高齢者におけるパズフロキサシンの体内動態と投与量の - 日本TDM学会

原 著
高齢者におけるパズフロキサシンの体内動態と投与量の検討
*1
2
1
1
3
2
三星 知 , 福本恭子 , 山田仁志 , 長井一彦 , 田中真一 , 上野和行
Evaluation of Pazufloxacin Pharmacokinetics and Dosage in Elderly Patients
*1
2
1
Satoru MITSUBOSHI , Kyoko FUKUMOTO , Hitoshi YAMADA ,
1
3
Kazuhiko NAGAI , Shinichi TANAKA , Kazuyuki UENO
2
1
Department of Pharmacy, Kaetu Hospital, 1459-1, Higashikanazawa, Akiha-ku, Niigata-shi, Niigata, 956-0831 Japan ,
2
Department of Pharmaceutical Sciences, Niigata University of Pharmacy and Applied Life Sciences , Department of
Cardiology, Kaetsu Hospital
3
12.4 μg/mL, 14.0-48.8%, and 0.294-1.066, respectively.
ABSTRACT
Approximately 40% of PZFX was eliminated by HDF
Pazufloxacin(PZFX)is a member of the fluoro-
(dialysis time : 8 h)
. In vitro study revealed that the
quinolone class of antimicrobial agents, which have
protein binding ratio was approximately 35%, and pro-
broad-spectrum activity against Gram-positive and
tein binding was mediated by not only albumin but
Gram-negative bacteria, including beta-lactamase pro-
also globulin. These data suggest that careful adminis-
ducers and Pseudomonas aeruginosa. Because of the
tration of PZFX to elderly patients is required due to
clinical and bacteriological efficacy of PZFX, it is an
large interindividual variability. When PZFX is admin-
important antimicrobial drug for treating serious infec-
istered to critically ill patients, there is a need to con-
tions. However, few studies have investigated the use
sider protein binding ratio and to ensure careful moni-
of PZFX in the elderly or in elderly patients receiving
toring.
hemodiafiltration(HDF). We evaluated serum pazufloxacin concentration and protein binding ratio in 10
Keywords : Pazufloxacin, C/D ratio, Hemodiafiltration,
elderly patients including 1 patient receiving HDF.
Protein Binding Ratio
PZFX serum concentrations were measured by HPLC.
In 9 patients who received PZFX, serum concentra-
要 旨
tion, protein binding ratio, and the ratio of serum
PZFX concentration to dose per body weight(C/D
パズフロキサシン(PZFX)はフルオロキノロン系抗
ratio)were 4.77 ± 2.78 μg/mL, 29.0 ± 6.7%, and 0.241
菌薬でベータラクタマーゼ産生菌や緑膿菌を含むグラム
± 0.130, respectively(mean ± SD)
. The pleural effu-
陽性からグラム陰性菌にまで幅広いスペクトラムを有す
sion concentration of PZFX was 4.58 μg/mL, and
る。また,
PZFX penetrated pulmonary tissues well. In the
により重症感染症治療における重要な抗菌薬である。し
patient receiving HDF, the ranges for serum concen-
かし,
tration, protein binding ratio, and C/D ratio were 4.1-
る報告は少ない。我々は高齢者におけるパズフロキサシ
1
*
新潟県新潟市秋葉区東金沢1459番地1)
Kyoko FUKUMOTO, Kazuyuki UENO
新潟薬科大学薬学部(〒956-8603
3
高齢者や血液透析濾過(HDF)施行患者におけ
Satoru MITSUBOSHI , Hitoshi YAMADA, Kazuhiko NAGAI
新潟勤労者医療協会下越病院薬剤課(〒956-0831
2
PZFXは臨床的あるいは微生物学的な有効性
新潟市秋葉区東島265番地1)
Shinichi TANAKA
新潟勤労者医療協会下越病院循環器科(〒956-0831
新潟県新潟市秋葉区東金沢1459番地1)
受付日:2012. 12. 14
受理日:2013. 2. 6
TDM研究
─ ─
46
た。アルブミンおよびグロブリンはそれぞれヒト血清由
ン投与量と蛋白結合率を検討したので報告する。
血清PZFX濃度はHPLC法で測定した。対象患者は 1
例のHDF施行患者を含む10例の高齢者で,
高齢者 9 例
のPZFX濃度, 蛋白結合率, C/Dの平均±標準偏差はそ
れぞれ4.77±2.78 μg/mL,
29.0±6.7%,
来アルブミンおよびγ-グロブリン(共に生化学用,
光純薬), 血清は市販ヒト血清(Millipore coporation)
を用いた。
0.241±0.130で
あった。また, 胸水PZFX濃度は4.58 μg/mLで, 肺への
2.
蛋白結合率,
14.0∼48.8%,
C/Dはそれぞれ4.10∼12.40 μg/mL,
0.294∼1.066であった。また,
8 時間の
血清中PZFX濃度測定方法
採血した血液から遠心分離により血清を得て, 血清中
組織移行性は良好と考えられた。HDF施行患者のPZFX
濃度,
和
PZFX濃度および蛋白結合率を測定した。
1 )抽出方法
HDFにより約40%のPZFXが除去された。基礎的検討で
血清100μLに内標準物質(IS ; レボフロキサシン 5 μg/
の蛋白結合率は約35%で, アルブミンだけでなくグロブ
mL)100 μLとpH 7.4リン酸緩衝液900 μLを加え撹拌し
リンでも結合を認めた。
試料とした。固相抽出カラム(Oasis HLBÑ, WATERS)
従って, 高齢者では個体間変動が大きく慎重な投与が
必要であり,
重症感染症患者にPZFXが投与される場合
にメタノール 1 mLと水 1 mLを各800 rpmで 1 分間, 次
に試料 1 mLを1000 rpmで 3 分間流した。その後,
は,PZFXの蛋白結合率も考慮した投与方法を考えなく
メタノール 1 mLを1000 rpmで 2 分間,
てはならない事が示唆された。
1 mLを1000 rpmで 2 分間流し,
5%
次に移動相
溶出液を回収した。回
収した溶出液100 μLをHPLC装置に注入した。
索引用語 : パズフロキサシン, C/D, 血液透析濾過, 蛋
2 )HPLC条件
白結合率
使用したHPLC装置はLC-10ATvpシステム(島津製作
所),検出器はRF-10AXL(島津製作所)を用いた。分
析カラムはshim-pack CLC-ODS Ø 4.6 mm×250 mm
はじめに
(島津製作所)を用いた。移動相は0.5%トリエチルアミ
パズフロキサシン(PZFX)はフルオロキノロン系の
1)
殺菌性抗菌薬で , 感染症の主要原因菌種に良好な抗菌
2)
活性を示す 。また, 近年 1 回1000 ㎎ 1 日 2 回投与の適
3, 4)
応が承認され細菌性肺炎や敗血症に使用されている
PZFXの体内動態の特徴としては,
率は約90%
5, 6)
で腎排泄型薬物であり,
蛋白結合率の平
6)
波長は励起278 nm,
7)
0.05μg/mLであり,
腎代替療法における除去率は比較的高いと予測され, 透
析毎の投与を推奨されている 。従って,
カラム温度は40 ℃,
日間差および日内変動は 5 %以内で
あった。
3.
PZFX蛋白結合率の測定
限外濾過法(セントリカット Ñ ; クラボウ)を用い,
血液透析(HD)での除去率が45.2%であり,
8)
蛍光445 nm,
分布容積の平
均値±標準偏差は0.867 ± 0.131 L/kgと報告 されてい
る。また,
トニトリル(171 : 29)混液, 流速は1.2 mL/min, 測定
注入量は100μLとした。本測定方法における測定限界は
。
尿中未変化体排泄
均値±標準偏差は30.7 ± 8.9%と低く ,
ン含有25 Mリン酸二水素カリウム溶液(pH 3.0)/アセ
各症例のPZFX蛋白結合率の測定を行った。また,
基礎
高齢者では腎
的検討ではpH 7.4リン酸緩衝液に市販ヒト血清, ヒト血
機能の低下などによりPZFXの体内動態が変動する可能
清由来アルブミンおよびヒト血清由来γ-グロブリンを
性が考えられるが,
高齢者や血液透析濾過(HDF)施
加え種々濃度のPZFXを添加し試料を作成した。患者サ
行患者における報告は少ない。我々は高齢者を対象とし
ンプルおよび基礎検討の各試料は37 ± 0.5 ℃で恒温槽
てPFZXを投与した症例を経験し,
にて振とう後, 室温にて限外濾過し, その蛋白結合率を
その体内動態を検討
するべく血清中濃度のモニタリングを実施した。併せて
測定した。
PFZXの基礎検討として蛋白結合率に関する検討も行っ
4.
た結果, 興味ある知見が得られたので報告する。
対象はすべて70歳以上の高齢者10例で, そのうち 9 例
対象と方法
1.
患者背景
(表 1 ; 症例①∼⑨)においては,PZFXを 1 回500 ㎎,
試薬
1 日 2 回,
30分 か け て 点 滴 静 脈 注 射 に よ り 投 与 し ,
PZFXの原末は大正富山医薬品株式会社より提供を受
PZFX投与前に採血を行った。また, そのうち 1 例(表
けた。内標準物質として用いたレボフロキサシンは和光
1 ; 症例⑤)は胸水中濃度も測定した。また, 投与終了
純薬より購入した。アセトニトリルは高速液体クロマト
時の臨床効果を臨床症状, 検査所見などの推移から以下
グラフィー(HPLC)用規格品(和光純薬)を用いた。
の基準を参考に「有効」
, 「無効」の 2 段階で判定した。4)
そのほかの試薬類は全て試薬特級品(和光純薬)を用い
─ ─
47
①有効 : 投与終了時までに平熱化傾向を認め, かつ末
Vol. 30 No. (
2 2013)
当研究計画はヘルシンキ宣言に則り作成され, 当院倫
梢血中白血球数が改善したもの
②無効 : 平熱化傾向および末梢中白血球数の改善傾向
理委員会にて審査・承認された。患者には文書で説明し
同意を得た。
が認められないか, 悪化したもの
HDF患者(表 1 ; 症例⑩)はHDFを 1 日約 8 時間で
7.
相関係数は単回帰分析により算出し,
間欠的に施行し, 透析条件として抗凝固剤はナファモス
タットメシル酸塩, 置換液はサブラッド-BSG2020, 補液
統計解析
未満とした。統計解析はJMP9 を使用した。
流量1000 mL/hr, 透析液流量500 mL/hr, 血液濾過機は
結果
ヘモフィールCH-1.0N(東レ・メディカル株式会社)を
使用した。PZFXの投与は全てHDF終了後に投与し, ア
ルブミン,
有意水準を0.05
Ñ
1.
高齢者における薬物動態解析
グロブリン製剤はHDF実施前に投与を行っ
表 1 に各症例の血清中PZFX濃度, 蛋白結合率, C/D
た。採血はPZFX投与前に行った。HDFの除去率を調べ
を, 表 2 に感染症名, 培養結果, 最小発育阻止濃度, 効
るためPZFX投与 5 日目は, HDF前とHDF終了 1 時間後
果判定を示す。最小発育阻止濃度は,
に採血を行った。
性検査を行っていないため, 他のキノロン系抗菌薬の感
PZFXの薬剤感受
受性を記載した。血清中PZFX濃度は1.31∼10.27 μg/
5.
体内動態解析
mL,
PZFXの投与間隔は12時間毎と一定であり,
少なくと
蛋白結合率は22.1∼37.8%,
C/Dは0.035∼0.375で
あった。また, 症例⑤の胸水PZFX濃度は4.58 μg/mLで
も投与 3 回以上経過した時点で採血を行った。また,
あった。また,
PZFXの消失半減期は 1 ∼ 5 時間11)と報告されており非
な血清中濃度の蓄積や痙攣等の副作用は認めなかった。
常に短いと考えられるため,
蛋白結合率と血清総蛋白(R2=0.029, p=0.78)や血清ア
本研究では薬物動態パラ
本研究においてPZFX投与期間中に過剰
2
メータとして全身クリアランスの代わりに血清中PZFX
ルブミン(R =0.608,
濃度(C)を体重当たりの 1 日投与量(D)で除した値
かった。
(C/D)を用いた。さらに,
各患者の蛋白結合率や体内
動態を比較するため, 血清クレアチニン(Scr)
, 血清総
2.
てクレアチニンクリアランス(CCR;mL/min)を用い
CCRはCockcroft&Gaultの式9)を用いて,
血
清クレアチニン値(Scr)
, 体重, 年齢, 性別より求めた。
HDF施行患者における薬物動態解析
図 1 にPZFX投与歴と血清中濃度,
蛋白, 血清アルブミンを測定し, 腎機能を表す指標とし
た。なお,
p=0.12)に有意な相関は認めな
モニタリングした期間では4.1∼12.4 μg/mLに達した。
蛋白結合率は14.0∼48.8%, C/Dは0.29∼1.07で, HDFを
連日実施した場合のC/Dは0.29∼0.62,
6.
研究の倫理性
HDFを 2 ∼ 3 日
毎に実施した場合のC/Dは0.70∼1.07であった。また,
表1.
各症例の患者背景, 血清中PZFX濃度, 蛋白結合率, C/D
Scr : 血清クレアチニン値, CCR : クレアチニンクリアランス,
C/D : 血清中PZFX濃度(C)を体重当たりの 1 日投与量(D)で除した値, SD : 標準偏差
TDM研究
蛋白結合率を示
す。PZFX投与開始後は経時的に血清中総濃度は上昇し,
─ ─
48
表2.
各症例の感染症名,培養結果,最小発育阻止濃度,効果判定
MIC : minimum inhibitory concentration(最小発育阻止濃度)
K.pneumoniae : Klebsiella pneumonia, E.coli : Escherichia coli
P.mirabilis : Proteus mirabilis, P.aeruginosa : Pseudomonas aeruginosa
S. maltophilia : Stenotrophomonas maltophilia
ESBLs : Extended spectrum beta lactamase産生菌
TFLX : tosufloxacin, CPFX : ciprofloxacin
図1.
HDF患者におけるPZFX投与歴および血清中濃度と蛋白結合率の推移
●はHDF前, ▲はHDF後の血清中PZFX濃度,( )内は蛋白結合率
PZFX投与 5 日目の血清中PZFX濃度はHDF前10.5 μg/
mL,
8 時間のHDF終了 1 時間後は6.2 μg/mLであった。
また,
患者は無尿でありPZFXの腎からの排泄はなかっ
5 g/dayを投与した。
3.
PZFX蛋白結合率の基礎的検討
PZFX投与 1 ∼ 3 日目および 5 ∼ 9 日目にアル
市販ヒト血清を用いた血清中PZFX濃度と蛋白結合率
ブミン製剤25 g/day, 1 および 3 日目にグロブリン製剤
の関係を図 2 に示す。血清中PZFX濃度の上昇に伴い蛋
た。尚,
─ ─
49
Vol. 30 No. (
2 2013)
50
N=3
40
蛋
白 30
結
合
率 20
︵
%
︶ 10
0
0
20
図2.
TDM研究
40
60
80
血清中PZFX濃度(μg/mL)
100
ヒト血清を用いた血清中PZFX濃度と蛋白結合率の関係
図3.
アルブミン濃度と蛋白結合率の関係(N= 3 の平均値を表す)
図4.
グロブリン濃度と蛋白結合率の関係(N= 3 の平均値を表す)
─ ─
50
白結合が低下することを認めたが,血清中PZFX濃度が
毎日投与が必要であると考えられる。
高齢者,
1 ∼50μg/mLまでの平均蛋白結合率は約35%であった。
アルブミン濃度およびグロブリン濃度と蛋白結合率の
は,
HDF施行患者における蛋白結合率について
症例①∼⑨における蛋白結合率は22.1∼37.8%とほ
関係を図 3 および図 4 に示す。アルブミンおよびグロ
ぼ一定の値を認めたが,
ブリン濃度の上昇とともに蛋白結合率の増加を認めた。
14.0∼48.8%と大きなばらつきを認めた。
基礎的検討の結果,
考察
血清中PZFX濃度の上昇に伴い蛋
白結合が低下することを認めた(図 2 )が, 臨床用量で
高齢者における薬物動態解析を行い, 本報告のC/Dは
0.035∼0.375と大きな変動を認めた。また,
既報
10)
の血清中PZFX濃度は最大で50 μg/mL10)程度と考えら
から
れるため, 臨床用量での蛋白結合率はほぼ一定で35%で
年齢
あると考えられる。一方, 蛋白結合率は血清アルブミン
高齢者(CCR 104.1 mL/min,
濃度だけでなく血清グロブリン濃度でも変動を認めた
算出したC/Dは健康成人(CCR 147.4 mL/min,
23.3歳)が0.008∼0.026,
HDF施行患者の蛋白結合率は
年齢69.7歳)が0.025であったため, 本報告の対象患者で
(図 3 , 4 )。
ある70歳以上の高齢者ではクレアチニンクリアランスが
HDF患者の投与 5 日目の蛋白結合率は48.8%と高値を
正常でも投与に注意が必要と考えられる。クレアチニン
示し,
クリアランスが正常でもC/Dが大きな変動を認めた理由
いて蛋白結合率が変動する原因は①アルブミンの変動,
として,
②グロブリンの変動, ③腎不全による内因性阻害物質蓄
高齢者ではCockcroft&Gaultの式に起因するク
レアチニンクリアランスの推定誤差やPZFXの個体間変
積の 3 つが考えられる。
動が大きい可能性が考えられる。
投与 5 日目では連日アルブミン製剤が補充されている
一方, 本報告のC/Dから体重50kgの患者に健康成人と
同様のトラフ濃度である 1 μg/mL
投与 8 日目は14.0%と低値を示した。本症例にお
10)
にも関わらず,血清アルブミンは低下傾向を示していた。
を得るための投与
一方, 血清総蛋白は増加を認めており, 測定結果は無い
量は135∼1430 ㎎/dayである。本報告では1000 ㎎/day
がグロブリン製剤の投与や体内でのグロブリン生成によ
投与で過剰な蓄積は認めていないが, 高齢者においては
る血清グロブリンの増加により蛋白結合率が上昇した可
腎機能正常であっても個体間変動が非常に大きく慎重な
能性が考えられる。しかし, γ-グロブリンは透析で除去
投与が必要である。
されづらいにも関わらずHDF終了後は蛋白結合率の低
フルオロキノロン系の治療効果の指標はfAUC/MIC
であり,
下を認めているため, はっきりした原因は不明である。
投与 8 日目では血清総蛋白が低下傾向であり,
良好な臨床効果にはS. pneumoniaでは30以上,
グラム陰性菌では100以上と報告
11)・12)
されている。本
HDF
も 2 日間実施しなかった。腎不全では内因性阻害物質に
報告ではPZFXトラフ濃度を測定しC/Dを評価したため,
よるアルブミンへの結合阻害が報告13)されており,
AUCの推定はできず,
清総蛋白の低下とHDF未実施による内因性阻害物質の
AUCと臨床効果の比較はできな
かった。
血
蓄積により蛋白結合率が低下したと考えられる。従っ
胸水中PZFX濃度については, 症例⑤のPZFX投与 3
て,
HDF施行患者の蛋白結合率のばらつきは血清総蛋
日目の胸水PZFX濃度は4.58 μg/mLであった。PZFX投
白の変動と内因性阻害物質の蓄積が大きな原因と考えら
与 5 日目の血清中PZFX濃度は3.95 μg/mLであったた
れる。
め, PZFXの胸水移行は良好で, 組織移行性は良いと考
えられる。
ており, 基礎的検討よりも低値を示したが, この原因と
HDF施行患者における薬物動態解析を行い,
後の血清中PZFX濃度より,
HDF前
して高齢による低アルブミンや低蛋白が考えられる。し
8 時間のHDFによる除去率
かし, 今回の結果では血清総蛋白や血清アルブミンと蛋
は約40%と推定された(図 1 )。従って,
1 時間当たり
のHDFにより約 5 %のPZFXが除去されると考えられ
る。また,
また, 症例②・③・⑤の蛋白結合率は30%未満となっ
白結合率に相関は認めず, 今後の詳細な検討が必要と考
えられる。
8)
4 時間のHDでは除去率が45.2%と報告 され
以上,
本研究では高齢者におけるPZFXの体内動態に
ており 8 時間のHDFは 4 時間のHDと同等の除去率と考
おいて, ①腎機能が正常な患者においても個体間変動が
えられる。さらに,
大きく慎重な投与が必要であり, ②血清総蛋白やアルブ
約 8 時間のHDFを 2 ∼ 3 日に 1 回
8)
既報 から算
ミンまたはグロブリンの変動, 腎不全による内因性阻害
出した 4 時間のHD患者のC/Dは0.69∼1.95と同等であっ
物質の蓄積等により蛋白結合率が影響されることが示唆
た。従って,
された。PZFXは重症感染症に使用される場合が多く,
実施した場合のC/Dは0.70∼1.07であり,
8 時間のHDF患者でもHD患者と同様に透
高齢で低栄養の患者の場合もあり, 総蛋白が低いことが
析毎に500 ㎎投与が可能と考えられる。
一方, 8 ∼ 9 時間のHDFを毎日実施した場合のC/Dは
0.29∼0.62となり,
HDFを毎日実施する場合はPZFXの
予測される。またアルブミン製剤やグロブリン製剤が投
与される場合も多いと考えられる。従って重症感染症患
─ ─
51
Vol. 30 No. (
2 2013)
者にPZFXが投与される場合は,
PZFXの蛋白結合率も
6 )大正富山医薬品株式会社 : パシル点滴静注液 インタ
ビューフォーム2010年, 第16版
考慮した投与方法を検討する必要があると考えられる。
7 )高木健三, 矢島洋一,
なお, 本稿の作成に当たり利益相反はなかった。
吉澤久雄.高齢者におけるpazu-
floxacin注射薬の体内動態. 日本化学療法学会雑誌 2000
; 48( 8 ): 633-644.
8 )古久保拓.
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10)戸塚恭一.
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日本化学療法学会雑誌2010 ; 58( 6 ):
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日本化学療法学会雑誌2010 ; 58( 6 ): 650-
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─ ─
52
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acid and indoxyl sulfate do not account for the
impaired protein binding of fosphenytoin. Ther Drug
Monit. 1998 ; 20( 6 ): 658-62.