5章 さつまいもでん粉製造法の変遷

5章
さつまいもでん粉製造法の変遷
1.でん粉製造法の概要
さつまいもでん粉の製造法には歴史的背景から関東式、大村式、鹿児島式の
3つの形式があり、その後それぞれに改良が加えられた。それらの型式は共に
原料の洗浄、磨砕、篩別、精製、脱水・乾燥の5工程が製造工程の基本となっ
て い る 。図 5 - 1 は 昭 和 2 8 年 頃 ま で の 製 造 工 程 で あ り 、現 在 の 製 造 法 の 原 形 と 考
えられる。
さつまいもは糖質・蛋白質・脂質・ポリフェノール等を含むので、製造工程
ではこれらの成分をできるだけ早くでん粉から分離しなければならない。この
分離工程が精製(沈殿)工程である。この5工程の中では精製工程が最も技術
の向上が進み、その変遷も著しい。その代表的な方法として①静置沈殿方式②
テ ー ブ ル 方 式 ( 図 5 -2 ) ③ 遠 心 分 離 方 式 ( 図 5 -3 ) が あ る が 、 現 在 で は ほ と
んどの工場が③の遠心分離方式を用いている。
図 5-1 でん粉 の製 造 工 程 (静 置 沈 殿 方 式 )
図 5-2 テーブル方 式
*テール処 理 にノズル型 遠 心 分 離 機 を使 用
テールのでん粉 回 収 に無 孔 壁 遠 心 分 離 機 を使 用
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図 5-3 遠 心 分 離 方 式
2.原料輸送と洗浄
畑 で 麻 袋 に 3 7 . 5 k g ず つ 入 れ ら れ た 原 料 さ つ ま い も は ト ラ ッ ク で 輸 送 さ れ( 図
5 - 4 )、工 場 の ポ テ ト ビ ン( 図 5 - 5 )に 投 入 さ れ る 。投 入 さ れ た さ つ ま い も は
原 料 置 き 場 か ら い も 洗 い 機 ま で 運 搬 さ れ る 。以 前 は 、そ の 運 搬 は 2 - 3 人 の 人 力
で 行 っ て い た が 、 昭 和 27・ 28年 頃 か ら 流 水 輸 送 と コ ン ベ ヤ 輸 送 を 組 み 合 わ せ た
方法が採用された。その結果として人員削減は勿論のこと、輸送能力の増強、
櫂込量の平均化によるエネルギー効率の向上、ひいては歩留まりの向上に大き
く貢献した。
図 5 -6 は 流 水 輸 送 、 図 5 -7 は コ ン ベ ア と い も 洗 い 機 で あ る 。
図 5-4 トラック輸 送
図 5-5 ポテトビン
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図 5-6 流 水 路 平 面 図
図 5-7 (1)コンベア (2)イモ洗 い機
3.磨砕
昭 和 2 8 年 頃 ま で 磨 砕 工 程 で の 磨 砕 ロ ー ラ ー は 直 径 3 0 c m 、長 さ 9 0 c m で あ っ た が 、
そ の 後 は 、 直 径 40cm、長 さ 60cm が 代 表 的 と な り 、ま た 、目 立 て も 人 力 に 代 わ っ
て 自 動 目 立 機( 図 5 - 8 )が 使 用 さ れ る よ う に な っ た 。昭 和 3 4 年 頃 か ら は ノ コ 歯
を つ け た 円 盤 磨 砕 機 が 一 時 使 用 さ れ な く な っ た が 、 平 成 10年 頃 に ノ コ 歯 と 磨 砕
ローラーが改良され、現在は殆どの工場で円盤磨砕機が使用されるようになっ
た ( 図 5 - 9 )。
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図 5-8 目 立 機
図 5-9 磨 砕 機 の加 減 板
4.篩別
磨砕物からでん粉乳とでん粉粕と分離する方法として関東式の六角篩(図5
-10、 5 -11) の 回 転 式 と 関 西 式 平 篩 の 振 動 式 が あ っ た が 、 平 篩 を 数 枚 組 み 合 わ
せ た 鹿 児 島 式( 図 5 - 1 2 )が 殆 ど 使 用 さ れ て い た 。昭 和 3 5 年 に ジ エ ッ ト エ キ ス ト
ラ ク タ ー( 高 速 回 転 篩 )、ロ ー ト シ ー ブ 、シ ー ブ ベ ン ド が 導 入 さ れ 一 時 期 は シ ー
ブ ベ ン ド が 各 工 場 で 採 用 さ れ た が 、 平 成 10年 頃 か ら ジ ェ ッ ト エ キ ス ト ラ ク タ ―
が採用されるようになり、またシーブベンドとの組み合わせ方式なども採用さ
れている。
図 5-10 白 土 式 六 角 篩
図 5-11 白 土 式 六 角 篩
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図 5-12 (1)鹿 児 島 式 でん粉 製 造 機
(2)平 篩
5.でん粉の精製
昭 和 28年 頃 ま で で ん 粉 の 精 製 は 、 摺 込 沈 殿 池 と 寄 り 込 み 沈 殿 池 で 構 成 さ れ る
静置沈殿方式で行われており、特に鹿児島では鹿児島式沈殿池の配置(アサヒ
式)が殆ど採用されていた。
図 5 -13は 鹿 児 島 式 沈 殿 池 ( ア サ ヒ 式 ) の 配 置 で あ る 。
昭 和 30年 頃 に な っ て 、 テ ー ブ ル 方 式 の 採 用 、 さ ら に は ノ ズ ル セ パ レ ー タ ー の
採 用 に よ り 省 力 化 さ れ 、さ ら に で ん 粉 の 品 質 が 大 き く 向 上 し た 。図 5 - 1 4 は ノ ズ
ル セ パ レ ー タ ー 。図 5 - 1 5 は ノ ズ ル セ パ レ ー タ ー に よ る で ん 粉 精 製 シ ス テ ム で あ
る。
ま た 、 平 成 10年 頃 か ら 工 場 規 模 の 拡 大 と 更 な る 品 質 向 上 が 求 め ら れ て お り 、
平 成 21年 に は 大 隅 地 区 に 大 型 工 場 が 新 設 さ れ 新 し い 方 式 と し て デ カ ン タ ー 、 ハ
イ ド ロ サ イ ク ロ ン が 採 用 さ れ た 。図 5 - 1 6 は ノ ズ ル セ パ レ ー タ ー・ハ イ ド ロ サ イ
クロン採用によるでん粉精製システムである。
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図 5-13 鹿 児 島 式 沈 殿 池 の配 置 (アサヒ式 )
図 5-14 ノズルセパレーター
図 5-15 ノズルセパレーターによるでん粉 精 製 システム
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図 5-16 ノズルセパレーター・ハイドロサイクロン併 用 システムでん粉 精 製
6.でん粉の脱水・乾燥
で ん 粉 の 脱 水 は 寄 り 込 み 沈 殿 で 行 わ れ 土 肉 部 分 を 除 去 し た 後 、玉 上 げ( 約 3 0 c m
角 )し 、こ れ を 横 9 0 - 6 0 c m・ 高 さ 5 c m ぐ ら い の 木 製 の 乾 燥 篩 に 適 当 な 大 き さ( 約
5 c m 角 / 厚 み 2 c m ) に 割 っ て 生 で ん 粉 を 並 べ ( 通 常 玉 割 り 作 業 と い う )、 こ れ を
棚 段 に し て 自 然 乾 燥 で 行 わ れ て い た 。 図 5 -17は 玉 割 り 作 業 、 図 5 -18は た な 乾
燥の様子である。しかし、自然乾燥の場合、天候に大きく影響され乾燥日数が
一 定 し な い 問 題 が あ っ た 。 い ず れ に し て も 通 常 20日 以 上 の 期 日 が 必 要 で あ り 、
工 場 の 大 規 模 化 に 伴 っ て 自 然 乾 燥 で は 処 理 で き な く な っ て き た 。 昭 和 35年 頃 に
熱風乾燥機が採用されはじめた。乾燥機としてはフラッシュドライヤーが多く
使用されている。なお脱水機としては有孔壁遠心分離機が一般的に使用されて
い る 。 図 5 -19は で ん 粉 乾 燥 機 、 図 5 -20は で ん 粉 脱 水 機 で あ る 。
図 5-17 玉 割 り作 業 (生 でん粉 )
図 5-18 乾 燥 棚
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図 5-20 でん粉 脱 水 機
図 5-19 でん粉 乾 燥 機
7.でん粉粕の脱水・乾燥
さ つ ま い も で ん 粉 の 副 産 物 と し て は 原 料 重 量 あ た り 4 -6 % 量 の で ん 粉 粕 が
生産される。主な用途は家畜飼料、クエン酸原料である。
で ん 粉 粕 は 摺 り 込 み 期 間 中 は 素 堀 タ ン ク に 貯 蔵 さ れ 、で ん 粉 の 製 造 が 終 了 後 、
ムシロの上で天日乾燥されていた。しかし、工場の大規模化に伴って天日だけ
に よ る 乾 燥 で は 処 理 で き な く な り 、 昭 和 35年 頃 か ら で ん 粉 粕 の 脱 水 機 、 乾 燥 機
が 急 速 に 普 及 す る よ う に な っ た 。 図 5 -21は 水 平 型 脱 水 機 、 図 5 -22は ド ラ ム 型
脱 水 機 、図 5 - 2 3 は 二 重 円 筒 型 脱 水 機 で 乾 燥 機 は ド ラ ム ド ラ イ ヤ ー 、フ ラ ッ シ ュ
ドライヤーがよく使用されている。
図 5-21 水 平 連 続 脱 水 機
図 5-22 ドラム型 連 続 脱 水 機
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図 5-23 二 重 円 筒 型 連 続 脱 水 機
8.工場排水処理
さ つ ま い も で ん 粉 工 場 は 操 業 期 間 が 短 期 間 で あ る こ と 、排 水 量 が 比 較 的 多 く 、
し か も 生 物 化 学 的 酸 素 要 求 量 ( BOD) が 3000-8000ppm と 比 較 的 高 い 値 で あ る こ
とが問題である。でん粉工場の排水による河川の汚染は地域ごとで小さなトラ
ブ ル を 起 こ し し て い た が 、 昭 和 38年 頃 に 宮 崎 県 大 淀 川 の 汚 染 が 表 面 化 し た 。 そ
の 後 、 鹿 児 島 県 に お い て も 排 水 問 題 が 表 面 化 し た 。 昭 和 46年 に 水 質 汚 濁 防 止 法
が 施 行 さ れ て か ら こ れ の 対 応 策 が 大 き な 問 題 と な り 、農 林 省 で は 、昭 和 4 8 年 「 澱
粉 無 公 害 製 造 法 式 に 関 す る 研 究 会 」 を 設 置 し 、昭 和 5 0 年 ま で 約 3 年 間 行 わ れ 、工
場排水対策の方針が明らかにされた、表1は研究会委員の名簿である。
で ん 粉 工 場 の 排 水 処 理 法 と し て a)沈 殿 池 方 式 、 b) 回 転 円 板 方 式 、 c)長 期 間 ば
っ気方式などがある。
沈 殿 方 式 は BOD の 除 去 率 が 最 高 30% と 低 い こ と も あ っ て 採 用 さ れ て い な い 。
回転円板方式は円板群を備えた好気的酸化方式の一つであり運転経費も安いが
大 規 模 工 場 に は 適 さ な い (図 5 -24)。
長 期 間 ば っ 気 方 式 は ば っ 気 槽 の 容 量 を か な り 大 き く と り ( 図 5 -25、 5 -26に
示 す エ ア レ - タ ー に よ り 長 時 間 ば っ 気 を 行 う 方 法 で 活 性 汚 泥 法 で あ る )、 現 在 、
殆どの甘しょでん粉工場が排水処理に活性汚泥法を組み合わせて使用している。
図 5 -27は 甘 し ょ で ん 粉 排 水 フ ロ ー シ ー ト で あ る 。
以上のように、でん粉製造法の現在までの変遷について述べてきたが、昭和
30年 頃 か ら 工 場 規 模 の 拡 大 、 新 技 術 の 導 入 に よ る 近 代 化 が 進 ん で き た 。 ま た 、
平 成 10年 頃 か ら 急 速 に 工 場 規 模 の 大 型 化 と 同 時 に 更 な る 品 質 向 上 へ と 進 歩 し て
いる。
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表 5-1 でん粉 無 公 害 製 造 方 式 の開 発 に関 する
研 究 会 委 員 名 簿 (昭 和 48~50 年 度 )
図 5-25 ばっ気 槽
図 5-24 回 転 円 板 式 排 水 処 理 装 置
図 5 -27
図 5-26 エアレーター
かんしょでん粉工場廃水処理装置
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