パリアン年報 2008 年度

パリアン年報
2008 年 度
-末期がん患者に対する在宅ホスピスケア-
2008 年 4 月 1 日~2009 年 3 月 31 日
序文
2008 年度はこれからの在宅医療について関係者と勉強会を持ち、議論を深めて自分自身の考えを整
理し、そのあり方についての、ある意味で確信を持つことができた。その要点は、専門別にみた在宅医療
の疾患分類(勝手に在宅疾患の KK 分類と呼んでいる)とその担い手となる医療機関を明瞭にするという
ことである。分類に関しては非がん(G1)とがん(G2)、その他(G3)にわけ、G1 は専門性を要しないもの
(G1-A)と要するもの(G1-B)とに区別するということである
1)。昔と違い、疾患によっては在宅医療の内容
が非常に専門化・高度化しており、外来診療の片手間に往診するというような形では、質の高い医療を提
供するのが難しくなっている。外来中心の開業医が基本的に担うのは、G1-A と考えている。
末期がん患者の在宅ケアで私たちがもっとも重視しているのは、当該医療処置が本当に必要かどうか
の検討である。それは医師だけの判断ではなく、看護師の判断、患者・家族の意見を十分反映した上で
の実施ということになる。
パリアンのような在宅の専門チームが関われば、手術、放射線治療などを除いて病院で行っている医
療は、患家で普通に行うことができる。たとえば皮下、硬膜外、クモ膜下腔への持続モルヒネ注入、腎瘻
や胃瘻などの瘻管理、腹水・胸水などの穿刺、中心静脈栄養管理、末梢点滴、液体酸素などを用いた在
宅酸素療法などの医療処置は、日常的に在宅で行うことができる。また、血液検査、心電図、超音波検査、
単純レントゲン検査も在宅で実施できる。
経過中、症状緩和のため急性期病院の力を借りなければいけない場合はパリアンではほとんど皆無で
あり、腎後性急性腎不全などで腎瘻をおく場合や緩和的放射線治療の場合などに限られる。ただし、こ
のあたりは在宅医療機関の持っている Potency によって必要性が違ってくる。また経過中、PCU の力を
借りなければならないのは、長期に及ぶケースでの家族の Respite ケアなどであり、これまた頻度は少な
い。
末期がん患者はがん治療病院から地域の医療機関へバトンタッチされるが、その受け入れ機関には、
一般病院の一般病床(様々な状況ではもっとも好ましくない受け入れ先)、緩和ケア病棟、在宅医療機関
がある。今後の可能性としてがん患者対象のグループホームがあるが、療養型病床、老健、特養などが
新規の末期がん患者を受け入れるのは例外である。
在宅医療は確かに新しい分野であるがまったく新規の事業ではなく、制度的にも 30 年近い歴史を持
ち、数は少ないかもしれないが実績を持った医療機関が存在するのも事実である。在宅ケアを推進する
にあたって重要なことは、これまでの実績を評価し、それを踏まえて計画立案することである。その際疾患
別に必要な専門医療機関の数を推定しなければならないが、末期がん患者の場合は容易である。一方
がん以外の疾患では、一定地域に対象となる患者数を把握し、いくつの在宅専門医療機関が必要なの
か、一定の地域を限定して、モデル化する(東京、地方など)必要があると考えている。
地域専門医療の担い手は在宅療養支援診療所が基本であるが、これをさらに専門化する必要があり、
同時に地域医療の担い手の養成にも力を注がなければならない。
医療法人社団パリアン
クリニック川越
理事長
院長 川越 厚
1) 川越厚 緩和ケア診療所を中心とした、地域連携ネットワークシステムの構築(1) 緩和ケア Vol.19(3), pp274, 2009.
目
次
序文
1.総括
1
2.クリニック川越
3
3.訪問看護パリアン
5
4.療養通所介護パリアン
8
5.ボランティアグループパリアン
10
6.在宅ホスピス・緩和ケア研修センター
13
7.倫理委員会
14
8.研究部門
15
9.相談外来
17
10. 在宅ホスピスケアの実績
18
11. 年間行事
23
12. 業績目録
24
参考資料:
患者登録情報の集計
(2000 年 7 月~2009 年 6 月)
参考-1
パリアン通信 第 14~17 号
参考-5
1.総括
医療法人社団パリアン理事長/クリニック川越院長
川越 厚
9 年目を迎えたパリアン。日常的なケアはほぼルーチン業務としてこなすことができるようになり、がん
患者の年間看取り数も平均 120 例程度をキープすることができるようになった。この年度はパリアンの業
務よりも、国全体の医療のありかた、特に在宅ホスピス緩和ケアの普及のためにどうすればよいか、とい
うことに川越のエネルギーの大部分は費やされたと言っても過言ではない。外のことにエネルギーを注
ぐことが可能になったのは、2008 年 12 月から田實医師がパリアンに常勤医として赴任して臨床をかなり
負担してくれたことと関係している。もちろん、看護師がかなりの力をつけてきたこともおおいに影響して
いる。
Hospice is primarily a nursing intervention…(Mor,1987)とあるように、パリアンの仕事の多くは
看護師が担っている。それも若い力によってであるが、若さゆえの脆さは否定できない。今年度も訪問
看護ステーション所長の途中交代があり、組織的な脆さをどのように解決するかは、パリアン創立当初か
らの課題であった。幸い川越博美が病魔から執行猶予付きで解放されて元気になったので、彼女に看
護部長として看護の監督を任せ、姉妹ホスピス(Hospice Hawaii)でのマネジメント研修を終えた染谷
所長や緩和ケア認定看護師をはじめ有能な看護スタッフ達の活躍もあって、看護を充実させたことは特
筆に値するであろう。
前回の年報で報告した通り、舛添前厚労相が「安心と希望の医療確保ビジョン」作成の関係でパリア
ンを視察した(2008 年 2 月)。それが契機となり、私は国の政策検討の場に駆り出されることになった。
自ら好んで飛び込んだというよりも、やむをえずというニュアンスが強かった(もともと川越は横着者です)
が、いまここでしっかり在宅医療を整理しておかないと後で自分自身が後悔することになる、と思ってい
たのでこのような機会を与えて頂いたのはありがたいことであった(その内容の一部は、本年報の序に記
した)。
「安心と希望の医療確保ビジョン」の実現に向けての委員会は 2008 年 7 月にスタートし、8 月一杯は
舛添大臣会出席のもと、集中的な検討が行われた。本委員会の一番の成果は、医師数の確保のため
に医学部定員の大幅増員ということで政策に反映しているが、在宅医療のことについては発言する機会
を与えられたにもかかわらず、プレゼンテーションの仕方がまずく十分説得力がなかったと自分としては
反省している。この会のメンバーを中心に医師の養成についての委員会が継続して開かれ、私は後期
研修制度の検討委員となって、医師の専門教育の在り方について関わった。すべての医師を一定の基
準で専門医として登録すべきだという結論になったが、在宅医療はまだ歴史が浅く、専門医としての制
度が十分確立していない中での Discussion であり、結論を急がないようにと釘をささせていただいた。
その他厚労省関係の仕事として、厚生労働科研「在宅療養者の看取りにおける訪問看護師と医師と
の連携に関する研究(川越班)」の 3 年越しの研究成果の発表を行い(2008 年 8 月)、2008 年 4 月より
引き続き科学技術部会の委員として会議に出席している。
教育活動としては 2008 年 6 月に帝京医大前期研修医の研修(一か月)、6 年生の地域医療実習(一
週間)、聖路加看護大 4 年生の実習(2 週間)を例年通り行うことができ、帝京大医学部 5 年生、聖マリ
アンナ医科大學 5 年生、慶応大学医学部看護大生(以上、院長)、聖路加看護大生(看護部長)を対象
にした授業を行った。その他アルバーノ大学(米国)の看護学生の見学(5 月)、社保医療機関認定看
護師研修(9 月)、聖路加認定看護師研修(11 月)、プライマリーケア学会研修会講義(11 月)、札幌の
前野先生の一日研修などなど、スタッフみなでよく頑張ったと思う。
1
姉妹ホスピスとの提携はますます実質的に深まっており、ファイザーヘルスリサーチ振興財団の研究
助成を受けて(授賞式は 11 月に東京であった)、「在宅ホスピスにおけるボランティアの育成と役割」に
ついて、国際研究を行うことになった。12 月にホスピスハワイで、オーストラリアの Banksia Palliative
Care Service の Paul Julie も参加し、3 日間の研究会議を行った。Julie は 2009 年 1 月にも来日し
た際に再会することができ、地域の看護師を対象にした講演を行っていただいた。
研究面でも各種学会での発表、論文作成など幅広い活動を行っているが、肺がん独居患者の在宅
ホスピスケアについての原著論文をまとめることができ、Journal of Palliative Medicine へ投稿した
(Accept され 2009 年秋に掲載)。
次年度はパリアン創立 10 周年を迎えるが、今まで通りの活動を続けることができればと願っている。
パリアン
訪問看護パリアン
クリニック川越
(訪問看護師・理学療法士)
療養通所介護
在宅ホスピス・緩和ケア
研修センター
こころのケア部門
ボランティアグループ
パリアン
研究部門
パリアンの組織図
2
倫理委員会
2.クリニック川越
クリニック川越 院長
川越 厚
クリニック川越は、内科・婦人科を標榜とする保険医療機関です。2008年度はホームケアクリニック川
越として、常勤医師1名、非常勤医師2名(在宅医療担当)、事務長 1 名、外来看護師 1 名、在宅ホスピス
ケア相談員 1 名、事務員 1 名、研究員 1 名の体制でスタートし、10 月に医療法人の設立に伴ってクリニ
ック川越となりました。12 月には常勤医師が 1 名加わりました。
在宅ホスピスケアにおけるクリニックの重要な役割は、チームの一員として、必要な医療行為を行うこと
です。そのスタートに位置するのが、相談外来です。
在宅ホスピスケアを希望する大部分の患者・家族は、まず電話予約して、相談外来を受診します。そこ
で医師と相談、当院の在宅ホスピスケアを受けるか、あるいはそれ以外の選択をするかを決めます。当院
のケースとなる場合は相談員が訪問看護の依頼や紹介元の医療機関等へ連絡をとり、必要な調整を行
います。相談外来の実績は、9.相談外来をご覧下さい。
在宅ホスピスケア開始後は、医師による定期的な訪問が始まります。訪問看護やその他チームメンバ
ーと連携して在宅医療を提供します。
在宅ホスピスケアの実績・詳細は、10.在宅ホスピスケアの実績をご覧下さい。なお、対象ケースや死
亡数に、パリアン全体のデータと訪問看護パリアンとのデータとの間に差があります。これはパリアン以外
の訪問看護組織と協働してクリニックが医療を提供したケースがあるためです。
その他、医師の活動として、業績講演や厚生労働科学研究の研究活動、行政の各種検討委員会等
への出席などがありました(12.業績目録をご覧ください)。
パリアン就職 1 年を振り返って-在宅ホスピスケアを志した理由と今後のビジョン-
田實 武弥
僻地医療に従事する医師を養成する自治医大科大学を卒業後、九州の山間部の診療所に長年勤
務して参りました。その間、大自然と共存しながら自宅で療養する地域住民を支える在宅医療が、想像
以上に感動的で魅力に溢れていることに気づきました。教科書では得ることが出来ない貴重な奥深い
学びとなりました。一方で、僻地医療を担い続けるうちに末期癌の患者と家族に対するホスピスケアこそ
が、実のところ医療の集大成ではないかと考えるようになりました。そのため、僻地勤務が終了する最後
の 3 年間は、将来のことも視野に入れながらイエズスの聖心病院で週 1 回のホスピスケアの研修を行い
ました。その後、ホスピス医として歩み出したのは自然な流れでした。結果として、ホスピスを提供する 2
か所の病院(イエズスの聖心病院と栄光病院)で計 8 年間にわたり外来・病棟・在宅医療のホスピスケア
に従事してきました。全人的な痛みに対して身体的、精神的、社会的そして霊的に支えるケアを提供す
ることを通し、オピオイドを中心とする細やかな症状緩和方法はもちろんのこと、“いのち”について、
“死”について、“苦難の中に見出される希望”について医療人としてよりも、一人の人間として深く、広く
研鑽を積むことのできた素晴らしい時でした。
3
しかしながら、施設で提供されるホスピスケアの中でも、こと在宅ケアに関しては、施設であるが故に
限界があることを感じるようになりました。特に、施設ホスピスで提供される在宅医療には、いざとなれ
ば、すぐに入院できるという安心感があります。それ故に、患者・家族そしてスタッフにとっては、在宅療
養継続がこれ以上困難と思われた時に、もう少しの努力と調整(コーディネート)でこの難局を乗り越えら
れると予想されるにも関わらず、安易に入院の経過を辿ってしまうことがありました。また、入院療養され
ている患者の中にも、総合的に判断して在宅療養がベストのタイミングであると感じてはいても、本人・
家族、スタッフの理解・支援不足、決断遅延等により機会を逸してしまうことが多々ありました。入院療養
を決して否定するものではありませんが、私自身や他の患者・家族が経験してきた在宅療養ならではの
自然ないのちの営みと継承、その感動体験が得られないままに完結してしまうということにやりきれなさを
感じていました。患者・家族やスタッフ、ひいては日本にとって大変貴重な財産の損失となっているので
はないか思うようになりました。
そんな折、2004 年 8 月の熊本県阿蘇で開催された日本在宅ホスピス協会の全国大会「地域におけ
る在宅ホスピス・緩和ケアのあらたな展開にむけて」で初めて川越 厚先生にお会いしました。昼夜に織
りなされる会合で交流の時を持たせて頂きました。そこでは、在宅ホスピスケアの未来・展望・将来性が
熱心に語られ私自身大きな感銘を受けました。鼓舞された心の中に“いつの日か川越先生のもとで在
宅ホスピスケアの研鑽を積んでみたい”との思いが芽生えたのはその頃でした。結果として、2008 年 12
月に念願かなってクリニック川越に入職し、早 1 年が経とうとしています。在宅医療に特化したホスピスケ
アを通して、在宅ならではの症状緩和の具体的方法、家族ケア、他職種を通じてのチームアプローチ
等は、ホスピスケアの根本的なあり方を考えさせられる学びをすることができました。
入職して改めて実感したことは、在宅ホスピスケアを提供する側(クリニック)のみがいくら努力をしても、
施設ホスピスとの連携なくしては、在宅療養ひいてはホスピスケアの普及はありえないということです。具
体的には、施設ホスピススタッフの在宅ホスピスに対する真の理解(①一貫した 24 時間のケア供給体制
②共通した終末期ケア理念に基づくチーム連携③地域に根差した資源サービス供給体制等)がその鍵
を握っていることに気付かされています。現在、試験的ではありますが、2009 年 5 月より、連携ホスピス
である賛育会病院緩和ケア病棟と週1回の患者情報の交換を行いホスピスケアの充実に向けて協働し
ているところです。この様な施設ホスピスと在宅ホスピスの密な連携構築、発展のためにシステムの確立
を推進すべく、クリニック川越で更なる研鑽を深めたいと願っています。
終末期医療に関するアンケート調査でも“住み慣れた場所で、住み慣れた人々と、心通う人々に囲ま
れて療養できる医療連携”を希望する患者・家族が 6 割にも上っているのが現状です。また医療・看護・
福祉のサービス、ケアネット等に無縁の患者・家族が増加し、結果として、患者・家族は路頭に迷い、癌
難民として彷徨い、救急外来を通じての不適切な緊急入院の増加、医師・看護師を中心としたスタッフ
の疲弊、ひいては救急医療の崩壊、日本全体に及ぶ医療崩壊へと向かう悪循環が形成されると思われ
ます。このような現状に福音となりうるのが在宅医療サービスであり、そのためには、在宅ホスピスケアの
システムの構築が急務であると思っております。その中でも、施設ホスピスと在宅ホスピスの密な連携の
確立こそが、ホスピスケアの向上へとつながり、ひいては日本における医療の質向上、医療財政改善に
つながっていくと推察しています。
4
3.訪問看護パリアン
訪問看護パリアン 染谷康子
訪問看護パリアンは、主に在宅ホスピスケアを行う訪問看護ステーションです。クリニック川越、ボランテ
ィアグループパリアンのボランティア、こころのケア担当者などとチームを組み、在宅ホスピスケアを行って
います。在宅ホスピスケアでは、苦しみを緩和し、人としての尊厳を保ちながら生活し、穏やかな最期を迎
えられるように、24 時間の対応で患者や家族の支援を行っています。また、在宅ホスピスケアの精神を踏
まえた、地域の高齢者の訪問看護を行っています。
2008 年度の実績は下記の通りです。在宅ホスピスケアの実績の詳細は、10.在宅ホスピスケアの実績
をご覧下さい。
■利用者
訪問看護パリアンでは、215 名の訪問看護(うち末期がん患者 159 名)を行い、127 名(うち末期が
ん患者 122 名)を自宅で看取りました。2008 年度に訪問した回数、患者数と患者さんの主な疾患は
表 1、2 に示す通りです。
表1 訪問看護パリアン 訪問実績
(2008.4.1~2009.3.31)
理学
退院
計画的
緊急
療法
前
訪問看護
訪問
士
訪問
患者数
看護師述べ
訪問回数
末期がん
末期がん以外
の患者
159 名
3776 回
56 名
1971 回
1899 回
合計
215 名
5747 回
5304 回
3405 回
371 回
45 回
122 回
72 回
510
回
2回
5回
443 回
回
59 回
127 回
表2 訪問看護パリアン 患者の主な疾患別人数(名)
主な疾患
脳・神経
末期がん
心疾患
肺疾患
(重複あり)
疾患
利用数
159
16
12
7
死後の
ケア
(2008.4.1~2009.3.31)
腎臓
認知症
その他
疾患
0
7
16
■スタッフ
2008 年度の体制は、常勤看護師 6 名、非常勤看護師 3 名、常勤理学療法士 1 名です。
■勤務体制
訪問看護パリアンでは、2 台の緊急連絡用携帯電話を常勤看護師が平日 4 日、週末 3 日に分け
て交代で当番をしています。週末緊急当番の看護師は翌火曜を休みにし、看護師の負担を軽減し
24 時間の看護の質を保てる緊急電話体制を組んでいます。また、週 2 日のフレックスタイムを取り入
れ、スタッフの働きやすい勤務体制も整備しています。
■研究・発表
研究活動では、「在宅死を経験した家族の心の変化の分析から-在宅ホスピスにおける看護師の
役割の質的研究」を 2009 年 2 月に第 23 回日本がん看護学会学術集会で発表しました。
5
■海外との交流
10 月に姉妹ホスピスであるホスピスハワイにおいて、管理者がマネジメントについて 1 ヶ月研修を受け
てきました。
2009 年 1 月に姉妹ホスピスであるバンクシア緩和ケアサービス(オーストラリア)の管理責任者の訪問
があり、オーストラリアの在宅ホスピスケアに関する講演がありました。
このような活動を通じて、海外の在宅ホスピスケアから学び、積極的に交流を行いました。
一人の患者さんを看取るということは、とてもエネルギーのいることですが、とてもやりがいの大きなケア
であると思います。利用者や家族の人生観、生き方、言葉に身近に触れることで、多くのことを感じ考えさ
せられる機会を与えられ、看護師一人一人の成長にもつながっていると感じています。また、医師、看護
師、理学療法士、ボランティアと多職種からなるチームメンバーとも、コミュニケーションを重ね、連携をとり
ながら在宅ホスピスケアを提供していきたいと考えています。一人一人の利用者との出逢いを大切に、在
宅ホスピスケア特化型訪問看護ステーションとして、これからも、地域の方々と共に歩むステーションとし
て成長していきたいと思います。
訪問看護のエピソード
Aさんは直腸がん、脊椎、仙椎などに転移があったため、痛みを取るために病院からは、ポート
からのモルヒネ注射、硬膜外カテーテルから麻酔の注射を使い、膀胱留置カテーテルが入った
状態で退院してきました。Aさんは「管を抜きたい」「息子との思い出の成田のセカンドハウスに行
きたい」と強い希望を持っていました。退院時 3 本入っていた管は、痛みを取る皮下注射 1 本だ
けに減らすことができました。痛みは十分に取ることができ、管が減ったことで歩きやすくなり、ご自
分のお部屋から仕事場の床屋さんまで歩くことができ、これまでのお客さんやご近所さんと顔を合
わせ、お話することもできるようになりました。また、念願だった、ご家族と思い出のセカンドハウス
への旅行に行くこともできました。
家に帰り、医療処置を軽減することで日常の生活の範囲が広がり、人とのつながりも感じら
れ、本人の希望を実現することができたケースでした。
ナースミーティングの様子
6
訪問看護の記録の様子
■理学療法
1)利用者
2008 年度より常勤 1 名体制となり、末期がん患者への訪問件数が伸びました。看護師との同行訪問
を含めると、訪問看護を行った末期がん患者の約 2 割に理学療法士が訪問しています。詳細は下記の
通りです。
表3 訪問看護パリアン 理学療法士訪問実績
患者数
平均年齢
末期がん
末期がん以外
の患者
35 名
73.7 歳
8名
80.9 歳
合計
43 名
75 歳
(2008.4.1~2009.3.31)
性別
理学療法士
(男/女)
述べ訪問回数
26/9
319 回
5/3
190 回
510 回
2)末期がん患者への理学療法
① 理学療法へのニーズ
ニーズとして高かったのはリラクセーション、倦怠感の軽減、浮腫の軽減でした。その他は状態
に応じて、排痰指導等の呼吸理学療法、家族への移乗介助指導、歩行改善、家族へのマッサ
ージ指導、外出、離床、関節拘縮予防、運動・動作指導、基本動作能力の向上がニーズとして
挙がりました。
② 理学療法内容
上記ニーズに対応し、マッサージ、リンパマッサージ、呼吸理学療法、四肢関節可動域練習、
下肢を中心とした自動介助~軽い抵抗運動、基本動作練習、車椅子散歩、家族指導(介助や
ポジショニング)を実施しました。マッサージによるリラクセーション効果は患者だけでなく、ご家
族の安心にもつながっていました。また、疾患の特性上、療養経過の中の一定時期に限られた
ものですが、浮腫の軽減、移乗方法の改善、自己排痰の獲得、離床・車いす乗車、歩行改善、
外出(散歩)の実現など 15 名(43%)で改善が認められました。
7
4.療養通所介護パリアン
療養通所介護事業所パリアン 管理者 染谷 康子
療養通所介護の利用者はパリアンの在宅ホスピスケアを受けている方達です。介護保険制度上の定
員は 3 名です。利用時の平均年齢は 75 歳で、昨年度に比べて平均年齢は若くなっていました。利用さ
れたのは、在宅ホスピスケア期間が比較的長い患者さんでした。2008 年度の利用者は 6 名です。
■利用者
表4 利用者の診断名、年代、要介護度、在宅ケア期間
肺がん
結腸がん
膵臓がん
年齢
70 代
70 代
60 代
性別
男
女
女
要介護度
1
2
5
在宅ケア期間
275 日
93 日
92 日
悪性リンパ腫
原発不明がん
前立腺がん
70 代
80 代
90 代
男
男
男
5
4
5
(継続中)
(継続中)
746 日
■開催日数と利用者数
年/月
開催日数(日)
利用者数(名)
(見学参加者)
2008/4
5
1
表5 療養通所介護月別利用者数(名)
5
4
1
(1)
6
4
1
7
5
2
8
4
3
(2)
9
4
3
(2)
10
5
3
(1)
11
4
3
12
4
2
(1)
2009/1
4
3
2
3
4
(1)
3
4
2
■ケアの内容
・ 清潔ケア (足浴・手浴・洗髪・陰部洗浄など)
・ 排泄ケア
・家族ケア
・ リハビリテーション
・ 褥瘡処置
・ 食事介助
・ 精神的ケア
■スタッフ
・ 利用者 3 名に対して看護師が 2 名配置されています。訪問看護ステーションと隣接していて、顔な
じみの訪問看護師が利用者の様子をみることができます。
・ 送迎には看護師が付き添い、当日の体調・病状を確認してから参加していただいています。
・ 療養通所管理者(看護師)1 名、専任看護師 1 名、ボランティア 5 名前後が参加しています。
・ こころのケア担当者が同席しており、スピリチュアルペインなどにも対応できるようにしています。
■月の行事
6月
7月
8月
10 月
12 月
2月
父の日
七夕
そうめん流し
体育の日
クリスマス
節分
療養通所介護の様子 患者さんとボランティア 囲碁
8
■1 日の流れ
・ 朝全体ミーティングで参加者人数・患者状況を共有し、1 日のスケジュールを確認しています。
・ ボランティアの手作りの食事をともにし、一緒の時間を過ごしています。
表6 ある日の療養通所介護の流れ
全体予定内容
9:30
10:15 ミーティング
接待準備
10:30
11:00
12:00
昼食
プログラム
13:00
14:00 片付け
15:00
15:30 終了ミーティング
患者さん A
患者さん B
お迎え:担当スタッフ
10:30 頃到着
水分摂取
足浴:看護師、ボランティア
リハビリ:理学療法士
昼食(食事介助:看護師)
歌を歌う
口腔ケア:看護師
おむつチェック:看護師
休憩
お迎え:担当スタッフ
昼食、内服薬確認
歌を歌う
談話
送り:担当スタッフ
起床 ・ 水分摂取
送り:担当スタッフ
メニューの一例
一人暮らしの T さん
一人暮らしの T さんは、病院の先生からもう治療できないと言われ他院を転々とした末、パリアン
の外来を受診されました。前の先生から見放された思いが強く、その時はまだご自分の病状を受け
入れることができませんでした。クリニック川越の先生から病状や訪問看護が必要であることを説明
されましたが、「人が来ると自分の時間がなくなってしまう。訪問看護は緊急時だけで良い、動けなく
なったら緩和ケア病棟に入院する。」と、定期的な訪問を受け入れてくださいませんでした。しかし、
一人暮らしのため、今後病状が進行したとき十分な支援ができるよう訪問ボランティアの力が必要
になると考え、ボランティアとの関わりがある療養通所介護への参加を勧めました。
T さんは、外来受診の後に、療養通所に参加され、看護師やボランティアさんと顔を合わせ、食
事の時間を共にすることで、少しずつ心を開いてくださりました。これをきっかけにスタッフと次第に打ち
解けて、必要な時には訪問看護も受け入れてくださるようになりました。在宅での医療・訪問看護を
受けるにしたがい「最期まで家で過ごしたい」という気持ちに変化していきました。療養通所の中で
も、ボランティアさんに折り紙を教えることで、生きがいをもって過ごすことができていたようです。
ご家族にも連絡をとり、それまでは疎遠だった弟さん夫婦も毎日様子を見に来られるようになりまし
た。弟さん夫婦が T さん宅に泊まった翌朝、T さんは安らかに息を引き取りました。
一人暮らしの方でも、いろいろな人に支えられながら、生きがいと楽しみを持って過ごすことができ
ることを学びました。最期まで自宅で過ごすことを多くのチームメンバーで支えることができたケースで
した。
9
5.ボランティアグループパリアン
ボランティアリーダー 有富洋子
訪問看護パリアン ボランティア担当 吉野貴子
ボランティアグループパリアンは、グループ・パリアンの理念およびボランティア精神のもとで、在宅ホス
ピスケアチームの一員としてボランティア活動に参加しています。パリアンのボランティア講座を受講後、
ボランティア登録をして活動が始まります。2008 年 5 月時点での登録者は 54 名(男性 8 名、女性 46 名)
でした。
■ボランテイアグループパリアンの活動内容
(1) 定例会
(2) 訪問活動
(3) 療養通所介護
(4) 遺族へのグリーフケア(メモルの集い、命日カード、サロン・ド・パリアン)
(5) 在宅ホスピスの啓発活動(教会バザー、吉良祭)
(6) その他
■活動実績
表7 ボランティア活動人数(2008 年 4 月~2009 年 3 月)
活 動 内 容
訪問活動
月
グリーフケア
療養
通所
介護
活
動
人
数
訪問
回数
患者
数
4
4
13
4
36
18
5
7
15
6
33
26
5
6
4
9
4
21
15
3
7
4
11
4
29
14
8
4
9
4
24
17
9
6
17
7
29
9
10
7
34
8
40
18
11
6
12
6
31
12
12
5
12
4
30
17
1
3
8
4
32
20
2
3
3
3
26
15
3
7
17
5
23
8
計
(延べ)
60
160
59
354
189
サロ
ン
命日
カー
ド
メモ
ルの
集い
バザ
ー・
グッズ
作成
定例会
計
(延べ)
18
22
98
29
20
120
19
80
21
68
28
13
89
5
23
72
22
90
19
68
18
87
20
75
16
64
18
3
3
3
14
4
38
21
10
18
94
213
949
■活動の詳細と振り返り
(1) 定例会
活動の充実や会員相互の交流をはかるため毎月第一土曜日に実施しています。活動報告や連
絡事項、活動に関する検討などをしています。
活動報告では、参加したボランティアから実際の様子や感想を皆で共有することで、お互い学び
を深めています。定例会後一緒に昼食を食べ、グッズ作成や事務作業を共にすることもあります。普
段はそれぞれの活動に別れている会員同士の交流の場ともなっています。
(2) 訪問活動
在宅ホスピスケアチームの依頼を受けて、話し相手、買い物、家族が不在のときの留守番、看護
師のケアサポートなどを患者さん宅で行っています。
(3) 療養通所介護
療養通所介護では、ボランティアはサポーターとして、看護師、心のケア担当者、医師とともに、が
ん患者さんと家族へのケアに関わっています。主な役割は、食事の準備、話し相手、看護師のケア
サポート、後片付け、季節のイベント(月 1 回)の企画と運営です。
療養通所介護でのクリスマス会
(4) 遺族へのグリーフケア
①メモルの集い
在宅で看取りをされたご遺族をお招きして故人を偲ぶ会を一年に一回開催しています。ボラン
ティアが中心になって企画をしています。2008 年は 46 家族 55 名の方々が集まってくださいました。
看護師によるハンドベル演奏を聴いたり、「花」と「夏の思い出」を合唱したり、自宅で患者さんをお
見送りした当時のことを語り合ったりしました。ボランティア手づくりのプレゼント(ティッシュボックス
カバー)を差し上げました。
メモルの集い
11
②命日カード
1年目の命日を迎えるご遺族にカードを送っています。丁寧に心を込めて一枚一枚書いていま
す。受け取られたご遺族から、お礼の電話やお便りをいただいたときには本当にうれしく、また励ま
される思いがします。
③サロン・ド・パリアン
昨年 10 月から始まったサロンは、毎週金曜日の午後(2008 年 10 月からは水曜日)、ご遺族に
自由に思いを語っていただいています。今年度は毎週のサロンの他に月に1回は「スペシャル・サ
ロン」として、患者さんが亡くなって約 1 年のご遺族をお招きしています。「思い切って来て、話せて
よかった」と言われるご遺族の言葉に励まされ、毎週休まず継続しています。
(5) 在宅ホスピスの啓発活動
2008 年は、地域の教会バザーと吉良祭(墨田区両国の祭)でのバザーに出店をしました。在宅ホ
スピスケアに関するチラシを配布して在宅ホスピスやそのボランティアについて関心を持っていただ
くようにしています。売り上げは活動資金に充てました。
(6) その他
パリアン通信の発送、グループパリアンが開催するボランティア講座への協力などボランティアが
出来るところはスタッフに協力して行いました。また、介護用の枕や、注射用のケースなどのグッズを
作製し、患者さんの在宅療養に役立てていただいています。患者さんへのクリスマスプレゼントやメ
モルの集いでのご遺族への贈り物、バザーへの出品のためのグッズを手作りしました。
■定例の活動以外の行事
2008 年 4 月
5月
6 月 メモルの集い
7 月 ステップアップ講座、(パリアン納涼会)
8 月 ステップアップ講座、
9 月 ボランティア養成講座、教会バザー
10 月 ステップアップ講座
11 月
12 月 吉良祭バザー、(パリアンクリスマス会)
2009 年 1 月 ステップアップ講座
2 月 ボランティア養成講座
3月
12
6.在宅ホスピス・緩和ケア研修センター
パリアン在宅ホスピス・緩和ケア研修センター 川越博美
パリアンの在宅ホスピス・緩和ケア研修センターでは 2008 年度は下記の実習および研修を受け入れま
した。4 月に活動を始めました。基本的な研修内容は、スタッフによる講義とがん患者宅への訪問診療・
訪問看護の同行とカンファレンス参加です。研修では、講義を聞いて知識を得るだけではなく、現場で患
者さんや家族と触れ合う中で、知識と技術、実践力を身につけることが重要と考え、この点を重視した研
修プログラムとなっています。また、パリアンはチームでケアにあたっているため、在宅ホスピスケアにおい
て最も重要なチームケアについても学んでいただけたと考えております。
■研修受け入れ実績(2008/4/1~2009/3/31)
1. 大学から依頼された実習
2008/5/28
Alverno 大学 実習
2008/7/7~11
帝京大学医学部公衆衛生実習
4名(医学部・看護学部との合同実習)
2008/7/7~24
聖路加看護大学総合実習
4名(一部同上)
2008/12/1~8
東京医科歯科大学大学院
1名
2. 認定看護師実習
2008/11/25
聖路加看護大学 認定看護師 実習
2009/1/12~23
社会保険看護研修センターがん性疼痛認定看護コース 2 名×3班 各 2 日間
3. 前期研修医実習
帝京大学医学部付属病院研修医
4名(2008 年6、7、12 月、2009 年2月 各一名)
4. 個人研修
2008/8/25~27
看護師
3名
2008/9/12~10/31 医師
1名
2009/3/11~12
1名
医師
5. ボランティア講座
第 15 回 2008 年 9 月(第15 回) 8名受講、
6. パリアン新人オリエンテーション
6名
13
2009 年 2 月(第16 回) 10 名受講
7.倫理委員会
パリアン倫理委員会 事務局
パリアンでは、2003 年 12 月に倫理委員会が発足して依頼、臨床研究にあたっては倫理委員会の審査
を受けてまいりました。現在の委員会は、外部委員が3名(委員長含む)、内部委員が2名となっておりま
す。今年度は下記の研究について倫理審査を受けました。
表8 2008 年度 パリアン倫理委員会審査 一覧
申請年月
研究テーマ
審査結果
末期がん患者の生命保険の請求代行業務における事業計画 1 回目 保留
2008 年 4 月 のための調査
2 回目 条件付承認
2008 年 6 月
在宅ホスピスにおいてデスエデュケーションを受けた家族から
承認
の評価-看護師からのデスエデュケーションがもたらすもの-
2008 年
10 月
地域緩和ケアシステムにおける、在宅ホスピスボランティアの育
成と役割に関する国際比較研究
承認
副題:わが国の歴史・文化・風土の中で育むべき在宅ホスピ
スボランティア組織に関する研究
地域緩和ケアシステムにおける、在宅ホスピスボランティアの育
2009 年 3 月 成と役割に関する国際比較研究
承認
(研究方法変更のための再申請)
14
8.研究部門
2008 年度中にパリアンのスタッフが関わって行なった研究は以下の通りです。
研究期間
2006 年 4 月~2009 年 3 月
研究
テーマ
「市民参加型地域緩和ケアシステム「家で死ねるまちづくり」の開発と評価」
(平成 20 年度厚生労働科学研究費補助金医療安全・医療技術評価総合研究事業)
研究者
主任研究者:小松浩子(聖路加看護大学)
分担研究者:川越博美 他
要旨
ソフトシステム方法論(Soft Systems Methodology : SSM)ベースのアクションリサーチ
の手法により、市民参加型の地域包括的緩和ケアシステムモデル「家で死ねるまちづく
り」の開発と評価に取り組んだ。
市民と行政・医療・福祉の各専門職が、在宅ホスピス緩和ケアへの個々の経験を基
に「思い」を語り合い、その思いを表現した「思いのモデル」を作成し、思いと現実との比
較からアクションプランを作成した。この過程における研究者、参加者の学びから、
1. 地域包括的緩和ケアシステムの構築は、「まちづくり」の問題であること
2. 「相談・調整・教育」のセンター機能と入所・通所によるサービス提供機能を兼ね
備えた、看取りのサービスを提供するための拠点が必要であること
が示された。
また、市民参加型のアクションリサーチを用いた本研究の意義は、次の三点にまとめ
られる。
1. 地域で最期は家で死にたいという人を支えたいという思いを持っている人々を結
びつけ、在宅緩和ケアシステムづくりの活動を組織することができ、在宅緩和ケア
に積極的でなかった団体や組織に関心を持たせることができた。
2. 研究者だけでなく、研究に関わった専門職、行政、地域ボランティアと市民のメン
バーが、すみだで在宅緩和ケアシステムを構築するとは何をすることなのかを理
解した。
3. SSM ベースのアクションリサーチのプロセスは、「思い」の共有によってバックグラ
ウンドの異なる多様な専門職と一般市民の異なる考え方を調整でき、多様な専門
職と一般市民をメンバーとするチームケアの実現に有効であることを実践を通し
て確認できた。
報告
平成 20 年度厚生労働科学研究費補助金医療安全・医療技術評価総合研究事業
研究報告書 「市民参加型地域緩和ケアシステム「家で死ねるまちづくり」の開発と評
価」
期間
2008 年 6 月~2009 年 3 月
テーマ
在宅ホスピスにおいてデスエデュケーションを受けた家族からの評価-看護師からの
デスエデュケーションがもたらすもの-
研究者
岩田由美、吉野貴子
要旨
【目的】在宅死を経験した家族の体験から心の変化に着目し、在宅ホスピスにおける看
護師の役割を考察したので報告する。
【研究方法】グループパリアン(在宅支援診療所・訪問看護ステーション)において在宅
で看取ることができた遺族 5 名を対象に半構成的面接調査を実施。分析方法は、遂語
録を作成し、在宅ホスピス開始から看取るまでの体験に関連する要因について類似性
に従い、帰納的に分類しカテゴリ化した。
【倫理的配慮】パリアン研究倫理審査委員会の承認を得て、遺族に書面を用いて口頭
15
で研究を説明し、承諾を得た。また、面接内容は、同意を得て録音した。
【結果・考察】在宅死を支えた家族の体験として〈何かしてあげたいという気持ち〉〈患者
の病状とともに受け入れる身体的変化〉〈日々のケアに一生懸命になり、印象の薄い不
安感〉〈医療者とつながっているという安心感〉〈死と向き合うまでの葛藤〉〈患者に不安
を与えないために死を語ることができない〉の 6 つのカテゴリが抽出された。
これらの体験から以下のように家族の心の変化があることがわかった。在宅ホスピス
開始時の段階では、“苦痛がないことだけでは満足せず、何かしてあげたい”という気持
ちが強く、“死が訪れることを頭では理解しながらも、死と向き合うことができない”という
葛藤があった。しかし、少しずつ病状の変化を肌で感じる中で、死が近いことを受け入
れていた。その受け入れを支えていたのが、<医療者とつながっているという安心感>
であり、家族の印象には残っていなかったが、看護師が今後起こりうる身体症状の変化
を説明していた成果でもあると考える。しかし、“死を語ることができなかった”という後悔
を言葉にした家族もいた。これは、死を迎えることに対して、身体症状以外の部分での
サポートが不足していたと考える。前4つのカテゴリに表される家族の心情に対しては、
看護師としてのサポートができていた一方で、死を迎えることに対してのサポートが不足
していたことの結果と考える。在宅ホスピスでは、患者と接する時間が長い分、死を身近
に感じることができ、向き合う機会が与えられる。しかし、看護師はそこでの関わりが薄
く、遺族が後悔していると考えられた。その関わりとは、デスエデュケーション(死の教
育)であると考える。今後は、看護師のデスエデュケーションを見直した上で、対象者を
増やし、看護師の役割を考察していく必要がある。
報告
研究期間
2009 年 2 月 7 日 第 23 回日本がん看護学会学術集会にて発表
2008 年 11 月~2009 年 10 月
研究
テーマ
地域緩和ケアシステムにおける、在宅ホスピスボランティアの育成と役割に関する国際
比較研究副題:わが国の歴史・文化・風土の中で育むべき在宅ホスピスボランティア組
織に関する研究
研究者
主任研究者:川越厚
共 同 研 究 者 : Kenneth Zeri(Hospice Hawaii) 、 Julie Paul(Banksia Palliative Care
Service)、川越博美
研究協力者:大金ひろみ、櫻井雅代、吉野貴子、田中めぐみ、内田千佳子、松浦志のぶ
要旨
本研究では、在宅ホスピスボランティアに関する育成と活動に関する国際比較調査
を行い、文化的背景を考慮しつつ、わが国に取り入れることが可能な点を検討する。具
体的には以下の通り研究を進める。
(1) 在宅ホスピスボランティアの育成・活動評価に関して、国内外の文献検討による実
態調査を行なう。
(2) 日本、米国、豪州の共同研究者と共に、各国の在宅ホスピスケアボランティアの実
態を比較調査する。比較内容は以下の 4 項目である:
1)各国の社会保障制度
2)各国の社会保障制度におけるホスピスケアに対する診療報酬制度
3)共同研究者が所属する各ホスピスの組織
4)各ホスピスのボランティアの活動実績と評価
(3) 在宅ホスピスボランティアの活動評価の国際比較を行なう。評価内容は以下の通り
である:
1)経済的評価、2)質の評価(在宅死率、患者・家族・スタッフの満足度)、
3)ボランティアの意識変化(成長)の評価
(4) わが国の文化的背景を考慮した在宅ホスピスボランティアの育成・活動のあり方の
検証・提案
進捗状況
研究継続中
16
9.相談外来
2008 年 4 月~2009 年 3 月まで 149 名(12.4 名/月)のがん患者さんが、紹介されて私たちのクリニ
ックの相談外来に訪れました。
1)紹介元
紹介元としては墨田区の都立墨東病院が最も多く、次いで、賛育会病院、国立がんセンター中央病院
となっております。
1
11
10
9
8
3
7
6
5
2
4
No.
患者がかかっていた病院
症例数
(名)
頻度
(%)
1
都立墨東病院
44
30.0
2
賛育会病院
11
6.9
3
国立がんセンター中央病院
8
5.0
4
同愛記念病院
8
5.0
5
癌研有明病院
8
5.0
6
順天堂大学病院
6
3.8
7
東京医科歯科大学医学部付属病院
6
3.8
8
順天堂東京江東高齢者医療センター
5
3.1
9
慶応義塾大学病院
4
2.5
10
聖路加国際病院
4
2.5
11
その他
52
32.4
合計
160
100.0
図1 相談外来受診患者がかかっていた病院(相談外来未受診で当院ケースとなった患者を含む)
2)相談外来を受診した患者さんの転帰
相談外来にこられた方はすべてがん患者さんですが、治癒不能の方ばかりとは限りません。また、相談
外来終了後に私たちが全てケアを提供したわけではなく、来られた方の約 15%は相談外来のみの受診
で終了し、その後は治療を継続したり、こちらから紹介した他医の在宅ケアを受けたりしています。
相談外来を受診された患者さんの転帰は、下図の通りです。
相談外来受診者
148 名
相談のみ
23 名(15.4%)
他医紹介
3 名(15.4)
パリアンにて在宅ケア実施
123 名(83.2%)
退院前に死亡
3 名(13.0)
治療継続
9 名(39..1)
外来通院中
2名
その他 6 名(26.33)
入院先を紹介 1 名(8.7)
2008 年度
在宅ホスピスケア
対象患者 160 名
前年度から
の継続患者
25 名
2008 年度相談外来受診→在宅ケア実施者 123 名
相談外来未受診者 12 名
図2 相談外来受診後の転帰と在宅ホスピスケア対象患者の内訳
17
10.在宅ホスピスケアの実績
Ⅰ.在宅ホスピスケア実施患者
1)転帰
2008 年度に私たちが関わった末期がん患者さんの数は 160 名でした。医師あるいは看護師が一度で
もご自宅を訪問した患者さんです。「中止」は、経過中何らかの理由で他の医療機関に転院し、その後の
経過が確認できなかった患者さんを意味します。
緩和ケア病棟
3 名(2.3%)
2009/3/31
生存中
24 名(15.0%)
病院
1 名(0.8%)
中止
7名
(4.4%)
死亡
129 名(80.6%)
自宅
125 名(96.9%)
図3 パリアンが関わった患者の転帰(患者 160 名中)
図4 死亡場所の内訳(全死亡者 129 名中)
2)在宅ホスピス・緩和ケアが開始するまでの期間
患者数(
名)
54
50
50
4
0
0
1
0
1
2
3
1
1
1
1
1
56
1
2
0
4
5
6
7
8
18
日数(日)
0
図5 相談外来から初回訪問までの日数
(相談外来時在宅 65 名):平均 0.8 日
1
図6 相談外来から退院までの日数
(相談外来時入院中 58 名):平均 0.03 日
患者数(
名)
20
50
13
10
56
10
10
5
3
1
3
2
4
2
1
1
1
1
1
0
2
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
11 15 17 23 33
図7 相談外来から初回訪問までの日数
(相談外来時入院中 58 名):平均 4.9 日
0
あり
43 名(74.1%)
日数(日)
図8 退院から初回訪問までの日数
(相談外来時入院中 58 名):平均 0.03 日
3)訪問看護師による、退院前の病院訪問
なし
15 名
(25.9%)
1
図9 退院前訪問の有無
(対象患者:相談外来受診時
入院中の 58 名)
18
Ⅱ.在宅ホスピスケアの実績:2008 年 4 月~2009 年 3 月に在宅死した患者さんの統計
2008 年度の1年間に在宅死された患者さん 125 名の臨床データです。
1)性別と死亡時の年齢
50
患者数(
名)
女性
44 名
(35.2%)
男性
81 名
(64.8%)
47
40
31
28
30
20
12
10
3
4
0
0
30 代 40 代 50 代 60 代 70 代
年齢(歳代)
図 11 在宅死患者の死亡時年齢分布
平均年齢 全体:72.1 歳 / 男性:72.4 歳 女性:71.4 歳
図 10 在宅死患者の性別
2)がんの種類
頭頚部がん*
4 名(3.2)
80 代 90 代
骨髄腫
3 名(2.4)
婦人科がん
3 名(2.4)
乳がん
6 名(4.8)
胆嚢・胆管がん*
7 名(5.6)
その他
8 名(6.4)
肺がん*
41 名
(32.8)
食道がん*
8 名(6.4)
結腸・直腸がん*
16 名
(12.8)
膵臓がん
8 名(6.4)
肝臓がん
9 名(7.2)
泌尿・生殖器がん*
胃がん*
12 名(9.6)
10 名
(8.0)
図 12 在宅死患者のがんの種類
*:重複例含む。カッコ内は全在宅死患者数 125 名中の頻度
3)在宅ケアの期間の分布
8
患者数 名
平均 51.3 日
6
4
2
)
(
0
0
50
100
150
200
図 13 在宅ホスピスケアの期間の分布(他、746 日1名)
19
250 日数(日)
4)独居患者
表9 独居患者の性別・年齢
年齢
人数
(名)
90 歳代
80 歳代
70 歳代
60 歳代
50 歳代
小計
男性
1
1
2
1
1
6
女性
0
3
2
0
0
5
5)関わったチームメンバー
薬剤師
合計
(在宅死例中の頻度)
11
(11/125=8.8%)
107 名(85.6%)
理学療法士
35 名(28.0%)
ホームヘルパー
43 名(34.4%)
27 名(21.6%)
ボランティア
0
20
40
60
80
100
図 14 医師・看護師以外に関わったチームメンバーとその利用患者数
6)行った医療処置
①強オピオイド使用
経口徐放剤
110 名(88.0%)
経直腸剤
78 名(62.4%)
持続皮下注射
60 名(48.0%)
貼付剤
45 名(36.0%)
強オピオイド使用合計
110 名(88.0%)
0
20
40
60
80
100
60
80
100
60
80
100
図 15 各強オピオイド使用患者数
②補液など
CV ルート(ポート)
―― 10 名(8.0%)
HPN
―― 5 名(4.0%)
抹消点滴
―― 8 名(6.4%)
0
20
40
図 16 補液施行患者数
③在宅酸素療法
酸素濃縮器
――12 名(9.6%)
酸素ボンベ
――――3 名(2.4%)
0
20
40
図 17 在宅酸素療法施行患者数
20
④その他の医療処置
胃瘻管理
―― 2名(1.6%)
人工肛門管理
― 4名(3.2%)
胆汁瘻管理
―― 7名(5.6%)
膀胱留置カテーテル管理
23 名(18.4%)
0
20
40
60
80
100
図 18 その他の医療処置施行患者数
7)看護介入の実施
看護介入の具体例
ADL
福祉器具の導入
清潔
清拭・足浴・手浴・洗髪・陰部洗浄など
栄養
食事量減少などへの不安に対する関わり
浮腫に対するマッサージ、抹消点滴(管理)
水分出納
排尿
オムツ使用に伴う指導
排便
便秘に対する下剤の調整および指導
疼痛
医師指示下の疼痛緩和薬剤の調整・患者と家族への
指導
意識状態
意識状態に合わせた家族へのデス・エデュケーション
睡眠
薬剤の調整など
呼吸
酸素導入と調整・指導、体位の工夫
循環系
食事量調整、マッサージ
倦怠感
マッサージ
皮膚
褥瘡処置・処置方法の指導
体温
温罨法・冷罨法・解熱剤
心理状態
傾聴こころのケア担当者の訪問調整
社会的問題
通所看護参加促進など
経済的問題
社会資源導入、意思決定支援
傾聴・通所看護参加促進
スピリチュアル
介護状況や家族関係のアセスメント、他サービス導入
家族の状態
家で看取ることへの不安や症状出現時の不安に対
する電話による支援、デスエデュケーション
(%)
家族関係
図 19 訪問看護パリアン利用患者の介入実施割合
21
8)告知の有無(最終結果)
病名
107 名(85.6%)
不治であること
81 名(64.8%)
予測される生命予後
57 名(45.6%)
0
20
40
60
80
100
図 21 告知の有無 患者数
9)ケアに対するスタッフの満足度(10 段階評価)
医師
平均 9.66
8名
(6.4%)
26 名(20.8%)
91 名(72.8%)
看護師
平均 9.41
44 名(35.8%)
66 名(53.7%)
10 名 3(2.4%)
(8.1%)
評価:
10
9
8
図 22 ケアに対するスタッフの満足度(カッコ内は全評価対象者に対する頻度)
7
11)スタッフが判定した患者・家族の満足度と痛みの緩和・症状の緩和に対する評価(10 段階評価)
1(0.8%)
患者の希望通りの最期で
あったか(平均 9.81)
102 名(81.6%)
家族の希望通りの看取りで
あったか(平均 9.74)
22(17.6%)
26(20.8%)
96 名(76.8%)
評価:
10
9
8
図 23 患者本人・家族の満足度(カッコ内は全評価対象者に対する頻度)
1(0.8%)
痛みは緩和されていたか
(平均 9.52)
73 名(58.4%)
痛み以外の症状は緩和され
ていたか(平均 9.16)
39 名
(31.2%)
評価:
45(36.0%)
68 名(54.4%)
10
9
6名
(4.8%)
17 名
(13.6%)
8
図 24 痛みと痛み以外の症状の緩和に対する評価(カッコ内は全評価対象者に対する頻度)
22
7
3(2.4%)
11.年間行事
年月
内容
2008 年
新人研修
4月
5 月 アルバーノ大学学生研修
帝京大学医学部研修医 研修
メモルの集い
帝京大学医学部研修医 研修
7 月 帝京大学医学部、・聖路加看護大学 学生実習
納涼会
6月
8月
9 月 ボランティア講座
10 月 医療法人社団パリアン 設立
11 月
帝京大学医学部研修医 研修
12 月 忘年会・クリスマス会
ハワイにて国際研究会議・ホスピス見学
2009 年
姉妹ホスピス(Banksia Palliative Care Service)管理者による講演会
1月
帝京大学医学部研修医 研修
2月
ボランティア講座
3 月 全体会議
各月第三水曜日に公開カンファレンスを開催
Skypeによる国際研究会議
姉妹ホスピスとの交流講演会
23
12.業績目録
1) 出版物
①学術誌
著者名
タイトル
雑誌名
川越厚、松浦志の
ぶ、染谷康子、大 ケア期間からみた在宅ホスピスケアの問題
金ひろみ
川越厚、
モルヒネ持続クモ膜下注入による疼痛緩和
松浦志のぶ
癌と化学療法
Vol.35,SuppleⅠ, p16-18, 2008.
癌と化学療法
Vol.35, SuppleⅠ, p88-90, 2008.
②一般誌
著者名
川越博美
(宮崎和加共著)
(宮崎和歌子)
川越博美共著
タイトル
雑誌名
訪問看護ステーションの現場をあるく ④ 群馬へ
訪問看護ステーションの現場をあるく⑤ 山梨へ
訪問看護と介護
Vol.13, No4, 338-343, 2008.
訪問看護と介護
Vol.13, No5, 418-423, 2008.
川 越 博 美 ,( 小 川 忍 , 座談会【診療報酬改定で"訪問看護"はどう変わ
コミュニティ・ケア
高瀬義昌, 角田直枝, る?】 十分な評価とは言えないが訪問看護に対す
Vol.10, No5. 50-57, 2008.
高砂裕子, 鳥海房枝) る期待に応えたい診療報酬改定
川越博美
訪問看護と介護
訪問看護ステーションの現場をあるく⑥ 埼玉へ
(宮崎和加子共著)
Vol.13, No6, 508-513, 2008.
川越博美
訪問看護と介護
訪問看護ステーションの現場をあるく⑦ 愛媛へ
(宮崎和加子共著)
Vol.13, No7, 606-610, 2008.
川越博美,内田千佳
緩和ケア
子,大金ひろみ,霜田 在宅ホスピス・緩和ケア基準作成の試み
Vol.18, No4, 357-364, 2008.
美奈,小松浩子
訪問看護と介護
(宮崎和歌子)
訪問看護ステーションの現場をあるく⑧ 大阪へ
川越博美共著
Vol.13, No8, 768-702, 2008.
訪問看護と介護
川越博美
訪問看護ステーションの現場をあるく⑨ 福島へ
(宮崎和加子共著)
Vol.13, No9, 788-792, 2008.
訪問看護と介護
川越博美
訪問看護ステーションの現場をあるく⑩ 愛知へ
(宮崎和加子共著)
Vol.13, No10, 862-866, 2008.
在宅ホスピスボランティアの活動-在宅ホスピスケ 緩和ケア
川越博美
アチーム・パリアンの取り組み-
Vol.18, No5, 392-394, 2008.
訪問看護と介護
(宮崎和歌子)
訪問看護ステーションの現場をあるく⑪ 岐阜へ
川越博美共著
Vol.13, No11, 950-955, 2008.
訪問看護と介護
川越博美
訪問看護ステーションの現場をあるく⑫ 東京へ
(宮崎和加子共著)
Vol.13, No12, 1048-1052, 2008.
訪問看護ステーションの現場をあるく⑬ 訪問の現 訪問看護と介護
川越博美
(宮崎和加子共著) 場を歩いて
Vol.14, No1, 76-80, 2009.
※ (
)内は外部の著者
③単行本
著者名
タイトル
出版社
出版日
川越 厚
在宅医療実践ガイドブック-多分野融合型連携をめざして 社団法人 東京
2008/3
- 第三章終末期の支援 2 全人的緩和ケア、3 死の看取り 都医師会
川越 厚
明日の在宅医療 第 3 巻 在宅での看取りと緩和ケア
がんの在宅ホスピスケアの諸相
中央法規出版
2008/9/15
川越博美
明日の在宅医療 第 5 巻在宅医療・訪問看護と地域連携
中央法規出版
在宅医療と訪問看護
2008/9/15
24
④その他(新聞、雑誌の取材など)
タイトル※
発行日
種類
2008/4/1
雑誌
終末期の人生に豊かさを 在宅ホスピスケア 医療経営情報
3
への挑戦 川越厚・伊藤美緒子
No.183 2008/4 号
4/1
雑誌
死を看取る家族の力、地域の力 グループパ 健康保険
リアン「ホームケアクリニック川越」より-その 3 2008 年 4 月号
4/30
6/10
6/14
8/19
11/16
媒体名
pp.
エルゼビア・
ジャパン
52-5 健康保険組
5
合連合会
在宅での看取りは-在宅療養支援診療所の 読 売 ク オ ー タ リ ー
47
全国調査報告
No.5 2008 年春号
朝日新聞
新聞 大往生みとりの場は
3
6 月 1 日朝刊
週刊ダイヤモンド
雑誌 特集 病院の格付け 地域での連携
79-80
6/14 号
がん専門医ががんになって-家族と共に生き
Web
がんナビ
る在宅医療の大切さを実感
雑誌
TV 終末期医療について
出版社
NHK ニュース
読売新聞東
京本社
朝日新聞社
ダイヤモンド
社
日経 BP 社
NHK
※氏名のないものは川越厚が取材対象
2) 学会・研究発表
講演日
発表者
題目
会
主催
川越厚、松浦
第 19 回日本在宅医 日 本 在 宅 医
2008/7/26 志のぶ、染谷康 ケア期間からみた在宅ホスピスケアの問題
療学会学術集会
療学会
子、大金ひろみ
川越厚、
第 19 回日本在宅医 日 本 在 宅 医
2008/7/26
モルヒネ持続クモ膜下注入による疼痛緩和
松浦志のぶ
療学会学術集会
療学会
在宅死を経験した家族の心の変化の分析
岩田由美、
第 23 回日本がん看 日 本 が ん 看
2009/2/7
から 在宅ホスピスにおける看護師の役割
吉野貴子
護学会学術集会
護学会
の質的研究
3) 講演など
川越 厚
講演日
題目
会
主催
2008/ 家族に死をどう伝え、家族をどうケア
湘南緩和ケア研究
湘南緩和ケア研究会
4/19 するか?
会、ヤンセンファーマ
独居認知症がん患者の在宅ホスピ
4/23
在宅ホスピス協会 勉強会
在宅ホスピス協会
スケア
シンポジウム「在宅ホスピス緩和ケア 第 3 回 すみだ在宅ホスピス緩 すみだ在宅ホスピ
6/15
についてすみだの現状を知ろう」
和ケア連絡会準備会
ス緩和ケア連絡会
東京がんマネジメ
在宅ケアを行なっている施設の立場 第 1 回 東京がんマネジメント
6/21
ント研究会、ノバル
から
研究会
ティスファーマ
対談 「在宅ホスピスケアの 20 年を 日本ホスピス在宅ケア研究会 日本ホスピス在宅
7/12
振り返って」
全国大会 in 千葉
ケア研究会
ケアマネに必要ながんの知識と在 第 1 回 ケアマネのための末
7/24
在宅ホスピス協会
宅ケアへの関わり方
期がん在宅ケア勉強会
在 宅 ホ ス ピ スの ケ ア マ ネジ ャ ーの
城東ブロック連絡
7/31
城東ブロック連絡会 研修会
関わり方
会
8/2
厚労科研がん臨床研
究事業「がん医療の均
第 4 回 医学生・研修医のため てん化に資するがん医
がん診療における緩和治療医の役
の腫瘍内科セミナープログラ 療に携わる専門的な知
割~在宅ホスピス医より~
識および技能を有する
ム
医療従事者の育成に
関する研究」班
25
都市名
横浜市
墨田区
墨田区
品川区
千葉市
墨田区
葛飾区
中央区
講演日
9/15
10/3
10/16
10/19
10/21
10/24
10/26
11/3
題目
会
主催
第 5 回 21 世紀高野山医療フ
シンポジウム「医療におけるヒューマ
21 世紀高野山医
ォーラム 「生と死が手を結ぶ
ニティと宗教心」
療フォーラム
には」
長崎県訪問看護ス
これからの在宅ホスピスケアと事前
平成 20 年度講演会
テーション連絡協
約束指示
議会
第 25 回 みさと健和病院祭 みさと健和病院祭
施設と在宅のホスピスケア
記念講演
り実行委員会
ランチョンセミナー「痛みが緩和され
第 2 回 日本緩和医療薬学会 日 本 緩 和 医 療 薬
た在宅末期がん患者-薬剤師もチ
年会
学会
ームの仲間-」
NPO 法人 江戸川
在宅ホスピス 20 年の歴史
江戸川区ケアマネ勉強会
区ケアマネジャー
協会
どうして小さな子供が死ななければ
女子学院 創立記念講演
女子学院
ならないの?
死にゆく人のスピリチュアルケアの 高野山スピリチュアルケアセミ 高 野 山 ス ピ リ チ ュ
実際
ナー
アルケアセミナー
第 4 回日本プライマリ・ケア学 日本プライマリ・ケ
ワークショップ「終末期医療」
会秋季実践セミナー
ア学会
11/11 在宅ホスピス 20 年の歴史
第 2 回城東緩和医療研究会 塩野義製薬
第三回ケアマネのための末期 すみだ在宅ホスピ
がん在宅ケア勉強会
ス緩和ケア連絡会
藤田保健衛生大
ホスピスケアをいま、もう一度考えて
12/6
三重中勢緩和ケア研究会
学 七栗サナトリウ
みよう
ム
11/26
1/10 その人らしく生きるとは
2/8
2/15
2/17
3/8
3/20
千代田区
長崎市
三郷市
横浜市
江戸川区
千代田区
港区
千代田区
荒川区
墨田区
津市
広島市
西多摩緩和ケア研
青梅市
究会
スピリチュアルケア―死に逝く人へ 高野山スピリチュアルケアセミ 高 野 山 ス ピ リ チ ュ
港区
のケアの真髄
ナー
アルケアセミナー
シンポジウム「在宅での看取りを経 みんなで考えよう すみだ在 すみだ在宅ホスピ
墨田区
験して」
宅緩和ケア
ス緩和ケア連絡会
在宅医療における麻薬使用のポイ
東京都薬剤師会
第 2 回多摩第三地区研修会
昭島市
ント
北多摩支部
在宅ホスピスケア 20 年の歩みとこれ 第 8 回成城内科在宅医療勉 ヤ ン セ ン フ ァ ー マ
世田谷区
から
強会
株式会社
東京・生と死を考
死に逝く人へのスピリチュアル・ケア 第 10 回生と死を考えるセミナ
え る 会 、 在 宅 ホ ス 千代田区
の実際
ー
ピス協会
がん患者における在宅ケア(Home 第 7 回日本臨床腫瘍学会学
日本腫瘍学会
名古屋市
hospice care)
術集会
1/24 これからの在宅ホスピス
1/25
がん医療の均てん化推進事
広島県
業 在宅緩和ケア講演会
都市名
西多摩緩和ケア研究会
川越博美
講演日
題目
2008/
在宅ホスピスケアにおける看護
8/30
10/3
会
在宅ホスピスケア研修会
訪問看護ステーションと開業医の連
平成 20 年度講演会
携-訪問看護の現状と課題
26
主催
都市名
岡山県看護協会
岡山市
長崎県訪問看護ス
テーション連絡協
議会
長崎市
講演日
題目
10/7 担当者に求められるもの
会
主催
都市名
社会保険連合 担当者ケア会
社会保険連合
議
シンポジウム 「在宅医療における
第 2 回 日本緩和医療薬学会 日 本 緩 和 医 療 薬
現状とその問題点」
10/19
学会
在宅緩和ケアにおける薬剤師と訪 年会
問看護師の連携
横浜市
4)研究班、委員会など
①
川越 厚:NPO 法人 日本ホスピス緩和ケア協会 評価委員
②
川越 厚:第 3 回港区在宅緩和ケア・ホスピスケア支援推進協議会
③
川越 厚:行政視察「在宅ホスピスケア」について 中央区議会公明党 鈴木幸子議員(中央区議
会)
④
川越 厚:第 44 回厚生科学審議会科学技術部会(厚生科学審議会科学技術部会)
⑤
川越 厚:帝京大学 研修管理委員会(帝京大学医学部)
⑥
川越 厚:国立がんセンター中央病院との医療連携強化のための情報交換会(国立がんセンター
中央病院)
⑦
川越 厚:「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会(厚生労働省医政局総務課
企画法令係)
⑧
川越 厚:「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期研修制度)のあり方に
ついて」(分担研究者)(厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業)
⑨
川越 厚:検証部会における調査表検討小委員会(後期高齢者相談支援料についての調査)(み
ずほ情報総研㈱社会経済コンサルティング部)
⑩
川越博美(分担研究者)
「市民参加型地域緩和ケアシステム「家で死ねるまちづくり」の開発と評価」
(平成 20 年度厚生労働科学研究費補助金 医療安全・医療技術評価総合研究事業、
主任研究者:小松浩子(聖路加看護大学))
27
参 考 資 料
患者登録情報の集計
(2000 年7月~2009 年 6 月)
パリアン通信 第 14~17 号
■相談外来の受診者集計
2000 年 7 月~2009 年 6 月に相談外来を受診された患者さん 1303 名のデータです。
1)紹介元
患者がかかっていた病院
症例数
(名)
頻度
(%)
1
都立墨東病院
319
24.5
2
国立がんセンター中央病院
158
12.1
3
同愛記念病院
71
5.4
4
三井記念病院
68
5.2
5
東京医科歯科大学病院
40
3.1
6
順天堂大学病院
39
3.0
7
東京大学病院
癌研有明病院
35
2.7
34
2.6
33
2.5
1
12
11
10
No.
2
8
9 8
7
6
5 4
3
2005 年 2 月までは癌研究会付属病院
9
賛育会病院
10
慶應義塾大学病院
23
1.8
11
駒込病院
22
1.7
12
その他
461
35.4
合計
1303
100.0
参考-図1 相談外来受診患者がかかっていた病院(数字は患者数(名)カッコ内は頻度(%))
2)相談外来を受診した患者さんの転帰
相談外来受診者
1303 名
相談のみ
345 名(26.5%)
外来通院中 1 名
パリアンにて在宅ケア実施
957 名(73.5%)
その他
47 名
現病院で治療継続
54 名(15.7)
他の在宅医を紹介
145 名(42.0)
相談後連絡
なし 43 名(12.5)
入院先を紹介 26 名(7.5)
退院前に死亡 30 名(8.7)
相談外来未受診者 38 名
2000/7-2009/6
在宅医療 患者
995 名
パリアンにて在宅ケア実施
957 名(73.5%)
参考-図 2 相談外来受診後の転帰
相談外来件数
125
144
158
148
(件)
202
132
125
148
82
100
相談後転帰の頻度
相談のみ
(%)
14
100
50
68
43
55
82
89
77
58
81
90
2003
2004
28
28
17
23
104
174
108
125
2007
2008
相談後当院ケース
0
2000
200
2001
2002
2005
2006
参考-図 3 年度別相談外来件数と相談後の転帰の頻度
参考 1
■在宅ホスピスケアの実績
Ⅰ.在宅ホスピスケア実施患者
1)転帰
緩和ケア病棟
23 名(2.5)
中止
62 名 (6.2)
生存中
26 名(2.6)
一般病棟
14 名(1.5)
死亡
907 名(91.2)
自宅
870 名(95.9)
参考-図 4 在宅ホスピスケア実施患者の転帰
(患者数 995 名)
参考-図 5 死亡場所の内訳
(全死亡者数 907 名中)
Ⅱ.在宅ホスピスケアの実績
2000 年 7 月~2009 年 6 月に在宅死された患者さん 870 名の臨床データです。
1)性別と死亡時の年齢
250
女性
364 名
(41.8%)
男性
506 名
(58.2%)
患者数(
名)
200
150
100
50
0
参考-図 6 在宅死患者の性別
30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代
年齢(歳代)
参考-図 7 在宅死患者の死亡時年齢分布
平均年齢全体 69.6 歳/男性 70.1 歳 女性 68.9 歳
2)がんの種類
皮膚がん
悪性リンパ腫 9 名(1.0)
10 名(1.1)
胆嚢・胆管がん
24 名(2.8)
頭頚部がん*
33 名(3.8)
食道がん*
40 名(4.6)
乳がん
40 名(4.6)
肝臓がん
49 名(5.6)
*
婦人科がん
51 名(5.9)
膵臓がん
52 名(6.0)
その他
甲状腺がん
骨髄腫 5(0.6)
7 名(1.0)
白血病 3(0.3)
その他
肉腫 3(0.3)
16 名(1.8)
原発不明
脳腫瘍 2(0.2)
16 名(1.8)
胸腺がん 1(0.1)
肺がん*
後腹膜悪性軟部腫瘍 1(0.1)
229 名
後腹膜原発性肉腫性髄膜腫 1(0.1)
(26.3)
結腸・直腸がん*
128 名
胃がん
(14.7)
114 名
(13.1)
*
泌尿・生殖器がん
69 名(7.9)
参考-図 8 がんの種類 (カッコ内は対象患者 522 名中の頻度) *重複がん 8 例含む
参考 2
3)在宅ケアの期間の分布
患者数(
名)
30
N=870
平均 53.3 日
20
他 723,746,1559 日 各1名
10
0
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
患者数(
名)
日数(日)
30
20
10
0
0
25
50
75
100
参考-図 9 在宅ケアの期間分布(上段:全在宅死患者、下段:1~100 日間の患者)
1週間 1~2週間未満
未満
151(17.4)
111 名(12.8%)
0%
10%
20%
1ヵ月~3ヵ月未満
266(30.6%)
2週間~1ヵ月未満
210(24.1%)
30%
40%
50%
60%
70%
参考-図 10 在宅ケアの期間
80%
3ヶ月~
半年未満
86(9.9%)
90%
100%
1年以上
半年~1年未満 9(1.0%)
37(4.3%)
4)独居患者
参考-表 1 独居患者の性別・年齢分布
年齢
人数
(名)
90 歳代
80 歳代
70 歳代
60 歳代
50 歳代
小計
男性
1
8
7
8
2
26
女性
1
5
9
8
4
27
合計
(在宅死例中の頻度)
53
(53/870=6.1%)
5)関わったチームメンバー
―― 214 名(24.6%)
薬剤師
―――45 名(5.2%)
理学療法士
245 名(28.2%)
ホームヘルパー
こころのケア担当者
――― 32 名(3.7%)
ボランティア
―― 97 名(11.1%)
0
20
40
60
参考-図 11 関わったチームメンバー
参考 3
80
100
6)行った医療処置
経口徐放剤
636 名(73.1%)
経口即効剤
119 名(13.7%)
経直腸剤
454 名(52.2%)
持続皮下注射
235 名(27.0%)
持続硬膜外注射
2 名( 0.2%)
経中心静脈持続注射
4 名( 0.5%)
貼付剤
273 名(31.4%)
強オピオイド使用 計
750 名(86.2%)
CV ルート(通常)
20 名( 2.3%)
CV ルート(ポート)
15 名( 1.7%)
HPN
57 名( 6.6%)
末梢点滴
52 名( 6.0%)
酸素濃縮器
177 名( 20.3%)
液化酸素
23 名( 2.6%)
酸素ボンベ
40 名( 4.6%)
胃瘻
16 名( 1.8%)
人工肛門
43 名( 4.9%)
腎瘻・尿管瘻・胆汁瘻
32 名( 3.2%)
腹腔穿刺
5 名( 0.6%)
輸血
4 名( 0.5%)
0
20
40
60
80
100
参考-図 12 行った医療処置
7)告知の有無 (対象患者 2003 年 7 月~2009 年 6 月に在宅死した 646 名)
病名
547 名(84.7%)
不治であること
437 名(67.6%)
予測される生命予後
299 名(46.3%)
0%
20%
40%
参考-図 13 告知の有無(終了時)
参考 4
60%
80%
100%
第 14 号
2008 年春号
パリアンは医療・看護・ボランティア・心のケアの
グループで、在宅ホスピスケアを行っています。
パ リ ア ン 通 信
発行:グループ.パリアン 東京都墨田区緑 1-14-4 両国 TY ビル 5 階 TEL 03-5669-8302 FAX 03-5669-8310
http://www.pallium.co.jp/
*** パリアンの語源は、ラテン語の pallium から拝借しました。暖かくひとを包みこむマントやコートのことを意味します。***
目次
パリアン医師から・・・・ 1
ボランティアコーナー・・・・ 2
スタッフ紹介・・・ 4
「後期高齢者医療制度」について 1 - 高齢者の医療について、かくも真摯に国民が向き合った
ことはあっただろうか -
この 4 月から後期高齢者(75 歳以上の高齢者のこと)
いることに異論はないが、果たして白紙に戻すというよう
医療制度が発足し、準備不足のため大きな混乱が各地
な簡単なかたちでことを片づけてよいのだろうか。報道
で生じている。医療に関連した報道はこれまでも日々マ
の仕方、人々の受け止め方、議論の進め方などなど、多
スコミを賑わしてきたが、かくも大きな議論が国民規模で、
くの問題があるように思う。僕たちが長年かかわってきた
しかも長期にわたって巻き起こったことは、かつてなかっ
終末期医療と深く関連しているので、この問題について
たように思う。本質に迫った議論がなされていないことは
これからシリーズで解説したいと思う。
問題だし、この制度自体は 2 年前に国会で(自民、公明
一昨年秋(平成 18 年 10 月 5 日)、第一回の「後期高齢
による強行)採決された「健康保険などの一部を改正する
者医療の在り方に関する特別部会」(部会長:糟谷真平・
法律(平成 18 年法律第 83 号)」に則っているので、制度
国民生活センター理事長)が霞が関ビル 33 階にある東
実施に伴って、いま反対が起きていることに、僕は戸惑
海大学校友会館で開かれた。僕は在宅医療の現場に携
いを覚える。
わる医師として参加したわけであるが、フリーの立場で思
後期高齢者医療制度の問題とは異なるが、安部政権
時代、憲法第九条の改定が具体的な政治課題として取り
うところを述べさせていただいた。席上、厚労省からこの
部会の趣旨説明があった。
上げられ、実際にその作業が進められたことがあった。
「後期高齢者医療制度の創設にあたり、後期高齢者の
被爆 2 世である僕はこの種の問題に対して敏感であり、
心身の特性などにふさわしい医療が提供できるような新
このときはその動きを特に憂慮した。もしあのままことが
たな診療報酬体系を構築することを目的として、後期高
進んだら、と想像すると背筋が冷たくなる。後期高齢者医
齢者医療の在り方について審議するため、社会保障審
療制度の問題と同じように、若者が戦場に赴きあるいは
議会に専門の部会を設置する。」
徴兵制度が敷かれて初めて、これは大変なことになった、
僕はここで初めてこの制度の詳細を知り、後期高齢者
と人々は大騒ぎをしたに違いない。今回の混乱はよい教
医療制度が独立した医療制度として平成20 年4 月より創
訓である。閑話休題。
設されることを実感した。しかし制度内容は複雑で、一回
さて後期高齢者医療制度の問題だが、大多数の意見
の説明では十分理解できなかった。なお特別部会の議
はこの制度が類を見ない悪法で、即刻廃止すべきだとい
事は公開されており、詳細は厚労省のホームページで
う点で一致しているようである。落ち着く先は僕にもわか
その都度報告されてきたことを付記する。
らないが、廃案にするとか、いや制度の一部見直しをす
るとかの意見があり、このままの形でこの制度が落ち着く
とは考えられない。僕もこの制度が多くの問題を抱えて
参考 5
ホームケアクリニック川越 院長 川越 厚
ボランティアグループパリアン活動報告
スペシャル サロン開催
ボランティア 石井 勝男
パリアングループの活動のひとつに昨年秋にオー
川越先生やスタッフのお陰です。家族のケアもして
プンしました「サロン・ド・パリアン」があります。
いただき、安心し、納得出来た」と語り、深い悲しみの
このサロンは、自宅で療養中の患者さんやご家族、ご
中にあってもやれるだけのことはやったという満足感
遺族の方々とパリアン心のケア担当者、ボランティア
が滲んでいました。今は継続している仕事で気持ち
数人で応対し、お茶を飲みながらほっとするひと時を
を切り替えて日々を過ごされている。
過ごしていただける場であり今月で半年が過ぎまし
た。
昨年1 月にご主人を自宅で看取った A さんも「ホー
ムケアクリニック川越でスタッフの皆さんに大変お世
新しい試みとして今年4月25日に身内の方を亡くさ
話になったので恩返しに機会あれば在宅での看取り
れて一年のご遺族に集まっていただき故人を偲び語
で得られた家族の強い絆などの体験を語りたい」と気
り合う一回目の会を開催しました。当日は昨年 1 月、2
持ちを語っていました。2時間の集いでありましたが、
月に命日を迎えられた 2 名の方が参加されました。
同じ悲しみ苦しみを持ったご遺族同士が語り支え合う
昨年2月に父親を自宅で看取った Y さんは《在宅医
会はそれなりに意義がありました。
療の今「みとり」》と題する新聞社の取材で「穏やかな
毎月一回開催を計画していますスペシャル サロン
表情で、だんだんと遠くにいくような感じでした。枕元
は参加されるご遺族の方が深い悲しみがだんだんと
にいつも家族の誰かが付き添い父も喜んでくれたと思
変化して、故人を優しい気持ちで思い出していただ
います」と、また「病院では体が弱っていくのが眼に見
ける雰囲気のあるサロン作りにこれからも努めていき
えた父が元気を取り戻し好きなものも食べられ孫やひ
たいと考えております。
孫に囲まれ楽しいひと時を過ごし、すべきことは全部
出来た。これも
ボランティア活動案内
定例会:活動の充実と会員相互の交流を図っています。 毎月第1土曜日 10:30~12:00
療養通所介護:通所される患者さん・ご家族と食事やゲーム又はケアを共にして、和やかなひと時
を過ごしています。毎週水曜日 10:15~16:00
訪問活動:在宅で過ごされている患者さん宅を訪問し、看護師と協力してボランティアとして出来る
支援をしています。
メモルの集い:年に1度、在宅で看取りをされたご家族を招き、故人をしのぶ機会です。
サロンド・パリアン:患者さんやご家族またはご遺族に、お茶を飲みながら自由にお話をしていただけ
参考 6
る場を開いています。毎週金曜日 13:00-16:00
命日カード:亡くなられて1年のご遺族の方へカードを送ります。偶数月第2木曜日に活動しています。
グッズ作成:メモルの集いの参加者や訪問患者さんに差し上げるプレゼントを企画・作成しています。
亀戸教会バザー・吉良祭への参加:地域の方に在宅ホスピスやボランティアについて知ってもらう機会
としています。 亀戸教会バザー 2008 年 9 月 15 日 / 吉良祭 2008 年 12 月 13・14 日
ボランティア講座
「ボランティアはホスピスの宝物であり、ホスピスケアにおいて中心的な活動をする人である」
これは、パリアンと姉妹関係を結んでいるハワイホスピスに掲げられている言葉です。この言葉が示すように、ボランティ
アには死に逝く人とその家族を支えるために大切な働きがあります。
在宅ホスピスボランティアはまだ黎明期にあり、どのように活動すれば良いか、どのように教育すれば良いか試行錯誤
の現状です。そのため、グループパリアンでは在宅ホスピスボランティアのための研修講座を開催し、在宅ホスピスケア
のチームの一員として活動するための教育を行っています。このボランティア講座も本年 3 月に、第 14 回を無事に終了
いたしました。そこで、この講座を受講され、現在ボランティアグループパリアンの一員として活動されているお二人の方
に感想を語っていただきます。
ボランティア講座を修了して.
.
.
ボランティア 佐藤紀代子
「独り暮らしをささえる在宅ホスピスケア」でパリアンの看護
ん聞けたことです。熱く語られるお二人はすごく素
敵で、すっかりファンになってしまいました。時々、
このお二人のご家庭はどんなだろうと想像しなが
ら聴いておりましたが。(先生ごめんなさい)とにか
く私にも出来ることがあれば頑張らなくてはと勇気
づけられた思いです。
師さんの発表を聞かせていただきました。お二人のお話
この3日間の講座は、私にとって在宅ホスピスケアに
はとても心に響きました。その時からいつかパリアングル
ついての理解が深まりました。これからも勉強して行きた
ープのボランティアに参加したいという思いが募ったので
いです。そしてボランティア活動を通して皆さんから学
す。
ばせていただきたいです。
私がグループ・パリアンを知ったのは、2006年の夏で
した。病院勤務をしていた関係で在宅ホスピス協会の神
戸大会を知り「患者家族の希望をかなえる在宅ホスピスケ
ア なぜ家なのか」というテーマに惹かれ参加しました。
そこで川越厚先生の講演やとても関心があった分科会
運よく今回、ボランティア講座を受講すること
が出来ました。ボランティアになるための第一歩と
してとりあえず受講しなくてはと言う位の気持ちで
参加しました。ところが、内容は期待を大きく上回
り、とても専門的で非常に充実した研修でした。参
加して本当に良かったと思いました。何より嬉しか
ったのは、川越厚先生、博美先生のお話がたくさ
参考 7
住み慣れた家で「最後まで自分の役割を果たし、自分
らしく生きる」自分もそうありたいと今思っています。
この講座に参加させて頂きスタッフの皆さんに感謝し
ております。ありがとうございました。
ボランティア講座を修了して.
.
.
ボランティア 水田俊哉
僕は、今、大学で看護を学ばせて頂いています。実習
感じました。講座の中では、スタッフや講座参加者の方
や学生活動などを通し、人(特に苦しみを持って暮らして
の話を色々と聞くことができ、よい経験となりました。中で
いる人)にとって大きな助けや救いとなるのは、まわりに
も遺族の方の話やスタッフ訪問の時の話には実体験で
その人の存在を支えてくれる人やものがあることだと考
あるが故の重み、深みが感じられました。そのような話か
えるようになりました。看護師にもその役割はもちろんあ
ら様々な人生のあり方を垣間見ることで、僕自身の生き
ると思いますが、それ以上に、それまでずっと関わり続
方、ケアのあり方など、様々なことを考えさせていただき
けてきた家族やその人の暮らしてきた環境といったもの
ました。
のほうが、そこでは大きな役割を果たせるのではないか
現在、実際に何度か活動に参加させて頂いています
と思います。その力を活かしたサポートを出来るのが在
が、僕に何が出来るのかはまだまだ分かりません。だけ
宅医療ではないか、と思い、それがきっかけとなってパリ
れども、ここでの経験を通し、たくさんのことを学ばせて
アンのボランティア講座に参加させていただきました。
頂いている、そのことは確かであると感じています。しか
ボランティア講座には医療職者だけでなく、主婦の方
もそれは上にもあるように僕の生き方にも関わってくるも
や一般企業に勤めている方、役所の方、といった医療に
のです。そのことにとても感謝しています。学ばせてもら
はあまり関係の多くない方たちが多く参加されていて、ま
うばかりの僕ですが、学んだからこそ返せるもの、学びな
だまだ新しい分野ではあるけれども、少しずつ様々な人
がらも返しているものがきっとあると信じながら、これから
たちに在宅医療の必要性が広まっていることに嬉しさを
も活動を続けていきたいと思っています。
パリアン 新スタッフ紹介
【河本 美妃】 2 月末から非常勤看護師として働いています。東京下町の風情と江戸っ子の粋を日々肌で感じながら
楽しく仕事をさせて頂いています。よろしくお願い致します。
【栗原 美穂子】 今までずっと病棟勤務していましたが、縁があってパリアンで働かせていただくことになり、とても嬉
しく思っています。在宅ケアは未知分野でわからないことだらけですが、多くを学び吸収したいと思っていますので、
ご指導よろしくお願いします。
【佐々木 美登里】 4 月からパリアンで働かせていただいています。秋田県で訪問看護師として働いていましたが、
道路事情や行政事情などの違いに戸惑い悪戦苦闘しています。まだまだ未熟ですが頑張りますのでよろしくお願い
いたします。
【吉野 貴子】 4 月に就職しました理学療法士です。常勤で訪問業務に携わるのは初めてですので、皆さんに教え
て頂きながら、チームの一員として活動できるよう頑張ります。また、ボランティアリーダーを務めさせて頂くことになり
ましたので、よろしくお願い致します。
参考 8
第 15 号
2008 年夏号
パリアンは医療・看護・ボランティア・心のケアのグル
ープで、在宅ホスピスケアを行っています。
パ リ ア ン 通 信
発行:グループ.パリアン 東京都墨田区緑 1-14-4 両国TY ビル 5 階 TEL 03-5669-8302 FAX 03-5669-8310 http://www.pallium.co.jp/
*** パリアンの語源は、ラテン語の pallium から拝借しました。暖かくひとを包みこむマントやコートのことを意味します。***
目
次
パリアン医師から・・・・ 1
研修センター報告・・・・ 2
メモルの集い報告・・・・ 3
そ の 他・・・・・・・・ 4
「後期高齢者医療」について 2 - 問題の“終末期医療”についての考察 -
今回の制度改定はこれまで高齢者に対して行われて
たので、人々が反発するのは無理からぬことだと思う。こ
きた医療が、果たして本当に適切だったのかを国民一人
のガイドラインは、国民的なコンセンサスが得られていな
一人が振り返る機会を提供した。僕は高齢者に行う医療
い代物だ。
と若い人に行う医療とを、まったく同列に置く考えには反
終末期医療の問題は過去20 数年にわたって国民規模
対である。たしかに医療の進歩のおかげで、いろいろな
で議論された事柄であり、その過程でたどり着いた結論
治療がかなり安全に行われるようになったのは事実だが、
は、ひとがひととしての尊厳を保って最期まで生きられる
それでも高齢者にはやはり体力的な限界があり、治療を
ように、医療を、社会を変えなければならない、との国民
行うことのリスクは当然高くなる。また患う病気も通常一つ
的な合意であった。その原点は管につながれ、器具に囲
だけではなく、複数の医師が診ることになれば全体的な
まれ、機械に監視される非人間的ないのち(いのちを生
まとまりがなくなる恐れがある。従って、普段から病気だけ
物学的な立場からのみ考えていくとこのようなことになる)
ではなく、家族のことや患者が大切にしていることなどま
の否定であり、そこから出てきたことはひとの命には限り
で精通した医師(かかりつけ医、家庭医などの言葉が用
があり、限りがあるからこそ、その命を大切にし、医療者の
いられる)が、その都度適切なアドバイスをしてくれれば、
手だけに委ねるのはよくない、という貴重な教訓であっ
どれだけ高齢者が安心できるかわからない。
た。
厚労省の頭にあったことは医療経済が逼迫し、このま
かつてマスコミのカメラの先には、ものとして扱われて
までは保険診療体系自体が崩壊するという危機意識であ
いるとしか言えないような、もの言えぬ患者がいた。人々
ったことは疑いない。このこと自体は批判に値しないと思
はそのような形のいのちの終焉を強く否定した。今回の
う。ただし、後期高齢者という線引きをどこでするか、につ
問題がわきあがった時、マスコミのカメラの先には、人間
いては僕も疑問を持っていた。学問的には 75 歳を境に
として力強く生きている、もの言う元気な高齢者がいた。こ
分けられるのであるが、この分類は現状に即さないと思
の制度が伝えているメッセージは、元気な高齢者が危惧
う。
するような、「年寄りに死ね」と言っているのではなく、「自
後期高齢者医療制度の中では、終末期医療の問題が
分の人生の終焉を考え、人間としての命を全うすること、
最大のやり玉にあがっているようである。この件で僕が最
自らの死に思いを馳せ今を充実して生きてほしい」という
も大きいの問題だと考えているのは、「ひとが自分の最期
ことであった。まだ時期が早いのか、あるいは永遠にこの
をどのような形で具体的に迎えたいかは、ひと時の気持
ような考えが人々になじまないのかは、僕にもよくわから
ちで決まることではない。そのような現実にぶつかっても
ない。
なお、気持ちは揺れて彷徨う。患者さんに説明し、一度そ
の意思を確認してそれで済むような問題ではない」という
ことである。しかも、米国式のドライな自己決定方式に則
って作成した、終末期医療ガイドラインをそこに持ってき
参考 9
ホームケアクリニック川越 院長 川越 厚
研修センター報告
グループ・パリアンでは在宅ホスピス・緩和ケアに関心のある保健医療福祉の専門職に携わる方々・学生の研修を受け入
れております。本年度も 6~7 月にかけて、研修医 2 名の 1 ヶ月間研修と、医学生 4 名の 1 週間及び看護学生 4 名の 3 週間
実習を行いました。また、8 月末には 3 日間の夏季研修も予定しております。
1 ヶ月間の研修を通じて
帝京大学医学部付属病院
初期臨床研修医 齋藤 智久
新聞などでの報道によると、多くの末期がんの患者
宅では、麻薬などを上手に使いながら、疼痛のコン
は在宅での療養を望んでおり、できれば「家で死にた
トロールや呼吸苦の緩和を行っていけば患者さん
い」という思いを持っています。しかしながらその一方
は自然と笑顔になっていくんだなと思いました。
でがん患者は病院で亡くなられる方が圧倒的に多い
在宅で末期がんの患者さんをみていくということ
のが現状です。私自身大学病院でがん患者の看取り
は、病院で一般的に行われている医療を在宅に持
を経験していく中で、点滴に酸素投与、心電図モニタ
ち込むのではなく、患者さんが自宅で普通の生活
ーなど多くの医療機器に囲まれながら亡くなっていく
を送ることができるように、医療者が支えていくこと
患者さんをみると、「本当にこういう最期を本人は望ん
なんだと実感することができました。
でいるのかな?」と疑問に思ったことがありました。もち
この1ヵ月間で通常の病棟業務では経験できな
ろん、病院での入院中に本人や家族が在宅での療養
いこと事をたくさん学ぶことが出来てとても充実した
を希望されればその後は在宅で過ごすことも出来るの
研修でした。
ですが、自分自身在宅ホスピスで支えられている患者
さんを実際にみたことはありませんでした。そんな中、
川越院長をはじめクリニックの皆さん、本当にあり
がとうございました。
在宅医療で多くの末期がんの患者さんをみているクリ
ニック川越で研修できるというのはとても楽しみでし
た。
実際に川越院長の訪問診察に同行して驚いたの
が、末期がんの患者にもかかわらず、みな自宅でと
ても笑顔で過ごされていたことです。そのうえ入院
中に行っていた点滴や酸素投与もなく・・・です。在
パリアンでの実習を振り返って
聖路加看護大学 実習生代表 宮田ゆりえ
聖路加看護大学では大学 3 年時にほぼ全ての領域を
始めの一週間は帝京大学の医学生とペアを組み、そ
回る臨地実習を終えます。それを踏まえ、今回の実習は
れぞれ受け持ちの患者さんとご家族を重点的に見てケ
各自関心のある領域を選択し、学びを深めるという目的
アの計画を立案し、その後の 2 週間は受け持ちの方を継
で行われました。私たち学生4 人は、ターミナル期にある
続して看つつ、各自テーマを絞って学びを深め、最後の
方の、しかも在宅で最期の時を過ごされる方と、そのご家
発表会でそれらを共有し合うという形で実習は進められ
族を対象に行われる看護について学ぶため、ここパリア
ました。そこでは病院ではあまり目立たない地域で行わ
ンで三週間実習をさせていただきました。
れる看護の形や死に逝く方に対するケアの形を、身をも
参考 10
って学ぶことができたと思います。実習が始まるまでは、
大切であるかを知りました。また思い出のたくさん詰まっ
私たちの心の内には期待と不安の双方がありましたが、
た家で、大切な家族に囲まれて死ぬ喜びに触れることが
正直なところ、不安のほうが大きかったように思います。
できたことは貴重な体験となりました。
がんに対する治療は一切行わず、死に逝くことが告げら
3 週間の実習では、川越厚先生、博美先生を始め、
れている方とご家族に対して、しかも自宅でケアを行う在
看護師の皆さん、他パリアンのスタッフの方々、ボラン
宅ホスピスは、さぞかし重
ティアの方々など、多くの方にお世話になりました。学
く暗いものだろうと感じていました。けれども、実際に実
生である私たちをチームの一員として扱っていただい
習が開始されると、もちろん、悲しみや辛い場面もありま
たこと、いつも温かな心をもって接していただいたこと、
したが、すぐそばにはいつも笑顔とユーモアがあふれる
心より感謝しています。皆様のおかげで学生一同、今
素敵な場所でした。
までにないほど充実した実習を行うことができました。
ここで行われていた看護は、私たちが今まで学んでき
ここで得た経験を胸に、心をみることのできる看護師を
たものとは視点が少し違いました。症状をコントロールす
目指していこうと思います。
るための知識はもちろん必須です。でも知識云々ではな
(聖路加看護大学実習期間:7/7~7/25
く、生きること・死ぬことと真剣に向き合っている方とその
紺野恵,内藤加奈恵,松村奉子,宮田ゆりえ)
ご家族の、人生を、心を、思いを知る。このことがいかに
メモルの集い報告
メモルの集いは年に一度、在宅で看取りをされたご家族を招いて、故人を偲び、皆様の大切な方々のことを想うひと
時を持つ会です。また、同じように看取りをされた方々やパリアンのスタッフ、ボランティアとの交流を深めていただ
く機会となることも願っております。今年も 6 月 14 日にメモルの集いを 46 家族 55 名の出席者をお迎えして、無事に開
催することが出来ました。準備から携わったボランティアと、初めてメモルの集いに参加したスタッフに感想を語っていた
だきました。
メモルの集いを終えて.
.
.
ボランティア 間島 眞子
「ボランティアが中心になって開いてください」と依頼
のボランティアさんに「楽しかったです」と言ってくださっ
があった時には、内心『どうしよう!!』と思いましたが、お受
ているのを涙が出るほど嬉しく聞きました。本当に本当に
けしてしまったからにはヤルッキャナイ!と開き直りのよう
ありがとうございました。グッズの担当としても、多くの方
な心境でした。
のご協力があり、遺族へのプレゼントが予定より早く仕上
本当にお疲れさま、そして支えて方々に、ありがとうご
ざいましたとお礼申し上げます。
がり、ご遺族の方も喜んでくださったようで、嬉しく思って
おります。
グループ・パリアンの名のとおり、グループの“力”の
結果だったと思っております。終わった時には、ご遺族
来年へ繋げて、次回もより良い集いになることを期
待し、ご報告いたします。
の方々が先生と、またあちこちで看護師さんや顔見知り
ボランティア手作りのメモルの
集い記念品「ティッシュボックスカバー」
です!
参考 11
メモルの集いに参加して.
.
.
看護師 佐々木美登理
私は 4 月からパリアンの訪問看護師として働かせてい
ーブルの遺族の方から体験を語っていただくことで、会
ただいています。今回、メモルの集いに初めて出席させ
の終わりが近くなるころには、ほっとした表情になられた
ていただきました。当日までは、一度もお会いしたことの
のが印象的でした。
遺族の皆様が、「こちらの先生、看護師に看取りをして
いただいてよかった」と言われるのをお聞きし、パリアン
で働くことを誇りに思うのと同時に、私も皆様にいい看取
りができたと、思っていただけるような看護をしていきた
いと、新たに決意を持つことができました。
大切な方をなくされたことはとてもおつらいと思います。
ない遺族の方々と、お話することができるのか、おもてな
しができるのだろうかと、不安な気持ちでいっぱいでし
た。
しかし、会が始まり、遺族の皆様一人一人とお話をして
いるうちに、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
大事なご家族を看取った悲しみや苦しみをお聞きするこ
とができたのと同時に、お話することによって思い出とす
そのおつらい気持ちがいつかは癒えてくる。
そんな空間を持つことができれば・・・・と、考えていま
す。
ることができる、とても貴重なひとときであることを実感で
きました。
お話した方の中には、まだまだつらいお気持ちを抱え
ており、涙ぐむ場面もありました。しかし、その方も同じテ
MAD 坂下在宅ホスピス教育基金
4月下旬、坂下尚子さんと長女の方がパリアンにおい
た。いただいたご寄付は,在宅ホスピスケアに携わる、主
でくださり、尚子さんのご主人坂下正義氏ががんで亡くな
に看護職の教育研修のための基金として用いたいと思
られ、がんで苦しむ人たちのために、寄せられたご香典
います。正義氏はオーストラリアを愛し、晩年そこですご
を役に立てたいという希望をうかがいました。パリアンで
された由。オーストラリアで正義氏は MAD の愛称で呼ば
お世話をさせていただいたわけではないのに、在宅ホス
れていたそうです。正義氏が多くの方から愛され生きて
ピス協会会員の赤尾氏の紹介で、それを私たちの活動
こられたことを心に留め「MAD坂下在宅ホスピス教育基
を支えるためにご寄付下さることを伺い、驚くと共に大変
金」と名付けて、大切に使わせていただきたいと思って
感謝しました。
おります。ご遺族一人一人の上に、また生前、正義氏が
正義氏が、墨田区のしかも8年前まで川越医師が病院
長をしていた賛育会病院でお生まれになったとのこと、
愛された全ての方々に,豊かな慰めがありますようお祈り
申し上げます。
今回の一連のできごとは、偶然の中に必然性があったよ
うな気がしております。わたし達の活動をご理解いただ
いたことに深く感謝するとともに,責任の重さを痛感しまし
パリアン 新スタッフ紹介
【河原 徳子】 皆様、はじめまして。6 月 23 日より勤務しております河原と申します。思えば学生の時、初めて末期の患
者様を持たせて頂いてから、病院で死にゆく人々をお見送りしてきて、皆口々に“家に帰りたい”という言葉を聞き、でき
るものなら帰してあげたいと思いました。祖父を最期まで家で見送った時、そして訪問診療に同行して“やっぱり家はい
いなぁ”という言葉を聞き、その生き生きとした患者様の姿を目にして、“やっぱりこれが自然なんだ”と思いました。パリ
アンで働かせて頂けることになった時、私の中でずっとあたためてきた思いが現実のものとなり、とても嬉しく思いまし
た。川越先生、スタッフの皆様にご指導いただきながら、患者様のため頑張りたいと思います。どうか宜しくお願い致し
ます。
参考 12
第 16 号
2008年秋号
パリアンは医療・看護・ボランティア・心のケアのグル
ープで、在宅ホスピスケアを行っています。
パ リ ア ン 通 信
発行:グループ.パリアン 東京都墨田区緑 1-14-4 両国TY ビル 5 階TEL 03-5669-8302 FAX 03-5669-8310 http://www.pallium.co.jp/
*** パリアンの語源は、ラテン語の pallium から拝借しました。暖かくひとを包みこむマントやコートのことを意味します。***
目
次
パリアン医師より ・・・1
研修センターより ・・・4
全国ホスピス協会全国大会報告 ・・・2
ボランティア活動報告
お坊さんも人の子
・・・4
川越厚(パリアン理事長、クリニック川越・院長)
お坊さんも人の子。体の異常は気になるようである。
がかりはなかった。番所に届けるかどうかと思案してい
一見皮膚転移を思わせる多数の腫瘤を発見したや
たところ、ひょっこり住職は寺に戻ってきた。
ぶ医。転移にしては少し軟らかい。杞憂と思いつつも
高僧に尋ねた。
後日そのときのことをたずねると、「母をたずねて三
千里、いや 300 メートル」と平然としている。近所に出か
「いつ頃からあるのですか?」
けた夫人の帰りが遅くなったので心配して探しに行っ
高僧、愚問に答えて曰く「あんたの生まれる前からじ
た、というのが真実のようである。その折しみじみと曰く、
ゃ」と。
「人生を振り返って非常に不思議な気がする。女房に
そんなはずはないが、かなり以前からのようである。
転移ではない。
めぐり合って 40 年連れ添い、幸せだった」と。今まで感
謝の言葉を口にしたことも無い和尚だったので、連れ
「転移ではなく脂肪ですね。死亡でなくてよかった」と
合いのために「幸せでしたね」と繰り返すと、わざと額に
笑ってごまかすやぶに、涼しい顔で子曰く、「脂肪診断
皺を寄せて「しわよせでした」と笑っている。やはり手ご
ですな」と。手ごわい和尚である。
わい。
「先生の顔を見ると元気が出る」と言うので、「後光で
横になることがほとんどなくビールをがんがん飲んで、
も射しているのですかね」と自嘲気味に相槌を打った。
絶好調のときの話である。それでもやせてきた顔を気
僕よりも更に毛の無い頭部を撫でながら、「思わず手を
にしている。「顔がしまりましたね」と慰めると、「しまっ
合わせて拝んでいると、ビールを飲む元気が出ます」と
た!」と切り返す。体調が悪くなっても、いつも通りに病
にやり。ビールは美味しく、量は少ないが楽しみ。自分
気には負けていない。
で冷蔵庫の扉を開けるような、はしたないまねをしたこ
とはなかったが、今は中を物色するのが数少ない楽し
体重が 20Kg 減っても、身体が軽くなったと喜んでい
みとのこと。まこと、坊主にはビールがよく似合う。
る。
その和尚が花火大会の夜に失踪した。事件である。
のんびりものの妻ではあったが、このときばかりは大
元気だった愛すべき和尚さんも、三途の川をひとり
渡っていった。
慌て。息子家族を動員し、付近一帯を大捜索したが手
参考 13
「ビールがおいしくないので、近いのかな・・」
黄疸が増強し、尿も独特の濃い赤ワイン色を呈する
肝性脳症の症状が出現するようになって、つじつま
ようになったころの言葉である。それでも尿瓶で採った
の合わない話はますます面白くなった。どこまで本当
尿を見ながら、「恥ずかしいから尿が赤くなっている」と
か判らないが、とにかく最後まで賑やかであった。
笑っている。
第 11 回在宅ホスピス協会全国大会 in 松山 大会報告
10 月 10 日から 12 日にかけて、愛媛県松山市道後温泉郷にあるホテルにて「第 11 回在宅
ホスピス協会全国大会 in 松山」が開催されました。『在宅ホスピスにおける家族への支援』を
大会テーマに、基調講演をはじめ、「在宅で夫を看取った家族の体験報告」や 3 つの分科会
(Ⅰ.在宅で死に逝く人を看取る家族の抱える問題とケア Ⅱ.遺族ケア
Ⅲ.独居高齢者
世帯の在宅ケア)での討議、そして特別講演にアルフォンス・デーケン先生をお迎えした盛り
沢山の内容でした。パリアンからは、スタッフとボランティア合わせて総勢 15 名の、主催者の
次に多い大所帯での参加でした。
松山大会日記
ボランティア 岩田ゆり子
この大会に出席できたのは、今回で 2 回目 4 年ぶり
スが不成立となり、自由行動です。まず「坊ちゃん列
のことです。往路の空港での搭乗待合所の出来事で
車」で松山城へ行き、リフトで朝のすがすがしい空気を
す。修学旅行の男子生徒が、静かに椅子席ではない
たっぷり吸収して天守閣へ上り、四方を見渡しながら
床にしゃがんで並び搭乗開始を待っている姿勢に、と
往時を偲びました。帰りはロープウェイでゆっくりと坂
てもすがすがしさを感じさせられ、いい日旅立ちとなり
の上の雲ミュージアムを堪能した後、名物の五志喜そ
ました。そして、松山到着ロビーで一瞬すれ違った秋
うめんの昼食はほっとする時間となり、満腹まんぷくマ
川雅史さんが、この地のご出身と後で伺い納得しまし
ンプクです。
た。空港からはリムジンバスで道後温泉駅に着き、名
午後はそれぞれの分科会への参加です。私は遺族
所からくり時計を右にして、はいから商店街を抜けると
ケア(ビリーブメントケア)に参加しました。強く感じたこ
坂道です。そこはもう温泉街で、ゆかた姿の人に出会
とは亡くされた家族の関係 ― 両親、伴侶、親子、年
います。そこから数分歩くと右の奥の方に今日の宿、
齢、過ごした時間、環境 ― によって、その悲しみも
山の手ホテルが見えてようやく到着、そこにはシルク
大きく異なる。どのようにして経験の共有、支援体制の
ハットにフロックコート姿のホテルマンが大きな扉をひ
強化、コーピングスキルの強化をし、どんなふうに辛さ
らいて私たちを迎え入れて下さいました。その名のと
が理解されたと感じることが出来たのか?それが出来
おり、オールドイングランドで、お部屋の鍵も勿論クラ
た時、ある程度気持ちの整理がされ、そして気付き、コ
シックです。そのため皆、入室に四苦八苦、最新式の
ントロールされると、自助能力が賦活されてゆく、氷が
カードをスーとなぞるだけ?とは違う、重厚な趣がホテ
解けるのを待つような思いで……人は人によって癒さ
ル全体に漂っていました。
れると、このように感じながら時間は過ぎてしまいまし
<1 日目>ウェルカムパーティーに参加し、お会い
た。
する方々と談笑を交わしたり、懐かしい方にお会いで
2 日の最後は何といっても懇親会です。地区ごとの
きたりしました。その中の一人、元パリアンで活躍され
出し物では、私たち東京組の少年少女合唱団による
ていた看護師さんはお子様を抱いて、すっかり母親の
賛美歌に始まり、東京音頭、フラダンスと盛り沢山で拍
貫禄を自分のものにしており、お子様を大切に働く姿
手を頂きました。宴のラストは地元、プロのレクチャー
にはとても好感を覚え、良い時代になった!と思いま
で全員が輪になって阿波踊りをにぎやかに踊り、盛り
した。
上がって楽しくお開きとなりました。
<2日目>午前中は観光。私共が希望していたコー
<3 日目>山の手ホテルの朝食はとても優雅です。
参考 14
一人一人にきちんと配膳され、昨日とはちょっと違う趣
して、何を「持つ」かよりも、いかに「ある」か等を、ユー
に目先の変化があり、心のこもったサービスに、この地、
モアを交えながらお話になりました。
このホテルならでは?と感激でした。9 時からは分科
ユーモアと笑顔が果たす重要な役割として、
会のシンポジウム、その後は博美先生からの熱い心境
ユーモアは愛と思いやりの表現である
ユーモアとは「にもかかわらず」笑うことである
(ドイツの有名な定義)
の紹介で、アルフォンス・デーケン先生の特別講演
「響き合う心-家族とグリーフケア-」が始まりました。
<生と死を考える>では悲嘆のプロセスの 12 段階を
具体的に解説されて、「大きな苦しみを受けた人は、
恨むようになるか、優しくなるのかのどちらかである」と
と説いて講演を締めくくられました。
いうアメリカの著述家の言葉を紹介されました。<心の
機会がありましたら、また参加をしたいと感じた大会で
ケアのあり方>では苦しみの意義の探求として、問題
した。
と神秘の次元の区別、自己価値観の再評価と見直しと
坊ちゃん電車
松山城へ
初めて全国大会に参加して
からくり時計
理学療法士 吉野貴子
今回、在宅ホスピス協会全国大会に初めて参加した。
は本を読む気力もなかったが、家に帰って積極的に
まず驚いたのはウェルカムパーティーのにぎやかさだ
外出しようとかの意欲が出た」と語っていた。この言葉
った。参加者が都道府県別に挨拶をしたので、全国各
には、デーケン先生が講演で挙げていた「心のケアの
地から集まってきていることがとても実感できた。パー
あり方」の一つである、<家族への感謝の表明>があ
ティーの場はあまり得意なほうではなく、残念ながら個
り、また死は変えられないことであるが、変えられること
人的にはたくさんの交流は持てなかった。しかし、パリ
に力を入れている姿がある。この姿に、家族は「一緒
アンのメンバーとして挨拶をして、理学療法士が在宅
に過ごすことを楽しんでいた。最期まで何かをしようと
ホスピスケアのチームに携わっていることを、少しは知
していた夫・父であった」と受け止めることができ、「在
ってもらう機会になっていたら嬉しい。
宅で過ごした最後の9か月があったからこそ、立ち直り、
大会テーマである『在宅ホスピスにおける家族への
次に進む一歩が出た」という言葉につながったと思う。
支援』と非常に結びついていて感銘を受けたのが、
このご家族のように、悲嘆のプロセスの最終段階であ
「在宅で夫を看取った家族の体験報告」とアルフォン
る<立ち直り>に到達できるための支援であるグリー
ス・デーケン先生の特別講演「響きあうこころ~家族と
フケアが、遺族でなく家族のうちに始める予防医学で
グリーフケア~」であった。体験報告の中の VTR で、
あるということを、お二人の講演から深く学ぶことがで
ご主人のインタビューが流れた。その中で「家に帰っ
き、有意義な大会参加となった。
て家族が支えてくれているのが良く分かった。病院で
参考 15
松山空港にて 2008.10.12
研修センターより
~第 15 回ボランティア講座終了報告~
本年度 1 回目のボランティア講座が 9 月 13,20,27 日に無事に終了しました。
今回は 9 名の方にご参加いただき、そのうち 5 名の方がパリアンのボランティアに
登録していただきました。ボランティア講座を知ったきっかけの多くはホームペー
ジでの案内です。地域の方にも知っていただけるよう、今回より図書館に案内のチ
ラシを配布したところ、その甲斐あり、参加者の中には図書館で講座のことを知った
方がいらっしゃいました。これからも地域の皆さんにパリアンの活動を知っていただ
き、多くの方が活動にご参加いただけることを期待しています。
ボランティアグループパリアンより
☆ 亀戸教会バザー終了報告
9 月 15 日に亀戸教会バザーに出店しました。手作りの巾着・タオルクリップ・
アームカバーは大好評で見事完売致しました。売上金はボランティア活動費に充
てます。
☆ 元禄市(吉良祭)に出店します!
今年は 12 月 13 日(土)・14 日(日)の開催で、討ち入りの日(義士祭)と重な
りますので、にぎやかな市となると思います。ぜひ、パリアン出店にも足をお運
びください。
参考 16
第17 号
2009 年
冬
パリアンは医療・看護・ボランティア・心のケアのグル
パリアンは医療・看護・ボランティア・心のケアのグループ
ープで 在宅ホスピスケアを行っています
で、在宅ホスピスケアを行っています。
パ リ ア ン 通 信
発行:グループ.パリアン 東京都墨田区緑 1-14-4 両国TY ビル 5 階TEL 03-5669-8302 FAX 03-5669-8310 http://www.pallium.co.jp/
*** パリアンの語源は、ラテン語の pallium から拝借しました。暖かくひとを包みこむマントやコートのことを意味します。***
目
次
パリアン医師より ・・・1
新スタッフ紹介
医師も人の子
・・・4
ホスピスハワイ研修報告
ボランティア活動より
・・・2
・・・4
~ その 1 医師も誤って白バイを追い抜くことがあるのだ! ~
川越厚(パリアン理事長、クリニック川越・院長)
新年おめでとうございます。
一台の白バイがサイレンを鳴らしながら、遠く後ろの
さて、パリアン通信では「医師もひとの子」シリーズを
方からすごいスピードで近づいてきた。とにかく速い。
始めます。第一回は、白バイ警官とのバトル、そして反
前方の道端に止まったその白バイは、想像以上に大き
省の講習会についての報告です。
かった。一瞬逃走することも頭をかすめたが、姑息なこ
とをしなくて良かった。
二年前の初春の早朝、都営アパート 7 階で、一人暮
しゃくにさわるが、ブルーの制服を纏う白バイ警官は
らしの天野さんが亡くなった。第一発見者は、隣に住む
意外と格好良い。それが丁寧な言葉で尋問するのであ
主婦のけい子さん。いつものように様子を伺いに行っ
るから、感じ悪いことこの上なし。
たところ、冷たくなっていたとのこと。
「免許証を見せてください。43 キロオーバーです。」
ここは男の見せ所。愛車アテンザを駆って、僕は勇
躍天野亭に向かって家を飛び出した。
「急いでいたので。実は一人暮らしの患者さんが亡く
なったのです。」
日曜日の早朝ということが幸いし、いつもよりスムー
「自分は関係ないので、裁判所で言ってください。そ
ズに愛車は街を駆け抜けていった。ところが荒川を跨
れにしても白バイが前を走っていたことに気がつかな
ぐ船堀橋のたもとで、前方に 10 数台の車が二車線を完
かったのですかね?」
全にふさぐ形で、のろのろと行儀よく走行しているのを
「わかっていりゃ、抜くわけないでしょうが・・・」
発見した。暴走族がこのような走り方をするのを知って
白バイの先導で患者宅へ到着したが、周囲の拍手
いたので、僕は最後尾についてじっと追い抜くチャンス
はなかった。
を待った。
後日、いくばくかの科料と 90 日間の免許停止の通知
橋の中ほどで、好機到来。一気にアクセルを踏みこ
むとアテンザは心地よく反応し、そのまま暴走車(い
やがらせ車?)の間をすり抜けながらいつしか先頭に
躍り出ていた。
が届いた。予測したより重罪である。それでも、一日の
講習を受ければ罰は軽減されるという。もちろん、講習
を選択した。
善良な市民といえども、警察関係の建物に近づくこと
「マツダのアテンザをなめるんじゃないで!」
は嫌なものである。ましてや罪の償いに行くのであるか
愚かな暴走族に捨てゼリフを残しながら、ふとバック
らなおさらである。重い足を引きずりながら講習会に参
ミラーをのぞいた。やばい!
加した。
参考 17
あらためて罪人の集団を見渡した。どうも住む世界が
は抜かないようにしましょう。
違うようである。煙草をぷかぷかして、茶髪にラッパ服。
追:「在宅終末期患者苦痛緩和のため、医師の車を
それよりも、どう見ても僕が最年長。きっと、この爺さん
緊急車両に」(毎日新聞、09/1/13)。これまた遅すぎ
何をしたのだ、と軽蔑しているに違いない。不愉快であ
る。
る。
なお、文中の人名はすべて仮名である。
講義はつまらないが時折あててくるので、居眠りもで
きない。しかも、名前を呼ばないで番号で指名する。無
礼である。
43 キロオーバーの代償は大きかった。お金や時間よ
りも、人間としての尊厳が損なわれるようで、二度と同じ
間違いを起こすまいと固く誓った。裁判で争った方がよ
かったのかなとも思ったが後の祭り。皆様、白バイだけ
ホスピスハワイ研修報告
訪問看護パリアン 所長 染谷康子
昨年 10 月 19 日から 1 ヶ月間オアフ島にあるホスピス
ョンとヴィジョンであるということでした。ミッションは日本
ハワイで研修を受けてきました。ホスピスハワイはパリア
語にしたら、組織の使命とか目標という言葉に置き換え
ンと姉妹提携を結んでいる施設です。研修では、ホス
られ、ヴィジョンは未来への展望とか目標となります。組
ピスハワイのプレジデント(管理者)である看護師 Ken
織全体としてのミッション・使命感というのをスタッフの
Zeri 氏から管理研修として次の 5 つの課題を提示され、
皆が共有した上で、共通したヴィジョンに向かっていけ
講義を受けてきました。
るようにしていくことがとても大切です。パリアンのミッシ
ョンと言うのは、川越医師が今年改めて文章化された
1. リーダーシップ
「パリアンの理念・パリアンの目指すもの」(次頁参照)で
2. 多職種チームによるケア会議まとめる
述べてあります。パリアンの使命感は、地域の、末期の
3. スタッフへのコーチング(コミュニケーションの
癌の方たちが安心して自宅で過ごせることにあると思
方法論)
います。それがスタッフ一人一人も共通しているところ
4. 医師とのコミュニケーション
です。後は訪問看護の目標としては、一人一人が専門
5. 経営マネージメント
的な知識を持って、そういった看護に当たれること、貢
献できるということなども目標になります。また、ミッショ
ここでは、リーダーシップとコーチングについて学んだ
ンとヴィジョンというのは、それぞれの頭の中とか、心の
ことを報告します。まず、リーダーシップです。リーダー
中にあるものなので、そのままにしていると見えないも
シップはマネージメントと似ているようであるが違うもの
のです。きちんと言葉にして、自分ひとりだけではなく
であって、リーダーシップは人々に影響を与えて、皆に
て、皆にも分かるようにして伝えることがとても大切にな
分かるような共通の目標を立て、そこに皆が付いて来ら
ります。
れるようにし、そして引っ張っていくような役割がありま
次にコーチングについてです。スタッフとのコミュニケ
す。一方、マネージメントはリーダーシップがとれるよう
ーション、仕事とか何でも、コミュニケーションしていく
に(そういうことができるように)、具体的に方法やシステ
時に、何か指導とか指示をして、このようにして下さいと
ムを整えて、維持していくことです。そして、組織のリー
言うような形で動いてもらうのではなく、その人やスタッ
ダーシップをとっていくために、一番大切なことはミッシ
フ自身が成長・成功できるように、または期待を遂行で
参考 18
きるように、手助けをするようにコミュニケーションをとり、
という形で、起きて転んだりしてしまうかもしれない一人
働きかけていくことが、マネージャーとして大切であると
で置いておくのが難しい患者さんや、一人でいると不
いうことを学びました。
安が増してしまう患者さんに、見守りというか、お話し相
4 週間の研修で学んだことから、自分自身がパリアン
手をしています。患者さんがお話できなくても、そばに
で実践していきたいと思うことを最後に述べさせて頂き
一緒にいてあげて、手を握って擦ってあげたり、声をか
ます。所長としてのパリアンでのミッションとヴィジョンと
けてあげたり、お布団をかけなおしてあげたり、体の姿
いうのは、ミッションは先生方が持つ、持っているヴィジ
勢をちょっと直してあげたりとか、その方のそばに付き
ョンとかを分かりやすくスタッフに伝えていくこと、あとは
添ってあげる、共にいてあげるというような働きをされて
スタッフ一人一人が持っているやりがいとか目標、使命
いました。やはり、あちらでも清潔援助とかは基本的に
感と言うのを、日々の仕事の中で感じながら働いてもら
はナースエイドさんの仕事なので、そういった方のお手
えるような環境作りをして、パリアンに還元したいと感じ
伝いをすることはあるけれども、メインで入るようなこと
ています。
はないそうです。
最後に、ホスピスハワイでのボランティア活動につい
あちらでも、ボランティアの方はスタッフとチームとし
て報告します。活動の印象としては、パリアンのボラン
て、とてもよく機能していました。パリアンでもボランティ
ティアさんたちと同じような働きをしています。私が見学
アはチームの一員であるので、さらに協力してより良い
したのは訪問ボランティア 1 件でした。看護師さんも来
チームを組み、在宅ホスピスケアを提供したいと思いま
ていて、ナースエイドの方も入っていて、清潔ケアなど
す。
はナースエイドがしています。ボランティアさんは見守り
~ パリアンの目指すもの ~
~ 2009 年の目標 ~
パリアンは本年 6 月創立 10 周年を迎える。この
パリアンは、病、特にがんなどに
よって、近い将来死を迎える患者と
その家族に対して、主に患者の居宅
で医療、看護、その他の全人的なケ
アを提供する。
その目指すところは、患者と家族
が選択・決断した在宅での生と死が、
納得できる形で全うできるように、
チームで支援することにある。
記念すべき年にあたり、2009 年の努力目標を以下
のように定めたい。
1. 友好 Friendship
2. 他職種への敬意
Respect to Other Professionals
3. 一体となったチームケア
Integrated Team Approach
4. 各自の創意工夫 Creative Activity
5. 新しいことへのチャレンジ Challenge
6. 積極的な運営参加
Active Participation to Administration
参考 19
新スタッフ紹介
パリアン入職に際して
この度、昨年 12 月 1 日付でパリアンに医師として着任
しました田實です。川越先生をはじめパリアンスタッフの
皆さんと良き連携を保ち、信頼に満ちたチームケアを患
者さんとその御家族に提供していきたく願っています。
私は九州奄美の出身です。僻地医療に従事するため
の医師を養成する自治医科大学を卒業し、9 年間(内 5
年間は 2 か所の診療所勤務)無医村地域等で在宅医療・
医師 田實武弥
ビスを提供してまいりました。
パリアンは、がん患者さんとその御家族に質の高い継
続したホスピスケアを 24 時間・365 日間体制で提供できう
る素晴らしいグループと認識しております。私はそのよう
なところで共に学び、研鑽し、最適な医療・看護・福祉を
提供できる恵みに感謝しております。
宜しくお願い致します。
外来を中心に提供していました。その後、熊本のイエズ
スの聖心(みこころ)病院のホスピス病棟(22 床:5 年間)、
福岡の栄光病院のホスピス病棟(50 床:3 年間)でがん患
者さんとその御家族の為に入院・外来・在宅医療のサー
はじめまして...
ご縁あって 12 月から非常勤看護師として勤務してお
ります。生まれは栃木県足利市、4050kg で誕生し、現
在の身長152cm、足のサイズ 21.5cm と、大きく生まれて
小さく育ってしまったミニモニサイズの親泣かせです。
18 歳で千葉へ、その後は築地、甲府と住まいを移し、
現在は勝どきから通っております。我が家は、酉年乙
女座の従順な夫と、同じく酉年山羊座の無垢な長男を
寅年獅子座の恐妻(私)が追い回す、もとい、支えると
看護師 櫻井雅代
い築地の国立がんセンター中央病院に勤務しておりま
した。パリアンの理念に看護の本質を感じ、患者さんが
最も幸せに過ごせる在宅という場でホスピスケアに従事
したいと思い、門を叩いた次第です。臨床のブランクが
あり、気持ち新たに精進しておりますが、ご迷惑を掛け
っぱなしで反省の日々です。先輩看護師の皆さん、先
生方、ボランティアの皆様、末永くご指導ご鞭撻の程、
宜しくお願い致します。
いう暖かい家族構成です。
看護師としては、昨今、何かとマスコミを賑わして止まな
ボランティアグループパリアンより
サロンド・ド・パリアンのご案内
日時:毎週金曜日 午後 1 時~4 時 場所:パリアン 5 階
☆ 自宅で療養中の方やご家族の方々、また大切な人を失い、さま
ざまな悩みを抱えてお過ごしの方もあるかと思います。パリアンでは、
ほっとするひと時が持てるよう、お茶を飲みながら自由にお話をして
頂ける場、“サロン・ド・パリアン”を開いています。心のケア担当者と
ボランティアがお茶を入れて皆様をお待ちしております。
☆ 参加されたご遺族より、ご遺族同士で話ができて、とても良かっ
たとの感想がありました。
参考 20
【医療法人社団パリアン】
クリニック川越
〒130-0021 東京都墨田区緑 1-14-4 両国 TY ビル 3F
TEL:03-5669-8301 / FAX:03-5669-8303
訪問看護パリアン
療養通所介護事業所パリアン
在宅ホスピス・緩和ケア研修センター
ボランティアグループパリアン
〒130-0021 東京都墨田区緑 1-14-4 両国 TY ビル 5F
TEL:03-5669-8302 / FAX:03-5669-8310
HP : http://www.pallium.co.jp
e-mail :[email protected]