超音波画像による女性の横隔膜筋厚の変化と呼吸機能との関連

第48回日本理学療法学術大会(名古屋)
P-A基礎-258
超音波画像による女性の横隔膜筋厚の変化と呼吸機能との関連
和田 朋美 1), 曽田 武史 1), 松田 理咲 1), 宮木 真里 2), 萩野 浩 1)
1)
鳥取大学医学部附属病院リハビリテーション部 ,
2)
鳥取大学医学部附属病院検査部
key words 横隔膜・超音波画像・呼吸機能
【はじめに、目的】横隔膜は呼吸機能に影響を及ぼす、主要な吸気筋である。近年、心不全患者における吸気筋力の低下が
予後を悪化させることを示唆されており、その一つに横隔膜における type1 線維の萎縮が関与している可能性を示唆され
ている。先行研究では、心不全患者において、超音波画像により測定した吸気筋トレーニング前後の筋厚の変化が吸気筋
力の変化と相関することが報告されており、横隔膜の機能を把握することは心不全患者の呼吸能力や運動耐容能、予後を
把握する上で有用な指標になると考える。これまでの横隔膜筋厚に関する基礎研究では、横隔膜筋厚は肺活量や吸気筋力
との関連が示唆されているが、これらの研究は男性を対象とした検討であり、実際に女性における横隔膜筋厚と呼吸機能
との関係を検討した報告は見当たらない。そこで、本研究では、女性における横隔膜筋厚と呼吸機能との関係について検
討することを目的とした。
【方法】対象は若年女性 27 名(年齢 22.2 ± 3.1 歳、身長 157.8 ± 5.4 cm、体重 50.0 ± 6.4 kg、BMI 20.1 ± 2.1 kg/m2)とし、
呼吸器疾患および循環器疾患の既往がある者、喫煙者は除外した。測定項目は、横隔膜筋厚、呼吸機能、腹部隆起力、第 10
肋骨部拡張差および腹部拡張差とした。横隔膜筋厚は、超音波診断装置 Aprio MIX(TOSIBA)を用いて右中腋窩腺上の
第 10 肋間にプローブを垂直にあて、zone of apposition の筋厚を測定した。測定は端坐位で最大呼気位(RV)と最大吸気位
(TLC)の横隔膜筋厚をそれぞれ 3 回行い、その平均値を求めた。さらに TLC の横隔膜筋厚から RV の横隔膜筋厚を引いた
変化量を算出した。呼吸機能の指標として、努力性肺活量(FVC)、一秒量(FEV1.0)、一秒率(FEV1.0%)、および最大呼
気流量(PEF)
、最大吸気口腔内圧(PImax)
、最大呼気口腔内圧(PEmax)をスパイロシフト SP370-MRP(フクダ電子)を用
いて測定した。腹部隆起力は、股関節および膝関節 90 度屈曲位で、RV から最大吸気努力した際の上腹部の隆起力を徒手
筋力計ミュータス F-1(アニマ)を用いて測定した。第 10 肋骨部拡張差および腹部拡張差は、テープメジャーを用いて最大
吸気および最大呼気時の周径を測定し算出した。横隔膜筋厚と呼吸機能の指標との相関は Pearson の積率相関係数を用い
て解析し、有意水準は 5%未満とした。
【倫理的配慮、説明と同意】本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得てから開始し、被験者には事前に研究内容
の説明および同意確認を書面にて行った。
【結果】RV と TLC の横隔膜筋厚は、腹部隆起力と有意な正相関を認めた(それぞれ r=0.51,p<0.01;r=0.43,p<0.05)
.横隔
膜筋厚とその他の呼吸機能の指標、第 10 肋骨拡張差および腹部拡張差との相関を認めなかった。
【考察】横隔膜筋厚は横隔膜筋力の指標とされる腹部隆起力と正相関を認めた。先行研究では機能的残気量と RV の横隔膜
筋厚に有意差がなかったことが示されており、このことから、TLC の筋厚は横隔膜活動量を、RV の横隔膜筋厚は横隔膜筋
量を反映している可能性がある。また本研究では PImax および FVC との相関を認めなかった。FVC や PImax は胸鎖乳突
筋などの横隔膜以外の吸気筋の作用、胸郭や肺の弾性などの他の因子も影響している。また一般的に女性は胸式呼吸が多
いことが言われており、呼吸様式の違いが影響している可能性もある。今後は性別および年代による違いについて検討す
る必要がある。
【理学療法学研究としての意義】横隔膜機能は肺機能や呼吸器疾患の重症度などに影響しており、超音波画像を用いた横隔
膜機能評価が、呼吸筋トレーニングの効果判定や予後評価としての有用性が期待できる。