第 4章 ABC と ABM

第 4章 ABC と ABM
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2.
3.
4.
ABC
ABC
ABM
ABM
とは何か
の有効性
とは何か
の有効性
1
1. ABC とは何か
ABC(activity-based costing【活動基準原価計算】)
伝統的な原価計算に内在する間接費の配賦問題を解決
するために考え出された原価計算技法。
•間接費の配賦問題とは
間接費とその製品への配賦基準との間に比例関係
がないために、間接費を正確に製品原価に配賦で
きないという問題。
ABCは、この問題を解決するために、間接費を
活動(activity)と呼ばれる基準で分解。
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•伝統的な原価計算とABCとの違い
伝統的原価計算
ABC
間接費
間接費
製造間接部門費
製造間接部門費
直接作業時間などに
よる配賦
製品
製品
発生額と
配賦基準との間に
比例関係が
あるかないか?
活動原価
活動原価
活動回数などによる配賦
製品
製品
活動原価がある行為のために発生した費用であるため、行為の回数と
いった活動原価の発生額と比例関係にある基準を見つけやすい。
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•伝統的な原価計算とABC計算例
表4-1 原価計算の前提条件
製品A
生産個数
直接材料費
直接労務費
製造間接費
直接作業時間
直接作業時間/個
材料受入回数
段取回数
品質検査回数
梱包回数
製品B
合 計
900個
100個
1,000個
90万円
90万円
20万円
10万円
110万円
100万円
200万円
90時間
0.1時間/個
10回
10回
10回
10回
10時間
0.1時間/個
10回
10回
10回
10回
100時間
20回
20回
20回
20回
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表4-2 間接費の配賦計算
間接費
(A)
配賦基準
(B)
伝統的な
製造間接費
200万円 直接作業時間 100時間
原価計算
材料受入活動原価 50万円 材料受入回数
20個
段取活動原価
50万円 段取回数
20個
ABC 品質検査活動原価 50万円 品質検査回数
20個
梱包活動原価
50万円 梱包回数
20個
計 200万円
配賦単価
配賦量(D) 配賦額(C)*(D)
(C)=(A)/(B) 製品A 製品B 製品A
製品B
伝統 2.0万円/時間 90時間 10時間 180万円 20万円
2.5万円/個 10回 10回 25万円 25万円
2.5万円/個 10回 10回 25万円 25万円
ABC
2.5万円/個 10回 10回 25万円 25万円
2.5万円/個 10回 10回 25万円 25万円
100万円 100万円
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表4-3 製造原価
伝統的な原価計算
ABC
製品A 製品B 製品A 製品B
直接材料費 90万円 20万円 90万円 20万円
直接労務費 90万円 10万円 90万円 10万円
製造間接費 180万円 20万円 100万円100万円
製造原価
360万円 50万円 280万円130万円
表4-4 1個当たり製造原価
伝統的な原価計算
製品A 製品B
直接材料費 1,000円 2,000円
直接労務費 1,000円 1,000円
製造間接費 2,000円 2,000円
製造原価
4,000円 5,000円
ABC
製品A 製品B
1,000円 2,000円
1,000円 1,000円
1,111円 10,000円
3,111円 13,000円
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•伝統的な原価計算とABC計算例

伝統的な原価計算はABCに比べて単位原価を、製品Aの場合
889円(=4,000円-3,111円)多く、製品Bの単位原価を8,000円
(=5,000円-13,000)少なく計算している。

この違いは製造間接費の配賦額の違いから生じている。
伝統的な原価計算は、間接費を直接作業時間などの製品の生産
数量が多くなれば増加する基準で配賦するため、少量しかつくら
れない製品Bにはわずかな製造間接費しか配賦しない。その結果、
少量生産品Bの原価を少なく計算した情報を提供していることにな
る。

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コスト・ドライバー(cost driver【原価作用因】)


原価を増減させる要因である。したがって、活動原価の
配賦基準はコスト・ドライバーと考えられる。
配賦基準とコスト・ドライバーを分けて考えるべきだとする主
張もある。たとえば、計算例における配賦基準である材料受
入回数はたしかに材料受入活動原価を増減さっせる要因で
あるが、同じ数量をつくるとしても生産ロットが大きくなれば材
料受入回数は減り、その活動原価が低減するため、材料受
入活動原価を増減させている根源的要因は生産ロットである
と考え、生産ロットこそがコスト・ドライバーであり材料受入回
数は配賦基準にすぎないという主張である。
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2. ABC の有効性

ABCは間接費をその発生額と比例する基準で配賦することで、伝
統的な原価計算に比べてより正確な原価を計算できるため、価格
設定や製品構成などの製品にかかわる意思決定の際に有効な原
価情報を提供できる。

ABCは物流や販売にかかわる間接費を配送先や販売先別に計
算できることから、物流や販売についての意思決定に対しても有
効な原価情報を提供できる。
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•計算例に基づくABCの有効性に検証①

製品の売価を伝統的な原価計算によって計算された製造原価に30%の
マージンを乗せて設定。
表4-5 粗利の計算
売価
製造原価
粗利
伝統的な原価計算
ABC
製品A
製品B
製品A
製品B
5,200円
4,000円
1,200円
6,500円
5,000円
1,500円
5,200円
3,111円
2,089円
6,500円
13,000円
-6,500円
伝統的な原価計算:製品Bは製品Aよりも粗利額の多い商品となる。した
がって、製品Bの販売を拡大することが合理的な製品戦略となる。
ABC:製品Bは赤字製品となる。製品Bを拡販するという製品戦略が成功す
ればするほど収益性は損なわれることになる。
伝統的な原価計算は少量生産品にかかる間接費を実際よりも少なく計算し
てしまう結果、収益性向上のための製品戦略がかえって収益を圧迫すると
いう死の循環(death spiral)に陥らせる危険性をはらんでいるといえる。
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•計算例に基づくABCの有効性に検証②

ABCの原価情報に基づけば、①製品Aを拡販する、②
製品Bを値上げする、③製品Bの生産ロットを拡大する、
といった戦略オプションが立案されることになろう。

③製品Bの生産ロットを拡大するとは、生産ロットを拡大することで
材料受入回数や段取回数、品質検査回数、梱包回数を減らし、製
品Bにかかる手間を省くことをとおして製造間接費の低減をはかる
ことを意味する。

ABCは、期待する効果をもたらす製品戦略立案の基礎となる正確
な原価情報を提供できる。
ABCの有効性は、間接費の比率が高まるほど、また少量多品種
化が進むほど高まるといえよう。

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•事例-部品メーカーA社におけるABCの導入
A社は、間接費の増加が原因で赤字となったある主力製品にABCを導入
ABC導入の目的
人事部や経理部などの全社管理部門を除くすべての間接
費を正確かつ可能なかぎり組立ラインに配賦することである。
ABCの計算手順
受注から顧客への納品までの仕事の流れを10のプロセス
に分解し、さらにプロセスを構成する活動を抽出
31部門にインタビュー調査を行い、それぞれの活動に携わ
る人の工数を把握と、コスト・ドライバーについての意見交換
間接費を活動別に人工比率で活動原価に分解、共に16の
コスト・ドライバーによって活動原価を組立ラインに配布
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•事例-部品メーカーA社におけるABCの導入
ABCによる損益計算書
ライン別損益計算書と顧客別損益計算書の2つからなっている。
・ライン別損益計算書:製品属性や組立ライン属性の違いがど
のように収益性に影響しているかが分析された。
・顧客別損益計算書:顧客別に現行品の貢献利益と将来品の
ための間接費がバランスしているか否かが分析された。
分析結果
・ライン別損益計算書から、①貢献利益が赤字となるラインの大半は、少量生産品
の組立ラインであり、一定の生産数量を確保することの必要性が認識された。
②共通部品使用率が高いと直接費と間接費は低くなる傾向があり、部品の共通化
は収益性にプラスに働くことが確認された。
③自動化や内製化の進んだラインは生産計画や生産支援にかかる間接費負担が
重く収益性が低い傾向が読み取れ、自動化や内製化が収益性向上に必ずしも
有利でないという結論を得た。
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•事例-部品メーカーA社におけるABCの導入
分析結果
・顧客別損益計算書から、①顧客から得られる現行品の貢献利益が将来品への間
接費をカバーできていない状況が明らかとなった。その理由は、顧客の多品種
少量生産化のために現行品で十分な利益を得られないにもかかわらず、将来品
への間接費が増加していることにあった。
②将来品のために発生している間接費のうち6割強を占める活動原価のコスト・ドラ
イバーが部品点数にかかわるドライバーであるため、部品の共通化が原価抑制
に有効であると推定される。
収益性向上の政策
①受注政策:見積方法を変更し、少量生産品や新規部品使用の間接費に与える影
響を見積りに反映させることと、採算を無視した少量受注を排除することによっ
て、顧客別にライン貢献利益を乗来品のために発生する間接費をバランスさせ
る。
②生産政策:少量生産品については完全外製化を視野に入れながら外製化を推し
進める。完全自動化ラインを一時停止しライン貢献利益の改善をはかる。将来
品は、モジュール化による新規部品開発の抑制をはかり間接費を節約する。
③改善政策:工場間接部門や本社における原価低減運動を徹底し10%以上の原
価低減を果たす。
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3. ABM とは何か
•活動基準の意義
ABM(activity-based management【活動基準管理】)におい
て原価を活動基準で分解する意義
①どのようにすれば原価低減ができるかを把握しやすくなる。
活動原価のコスト・ドライバーが把握できて、活動原価の 低
減についてのヒントとなる。
②どの活動原価を削減することが合理的かをあきらかにできる。 活
動原価のなかで顧客満足の向上に役立たない活動原価を
把握できる。
③全体として最適な原価低減の方向性を示しやすくなる。
活動原価を部門横断的な仕事の流れであるプロセスに沿っ
て分析することで、活動原価間のトレードオフがみえてくる。
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•ABMのステップ
プロセス分析
改善効果測定
プロセス改善
改善の方向性決定
付加価値構造の検討
コスト・
ドライバー分析
活動原価の測定
活動属性の設定
活動の抽出
プロセスの識別
SEE
DO
PLAN
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4. ABM の有効性
ABMはプロセスを構成する活動に着目して、顧客満足の
向上の視点からプロセスの改善を行い、原価を低減するた
めの技法である。
特徴
①部門別予算管理に基づく管理会計技法に比べて、
部 門で行われる個々の間接業務の費用対効果やそのコス
ト増減要因の把握を容易にする。
②部門横断的なプロセス全体の最適化をにらんだ経営資
源の配分を促進する。
そのため
ABMは、間接費の改善やリエンジニアリン(reengineering)
を進めるために有効な技術として注目されている。
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•事例-航空機メーカーB社におけるABMを利用したリエンジニアリング
ABM導入の背景
競合会社との価格競争のため収益力の悪化に追い込まれ、いっそうの
原価低減と顧客満足の向上によって競争力を強化することを目的として
リエンジニアリングに取り組む。
ABMによるリエンジニアリング対象プロセスの決定
①プロセスの識別:TQCの品質保証体系を参考にして、24のプロセスが識
別された。
②活動の抽出:それぞれのプロセスを構成する活動が17の原価部門に対
する質問表によって抽出された。
③活動属性の設定:活動は、対象物の形状や機能を変化させる活動か否
かという基準で付加価値活動と非付加価値活動に区分された。
④活動原価の測定:作業時間日報表を作成し、3ヶ月間の作業時間データ
が収集され、作業時間当たりの原価が計算され、活動ごとの作業時間を
乗じて活動原価が測定された。
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•事例-航空機メーカーB社におけるABMを利用したリエンジニアリング
⑤付加価値構造の検討と改善の方向性決定:24のプロセスごとに非付加価
値活動原価が集計された。そして、実現可能性や改善の緊急性などを考
慮して、5つのプロセスがリエンジニアリングの対象プロジェクトとして決定
され、5つのプロジェクトが編成された。
設計変更プロセスのリエンジニアリング
・非付加価値活動の原因 ①初期設計の準備不足
②部品メーカーや関係不問とのコミュニケーション不足
③関係部門長による拒否権行使
・リエンジニアリングの
基本的方向
①初期設計のレベルの向上
②大規模な設計変更の発生しは、設計変更チームを編
成し、プロセス・オーナーに関係部門長を超える権限
を与える
・改善効果
①設計変更にかかる平均日数の約80%短縮
②設計変更プロセスにおける活動原価の20%低減
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•事例-航空機メーカーB社におけるABMを利用したリエンジニアリング
ABM導入の成果
① 問題があるのではないかと思われていたプロセスにおける非効率の程
度を金額で表示できた。
最大の成果は、プロセスの非効率を顧客が価値を見出されない非付加
価値活動原価として明らかにすることで、社員を利害を超えたプロセスの
改善に向かわせたという点。
② 部門横断的なコストのトレードオフに関する理解が進んだこと。
プロセスの上流部分でコストをかけることで下流部分のコストがどの程度
節約できるかという原価のトレードオフを計数的に評価する基礎が手に
入った。
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•ま と め
① ABCは間接費を活動基準で分解することによって、伝統的な原価計算
に比べて間接費の精度の高い配賦を可能とする原価計算技法である。
② ABCは製造間接費だけでなく物流費、販売費、本社費などの計算に利
用され、その原価情報は意思決定に活用される。
③ ABMはプロセスを構成する活動に着目し、顧客の視点に立ったプロセ
スの改善をとおして原価低減をうながす管理会計技法である。
④ ABMの特徴としては、部門で行われる個々の間接業務の費用対効果
やその原価増減要因の把握を容易にすることや、部門横断的なプロセス
全体の最適化をにらんだ経営資源の配分を促進すること。
⑤ ABMは、間接費の低減やリエンジニアリングを試みる企業の管理会計
として採用される。
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参考文献
1)最近は、ABC、ABMについての参照する文献は少ないが、
キャプラン=アンダーソン(久保田敬一・前田貞芳・海老原崇
監訳)「戦略的収益費用マネジメント」マグロウヒルエデュ
ケーション社、2009年が発刊されて新たな、ABC活用につ
いてのアプローチが明かにされている。特徴は時間を基礎
においた測定・マネジメントとして、ABCを利用する点にある。
2)其れ以外には、鈴木・淺田・川野「固定収益マネジメント」中
央経済社、では顧客対象にして、収益とコストを捉える方法
において、ABCの活用が説明されている。
いずれにしても、ABCは、サービス、顧客関係性、SCM(サプラ
イチェーンマネジメント)などにおける収益とコストの関係をと
りわけ、キャパシティーコストの顧客・関係性への対応を明か
にする新たな方法論を展開している。
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