“やりがい”ある テーマを選定しよう - ブレーン・ダイナミックス

“ヤル気”
の源泉はテーマにあり
特集
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“やりがい”
ある
テーマを選定しよう
ブレーン・ダイナミックス 経営研究所 常務理事コンサルタント
江戸帥武 えど・おさむ
陽春である。いやもう初夏か。
ソチ冬季五輪はすでに話題のかなたに行ってしまったが、
活躍選手の中でひときわ光ったのは葛西選手であった。
日本選手団の主将(リーダー)を務め、7度目の参加で見事に銀メダル。
挫折を乗り越え、たゆまぬ努力と挑戦力。
本人は言う「悔しい思いをモチベーションに」と。しびれましたね。
ちょっとしたつまずきや、仲間との不協和音にめげてしまったり、
2,
3回リーダーをやったら「もうやりたくない」などと言ってしまう自分を反省した。
さてテーマ選定の時期が来た。
日ごろからわたし自身が感じていたことだが、グループの会合をもって
「次は何をやろうか」
「何かいいテーマはないだろうか」的な話し合いでは
もう有効な意見も期待できない。今回もリーダーとして苦しむんだろうなぁ、と
つい後ろ向きに考えてしまう。そこで頭によぎったのが葛西選手だ。
もう一度、テーマ選定のやり方を根本的に見直してみることにした。
プロフィール
情報機器メーカーに勤めた後、1979 年にブレーン・ダイナミックスの活動に参画。小集団活動の公開セミナーの実施責
任者を務め、
多くの人材開発・教育責任者、
小集団活動事務局とのネッ
トワークを構築。多岐にわたる実務実績を踏まえて、
現在は経営ニーズに応じた実効的なマネジメントツールとしての小集団活動プログラムを提案しつつ、業種・職種を問わず、
小集団活動のマンネリ打破と活性化に貢献。豊富な経験と最新情報に裏打ちされた具体的、かつ実践的な指導は高い
評価を得ている。
マネジメント研修の分野では、ビジネスパーソンの行動特性の科学的分析を通して個々の対人関係能力や役割行動のス
キルアップを図るアプローチ「DiSC ラーニングシステム」のインストラクターとしても活躍中。
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まず、何をテーマにするか、どんな改善をするかと
しかし“自”
を前面に出し、自発・自主での議論
いうモノの見方先行から、活動に取り組む意欲、何
をすれば、貢献度という点で“やりがい”
を感じ
をもってわたしたちは“やりがい”
とするか、
“ヤル気”
ることはできるのではないだろうか。
先行の議論をしたらどうだろうかと考えた。
「やりたくない」
とか「面倒くさい」など後ろ向きな発言
をたまには聞くが、会社の方針・制度として推進して
いる以上、活動は“やらねばならない”
こと。どういうこ
タタキ台 2
とに取り組むことが“やりがい”
を感じるか、からフリー
前後の工程との良好な関係性の確立
ディスカッションを仕掛けてみたい。
仕事というものは、決してわたしたちだけででき
わたし自身、ややもすると先輩メンバーの意見に引
るものではない。モノやカネ、情報のやり取りな
きずられる傾向があるので、
「誰が言った」より「何を
どすべて前後の仕事(工程)
との関連がある。
言った」かを重視するように心掛けたい。
往々にして独りよがりの仕事をしてはいないか。
フリーディスカッションと言っても、ある程度は議論
もしかして前後の工程の人たちはこうしてほしいと
の材料を用意する必要がある。今回は特に“やりが
いう要望や生産性向上のアイデアや提案がある
い”
を前提のテーマ選定だから、改善議論の方向性
かもしれない。部分最適だけではなく全体最適的
は用意しておきたい。そこで今までの経験と社外セミ
モノの見方、考え方での改善を考えてみよう。
ナーなどで学んだことを参考にして、テーマ選定の
方向性のタタキ台を用意した。
タタキ台 3
会合までに用意した
「6つのタタキ台」
わたしたちのミッション・
仕事の関係分析から問題発見
テーマを考える際にいつも真っ先に考えるのは、
自職場・仕事からの発想であるが、周りに目を
タタキ台 1
コスト削減や業務の効率化
向けてみてはどうだろうか。わたしたちのやって
いる仕事のお客さまは誰だろうか。最終的には
製品やサービスを買っていただくお客さまだが、
テーマの定番である。常に方針にも示され、上
その前にさまざまな内部顧客や外部顧客を経
司からも耳にタコのように要求されている。また
てエンドユーザーのもとに届いている。
わたしたちグループのみんなも十分その必要性
目線をわたしたちの仕事の周りの関係者をお客
は認識している。だが上からの要請に応えなけ
さまととらえると、そのお客さまに対して顧客満足
ればいけないというプレッシャーが“やりがい”
ど
度向上につながる改善ができるのではないか。
ころか“やらされ”
になってしまう。
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タタキ台 4
タタキ台 6
外注先や取引先とのコラボレーション改善
業務分析からの問題発見と業務効率化
協力会社や協力業者の力なくしてわたしたち
他人から、特に上から言われると反発したくな
の仕事は成立しない。日常の仕事関係でのや
るのが、仕事のやり方に対する非効率だとの
り取りが、もしかしたら上から目線の依頼になっ
指摘である。各自が今のやり方をベストと考え
てはいないだろうか。フランクなコミュニケーショ
ている限り改善は進まない。今の仕事のやり方
ンで彼らの問題や提案、要望を聞いて改善に
を最低と考えることから改善のネタが見つかる
生かすことはコストダウンや業務効率アップにつ
と、改善の先生から聞いたことがある。活動で
ながることがままある。
自ら仕事の棚卸し、業務分析をすることで業務
ただし改善はウインウインの関係でなくては本当
効率化に挑戦するのはどうであろうか。
の改善とは言えない。やった結果・成果が一方
以前、コンサルタントの指導で 10 分刻みに日常
だけのメリットに偏ることのないよう気をつけたい
業務をシートに記入することを1週間強制され
ものだ。
た。息の詰まる思いがしただけで結局うまくい
かなかった。
しかし、自主・自発ベースでこれをやるとうまくい
タタキ台 5
部門を超えたプロジェクト型活動
きそうな気がする。自分しかできない純専門的
な仕事を除き、
「半専門、非専門的」仕事を効
率化する。または、仕事の機能分析をして、必
どうも長い間、同じメンバーで活動を続けている
要機能は効率化、過剰・重複・余剰もしくは無
と、人間関係はがっちり固まるが発想となると新
用な機能は思い切って合理化できそうだ。
しい刺激がほしい。かといってメンバーをシャッ
フルすることは難しい。そこで部門を超えて声
整理して、以上6つをタタキ台とすることにした。
を掛けてみよう。
技術と営業、営業と製造、製造と購買、研究
開発と生産技術など、ややもすると利害が対立
する部門間では、活動方式で両者共有の問
題を解決することでコミュニケーションも活発に
なるように思える。
会合
第一回会合
サブリーダーに早速、内容を説明して今後の進め
方を相談、打ち合わせをした。サブリーダーは「
“や
りがい”
は個々人の価値観にもとずくものなので合意
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特集
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“ヤル気”
の源泉はテーマにあり
“やりがい”
あるテーマを選定しよう
形成はどうかな」
という意見であったが、とにかく今回
さて評価項目の欄は、あえて4つではなく5つとして
のテーマ選定の方向性を示す意味でも、提案するこ
おいた。点数付けが終わり、最後に参考意見として
とにした。
「上司の期待度」
を5項目目に加え、最終判断とした。
1回目の会合はタタキ台の内容を説明し、やり取り
をする中で、部分的ではあるがテーマ案的な改善対
象がイメージされたようだ。会合の最後に、このタタキ
合意形成には手間と時間がかかる
台から“やりがい”
という価値判断で各メンバーが上
即決、すぐに多数決、これは相当チームメ
位3つを絞り、次回会合に持ってきてもらうことにした。
ンバー全員が意欲的で人間関係の良い場合
のみ実現可能なのではないか。合意形成の
第二回会合
やり方で特効薬はないがコミュニケーションが
ベースであることは間違いない。
各自が A・B・C でランク付けした内 容を発 表す
今回のケースのように、上司にまで事前にこ
る。当然、なぜこれが自分にとっての“やりがい”
なの
ちらの意向を伝え、また上司の意見も聞いて
かの理由を説明してもらい、その結果、6つの方向性
おくことも大切である。
“根回し”
などと言うと、
(タタキ台)から4つに絞ることができた。
なにやらよからぬことの企てをイメージしてしま
次回の会合はテーマ選定マトリックスで、いよいよ
いがちだが、良きコミュニケーションの一手段
テーマ案を議論し、方向性を決定したい。絞り込む
ととらえると結構応用が利き、人を巻き込む方
際の評価項目をどうするかでは、
“やりがい”重視とい
法として有効に作用するケースが多々あるよう
うことで次の4項目に決定した。
に思う。
「新規性」
「興味性」
「挑戦性」
「重要性」
■ 次回の会合の前に
「質問」作戦
わたしはサブリーダーと共に、支援者に今までの
さて合意形成時でやっかいなもののひとつ
経緯とタタキ台からの4項目を説明し、上司サイドか
に、
「無意見」または「無意欲」メンバーへの
ら見た「期待度」の順位付けをお願いした。最終的
対応がある。無理やりにでも発言させたいの
な段階で合意形成がはかれなかったときの参考意
だが、あまり強圧的にやると人間関係が壊れ
見として用意しておきたい。
てしまう。
ではどうするか、それには「質問」作戦が
第三回会合
有効に思う。
「意見を言え」と命令するのでは
なく「質問」
して重い口を開かせ、気づかせる
テーマ選定マトリックスでの評価は、意外とスムー
こと。
ズに進んだ。2回の会合での理由説明と議論が効
まず簡単なアプローチは、二者択一で答え
いたようだ。
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られる質問をする。イエス=ノウ、はい=いい
し、合意できる点、修正歩み寄りをすれば合
え、賛成=反対。こういう質問の仕方を「限
意できる点と整理することで、部分的合意形
定的質問」と言う。相当、口の重い人、考え
成が可能になる。
ていない人でもこれは答えられる。
こう対応することによって「発言しない」
「考
次に相手の持っている選択肢の中から自
えていない」
「反対するけど代案がない」メン
由に発言してもらう「拡大的質問」がある。
「ど
バーを少しずつ巻き込もう。人間関係構築に
のように思いますか」
「思い当たることはなんで
は、必殺技や特効薬はない。時間がかかるこ
しょうか」
「なぜですか」。この拡大していく質
とを承知の上であきらめないこと、排除しないこ
問のやり方には「なぜ……、どうして……」と
とが唯一のコツのような気がする。
発言を掘り下げてより深く発言させる「垂直展
開型」があるが、質問が詰問になってしまうと
逆効果である。注意しよう。
一方「水平展開型」は「他には……」
「違う
見方、切り口では……」と発言を広げてみる。
質問の仕方の工夫を身に付けることで、より多
くの発言を引き出すことが期待できる。
「反対意見」と「異なる意見」
コミュニケーション手段
「報・連・相」は会話形式で
さてここで困ったことがあった。わたしたちの決定
した今回のテーマは事前に上司に状況報告し、期
厄 介なのは「 反 対 意 見 」で、ある事 柄に
待度をランク付けしてもらった1位の案ではなかった。
真っ向「反対」
と言われると、その時点で話し
早速、テーマ決定報告をしようと思いメールで結論だ
合いはストップする。これからは先輩のアドバ
けを伝えたら即、上司から電話で報告に来るよう指
イスとわたしの体験談になるが「反対意見」
示があった。
は向き合い方ひとつで、その後の局面が大き
この結果は後にして、コミュニケーション手段とし
く好転する。
て ITツールを駆使する「デジタル」
と人・会話中心の
「反対意見」を「異なる意見」と考えてみよう。
「アナログ」がある。大切なコミュニケーションの場面
「反対意見」を真っ向反対と受け止めてしま
で、デジタルだけで果たして良いだろうか。昨今、職
うと、敵対関係にまでこじれてしまいがちだが、
場での会話が極めて少なくなり、その弊害が指摘さ
これを「異なる意見」と受け止めると、次はど
れている。例えば、隣の人にもメール。喫煙場所が
の点が異なるのか、またどの点は合意できる
唯一のダイレクトコミュニケーションの場。不必要な情
のかと発言の中身の仕分けが可能となる。
報や連絡が無差別に CCメールで飛び込んでくる。
当然、全く異なる点はこの時 点で棚 上げ
情 報のやり取りや業 務の効 率 化では IT は大い
に効力を発揮する。だが人間関係に関するコミュニ
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特集
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ケーションは「アナログ」中心でやるべきだろうと日ご
ろ思っていたが、ついメールを使ってしまった。もしや
“ヤル気”
の源泉はテーマにあり
“やりがい”
あるテーマを選定しよう
・連絡は必要なコトを必要な人にすればよい。
安易なバラマキ連絡は慎むように
の予感を胸に報告に行ったところ、決して叱責を受
けたわけではない。メンバー間での合意形成のプロ
セスと決定したテーマの内容、今後の取り組み方を
「相談」
上司は会話の少なくなった現状を憂い、何とかみ
自分が判断できないような場合、
参考意見やアドバイスを求める行為である
んなと話す機会を持ちたいとのことだった。特に小集
・早め早めに行動を起こせ。もっと早く相談をし
団活動での「報・連・相」は「今後、できるだけ会話
てくれたら何とかなったのに、では遅い。何だ
ベースでやろう」と強調され、おまけにそのポイントを
そんなことをと言われる場合もあるが、ためら
指導していただいた。
わず相談せよ
説明し了承は得られたが……。
・アドバイスされたことの状況報告、中間報告、
結果報告を抜かりなくせよ。また相談の結末
「報告」
のお礼を忘れぬように
仕事の経過や結果を知らせる
行為である
活動推進上の最も重視すべきテーマ選定につい
・結論や結果を先に報告すること
ての「報・連・相」こそ、アナログつまり会話中心でや
最後まで聞かないと(読まないと)結論が分か
らないなどあってはならない
・マイナスなことほど素早く報告すること
るべきだったことを再確認した。
多忙な上司を見ると、つい安直にメールでとなりがち
だが、これからは気をつけなければいけない。
叱責を受けるかもしれないが、ひるむことはな
い。隠しておくと傷口が広がり、とんでもない
小集団活動の基軸、ヤル気の源泉はテーマと目標
事態になることもある
にあります。
何をもって“やりがい”
とするか?
「連絡」
事実や情報をありのままに知らせる
行為である
さあ、あらためてグループで議論をはじめよう!
先人いわく 小集団活動
はじめよければ半ばよし
テーマよければプロセスよし
視 せよ。重 要 連 絡 事 項ほど 確 認 が 必 要 で
半ばよければ終わりよし
プロセスよければ結果よし
ある
終わりよければすべてよし 結果よければすべてよし
・伝えたかどうかより、伝わったかどうかを重
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