ヒト iPS 細胞の効率的な作製にお役立てください! ヒト体細胞より人工多能性幹細胞(induced pluripotent ■ Human iPS Cell Generation™ Vector Set stem cells:iPS 細胞)を産生する技術は京都大学の山 本セットには iPS 細胞誘導用レトロウイルスベクターを調 中伸弥教授らのグループによって確立されました 1,2)。 製するための下記の 3 種類のベクタープラスミドが含まれ このヒト iPS 細胞を誘導する実験には、タカラバイオの ています。 遺伝子工学関連製品や受託サービスが非常に有用です。 ・pDON-5 OCT3/4-SOX2 DNA 本稿では、Human iPS Cell Generation™ Vector ・pDON-5 KLF4 DNA Set(製品コード 3670:新製品)を用いて iPS 細胞誘導 ・pDON-5 LIN28-NANOG DNA 用遺伝子発現組換えレトロウイルスベクターを調製し、 iPS 細胞誘導用遺伝子のうちの SOX2 ならびに KLF4 は、 標的細胞に共感染させて iPS 細胞の誘導を行い、評価す Human Brain PolyA+ RNAを出発材料として PrimeScript るまでの一連の実験をご紹介いたします。 RTaseとHigh Fidelity PCR 酵素 PrimeSTAR Max DNA 1)Takahashi, K. et al (2007) ., Cell , 131(5), 861-872. 2)Nakagawa, M. et al (2008) ., Nat Biotechnol , 26(1), 101-106. Polymerase を用いた RT-PCR により取得しました。一方、 iPS 細胞誘導用遺伝子( 、 ) の取得* 、 、 、 高効率・高発現遺伝子導入レトロウイルスベクター プラスミド (pDON-5) に遺伝子をクローニング* pE-ampho ベクターと pGP ベクター IT -293を用いて3 種類のベクターを G3T-hi 細胞にコトランスフェクション OCT3/4、LIN28、NANOG は、人工合成遺伝子作製によ り取得しました。各遺伝子は pDON-5 レトロウイルスベク タープラスミドにクローニングしました。なお、OCT3/4 と SOX2 、および LIN28 とNANOG はそれぞれ IRES 配列に より連結しているため、単一 mRNAとして転写され、SOX2 (あるいは NANOG ) は IRES を介して OCT3/4(あるいは LIN28 ) とは独立に翻訳され発現します。 各遺伝子の GenBank Accession No.を以下に示します。 遺伝子名 GenBank Accession No. OCT4 SOX2 KLF4 LIN28 NANOG NM_002701.4 NM_003106.2 NM_004235.3 NM_024674.4 NM_024865.2 ■ iPS 細胞誘導用遺伝子発現組換えレトロウイルスの調 製およびウイルスタイターの測定 iPS細胞誘導用遺伝子発現レトロ ウイルスベクター 【方法】 2 × 106 個の G3T-hi 細胞をコラーゲンコート6 cm ディッシュ に播種し、翌日、Trans IT -293 (10 µl) を用いて Retrovirus Packaging Kit Ampho のコンポーネントである pE-ampho RetroNectin 固定化 シャーレorプレート 正常ヒト皮膚線維芽細胞 (NHDF-Ad) ベクター(1 µg) とpGP ベクター(2 µg) 、および上記 iPS 細 胞誘導用遺伝子搭載 pDON-5 ベクターの一つ(2 µg) をコト ランスフェクトした。翌日培地を交換し、 トランスフェクション ES細胞用培地で培養 (+bFGF) の後 48 時間後に培地を回収して 0.45 µm フィルターでろ 過したものをウイルス液として感染に使用した。得られた 3 種類の iPS 細胞誘導用レトロウイルスベクターの RNAタイ iPS細胞コロニー (ES細胞様コロニー) の出現 ターは、Retrovirus Titer Set (for Real Time PCR) とOne Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time)により測定した。 図 1 iPS 細胞誘導実験の概略 なお、リアルタイム PCR は Thermal Cycler Dice *本操作は、Human iPS Cell Generation™ Vector Setを用いることで省略 できます。 Time System にて行った。 36 ● BIO VIEW No.57 Real も高い誘導効率が得られるなど、ウイルスの濃度によらず 【結果】 検量線をもとに、各ウイルス液に含まれるウイルス RNA の 安定して iPS 細胞を誘導することができました。 コピー数を算出することができました。いずれのレトロウイ また、導入する遺伝子の組み合わせについては、iPS 細 ルスベクターについても1 × 1011 copies/ml 前後の RNAタ 胞誘導のためには OCT3/4-SOX2 と KLF4 が必要で、 LIN28-NANOG を組み合わせることで、さらに誘導効率の 上昇が認められました(図 3B) 。 なお、今回の iPS 細胞誘導実験においては、3 遺伝子 (OCT3/4-SOX2、KLF4 )導入時で最大約 0.14 %(2 × 104 個の感染細胞から28 個の iPS 細胞コロニー)、5 遺伝子 (OCT3/4-SOX2、KLF4、LIN28-NANOG )導入時で最大 約 0.42 %(2 × 104 個の感染細胞から84 個の iPS 細胞コロ ニー) と非常に高い誘導効率が認められ、pDON-5 ベクター や RetroNectin が iPS 細胞誘導において非常に効果的な ツールであることが示されました。 イターを得ることができました(図 2)。 RNAタイター (copies/ml) 2.5×1011 2.0×1011 1.5×1011 1.0×1011 0.5×1011 0 OS K LN Alkaline phosphatase 染色 (ALP 陽性コロニー) OS :OCT3/4 -IRES-SOX2 を搭載したレトロウイルスベクター K :KLF4 を搭載したレトロウイルスベクター LN :LIN28 -IRES-NANOG を搭載したレトロウイルスベクター 図 2 RNA タイターの測定 A) ■ レトロウイルスベクターの感染と iPS 細胞の誘導 25 5 遺伝子導入 【方法】 Fibroblast (NHDF-Ad)] に、遠心 RetroNectin -bound virus (RBV)感染法(以下:レトロネクチン法) あるいはポリブレン 法により3 種類のレトロウイルスベクター(5 遺伝子すべて) iPS 細胞コロニー数 正常ヒト皮膚線維芽細胞(成人) [Normal Human Dermal 20 15 ポリブレン法 レトロネクチン法 10 5 を 2 日続けて 2 回感染させることで、両法における iPS 細 胞誘導効率を比較した。また、レトロネクチン法においては、 0 導入遺伝子の組み合わせを変えた場合の iPS 細胞誘導効 1 率についても検討した。 感染には、前述の各レトロウイルスベクター液を等量ずつ 混合し、10 % FBSを含む DMEM で段階希釈したものを用 100 80 レトロウイルス感染後25∼30日目にTRACP & ALP doublestain Kitを用いて ALP (Alkaline phosphatase) 染色し、ALP 陽性で ES 細胞様の形態を示すコロニーをiPS 細胞コロニー としてカウントした。 iPS 細胞コロニー数 90 細胞上へ 2 × 104 cells/well で播種した。その後、4 ng/ml 行い、iPS 細胞を誘導した。 1/100 B) いた。感染後 6 日目に感染細胞を6 well plate のフィーダー bFGFを含む ES 細胞培養用培地を用いて適宜培地交換を 1/10 レトロウイルスベクター濃度 導入遺伝子検討 70 60 50 40 30 20 10 0 【結果】 5 種類(OCT3/4-SOX2 , KLF4 , LIN28-NANOG ) の遺伝子 導入によるiPS 細胞の誘導実験において、レトロネクチン 法はポリブレン法よりiPS 細胞の誘導効率が平均で 24 倍 高いことが確認できました(図 3A)。特にレトロネクチン法 では、1/100 倍量のレトロウイルスベクターを用いた時に OS OS+K OS+LN OS+K+LN OS :OCT3/4 -IRES-SOX2 を搭載したレトロウイルスベクター K :KLF4 を搭載したレトロウイルスベクター LN :LIN28 -IRES-NANOG を搭載したレトロウイルスベクター 図 3 レトロネクチン法とポリブレン法による iPS 細胞誘導効率の 比較および導入遺伝子の検討 BIO VIEW No.57 ● 37 ■ iPS 細胞の評価 ■ 多重遺伝子導入効率の検討(参考) 【方法】 iPS 細胞誘導実験においては、通常 2 種類以上のレトロウ レトロネクチン法で得た iPS 細胞コロニーをピックアップ イルスベクターを細胞に感染させます。この場合の感染効 してクローン化した後、ゲノムへのレトロウイルスベクター 率は、iPS 細胞誘導効率に直結すると考えられます。2 種 挿入コピー数をProvirus Copy Number Detection Primer 類の異なった蛍光タンパク質発現レトロウイルスベクター Set, Human(for Real Time PCR) とCycleavePCR Core を用いて、レトロネクチン法とポリブレン法での多重遺伝 RNA Kitを用い 子導入効率(1 つの細胞に 2 種類の蛍光タンパク質が導入 Kitを用いて測定した。また、FastPure て RNA を調製した後、RT-PCR によりES 細胞マーカー される割合) を測定しました。 の遺伝子発現を確認した。なお、コントロールとして山中 教授らのグループによって 3 遺伝子の導入により樹立され 【方法】 た iPS 細胞クローン [253G1:Nakagawa, M. et al .,(2008) iPS 細胞誘導実験と同様に、正常ヒト皮膚線維芽細胞(成 Nat Biotechnol , 26(1), 101-106. 京都大学より提供]に関 人)に対して、レトロネクチン法とポリブレン法により、緑 しても同様に解析を行った。 色蛍光タンパク質 AcGFP1 発現レトロウイルスベクター と赤色蛍光タンパク質 mStrawberry 発現レトロウイルス ベクターを用いて遺伝子導入を行った。ウイルス溶液は 【結果】 表 1 に示すように、今回樹立した iPS 細胞クローン (iPS-3) AcGFP1 および mStrawberry 発現レトロウイルスベクター についてゲノムへの挿入コピー数を測定したところ、約 溶液を等量ずつ混合した後、適切な濃度に希釈して使用し 10.2 コピーでした。一方、コントロールの 253G1 クローン た。共感染 5 日後に、フローサイトメーターで AcGFP1と では約 19.3 コピーでした。実験手法が異なるために一概 mStrawberry の双方の発現が認められる細胞集団の割合 には比較できませんが、pDON-5 ベクターとレトロネクチン を測定し、遺伝子導入効率を算出した。 の組み合わせにより、より少ないゲノムへの挿入コピー数 でも、効率的に iPS 細胞が誘導されることが示唆されまし 【結果】 た。また、RT-PCR により11 種類の ES 細胞マーカー遺伝 4 種の異なるドナーに由来するヒト皮膚線維芽細胞におけ 子の発現を確認したところ、元の線維芽細胞(NHDF-Ad) る遺伝子導入効率の平均を図 5 に示しました。レトロネク にはほとんど認められなかったこれらの遺伝子の発現が、 チン法はポリブレン法と比較して高い二重蛍光陽性細胞率 iPS 細胞クローン (iPS-3、253G1とも)において認められ を示しました。ウイルス濃度が低いほどその差は著しく、 ました(図 4)。なお、得られた iPS 細胞クローンについては、 RetroNectin を用いることで少量のウイルス溶液で高効 免疫不全マウス(SCID マウス)での奇形腫形成実験にお 率の遺伝子導入が可能でした。また、グラフ中の誤差範囲 いて内胚葉・中胚葉・外胚葉細胞への分化多能性を確認 は標準偏差を示しますが、その範囲は小さく、ドナー差に しています (データ省略)。 影響を受けることなく、安定して遺伝子導入が可能である ことが確認できました。 表 1 iPS 細胞クローンのゲノムへのレトロウイルス挿入コピー数 挿入コピー数 253G1 (京都大学で樹立) 19.34 -A NH DF 3G 1 25 -3 iPS DF -A NH 3G 25 iPS -3 1 d d 10.24 70 二重遺伝子導入効率 (%) クローン名 iPS-3(タカラバイオで樹立) 60 ■ ポリブレン法 ■ レトロネクチン法 50 40 30 20 10 0 1 1/10 1/100 1/1000 レトロウイルスベクター濃度 図 5 レトロネクチン法とポリブレン法による二重遺伝子導入効率 の比較 エラーバーは 4ドナーの平均値± SDを示す。 図 4 iPS 細胞クローンでの ES 細胞マーカー遺伝子の発現 38 ● BIO VIEW No.57 ■ 関連製品・受託サービス 製品名 製品コード 容量 価格 各 5 µg ¥ 150,000 [ヒトiPS 細胞誘導用レトロウイルスベクタープラスミドセット] Human iPS Cell Generation™ Vector Set 3670 NEW 人工合成遺伝子作製受託 お問い合わせください iPS 細胞誘導用組換えプラスミドベクター作製受託 NEW お問い合わせください [iPS 細胞誘導用遺伝子発現組換えレトロウイルスの調製およびウイルスタイターの測定] Retrovirus Packaging Kit Ampho 6161 10 回分 ¥ 52,000 レトロウイルス調製細胞 G3T-hi 細胞(2 × 106 cells) 6163 1 vial ¥ 62,000 1 Set ¥ 124,000 Retrovirus Constructive System Ampho 6165 Trans IT -293 MIR2704 MIR2700 MIR2705 MIR2706 0.4 1 1 1 Retrovirus Titer Set(for Real Time PCR) 6166 100 反応分 One Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time) RR066A RR066B (A × 5) 100 回 500 回 ¥ 42,000 ¥ 165,000 一式 ¥ 3,600,000 Thermal Cycler Dice Real Time System iPS 細胞誘導用組換えレトロウイルス作製受託 TP800 NEW ml ml ml × 5 ml × 10 ¥ 35,000 ¥ 52,000 ¥ 210,000 ¥ 385,000 ¥ 37,000 お問い合わせください [レトロウイルスベクターの感染と iPS 細胞誘導] RetroNectin (Recombinant Human Fibronectin Fragment) T100A T100B(A × 5) RetroNectin Dish (RetroNectin Pre-coated Dish, 35mmφ) T110A 正常ヒト皮膚線維芽細胞(成人) (NHDF-Ad) CC-2511 Fibroblast Growth Factor, Basic, Human, Recombinant, E. coli(rhbFGF) 341595-25UG TRACP & ALP double-stain Kit MK300 *1 0.5 mg(0.5 ml) 0.5 mg(0.5 ml)× 5*1 ¥ 26,000 ¥ 103,000 10 dishes ¥ 52,000 1 vial ¥ 55,000 25 µg ¥ 72,600 5 枚分(24 穴プレート) ¥ 26,000 [iPS 細胞の評価] Provirus Copy Number Detection Primer Set, Human(for Real Time PCR) 6167 100 回 ¥ 31,000 CY501 50 回 ¥ 16,000 FastPure RNA Kit 9190 50 回 ¥ 24,000 遺伝子発現解析 GeneChip Array 解析受託 お問い合わせください 0.1 mg ¥ 60,000 CycleavePCR Core Kit 遺伝子発現解析 Agilent Expression Array 解析受託 お問い合わせください 高速シーケンス解析受託 お問い合わせください Anti-Mouse E-cadherin (免疫組織化学用), Monoclonal(Clone ECCD-2)*2 M108 * 1:RetroNectin は、凍結乾燥品から溶液品(RetroNectin 濃度:1 mg/ml) に形状が変わりました。 * 2:iPS 細胞の表面マーカーの解析に使用 本文中の製品に該当するライセンス確認事項は 53 ∼ 54 ページをご覧ください。1 2 3 5 10 11 18 29 42 BIO VIEW No.57 ● 39
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