏相関及びピア間の距離
(近傍ピアは予測に有望)という基準を用いた.
3
評価:ピア選択アルゴリズム
また,予測層でのピア選択手順を近畿圏の気温データにて
最大予測ピア数が 2∼7 ピアの場合で評価した(図 3).主
ピアの観測地点を神戸とし,手順に従い ‘ピア選択’ と ‘選択
ピア群からの予測’ を繰り返している.縦軸は予測値(10 日
間:960 ステップ)と実値との予測誤差二乗平均値 (RMSE),
横軸は選択回数である.提案手法と最適解の差が減少/収束
していくことが分かる.
4
おわりに
本研究では,P2P 型広域センサネットワーク上に時系列
解析による予測プロセスを適用し,自律分散的な予測システ
ムの提案を行った.また,相関計算/ピア選択について,相
関算出の切り替え手法及び,偏相関と位置に基づいたピア選
択手法を提案し,後者については実データに対する有効性を
示した.今後の課題としては,異なる時系列アプリケーショ
ン及びモデルへの展開などが挙げられる.
平成 21 年 2 月 13 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
P2P ネットワークにおける複製分布の改善のための複製再配置方式
趙 勇 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
ピアID
置換え候補
カウンタ
近年注目を集めている P2P ネットワークサービスでは,検
索効率や耐障害性の向上のために,複数のピアにデータの複
製を配置することが有効であり,効果的に複製配置を行う研
究が盛んに行われている.この中で,配置する複製数に関す
る議論が行われており,ネットワーク全体に配置する各デー
タの複製数の比を,各データに対するアクセス頻度の平方根
の比と等しくする “平方根配置モデル” によって,最良の検
索効率を得られることが証明されている.
この平方根配置モデルを実現するため,発表者の研究グ
ループではこれまでに,クエリ統計情報を利用した自律分散
複製配置方式([趙 07]方式)を提案している.この方式で
は,データ発見時に,クエリが伝播したパス(検索パス)上
のピアが,データのアクセス頻度に応じた複製配置確率に基
づき,自身のキャッシュ領域に複製を配置することで,平方
根配置モデルに近い複製配置を実現する.しかし,この方式
は,アクセス頻度が高いデータ(人気データ)の複製が過剰
に配置される傾向にあり,検索メッセージ数を十分に削減で
きていない.そこで本研究では,検索メッセージのさらなる
削減を目的とし,人気データの過剰な配置を抑制する方式を
提案する.
2
研究内容
提案方式では,データ発見時に,検索パス上のピアが保持
する複製のうち,パス上に多く配置されているものを優先的
に削除し,新たな複製を配置することで,人気データの複製
が過剰に配置されることを防ぐ.以下では,提案方式におけ
るデータ検索および複製の再配置について詳述する.
2.1 クエリの伝播
データ検索を開始するピアは,自身の識別子および自身
のキャッシュ領域内で置換え候補となる複製(置換え候補)
の識別子を付与したクエリをネットワーク内にフラッディン
グする.このクエリを受信したピアは,クエリ発行ピアと同
様,自身および置換え候補の識別子を追加し,クエリを転送
する.これにより,データ保持ピアにクエリが到達した時点
で,検索パス上に存在する置換え候補に関する情報が生成さ
れる.
2.2 保持メッセージの返送
検索対象となるデータを保持するピアは,受信したクエリ
に付与された置換え候補それぞれに対してカウンタを設置
し,この情報を付与したメッセージ(保持メッセージ)を,
検索パスに対して逆向きに返送する.保持メッセージを受信
したピアは,置換え候補が自身のキャッシュ領域に存在する
場合,対応するカウンタを 1 増加させる.また,
[趙 07]方
式と同様の判定基準を用いて,検索データの複製を配置する
かどうか判定し,判定結果を保持メッセージに付与する.こ
の動作を検索パス上の全ピアが行うことにより,クエリ発行
ピアは,検索パス上に存在する置換え候補の複製数,および
検索対象データの複製を配置すると判定したピア数を把握
する.
2.3 複製配置先の決定
クエリ発行ピアは,保持メッセージ内の置換え候補のうち
置換えの対象となるものを,カウンタの大きいものから順
複製数が最も多いデータ D を
置換え対象に選択
A B C D
D2 D3 D1 D4
2 1 3 1
1
D1 D2 D10
C
D3 D5 D1
B
D2 D7 D9
A
D37
D
D4 D10 D1
置換え候補
D34 D4 D5 H
G キャッシュ領域
(FIFO)
クエリ発行ピア
F
ED
37
データ保持ピア
図 1: 置換え候補の選択
平方根配置モデル
[趙07]方式
[趙07]方式
提案方式
提案手法
平方根配置モデル
平方根配置モデル
提案方式
複
製
数 0.003
の
割
合
[趙07]方式
高
0.0003
1
人気度(アクセス頻度)
10
100
データ識別子
図 2: 複製数の割合
低
1000
0
2
4
検索メッセージ数 (×106)
6
図 3: 検索メッセージ数
に,複製配置を決定したピア数だけ選択する.その後,置換
え対象を保持するピアに複製の再配置を依頼する.依頼を受
けたピアは,データ保持ピアからデータの複製を取得し,自
身のキャッシュ領域に配置する.
以上の動作例を図 1 に示す.図において,データ D37 に
対するクエリを送信したピア A は,ピア E から返送され
た保持メッセージに含まれる情報から,検索パス上のピア
A, B, C, D の置換え候補と,検索パス上に配置されている各
候補の複製数を把握する.ここで,検索パス上のピアのうち
一つが複製配置を決定した場合,ピア A は,検索パス上に
複製が最も多く存在するデータ D1 を選択し,このデータを
置換え候補としているピア C に,検索対象データ D37 の複
製を配置させる.
3
性能評価
提案手法の性能を評価するため,シミュレーション実験を
行い,平方根配置モデルおよび[趙 07]方式との性能を比
較した.シミュレーション実験では,ピア数 1,000,総リン
ク数 3,000 の環境に 500 個のデータを配置し,データのアク
セス頻度が Zipf 分布に従うものとした.結果を図 2 および
図 3 に示す.結果より,提案方式によって人気データの複製
が過剰に配置されることを防ぎ,より平方根配置モデルに近
い複製配置が実現できることがわかる.また,検索にかかる
メッセージ数が[趙 07]方式より少なく,検索効率が向上
していることがわかる.
4
おわりに
本研究では,P2P ネットワークにおける複製分布の改善
のための複製再配置方式を提案した.今後は,データサイズ
を考慮した複製配置方式について検討する予定である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
タンジブルユーザインタフェース構築のためのユーザプロファイル学習手法
松井 香純 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
近年,コンピュータ上のアプリケーションはますます高度
化し,操作は複雑になっている.そこで最近では,実体をも
つデバイスに手で触れてアプリケーションを操作するタンジ
ブルユーザインタフェース (TUI: Tangible User Interface)
の研究が盛んに行われている.TUI を用いることで直観的
な操作が可能で初心者にもわかりやすいインタフェースが
実現できるが,従来の TUI である Phidget や VoodooIO な
どではデバイスとアプリケーションの機能の対応付けが面
倒であった.発表者の研究グループでは,そのようなアプリ
ケーション機能の自動割当を行うアルゴリズムを提案した
が,ユーザの嗜好情報をあらかじめ手動で用意する必要が
あり,また嗜好情報がそれぞれのアプリケーションごとに存
在していたため,新たなアプリケーションへ適用できないと
いう問題点があった.本研究ではこれらの問題を解決するた
め,ユーザの煩雑な操作なしにユーザの嗜好情報を容易に作
成・更新するシステムを実現する.
2
研究内容
本研究の想定環境を図 1 に示す.ユーザはデバイスを自由
に配置できるボードをパソコンに接続し,好みに合わせてデ
バイスをボード上に配置し,配置したデバイスを手で触れて
操作することでパソコン内のアプリケーションを操作する.
2.1 予備実験
ユーザの嗜好プロファイル構築アルゴリズムを提案するに
あたり,ユーザのデバイス配置の嗜好を抽出するために予備
実験を行った.予備実験では 9 人の被験者に対し,複数のア
プリケーションを提示し機能を割り当てたいデバイスを自由
に配置してもらった.予備実験の結果から,機能に対するデ
バイスの適性,機能間の位置関係,機能間の関連性,の 3 つ
が重要であり,また,ユーザの嗜好はアプリケーション固有
のものと,アプリケーションによらず汎用的なものとに分け
られることがわかった.さらに,すべての被験者の評価結果
より,図 2 に示すような,汎用的な 6 要素によって被験者の
傾向が表現できることがわかった.
2.2 割当学習アルゴリズムの処理手順
予備実験の結果にもとづき,提案システムは各ユーザに対
し図 2 に示す共通嗜好と,機能へのデバイスの適性,機能
間の位置関係,機能間の関連性などの詳細で具体的なアプリ
ケーション固有の嗜好情報とを分けて保持する.この 2 種類
の嗜好情報は独立しているため,各アプリケーション固有の
嗜好情報が更新された場合に,共通嗜好への反映が必要とな
る.この割当学習アルゴリズムでは,アプリケーション固有
の嗜好情報の作成・訂正と,アプリケーション固有の嗜好情
報からの共通嗜好情報の作成・更新を行う.これらについて
以下に述べる.
提案システムではまず,ユーザが操作したいアプリケー
ションに対して自由に TUI デバイスを配置し,それらのデ
バイスの配置から,システムはユーザの嗜好情報を考慮し,
自動的に機能を関連付ける.この時,ユーザは自動関連付け
された機能が意図と異なる場合に間違い訂正モードを選択
し割当の違うデバイスを報告できる.その際,システムは通
知された割当をもとに,アプリケーション固有の嗜好のパラ
図 1: 提案システムの利用例
✓
✏
1. ウィンドウ上の GUI 配置への近似度
2. 意味のある順番の順守度
3. 関連性の高い機能の隣接配置度
4. 関連性の高い機能に同形状のデバイスを割り当てる度合
5. アプリケーションに関わらず同じ意味の機能には同形状のデ
バイスを割り当てる度合
✒
6. 向きがあるデバイスのウィンドウ上の変化方向との一致度
✑
図 2: 共通嗜好
メータを調整する.また,システムを新規に利用する場合な
ど,全くプロファイルのない状況では間違い訂正モードによ
るプロファイル構築に時間がかかるため,プロファイル作成
モードを用意した.プロファイル作成モードでは,サンプル
アプリケーションをユーザに提示し,ユーザが想定する機能
割当を入力してもらうことで,提示したアプリケーション固
有の嗜好情報を自動構築する.
次に,作成したアプリケーション固有の嗜好から汎用的な
嗜好を抽出するために,アプリケーション固有の嗜好情報を
もとに,以下の式を用いて共通嗜好情報を更新する.
Sic =
Sic +
Pis
− Pt
Pia
×
(1 − P t )
9
×
1
2
(1)
Sic は i 番目の共通嗜好スコア,Sic は更新前の i 番目の共
通嗜好スコア,Pia は i 番目の共通嗜好に関係するアプリケー
ション固有の嗜好情報数,Pis はその中でその共通嗜好を支
持する嗜好数,P t は支持率の閾値を表している.この処理
によって汎用的な嗜好を共通嗜好として,詳細な嗜好をアプ
リケーション固有の嗜好情報として保持する.
2.3 実装と評価
提案システムのプロトタイプとして,Pin&Play の 4 種類
のデバイスに対応したシステムを実装した.評価実験として
提案アルゴリズムを用いてプロファイルを構築し,そのプロ
ファイルを用いてユーザの意図どおりに割り当てられた機能
の割合で評価した結果,80%以上の精度を確認した. 3
おわりに
本研究では,TUI を用いて PC 上のアプリケーションを操
作するシステムにおける,ユーザの嗜好情報を自動構築・更
新する手法を提案した.提案システムを用いることで,自動
割当に必要な汎用的な嗜好情報を簡単に構築・学習できる.
今後の課題として,割当学習の詳細な評価や,Pin&Play 以
外の他の TUI デバイスへ提案手法を適用し,初心者や子供
などを対象とした運用評価を行う予定である.
平成 21 年 2 月 13 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
P2P ネットワークにおけるユーザの嗜好の推測に基づくコンテンツ検索方法
宮崎 知美 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
2
ソフトウェア
ユーザ
2.3 ユーザの嗜好の推測
返信されたコンテンツを受け取ったピアは,そのいずれか
にユーザがアクセスした場合,自身のキーワードグラフを更
新する.具体的には,ユーザに選択されたコンテンツに付与
P2P
1.0
P2P
動画配信 ソフトウェア ソフトウェア
ソフトウェア
動画配信
キーワードグラフ
P2P
0.8
クエリ
P2P
search
1.0
P2P
ソフトウェア
動画配信
1.0
ソフト
ウェア
0.8
図 2: クエリの発行
返送コンテンツ数
キーワード検索
Precision
Recall
1
1
0.8
0.8
0.6
0.6
0.4
0.4
100
0.2
0.2
0
0
600
500
400
300
提案手法では,ユーザがアクセスしたコンテンツに付与さ
れているキーワードを用いて,ユーザの嗜好を推測する.ま
た,推測したユーザの嗜好に関する情報を検索時にクエリに
含めることで,不要なコンテンツの返信を抑制する.
2.2 コンテンツの検索
ユーザが検索用のキーワード (メインキーワード) を入力
した際に,そのピアがメインキーワードをキーワードグラ
フ内に所持しており,かつ,十分にユーザの嗜好を学習して
いる場合,自身のキーワードグラフにおいて,メインキー
ワードから 1 ホップ以内のグラフを含めたクエリを生成し,
ネットワーク内にフラッディングする.たとえば図 2 では,
ピアは自身のキーワードグラフにおいてメインキーワード
“P2P” に隣接するキーワード “ソフトウェア” をクエリに含
め送信している.
クエリを受け取ったピアは,クエリ内のキーワードグラフ
と自身の所持するコンテンツの類似度を計算し,類似度が一
定値以上のコンテンツのみクエリ発行元ピアに返信する.
ピア
P2P
図 1: 想定環境
研究内容
2.1 想定環境
ユーザは,関連するキーワードが,関連の強さを表す重み
をもつ枝で連結されたグラフ形式で,自身の嗜好を所持し
ているものとする.また,各コンテンツには,それぞれ特徴
を示すキーワードが複数付与されているものとする.ピア
は,ユーザがアクセスしたコンテンツのキーワードを抽出
し,連結させることで,ユーザの嗜好を推測する重み付き
のグラフ (キーワードグラフ) を作成する.例えば,図 1 に
おいて,ユーザが “P2P”,“ソフトウェア”,“動画配信” と
いったキーワードが付与されたコンテンツにアクセスした場
合,ピアは,これらを連結させることでキーワードグラフを
作成する.
キーワードグラフ
ユーザがアクセスしたコンテンツ
近年,計算機の高性能化とネットワークインフラの発達に
より,P2P ネットワークに注目が集まっている.P2P ネッ
トワークでは,各ノード(ピア)が互いにサービスを提供す
るため,さまざなコンテンツをもつ大規模数のピアから,所
望のデータをもつピアを発見することが困難である.そのた
め,P2P ネットワークにおける効果的なコンテンツ検索の
確立が,重要な研究課題となる.最も単純な検索方法として
は,キーワード検索が挙げられる.キーワード検索では,ク
エリを受け取ったピアが,クエリに含まれるキーワードを含
む全てのコンテンツを返信する.そのため,一つのキーワー
ドが異なる意図で用いられる場合,検索結果としてユーザの
嗜好にそぐわないコンテンツが返信され,無駄なトラフィッ
クが発生する場合がある.そこで本研究では,P2P ネット
ワークにおいて,不要なコンテンツの返信によるトラフィッ
クの発生を防ぐために,ユーザの嗜好の推測に基づくコンテ
ンツ検索方法を提案する.
提案手法
200
1
101 201 301
タイムスロット
0
1
101 201 301
タイムスロット
1
101
201
301
タイムスロット
図 3: 評価結果
されたキーワードから作成が可能な枝およびその枝の発見回
数を自身のキーワードグラフに記録する.このとき,発見回
数が規定数より多い枝についてはユーザの嗜好の一部とみな
し,関連度を発見回数の比で与える.
3
性能評価
提案手法の性能を評価するために,シミュレーション実
験を行った.実験では,ピア数を 500,ユーザの嗜好やコン
テンツの特徴を表すキーワード数を 100,コンテンツ数を
6,500 とし,各コンテンツに対して 3 つのキーワードを与え
た.このような環境の下で,単純なキーワード検索を比較対
象とし,各クエリに対して返信されたコンテンツ数,返信さ
れたコンテンツのうちユーザの嗜好に合致するものの割合
(precision),およびネットワークに存在するユーザの嗜好に
合致するコンテンツのうち検索時に返信されたものの割合
(recall) を調査した.
結果を図 3 に示す.この結果から,提案手法では,返信さ
れるコンテンツ数を削減しながら,高い precision が得られ
ていることがわかる.よって,ユーザの嗜好を考慮すること
により,ユーザにとって不要なコンテンツの受信を大幅に抑
制できることを確認した.その一方で,提案手法における
recall が若干低下しているが,必要なコンテンツの 9 割以上
を獲得できている.
4
おわりに
本研究では,ユーザの嗜好を推測に基づくコンテンツ検索
方法を提案した.今後は,ユーザの嗜好の推測時に生じる誤
差を低減させる方法について検討する予定である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
2 重符号化を用いた電子透かし抽出誤り訂正検出法の性能評価
奥田 悠介 (セキュリティ工学講座)
1
近年, インターネットの普及とともに, 様々なディジタル
コンテンツが流通している. 流通するディジタルコンテンツ
の不正コピーや不正利用の抑止のために, 電子透かし技術が
注目されている. 電子透かし技術とは, 人間が知覚できない
ように, ディジタルコンテンツに情報を埋め込む技術である.
電子透かしとして埋め込まれた情報は流通過程における圧縮
などのメディア処理及び不正者による意図的なメディア処理
を受けるため, 抽出において誤りが生じやすい. 流通過程に
おける代表的なメディア処理である圧縮は, ファイルサイズ
を小さくする利点があるが, 画像が劣化することで電子透か
しに誤りが発生することがある. その対策として誤り訂正符号を用いることが考えられる
が, 画像の質を維持するために多くの情報を埋め込むことが
できないため, 冗長ビットを多くとることができない. この
ため, 誤りビット数が訂正限界を超え, 限界距離復号法では
正しく復号できないことが多い. そこで報告者の属する研究
グループでは, 訂正限界を超えても正しく復号できる場合を
増やし, 復号誤りを減少させるために, 2 重符号化を用いた
電子透かし抽出誤り訂正検出法の研究がなされている.
また透かし情報を埋め込む方法も様々なものがあり, 画像
への埋め込みの代表的なものとして, 輝度値に埋め込むパッ
チワーク法や周波数成分に埋め込む離散ウェーブレット変換
による埋め込み法が挙げられる.
本論文では, これら二つの埋め込み法を用いたときの, 2 重
符号化を用いた電子透かし抽出誤り訂正検出法の性能評価を
行う. メディア処理として MPEG 圧縮を採用し, シミュレー
ションにより二つの埋め込み法を用いた場合の共通点や差異
を示す.
2
2 重符号化を用いた誤り制御
符号化段階において 2 重符号化を用いる. 復号では, 内側
の符号に対して OSD 復号法を適用し, その復号結果が外側
の符号語でないとき, 復号失敗とする. 外符号の長さを変え
ることによって, 誤り訂正能力を変化させることができる.
OSD 復号法
OSD 復号法は受信ビットの信頼度に基づき, 信頼度の高
いビットを情報ビットとみなす. 情報ビットの中から任意に
l(通常 l = 2, 3) ビットを選び, 0 と 1 を任意に割り当て, 再符
号化することによって候補の符号語の集合を生成する. 候補
の符号語のうち最も尤度の高い符号語を復号結果として出力
する. OSD 復号法は訂正限界の 2 倍までの誤りを訂正でき
ることが知られている.
3
1
はじめに
性能評価
パッチワーク法と離散ウェーブレット変換を用いた埋め込
みの性能を評価するために, 外符号として情報ビット数が 64,
符号長が 71, 78, 85 の短縮 BCH 符号, 内符号として符号長
127 の BCH 符号を用いてシミュレーションを行った. 動画
像の 1 フレームに対して, ランダムに生成された符号語を輝
度値, または周波数成分に 4 ビットずつ埋め込み, MPEG 圧
縮解凍を行った後, 透かし情報を抽出する. それぞれの埋め
込み法に対して, 誤りビット数が訂正限界を超えた場合の正
しく抽出する確率を図 1, 2 に示す.
"127, 71, 19BCH"
"127, 78, 15BCH"
"127, 85, 13BCH"
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
10
12
14
16
18
20
22
20
22
図 1: 輝度値の正復号確率
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
"127, 71, 19BCH"
"127, 78, 15BCH"
"127, 85, 13BCH"
0.1
0
10
12
14
16
18
図 2: 周波数成分の正復号確率
それぞれ横軸が誤りビット数, 縦軸が正しく抽出する確率
を表している. 2 つの埋め込み法に共通して, 外符号長が長
くなるにつれ正しく抽出する確率は減少している. しかし,
2 つの結果を比べると, 正しく抽出する確率が輝度値に埋め
込む場合よりも, 周波数成分に埋め込んだ場合のほうが大き
い. これは, 2 つの誤り特性について調べてみると, 輝度値
に埋め込んだ場合は信頼度が高くても誤りが発生することが
多いのに対し, 周波数成分に埋め込んだ場合信頼度が高いも
のに誤りがほぼ発生しないことがわかった. OSD 復号法で
は, 信頼度の高いビットを情報ビットとみなし再符号化する
ことで候補の符号語の集合を得ているために, 信頼度の高い
ビットに誤りが少ないほど正しい透かし情報を抽出する確率
が大きくなる. よって, 周波数成分に埋め込んだ場合のほう
がより OSD 復号法の特性を生かすことができていると考え
られる. 誤って抽出する確率については, 外符号長 71 の場合
はほぼ理論値通りの 2−7 となったが, 78, 85 については理論
値はそれぞれ 2−14 , 2−21 となるが, シミュレーション回数が
足りないため正確な値が出ていない.
4
まとめ
2 重符号化を用いた電子透かし抽出誤り訂正検出法の性能
評価を行った. 輝度値, 周波数成分どちらに埋め込んだ場合
でも十分な性能を持っているが, 周波数成分に埋め込んだほ
うがより OSD 復号法の特性を生かすことができ, 実用性が
あるといえる.
今後の課題として, 周波数成分に埋め込んだ場合のシミュ
レーション回数を増やし, 誤って抽出する確率の再検討が必
要である.
平成 21 年 2 月 13 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
輝度値および DWT 係数に対する加法電子透かし法とパッチワーク法の性能比較
北村 至 (セキュリティ工学講座)
1
はじめに
ディジタルコンテンツの著作権保護などを目的として電子
透かし法が研究されている.電子透かし法は,ディジタルコ
ンテンツに対して付加的な情報を埋め込み,後にその情報を
取り出すための技術である.なお,本研究では,埋め込みと
して加法埋め込みを,取り出しとしてブラインド型の検出と
抽出の両方を対象とする.電子透かし法が満たすべき重要な
要求の一つとして,情報を検出・抽出する際の誤り確率を小
さくすることが挙げられる.これまでに,誤り確率を最小と
する最適な検出法・抽出法が提案されている.
最適な検出法・抽出法の性能を比較することは,より誤り
確率の小さい電子透かし法を明らかにするために重要であ
る.従来研究では,埋め込み領域が異なる場合について比較
がされている.しかし,埋め込み領域が同じで加法埋め込み
の詳細が異なる場合については比較されていない.
4
最適な検出法・抽出法の性能比較
性能比較において,最適な検出法と最適な抽出法で同様の
結果が得られたため,ここでは最適な抽出法の比較結果を示
す.まず,抽出誤り確率の理論値を標準画像の Lenna に対し
て計算して比較した結果を示す.埋め込み領域が DWT 係数
の場合(図 1)については,加法電子透かし法の抽出誤り確
率がパッチワーク法よりも小さいことが確認できる.一方,
1e-20
0.1
1e-30
0.3
0.5
1e-35
200
400
600
800
1000 1200 1400 1600 1800 2000
図 1: 抽出誤り確率の理論値(DWT 係数)
1
透かし強度:{2~4}
0.01
透かし強度:{3~7}
1e-04
1e-06
透かし強度:{3~11}
1e-08
1e-10
1e-12
200
400
600
800
1000 1200 1400 1600 1800 2000
透かしの埋込位置の数
図 2: 抽出誤り確率の理論値(輝度値)
1
0.01
抽出誤り確率
本論文で対象とする,加法電子透かし法とパッチワーク法
の相違点について述べる.加法埋め込み法では,埋め込み領
域から選択した埋め込み位置の値に,生成した透かし信号を
足しこむことで透かしを埋め込む.加法電子透かし法とパッ
チワーク法の主な相違点は,埋め込み法において,埋め込み
位置の選択と透かし信号の生成のどちらをランダムに行うか
という点である.加法埋め込み法の前提が異なるため,加法
電子透かし法とパッチワーク法の最適な検出法・抽出法は異
なるものとなる.
1e-15
抽出誤り確率
比較対象とする電子透かし法
1e-10
1e-25
本研究の内容
本研究では,埋め込み領域が同じで加法埋め込みの詳細が
異なる場合について,代表的な電子透かし法である加法電
子透かし法とパッチワーク法を比較することを目的としてい
る.これら二つの電子透かし法は様々な電子透かし法に応用
されているため,比較を行うことは重要である.埋め込み領
域には画素空間と周波数空間があるが,それぞれにおいて代
表的な輝度値と DWT 係数を対象とする.
まず,従来研究と同様に,誤り確率の理論値を導出し,実
画像に対して計算して比較した.導出の際,加法埋め込み法
について,輝度値の場合に最適とされていた検出法・抽出法
が最適ではないことが分かったため,最適な検出法・抽出法
を導出し直した.パッチワーク法については,埋め込み領域
が DWT 係数の場合の最適な検出法・抽出法が導出されてい
なかったため導出した.また,実画像に対して計算した誤り
確率の理論値が実測値に近いことを確認した.比較の結果,
いずれの埋め込み領域においても,加法電子透かし法の誤り
確率がパッチワーク法以下となることを確認した.更に,埋
め込み領域が輝度値の場合については,式の上での理論的な
証明も与えた.
3
抽出誤り確率
2
1
1e-05
1e-04
DWT係数
1e-06
1e-08
輝度値
1e-10
1e-12
1e-14
0.001
:パッチワーク法
:加法電子透かし法
0.01
0.1
1
透かし強度の二乗平均に対する分散
図 3: 透かし強度に対する抽出誤り確率の理論値
埋め込み領域が輝度値の場合(図 2)については誤り確率に
は差はないように思える.そこで,式の上での理論的な比較
を行った.この比較によって,まず埋め込み領域が輝度値の
場合,加法電子透かし法の抽出誤り確率がパッチワーク法以
下となることが証明できた.更に,埋め込み位置の数が同じ
場合に抽出誤り確率の差が開くのは,埋め込みによる変更量
(透かし強度)の二乗平均に対して分散が大きい場合である
ことも証明できた(図 3).なお,埋め込み領域が DWT 係
数の場合についても,同様の傾向が確認できた.
5
おわりに
本研究では,加法埋め込みを行う電子透かし法である,加
法電子透かし法とパッチワーク法を,埋め込み領域が輝度値
の場合と DWT 係数の場合において比較した.その結果,埋
め込み領域がいずれの場合についても,加法電子透かし法の
誤り確率がパッチワーク法以下となることを確認した.
今後の課題としては,他の埋め込み法において比較を行う
ことや,音声などの他のメディアについての比較を行うこと
が挙げられる.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
XML データベースへの関数従属性を用いた推論攻撃に対する安全性の定式化と検証法に関する研究
阪野 公秀 (セキュリティ工学講座)
1
背景と研究目的
機密情報の安全性を守ることは組織にとって重要な課題で
ある. 組織のデータベースにおいて, 機密情報への直接のア
クセスを禁止していたとしても, ユーザがアクセスを許可さ
れている情報 (実行を許可された問合せとその実行結果), そ
してデータベースに関する知識等から, その機密情報を推論
できる場合がある. 本来アクセス権限の無いユーザがこのよ
うに機密情報の推論を行うことを推論攻撃と呼ぶ. 推論攻撃
により, どのような情報が得られるかは一般に自明ではない.
そのため, 機密情報の安全性を守る上で, 推論攻撃による情
報漏洩の可能性の把握が重要である.
発表者の属する研究チームでは, 攻撃者が利用可能な情報
として, データベースのスキーマや, ユーザに許可されている
問合せとその実行結果, そして機密情報を求める問合せを考
え, それらを用いた推論攻撃に対する安全性の定式化を行っ
ている. しかし実際には, これら以外の情報として, 格納さ
れているデータに関する一般知識等も推論に利用される可能
性がある.
例として, 患者の氏名, 病室, 病名, 担当医を格納している
データベースを考える. このデータベースに対する問合せと
して (i)「全患者の氏名・病室の一覧」, (ii)「担当医が佐藤の
患者の病名・病室」, (iii)「名前が阪野の患者の病名」を考
える. このうち, (iii) は機密情報を求める問合せとして実行
を禁止されているとする. また, 問合せ結果において, デー
タベースにおける患者の順序が保存されているものとする.
これらの情報からは, 機密情報を得ることはできない. しか
し, 「同じ病室の患者は同じ病気を患っている」ということ
を攻撃者が知っていたとすると, 図 1 のように, 病室の値に
よる患者の対応付けと, 病室の値に対して病名が一意に決ま
るということから, 阪野という患者の病名が癌であるという
機密情報が推論できる.
このような推論攻撃に対して, 既存の安全性定義では対応
できていない. そこで本研究では, 一般的な知識として関数
従属性を対象とし, XML データベースへの関数従属性を用
いた推論攻撃に対する安全性の定式化と, その検証を行う手
法の提案を行う.
2
関数従属性を用いた推論攻撃に対する
安全性の定式化
本研究では, 推論によって機密情報の値の候補が絞り込ま
れないことを安全と考える. そして, 無限安全性と k 安全
性の 2 つの安全性を定義する. 攻撃者が利用可能な情報と
して, 元のデータベース D のスキーマ A, ユーザに許可さ
れている問合せ T1 , . . . , Tn とそれらの D に対する実行結果
T1 (D), . . . , Tn (D), 機密情報を指定する問合せ TS , D が満た
す関数従属性の集合 F を考える.
このとき, 機密情報の値の候補集合 C は次の式で与えら
れる.
C = {TS (D′ ) | D′ ∈ T L(A) ∩ T L(F ),
T1 (D) = T1 (D′ ), . . . , Tn (D) = Tn (D′ )}.
C が無限集合ならば, データベースは無限安全であるという.
また, C の要素数が与えられた k 以上ならば, データベース
(i)全患者の氏名-病室の一覧
(ii)担当医が佐藤の患者の病室-病名
氏名-病室一覧
D
患者
患者
佐藤医師担当の患者
患者
患者
患者
氏名 病室 氏名 病室 氏名 病室 病室 病名 担当医 病室 病名 担当医
阪野 101 廣田 102 橋本 101
102 肺炎 佐藤
101 癌
佐藤
機密情報:阪野という患者の病名
特定される機密情報
病院
氏名-病名
患者
患者
氏名
病室 病名 担当医
・・・
氏名 病名
string string string string
D のスキーマ
阪野 癌
図 1: XML データベースへの推論攻撃の例
は k 安全であるという.
3
提案する安全性検証法の手順
安全性検証法は以下の 3 ステップから構成される.
1. 各問合せとその実行結果, そしてスキーマから, 元の
データベース中の文書候補を受理する木オートマトン
を求める.
2. 1. で求めた木オートマトンと, 機密情報を求める問合
せ, そしてデータベースが満たす関数従属性から, 機密
情報の値の候補数が無限であるかを調べる.
3. 2. の結果, 機密情報の値の候補数が有限であることが
わかれば, 候補を逐次数え上げ, k 個以上かどうかを調
べる.
ステップ 2 において, 既存の検証法では, ステップ 1 で求
められた木オートマトンと, 機密情報を求める問合せから,
機密情報の値の候補を受理する木オートマトンを構成し, そ
の木オートマトンを用いて安全性の検証を行っている. しか
し, 関数従属性を考慮に入れた場合, 既存の検証法と同じ方
針では, 安全性の検証を行うことができない. これは, 関数
従属性を満たす候補集合を, 一般に木オートマトンで表現す
ることが出来ないためである. そこで, 本検証法では, 機密
情報の候補集合を陽に求めることなく, 無限安全性を判定す
る. 具体的には, 関数従属性を満たす候補集合の, 木オート
マトンで表現できるような各部分集合に対して, 機密情報問
合せの実行結果が無限であるかどうかを検証する.
4
今後の課題
検証法ステップ 3 において, 候補を逐次数え上げる方法は
非効率的である. 検証法効率化のためには, 機密情報の値の
候補数を数え上げずに計算する手法について検討する必要が
ある. また, 今回, 一般的な知識として関数従属性を対象と
したが, その他にも今の形式では表すことができない知識が
ある. そのような知識を, 推論に利用可能な情報として追加
することを検討するとともに, 今後, 攻撃者が用いる一般知
識の範囲をどこまでとするのかを議論する必要がある.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
ランダム線形ネットワーク符号化におけるリード・ソロモン型符号の距離構造
富永 昌文 (セキュリティ工学講座)
1
はじめに
近年,インターネットの利用者は増え続け,ネットワーク
を介するデータ通信量も増加しており,通信のさらなる高速
化や高信頼化が望まれている.中でも音声や動画などのデー
タを同時に複数の相手に配信するマルチキャスト通信に対す
る要求が高まっている.送信ノードから受信ノードへの経路
上にあるネットワークの中間ノードで符号化を行うことで,
より効率的なマルチキャスト通信を可能とする手法にネット
ワーク符号化がある.ネットワーク符号化の中でも,中間
ノードでの符号化処理を上流ノードから受け取ったデータの
ランダム線形結合とする手法にランダム線形ネットワーク符
号化がある.このランダム線形ネットワーク符号化をモデル
化した通信路に対する誤り訂正符号として,線形符号の誤り
訂正の能力の限界であるシングルトン境界を漸近的に達成
するリード・ソロモン型符号の存在とその構成法が知られて
いる.
本研究では,ランダム線形ネットワーク符号化における
リード・ソロモン型符号について,符号語の距離構造に着目
することで符号の性能を評価する.また,この符号の構成法
と符号語の距離構造の関係についての考察を行う.
2
ネットワーク符号化
従来のマルチキャスト通信に IP マルチキャストと呼ばれ
る手法がある.IP マルチキャストでは中間ノードのふるま
いが,受信したデータを複製し,次のノードへと転送するこ
とのみに制限されている.図 1 は IP マルチキャストとネッ
トワーク符号化で,複数の受信ノードに対する情報の潜在的
な送信能力の比較を表している.図 1 (a) はバタフライネッ
トワークと呼ばれるネットワークの接続形態と各リンク容量
を示している.図 1 (b) は IP マルチキャストの例を示して
いる.送信ノード s がパケット a をマルチキャストし,受信
ノード r1 , r2 は a を受信する.ここで中間ノード n1 , n2 は
パケットを複製し,転送を行うのみである.いま図 1 (b) で
実現された伝送レートは 1 である.図 1 (c) はネットワーク
符号化の例を示している.中間ノード n3 は上流ノードから
受信した a, b の排他的論理和 a + b を生成し,次のノードへ
と送信する.受信ノード r1 は受信した a, a + b から b を復
号し,a, b を入手する.受信ノード r2 も同様に a, b を入手
する.受信ノード r1 , r2 は a, b の両方のパケットを入手でき
ており,伝送レート 2 を実現していることが分かる.
3
ランダム線形ネットワーク符号化における
リード・ソロモン型符号
本研究で対象とする符号は符号長 N → ∞ において線形
符号の誤り訂正の能力の限界であるシングルトン限界を達成
するリード・ソロモン型符号である.この符号のパラメータ
を,パケット長 m + ℓ,パケット数 ℓ,1 符号語あたりのメッ
セージのサイズ mk とすると,最小距離 d = 2(ℓ − k + 1),
d
正規重み λ = Nℓ ,レート R = mk
N ℓ ,正規最小距離 δ = 2ℓ の
符号となる.また,この符号は Maximum Rank Distance 符
号と呼ばれる符号と非常に深い関係があることが知られて
いる.
s
1
n1 1
1
1
a
n2
n3
1
1
1
1
r1
s
n1
a
s
a
n2
a
a
n1 a
b
n2
n3
a
n4 1
b
b
a+b
a+b n4 a+b
r2
(a) Link Capacity
r1
a
r2
(b) IP Multicast
a
r1
a,b
r2
a,b
(c) Network Coding
図 1: IP マルチキャストとネットワーク符号化の比較
4
距離分布に関する性質
ランダム線形ネットワーク符号化におけるリード・ソロ
モン型符号 C について,符号語 V ∈ C から全ての符号語
V ′ ∈ C への距離の度数分布を符号 C の距離分布 D(C, V ) と
定義すると,D(C, V1 ) = D(C, V2 ) となることを示した.こ
こで,V1 , V2 は符号 C の符号語で,V1 ̸= V2 である.これは
リード・ソロモン型符号と Maximum Rank Distance 符号
の符号語の距離に関する関係からも導かれる性質であるが,
本研究ではリード・ソロモン型符号の構成法からより直接的
な証明を与えている.
5
基底選択と符号語の距離構造の関係
ランダム線形ネットワーク符号化におけるリード・ソロモ
ン型符号の構成において,符号の基底の決定に自由度がある
が,どのような基底を選択しても符号の重み分布は一定であ
る.しかし,より詳細な符号語の距離分布に着目すると,符
号の基底の選択によって異なる性質の符号が構成できること
を示した.また,符号の性質が一致するための十分条件につ
いて示し,その証明を与えた.さらに,この符号を誤り検出
のみに用いるとし,検出できない誤りベクトル(符号語)は
どれも等確率に発生するという仮定のもとで,検出できない
誤りベクトルを受信したときの平均の誤り情報シンボル数の
評価を行った.その結果,実験を行った範囲では,同一パラ
メータの符号においては基底の選択によらず平均の誤り情報
シンボル数が一定になることが分かった.
また,他のランダム線形ネットワーク符号との距離分布の
比較を行うことで,リード・ソロモン型符号の平均の重みが
小さい傾向にあることを示した.
6
おわりに
本研究ではランダム線形ネットワーク符号化におけるリー
ド・ソロモン型符号の性質について特に距離構造に着目し考
察を行い,どの符号語を基準とする距離分布も同一であるこ
とを示した.また,符号の構成における基底の選択によって
異なる性質の符号が構成できることを示したが,どの基底を
選択するのがよいかは誤り訂正法に依存する問題である.今
後の課題としては,誤り訂正法を考慮して符号の性能を評価
することが考えられる.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
Anonymous Fingerprinting for Predelivery of Contents
(コンテンツ事前配信のための匿名フィンガープリンティング)
原村 和裕 (セキュリティ工学講座)
1
背景と研究目的
近年, ネットワーク通信帯域が大幅に拡大したことや, 動画
再生機器の性能が格段に向上したことにより, 動画配信サー
ビスが盛んになっている. 動画配信サービスで配信されてい
る動画には, 公開日時が指定された映画も含まれるが, 映画
の公開日時にアクセスが集中した場合, 視聴者への配信が滞
る可能性がある. この問題に対して, 複数サーバによる配信
が考えられる. さらに事前に配信できれば, アクセスが公開
日時前に分散され, より多くの人が公開日時に遅滞なく視聴
できる. つまり, 視聴者の満足と配信者の売上増加に繋がる.
本研究では日時が指定されたコンテンツの事前配信を対象と
し, セキュリティに関する要求を満たすことを目的とする.
具体的には, 事前配信におけるすべての要求を満たすための
方針を二つ提案し, それぞれの方針に基づく効率の良い構成
法を提案し, 安全性を証明した.
基本設計方針は, 従来の匿名フィンガープリンティングと
タイムカプセル暗号を組み合わせ, 新たに, 公開前の不正配
布抑止を実現するというものである. 提案する構成法はそ
れぞれ以下に述べる特定情報露呈と個人鍵露呈の方針に基
づく.
匿名フィンガープリンティング
オリジナル
コンテンツ
info
info
埋め込み
info
2
セキュリティに関する要求として, コンテンツ配信におけ
る一般的な要求が二つと事前配信特有の要求が二つ考えられ
る. 一般的な要求の一つは公開後に視聴可能となったコンテ
ンツの不正配布抑止である. 配信者が不正配布されたコンテ
ンツを発見した場合, 配布した視聴者を特定し, 不正を立証
したいという要求であり, 公開後の不正配布抑止と呼ぶ. も
う一つは視聴者が個人情報だけでなく趣味や嗜好がわかる購
入履歴を秘匿したいという要求であり, 購入履歴の秘匿と呼
ぶ. 事前配信特有の要求の一つはコンテンツを公開日時前に
は視聴できないが, 公開日時後は遅滞なく視聴できるように
したいという配信者の要求であり, 視聴の制御と呼ぶ. もう
一つは公開前で視聴できないコンテンツの再配布対策があ
る. 視聴できないコンテンツであっても, 再配布されれば, 公
開後には視聴可能になる. すなわち, 事前配信したことによ
り, 不正配布の被害が拡大すると考えられる. そのため, 配
信者は公開前に再配布されたコンテンツを発見した場合, 再
配布した視聴者を特定し, 再配布の事実を立証したいという
要求であり, 公開前の不正配布抑止と呼ぶ.
3
従来研究
これまでに, 一部の要求を満たす暗号プロトコルが提案さ
れている. 具体的には, 公開後の不正配布抑止と購入履歴の
秘匿を満たす匿名フィンガープリンティングと, 視聴の制御
を満たすタイムカプセル暗号である. 匿名フィンガープリン
ティングでは視聴者が得るコンテンツに視聴者を特定するた
めの情報 (特定情報と呼ぶ) が埋め込まれるが, 配信の際に
配信者は特定情報を知ることはないため, 購入履歴の秘匿が
実現できる. なおかつ, 配信者は再配布コンテンツからこの
情報を抽出することで不正者を特定し, 不正を立証でき, 不
正配布抑止が実現できる. 一方, タイムカプセル暗号では配
信者はコンテンツを, 自身が指定した公開日時以降にしか復
号できないように暗号化できる. ただし, いずれも公開前の
不正配布抑止について考えられておらず, 満たす必要がある.
4
配信者
事前配信におけるセキュリティ要求
研究成果
本研究では事前配信におけるすべての要求を満たす効率
の良い暗号プロトコルとして, 従来の匿名フィンガープリン
ティングを拡張した暗号プロトコル (コンテンツ事前配信の
ための匿名フィンガープリンティングと呼ぶ) を提案した.
新たな処理
暗号化
タイムカプセル暗号
により暗号化
info
匿名フィンガープリンティン
グにより暗号化した状態で
埋め込み
視聴者
公開前の不正配布抑止
のための処理を追加
info
タイムカプセル暗号
info
暗号化した 特定情報
特定情報
info
復号
info
特定情報が埋め込まれた
コンテンツ
図 1: 基本設計方針
特定情報露呈: 公開日時前に暗号化コンテンツを再配布する
ためには, 視聴者自身の特定情報を暗号化コンテンツに付け
ざるを得なくするという方針である. 公開前の不正配布コン
テンツを配信者が発見した際には, 付けられた特定情報から
視聴者を特定できる.
個人鍵露呈: 公開日時前に再配布するためには自身の個人鍵
を付けざるを得なくするという方針である. 視聴者の個人鍵
は成りすましや通信路の盗聴を可能とするため, 安易に配布
されるとは考えられない. すなわち, より強い不正配布抑止
力が得られる.
個人鍵露呈の方針は, 友人間や家族間といった個人的な利
用やコピーが数回認められているコンテンツに対しては, 抑
止力が強すぎると考えられる. このため, 条件的に再配布が
認められているコンテンツに対しては特定情報露呈の方針を
利用し, 再配布が一切認められていないコンテンツに対して
は個人鍵露呈の方針を利用するのが良い.
提案した構成法は, 特定情報露呈に基づくものが二つ, 個
人鍵露呈に基づくものが一つである. 提案法では, 特定情報
露呈, もしくは, 個人鍵露呈を実現するために, 視聴者が暗
号化コンテンツを公開日時に復号する際, 視聴者の特定情報,
もしくは, 個人鍵も復号に必要となるように, 配信者はコン
テンツを暗号化する. そのために, 配信者が視聴者から受け
取るデータを暗号化鍵として利用する. これにより, 公開前
の不正配布抑止のために視聴者が新たにデータを送る必要な
く, 効率良く安全に構成できる.
5
まとめ
事前配信におけるすべての要求を満たす効率の良い方式と
して, 特定情報露呈と個人鍵露呈の方針に基づくものを提案
し, 安全性を証明した. 二つの方式をコンテンツの視聴規約
によって使い分けることで, 様々なサービスに対応できる.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
データベースへの推論攻撃に対する問合せ解像度に基づくインスタンス独立な安全性定義
廣田 祐一 (セキュリティ工学講座)
1
データベースセキュリティを達成する上で重要な課題の一
つに,推論攻撃に対する安全性の確保がある.推論攻撃とは,
ユーザが,実行を許可された問合せのみを用いて,許可され
ていない問合せの実行結果を推論することをいう.これまで
に推論攻撃に対する安全性の定義と検証法がいくつか提案
されており,安全性の定義は,大別すると「インスタンス依
存」と「インスタンス独立」の 2 種類に分けられる.インス
タンス依存の安全性定義における安全性検証では,入力イン
スタンスのサイズが大きくなると,安全性の検証を行うため
に多くの時間がかかってしまう.一方,インスタンス独立な
安全性定義における安全性検証では,インスタンスのサイズ
によらず安全性の検証が可能である.しかし,問題構造の複
雑さもありこれまで十分に研究がされてきたとはいえない.
インスタンス独立な安全性は,スキーマや問合せの性質の
みで定義されなければならない.本研究では,インスタンス
独立な安全性検証法の開発を目指し,問合せの性質として問
合せ解像度という概念を導入する.問合せ解像度とは,デー
タベースインスタンスの全体集合の,問合せの結果に基づく
同値類分割である.そして,特定可能性に基づく安全性をは
じめとする,自然でかつインスタンス独立ないくつかの安
全性を,問合せ解像度を用いて定義できることを示す.さら
に,それらの安全性が検証可能となるために問合せが満たす
べき条件を検討する.
2
問合せ解像度とその高低関係
インスタンス集合 I(S) において,問合せ q によって分
割される同値類の集合を I(S) における q の解像度といい,
E(q, I(S)) と書く.また,
「任意のインスタンス D, D ′ ∈ I(S)
′
′
′
について q (D) = q (D ) ならば q(D) = q(D′ )」が成立すると
き,I(S) において q ′ は q より解像度が高いといい,q ≼I(S) q ′
と書く.直観的には,問合せ結果ごとにインスタンス集合の
グループ分けを行い,q がインスタンス D, D′ を区別できる
ならば q ′ も D, D′ を区別できることを表す (図 1).
3
インスタンス集合I(S)
研究背景と目的
問合せ解像度に基づく安全性定義
問合せ解像度に基づき表現可能な安全性について検討す
る.従来の推論攻撃に対するインスタンス独立な安全性定義
の多くは,機密情報の特定可能性に着目している.推論攻撃
により,あるインスタンスの機密情報が一意に定まるとき,
機密情報が特定されるという.この安全性は問合せ解像度の
概念に基づくと,q を許可問合せ,qsec を機密情報問合せと
して,
「任意の C ∈ E(q, I(S)),C ′ ∈ E(qsec , I(S)) について
C ̸⊆ C ′ ならば,安全である」と定義できる.
また,できるだけ攻撃者に情報を与えたくないと考え,許可
問合せ q の結果の変化から機密情報の変更の有無を検知させ
たくない場合を考える.問合せ解像度の概念に基づけば,
「任
意の C1 , C2 ∈ E(q, I(S)) に対してある C ′ ∈ E(qsec , I(S))
が存在して,C1 ∩ C ′ ̸= ∅ かつ C2 ∩ C ′ ̸= ∅ ならば,安全で
ある」と定義できる.直観的には,q の結果がどう変わろう
と qsec の結果が変わったと断言できない状態を安全と定義
している.なお,時刻が変化してもデータベース内に変化し
ない部分が存在する場合についても安全性定義の検討を行っ
ている.
インスタンス集合I(S)
問合せqの結果により
同値類分割
結果がXである同値類
問合せq’の結果により
同値類分割
E(q,I(S))
結果がYである同値類
低
E(q’,I(S))
高
問
合
せ解
像
度
図 1: q ≼I(S) q ′ となる例
さらに,既存のインスタンス独立な安全性の多くでは,少
しでも安全でない可能性があるとき,全体として安全でない
と定義されているが,これは機密情報と少しでも関わりのあ
る問い合わせは許可できないという事態になりがちである.
このことは,可用性を大きく犠牲にしており,一般の安全性
要求としては厳しすぎると考えられる.例えば可用性の確保
のため「病名が癌だと推論できてしまう場合がある」のは目
をつぶり「病名が癌かそうでないかをいつでも推論できて
しまう」のは防ぎたい場合がありうる.このように安全性要
求を下げた安全性は,解像度の高低関係を用いれば,
「ある
′
′
qsec ≼I(S) qsec が存在して,qsec ≼I(S) q であるとき,安全で
′
ない (ただし問合せ結果が 1 種類しかない qsec
は除外する)」
と定義できる.直観的には,q や qsec などの問合せによって
分割される同値類のグループによってインスタンス集合に仕
切りが入るものだと考えると,q と qsec の間に部分的に一致
する仕切りが存在するとき安全でないと定義している.
4
提案した安全性の決定可能性
抽象的にモデル化したデータベースにおいて,問合せを選
択演算と射影演算に限定した上で,問合せ解像度の高低関係
の決定可能性についても検討した.データベースは,Σ を有
限アルファベットとして,I(S) = {D|D は Σ∗ の任意の有限
部分集合 } と表す.また,選択演算は D の部分要素を受理
するようなオートマトンとし,射影演算は D の要素の一部
を特別な文字に書き換える順序機械としてモデル化した.
結果として,機密情報問合せ,許可問合せの計算に使用す
る記憶域が両方とも有界であれば,提案した安全性は決定可
能となることがわかった.
5
まとめと今後の課題
問合せ解像度という概念を用いて,従来の特定可能性の安
全性のほか,有用であると考えられる安全性も表現できるこ
とを示した.また,提案した安全性が決定可能となる問合せ
のクラスを与えた.
今後の課題として,関係データベースや XML データベー
スのモデル上で,安全性検証法を確立することがあげられ
る.問合せ解像度の高低関係の判定を高速に行える問合せな
どのクラスを明らかにできれば,最低限必要となるインスタ
ンス独立な安全性検証法を高速に行うことが可能となる.ま
た,アプリケーションに応じた安全性要求をパラメータ化し
て表現することも検討すべきである.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
タイルドディスプレイのための非圧縮 HDTV 受信システムの設計と実装
桑原 世輝 (応用メディア工学講座)
1 研究の背景と目的
高精度な電子顕微鏡,天体望遠鏡,高度医用画像診断機器
などに代表される観測装置の性能向上により,様々な科学分
野で高精細な計測映像の取得が可能になっている.また,今
日の急速なネットワークの広帯域化は,そのような高精細映
像を遠隔地に伝送することを可能にしつつある.このような
背景から,遠隔地の計測装置で取得される高精細な計測映
像や,遠隔地の計算機で計算された解析結果を高精細な可
視化映像としてリアルタイムに閲覧する,などの科学研究
に低遅延かつ高品質な映像の伝送を行う非圧縮 HDTV (High
Definition TeleVision) 伝送システムを応用することが期待さ
れている.
しかし,非圧縮 HDTV 伝送システムを実際の科学研究へ
応用するには,次の 2 つの課題がある.第一に,映像のさら
なる高精細化や,多地点からの高精細映像の同時閲覧に低コ
ストで対応しうる可視化技術と非圧縮 HDTV 伝送システム
とを連動させる必要がある.第二に,非圧縮 HDTV 伝送シ
ステムで取得した映像を様々な科学アプリケーションで利用
可能にし,他の科学データと組み合わせられるようにする必
要がある.
本研究では,非圧縮 HDTV 伝送システムの科学研究応用
を実現する非圧縮 HDTV 受信システムを提案する.本手法
によって,さらなる映像の高精細化や高精細映像の複数同時
閲覧に対応し,科学アプリケーションとの連携を低コストに
実現する.
2 提案手法
本研究では,前述の課題を解決するための基盤技術としてタ
イルドディスプレイを実現するミドルウェア SAGE (Scalable
Adaptive Graphics Environment) に着目する.タイルドディス
プレイは複数のディスプレイをタイル状に配置し連携駆動さ
せることで高精細表示を実現する技術であり,連携駆動させ
るディスプレイの数をスケーラブルに変更し,任意の高精細
な解像度を得ることができる.また,SAGE は複数のアプリ
ケーションウィンドウをタイルドディスプレイに同時に出力
させる特徴をもつ.
本研究では,IP ネットワークを使用して伝送される非圧
縮 HDTV 映像信号を受信し,SAGE で構築されたタイルド
ディスプレイに受信映像を出力する受信システムを構築す
ることで,さらなる映像の高精細化や,高精細映像の複数
同時閲覧に低コストに対応する.また,受信映像を科学ア
プリケーションで再利用可能にするために,受信システムに
おいて科学アプリケーションで一般的に用いられている映
像フォーマットである RGB フォーマットに映像を変換する.
これにより,非圧縮 HDTV 伝送システムの科学研究応用を
実現する.
非圧縮 HDTV 伝送システムを科学研究へ応用するには,非
圧縮 HDTV 伝送システムを簡便に利用できる必要があると
考える.本研究では,非圧縮 HDTV 伝送システムとして,製
品化されている i-Visto (internet-Video studio system) を利用
すると仮定し,受信システムである i-Visto player を提案・実
装した.図 1 に i-Visto player の構成を示す.
非圧縮 HDTV 伝送システムの特徴である低遅延性を損な
わないために,本提案システムの処理を高速に行う必要があ
IPネットワーク
IPパケット受信
フレーム復元
プログレッシブ変換
フォーマット変換
RGB変換
SAGE映像
ストリーム変換
図 1: i-Visto player
る.処理の高速化のためにメモリコピーの回数を最小限に
し,フォーマット変換を整数計算で行うよう実装した.
3 評価
本研究で提案・実装した i-Visto player の実用性を評価する
ために,プログレッシブ変換と RGB 変換の処理時間を測定
する.評価環境は次の 3 つである.測定環境 1 は,RGB 変
換を規定式で実装した場合である.測定環境 2 は,RGB 変
換を高速化式で実装した場合である.測定環境 3 は,プログ
レッシブ変換と RGB 変換を同時に行うフォーマット変換機
能を用いた場合である.900 フレームの変換について測定し
た値の相加平均を測定結果とする.表 1 に測定結果を示す.
表 1: 処理時間
測定環境 1 測定環境 2 測定環境 3
91.139msec
16.540msec
12.124msec
HDTV は 33.37msec で映像更新されているため,この値
よりも処理時間が短ければ高速な処理が行われていると言え
る.測定結果より,十分短い時間で処理されており実用性が
あると言える.
次に,RGB 変換に用いた高速化式の実用性を評価するた
めに,規定式で変換した場合と高速化式で変換した場合の
変換誤差を測定する.RGB 信号の階調値の違いを変換誤差
として 30 フレームの変換について測定し,平方二乗誤差を
測定結果とする.測定結果は 0.714 であった.測定結果は
0.28%の誤差であり,科学アプリケーションでの利用に支障
がない程度の誤差であると言える.
本研究で構築した i-Visto player の有用性を評価するため
に,遅延,映像品質,コストに着目する.本研究では,i-Visto
player と i-Visto,VLC media player をそれぞれ利用した場合
の比較を行った.比較結果から i-Visto player は科学研究応
用に有用であると言える.
4 まとめ
本研究では,タイルドディスプレイ用非圧縮 HDTV 受信シ
ステムである i-Visto player を提案・実装した.i-Visto player
によって,i-Visto から伝送される映像をタイルドディスプレ
イ出力可能になった.また,i-Visto player によって,受信映
像を RGB フォーマット映像に変換可能にし,受信映像の科
学アプリケーション利用を容易にした.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
視覚-運動制御を考慮したマウスポインティングの基礎検討と支援技術に関する研究
朝日 元生 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
Initial target width
近年,高解像度ディスプレイの普及によって,ポインティ
ング時間が増加する傾向にある.そのため,ポインティング
時間の短縮を目的とした様々な支援技術が提案されており,
その中にターゲットサイズを拡大する手法がある.この手
法には,ターゲットサイズを視覚的に拡大する手法と,ター
ゲット内でのカーソル速度を遅くする手法がある.しかし,
先行研究では,視覚的な拡大手法について,ポインティング
パフォーマンスの向上を目指した詳細な検討がなされていな
い.また,カーソル速度を遅くする手法では,目的外のオブ
ジェクトでの動作がポインティングを阻害する可能性につい
て議論されていない.
そこで本研究では,視覚的なターゲットサイズの拡大を用
いて,カーソルがターゲットに捉えられる感覚を提示する新
たな支援技術を提案する.また,単一オブジェクトで行われ
る通常のポインティング実験に加え,ターゲットへの到達過
程に複数のオブジェクトを配置した実験を行い,提案手法の
有効性と視覚-運動制御に関して議論する.
2
図 1: 提案手法の様子
Pointing time [ms]
1200
800
600
Pointing time [ms]
1000
実験
3.2 実験 2:複数オブジェクト環境での実験
ターゲットの周りにターゲットと同じ手法が適用される妨
害刺激を配置し,ターゲットに到達するためには必ず妨害刺
激を通らなければならないような実験環境を構築し,実験 1
と同様の比較をする.実験は,実験 1 の結果を考慮し,ター
ゲット距離(16,32 cm),ターゲットサイズ(0.5,1.0,2.0
cm),手法(Visual,Sticky,Both,Normal),妨害刺激の
ターゲット周りの配置方法(1 周,2 周)の 4 要因反復実験
とし,ターゲットの拡大率は 2.0 で固定する.実験参加者は
18 人で,その他は実験 1 と同様である.
図 3 に各手法の妨害刺激の配置方法ごとのポインティング
時間を示す.同図から,Visual が最もポインティング時間が
短く,ターゲット内でカーソル速度を遅くする手法(Sticky,
Both)では妨害刺激を通る回数が多くなるほどポインティン
Task method
Visual
Sticky
Both
Normal
4
16
32
Target distance [cm]
48
図 2: ターゲット距離ごとのポインティング時間
提案手法
3.1 実験 1:単一オブジェクト環境での実験
単一オブジェクト環境において,提案手法の Visual,先行
研究で提案されているターゲット内にカーソルが入るとカー
ソルの速度が遅くなる Sticky,Visual と Sticky の両方を組
み合わせた Both の 3 手法を比較する.実験は,ターゲット
距離(4, 16, 32, 48 cm),ターゲットサイズ(0.5,1.0,2.0
cm),手法(Visual,Sticky,Both),ターゲットの伸びる程
度やカーソル速度の遅くなる度合いを表す拡大率(1.6,2.0,
4.0)の 4 要因反復実験であり,比較用として通常ターゲッ
トでのポインティングも行う(Normal).実験参加者は 12
人である.実験には 30 インチのディスプレイを使用し,入
力デバイスには光学式マウスを用いる.
図 2 に各手法のターゲット距離ごとのポインティング時
間を示す.図 2 から,Visual は Normal よりもポインティン
グ時間を短縮できることを確認した.拡大率によってポイ
ンティング時間やエラー率に差は見られなかった.参加者に
よる主観評価は,Both が最も高く,Sticky,Visual と続き,
Normal が最も低かった.
1000
400
図 1 に示すように,カーソルがターゲット内に入ると,一
定距離以内でターゲットはカーソルに追従するように滑らか
に伸びる.また,カーソルがターゲット外に出るとターゲッ
トは滑らかに元の形に戻る.このように,カーソルがター
ゲットに捉えられるような感覚を視覚的に提示する.
3
Final target width
Distracter situation
1 loop
2 loops
900
800
Visual
Sticky
Both
Normal
Method
図 3: 妨害刺激ごとのポインティング時間
グに時間がかかる結果となった.参加者による主観評価は,
Visual が最も高く,Normal,Sticky と続き,Both が最も低
かった.
4
考察
2 つの実験を通して Visual では短い時間でポインティン
グをすることができ,ポインティング支援技術として有効で
あることが確認できた.また,実験 1 のアンケートでは,拡
大率が 1.6 のときは,Sticky よりも Visual のときにカーソ
ルを遅く感じた人が多い結果となり,これは,視覚的な拡大
のみでもカーソルがターゲットに捉えられる感覚を提示で
きる可能性を示すものである.実験 2 では,Sticky と Both
において,ターゲットに向かう途中に妨害刺激があると,妨
害刺激上でもカーソル速度が遅くなるため,ポインティング
運動計画を変更しなければならず,低い主観評価となった.
Visual ではそのような状況が生じないため,運動計画を変
更せずにスムーズにターゲットへのポインティングが可能で
あり,高い評価を得ることができたと考えられる.
5
おわりに
カーソルがターゲットに捉えられるような感覚を視覚的に
提示するポインティング支援技術を提案した.また,単一オ
ブジェクトでの環境と,複数オブジェクトが配置された環境
のもとでポインティング実験を行い,提案手法の有効性を確
認した.今後は,視覚的な拡大手法についてのさらなる検討
や,他の手法と提案手法を比較する予定である.
平成 ¾½ 年 ¾ 月 ½¿ 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
信頼度マッピングによる実物体の ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ への表示
大野 翼 ´ヒューマンインタフェース工学講座µ
½
はじめに
新製品のデザイン会議などは,立体模型を複数人で囲み,
その形状を確認・修正しながら進められることが多い.一方
で,企業のグローバル化によって,遠隔地にいる複数人同士
で会議を行う機会が増えてきている.
このような場合,模型の形状を静止画やテレビ電話で伝え
る方法が一般に用いられている.しかし,これらの方法では
議論対象の形状を立体的に把握出来ないため,円滑に話し合
いを進めることが難しい.
そこで本稿では,いくつかの視点画像から任意視点画像を
生成できる信頼度マッピング法と,多人数共有型立体ディス
プレイ ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ を応用することで,実物体の立体映像を
遠隔地にいる複数人に対して同時に提示できるシステムを提
案する.また,システムの実現のために撮影機器やアルゴリ
ズムを検討し,実装する.
¾
提案システム
¾º½ 概要
図 ½ に提案システムの概要を示す.これは実物体を撮影
し,遠隔地にいる各利用者の任意視点画像を生成する撮影側
と,被写体の立体映像を遠隔地にいる複数人に対して同時に
提供する表示側から構成される.
撮影側は被写体をいくつかのサンプル視点から撮影する装
置と,撮影したサンプル画像から,サンプル視点間の任意の
視点画像を生成する信頼度マッピング法処理 È で構成され
る.また,表示側は,表示装置である ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ と,利用
者の視点位置を取得するトラッカ,表示処理 È から構成さ
れる.
¾º¾ 被写体の撮影
必要なサンプル画像を最小のカメラ数で撮影できる撮影
装置を設計した.まず,十分な画質を持った視点画像を生成
するために必要なサンプル視点間隔の角度を検討した結果,
½¼
以下であれば十分であることがわかった.また,サ
ンプル視点が ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ の利用者が取り得る視点位置をカ
バーするため,被写体を中心とした緯度方向に ½¼
間隔
で ¾ 台カメラを設置した.また,経度方向に配置するカメ
ラ数を削減するため,被写体を回転させて一周分撮影するこ
ととした.
¾º¿ 信頼度マッピング法による視差画像生成
信頼度マッピング法処理 È は,表示側でトラッカが取得
した利用者の両眼の位置に対応する被写体の視点画像を,撮
影したサンプル画像からリアルタイムに生成する.
通常の信頼度マッピング法では,被写体の表面が存在する
確率を表す信頼度マップと呼ばれるレイヤを積層し,その確
率情報を元に任意視点画像を生成する.しかし,ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ
はマスクにあいた穴の中央に立体映像を浮かせて提示する
ディスプレイであるため,背景のない被写体を表示する必要
がある.
そこで,提案システムではこれを改良し,予めサンプル画
像の背景をマスクとした ¾ 値画像を生成しておき,各信頼
度マップをかけあわせる.これにより背景の存在確率を ¼ と
して背景を除去すると共に,任意視点画像の画質を向上で
きる.
¾º ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ への表示
表示側では,直接指示可能で歪みの無い立体映像を複数人
に対して同時に提供することのできる ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ に,撮影
側で生成した任意視点画像を,両眼視差画像として表示す
る.なお,従来の ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ は,プロジェクタが筐体の一
面から張り出しており,観察の妨げになっていたため,短焦
点プロジェクタを用い,光学系の配置を工夫することで,突
出部のない ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ を新たに設計して実装した.
¿
実装結果
図 ¾ に,実際に製作した装置を,図 ¿ に表示結果を示す.
また,実物体の遠隔共有がどの程度実現されたかについて評
価と考察を行った.
まず,今回試作したターンテーブルによる被写体の撮影に
¼ 秒かかった.遠隔でのデザイン会議に用いる場合を想定
すると,形状の変更は数分に一度程度と考えられるため,十
分な速度であると考えられる.また,撮影時に被写体を回転
させる代わりに,撮影装置に用いるカメラを増加させれば,
リアルタイムに撮影しながら表示できると考えられる.
一方,¿ 人の利用者に立体映像を表示した場合の更新頻度
は ¿º
ÈË であり,視点に追随している感覚を利用者に与
えることができた.しかし,一般に動画に必要な画像の更新
頻度は ½
ÈË と言われているため,今後はボトルネックと
なっていた信頼度マッピング法を高速化する等の改善が必要
である.
次に,画質に関して ¾¼ 名の参加者に主観的な評価をして
もらい,立体視が出来ているとの意見を得た.ただし,被写
体の細い部分が消えているとの意見もあった.そのため,今
後は細い部分を高解像度で撮影できるよう撮影装置を改良す
るなどの対策が必要である.
おわりに
本稿では,立体的な実物体を遠隔地間で共有するため,実
物体を撮影した画像から信頼度マッピング法を応用して任意
視点画像を生成し,遠隔地にある ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ で視差画像と
して表示するシステムを提案した.また,そのために必要な
撮影装置等を検討して製作し,システムの評価を行った.今
後は,信頼度マッピングのさらなる高速化・高画質化や,表
示画質の定量的な評価などを行う予定である.
図
´ µ
提案システム概要
撮影装置
図
´ µ
½
¾
新たに設計した
ÁÐÐÙ× ÓÒÀÓÐ
´ µ
実装システムの写真
利用者 ½ の視点
図
¿
´ µ
利用者 ¾ の視点
実装システムの出力例
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
3 次元形状モデル検索におけるモーションクエリに関する研究
小川 兼人 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
近年,テキストやスケッチなどの様々なクエリを用いた 3
次元形状モデル検索システムが提案されている.我々は,誰
もが直感的に,かつ容易に 3 次元モデルを検索できるシス
テムを目指し,ユーザがモデルから想起するモーションをク
エリとして用いる検索システムを提案し,検討を進めてい
る.モーションは自由度が高い反面,個人差があるため,シ
ステム利用の際には,キャリブレーションが必要である.し
かし,既存システムでは,検索対象とする全モデルのモー
ションを取得する必要があるため,手間がかかり,実用的で
はない.一方で,これまでの評価実験などから,人がモデル
から想起するモーションには類似関係が存在する可能性が高
いことが明らかになった.すなわち,光の 3 原色のように,
その組み合わせで様々なモーションを表現できる“ 原動 ”の
存在が推測される.そこで本研究では,モーションクエリ検
索システムを用いたモーションの分析を通じて,原動の存在
を明らかにする.さらに,これをモーションクエリ検索に応
用し,キャリブレーションの手間を削減する手法(図 1)を
提案する.
2
提案手法
2.1 モーションの取得
まず,原動を探求するにあたり,性別・国籍・モーション
の入力方法を考慮した参加者 24 名から,自律的に動くモデ
ル 17 種と人が動かすモデル 20 種の計 37 種のモデルのモー
ションを取得した.取得にはモーションセンサを内蔵した
ActiveCube を利用し,取得回数は各モデルにつき 5 回,時
間は 4 秒,取得周波数は 40Hz とした.取得した x,y,z 軸
の加速度と,ヨー,ピッチ,ロール角を絶対値化したデータ
を,スライディング・ウィンドウ方式によって分割し,各分
割センサデータについて特徴量を求める.この際,ウィンド
ウ幅を 16,重複率を 50%とした.特徴量には,平均,差分
平均,分散,最大パワースペクトル,エネルギー,周波数領
域エントロピーを用いた.特徴量を算出後,サポートベクタ
マシンを用いて識別を実施し,ウィンドウ毎の識別結果を得
る.本研究では,この識別結果のうち,最も多いモデル数に
対するクエリとして求めたいモデル数の割合をモーション類
似度と定義し,モーションの分析指標として用いる.
2.2 モーションの分析
取得した全モーションから,原動を探求するために,モー
ション類似度の指標を用いて,モデル間のモーション関係性
について分析する.分析には自己組織化マップ (SOM) を用
いた.24 名の参加者の全取得モーションを,自律的に動く
モデルと人が動かすモデル別にクラスタリングし,分析した
結果を図 2 に示す.図 2 より,自律的に動くモデルに関して
は,空のモデル(左)と陸のモデル(右)にクラスタ分けさ
れている.さらに,乗り物のモデル(左上から右下)と動物
のモデル(右上)にもクラスタ分けされている.また,乗り
物を除いた人が動かすモデルに関しては,身に着けるモデル
(左上)と遊ぶモデル(右下),さらには,食べるモデル(右
上)と鑑賞するモデル(左下)にクラスタ分けされているこ
とがわかった.以上より,37 種のモデルのモーションは,空
の乗り物(空乗),空の動物(空動),陸の動物(陸動),陸
の乗り物(陸乗),着るもの(着),食べるもの(食),遊
ぶもの(遊),見るもの(見)の 8 種の基本モーション,す
なわち 8 原動を用いて表現できる可能性が示された.
3
提案手法と従来手法との比較評価
本実験で取得した 37 種のモーションが,8 原動の組み合
わせで表現できることを検証するために,キャリブレーショ
ンが 8 種の提案手法と 37 種の従来手法との比較評価を実施
した.まず,参加者 12 名の全取得モーションを用いて,各
モーションの原動の組み合わせ割合情報からなる“ モーショ
ンマップ ”
(図 3)を作成した.次に,これらの参加者とは異
なる 12 名の参加者の原動をキャリブレーションに用い,全
モデルのモーション類似度結果を算出した.まず,キャリブ
レーション時間に関しては,従来手法の 592 秒に対し,提案
手法では 128 秒と大幅に短縮でき,システムの実用性が向上
した.また,検索精度に関しては,クエリモデルがモーショ
ン類似度結果の 1 位に提示される割合が,従来手法の 73%に
対し,提案手法では 30%と低下した.しかし,5 位以内で見
てみると,提案手法においても 81%と比較的高い割合を示
した.以上より,検索精度の更なる向上が必要ではあるが,
キャリブレーションの手間を削減しても,所望モデルを上位
に検索できることがわかった.さらにこの結果より,本実験
で取得したほぼ全てのモーションが,8 原動の組み合わせで
十分に表現できることを示した.
4
おわりに
本研究では,モーションの分析を通じて,組み合わせるこ
とで多様なモーションを表現できる基本モーション“ 原動 ”
の存在を明らかにした.また,それを利用し,モーションク
エリを用いた 3 次元形状モデル検索システムにおけるキャリ
ブレーションの手間の削減手法を提案した.今後は,提案手
法の更なる検索精度の向上や,より多様なモーションを表現
可能な最小構成原動を探求していく予定である.
図 2: 自己組織化マップを用いたモーションの分析
図 3: モーションマップ
図 1: 提案手法の流れ
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
表層パターンを用いた WWW からの連想意味関係の自動抽出
門脇 英男 (ユニバーサル対話エージェント講座)
1
はじめに
言語知識を体系化することは,機械翻訳や情報フィルタ
リング,情報検索におけるクエリ拡張など,様々な場面にお
いて有効である.そのため近年では,WWW (World Wide
Web) 上の情報から関連語や用語間の意味関係を抽出する研
究が盛んに行われている.しかし,それらの多くは,同義関
係や階層関係,関連関係の抽出にとどまっている.より詳細
な意味関係を抽出することができれば,高度な言語処理や新
たなアプリケーションへの適用が期待できる.
そこで本研究では,ユーザが入力した検索語の連想意味
関係を WWW 上のテキストから自動抽出する手法を提案す
る.ここで,連想意味関係とは,ある語句から連想される動
作主名詞,場所名詞,時間名詞,別表現である.さらに,語
句の連想のしやすさと検索エンジンのヒット数の関係につい
て実験を行い,その結果から新たな指標として「飛躍度」を
提案する.
2
表層パターンを用いた連想意味関係の自動抽出
設定した際に,適合率 0.773,再現率 0.895 で不適切な候補
語を除外できた.最後に,式 (1) を用いて飛躍度を算出する.
2.4 時間名詞の抽出
表 1(c) に示す表層パターンを用いて WWW 上から時間
名詞の候補語を抽出する.次に,時間 PL を用いて不適切な
候補語を除外する.3-gram 時間 PL を用いて閾値を 0.54 に
設定した際に,適合率 0.904,再現率 0.855 で不適切な候補
語を除外できた.最後に,式 (1) を用いて飛躍度を算出する.
2.5 別表現の抽出
表層パターン「である + 検索語」をクエリとして検索し,
検索結果から別表現の候補語を抽出する.続いて,
「である
+ 検索語」の直後の語句の品詞が「名詞」「未知語」「助詞連体化」の場合には,その候補語は検索語の別表現として
不適切だと判断し,除外する.最後に,飛躍度を算出する.
WWW 上での出現回数が検索語からの連想のしやすさを近
似的に表すと考えられるため,別表現の飛躍度は出現回数の
逆数とする.
2.1 飛躍度
3 実行結果と考察
飛躍度とは,ある語句から連想される語句が内容的に飛躍
検索語として「麻生太郎」を入力した.飛躍度が低い動作
している度合いを数値的に表した指標と定義する.この飛躍
主名詞,場所名詞,時間名詞,別表現として「小沢一郎氏」
度を定式化するために,
「語句の連想のしやすさ」と「検索
「日本」
「首脳会議後」
「日本の総理大臣」,中程度の語句とし
ヒット数に基づく 2 語の共起の強さ(共起度)」の関係につ
て「番記者」「秋葉原」
「生放送後」
「若者向け漫画愛好家」,
いて実験を行った.実験参加者は 30 名(男性 21 名,女性
高い語句として「ダメ人間」
「南米大陸最南端」
「繁殖期」
「ク
9 名)である.下準備として,1 つのテーマと 10 の語句を
レー射撃のオリンピック選手」などが抽出された.以上の結
ひとまとめにした語句セットを 10 セット作成する.その際,
果より,ユーザが自由に飛躍度を選択・変更できるようにす
テーマ毎に意味が明確な名詞と曖昧な名詞を各 5 語選択し
ることで,例えば発想支援などのアプリケーションにおいて
た.次に,検索エンジンを用いて語句セット内のテーマと各
より柔軟かつ独創的な発想が可能になると考えられる.
語句との共起度を算出し,共起度が高い順に語句を並べる.
一方,参加者には,与えられた語句セットに対して,テーマ
4 おわりに
から連想しやすいと思う順に語句を並べてもらう.そして,
本研究では,ユーザが入力した検索語の連想意味関係を
共起度による語順と参加者による語順との相関を求める.共
WWW 上のテキストから自動抽出する手法を提案した.さ
起度には共起頻度,相互情報量,Dice 係数,Jaccard 係数, らに,語句の連想のしやすさと検索エンジンのヒット数の関
Simpson 係数,Cosine 類似度を用い,相関はスピアマンの
係について実験を行い,その結果から新たな指標として「飛
順位相関係数により算出した.実験の結果,図 1 に示すよう
躍度」を提案した.今後は,映像や物語のシナリオ作成のよ
に Simpson 係数が参加者による語順と最も相関が高くなっ
うな創造的活動を支援するアプリケーションへの適用を検討
た.これらの結果より,式 (1) のように飛躍度を定式化する. していく予定である.
なお,K は定数であり,ここでは経験的に 10 とする.
飛躍度 (X, Y ) = (1 − Simpson 係数 (X, Y ))K
(1)
2.2 動作主名詞の抽出
WWW 上における 2,3,4-gram (2,3,4 個の連続する
形態素列) の動作主名詞出現パターンリスト(動作主 PL)
を作成し,その中から動作主名詞の抽出に適した表層パター
ンを選定した(表 1(a)).これらの表層パターンと検索語を
クエリとして検索し,検索結果から表層パターンの直前の名
詞を動作主名詞の候補語として抽出する.続いて,各候補語
の WWW 上での出現パターンと動作主 PL との適合率を求
め,閾値以下であれば動作主名詞として不適切だと判断し,
除外する.4-gram 動作主 PL を用いて閾値を 0.16 に設定
した際に,適合率 0.681,再現率 0.904 で候補語を絞り込め
た.最後に,式 (1) を用いて飛躍度を算出する.
2.3 場所名詞の抽出
表 1(b) に示す表層パターンを用いて WWW 上から場所
名詞の候補語を抽出する.次に,場所 PL を用いて不適切な
候補語を除外する.4-gram 場所 PL を用いて閾値を 0.27 に
図 1: 実験結果
表 1: 表層パターン
Material for Master’s Thesis Recital
Department of Multimedia Engineering, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University
2009/2/13
Non Example-based Automatic Detection of Stroke Correspondences in 2D Drawings
2 次元スケッチにおける例示によらない自動ストローク対応付け
Ngo Thi Tu Trung (Human Interface Engineering Lab.)
1
Introduction
Sketch is an easy and fast way to express one’s thought.
In recent years, extensive efforts related to sketch have been
developed such as sketch inbetweening and Chinese character recognition. These researches require a technique called
stroke correspondence detection. This is a process to find
correspondence between strokes which make up the drawings. However, most conventional methods are based on existed examples with properly defined structures or drawing
order and stroke’s connection relations (mutual adjoined
strokes). This limits users’ freedom and contradicts with
the intrinsic ambiguous and messy nature of sketch.
We propose a non example-based method to automatically detect stroke correspondences of two drawings without considering strokes’ input order and connection relations. The method is composed of two stages: drawings’
normalization and stroke correspondence detection.
2
Non Example-based Automatic Stroke
Correspondence Detection
2.1 Objective Drawings’ Normalization
Before applying the main correspondence detection algorithm, two input drawings such as the ones in Figure 1 are
normalized. First, we find stroke’s two principal axes using
statistical principal component analysis method. Stroke’s
center is the center of the rectangle surrounding each stroke
which is found based on two principal axes. Similarly,
drawing’s center is found based on composed strokes’ centers. Next, drawing’s center is translated to coordinate
system’s origin and all contained strokes’ centers are translated together with it. Then scaling is conducted to fit the
drawing and all strokes’ centers to the unit square.
2.2 Finding Stroke Correspondences
In this stage, we first calculate three kinds of similarity
based on 2D coordinates of centers of strokes and drawing:
Euclidean distance, angle and mix feature similarity which
is the sum of two former similarities. We then apply stable marriage algorithm for each of the similarity and find
matching results for each of them. Stable marriage algorithm is a method to find a stable matching - a matching
in which both elements of one pair cannot find other element which prefers them over their present match. These
results are compared and same point pairs are extracted.
The loop of similarity calculation, stable marriage algorithm and comparision is repeated until there is no point
left.
3
Evaluation
An experiment is performed to evaluate efficiency of our
stroke correspondence detection method.
3.1 Experiment
We used a databse of 60 drawings with different stroke
number. We showed each of 20 drawings randomly to a
participant. We have 6 participants use mouse to draw
drawings with same stroke number and same structure with
the ones they are shown. Figure 1(a) shows an example
in database and (b) shows a subject-drawn one. After
drawing, corresponded strokes are displayed in same colors. Each participant is asked to count strokes which are
corresponded differently from their intuition. Participants
are students with average age of 25 and more than 5 years
of computer experience. Most of them have little experience with doodles.
(a) Database’s drawing
(b) User’s drawing
Figure 1: Experiment’s example
3.2 Results and Discussion
Data collected from participants is calculated to find
average correct correspondence rate for each stroke number. We plotted a graph to show the relation of stroke
number and correct correspondence rate (Figure 2). From
the result, drawings with stroke number from 3 to 6 have
higher correct correspondence rate. When stroke number
increases, correct correspondence rate decreases but still
oscillates between 0.7 and 0.94. Our algorithm’s accuracy
falls when the drawing has many strokes which distribute
densely like the legs in Figure 3. Because our algorithm
bases largely on a position of strokes’ center in the drawing, the more stroke number is, distances between strokes’
centers have almost same values and this causes inaccuracy.
In 14 and 22 cases, the rate suddenly decreases. Based on
users’ comments, we consider small sample number (comparing to other cases) and messy drawings are the reasons.
Figure 2: Relation of stroke
number and correct correspondence rate
4
Figure 3: Case
with low correspondence rate
Conclusion
We propose a method to automatically detect stroke correspondence in 2D drawings in relatively real time. The
method allows users to draw relatively freely with accuracy rate ranges from 0.7∼1. In the future, we plan to
employ stroke’s size, stroke’s merging and splitting.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
コンピュータ利用者の苛立ちとマウス・キーボード操作に関する研究
中塚 哲博 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
近年の情報化は,私たちの生活に恩恵をもたらしたが,そ
の反面テクノストレスやデジタルデバイドの増加といった問
題を引き起こしており,利用者のストレスの検知や緩和が望
まれている.近年,生理センサなどの特別なデバイスを用い
たストレス認識手法が多数研究されているが,高コスト性や
装着時の負荷などの問題があり,一般の利用者が利用可能な
方法は少ない.
そこで本研究では,人がストレス時に引き起こすとされる
苛立ちの感情に注目し,一般的に利用されているマウスと
キーボードを用いた苛立ち検知手法を検討した.まずアン
ケート調査により,コンピュータの不具合が利用者を苛立た
せる要因(苛立ち要因)や操作変化(苛立ち時の操作)を抽
出した.次に人を苛立たせる実験(苛立ち実験)を実施し,
苛立ち要因の妥当性と,苛立ち時の操作により利用者の苛立
ちが検知可能かを検証した.
2
苛立ち経験に関するアンケート調査
まず,利用者の苛立ち要因と苛立ち時の操作を抽出するた
めに,アンケート調査を実施した.回答者は情報系専攻の
大学生と大学教職員 29 名で,
「これまでの PC 作業で最も苛
立った経験 3 つ」について,主に記述式で回答してもらった.
その結果,苛立ち要因として,フリーズなどの「予期しない
遅延(26 %)」,書類提出期限が迫っているなどの「急いで
いる(16 %)」,自分の思う通りに動かない「予期しない動
作(10 %)」などを抽出した.また,苛立ち時の操作として
は,
「マウスの不必要なクリック・移動(33 %)」,同じ操作
を何度も行う「連打系操作(20 %)」などを抽出した.なお,
53 %の回答者は苛立ち後も作業を継続して苛立ちが残留ま
たは増加し,一方 22 %の回答者は休憩してリラックスした
という結果となった.
3
図 1: 参加者毎の苛立ち度の推移
利用者の苛立ち要因とマウス・キーボード操作
3.1 利用者を苛立たせる実験の設計
次に,2 章で抽出した苛立ち要因を用いて,苛立ち実験を
設計した.タスク内容は,マウスとキーボードを用いた単純
なタスクとして,アイコン移動タスク 5 回とテキスト複写タ
スク 1 回をそれぞれ 10 試行ずつを 1 フェーズとし,これを 3
回繰り返す計 60 試行を用意した.実験要因は,2∼3 フェー
ズ中で苛立ち要因の発生の有無,2 フェーズと 3 フェーズの
間に 5∼10 分の途中休憩の有無とした.なお,苛立ち要因
(有)の場合は,
「急いでいる」状況を想定し,タスク中に,
参加者の平均タスク完了時間から計算される「制限時間」を
常時与えた.また,
「予期しない遅延・動作」として,2∼10
秒間画面停止する「フリーズ」,秒動作が重くなる「応答遅
延」,同じタスクを繰り返させられる「再入力」,マウス・
キーボードが効かなくなる「入力無効」の 4 種類を,それぞ
れ一定時間ランダムに与えた.タスク内容と苛立ち要因のパ
ラメータ調整のため,実証実験の前に,情報系専攻の大学生
14 名を対象に予備実験を実施した.
3.2 実証実験
設計した苛立ち要因が確かに利用者を苛立たせるか,およ
び苛立った利用者が確かに苛立ち時の操作をするかを検証す
るため,実証実験を実施した.参加者は,本研究の目的を知
らない情報系専攻の大学生 6 名で,内 4 名に苛立ち要因を与
え(以下,参加者 A∼D と呼ぶ),その他 2 名に苛立ち要因
を与えなかった(以下,参加者 E,F と呼ぶ).また,6 名の
参加者に 2 要因 (苛立ち要因, 休憩) を,A と B に (有,無),
C と D に (有,有),E に (無,無),F に(無,有)と割り当
て,マウス・キーボードのタスク 1 試行完了毎に,苛立ち度
(− 2:かなりイライラが減少した∼+ 2:かなりイライラが増
加した)を回答してもらった.実験中は,マウスとキーボー
ドの操作を 60Hz で記録した.
図 2: クリック数の変化
4
図 3: マウス移動距離の変化
結果・考察
参加者毎の苛立ち度累積の推移(約 30 分間)を図 1 に示
す.マウスタスク時の苛立ち要因(無)のフェーズ 1 から苛
立ち要因(有)のフェーズ 2 にかけて,参加者 A∼D 代表値
の苛立ち変化の平均が有意に大きかった (p < .05).このこ
とから,フェーズ 2 におけるマウスタスク時の苛立ち度増加
は,設計された苛立ち要因だけによるものと示唆される.一
方,キーボードタスク時は,苛立ち変化の平均がフェーズ 1
がフェーズ 2 より大きく,苛立ち要因による苛立ち度増加が
見られなかった.これは,キーボードタスク自体が参加者を
苛立たせたこと,参加者が苛立ち要因を学習したこと,順序
効果などが原因と考えられる.なお,フェーズ 2 からフェー
ズ 3 にかけての苛立ち変化の平均はやや減少していた.これ
は,参加者の休憩,学習,順序効果などが影響したためと考
えられる.
次に,操作解析の結果として,タスク進行に関連しない,
不必要なマウスクリック数と不必要なマウス移動距離の参加
者 A∼D 代表値の平均を図 2 と図 3 に示す.マウスタスク
時のフェーズ 1 からフェーズ 2 にかけて,これら 2 操作が有
意に増加していた (それぞれ p < .01,p < .05).つまり,参
加者はフェーズ 2 の苛立ち要因発生時点の前後においても,
フェーズ 1 より不必要な操作をしていたと言える.さらに,
これら 2 つの操作は,アンケート調査で抽出した苛立ち時の
操作と一致しており,利用者の苛立ち検知手法にとって有効
な指標となると考えられる.なお,フェーズ 3 ではこれら 2
操作は減少しているが,この理由として,苛立ち変化の平均
の減少,参加者の慣れ,苛立ち要因の学習などが考えられる.
5
おわりに
一般的に利用されているマウスとキーボードを用いて,コ
ンピュータの不具合により利用者が苛立つ要因と,その時の
操作の抽出を試みた.アンケート調査と実証実験により,予
期しないフリーズなどの発生は利用者を苛立たせ,利用者の
不必要なマウスクリック・移動の操作によって苛立ちを検知
できる可能性を示した.今後は,実環境における長期実験に
より,苛立ち時の操作による苛立ち検知の評価が課題である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
加速度センサによる手指衛生行動識別手法
濱 恵美子 (マルチメディアエージェント講座)
1
はじめに
近年,医療機関における院内感染が社会問題となってい
る.その対策として,センサによって取得した看護師の手洗
いや消毒といった手指衛生行動を識別・評価し,必要に応じ
て警告を出すことが有効だと考えられる.手指衛生行動の識
別は従来の行動識別と比較して,識別対象のクラス数が多い
こと,継続時間が短い行動が存在することなどから困難な課
題である.本発表では,従来の行動識別手法をもとに,手指
衛生行動に適したパラメータを実験的に求め,その結果に基
づいて開発した行動識別手法について報告する.
2
加速度センサを用いた手指衛生行動識別手法
本研究では,看護師を対象としたシステムへの応用を前提
とし,患者のプライバシー保護や,本来の業務の妨げになら
ないことなどの制約から,図 1(a) に示す小型無線加速度セ
ンサを用いて行動を識別する.センサ装着位置は,同図 (b)
に示す左右上腕・胸ポケット・腰背部の 4ヶ所とする.100Hz
でサンプリングした加速度データをスライディングウインド
ウに分割し,ウインドウごとに「平均」,
「標準偏差」,
「エネ
ルギー」,
「周波数領域エントロピ」,
「相関係数」の 5 種類の
特徴量を求める.本研究では対象となる各動作の継続時間が
短いため,複数のクラスラベルが含まれるウインドウが発生
しやすい.そのようなウインドウはサンプルから棄却し,単
一のクラスだけが含まれるもののみをサンプルとして抽出す
る.抽出した特徴量に対し,識別対象の行動をラベルとする
教師有り学習を適用する.クラス分類器は,Support Vector
Machine (SVM) のペアワイズ手法を用いる.
3
実験と評価
データ収集 実際の現場に近いデータを取得するため,病院
の手洗い場において実験を行った.実験 1 では,手指衛生を
専門とする看護教員 1 人を対象とし,ガイドラインに示さ
れる正しい方法で行った手洗い・消毒のデータを取得した.
実験 2 では,現役看護師 5 人を対象とし,参加者自身が正
しいと思う方法で行った手洗い・消毒のデータを取得した.
データは 1 人 5 試行で,対象となるクラスは人手による観測
をもとに抽出し,図 2 の項目軸に示すように,手の各部分に
ついての「洗い」,
「濯ぎ」,
「消毒」の動作と蛇口開閉などの
動作,手袋着脱を識別対象とした.動作クラス数は,実験 1
で 40 クラス,実験 2 では新たに見られた「消毒液の右手掌
注ぎ」,
「手掌消毒」を加えた 42 クラスである.
ウインドウサイズの評価 まず,ウインドウサイズ (W) が
識別に与える影響について評価した.ウインドウサイズは,
手指衛生行動の平均継続時間が平均 1.6∼2.1 秒程度である
ことから,その前後の 64(0.64 秒),128(1.28 秒),256
(2.56 秒)の 3 種類について比較した.実験 1 のデータについ
て,試行に関する一つ抜き交差検定法 (Leave-one-trial out:
以下 LOTO) で評価した. 結果を図 2 に示す.ここで,ウイ
ンドウサイズが大きいと,複数の行動がウインドウ内に現れ
るため,抽出されるクラスの欠落数が増える.W=64 では
クラスの欠落はほぼ抑えられたが,W=256 では濯ぎの各動
作や左右の「手首洗い」などの半数以上のクラスでサンプル
数が 5 以下となり,W=256 ではサンプルが十分に獲得でき
ないクラスが多数存在することが示された.図 2 において,
(a) センサの外観
観測されたクラスでは平均 85%以上の適合率を得た.また,
実験 2 のデータに対して,参加者に関する一つ抜き交差検定
法により識別を行った結果,
「手袋装着」や「手拭き」といっ
た周期的な動きを含まないクラスでは,ウインドウサイズが
大きいほど適合率は高く,
「指先洗い」や「消毒液プッシュ」
などの瞬間動作や細かい動きを含む動作では,ウインドウサ
イズが小さいほど適合率が高くなっていることが示された.
センサ数の評価 加速度データは,図 1(b) の 4ヶ所のセン
サについて取得するが,識別に必ずしも全てのセンサを用い
る必要はない可能性がある.ここでは,実験 1 のデータに対
し,左右上腕の 2 つのみのセンサを用いた場合と,4 つのセ
ンサを用いた場合について LOTO で評価した結果について
述べる.全体として,各クラスの適合率は一部の濯ぎ・消毒
動作を除き,センサ 4 つの場合の方がやや高くなる傾向が
あった.また,センサ 2 つの場合では「指交差洗い」,
「手掌
濯ぎ」はそれぞれ「手掌洗い」,
「指交差濯ぎ」に誤識別され,
適合率が 0%となった.これは,
「手掌」と「指交差」の洗い
方を区別するには,上腕 2 つのセンサのみでは困難だという
ことを示す.
時系列情報を用いた識別の検討 ここまでで述べた SVM に
よる識別手法では,識別の際に各動作間の前後関係を考慮
していないため,時系列情報を用いた識別について検討す
る.時系列情報を用いたモデルとして,Dynamic Bayesian
Network(DBN) の最も単純なモデルを考える.これは 1 次
の隠れマルコフモデルと等価であり,識別の際には観測され
た特徴ベクトルに加え,前状態からの遷移確率を考慮する.
ただし,SVM と比較して学習・識別の際の計算コストが高
いため,DBN で用いる特徴ベクトルは,SVM で用いたも
のをもとに,主成分分析によって累積寄与率が 95%以上に
なるように次元数を削減したベクトルを用いる.実験 1 の
データに対して LOTO により SVM と DBN の手法を比較
すると,SVM では 90.4%,DBN では 92.9%の識別率が得ら
れた.一方,実験 2 のデータに対して同様の比較をすると,
識別率は SVM で 79.6%,DBN では 74.4%であった.これ
は,主成分分析によって特徴ベクトルの次元数を減らした際
に,実験 1 では各クラスの特徴が捉えられる空間へ変換され
たのに対し,実験 2 では,重要な成分が抜け落ちたことが考
えられる.このため,手洗い動作内,消毒動作内など類似す
る前後の動作間の誤識別が目立ち,誤識別の連鎖が起こった
と考えられる.
4
おわりに
本研究では,加速度センサを用いた手指衛生行動識別手法
について検討し,短い行動には小さいウインドウサイズが適
切であること,センサ 2 つでは識別が難しいクラスがある
こと,時系列情報を用いる場合,類似する動作の連続する部
分では誤識別の連鎖が起こり得るため,注意が必要であるこ
とを示した.今後は,DBN のモデルとして「手袋」,
「手洗
い」,
「濯ぎ」,
「消毒」の 4 つからなる上位階層を加えた階層
隠れマルコフモデルを適用することによって,時系列情報の
より有効な利用が期待できる.また,個人適応の考えをもと
に,個人間の識別に対応させることも今後の課題である.
(b) 装着位置
図 1: 加速度センサの外観とセンサの装着位置 図 2: ウインドウサイズによる平均適合率の変化 平成 21 年 2 月 13 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
3 次元環境における被写体追跡のための空間分割に基づくカメラパス生成
浜崎 裕史 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
ユーザがキャラクタを操作することで 3 次元環境を探索す
るアプリケーションが増えてきた.これらにおけるカメラの
制御として,被写体であるキャラクタを追跡するものがよく
用いられる.しかし,ただカメラが被写体を追従するだけの
単純なアルゴリズムでは,環境内にある障害物との衝突や,
障害物による被写体の遮蔽が起こる.これらを防ぐために,
衝突・遮蔽回避の制御条件をカメラの動き制御に加える必要
がある.また,環境は廊下や広間といった空間の組み合わせ
で構成される場合が多く,空間毎に異なった被写体の捉え方
をするようにカメラ制御条件を加えるものもある.これらの
制御条件を設定するには,カメラの制御を行うカメラプラン
ナーと呼ばれる人が,環境を詳細に把握し適切にプログラム
していく必要があるため手間がかかる.そこで本研究では,
制御条件を満たす被写体追跡のためのカメラパスを自動生成
する 2 つのアルゴリズムを提案する.
2
障害物との衝突と被写体の遮蔽の回避を伴う
カメラパス生成
衝突・遮蔽回避の研究は多いが,被写体を捉えるカメラ移
動が滑らかでなく,また被写体や障害物が動く動的環境には
適応できないといった問題があった.そこで,障害物とカメ
ラが交差しない領域を環境から取り出し,その領域内で被写
体を捕捉可能な地点までカメラを滑らかに動かすことによ
り,従来の問題点を解決するカメラパス生成アルゴリズムを
提案する.障害物とカメラが交差しない領域は,階層的なボ
クセル分割に基づくロードマップグラフ構築手法を用いて抽
出する.階層的なボクセル分割とは,環境を木構造 (kd 木も
しくは 8 分木) に基づく異なるサイズのボクセル群に分割す
るものである.また,ロードマップグラフとは,カメラが移
動できる領域をグラフ構造で表したものである.
2.1 アルゴリズム
本アルゴリズムは,ロードマップグラフ構築処理とカメラ
パス生成処理からなる.最初に環境を階層的にボクセル分割
し,障害物と交差しないボクセルの集合を取り出す.そして
各ボクセルを拡大して重複する領域を作る.これより,取り
出したボクセルをノードとし,重複する領域をエッジとする
カメラのロードマップグラフを構築する.このグラフ上でカ
メラを動かすことで,障害物との衝突を回避する.次にグラ
フ上で被写体を含むボクセルとカメラを含むボクセルの間
の最短経路を求め,その経路に沿ってカメラを動かすことで
カメラパスを生成する.ボクセルは凸包であるため,カメラ
が被写体を含むボクセルに到達した場合,カメラは必ず被
写体を捉えることができ,被写体の遮蔽を回避できる.さら
に,カメラを動かす際には,フックの法則に基づく力を加え
ることにより,被写体を追跡する滑らかなカメラパスを生成
する.また本アルゴリズムは,処理に僅かな変更を加えるこ
とで,動く障害物が存在する動的な環境にも対応できる. 構
築したグラフから動く障害物と交差しているボクセルを除去
し,かつカメラパス生成の際にフックの法則に基づく障害物
からの反発力を考慮する.これより,動的な環境においても
障害物を避け,被写体を捉える滑らかなカメラパス生成を実
現する.
2.2 カメラパス生成結果
動く障害物が存在しない静的な環境でカメラパスを生成し
た結果を図 1 に示す.障害物を回避し,被写体を捉える滑ら
かなカメラパスを生成できていることがわかる.また動的環
境においても図 2 のように制御条件を満たすカメラパスを生
成できたことがわかる.また,ボクセル分割に用いる木構造
として kd 木と 8 分木があるが,両者でボクセル群の空間充
填率が同じ場合,kd 木の方がより少ないボクセル数で空間
を満たすことができる.これは経路探索コストの減少を意味
し,静的環境では,kd 木を用いる方がカメラパス生成の効
率が良いと言える.しかし逆に考えると,これは kd 木の方
がボクセル 1 個当りのサイズが大きいことを意味するため,
動く障害物と交差したときに取り除かれるグラフの領域が増
加する.従って,動的環境では経路探索コストだけでなくカ
メラの可動領域も減少するため,一概に kd 木が良いとは言
えず,カメラプランナーは場合に応じて両木構造を使い分け
る必要がある.
3
環境の構造による被写体の捉え方の変更を
伴うカメラパス生成
環境が広間や廊下などの形・広さが異なる空間の組み合わ
せで構成されている場合,環境の構造に基づいて被写体の捉
え方を変化させたい場合がある.本章では,これを制御条件
としたカメラパスの自動生成について述べる.事前に,空間
毎にカメラの動きを用意しておくことで,任意の環境におい
て被写体の捉え方の変更を伴うカメラパスを生成するアルゴ
リズムを考案し,実装する.
3.1 アルゴリズム
本アルゴリズムを実現するためには,環境から自動的に構
造を抽出し,その構造に応じてカメラの動きを設定する必要
がある.そこで環境の構造抽出のために環境を仕切り毎に分
割し,分割した空間 (セル) 毎に被写体の捉え方を変更する
アルゴリズムを提案する.まず環境を仕切り毎に分割するこ
とができるセル・ポータルグラフ構築手法を用い,セルを取
り出す.そしてセル毎に,事前にカメラの動きを設定してお
いた空間と比較し,最も類似度が高い空間において設定した
カメラの動きをセルに適用する.実装例では,両者の空間を
形状で比較することで,環境の構造によって被写体の捉え方
を変更するためのカメラパスを生成する.
3.2 カメラパス生成結果
図 3 の環境で試作システムを動かし,環境の構造抽出のた
めのセル分割処理と,セル毎にカメラの動きを変更する処理
を実行した.この結果,環境の構造に応じて被写体を遠方か
ら,あるいは近方から捉える等のカメラパスが生成されたの
を確認した.
4
おわりに
本研究では,空間分割により設定した制御条件を満たす被
写体追跡のための 2 つのカメラパス生成アルゴリズムを提案
した.最初に障害物との衝突と被写体の遮蔽回避の実現のた
めのボクセル分割に基づくカメラパス生成,次に環境の構造
により被写体の捉え方を変化させるためのセル分割に基づく
カメラパス生成のアルゴリズムを提案した.今後,前者につ
いては,動的環境でより効果的なロードマップグラフを構築
するための kd 木と 8 分木の比較,後者については,空間分
割精度向上を目指しセル・ポータルグラフ構築手法の改良,
また,空間の比較精度向上のために他の比較要素の検討など
をしていきたい.
䉦䊜䊤
㓚ኂ‛
ⵍ౮૕
䉦䊜䊤䊌䉴
ⵍ౮૕
䉦䊜䊤
䉦䊜䊤䊌䉴
図 1: 静的環境
ⵍ౮૕䈱ᝒ䈋ᣇ1
ⵍ౮૕
ⅣႺ
േ䈒㓚ኂ‛
図 2: 動的環境
ⵍ౮૕䈱ᝒ䈋ᣇ2
ⵍ౮૕
図 3: 環境の各空間における被写体の捉え方の違い
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
インタラクティブな 3 次元仮想環境のためのサーバレンダリングに関する研究
安田 敏宏 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
ネットワーク経由で 3 次元仮想環境を扱うコンテンツが増
えている.これらの多くはクライアント側で仮想環境を構築
するクライアントレンダリングを用いている.しかし,この
手法は仮想環境構築の精度や速度がクライアントのスペック
に依存し,専用のプラグイン等が必要であるという問題があ
り,エンドユーザへの普及を妨げている.
一方,サーバ側で仮想環境を構築し,クライアント側には
視点画像のみを送信するサーバレンダリングは,クライアン
ト側の処理量を大幅に軽減することができ,スペックに依存
しない仮想環境の構築が可能である.しかし,サーバ側にか
かる負荷のためにリアルタイムな応答が困難であるという欠
点があり,小規模な仮想環境やリソースの不足した携帯端末
向けの仮想環境など,限定的な使用にとどまっている.
そこで本研究では,誰もが容易に利用可能な 3 次元仮想環
境を目指し,サーバレンダリングの利点を最大限に活かした
仮想環境の実現を目的とする.具体的には,サーバ側の描画
エンジンの切り替えにより多様な画像が出力できることを利
用した,クライアント側の表示装置によらない仮想環境の実
現や,既存のウェブ技術との親和性を保持できることを利用
した,ウェブブラウザ上での 3 次元仮想環境の実現が可能と
なる.その中で本研究では,ウェブブラウザ上でのインタラ
クティブな 3 次元仮想環境の実現を例に,CSS を用いた負
荷軽減手法を提案し,その有用性を示す.
2
ウェブブラウザ上での 3 次元仮想環境の実現
2.1 提案手法
サーバレンダリングを用いて,既存のウェブブラウザのみ
でインタラクティブな 3 次元仮想環境を実現する手法を提
案する.さらに,サーバ側の負荷軽減のため,既存のウェブ
技術との親和性を活かし,CSS(Cascading Style Sheets) を
用いた擬似画像提示による画像生成回数の削減手法も提案す
る.ウェブブラウザは Web を利用する際に最もよく使われ
るツールであり,ほとんどの端末で標準に搭載されている.
そのため,PC 初心者であっても扱いやすい仮想環境を提供
することができる.また,受信した視点画像をウェブブラウ
ザで表示することから,専用のプラグイン等のインストール
も不要である.
2.2 サーバレンダリングによる仮想環境の構築
サーバとクライアントの機能は次のようになっている.
サーバ: サーバ側では,クライアント側からレンダリング
条件が送られると,あらかじめ構築された仮想環境の視点位
置などを変化させ,視点画像を生成する.そして,クライア
ント側に該当画像のアドレスを送信する.
クライアント: クライアント側では,ユーザのインタラク
ションに応じたレンダリング条件をサーバ側に送信する.そ
して,受信した画像アドレスを参照し,ダウンロードした画
像をウェブブラウザ上に表示する.
2.3 画像生成回数の削減手法
サーバ側の負荷軽減手法として,CSS を用いた擬似画像
提示による画像生成回数の削減手法を提案する.一般的に,
仮想環境内の閲覧では,目的のオブジェクトを探し回る探索
タスクと,そのオブジェクトをじっくり閲覧する観察タスク
を繰り返している.そして,これらはインタラクションの間
隔により区別され,短い場合は探索タスク,長い場合は観察
タスクと判断できる.そのため,探索タスク中は画像精度よ
りも更新速度が重要とされており,また観察タスク中は更新
速度よりも詳細な画像が必要とされる.そこで,タスクに応
じて画像精度を優先した高精細画像と,更新速度を優先した
擬似画像を切り替えることで,サーバ側の画像生成回数を削
減する.提案手法では,この擬似画像提示に CSS を用いる.
まず,各オブジェクトをその周囲から 1 度刻みでレンダリン
グした画像をあらかじめサーバ側にキャッシュしておく.そ
して,クライアント側から新たなレンダリング条件を受信す
ると,サーバ側で各オブジェクトの視点画像上での位置と大
きさを算出し,それをクライアント側に送信する.クライア
ント側では,そのデータを基に必要なオブジェクトの画像を
CSS を用いて配置することで擬似画像を提示する.
3
実装結果
サーバは,CPU: Pentium 4 3 GHz,メモリ: 1 GB,GPU:
NVIDIA GeForce 6600GT(128 MB) を搭載した PC 上で構
築した.また,OS は Windows XP で,Apache HTTP Server
2.2.4 および,PHP 5.2.4 を動作させており,クライアント・
サーバ間の通信は 1 Gbps の LAN 上で行った.その結果,
ウェブブラウザのみで 3 次元仮想環境を実現できることを
確認した.また,図 1(a) に CSS を用いた提案手法により生
成された擬似画像,図 1(b) に同一視点位置からの高精細画
像を示す.これらの図から,擬似画像は自動車モデルのアス
ペクト比など,一部オブジェクトの形状が正しく再現できて
いないものの,各オブジェクトの位置や前後関係は再現でき
ており,十分に仮想環境の状況を把握できる品質であること
が分かった.また,擬似画像から高精細画像への切り替えの
際に違和感はなく,インタラクションの間隔によって探索タ
スクから観察タスクへスムーズに移行できた.また,評価と
して高精細画像と擬似画像の場合について,応答速度を測定
した.対象とする仮想環境は,オブジェクト数が 200 個,ポ
リゴン数が 4,175,600 個で構成されている.また,提示画像
を 640×480 pixel とし,画像生成時間,クライアント処理時
間,転送・表示時間の項目別に 100 試行の平均値を測定し
た.表 1 に示す測定結果から,擬似画像提示時には,高精細
画像提示時に比べて応答時間が 75.4%短縮できていることが
分かる.
4
おわりに
本研究では,誰もが容易に利用可能な仮想環境の構築を目
指し,サーバレンダリングの利点を最大限に活かした実現例
の 1 つとして,CSS を用いたウェブブラウザ上でのインタ
ラクティブな 3 次元仮想環境を実現した.
今後は,ウェブブラウザ上での 3 次元仮想環境におけるさ
らなる応答時間の短縮手法を検討し,100 msec 以内のリア
ルタイムな応答を目指す.また,サーバレンダリングを用い
た他の実現例を検討し,実装および評価をする予定である.
(a) 擬似画像
図 1: 結果画像
(b) 高精細画像
表 1: 測定結果 (msec)
提示画像
画像生成
クライアント処理
転送・表示
合計
高精細画像
909
13.1
202
1124
擬似画像
45.0
15.1
218
278
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
毛状物体を用いた視触覚インタフェース
山抱 加奈 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
毛を撫でる行為は,人と生物との間の直接的なコミュニ
ケーション手段の一つであり,人は毛状物体を介して方向や
圧力,触感,感情といった多くの情報をやり取りしている.
例えば,人は犬や猫を撫でる際に無意識に毛並に沿って手を
動かし,その行為によって安らぎや温かみを感じる.また,
このような人と生物との間の直接的なコミュニケーションを
ヒューマンコンピュータインタラクション (HCI) に応用す
ることで,直感的なユーザインタフェースを実現する研究が
盛んになっている.
そこで本研究では,色,柔らかさ,細長い形状といった毛
状物体の特徴を活かした視触覚インタフェースを提案する.
提案システムでは,プラスチック製の光ファイバ (POF),カ
メラ,プロジェクタという簡単なシステム構成を用い,毛
状表面における手指検出と画像出力によって,毛状インタ
フェースとのインタラクションを実現する.
2
毛状タッチディスプレイ
提案システムの構成を図 1 に示す.提案システムでは,POF
を用いた毛状物体のディスプレイとカメラ,プロジェクタに
よって手指検出と画像出力を行う.
2.1 POF を用いたディスプレイ
提案システムでは,多数の POF 束を束ねた片側断面をイ
ンタラクション面とし,もう片側は各束を 2 分割して一方を
カメラによる撮影面,もう一方をプロジェクタによる投影面
とする.今回の試作機では,85 × 85 mm のインタラクショ
ン面に対して 1 本あたり 500 mm の POF を 28,800 本用い
る.POF のインタラクション面の長さを変更することによ
り様々な硬さの毛状物体を表現することができる.
2.2 手指検出手法
プロジェクタからの可視光が手指表面において拡散反射す
る原理を用いる.プロジェクタ側の投影面から高輝度の単色
光を出力した状態でインタラクション面に触れると,手指表
面により拡散反射された光がカメラ側の POF 束に入射し,
撮影面において触れた部分の輝度が高くなる.得られたカメ
ラ画像に,背景差分を用いて 2 値化処理し,さらにモルフォ
ロジ処理を施してノイズを除去することで,検出画像を生成
する.
2.3 画像出力手法
手指表面の拡散光による輝度変化と描画による輝度変化を
区別して正確な入力検出を行うために,手指検出用の単色光
と描画用の画像を時分割で表示する.カメラ側ではプロジェ
クタの周波数と同期して開閉する液晶シャッタを利用する.
単色光が投影されている場合に液晶シャッタを開け,描画用
画像が出力されている場合に閉じることで,単色光に対する
手指の拡散光をカメラで取得することができ,手指検出と画
像投影を同時に実現することができる.
2.4 インタラクション
提案システムでは,例えば図 2 のように触れた部分の毛状
物体の色が変化するといったインタラクションが行える.入
力検出にカメラによる画像認識を用いているため,指による
インタラクションだけでなく,手の平全体を用いて撫でると
いったインタラクションも可能である.また,平らで硬い従
来のディスプレイでは感じることができないような,毛状物
体特有の触感もフィードバックとして得ることができる.
2.5 評価
提案システムを用いて最小のインタラクション面積に関し
て実験を行った.その結果,高さ 110 mm の POF 束に対し
て直径 15 × 15 mm まで認識できることを確認し,撫でる
インタラクションに対応できることを確認した.また,8 人
に提案システムでインタラクションを行ってもらいアンケー
ト調査を実施したところ,ディスプレイに奥行きがあり反発
力が感じられる,触り心地がよいといった意見が得られた.
また,毛状物体を用いたインタフェースに求める硬さは人に
よって異なることが分かった.
2.6 応用例
応用例としては,撫で方によってブラシストロークが変化
するペイントシステムなどが考えられる.将来的には,ぬい
ぐるみロボットの表面に設置して撫で方によって感情を表現
することや,美術館などの公共施設の床に敷き詰めて,外観
を損なうことなく順路を提示するなどの用途を考えている.
3
おわりに
毛状物体の特徴を活かした視触覚インタフェースとして,
毛状タッチディスプレイを提案し,実装して評価実験を行っ
た.今後はインタラクション面を拡大し,ディスプレイの認
識精度の評価を行う予定である.さらに,撫でるインタラク
ションに加え,引っ張る,ねじる,分けるなどといった毛状
物体の形状変化を検出するための手法を検討したい.
図 1: システム構成
図 2: インタラクションの様子
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
Web アプリケーション設計支援のための送受信データに基づいた画面遷移グループ分割方式
榎本 太紀 (ビジネス情報システム講座)
1
はじめに
近年、Web の普及により Web アプリケーションが広く利
用されている。このような Web アプリケーション開発の要
求定義段階で用いられている画面遷移図の作成には多大な
時間や労力を要する。これを解決するため、過去の成果物の
画面遷移図を機能ごとに分割し、それを再利用することで画
面遷移図の作成支援を行うシステムを開発中である。本研究
では、画面遷移図作成システムにおいて使用する画面遷移グ
ループの自動作成方法を提案する。
2
はこのような場合、1 つ小さい閾値における画面遷移グルー
プを採用する。ただし、単独な画面に分割された場合でも、
5 番の画面のように、1 つ小さい閾値の時の画面遷移グルー
プ(図中の 3、4、5)内に、同じ閾値によって新たな別の画
面遷移グループ(図中の 3、4)が作成されている場合、送
受信データ数が多い画面で構成された画面遷移グループほど
より機能が集約されていると考えられるため、単独に分割さ
れた画面を同一の画面遷移グループとして扱わない。
2.1 画面遷移図作成支援システムの概要
過去に作成した Web アプリケーションの画面遷移図を、
再利用しやすい機能単位(以下、画面遷移グループ)に分割
し、それを再利用することで画面遷移図の作成を支援するシ
ステムを考える。図 1 にシステムの概要を示す。
各画面の
ファイル
HTML
1
1
( )機能ごとに画面遷移グループ分割
i
活用
画面遷移
グループ
( )画面遷移
グループ抽出
ii
画面遷移グループ
・
ファイル ・ 遷移関係
HTML
入力:機能名
格納 データベース
システム
ユーザの作業
本研究で取り組む
画面遷移グループ作成部分
図 1: 画面遷移図作成支援システムの概要
本システムは過去のアプリケーションを構成する各画面の
HTML ファイルから画面遷移グループを作成しデータベー
スに蓄える機能と、新規にアプリケーションを開発する際の
要求に合わせた画面遷移グループを用いて新システムの画面
遷移図を作成する機能で構成される。本研究では、画面同士
の遷移関係から画面遷移グループを作成する部分の作成に取
り組む。
2.2 送受信データに基づいた画面遷移グループ分割手法
ある機能を実現するための画面間では、その役割を果たす
ためにデータの送受信が行われる可能性が高い。そこで、画
面遷移時に送受信されるデータ数を利用し画面遷移グループ
を作成することを考える。このとき、画面間で送受信される
データ数が多い画面同士ほど、より機能が集約された画面遷
移グループを構成すると考えられるが、画面遷移グループを
分割する際の送受信データ数の閾値を画一的に設定して分割
した場合、アプリケーションや機能の違いによって、機能ご
とに分割されないという問題が生じる。そこで、送受信デー
タ数の閾値を周辺の画面間の送受信データ数を考慮して設定
することで、一定のまとまりのある画面遷移グループ分割を
行う。
本手法では、まず、送受信データ数の閾値がより大きい場
合に作成されるグループを画面遷移グループとして採用す
る。しかし、単に閾値を大きく設定するだけでは、図 2 の
中の 1、2 番の画面のように同一の機能を果たしているにも
かかわらず、単独の画面に分割される場合がある。本手法で
4
1
送受信データ数
3
2
2
2
5
設定した
設定した送受信
した送受信データ
送受信データ数
データ数 = 1
新システムの
画面遷移図
画面同士の
遷移関係を抽出
1つ小さい送受信データ数
のグループを採用
3
画面遷移グループ分割方式
1
データ数
上昇
4
2
単独の画面
5
設定した
設定した送受信
した送受信データ
送受信データ数
データ数 = 2 そのまま
図 2: 画面遷移グループ分割の様子
評価実験
3
提案手法によって機能ごとに分割した画面遷移グループが
作成できるか検証するために、オープンソースの Web アプ
リケーション 15 件より、人手で機能ごとに分割した画面遷
移グループ 139 個と提案手法によって作成した画面遷移グ
ループがどの程度一致しているのかを評価した。また、比較
のため、画面遷移グループを分割する際の閾値を固定して作
成した画面遷移グループについても同様の評価を行った。
F
値
128
1
全作
グ成
ルさ
120 ー れ
90 プ た
数
132 150
F値
0.8
0.6
60
0.4
30
0.2
0
1
2
3
4
5
6
7
提案 0
グループ分割の閾値 手法
8
9 10 11 12 13
図 3: 提案手法と送受信データ数を固定した場合の比較結果
F値
ショッピングカート
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
防火対象物管理ソフト
(Zen Cart)
ショッピングカート(ec-cube)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13
グループ分割の閾値
提案
手法
図 4: 各アプリケーションにおける比較結果
図 3 より、人手で作成した画面遷移グループのうち 8 割
以上を、提案手法によって作成できた。また、閾値を 2 に設
定して画面遷移グループを抽出した場合と提案手法では、ほ
ぼ同様の結果が得られているが、図 4 のように、画面遷移
グループとして分割する際に最適な閾値は Web アプリケー
ションによって異なる。提案手法では、このような値を人
手で発見し、設定することなく画面遷移グループを抽出で
きる。
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
定性 · 定量融合シミュレーションにおける事業リスク要因発見方式
根来 啓輔 (ビジネス情報システム講座)
はじめに
1
企業において、適切な事業シナリオを策定するため、事業
構造を構成する要素とそれらの因果関係を因果構造モデル
で表現し、シミュレーションによってシナリオを評価する。
一般的に、事業要因は定性的な情報と定量的な情報を含む
ため、本研究では、それらを同時に扱うことが出来る定性・
定量融合シミュレーションを用いる。定性・定量融合シミュ
レーションは、不確実な因果関係において、乱数で因果関係
のパラメータ値を決定し、入力ノードから出力ノードまでの
影響値伝播が十分な回数行われることで、出力ノード値の
確率分布が出力される。従って、出力分布内には、シナリオ
策定者が望ましくないと判定するケース(以下、リスクケー
ス)が存在する。本研究では、このリスクケースの割合を増
減させる要因(以下、リスク要因)の発見方式を提案する。
リスク要因の発見方式
2
2.1 発見対象とする要素
本研究でリスク要因となるのは、各ケースの分岐を発生さ
せるシミュレーション実行要素であり、かつシナリオ策定者
にとって事業的な解釈が可能な要素でなければならない。そ
こで、リスク要因として発見対象とする要素を、リスクケー
スの割合を増減させる寄与度とする。寄与度とは、モデル内
で複数の定性アークが合流する場合に、各合流アークに対し
て割り当てられる影響の強さのことである。寄与度は、合流
アークに与えられた影響の大小関係に基づいて発生する乱数
値として決定される。例えば、二つの事業要素の影響が合流
する際には、小さい影響には [0, 0.5] 区間内の一様乱数とし
て寄与度が決定され、和が 1 になるように他方の寄与度が
決定される。仮に、小さい方の影響の寄与度が 0.4 付近でリ
スクが増加することが分かった場合、二つの事業要素の影響
の強さに差が少ないときに事業リスクが高まることを意味
する。
2.2 寄与度影響特性によるリスク要因の発見
リスク要因として利用者が求める寄与度は、厳密な定量値
ではない。そこで、寄与度が生成される区間に対して、一定
の刻み幅で区間分割を行い、それらの区間を探索することに
よるリスク要因の発見が考えられる。各分割区間の範囲内で
寄与度の生成を固定して時系列のシミュレーションを行い、
リスクケース増減の検証を全ての分割区間で行う。しかし、
全区間探索によるリスク要因の発見には、モデルにおける定
性アークの合流箇所が増えるに従って、探索区間の組み合わ
せ数が増し、指数オーダーで探索時間が増加するという問題
点がある。
各ケースに対する寄与度影響特性
ノード
の値
確率
一回のシミュレーション結果(ケース)
リスクケース 非リスクケース
そこで、一度実行したシミュレーションの実行過程におい
て、リスクケース・非リスクケースに影響を与えた寄与度の
特性を抽出することで、リスク要因の発見を行う。実際に、
各ケースに影響を与えた寄与度は、リスク要因となる可能性
が高い。よって、図 1 に示すように、各ケースに影響を与え
た寄与度の特性を抽出し、リスク要因候補を絞ることによっ
て、リスク要因となる可能性が低い寄与度の生成区間につい
てのシミュレーション検証を削減する。
寄与度の影響特性を抽出するために、最終ステップの直前
ステップにおいて、リスクケース集合、非リスクケース集合
の各々に影響を与えた寄与度の確率分布を比較する。寄与度
の確率分布は、刻み幅により分割された、寄与度の各発生区
間における相対度数として表される。図 2 に示すように、各
ケースに対する影響寄与度の確率差が閾値を超えた区間を
リスク要因候補とする。最後に、各リスク要因候補によるリ
スクケースの増減をシミュレーションによって検証する。シ
ミュレーションの結果により、リスクケースの増減が確認さ
れる寄与度の発生区間を、リスク要因として決定する。
0 .4
ステップn -1の寄与度の確率分布
非リスクケース
リスクケース
確率
0 .3
リスク確率 - 非リスク確率 > 閾値
リスク増加要因候補
非リスク確率 -リスク確率 > 閾値
リスク減少要因候補
0 .2
0 .1
0
リスク増加要因候補
0.1
0
0.2
0.3
リスク減少要因候補
0.4
0.5
寄与度
(影響:小)
図 2: リスク要因候補の決定
3
評価実験
提案方式の評価実験として、寄与度の全区間探索によって
求まるリスク要因に対して、提案方式によって決定されるリ
スク要因候補の再現率、並びに適合率を検証した。リスク条
件を与える対象として、二つの定性アークの合流を一箇所含
む定性 · 定量融合モデルにおいて、10 ステップの時系列シ
ミュレーションを 1 万回施行したときの出力値を扱った。最
終ステップの出力ノードの値に対する望ましくない領域をリ
スク条件として与え、リスク要因の定義を、リスクケース数
の増減数が 800 件以上となる寄与度の生成区間とした。
全区間探索によるリスク数の変化とリスク要因、また、各
ケースに対する影響寄与度の確率差から決定されるリスク要
因候補を図 3 に示す。図 3 より、提案手法によるリスク要因
候補の再現率、適合率はともに 100%であることが確認でき
る。また、本実験では寄与度 [0.2, 0.3] のシミュレーション
検証をすることなく、リスク要因発見までの時間を 20%削減
できた。さらに、定性アークの合流箇所が二つある場合は、
この時間削減率が 44%となることも確認され、提案方式の
有効性が示された。
リスク増加数
非リスクケース
確率差
全ケース
(一様分布)
影響寄与度の確率分布の差
(リスク確率-非リスク確率)
リスクケース
数の変化
1+1500
500
1 +1000
0 0+0
+
5 +500
00
寄与度
リスクケース
0
1
2…
0
n -1 n tk
寄与度影響特性を抽出
0.1 ~ 0.2 0.25 0.3 ~
0.5
リスク要因候補
+
0
- 5 -500
00
0
- 1 -1000
000
候補のみをシミュレーション検証
- 1 -1500
500
0 - 0 .1
0 .1 - 0 .2
0 .2 - 0 .3
0 .3 - 0 .4
0 .4 - 0 .5
0 .2
0.2
0 .1
0.1
00
-0.1
- 0 .1
寄与度の区間
(影響:小)
-0.2
- 0 .2
-0.3
- 0 .3
-2000
図 1: 寄与度の特性抽出によるリスク要因の発見
0 .3
0.3
リスク減少数
リスク増加要因・減少要因
リスク増加要因候補・減少要因候補
図 3: リスク要因とリスク要因候補