三井生命保険相互会社 高松ビルの氷蓄熱 - エネルギー有効利用のご提案

―― 実 施 例 ――
三井生命保険相互会社 高松ビルの氷蓄熱
大成建設㈱ 四国支店 設計部 斧 田 浩 一
■キーワード/リニューアル・氷蓄熱・補助金
1.はじめに
3.空調設備概要
近年の地球温暖化などの環境問題により省エネルギー
など温暖化防止の方策が叫ばれて久しいが,建物の設備
3−1 空調設備
空調システム
エネルギー,とくに電力についてはその平準化が急務と
なっている。
個別分散形氷蓄熱ビル用マルチエアコン
空気熱源ヒートポンプ空調機
屋
外
機
16馬力相当(氷 蓄 熱)
× 8台
平成10年度から電力平準化促進のために氷蓄熱式空
13馬力相当(氷 蓄 熱)
× 4台
調システム設置補助金制度が創設され,従来のエネ革税
25馬力相当(非 蓄 熱 形)
× 1台
制などの優遇税制に加えて,国の新たな補助金の給付が
室 内 機
床置き 8
馬力(氷蓄熱系統)×14台
可能となった。竣工後約16年を経過した三井生命保険
天井隠ぺい 6
馬力(氷蓄熱系統)× 2台
相互会社高松ビルでは,氷蓄熱ビルマルチエアコンを採
5
馬力(氷蓄熱系統)× 1台
用してこの補助金制度を活用することで,従来と比べて
天井カセット2
馬力(氷蓄熱系統)× 3台
非蓄熱空調機とのイニシャルコスト差を抑えることがで
1.6 馬力(氷蓄熱系統)×16台
きた。蓄熱ビルマルチと非蓄熱との比較,改修後の運転
1.25 馬力(氷蓄熱系統)× 5台
実績もあわせて紹介する。
1
床置き 25
2.建物概要
建 物 名 称 三井生命保険相互会社高松ビル
所
在
主 要 用 途 事務所
(テナントビル)
建 物 構 造 SRC造
階 数 地上9階 塔屋1階
敷 地 面 積 762.45㎡
建 築 面 積 584.25㎡
延 床 面 積 4,969.19㎡
空 調 面 積 約3,300㎡
(一部非蓄熱式との併用含む)
工 事 種 別 リニューアル
空調導入年月 平成10年12月
設備設計事務所
大成建設㈱
一級建築士事務所
建 築 施 工 大成建設㈱
空 調 施 工 三機工業㈱
写真−1 建物外観
ヒートポンプとその応用 2000.3.No.51
馬力(非蓄熱)
× 1台
天井カセット2.5 馬力(非蓄熱)
× 1台
馬力(非蓄熱)
× 1台
1
地 高松市磨屋町2丁目8番地
― 18 ―
馬力(氷蓄熱系統)×12台
―― 実 施 例 ――
1,800
22,000
1,800
22,000
24,000
24,000
1,800
図−1 1階平面図
図−2 基準階平面図
3−2 氷蓄熱ビルマルチ導入までの経緯
本建物では竣工後16年が経過し,空調機器の経年劣
天井カセット用
床置ダクト用
氷蓄熱ヒートポンプ 氷蓄熱ヒートポンプ
屋外機×4台
屋外機×8台
化および事務所ビルとしての近年の負荷増に対応するた
非蓄熱ヒートポンプ
屋外機×1台
めに空調設備改修を行った。
R
R
R
R
階をテナントビルとして使用している。そのため空調方
9F
式は各階個別パッケージとし,氷蓄熱式を採用した。ま
SA
天井カセット
非蓄熱床置PAC
SA
た室内機は既存設備と同様に床置ダクト形のままとし
た。9階は主用途が会議室で使用頻度が限られるため,
8F
R
R
R
R
R
R
R
R
RF
三井生命保険相互会社殿の支社ビルであるが,1∼5
OA
OA
蓄熱床置PAC
非蓄熱の空気熱源ヒートポンプ方式としている。既存空
SA
OA
調機は床置ダクト形のみで,その床置空調機の改修のほ
7F
かに,天井カセット形空調機を増設して近年の発熱増に
蓄熱床置PAC
SA
対応した。その結果,改修前に比べて空調能力は,基準
6F
階で25%ほど増加した
(冷房時比)
。
OA
蓄熱床置PAC
SA
OA
個別空調方式検討の段階で,氷蓄熱パッケージ方式は
5F
その維持費の有利性に加えて,平成10年度から実施さ
蓄熱床置PAC
SA
OA
れた補助金制度などにより,従来までかなり負担の大き
4F
かったイニシャルコストが軽減されることになった。さ
蓄熱床置PAC
SA
らにテナントビルではあるが空調時間が比較的定期的で
3F
あること,
深夜早朝の空調運転が要求されなかったこと,
蓄熱床置PAC
SA
屋外機置き場スペースに余裕があったことなどによりそ
の採用が決定した。
2F
OA
OA
蓄熱床置PAC
OA
今回利用した氷蓄熱式空調システム設置補助金制度
は,個別分散形ビルマルチ氷蓄熱式空調機のみを対象と
1F
蓄熱隠ぺいPAC
しており,制度は平成11年度も継続されている。従来
からあった税制優遇制度に比べて利用しやすいが,屋外
機の設置スペースや建物の利用形態など改修前に十分な
図−3 空調系統図
検討が必要である。
― 19 ―
ヒートポンプとその応用 2000.3.
No.51
―― 実 施 例 ――
表−1 非蓄熱方式・蓄熱方式のコスト比較
(試算)
方 式
通 常 ビ ル マ ル チ
屋外機
氷蓄熱ビルマルチ
室内機
屋外機
蓄熱ユニット
室内機
C
概
念
C P
図
電 気 容 量 ・ 管 理
・残業対応が可能
・残業は22時まで
現 状 180kW
・消費電力 263kW(冷房ピーク時)
・消費電力 夜間121kW 昼間172kW
(同左)
建 築 計 画 ・ 荷 重
・屋根荷重小
・屋根荷重大
イニシャルコスト
・空調工事 100%
・空調工事 126%
優遇措置による補助金
なし
9,800,000 円
ランニングコスト
9,470,000 円/年
6,190,000 円/年
回
基準
4.77 年
収
期
間
表−2 電力料金
基本料金
昼 間
電力量料金
夜 間
7∼9月
そのほか
7∼9月
そのほか
1,435円/kW月
16.01円/kWh
14.55円/kWh
4.42円/kWh
4.42円/kWh
(四国電力 1999.08 6,000V受電,業務用)
3−3 空調方式比較
表−1は,蓄熱形と非蓄熱形の設計段階でのコスト比
較である。
氷蓄熱ビルマルチは,非蓄熱形と比べて電気容量で約
25%低く,ランニングコストの電力基本料金でかなり
有利になる。また屋外機の荷重は,非蓄熱式に比べて約
8倍となる。これはほとんど氷蓄熱ユニットの増分であ
写真−2 蓄熱形空調機
る。事務所ビルの場合,本建物のように空調屋外機は屋
上に設置されることが多いが,空調のリニューアル工事
で氷蓄熱空調機を設置する際にはその荷重が問題となる
ことがある。昭和56年の基準法改正時以降の設計(新耐
震基準)とそれ以前の設計では,屋上積載荷重と水平力
の算定方法には大きな相違があるため,とくに新耐震基
準以前に設計された建物の場合は,耐震診断などにより
建物構造の検討を考慮する必要がある。
コストの試算では,氷蓄熱ではそのイニシャルコスト
を約5年で回収可能という結果となった。改修工事の場
合のイニシャルコストには,天井のやり替えなど設備改
修工事に伴う建築工事の改修も発生するため,実際はそ
のコストが生じるが,上表ではその分を含まないものと
写真−3 蓄熱系統空調機
している。
ヒートポンプとその応用 2000.3.No.51
― 20 ―
―― 実 施 例 ――
電力使用量
(Mwh)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1
1998年使用量
1999年使用量
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11 12(月)
図−4 改修前と改修後の使用電力量
(実績値)
写真−4 キュービクル
(改修後)
(千円)
2,000
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
電気料金
1998年料金
1999年料金
2000年予想
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12(月)
図−5 改修前と改修後の電力料金
(予想値)
表−3 改修前と改修後の電力量と料金
写真−5 空調機
(蓄熱系統ダクト式)
平成10年1∼10月 平成11年1∼10月 平成12年1∼10月予想
使用総電力量
4.運転実績
609,274
(100)
(kWh)
昼間使用量
図−4,5に竣工後の月ごとの使用電力量と電力料金
(予想値)を示す。竣工後10カ月間での総使用電力量は,
1998年に比べて約2割増加し,一方電力料金は若干減
609,274
716,669
(118)
552,395
716,669
(118)
552,395
夜間使用量
0
164,274
164,274
予想電力料金
13,389,183
13,220,887
12,264,603
(円)
(100)
(99)
(91)
少している
(表−3)。表中の使用電力量には,空調以外
の電灯や動力も含まれているが,それらはほぼ同一と仮
定すれば,使用電力量の増加は空調機器能力を約25%
5.おわりに
増強したためと推測できる。
今回の空調改修で氷蓄熱ビルマルチを採用するに当た
また電力料金のうちの基本料金を決定する契約電力
は,昨年の瞬間最大使用電力の実績値をもとに決められ
り,とくに留意したことは,
ている。1999年の契約電力は380kW(1998年8月のデマ
・ほかの補助金利用,契約の可能性(ピーク調整契約など)
ンド値)で,1年後の1999年10月には286kW(1999年8
・屋外機設置スペース
月デマンド)となり,試算と同様に約25%減少した。
・機器荷重増大による構造チェック
図−5での2000年予想値は,電力使用量が今年と同
・建物の使用状況(残業時の空調など)
様とし,基本料金が契約電力286kWとした場合の予想電
・屋外機夜間騒音
力料金である。2000年以降の電力料金は,電力使用量
・運転管理
などである。これらの検討を行ったうえで採用可能と
が今年と変わらないと仮定すれば今年に比べて約1割程
なれば,氷蓄熱設置補助金制度やランニングコストなど
度減少する。
また夏期に比べて冬期の電力料金がさほど減少しない
の経済性に加えて,電力の平準化や夜間電力利用という
が,これは暖房蓄熱が屋外機1台当たり(13∼16馬力)
より環境に優しいエネルギーの使用を自負できるメリッ
2.5k程度の温水蓄熱であること,冬期の昼間・夜間電
トもあると考える。
力料金の差額が夏期より小さいこと,冬期のCOPの低下
最後に使用電力量などのデータ採取に関しまして,ご
などが挙げられる。このような点の改善が,氷蓄熱をさ
協力いただきました三井生命保険相互会社殿をはじめ,
らに普及するうえでの課題であるといえる。
関係各位にこの場をお借りしてお礼申しあげます。
― 21 ―
ヒートポンプとその応用 2000.3.
No.51