湯田貯砂ダムの設備改良について 北上川ダム統合管理事務所 吉村

湯田貯砂ダムの設備改良について
北上川ダム統合管理事務所
吉村
○高橋
前川
和幸
直陽
茂
1、はじめに
湯田貯砂ダムは、平成14年度に竣工した重力式コンクリートダムで
あり、ダム寿命延命化を目的とする貯砂機能、湖面利用・景観配慮を目
的とした水位維持機能として役割を担っている。本ダム水位低下時(洪
水期)には貯砂ダム堤体内より越流状況を見ることができる日本でも珍
しいダムで、観光の場にもなっている。
本報告は、貯砂ダムのゲート設備について過去の不具合を解消する開
度計機構の改良、及び施設保護を目的とする網場設置について検討内容
や考慮点、一般的な網場との相違点を報告するものである。
至横手市
貯砂ダム
湯田ダム
図−1
至北上市
貯砂ダム位置図
写真−1
越流状況
2、貯砂ダムゲートの改良について
2.1、ゲート概要
貯砂ダムに設置されてあるゲートの概要は以下のとおり。
表−1
写真−2
ゲート上流面
ゲート諸元
形
式 ステンレス鋼製スライドゲート
門
数 2門
大 き さ 2m(径間)×2m(高さ)
水 密 方 式 後面四方メタル水密
開 閉 方 式 油圧シリンダ式
設 置 環 境 常時水没
目
的 渇水時の利水供給、緊急時の水位低下
左岸
右岸
1号 ゲート 2号 ゲート
図−2
ゲート配置図
2.2、開度計機構の改良
旧
新
従 来 開 度 計 と 新 設 開 度 計 の 機 構 の 違 い は 、開
度発信器軸の回転機構である。ワイヤを介した
錘の引張力により巻上ドラムを回転させてい
たものに対し、ゲート動作に同調するラック棒
によりピニオンギアを回転させ開度を検出す
る仕組みとした。ワイヤの絡みや破断等の懸念
が解消され、回転軸が強制的に駆動するため設
備の信頼性が増した。
ラック棒
開度計ケーブル
開度計ケーブル
ピニオンギア
開度発信器
操作盤へ
操作盤へ
巻上ドラム
回転軸
ワイヤ
回転軸
開度発信器
錘
図−3
開度計設置状況
ゲート側
図−4
旧
新
ゲート側
開度計検出イメージ
2.3、その他の改良及び工夫事例
開度計改良に加え改良した項目を以下に示す。
ゲート操作の度に倉庫より搬出していた油圧ユニットを貯砂ダム付近の建屋(H20
年度施工)に常設した。緊急時の操作性の向上、冬季における搬入路除雪の解消、
ケーブル接続部への雨水等の浸水懸念の解消が図れた。
ゲート開操作に伴い上昇するラック棒上部に開閉確認
棒を設け、50cm毎に色別シートを施した。離れた場所
からでも開閉状況を視認でき、開度計に不具合が生じ
た場合でも開閉確認機能のメインとすることで、設備の
健全度を確保した。
ピニオンギア上部にカバーを設け、ゲート操作をしない
期間の可動部への堆泥防止効果を持たせた。開度発
信器が設置されてあるシリンダ室内は水の流動がほと
んどなく、ダム湖水に含まれる不順物質の沈降がゆっく
りであるため有効的に作用するものと期待している。
3、網場の設置について
3.1、設計における検討項目
3.1.1、網場の配置検討内容
・網場の平面配置は、貯砂ダム
上流部の湖面利用者の利用範
囲と越流部の安全対策を考慮
し、貯砂ダムから10m離し
た配置とした。
・湯田ダム貯水位が上昇し貯砂
ダムが水没した際の維持管理
を考慮し、船舶の航行が可能
図−4 貯砂ダム平面図
な構造とした。
3.1.2、アンカーの検討
・網場の平面配置を貯砂ダム
越流部から10m離隔とした
ことから左右岸アンカーの他
図−5 設置箇所横断面図
に中間部に1箇所アンカーを配置した。
・左 右 岸 ア ン カ ー は 急 斜 面 部 へ 施 工 と な る こ と か ら 一 般 的 な コ ン ク リ ー ト
アンカーではなくロックボルト式とし岩盤と一体化させる方式とした。
・中間アンカーは岸からの距離、水位低下による湖底部ドライ施工時の
ト ラ フ ィ カ ビ リ テ ィ 、台 船 運 搬 吊 り こ み 等 を 検 討 し NETIS に 登 録 さ れ て
いる曳航自沈式アンカーを採用した。
3.1.3、通船方法の検討
・越流している貯砂ダムの水位が上昇し貯砂ダムが水没した際に網場部
を作業船や巡視船が航行できるよう網場左右岸に通船部を設けた。
52.6
1m
左岸アンカー
EL 227.0
網場
S1=57.1m
係留アンカー(曳航自沈式)
EL 221.0
9.76
m
112.37
径間長
40.00m
係留フロート
32.86
6
.6
13
9m
.6
70
網場
S=134.3m
網場
S2=77.2m
右岸アンカー
EL 227.0
123.30m
52.61m
B6
70.69m
HHWL EL239.0
HWL EL236.5
5
B-
調整モルタル
15°
EL227.0
CL級岩盤
ロックボルト
L=5000
5000
貯砂ダム越流水位
EL226.0
15°
調整モルタル
深度3.2m
深度3.0m
EL227.0
CL級岩盤
5000
ロックボルト
L=5000
3.2貯砂ダム網場の特徴
3.2.1、曳航自沈アンカー採用
網場を貯砂ダムから10mの離隔を確保するため設置する中間アンカ
ー は 、 NETIS に 登 録 さ れ て い る 曳 航 自 沈 式 ア ン カ ー を 採 用 し た 。
曳航自沈式アンカーとコンクリート式の比較は次のとおり。
表−2
アンカー比較表
曳航自沈式アンカー
コンクリートブロック
鋼製アンカーをクレーンにて湖面へ下ろし、曳航 陸上で製作したコンクリートブロックを湖面に浮か
船にて設置位置まで曳航後、アンカー内に充水し べた台船上に搭載し、アンカー設置位置まで曳航
概要
自沈させる。アンカー付属の羽により回転しながら する。設置位置でクレーン台船にてコンクリートブ
目的位置に自沈させる。
ロックを吊り下げ、設置位置へ沈める。
・現場での施工日数が短い
・クレーン台船を使用するため施工日数が長い
・潜水(大水深)作業が不要
・吊ワイヤ取外しのため潜水作業が必要
・材料費は安価だが施工費が高価
特徴 ・設置精度が高い(30m水深で誤差1m程度)
・移設が容易
・移設が困難
・工費が安価
概算工事
3,500千円
13,500千円
総合比較
○
×
写真−3
曳航自沈式アンカー
写真−4
自沈状況
3.2.2、網場通船構造
一 般 的 な 網 場 の 通 船 設 備 は 通 年 使 用 す る こ と と し て い る 。本 湯 田 貯 砂 ダ
ム は 貯 砂 ダ ム を 越 流 し て い る 洪 水 期 は 通 船 で き ず 、貯 砂 ダ ム が 水 没 し て い
る 非 洪 水 期 に 通 船 可 能 で あ れ ば よ い 。通 船 ゲ ー ト を 設 置 せ ず と も 水 位 上 昇
時 に 網 場 左 右 部 に 通 船 範 囲 を 設 け 、自 然 に 通 り 抜 け 可 能 な 構 造 と し た 。ま
た 、流 木 は 主 に 水 位 が 低 く 越 流 し て い る 洪 水 期 の 出 水 時 に 流 れ 込 ん で く る
も の と 想 定 さ れ 、水 位 が 高 い 非 洪 水 期 は 網 場 左 右 岸 に 開 口 部 を 設 け て も 流
木止機能に影響ないものと考えられる。
通船部
HWL EL236.5
EL227.0
貯砂ダム越流水位 EL226.0
図−6
網場横断図
EL227.0
写真−5
網場設置状況
3.2.3、設計の特徴
設計計算上の特徴は次のとおり
表−3 設計条件比較表
一般的な網場
本施工現場
考慮点
であり、一般的な網場に比べて
設計風速 20∼30m/s 40m/s 強風観測の実績
設置条件が厳しい。
設計流速
0.5m/s
1.0m/s 越流部近傍
4、まとめ
ゲ ー ト 改 良 、網 場 設 置 共 、住 民 の 方 々 の ご 理 解 を 頂 き な が ら 貯 砂 ダ ム 上
流の水位を下げることで、苦情もなく実施することができた。
ゲ ー ト 改 良 に つ い て は 、過 去 発 生 し て い る 開 度 計 の 不 具 合 原 因 が す べ て
解 消 さ れ た 。今 後 は 年 1 回 程 度 貯 砂 ダ ム 上 流 の 水 位 を 下 げ 、シ リ ン ダ 室 の
清掃を行い、設備を良好な状態に維持していきたい。
網 場 に つ い て は 、設 計 の 妥 当 性 を 検 証 す る た め 、網 場 の 基 本 機 能 で あ る
洪 水 発 生 時 の 流 木 捕 捉 の 状 況 、左 右 岸 開 口 部 の 通 船 状 況 の 確 認 、開 口 部 か
らの流木の流れ出しの有無を確認する必要がある。