日本の小学校に学ぶ中国ルーツの児童の日本語能力の評価

世界日本語教育研究大会 2011 於:天津外国語大学 <ワークショップ4> 「日本語と母語の習得研究 −日本の公立小学校に学ぶ中国ルーツの児童の言語能力—」 研究の目的と概要 真嶋潤子 理論的背景 中島和子 日本語能力の評価 真嶋潤子・上出仁美 中国語版の開発 櫻井千穂・ウリガ 中国語能力の評価 孫成志 言語環境調査 友沢昭江 *****************************************
日本の小学校に学ぶ中国ルーツの児童の 日本語能力の評価 Japanese Language Assessment of Chinese-Japanese Children in a Japanese Public School 大阪大学 真嶋潤子 [email protected] 大阪府八尾市立小学校 上出仁美 [email protected] キーワード:日本語、公立小学校、中国ルーツ、言語能力評価、B-DRA-J 読書力テス
ト 1.はじめに 本稿では、日本の公立小学校に学ぶ中国ルーツの児童(調査時 3 年生)の日本語能力の評価につ
いて報告する。研究目的と調査概要は、真嶋(本書所収)を、理論的背景は中島(本書所収)、評
価ツールの開発については中島・櫻井(2011)を参照されたい。 2.調査手順 次の(1)(2)(3) の順で、1人 30 分を目安にインタビュー形式で行い録音し、文字化して分析し
た。 (1)OBC 会話テスト【導入会話:自分や家族について→口頭語彙テスト全 55 問→基礎タスク:
絵カードを見ながら一日の生活を述べる→認知タスク:「公害カード」を見て環境問題に関して話
す】(2)聴解タスク【物語の読み聞かせをし、内容の理解度を問う】(3)読書力テスト B-DRA-J 【テキストの選択→予測→音読→再話 →内容理解→読書習慣(読書の量と質と嗜好傾向】 3.結果の概要 テストの結果、表1に示すように、9 名の児童の CF(会話の流暢度)は、OBC 会話テストの結果
が全て「ステージ 4」(対話がスムーズ)(中島 2010, p.363)で、語彙テストは全員 83%以上を
正答し、うち 5 名は 90%以上であったので、基本語彙もほぼ獲得済みで日常会話にも支障がない
レベルであると判断できる。音読も、拾い読みの段階ではすでになく、単語レベル以上で読めてい
る。 しかし、B-DRA-J 読書力テストでは学年相当(G3)のテキストを読んだ5名のうち、B 判定(で
きる)は1名、C が 4 名。語彙・漢字が難しく、自らレベルを1つ下げた 2 年生用のテキストで、
B 判定は1名、あとは C 判定(または判定不能)であった。 この 9 名については、カミンズ(2001)の言う CF と DLS(弁別的言語能力)は、学年相当に獲
得済みであると評価できるが、ALP(教科学習言語能力)の面、特に認知タスクは不十分である。
全体に、一人で談話を構成して説明する力は十分身についておらず、テスターに尋ねられたことに
のみ、単語または単文で答えることが多く、発信力に課題があると言えそうである。 この調査を経て、教育現場で子どもたちを指導する小学校教員が、このツールを使って、子ども
たちの達成感と動機づけにプラスになる「教育的評価」を行うことができる可能性、すなわち評価
法の利用可能性と教員研修の可能性が示されたことにも意義があると考えられる。 表 1 日本語の会話力と読書力テストの結果(抜粋) 児童番号 C301 C302 来日時期 日本生ま 日本生ま 日本生ま 日本生ま 日本生ま 日本生ま 5 歳来日 日本生ま 3 歳来日 れ れ れ れ れ れ れ OBC 評価 (6 段階) 4 4 C303 4 C304 4 C305 4 C306 4 C307 4 + C308 4 C309 4 認知タスク 説明可 説明可 理由不可 説明不可 説明理由 概念不可 説明意見 説明意見 説明理由
不可 不可 意見不可 理由可 可 語彙 (%) 92.7 90.9 90.9 85.7 96.4 85.7 92.9 83.6 85.5 音読速度
(MPM) 291 265.3 275 252 233.7 381.9 188.7 211.6 247.8 B-DRA-J
(text と 評価(4 段
階) G2-B G2-C G3-C G2-C G3-C G3-C (?) G3-B G3-C G2-C (?) B/C B/C B/C C/C B-C/B B/B 不明/C B-C/C 理解力/再話 B/B 力 <引用文献> 中島和子・櫻井千穂(2011)「言語的マイノリティ児童生徒のためのバイリンガル読書力評価ツール
(B-DRA)の開発」『2011 年度日本語教育学会春季大会予稿集』日本語教育学会,pp.117-122 中島和子(2010)『マルチリンガル教育への招待』 ひつじ書房 (1489 字)