様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 23 年 3 月 31 日現在 機関番号:17301 研究種目:若手研究(B) 研究期間: 2009 ~ 2010 課題番号:21790019 研究課題名(和文) Conia-ene 型環化を鍵とする新規有機合成戦略の確立 研究課題名(英文) Development of new synthetic methodology based on Conia-ene type cyclization 研究代表者 高橋 圭介( Keisuke Takahashi 長崎大学・医歯薬学総合研究科・助教 研究者番号:60380854 ) 研究成果の概要(和文) : オームラリドの全合成に関しては、研究計画に掲げた合成計画に従い、Conia-ene環化の基質と なるアミド体を合成し、トルエン中、触媒量のIn(OTf)3とともに加熱したところ、基質の光学純 度を完全に保ったまま、望む環化体を得ることに成功した。このもののオゾン酸化とそれに続く NaBH4による還元的後処理により、水酸基が導入された水酸基を導入し、シリル化、エステルの 還元を経て鍵中間体の合成に成功した。一方、シナトリンに関しては、光学活性な (S)-but-3-yne-1,2-diolの1位ベンジル化体のO-H挿入によるマロン酸単位の導入により得られ る基質に対して、トルエン中、触媒量のIn(OTf)3とともに加熱したところ、ほぼ定量的に所望の 環化体が得られた。続くジヒドロキシル化とラクトン化により連続する4級中心を立体選択的に 構築し、メチルエステルの藤澤還元、アセトニド化、ラクトンのDIBAL還元により、ラクトール 体をエピマー混合物として得た。このものに、1-bromoundecaneより調製したリンイリドとの Wittig 反応を行い、アルキル長鎖を導入した。一級水酸基を酸化後、メチルエステルへと変換し 、オレフィン部の接触還元、脱アセトニド化、酸化、エステル化を経て、シナトリンの全炭素骨 格を有する鍵中間体に到達した。現在、THF環の酸化によるγラクトンの合成と脱保護を検討中 である。又、今後はシナトリンC3及びC1の全合成を達成した後、スピロラクトン構築法を検討 後、シナトリンA、シナトリンBの合成も検討する計画である。 研究成果の概要(英文) : The key intermediate for the synthesis of omuralide was obtained via conia-ene cyclization followed by ozonolysis ,reduction with NaBH4, silylation, and stereoselective reduction of geminal esters. Synthetic study on cinatrin C1 was investigated starting from 1-benzyl oxy-(S)-but-3-yne-2-ol. O-H insertion by dizazo malonic ester and following Conia-ene reaction gave Key THF ring intermediate. Dihydroxylation followed by lactone formation, stereoselective reduction of geminal ester, DIBAL reduction and Wittig reaction gave crutial crucial intermediate. Formation of lactone ring by oxidation of THF ring is under investigation. 交付決定額 (金額単位:円) 21 年度 22 年度 総 計 研究分野:医歯薬学 直接経費 1.600.000 1.700.000 3.300.000 間接経費 480.000 510.000 990.000 合 計 2080.000 2210.000 4290.000 科研費の分科・細目: 薬学・化学系薬学 キーワード: Conia-ene, In(OTf)3, シナトリン、オームラリド, 全合成 1. 研究開始当初の背景 21 世紀の今日、科学技術、社会の高度化に伴 い、医薬、農薬、機能性材料等の研究開発に おける中核的役割を担う有機合成化学とい う「ものづくり」に関して一層の効率性、多 様性が求められている。 申請者は、最近、プロテアソーム阻害活性天 然物サリノスポラミドA (salinosporamide A)の 合成研究の途上で、アルケニルヨージド1のパ ラジウム触媒下の環化に基づく2への新規ラ クタム合成について検討していたが、2は生成 するものの、系中で直ちに3へと異性化すると いう問題点に直面した。そこで、合成戦略を 変更し、アミド4のConia-ene環化を新たに検討 し た 。 そ の 結 果 、 Au(I) を 触 媒 と す る 方 法 (Toste, F. D. et al., J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 4526.) では目的とする2はほとんど得られな かったが、触媒にIn(OTf)3を用いる条件で、5 が4のエナンチオマー純度をほぼ保持したま ま高収率で生成することを見出した。この様 にして得た5からサリノスポラミドAの全合 成を達成した (第49回天然有機化合物討論会 講演要旨集p133、Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 6244-6246.)。上記In(OTf)3触媒下の環化反 応は、最近中村らによって発表された1,3-ジカ ルボニル化合物のアルキンを用いるアルケニ ル化反応 (Nakamura, E. et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 5264)を参考に発案したものでり、 これまでに全く前例のない新規なラクタム合 成法である。そこで、申請者らは、本環化反 応を精査し発展させることによって、適用範 囲の広い新たな複素環状化合物の効率的合成 法が開発できるものと期待し、本研究の着想 に至った。 O O O MeO PMBN OBnPd(OAc)2, PPh3 OMe I K2CO3 O MeO PMBN OMe Method A OAc AuCl(PPh3) (5 mol%), AgOTf (5 mol%) DCM, 24h Method B In(OTf)3 (5 mol%) toluene, 110 °C, 20 min O 4 O OMe isomerization O 94% ee. O MeO PMBN O MeO PMBN OMe Me O 3 2 OBn not obtained O 1 O O MeO PMBN O OBn H O OMe O OAc 5 Method A; trace Method B; 96%, 90% ee. HO HN O O Cl salinosporamide A 2.研究の目的 今日、有機合成化学界は既存の反応の組み合 わせでは対処しきれない効率性の向上、環境 負荷の軽減等といった課題に直面している。 本研究は、不活性な炭素-炭素多重結合を反応 点とし、触媒量の金属によって引き起こされ る新規な結合形成反応に可能性を求め、反応 の高度化を通して実用レベルまで発展させ、 さらに申請者が専門とする天然物合成に積 極的に応用する事により、既存の有機反応の 組み合わせでは成し得ない高度な分子骨格 の構築を可能とする新規な有機合成戦略、方 法論の確立を目指すものである。 O R1 Y X O R1 In(OTf)3 R2 Y X R2 R3 n n X= NR, O, S Y = O, RH, H2 O O O OTf In R1 OTf X O R2 R3 Y R3 O O NH O CO2H OH O HO HO CO2H cinatrin C1 O omuralide 3.研究の方法 申請者がサリノスポラミド A の全合成研究 の途上で見出した In(OTf)3 を用いる Conia-ene 型環化に関して、新たな適用範囲、活用法、 について検討する。即ち、プロテアソーム阻 害活性天然物オームラリドとホスホリパー ゼ A2 阻害活性天然物シナトリン C1 を合成標 的とする全合成研究を行い、本反応を積極的 に活用することで新たな方法論に則った合 成戦略の確立を目指す。これらの天然物は何 れも構造、生物活性の両面から、魅力的な合 成ターゲットとなっている。 4.研究成果 オームラリドの合成研究: 光学活性なカルボン酸 1 より導いたアミド 2 とトルエン溶媒中、40 分加熱還流すると、3 が定量的に、光学純度を損なう事なく得られ た。このものをオゾン酸化に付し、NaBH4 を 用いる後処理によりアルコール 4 をジアステ レオマーとともに得た。シリル化を行った後、 ジェミナルエステルの立体的環境の相違を 利用して選択的に還元を行い、6 を得た。今 後、一級水酸基の酸化、グリニャール反応、 オレフィンの還元、シリル基の助教をβラク トンの形成を経てオーブラリドに導く計画 である。 (研究代表者、研究分担者及び連携研究者に は下線) O 1) Jones 2) (COCl)2, DCM OH 3) MeO2C CO2Me DCN, NHPMB aq. NaHCO3 55% 1 O O DCM CO2Me MeO2C 3 (99% ee.) TMSOTf luti NPMB TMSO MeO2C 4 NaBH4 NPMB TMSO MeO2C 37% CO2Me otal synthesis of biologically active alkaloi 5 O 3) H2, Pd/C 4) TFA, H2O 5) LiOH 1) Dess-Martin MgBr OH 1. Indium-catalyzed Conia-ene reaction and t NPMB 79% CO2Me O MeOH, THF 〔雑誌論文〕(計 9) O O HO MeO2C 37% CO2Me NPMB tol, ↑↓ quant. then MeOH, NaBH4 NPMB CO2Me O O -78n °C In(OTf)3 2 O O3 PMBCO2Me N CO2Me 2) ds. K. Takahashi, S. Hatakeyama, J. Synt NH OH O 6) BOPCl 7) CAN h. Org. Chem. Jpn., 2010, 68, 951-961. O 6 omuralide 2. Synthesis and preliminary biological evalu ation of 20-epi-eldecalcitol [20-epi-1α,25-d シナトリンの合成研究: ihydroxy-2β-(3-hydroxypropoxy)vitamin D 光学的に純粋なアルコール 7 を O-H 挿入反応 3: 20-epi-ED-71]. S. Hatakeyama, M. Yos により 8 へと変換後、Conia-ene 環化により 9 hino, K. Eto, K. Takahashi, J. Ishihara, Y. とした。9 のジヒドロキシル化は反応系中で Ono, H. Saito, N. Kubodera, J. Steroid 10 のラクトン化を伴い、所望のジアステレオ マー11 を主生成物として与えた。メチルエス Bio. Mol. Bio. 2010, 121, 25-28. 3. Synthetic study on clutiolide based on a テルを還元後、ジオール部分をアセトニド化 remote chelation controlled Ireland-Claisen し 12 へと導き、ラクトン環を DIBAL により rearrangement. J. Ishihara, O. Tokuda, K. ラクトールへと還元後、Wittig 反応により側 Shiraishi, Y. Nishino, K. Takahashi, S. 鎖を導入し 13 を得た。生じた一級水酸基を Hatakeyama, Heterocycles 2010, 80, 1067- メチルエステルへと変換後、 14 よりオレフ 1079. ィンの水素化、アセトニドの除去、メチルエ 4. Synthetic studies on vitamin D analogs. 3 ステル化により 15 へと導いた。ベンジル基 7. Synthesis of 20-epi-1α,25-dihydroxy-2β- をアセチル基に置き換え、現在、THF 環の酸 (3-hydroxypropoxy)vitamin D3: 20-epi-ed-7 化による γ ラクトンの合成と脱保護を経る合 1]. M. Yoshino, K. Eto, K. Takahashi, J. Ishihara, S. Hatakeyama, Y. Ono, H. Sai 成の最終段階を検討中である。 MeO2C 1) BnBr, NaH, DMF 2) DDQ, CDM, H2O PMBO OH Rh2(OAc)4 O O O O OH OH OBn OBn 11 10 O 2) Ph3P=CHR 1) DIBAL R = (CH2)9CH3 O O OH BnO 54% 1) 1M LiOH, THF 1) H2, Pd/C 2) TsOH, MeOH 3) DMPI, DCM O BnO 15 CO2Me OH HO BnO 2) Ac2O, Et3N DMAP, DCM O O CO2Me CO2Me CO2Me OAc RuO4 16 O OH O Takahashi, S. Hatakeyama, Synlett 2009, 2 6. Total synthesis of (+)-fostriecin and (+)-p 9 hoslactomycin B. S. Shibahara, M. Fujino, Y. Tashiro, N. Okamoto, T. Esumi, K. HO NaOH CO2H then HCl HO2C CO2H OH cinatrin C1 J. Ishihara, N. Koyama, Y. Nishino, K. 351-2355. 14 1) BCl3, DCM 9 HO2C O O (CH2)8CH3 O BnO O CO2Me arrangement mediated by indium chloride. O OBn 12 92% 13 381-394. 5. A new variant of Reformatsky-Claisen re O O (CH2)8CH3 1) DMPI, DCM 2) NaClO2, NaH2PO4 tBuOH, H2O 3) TMSCHN2 THF, MeOH to, N. Kubodera, Heterocycles 2010, 81, O 2) [Me2N=CHCl]+Clthen NaBH4 3) DMP, PPTS acetone 50% 80% 4) NaClO2, tBuOH H2O, NaH2PO4 5) TNSCHN2 THF, MeOH OBn 9 O MeO2C OsO4, NMO THF, H2O 8 55% CO2Me OH MeO2C BnO PhH CO2Me O DBU,tol, ↑↓ CO2Me N2 7 In(OTf)3 O MeO2C 3) MeO2C MeO2C cinatrin C3 Takahashi, J. Ishihara, S. Hatakeyama, Sy nthesis 2009, 2935-2953. 5.主な発表論文等 7. Enantio- and stereoselective route to the phoslactomycin family of antibiotics: form al synthesis of (+)-fostriecin and (+)-phosl actomycin B. S. M. Sarkar, E. Wanzala, S. Shibahara, K. Takahashi, J. Ishihara, S. Hatakeyama, Chem. Commun. 2009 59 07-5909. 8. Synthetic studies of vitamin D analogs. P art 35. An improved synthesis of 1-epi-E D-71, a biologically interesting diastereom er of 1.alpha.,25-dihydroxy-2.beta.-(3-hydro xypropoxy)vitamin D3 (ED-71). K. Eto, A. Fujiyama, M. Kaneko, K. Takahashi, J. I shihara, S. Hatakeyama, Y. Ono, N. Kubo dera, Heterocycles 2009, 77, 323-331. 9. Enantioselective route to aryl(1,3-butadien -2-yl)methanols: formal synthesis of (-)-sp orochnol A. D. Yanagimoto, K. Kawano, K. Takahashi, J. Ishihara, S. Hatakeyama, Heterocycles 2009, 77, 249-253. 〔学会発表〕(計 件) 1. 江藤康平 吉野円香、高橋圭介, インソマ イシン及びオキサゾロマイシン類抗生物質 の合成研究 第 52 回天然有機化合物討論会 静岡市 2. 江藤康平 吉野円香、高橋圭介 石原淳、 畑山範,Synthetic study on the oxazolomycin family of compounds. 環太平洋国際化学会議 アメリカ合衆国ホノルル 3.芝原攝也、松原孝昌、高橋圭介, 石原淳、 畑山範 , Total synthesis of chloptosin, アメリカ合衆 国ホノルル 4. 吉野円香、江藤康平 高橋圭介, 石原淳、 畑山範, 不斉有機触媒に基づくインソマイシ ン類天然物の全合成 5. 松原孝昌、高橋圭介, 石原淳、畑山範 , オフィジオラクトン類の合成研究 第27 回日本薬学会九州支部大会,長崎 6. 浦辺郁也、高橋圭介, 石原淳、畑山範, シ ナトリンC1及びC3の合成研究, 第27回日 本薬学会九州支部大会,長崎 7/ 白石和範、高橋圭介、石原淳、畑山範、 クルチオリドの合成研究、第27回日本薬学 会九州支部大会,長崎 8. 横井裕一、高橋圭介、石原淳、畑山範、エ ングレリンAの合成研究、27回日本薬学会 九州支部大会,長崎、 9. 高橋圭介、石原淳、畑山範、Kaitocephalin の合成研究、日本薬学会第131年会、静岡 10. 横井裕一、高橋圭介、石原淳、畑山範、 (-)-エングレリンAの合成研究、日本薬学会第 131年会、静岡 11. 松原 孝昌、高橋圭介、石原淳、畑山範、 オフィジオラクトン類天然物の合成研究、日 本薬学会第131年会、静岡 12. 渡邊由貴、小山 典子 ,西野 幸宏高橋圭 介、石原淳、畑山範、インジウムを用いる Reformatsky-Claisen転位反応の開発、日本薬 学会第131年会、静岡 13. 西丸 達也 ,竹下 公人 ,近藤 維志 、高橋 圭介、石原淳、畑山範、Marinomycin A の合 成研究、日本薬学会第131年会、静岡 14. 吉野円香、江藤康平、高橋圭介、石原淳、 畑山範、インソマイシン類天然物の合成研究 、日本薬学会第131年会、静岡 15. 浦辺郁哉、高橋圭介、石原淳、畑山範、 Cinatrin C1 及び C3 の全合成研究.日本薬 学会第 130 年会. 岡山市 16. 芝原 攝也、高橋圭介、石原淳、畑山範、 C クロプトシンの全合成に向けたピロロイン ドリンコア部の合成.日本薬学会第 130 年会. 岡山市 17. 高 橋 圭 介 、 石 原 淳 、 畑 山 範 、 (-)-kaitocephalin の合成研究.日本薬学会第 130 年会. 岡山市 18. 吉野 円香, 高橋圭介、石原淳、畑山範、 不斉有機触媒反応に基づくオキサゾロマイ シン左セグメントの新規合成法の開発.日本 薬学会第 130 年会. 岡山市 19. 江藤 康平, 高橋圭介、石原淳、畑山範 オキサゾロマイシンの合成研究, 日本薬学会 第 130 年会. 岡山市 20. 江藤 康平, 高橋圭介、石原淳、畑山範, 第 51 回天然有機化合物討論会,名古屋市. 21. 芝原攝也, 高橋圭介、石原淳、畑山範, 高 選 択 的 PP2A 阻 害 活 性 天 然 物 Phoslactomycin B の全合成, 次世代を担う有 機化学シンポジウム, 大阪府吹田市 22. 竹下公人, 近藤雅志, 抗 MRSA および抗 VREF 活性物質マリノマイシンAの合成研究, 第 26 回日本薬学会九州支部大会,福岡市. 23. 白石和範, 高橋圭介、石原淳、畑山範, クルチオリドの合成研究, 第 26 回日本薬学 会九州支部大会,福岡市. 〔その他〕 ホームページ等 http://www.ph.nagasaki-u.ac.jp/lab/manu fac/index-j.html 6.研究組織 (1)研究代表者 高橋圭介( Keisuke Takahashi ) 研究者番号:60380854
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