内径3,100ミリメートル導水管漏水事故調査 報告書 (概要版) 内径3,100ミリメートル導水管漏水事故調査委員会の設置目的及び検討経過 委 員 長 首都大学東京大学院教授 工学博士 小泉 明 副委員長 東京都市大学工学部教授 工学博士 長岡 裕 員 日本水道鋼管協会技術委員 中島 良和 神奈川県温泉地学研究所技師 本多 亮 神奈川県内広域水道企業団技監(水道技術管理者) 富井 正雄 神奈川県内広域水道企業団技術部長 浅見 吉之 西長沢浄水場 約619,000m3/日 宮ヶ瀬ダム ベローズ (ステンレス製) b 順導水の増量 約121,000m3/日 ⇒約249,000m3/日 綾瀬浄水場 約188,000m3/日 寒川取水堰 (寒川事業) 約390,000m3/日 (すみ肉)溶接 a 飯泉取水ぜき 取水停止 約747,000m3/日 ⇒ 0m3/日 ※この写真は、ベローズ型伸縮可とう管の解 説用に、内面にスリーブが掛かっていない もので例示したものである。(本導水管で使 用したベローズ型伸縮可とう管のベローズ 部には内面スリーブが掛かっている。) 凡例 ダム及び取水せき 神奈川県営水道 浄水場 横浜市営水道 分水池及び取水口 川崎市営水道 導水管及び導水路(原水) 横須賀市営水道 ※各水量は、4月6日から4月22日までの日平均に端数処理を加えたものです。 a 取水停止と水量の調整 構成団体と協議し、各給水地点の供給量と各浄水場の 処理水量を調整した。 b 順導水(社家地点→伊勢原方面)の増量 相模川社家取水地点の取水量を増量した。 c 沼本地点からの取水・導水 企業団と構成団体(横浜市・川崎市)の水利権のゆと り分(通常時は使用しているが、その時期、工事に伴 い取水していなかったもの)を利用して相模川沼本地 点から取水・導水を行った。 (2) 管種について 管種は、耐震管として位置付けられている溶接鋼管(補剛付き)を使用している。 2 漏水事故の概要 桑原 :漏水箇所 N 今回の漏水事故の原因を究明するため、漏水の発生時期、導水管の布設状況及び経過年数から、次の3点に ついて検討を行った。 曽我 飯泉ポンプ場 内面バンド工法による止水 3 漏水事故原因の究明 成田 曽我接合井 ① 東北地方太平洋沖地震による地震動(以下「今回の地震動」という。) 漏水した3箇所はいずれも今回の地震後に発生しているため。 ② 長期的な沈下 沖積層が厚い箇所に布設されており、管防護工部との間に不同沈下が生じていた可能性があるため。 ③ ベローズ溶接部の劣化 布設後約38年が経過しており、法定耐用年数である40年に近づいているため。 内径3,100ミリメートル導水管 4.7km また、3月11日に成田地区で漏水が発見さ れて以降、毎日路線巡視を実施していたが、 その後、4月4日に曽我地区で、4月21日に桑 原地区で漏水が発見された。 (1) 今回の地震動に対する検討 ① ベローズ型伸縮可とう管の性能 曽我地区の漏水量が多く二次災害の危険 性があったことから、飯泉地点の取水・導 水を停止し、20日間かけて復旧を行った。 ベローズ型伸縮可とう管の性能と今回の地震動に対する検討に用いる照査基準値を下表にまとめた。軸直角方向 変位量(せん断)と円周方向回転角度変位量(ねじれ)については、設計諸元に記載がなかったことから、FEM 解析を行い、その変形性能を明らかにした。 本ベローズ型伸縮可とう管の変形性能 成田 桑原 (2) 漏水箇所の特徴 3か所に共通点した特徴は、管防護工に隣接 したシングルタイプのベローズ型伸縮可とう 管部から漏水したことであった。 相模原浄水場 約168,000m3/日 相模大堰(社家地点) 約309,000m3/日 ⇒約437,000m3/日 伊勢原浄水場 約81,000m3/日 内径3,100ミリメートル導水管は、飯泉取水堰から取水した酒匂川の原水を、伊勢原浄水場、相模原浄水場及 び西長沢浄水場へ導水するための施設で、飯泉ポンプ場(小田原市飯泉)から曽我接合井(小田原市上曽我) までの延長4.7km区間に布設されている。酒匂川水系(飯泉地点)からの取水は、平成21年度実績で合計2億 6,735万7千m3であり、企業団と構成団体の年間取水量の約25%を占めている。 企業団では、月1回以上、導水路線上を巡 視して、異常の有無を確認しているが、今 回の東北地方太平洋沖地震まで、本導水管 の路線上で異常が確認されたことはなかっ た。 鋼管 淵野辺接合井 4 宮ヶ瀬ダム開発水の 水利権の付替え 60,000m3/日 (1) 概要 内径3,100ミリメートル導水管の漏水は、 成田地区、桑原地区及び曽我地区で発生し た。いずれも、平成23年3月11日の東北地方 太平洋沖地震以降に漏水が発見されている。 潮見台浄水場(川崎 津久井 分水池 1 内径3,100ミリメートル導水管の概要 (1) 漏水箇所 ベローズ型伸縮可とう管は、ベローズ(蛇腹) と鋼管で構成されており、ベローズが伸縮するこ とで本管の変位を吸収する機能を持つ。 c 沼本ダム(沼本地点)からの取水・導水 0m3/日⇒約619,000m3/日 (上限636,000m3/日で変動に対応) 沼本地点における 構成団体水利権の余裕 576,000m3/日(当時) 三保ダム 委 ベローズ型伸縮可とう管について 飯泉地点からの取水を停止した期間の水運用 平成23年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生し、その後、小田原市内に布設されている神奈川県内広域水道 企業団(以下「企業団」という。)の内径3,100ミリメートル導水管で漏水事故が発生した。漏水事故原因の解明 と今後の対策について検討を行うため、内径3,100ミリメートル導水管漏水事故調査委員会を設置した。平成23年6 月17日に第1回委員会を開催し、3回の審議を経て、調査結果を報告書に取りまとめた。委員会の構成は次のとおり である。 【委員会の構成】 平成24年3月 曽我 設計諸元 項 目 ベローズ (ステンレス製) リブ 49mm ガイドリング 内径3,100ミリ導水管の漏水箇所 軸直角方 向変位量 (せん断) (3) 復旧作業 軸方向伸縮量 (伸縮) 取水停止期間中は、相模川系統からの取水を増量するとともに、企業団と構成団体の水利権のゆとり分(通常 時は使用しているが、その時期、工事に伴い取水していなかったもの)を利用して、相模川の沼本地点から緊急 導水して対応した。 すみ肉溶接 角度変位量 (曲げ) 角度変位量 (曲げ) FEM解析の結果 最大 +49mm ※ -150mm 最大 ±15mm 許容 円周方向回転 角度変位量 (ねじれ) 本管(鋼製) 漏水事故の復旧にあたっては、取水を止めて、管の内面から水密ゴムをステンレス製のバンドで圧着固定させ る「内面バンド工法」により行った。なお、この内面バンド工法は、将来発生懸念される大規模地震動に対して も有効に機能することが確認されている。 軸方向伸縮量 (伸縮) 許容 0°42' (0.7°) - 照査基準値 49mm伸びても降伏点を超えな い 伸び:49mm 縮み:150mm 2°の曲げが生じても降伏点を 超えない ±2.0° 軸直角 方向変位量 (せん断) - ・1.5mm以上のせん断変位です み肉溶接部に降伏点を超える最 大応力度が発生 ・5mm以上のせん断変位ですみ 肉溶接部に限界強度を超える最 大応力度が発生 ±5mm 円周方向 回転角度変位量 (ねじれ) - わずかなねじれ(0.2°)ですみ肉 溶接部に限界強度を超える最大 応力度が発生 ±0.2° ※ 最大軸方向伸縮量(伸び)と最大角度変位量(曲げ)の値は可とう管のリブがガイドリングと接触した時の値。 1/2 4 今後の対策について 応力 (降伏点と限界強度について) ・降伏点 :荷重を減少しても元の状態には戻らない時の最小応力 ・限界強度:材料が耐えうる最大の(引張)応力 限界強度 今後発生が危惧される大規模な地震動により、企業団系統の管路が被災した場合、今回のような構成団体の水 利権のゆとり分を活用した水運用で対応できないときには、減・断水の影響が数百万人に及ぶ。 降伏点 ひずみ そのため、大規模地震が発生した場合でも供給を維持・継続できるよう、下表に掲げた「①内径3,100ミリメー トル導水管の耐震性強化対策」、「②用水供給システムとしての対策」、「③内径3,100ミリメートル導水管の維 持管理と将来を見据えた導水システムの整備」について実施し、用水供給事業としての機能強化を計画的に図っ ていく。 ② 今回の地震動に対する検討結果 今回の地震動(地震観測地点:小田原市立豊川小学校)を再現して、内径3,100ミリメートル導水管に働い たベローズ型伸縮可とう管部の最大応答を算定した。その結果、以下のことが明らかとなった。 今後の実施すべき対策 ・震源地は漏水箇所とは離れていたが、地震波が増幅しやすいこのエリア特有の地質構造を有し ている。 ・成田地区と曽我地区で、今回の地震によってベローズ溶接部の限界強度に達するせん断変形が 発生した。 ・桑原地区については、降伏点に達するせん断変形が発生した。 1. 内径3,100ミリメートル導水管の耐震性強化対策及び管内面からの健全度調査 耐震性強化 ・管防護工に隣接したベローズ型伸縮可とう管を対象に内面バンド工法等によ る耐震性の強化 健全度調査 ・耐震性強化対策を実施するのに合わせて、ベローズ部の健全度調査を実施 今回の地震動によるベローズ型伸縮可とう管部の最大相対変位と照査結果 項目 伸縮 曲げ 地震時の最大応答値 成田地区 桑原地区 曽我地区 伸:7.3mm 縮:5.8mm 伸:11.2mm 縮:14.0mm 伸:31.7mm 縮:29.8mm 2. 用水供給システムとしての対策 備考 せん断 鉛直:0.5mm 水平:1.9mm 鉛直:0.7mm 水平:7.0mm ねじれ 0.0° 0.0° 0.0° ・社家ポンプ場 伊勢原系ポンプの増設 ・相模原浄水場 相模湖系導水連絡管の布設 運用面 ・緊急時における5事業者の相互協力 ・神奈川県内の安定供給体制を維持するための水利権の確保 ・照査の基準値:伸び49mm、縮み150mm 鉛直軸周り:0.0° 鉛直軸周り:0.0° 鉛直軸周り:0.1° ・照査の基準値:±2.0° 水平軸周り:0.0° 水平軸周り:0.0° 水平軸周り:0.0° 鉛直:5.1mm 水平:0.8mm 施設面 3. 内径3,100ミリメートル導水管の維持管理と将来を見据えた導水システムの整備 ・照査の基準値:±5mm ・桑原地区については、降伏点に相当する±1.5mm以上 のせん断変形量が生じている 維持管理 ・月1回の路線巡視に加え、漏水調査を定期的に実施 導水システ ・エネルギー面と安全面に優れた取水・導水ルートの整備・検討 ムの整備 ・照査の基準値:±0.2° (2) 長期的な沈下に対する検討結果 本導水管は、沖積層に布設されていることから、長期的な沈下がなかったかを実測した。その結果、竣工時 と現況の差はわずかであり、懸念されていた長期的沈下や不同沈下は生じていないことが確認された。 施 (3) ベローズ溶接部の劣化に対する検討結果 沼本ダム 沼本取水口 明らかに経年劣化と判断できるものは確認できなかったが、今後、発生が懸念されている大規模地震に備え て、本導水管の耐震性強化対策を実施するのに合わせて、管内面からベローズ溶接部の健全度調査を実施し、 その結果を踏まえて、必要な対策を講じていく。 相模ダム 道志川 城山ダム 策 相模原浄水場相模湖系導水連絡管の布設 最大導水量 120,000m3/日 実 施 年 度 平成24~25年度 ②相模原浄水場 ②相模湖系 相模湖系導水連 導水連絡管 絡管の布設 の布設 西長沢浄水場(企業団) 第2導水ずい道 宮ヶ瀬ダム 4 相模原浄水場(企業団) 相模原沈でん池(横浜市) (4) 漏水事故原因についての考察 相模原浄水場への緊急時導水ルートの確保 川井浄水場(横浜市) ①社家ポンプ場 ①伊勢原系 伊勢原系ポンプ ポンプ 以上の検討より、今回発生した漏水事故の原因は、以下のように考察される。 伊勢原浄水場(企業団) の増設の増設 相模大堰 伊勢原接合井 (各漏水箇所についての考察) 社家・伊勢原 導水管 三保ダム ① 成田地区と桑原地区について 国道255号線成田~桑原間の歩道部において、今回の地震動による道路被害が集中したため、この地区周 辺は地震による影響を受けやすい地質であると考えられる。さらに、漏水したベローズ型伸縮可とう管は、 いずれも管防護工との隣接部に埋設されており、せん断変形を受けやすい環境下にある。 したがって、成田地区と桑原地区については、今回の地震動でベローズ型伸縮可とう管に変形性能を超 えるせん断変形が生じ、漏水に至ったものと推察される。 寒川取水堰 西谷浄水場(横浜市) 綾瀬浄水場(企業団) 寒川浄水場(神奈川県) 小雀浄水場(横浜市・横須賀市) 施 策 社家ポンプ場伊勢原系ポンプ増設(2台増設) 最大導水量 計画導水量:280,000m3/日→ 405,000m3/日 実 施 年 度 平成23~24年度 相模川 水系間の相互運用機能の向上 飯泉取水堰 酒匂川 ② 曽我地区について 曽我地区については、腐植土などの柔らかい層が堆積しており、今回の地震動で大きな揺れとなったこ とから、成田地区、桑原地区と同様に、ベローズ型伸縮可とう管に変形性能を超えるせん断変形が生じ、 漏水に至ったものと推察される。 施設面での用水供給システムとしての対策 (漏水事故の原因) 東北地方太平洋沖地震の地震動により、ベローズ型伸縮可とう管部に変形性能を超えるせん断変形が発生 したことが原因である。 今回の地震の震源は東北地方太平洋沖であり、漏水箇所とは離れていたが、地震波が増幅しやすいこの エリア特有の地質構造を有していることが、ベローズ型伸縮可とう管の変形性能を上回る大きなせん断変 形の発生につながったといえる。 2/2
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