精研だより第3号 - 国立精神・神経センター

National Institute of Mental Health, NCNP
精研だより
題字:吉川武彦 名誉所長
2010 年 2 月 1 日発行 第 3 号
発行:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
〒187-8553
東京都小平市小川東町 4-1-1
Tel:042-341-2711
Fax:042-346-1944
所長室の窓から
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 所長
加我牧子
寅年の新年おめでとうございます。新しい年が実り多い年になりますよう心から願い、
皆様とともに新しい年にふさわしい精研を創りあげていきたいと思います。これまで以上
のご支援とご協力よろしくお願い致します。
国立精神・神経センターはこの 4 月、独立行政法人国立精神・神経医療研究センターと
して生まれ変わります。ある意味、未知の領域に踏み入るわけですが、国民のメンタルヘ
ルス向上のための研究を志高く継続し発展させる、という精研のミッションに変更はあり
ません。とはいえ制度の変革は後になって効いてきますので、適切な準備を行い、やりが
いのある研究を発展させられるよう考えていく必要もあります。
精研は国の精神保健計画に関わる方針についてシンクタンク機能を果たすことを求めら
れており、患者さんやご家族、そして国民全体の幸福に寄与するための研究を行い、臨床
現場、病院スタッフとの協力関係をより深め、吉川名誉所長の御寄稿(P4)も励みにし、
真の意味での臨床研究に貢献したいと思っています。
新年にはまず嬉しい話題をお届けします。昨年度の国内外の学会で精研の先生方が表彰
されました。喜びの表情と受賞内容については P4 をご覧ください。また 1 月 8 日には厚
生労働省永年勤続者表彰がコスモホールで行われ、長妻昭厚生労働大臣名で甲谷亨主幹が
30 年、和田清所長補佐/部長と金吉晴部長が 20 年の表彰を受けました(写真)。ご本人の
お仕事への献身やご努力と同時に、ご家族のご理解、ご協力にも敬意を表します。ちなみに
独法化の暁には理事長名で表彰されるそうですので、大臣名の表彰状は X 年後にはお宝に
なっているかもしれません!お三方、おめでとうございます。
自殺者数が毎年 3 万人を超える事態がもう 12 年も続いています。自殺の背景には社会
経済状況の関わりも大きく、対策も一筋縄ではいきませんが、個人個人のメンタルヘルス
の維持向上が自殺抑止に重要な役割を果たすことは言うまでもありません。自殺予防総合
対策センターではメンタルヘルスケア研究の専門家集団としてうつ病対策や、薬物など依
存症治療、自殺未遂者や自死ご遺族の精神的ケアを適切に実施できるよう研究を進めてい
ます。自殺予防対策の政策提言への貢献も大いに期待されており、スタッフ一同奮闘して
頂いています。
海堂尊さんの小説「ジェネラル・ルージュの凱旋」は昨年 3 月に映画が公開され、DVD
も発売されましたのでご覧になった方もあるかもしれません。小説は全編ハラハラどきど
きしながら医療現場の実感をもって楽しめますが、映画には小説には書かれてない場面が
取りあげられています。それはかっこいい救命救急センター長、速見晃一が、いまいち、
ぴりっとしない心療内科医
田口公子(小説では「田口公平」)に ER をたびたび受診する
自殺未遂者ケアを依頼する場面です。理由は頻回自殺未遂者である患者さんに田口医師が
寄り添って回復させ、感謝して退院された実績を評価してのことだったというのです。な
んて今日的な映像表現!と私は感動しました。フィクションがノンフィクションより現実
的であることを示し、自殺対策に現場の目線が欠かせないことをこの映画は教えてくれて
います。
厚生労働省永年勤続表彰式
(写真)左より、和田清薬物依存研究部長(20 年)、甲谷亨主幹(30 年)、加我牧子所長、
金吉晴成人精神保健部長(20 年)。
部門紹介 3
「社会復帰相談部」をたずねて
〜伊藤 順一郎部長に聞く〜
Q.社会復帰相談部では、どのような研究をしていますか。
A.
社会復帰相談部では、精神障害をもつ患者さんの社会復帰に関わる調査研究を行って
います。とくに、患者さんが地域でサポートを受けながら自力で生活できる精神保健医療
福祉システムの効果を明らかにして、その支援法や施策を提案しています。
調査研究の対象となる患者さんは統合失調症の方が多いのですが、引きこもりの方や摂
食障害の方など多岐にわたります。また、当事者である患者さんだけでなく、ご家族への
支援のありかた、行政と医療との連携のありかたも研究の対象としています。
Q.この 2 月にも精研で 7 回目の ACT 研修が行われます。ACT(アクト)とは、どのよう
なものですか。
A.
ACT とは、Assertive Community Treatment の略称で、精神科医、看護師、作業療
法士、精神保健福祉士など多くの専門スタッフがチームを組んで、重い精神障害をもつ人
の生活の場に出向き、医療的サポートから生活支援のサポートまで包括的な支援を展開し
ていくプログラムです。これは 1970 年代にアメリカで始まったもので、当時、アメリカ
の精神科医療は脱施設化が行われ、入院中心から地域生活中心へと大きく転換しようとし
ていました。
ACT の対象となる重症の患者さんというのは、これまでなら長期入院など、地域社会か
ら隔離されるのが当たり前と考えられていた人たちです。未治療または医療を中断した状
態で、地域社会から孤立している人たちもいます。
重症の患者さんは長期に入院しているだけではなかなか良くなりません。障害をもちな
がら自分の力で生きていけるようになるためには、むしろ生活の場である地域社会の中に
住まい、専門家である医療スタッフや生活支援のスタッフが彼らのもとへ出向いてサポー
トのための活動する(アウトリーチ)というスタンスをとったほうがよいことが科学的に
実証されているのです。
ACT には「リカバリー」(recovery;回復)という考え方があります。これは「精神疾
患からの回復」という枠を超えて、精神疾患を患ったために受けた差別や偏見の体験から
自由になるという意味や、その人の希望や生活をとりもどすというような意味を含みます。
このプロセスで大切なのは、障害を抱えながらもその人が本来望んでいたあり方を求め、
再チャレンジできるということです。ですから、
「病気だから我慢しましょう」ではなく「病
気を抱えていてもあなたがやりたいこと、送りたい人生の応援をしましょう」というのが
ACT の考え方です。近年は薬物療法が飛躍的に進歩しましたので、障害を抱えていても普
通の生活を送れる可能性がますます高くなっているのです。
また、これは日本独特の状況ですが、家族のなかに精神障害のある方がいると、家族が
すべて抱え込み、苦しんでいるケースが多いのです。家族に対するケアは、日本ではとて
も大切なことだと思います。
Q.これまでの体制を崩して新しいシステムをつくることになるかと思いますが、具体的
にどのようなところが変わっていくのでしょうか。
A.
まず、ACT を実践している国々では、ACT は入院治療より安価であることが証明さ
れています。加えて再入院率も少なく、患者さんたちが地域の中で継続して生活できよう
になっていくことがわかっています。ACT では「スタッフ 10 人に対し患者さん 100 人」
が標準です。日本の療養病棟は看護師 20 人に入院患者さんが 60 人程度で、長期入院の方
も多いわけですから、日本で ACT を実施した場合の経済効率は悪くないはずです。
ただ、現在 ACT を進めているアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、ニュージ
ーランド、フランスといった国では、精神科医療は公的な医療です。政府が方針を変えれ
ば国全体の医療が変わる。一方、日本の場合は、精神医療機関の 8 割が民間ですから、ど
んなに良い方針が打ち出されても、経営上成り立たなければ方向転換は難しくなります。
特に ACT では入院施設のある大きな建物はいらないので、すでにある建物をどうするかな
ど、政策をつくる側がビジョンを出していく必要があります。
もうひとつは、医療現場の変化です。ACT では、
「働きたい」
「結婚したい」といった本
人の希望がかなうよう支援していきます。そのためには、企業と連携したり、結婚や育児
のサポートを視野に入れるなど幅広いチーム作りが必要になります。ですから、これまで
の医師を頂点とした医療のヒエラルキーが変わっていくことは考えられます。
Q.今後の地域医療は、どのように展開していくのでしょうか。
A.
私たちが研究活動のフィールドとしているのは、研究所が以前にあった千葉県市川市
ですが、そこで研究事業として始めた ACT-J は現在 NPO の訪問看護ステーションとして
活動しています。ACT の研究活動と時期を同じくして、国立国際医療センター国府台病院
では、もともと 300 床ほどあった精神科病床を半減し、精神科救急、デイケアと訪問看護
に力を入れています。また、地域のほうでは ACT-J のほかにも、地元の NPO と研究部が
連携して、就労支援、相談支援、生活支援などの分野で障害者自立支援法も活用しながら
アウトリーチのできるサービスを作ってきました。サービスシステムが充実してくると、
そこに、入院中心ではない精神医療のありかたが見えてくるように思います。
ACT のモデルは全国で 12 カ所ほどあります。地域によってできることはそれぞれ違い
ますが、精神科医療を担うスタッフが「病棟」というお城から出て、
「今、自分たちが社会
でできることは何か」を考えつつ活動し、ある程度の収益をあげることができる、そうい
うモデルがあちこちにできるといいと思います。国立精神・神経センターにも独法化後に
「地域精神科モデル医療研究センター」をたち上げる準備を進めています。ACT や訪問サ
ービスの充実など、さまざまなサポートプログラムのモデルの実現を目指していきたいと
思っています。
(写真)
伊藤部長が監修した『統合失調症の人の気持ちがわかる本』
(講談社,2009)。地域精神保
健福祉機構(コンボ)で行った、本人とその家族へのアンケートをもとに書かれました。
わかってほしいのに心がすれ違ってお互いつらい思いをする・・そんな時の解決のヒント
がたくさん含まれています。
(写真)
ACT-J のスタッフ
社会復帰相談部のスタッフ(写真)
前列左より、吉田光爾室長、伊藤順一郎部長、瀬戸屋雄太郎室長、後列左より、佐藤さや
か協力研究員、英一也流動研究員、高原優美子流動研究員、前田恵子外来研究員
Idea -イデア精研の「研究」に期待すること
中部学院大学大学院教授 精神保健研究所名誉所長
吉川 武彦
「精研だより」の発刊を心からお喜びするとともに題字を書く光栄に浴したことを感謝
しています。それにしても、第1号を手にしたときは少々気恥ずかしい思いをしました。
それはさておき、いま現役で研究所に勤務されている方のどなたよりも長いこと精研に
関わってきたと思う私ですが、それだけに精研にかける「想い」には深いものがあります。
なにせ初代の所長から存じ上げている私ですから。その私が精研への「想い」の一端とし
て精研が行ってきた研究は何であったかを考えてみたいと思います。
研究所に勤務するものとしてはどなたも最先端の研究をしたいとお考えでしょう。精研
が目指してきたのは Bio-Psycho-Sociological な研究であると言われてきましたから、その
どの分野の研究であれ誰も手がけない研究をこころざしていると言ってもいいと思います。
ただ精研が目指してきたものはその結果をどのように市民に還元するかを考えてきたとこ
ろに特色があったように思います。つまりどの分野の研究であっても、その結果を研究者
間で共有するだけでなくつねに市民と共有できる研究をこころざしてきたころに特色があ
ったように思います。それは睡眠研究であれ精神障害者の地域生活支援に関する研究であ
れ、はたまた子育て支援に関する研究であれ自殺に関する研究であれ同じです。
精神保健医療福祉に関わる研究では痛みを背負うものとの共同歩調をとる研究でなけれ
ばなりません。医療観察法を契機に設置された研究部における研究も、精神障害という重
荷を背負いながらどう生きるかを悩む人たちとの共同歩調をとることが研究の質を高めま
す。こうした痛みを背負うものとの共同歩調をとる研究があってこそ質の高い国際的な研
究交流ができると信じます。これまでの「精研」の研究はそこに原点を置いてきたし、こ
れからの「精研」の研究もそこからぶれてはいけないように思うのです。
平成 21 年度
学会受賞者
西村 大樹(心身医学研究部流動研究員)
第 50 回日本心身医学会学術講演会
第 7 回池見賞受賞
神経性過食症に移行する神経性食欲不振症
-制限型の患者における心理的ならびに身体的特徴について
西村大樹、小牧元、安藤哲也、ほか
摂食障害の中でも、拒食症のうち食べる量を制限する型(AN-R)で発症した人は、経過
中に過食や嘔吐が出現し、過食症(BN)に変化しやすく治療が難しくなります。病型が変
化する可能性を早期に予想できれば治療上大変有用です。そこで、この病型変化に関連す
る要因について検討しました。その結果、AN-R から BN へと変化した人は、変化しない
人に比べ、もともと太りやすい傾向があり、親から批判されたと感じる経験が多く、目的
を達成するために自分の行動をコントロールしていく力が弱い傾向のあることが明らかに
なりました。これらの心理的特徴は、抑うつ気分とも関係していました。摂食障害の病型
移行に着眼した今回の結果は、臨床家に新たな視点を与えるものとなりました。
(文責:心身医学研究部長 小牧元)
権藤 元治(心身医学研究部協力研究員)
第 20 回世界心身医学会議(トリノ,イタリア)
Best Poster Award 受賞
不安で痛みが増幅する際の脳の反応と日常の
身体症状の訴えの関係-機能的 MRI 研究
権藤元治、守口義也、荒川裕美、佐藤典子、小牧元
肩こり、めまい、吐き気など、私たちは普段から様々な身体症状に悩まされていますが、
程度は個人差が大きいものです。 本研究は、日常の身体症状の訴えが強い群と弱い群に、
あらかじめ起こりうる不安(予期不安)を与えた後に痛み刺激をした時の脳の反応の違い
を fMRI(機能的磁気共鳴画像)を用いて検討しました。その結果、身体症状が強い人た
ちでは、予期不安を与えた際、情動を司る中枢である扁桃体の反応が大きく、痛み刺激を
与えた際には、情動や痛みの認知や評価に関わる前頭前野の反応が大きいことがわかりま
した。これにより、扁桃体や前頭葉などの脳の活動の違いと日常経験する身体症状の訴え
の程度の違いには関係があることがわかりました。本研究は身体症状の訴えに関する“心
身相関”の新たなる知見です。
(文責:心身医学研究部長 小牧元)
曽雌 崇弘(成人精神保健部流動研究員)
第 16 回日本時間生物学会学術大会
優秀ポスター発表賞
睡眠剥奪によるヒト短時間知覚の
変動と前頭前野の血流動態変動の関連
曽雌崇弘、栗山健一、有竹清夏、榎本みのり、肥田晶子、田村美由紀、金吉晴、三島和夫
時間の速度の知覚は、朝短く、夜長くなる約 24 時間周期の規則的な変動を示し、その結
果、午後は午前より時間を有効に使えます。しかし、恐怖を感じている時や、体調が悪い
時には時間速度の知覚は規則的な変動から外れます。徹夜後も規則的な変動が弱まります
が、これには前頭葉が関係することを、健康人の近赤外分光脳活動計測により明らかにし
ました。つまり睡眠をとった後に比べ、徹夜後は左前頭前野の活動が増加し、これに伴い
時間速度の知覚も長くなりました。ストレス環境下では、時間速度の知覚が規則的な変動
リズムより長くなることで適応しやすくなると考えられていますが、本研究により、左前
頭前野がこの適応向上に関っていることが示されました。
(文責:成人精神保健部室長
栗山健一)
栗山 健一(成人精神保健部室長)
第 34 回日本睡眠学会学術大会
第 14 回睡眠研究奨励賞
睡眠が作働記憶能力の向上を促進する
栗山健一、三島和夫、鈴木博之、有竹清夏、内山真
ヒトの脳は前頭葉が発達していることが特徴であり、その中心的な機能単位が作働記憶
です。作働記憶とは新しく覚えながら考える能力で、あらゆる高次認知に関与していると
考えられています。
本研究では 25 歳前後の健康成人に、作働記憶課題を 7〜10 時間の間隔をあけて繰り返
し 3 回学習させたところ、学習間に睡眠をはさんだ場合のみ作働記憶課題成績が著しく向
上することを確認しました。学習により作働記憶課題の成績が向上すると、知能(IQ)が
向上すると報告されており、知能発達や高次認知障害のリハビリテーションに睡眠が必須
であることを明らかにしました。
(栗山健一)
臨床と研究の架け橋 2
睡眠障害外来のめざすもの
精神生理部長
三島和夫
睡眠障害外来を本格的に開始して約 2 年が経ちました。おかげさまで好評をいただき、
新患予約枠も受付け開始日(前月 1 日)の午前中に満員御礼となります。現在は週 1、2
回の診察を行うのが精一杯のため、流動研究員の榎本みのりと協力して朝から診察を始め
ても終わるのは夕方 6 時過ぎで、医事課や看護師の皆さんにご迷惑をかけています。開業
医であれば嬉しい悲鳴といったところですが、研究業務との両立となると別の悲鳴が出る
こともあります。
睡眠障害というと、不眠症が一般的なイメージでしょうが、睡眠障害は約 100 種類にも
区別されています。当外来の受診者でも不眠症は全体の 1 割程度で、過眠症、睡眠時無呼
吸、ムズムズ脚症候群、レム睡眠行動障害、睡眠時遊行症など診断内訳は多種多様です。
不眠や過眠を訴えて受診されるうつ病や不安障害の方も少なくありません。睡眠薬はその
60%が一般科で処方されますが、誤診も多いと推測されることから、簡便な診断法や治療
法の開発と普及による睡眠医療の向上が課題です。
精神生理部は、このような多様な睡眠障害の疫学・病因論から治療法の開発まで幅広く
研究を行っており、基礎から臨床への橋渡し研究の実践の場として睡眠障害外来を大事に
育ててゆくつもりです。2 月には、睡眠医療専門医である亀井雄一先生が国府台病院から
病院検査部医長として異動していただけることになり、今後より充実した診療体制を組め
そうです。
睡眠医療のニーズは高く、今後も患者数は大幅に伸びると予測されます。睡眠医療セン
ターの設立をめざし、病院経営にも貢献できる診療科の 1 つとして発展させたいと考えて
います。新病院には睡眠脳波モニター室が 4 室は設置される予定で、診療はもちろんのこ
と、今後登場予定の睡眠薬、覚醒刺激薬、睡眠時運動障害治療薬等の治験も推進するつも
りです。睡眠医療にご興味のある方、共同研究のアイデアのある方からのご提案を歓迎し
ます。
新任紹介
嶋根 卓也
薬物依存研究部 研究員
昨年 11 月に薬物依存研究部の研究員に着任しました。精研には平成 18 年度より協力研究
員として、20 年度より流動研究員としてお世話になって参りましたのであまりフレッシュ
とは言えない新人です。薬物依存というと、ここしばらく芸能人の事件が続いており社会
的な関心も高まっています。しかし、薬物問題は「犯罪」として捉えられる傾向が強く、「精
神障害」あるいは「医療モデル」として捉えられることが少ない現状です。微力ではあります
が、研究を通じて薬物依存症の予防・治療・ケアに貢献できるような仕事ができればと思
います。どうかよろしくお願いします。
(1)出身地:埼玉県 (2)ペットを飼うならイヌとネコどちら?:ネコではない(猫ア
レルギーのため)
(3)けさの朝食:サンドイッチ(4)休日は何をして過ごしますか?:友
人と過ごす(5)子どものころ憧れていた職業:科学者(白衣を着て実験をする人)
(6)好きな場所をおしえてください:自宅、森、山
Information
第 2 回発達障害精神医療研修報告(2009 年 10 月 28 日〜30 日)
発達障害者支援事業の一環として、本研修は昨年から開始されました。これは、一般精
神科や精神保健の現場で、発達障害を持ちながら未診断のまま成人した方の精神医学的な
問題に苦慮している実態を踏まえて、対応を学ぶためのものです。
うつや不安などの合併症状を主訴とする発達障害の方々に、より充実した医療を提供す
るために、最新の研究知見を踏まえた診断や治療のあり方、他機関との連携も含めた医療
のあり方について、知識と理解を深めることを目的としています。
第 2 回目となる今年度の研修は、国立がんセンターキャンパス内の国際研究交流会館で
開催しました。国・公立精神科病院や大学病院精神科、精神保健福祉センターなど地域の
中核機関に勤務する精神科医 48 名に参加いただきました。
課程内容は、昨年度の 2 日間のプログラムに加え、広島市精神保健福祉センターの衣笠
隆幸所長からは鑑別診断について、東京大学医学部精神神経科の山末英典准教授からは脳
画像研究について、浜松医科大学子どものこころの発達研究センターの土屋賢治先生から
は疫学研究について、それぞれご講義いただき、期間は 3 日間に延長しました。
また、鑑別診断と処遇に関するワークショップを行い、受講者から活発な意見や質疑が
出されました。臨床現場で生じている諸問題を扱いながら、より多角的で新しい知見を得
られ、密度の濃い有意義な研修を提供できました。我々も受講者の熱意と問題意識の高さ
を感じることによって、今後の研修をさらに充実したより良いものにしたいという意欲を
新たにしました。
(児童・思春期精神保健部長
神尾陽子)
薬物依存症に対する認知行動療法ワークショップを終えて(2009 年 10 月 20 日〜23 日)
昨年末、薬物依存研究部は「薬物依存症に対する認知行動療法ワークショップ」を主催
しました。これは、私どもが米国の Matrix Institute で行われている統合的外来覚せい剤
依存症治療プログラム Matrix Model を参考にして開発した、ワークブックとマニュアル
にもとづく認知行動療法治療プログラムの普及を目的とした研修会です。
このプログラムは、2006 年より神奈川県立精神医療センターせりがや病院において、私
が小林桜児先生(現在国立精神・神経センター病院勤務)とともに SMARPP(Serigaya
Methamphetamine Relapse Prevention Program)と銘打って開始したもので、現在、全
国 13 ヶ所の精神科医療機関や司法関連機関に拡大して実施されています。
今回のワークショップは定員 30 名として公募しましたが、希望者が殺到し、多くの方に
お断りせざるを得ませんでした。参加者は、精神科医、臨床心理士、精神保健福祉士、看
護師と多岐におよび、いずれも、レクチャー、プログラムセッションのビデオ学習、デモ
セッションに熱心に取り組んでくれました。さらに、
「自分たちの施設でもやりたい」とい
う声も多くあり、十分な成果を上げられたと感じています。
わが国の精神科医療従事者は、薬物依存症患者を忌避し、あるいはこの問題を否認し、
もっぱら中毒性精神病の治療だけに終始してきました。しかし、我々のワークブックとマ
ニュアルにもとづく認知行動療法治療プログラムが普及すれば、わが国における薬物問題
の低減に貢献するのはもちろんのこと、薬物療法に偏ったわが国の精神科医療、さらには、
統合失調症やうつ病といった疾患モデルに偏ったわが国の精神保健の引き出しを増やし、
より豊かなものへと発展する触媒になると信じています。
(薬物依存研究部室長
松本俊彦)
精神保健研究所組織(図)
編集後記
“1 日1歩、3日で3歩、3歩進んで2歩下がる 〜♪” 思えば21世紀が明けたあのミレ
ニアムから10年。私も3歩くらいは歩けたのでしょうか。国立精神・神経センターは4
月から独立行政法人となり新しい時代を迎えます。そんな変化の折り、この『精研だより』
の吉川先生の原稿のなかに「市民と共有できる研究」
「痛みを背負うものとの共同歩調」と
いう言葉をみつけ、こころ暖まる力強いものを感じました。
「精研の、変わらない何か」の
存在を、一介の事務職ながら折にふれ感じるこの頃です。(S)