森林セラピーの生理的効果 ・全国24箇所の森林セラピー実から一

日衛誌(Jpn.」.Hyg.)第62巻第2号2007年3月
森林医学研究会企画シンポジウム 4
森林セラピーの生理的効果一全国24箇所の森林セラピー実験から一
朴 範鎭1)、平野 秀樹2)、香川 隆英荏)、宮崎 良文1)
(蓬)(独)森林総合研究所、2)環境省)
1.はじめに
現代のストレス社会において、森林浴がもたらす生理的リラックス効果に国民の関
心や期待が高まっているが、森林浴の生理的効果に関するデータの蓄積は極めて少な
い。しかし、最近、人の状態の評価法の確立が進み、森林セラピー等の自然由来の快
適性増進効果を脳活動、自律神経活動、ストレスホルモン、免疫能等を用いて明らか
にできるようになってきた。そのため、林野庁は2005年に「森林セラピー基地構想」を
発表した(饒tp://㎜v.riRgyou.or.jp/mori−therapy/;http://forest一捷erapy.jp/)1)。
本構想では、森林セラピー基地候補地において生理実験を行い、その森がもっ「森林
セラピー効果」を明らかにした上で基地としての認定を行うこととした。本構想は森
林がもたらすリラックス効果の生理的データを明らかにするとともに、全国市町村等
の活性化を含めた日本の森林全体の利用促進に寄与するものと期待されている。本稿
では、これまでに蓄積した森林セラピー実験データの一端を紹介する。
2.森林セラピー基地における生理実験
2005年度から2006年度にかけて、24箇所の森林で生理実験を終了しているが、ここで
は、2005年度に終了した6カ所のデータを示す。
1)山形県小国町における実験2)・3)
森林浴実験はブナを中心とする落葉広葉樹林である山形県小国町の温身平(写真1−1)
で行い、対照としての都市部実験はJR新潟駅の周辺(写真1−2)にて同じ実験スケジュ
ールで行った。圭2名の被験者は6名ずつ2つの群に分けられ、1罠目はそれぞれ森林部
あるいは都市部の被験者となり、2日目は互いに交代した。測定は1目6回行った。1
回目は朝食前にホテルの会議室で行い、その後、森林群と都市群に分かれて車にて移動
した。2、3回目の測定は15分問の歩行実験(午前)の前後に、4、5回目の測定は座観実
験(午後)の前後に行った。6回目はホテルに戻った後、夕食前に行った。ただし、RRV
は6回の測定以外に15分閥の歩行時ならびに15分間の座観時においても継続的に測定
した。また、歩行と座観実験は集団ではなく、一人ずっ実施した。以下の他の森林セラ
ピー基地実験においても同様に実施した。
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写真14森における歩行風景(森林セラピー実験) 写真1−2都市における歩行風景(対照実験)
小国町における森林セラピー時の唾液中コルチゾール濃度の測定結果を図1に示す。
コルチゾール濃度には森林部、都市部ともに朝が高く、夕方に低いという明確な日内変
動が認められた。なお、朝夕を除き全体的に森林部において都市部よりもコルチゾール
濃度が低く推移しており、歩行前、歩行像、座観後においてそれぞれ有意差が認められ
た。また、副交感神経活動は高まること、交感神経活動は低下することが明らかとなっ
た。
1.2
く》森林
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01,0
3
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季
o,o
朝 歩行前 歩行後 座観前 座観後 タ方
図1唾液中コルチゾール濃度の低下
2)宮崎県日之影町における実験4)
臼之影町(モミジ、シイ、カシ等の照葉樹林)における森林セラピー時の脈拍数、収縮
期血圧、r/(LF+封F)の結果を図2に示す。脈拍数は、森林部の歩行後ならびに座観前
後において都市部に比べ有意に低下し(図餅王)、収縮期血圧も森林部の歩行前後ならび
に座観後において有意差が認められた(図2−2)。また、交感神経活動の指標である
LF/(LF+HF)についても座観前ならびに座観後5、8、13分頃に有意に低下していた(図
2−3)。つまり、上記、3指標の結果から森林セラピーによって交感神経活動が抑制され
ることがわかった。
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歩行前
歩行前 歩行後 座観前 座観後
歩行後 座観前 座観後
園2−2収縮期血圧の低下
図2−1脈拍数の低下
金 舎
1.0
森林 都市
0.9
㌔ ネ
0.8
騨〉・ ⊥圭 轄
HR賦L
O.6
0.5
0.4
0.3
02 ←一一一一一 一一一一一一一一一牽
座観前 座観 座観後
3)長野県佐久市における実験4〉 図鵠LF/(LF甫F)の低下
カラマツ人工林における森林セラピー実験でも、座観前後におけるコルチゾール濃度
ならびに座観後における拡張期血圧と脈拍数に有意な低下が認められた。
4)岩手県岩泉町における実験4)
シラカバ、ブナ林における森林セラピー実験でも、即が座観1、7、8分後に有意に
高まっており、副交感神経活動の昂進が認められ、生体がリラックスしていることがわ
かった。
5)高知県四万十川上流域における実験5)
高知県四万十川上流域(ブナ、モミ、ツガの針広混交林)におけるセラピー実験では、
唾液中コルチゾール濃度が低下すること、ならびにストレッサーによって短期的には高
まることが知られている唾液中分泌型免疫グロブリンAの濃度が低下することが明ら
かになった。
6)長野県上松町における実験6)
300年生のヒノキの天然林における森林セラピー実験では、副交感神経活動は高まる
こと、交感神経活動は低下すること、コルチゾール濃度が低下すること、ならびに免疫
グロブリンAの濃度も低下することが認められた。
結論として、森林セラピーによって血圧の低下、脈拍数の減少、交感神経活動の抑制、
副交感神経活動の昆進、ストレスホルモン濃度の低下等が認められ、生体が生理的にリ
ラックスすることが明らかとなった。
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3.おわりに
現在、林野庁が推進している森林セラピー基地構想の後押しを受け、2005、2006年度
で24箇所の森林セラピー生理実験を実施し、森林セラピーによって生体が生理的にリラ
ックスすることがわかった。なお、2005年度からの5年間で50箇所の生理実験を実施す
る予定であり、森林セラピーに関する生理的データが蓄積されっつある。今日のストレ
ス社会において、森林がもたらすリラックス効果は、ますます、その重要性を増すもの
と思われる。
(引用文献)
1)森本兼嚢、宮崎良文、平野秀樹(編).森林医学.朝倉書店.2006.
2)朴範鎭他.森林浴の生理的効果(2)一1)HRVを指標として一.目本生理人類学会誌圭0(2)
32−33 2005.
3)恒次祐子他.森林浴の生理的効果(2)一2)唾液中コルチゾールならびに分泌型免疫グロ
ブリンAを指標として一.日本生理人類学会誌10(2)34−352005.
4)宮崎良文他.森林浴の生理的効果(3)一コルチゾール、血圧、脈拍数、心拍変動性を指標
として一.臼本生理人類学会誌H(工)154−1552006、
5)朴範鎭他.生理指標を用いた森林浴の評価(2)一唾液中コルチゾールならびに分泌型免疫
グロブリンAを指標として一.第57回森林学会関東支部大会発表論文集37−382006a.
6)朴範鎭他 生理指標を用いた森林浴の評価(1)一1)HRV(心拍変動性)を指標として一.第
57回森林学会関東支部大会発表論文集33−342006b.
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