愛知教育大学教科教育センター研究報告 第19号, pp. 187 194 (March, 1995) 身近な岩石の調べ方 愛知教育大学附属高等学校 How to Research of the rocks close Senior High School Attached to Aichi Universityof Education to 細 山 光 也 us Mitsuya HOSOYAMA この中では,③において岩石・地層についての はじめに 「知識」と調べる「技術」が必要である。 これまでに筆者は,生徒に岩石・地層について 愛知教育大学附属高等学校では,平成3年度よ 既習の「知識」を基に新たな学習を行わせ,探究 り1年次に履修する理科Iの地学分野において, 活動・課題研究を行うために必要な「技術」を身 また本年度からはじまった新教育課程での,同じ につけさせるための指導モジュールとして,「化 く1年次に履修する地学IAにおいて,生徒たち 石」,「地層」について報告してきた(細山・藤堂, が自宅周辺の上地の成り立ち・生い立ちを調べる 1993",細山,19944))。本稿ではそれに加えて, という探究活動・課題研究「郷土の生い立ちを知 岩体をつくる岩石および地層中の疎か何であるか る手がかり」を行っている。 を調べる方法について述べる。 その探究活動・課題研究を実践する中で,本校 の生徒たちが中学校までに学んだ理科の知識を学 2。教材としての岩石 習成果として生かすことができていないという問 題が明らかとなり,それを解決するために探究活 a.「郷土の生い立ちを知る手がかり」の概要 動・課題研究の指導法の研究,授業の改良を行っ 探究活動・課題研究「郷土の生い立ちを知る手 てきた(細山, 1993 o, 細山・小島, 1993")。探 究活動・課題研究を行うには,必要な時に必要な 「知識」を使うことができるようにするだけでな く,調査・研究のための知識の使い方としての 「技術」も必要である。したがって「知識」と「技 がかり」の実践については,理科Iでの試行的な 実践(細山, 投稿中)5)が報告されている。地学IAにおいて は,第1章「身の回りの地学」での探究活動・課 題研究として実施している(図1)。 術」は有機的に結びついていなければならない。 b.土地の成り立ちと岩石 探究活動・課題研究「郷土の生い立ちを知る手 がかり」の実践の中では,土地の成り立ち・生い 立ちを知るために,次のような方法を行っている。 1993),地学IAでの実践(細山, 生徒たちが住んでいる土地は,その表層を土壌 が覆っている。したがって,土地の成り立ちを知 るためには,土壌に覆われていない露頭を見つけ て調べなければならない。露頭に現れている岩石・ ① まず,身近な上地で露頭を探す。 地層には,さまざまなものがある。その中で,岩 ② 露頭に現れている岩石・地層が何である 石としてとらえられるのは,岩体としての岩石と かを調べる。 ③ 露頭の岩石・地層から土地の成り立ちを 推定する。 ④ 土地の成り立ちから生い立ちを導き出す。 地層中の疎である。岩石をつくっているのは,原 子の規則的な集まりである鉱物である。岩石は, 構成する鉱物の種類,組織,構造などによって分 類されている。鉱物の種類,組織,構造などの違 187 - 細山:身近な岩石の調べ方 図1 平成6年度地学IA授業計画(部分) -188 - 愛知教育大学教科教育センター研究報告第19号 いは,岩石のでき方の違いによって生じるもので ① ある。すなわち,岩石の種類の違いは,でき方の 肉眼で色調,構成鉱物,構造などを観察 違い一生い立ちーを表している。 する。 C.岩体としての岩石 ② 薄片にして鉱物の組み合わせ,微細な構 岩体として露頭に現れている岩石からは,その 造を顕微鏡で観察する。 岩石種を明らかにすることにより,岩体が形成さ ③ 機器を使って分析し,化学成分などを調 れるまでの過程と,その後,地表に現れるまでの べる。 生い立ちを知ることができる。 d.地層中の磯 というものがある。探究活動・課題研究「郷土の 地層を構成する疎も岩石としてとらえることが 生い立ちを知る手がかり」では,最も簡単な①を できる。地層中の疎からは,その岩石種を明らか 行った。②については,希望者にのみ行わせるよ にすることにより,疎の供給源となった岩体が形 うにした。③は,設備の関係でできなかった。 肉眼で岩石を観察する方法を学ぶためには,学 成されるまでの過程と,その後地表に現れて風化・ 侵食・運搬されて地層として堆積し,再び地表に 校に所蔵されている岩石標本を使用することが有 現れるまでの生い立ちを知ることができる。 効である。本校には,生徒が観察に使用できるだ けの岩石標本が用意されている。市販教材なので 3。岩石の調べ方 一般的なものではあるが,火成岩,堆積岩,変成 岩の代表的な標本がそろっている。教科書,資料 a.岩石の分類 を参考にして,これらの岩石標本を観察すること により,岩石の色調,鉱物組成,組織,構造など 岩石は,形成される過程の違いによって,大き く3つに分類されている。それらは,マグマの活 動,火成作用により形成される火成岩,地表の堆 の特徴を知ることができる。また,露頭から採取 した岩石や疎か何であるかを,その色調,鉱物組 積作用により形成される堆積岩,変成作用によっ 成,組織,構造などの特徴を観察し,所蔵標本と て形成される変成岩である。 比較して調べることも可能である。 火成岩は,形成される場所の違いによって組織 や構造が異なり,さらに火山岩,深成岩などに細 C.研磨標本の作成 露頭から採取してきた岩石や疎は,多くの場合 かく分類される。その中で,マグマの性質の違い 表面が風化しており特徴が観察しにくい。このよ などにより生じる造岩鉱物の違いにより,個々の うな場合,一面以上の研磨面をつくって観察する 岩石名が決定されている。 堆積岩は,形成される原因の違いによって,さ とよい。 岩石を研磨する一般的な方法は,鉄板上で粗い らに砕屑岩,生物岩などに細かく分類される。そ カーボランダムを使って研磨しはじめ,段階的に の中で,構成鉱物の違いなどにより,個々の岩石 細粒のカーボランダムにしていって,最後は極細 名が決定されている。 粒のコランダムやベンガラで研磨面を滑らかに仕 変成岩は,源岩に加わる熱や圧力の違いによっ て,さらに接触変成岩,広域変成岩に細かく分類 上げるというものである。これには大変な労力と 時間を必要とする。授業時間内で生徒が研磨作業 される。その中で,構成鉱物の違いなどにより, をし終え,観察することができるように,簡便法 個々の岩石名が決定されている。 として次のような方法で行った(図3)。 すなわち,それぞれの岩石名は,岩石が形成さ れる過程の違いを,詳細に反映しているものであ ① る(図2)。 鉄板上で60番程度の粗いカーボランダム を用いて岩石試料を研磨し,平らな面をつ b.所蔵標本との比較 くる。岩石試料に研磨に適する面がない場 ある岩石が何であるかを調べる方法には, 合は,あらかじめハンマーで割って面をつ -189 - 細山:身近な岩石の調べ方 た岩石である。例えばある土地が砕屑岩から成り くっておく。 ② 岩石試料をよく水洗し,カーボランダム 立っているならば,かつてその土地の周辺で地表 に露出していた岩体が風化,侵食されて牒,砂, を落とす。 ③ 泥などの砕屑物がつくられ,それが運搬されてそ 鉄板を裏返して雑巾でよく拭き,粗いカー ボランダムが残らないようにしておく。鉄 の土地に堆積して堆積物となり,続性作用によっ 板を洗わなくてよいため,作業時間を短縮 て固まった後,土地が隆起して地表に露出した, できる。 という生い立ちが推定できる。 c.変成岩からわかる郷土の生い立ち ④ 裏返した鉄板上で, 120番程度のやや細 変成岩は,地下で源岩に熱や圧力が加わって溶 粒のカーボランダムを用いて,研磨面を滑 融しないまま鉱物組成や組織が変化してできた岩 らかにする。 ⑤ 石である。ある土地が広域変成岩から成り立って よく水洗した後,研磨面にクリアラッカー を塗布して乾燥する。クリアラッカーは, いるならば,かつてその土地の地下に熱や圧力が 水性のものを使用すると,試料を完全に乾 燥させなくても塗布できるので,作業時間 加わって広域変成岩が形成された後,土地が隆起 して上部の岩石が削剥され地表に露出した,とい を短縮できる。 う生い立ちが推定できる。 d.地層中の磯からわかる郷土の生い立ち これだけで,鉱物組成,組織,構造を観察する 疎は,a cによりできたさまざまな岩体が地 表に露出して,風化,侵食を受け削り出された岩 のに十分な研磨標本が作成できる。 疎は,表面が新鮮である場合も多いので,その 石の塊である。ある土地を構成する地層から疎か ままクリアラッカーを塗布してもよい。その場合, 見つかったならば,かつてその土地の周辺におい クリアラッカーを塗布しない部分を残しておくと, てa cのいずれかの過程を経て形成され地表に 露出した岩石が,風化,侵食を受けて疎となり, 両者を比較することができるため,より効果的で ある。 運搬されてその土地に地層として堆積し,その後 土地が隆起して地表に露出した,という生い立ち 4。岩石からわかる郷土の生い立ち が推定できる。 露頭に現れている岩体や地層中の疎かどんな岩 考 5 察 石であるかがわかれば,土地の生い立ちを推定す 生徒たちが学んだことを活用して実際に岩石を ることができる。ここでは,その一般的なものを 調べ,考察した生い立ちは次のようなものである。 述べる(図2)。 例1 a.火成岩からわかる郷土の生い立ち 自宅の裏の露頭で採集した岩石は,白っぼい岩 火成岩は,火成作用により活動したマグマが冷 え固まってできた岩石である。ある土地が火山岩 花こう岩の岩体 石で,鉱物を調べてみると,石英,長石,雲母か から成り立っているならば,かつてその土地に火 らなっていた。鉱物の大きさからこの岩石は等粒 山活動が起こったことが推定できる。また,ある 状組織であり,所蔵標本と比較した結果,深成岩 土地が深成岩から成り立っているならば,かつて の花こう岩であると結論された。 自宅の裏の露頭に花こう岩が露出していること その土地の地下深くでマグマが活動し,ゆっくり と冷え固まって深成岩が形成された後,土地が隆 から,付近の土地は花こう岩から成り立っている 起して上部の岩石が削剥され地表に露出した,と ものと推定された。 したがって,この土地の生い立ちは,次のよう いう生い立ちが推定できる。 b.堆積岩からわかる郷土の生い立ち に考えられる。まず,もとになる岩石が地下で熱 堆積岩は,地表でできた堆積物が固まってでき や圧力を受けて溶融し,花こう岩質のマグマが形 -190 - 愛知教育大学教科教育センター研究報告第19号 岩石標本を観察して適当な岩石名とその特徴を,資料を参考にして記入しなさい。 図2 岩石の分類と生い立ち(生徒用資料) - 191 - 細山:身近な岩石の調べ方 図3 研磨標本の作成(簡便法:生徒用資料) ― 192 - 愛知教育大学教科教育センター研究報告第19号 図4 地質時代の位置付け 成された。このマグマが地下でゆっくりと冷えて 地域の資料から,チャートが堆積した時代は, 固まり,石英,長石,雲母の等粒状組織からなる 2億 3億年前,チャートが疎として堆積した時 花こう岩の岩体が形成された(図2)。その後, 代は,70 土地が隆起して上部の岩石が削剥され,花こう岩 た(図4)。 80万年前であることも知ることができ の岩体は地表に露出し,現在に至る。 地域の資料から,花こう岩の形成された時代 生徒たちが岩石を調べて,例1,2のような生 は,約1億年前であることも知ることができた い立ちを考察できたことは,「知識」を使うこと (図4)。 ができるようになった上で,調査・研究のため知 例2 識の使い方としての「技術」を習得できた結果で チャートの磯 自宅付近で見つかった露頭に現れていた地層か あると考えられる。 らは,赤色や緑色をしていて,硬く緻密で光沢の ある疎か採集された。研磨して観察しても鉱物の 6。おわりに 粒子は見えず,所蔵標本と比較した結果,この疎 は生物岩のチャートの疎であると結論された。 本報告であつかった指導モジュール「岩石の調 自宅付近の露頭に現れた地層から,チャートの べ方」は,「化石の調べ方」「地層の調べ方」とと 疎か見つかったことから,この上地は,チャート もに,探究活動・課題研究「郷土の生い立ちを知 の疎を含む地層から成り立っているものと推定さ る手がかり」を行う上で,生徒が必要な「知識」 れた。 を使うことができるようにし,調査・研究のため したがって,この土地の生い立ちは,次のよう の「技術」を習得することができるものである。 に考えられる。まず,広い大洋底に珪質の殻をも このように「知識」と「技術」を有機的に結びつ つプランクトンの遺骸が堆積し,チャートが形成 け,生徒の主体的,積極的に探究する能力や態度 された。やがてチャートは日本列島の一部となり, の育成に有効な教材の開発,改良をこれからも続 土地の隆起によって地表に現れた。地表に露出し けていきたいと考えている。本報告に対してのご たチャートは,風化,侵食を受けて疎となり,運 助言,ご批判をいただければ幸いである。 搬されて地層として堆積し,その後土地が隆起し て地表に露出し,現在に至る。 -193 - 細山:身近な岩石の調べ方 -194 -
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