2008年9月 第396号のPDFをダウンロード(1.2MB) - 自研センター

News
JIKEN CENTER
自研センターニュース
9
SEPTEMBER 2008
平成20年9月15日発行 毎月1回15日発行(通巻396号)
昭和51年5月27日 第三種郵便物認可
C
O
N
T
E
N
T
S
テクノ情報 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
燃料電池車(FCV)
輸入車インフォメーション ・・・・・・・・・・・7
フォルクスワーゲン パサート
(3CAXZF)の合成樹脂部品
の補給形態
リペアリポート ・・・・・・・・・・・・・・・・8
マツダ アテンザ(GHEFW、GH5FS、GH5AW系)の
助手席側エアバッグ展開時のハーネスについて
輸入車指数作業トピック ・・・・・・・・・・・10
ドアアウタパネル取替作業の紹介
輸入車指数作業トピック訂正記事 ・・・・・・・14
「構造調査シリーズ」新刊のご案内 ・・・・・・・15
リペアインフォメーションS ・・・・・・・・・・16
エスティマ(ACR50W)インテリジェントパーキング
アシストシステムの初期化(蛇角中立点のずれ修正)
自動車補修塗装技術懇談会 ・・・・・・・・・・17
リサーチング ザ スケルトンズ ・・・・・・・・・18
スバル エクシーガ(YA4・5系)
日本アウダテックス社 ・・・・・・・・・・・・17
2008年版「指数テーブル」発行のご案内
別冊 新型車情報
1 ∼□
12
qマツダ ビアンテ(CC##W) ・・・・・・・・□
TECHNO INFORMATION
テクノ情報
燃料電池車
(FCV)
さまざまな時代背景をもとに進められているポスト化石燃料車、今回は次世代の主役になり得るであ
ろう燃料電池車について現状を探ってみました。
1.とりまく背景
燃料電池車(FCV若しくはFCEV)※1は世界的には1980年代、わが国においても1990年代初頭から各自
動車メーカによる開発、発表がなされ「究極のエコカー」として注目されるようになりましたが、FCV
の心臓部ともいえる燃料電池の耐久性やコスト、燃料となる水素のインフラの問題などから実用化が進
みにくい状況が続いてきました。
近年世界的に地球温暖化排出ガスの削減、化石燃料の枯渇、バイオ燃料の普及に伴う世界的な穀物価
格の上昇、世界的な原油価格の上昇等さまざまな問題が起きていますが、自動車業界は今まさにその渦
中に置かれています。その背景からプラグイン・ハイブリッド車や電気自動車、FFV車※2等のいわゆる
エコカーに対しては近年特に注目が集まっています。
しかし、電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車においては、搭載する二次電池の性能から電気自
動車として走行できるいわゆる「EV走行」の距離は限られてしまうのが現状であり、CO2排出量の削減
には限界があるといわれています。そこで各自動車メーカは今後、ハイブリッド車や電気自動車は継続
的に開発されていくことはもちろんですが、燃料電池車も実用化していかなければならないと考えられ
ているようです。ここに石油の代替燃料として水素を使わざる得ない背景があるといえます。
国内大手自動車メーカやエネルギ関連事業者で構成される燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)は本年
7月に以下の内容を発表しました。
2010年までに燃料電池車に水素を補給する水素ステーションの標準仕様を決定するとのことで、具体
的には水素を充填するノズルの形状や圧力などの仕様を定め、今後開発される自動車はその仕様に合わ
せる。2015年には水素ステーションを商用化し、共通の設備で水素の補給を出来るようにして、自動車
メーカが燃料電池車を本格生産し始めるまでに水素供給のインフラが整うようにして燃料電池車の普及
開始を目指すというものです。
最近国内では、トヨタ自動車が新設計の高性能燃料電池「トヨタFCスタック」を搭載した燃料電池ハ
イブリッド車を開発し「トヨタFCHV−adv」として6月3日に国土交通省より型式認定を取得しましたし、
7月2日にはホンダが新型燃料電池車「FCXクラリティ」を11月から日本でリース販売すると発表しまし
た。ホンダのFCXはすでに米国では個人客中心にリースが始められており、日本では主に法人向けに提
供していくそうで、すでに多くの法人からリース希望や問い合わせがあるとのことです。
2
※1
FCV(Fuel Cell Vehicle)
・FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle):燃料電池車のことです。
※2
FFV(Flexible Fuel Vehicle):ガソリンとアルコールをどの程度の割合で混入しても動く車のことです。
自研センターニュース 2008年 9月号
2.燃料電池車のしくみ
燃料電池車は大きく分けて5つの装置から構成されています。
・燃料電池装置 酸素と水素から電気を発電する
・水素タンク装置 発電の材料である水素を貯蔵・供給する
・バッテリ装置 発電された電気を蓄える二次電池
・駆動モータ装置 車輪を回転させる動力をつくりだす
・制御装置 各装置の制御をする
パワーコントロールユニット
2次電池
水素充填口
FCスタック
駆動モータ
電気の流れ
水素の流れ
生成水
空気
高圧水素タンク
今回は構成装置の中から燃料電池装置と水素タンク装置を中心にとりあげてみたいと思います。
①燃料電池装置
燃料電池は水素と酸素から電気化学反応によって直接電力と熱を取り出す方式であることにおいては
原理は共通ですが、イオンの通路である電解質の種類によっていくつかの種類に分類されます。それら
の中で現在開発が積極的に進められているものとしては、固体分子形(PEFC)
、りん酸形(PAFC)
、固
体酸化物形(SOFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)などがあります。
燃料電池はその種類によって作動温度が大きく異なっていて、それぞれ出力規模や用途、利用目的に
応じた方式が採用されます。例えば、固体分子形、りん酸形は比較的低温で作動するので、低温型燃料
電池と呼ばれ自動車用やコージェネレーション電源※3として商用化利用されています。これに対し固体
酸化物形や溶融炭酸塩形は600℃以上の高温で作動するので熱機関的な要素を兼ね備えており、中規模
発電プラントとして位置づけられることが多いようです。
※3
コージェネレーション:1つのエネルギーを消費して電気と熱など2つ以上のエネルギーを同時に有効利用するシステム
燃料電池の種類
燃料
固体高分子形
りん酸形
PEFC
PAFC
水素・メタノールLPG・天然ガス等
固体酸化物形
SOFC
溶融炭酸塩形
MCFC
天然ガス・メタノール・ナフサ等
運転温度
室温∼100℃
160∼210℃
700∼1000℃
650∼700℃
発電効率
30∼40%
35∼45%
40∼65%
40∼60%
発電規模
数W∼数百W
20kW∼1万kW
1kW∼数十万kW
数百kW∼数十万kW
開発段階
研究∼実用化段階
商用化段階
研究∼実用化段階
実証段階
自研センターニュース 2008年 9月号
3
いくつかの種類の燃料電池の中から自動車用として用いられいている固体分子形の特徴は、起動性と
小型・軽量化において他の燃料電池に比し圧倒的に優れているというところにあります。起動性として
は、常温∼90℃前後と比較的低い温度で作動することが利点といえますし、小型・軽量化については、
作動温度から部材に使用できるプラスチックなどの範囲が広がり軽量化出来ることや、電流密度が高い
ため、同じ電気を作るのに他のタイプの燃料電池よりスタックを小型に出来ることなどが挙げられます。
燃料電池はセパレータ、陽陰それぞれの電極、触媒、電解質からなる「セル」と、それを何枚も重ね
合わせた「スタック」から構成されています。
発電の仕組みは各セルの中の電極(陰極)、触媒間を水素が通り抜けることで反応が起こり電力が発
生します。発生した電子(e-)は電解質を通り抜けることが出来ないため、外部回路を通って電極(陽
極)に流れます。
水素イオンは電解質を通ることが出来るため、電極(陽極)で外部回路を経てきた電子(e-)及び酸素と反
応して水になります。この際、電子は陰極から陽極に流れますが、電流は陽極から陰極に流れます。
一つのセルが作れる電気は1Vに満たないため、実際にはセルを複数直列につなぐことで大きな電力を
得ています。
セパレータ
電極
電子の流れ
電流の流れ
触媒
電解質
触媒
電極
セパレータ
酸素
水素
酸素
(空気)
電極(カーボン) 触媒(白金)
セル
生成水
発電の原理
スタック
燃料電池は原理上、酸素と反応した際に水(H2O)が生成されるため、氷点下で使用された場合に凍
結し発電を阻害するという問題が生じます。
この問題に対して各自動車メーカで研究・開発がなされているわけですが、本年6月にトヨタ自動車
は新開発の燃料電池ハイブリッド車「トヨタFCHV−adv」に新設計の高性能燃料電池「トヨタFCスタッ
ク」を搭載したと発表しました。「トヨタFCスタック」はセル内の最適設計と生成水をコントロールす
ることで−30℃の低温下でも始動、走行を可能にし、寒冷地など利用可能地域を拡大したとのことです。
トヨタのFCスタック
4
自研センターニュース 2008年 9月号
TECHNO INFORMATION
また、ホンダも新開発の「FCスタック」にて低温下での水素イオン導電性を従来の2倍に向上させた
り、従来のスタックでは水素や生成された水を水平に流す方式としていたものを、垂直に流す方式を採
用しました。スタックの高効率化の鍵となる生成水の排出性を重力を利用することで大幅に向上させ
−30℃の低温下でも始動に必要な十分な電解を可能にしたとのことです。
↑
水
素
及
び
生
成
水
の
流
れ
FCスタック
非常に薄いセルを高密度に重ね合わせたスタック
FCスタック
②水素タンク装置
実用的な航続距離を得るためには、燃料である水素をより多く車載することが必要となりますが、そ
の方法としては現在、高圧縮ガスボンベを積載する方式が主流となっています。充填圧は35MPaと70MPa
の2タイプが用いられており、今後の推移が注目されます。
一方、液化水素を用いる方法はGMで採用されており、高圧ガスに比べより体積を減少させることが
出来る利点がありますが、液化する際に大きなエネルギが必要となりますし、水素の沸点が−253℃と
極低温なため、容器壁からのわずかな熱侵入によりタンク内の液化水素が蒸発して気体となってタンク
の安全弁から外に逃げてしまういわゆるボイルオフが問題となります。この量は乗用車用の小型タンク
では1日あたり貯蔵量の3%ほどにもなり、大きな損失となりますのでそれに対しての対策が必要になり
ます。
その他の方式として高圧水素のかさばるという難点を解消するために、より高密度に、しかも形状の
自由度が高い個体や、液体の状態で水素を貯蔵できる水素吸蔵合金タンクの開発が活発化しているよう
です。固体の状態で水素を貯蔵するための水素吸蔵合金として従来は希土類元素やチタン(Ti)、クロ
ム(Cr)など重く高コストの金属が使用されることが多かったようですが、現在開発が進んでいる水素
吸蔵合金はアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)をベースとしたもので、資源量が豊富なため、低
コストで軽量な水素吸蔵合金として注目されているようです。
水素は常温において無色・無味・無臭の気体で、ガスの中でも一番軽く、空間をどんどん上昇してい
ってしまうため、単体としては地球上の自然界には存在しません。水素は水の電気分解によって得られ
るため無尽蔵に存在すると言え、燃焼したとしても二酸化炭素や汚染物質を作らず空気中の酸素と反応
して水に戻るだけです。
1937年にアメリカで起きたドイツの飛行船「ヒンデンブルグ号」の爆発炎上事故や水素爆弾のイメー
ジから危険なイメージがありますが実際はどうなのでしょうか。
問題点としていくつか挙げてみますと、ガス密度が最小のため、漏れやすさは最大です。着火エネル
ギーは極めて小さく火は無色であるため、燃焼しても見えにくい。水素脆化※4があるなどいくつかあります。
自研センターニュース 2008年 9月号
5
TECHNO INFORMATION
燃焼するための条件は空気中の濃度が4∼75%の範囲のときでそれ以外の濃度では燃焼しません。ま
た、発火点は527℃とガソリンの約300℃に比べ高く、万一屋外で漏出したとしても軽いガスのため、空
気中に拡散してしまい開放空間での爆発は非常に少ないと考えられます。ちなみに「ヒンデンブルグ号」
の事故は近年の研究で、出火原因は船体外皮にたまった静電気によるスパーク(火花)が非常に燃えや
すい船体外皮の塗料(酸化鉄と粉末アルミの混合塗料)に引火して爆発炎上したものであり、水素漏れ
による爆発ではなかったことが解明されています。また、水素爆弾も重水素やリチウム等の核融合反応
を原理とするもので水素の爆発を原理としているわけではありません。
ぜ い か
※4
水素脆化:水素原子は小さいため、他の物質の原子の間をすり抜けてすばやく物質中に拡散していく性質があり、
金属が水素を多く吸収すると機械的性質が変化し割れやすくなります。
3.インフラ整備
燃料電池車の車両側の技術は日進月歩ですが、インフラが整備されなければ普及はあり得ません。今
後、ステーションを増やしていくために、水素ステーションの設置に関する規制が2005年3月に改正さ
れ、高圧ガス保安法、建築基準法、消防法の見直しがなされました。これにより、水素ステーションの
設置可能地域が拡大し、既存のガソリンスタンドを水素ステーションとして活用することも可能となり、
水素ステーションの普及に要す期間やコストを抑えることも可能な環境が整いつつあるようです。現在、
首都圏には10箇所の水素ステーションが開設され、稼動しています。そしてそれぞれが異なった方法で
水素を製造・供給し技術検証を独自に行っています。
ステーションには大きく分けて2通りの仕組みがあり、プラントで製造した水素を各ステーションに
運搬し水素タンクに貯蔵しそこから供給するオフサイト型と、ステーションに石油・天然ガス等の原料
を用意して改質そのものをステーションで行い水素を取出しながら供給するオンサイト型があります。
当然システムの立ち上げはオフサイト型の方が早くなります。
現在、プラントから各タンクに水素を輸送するのはローリーによるものが主流ですが、効率良く輸送
するために液体水素の状態で輸送された場合は、沸点が極低温のため一般的な液化ガス用ローリーに用
いられる真空断熱方式※5より高度な断熱が要求されます。このため、シート状の断熱材と熱輻射を防止
する材料との組合せによる積層真空断熱という方法を用いることがあります。内槽には一般的に超低温
状態で強度があるステンレス鋼が用いられ、熱の伝わりにくい材料によって外槽に連結されています。
液化ガスローリーの構造特徴として、高圧に耐するために形状は円筒となり鏡板の丸みを持った圧力
に対して強い構造となっています。また、内容物が液体であるために、車両の動きに反し慣性力と流動
性により液体が動き続けようとします。このような特性に対応するため防波板がタンク内に取付けられ
ています。
※5
真空断熱方式:真空状態では熱放射はありますが熱伝導がないため、この性質を利用して内槽を真空の空間で取
り囲みます。いわゆる魔法瓶のような構造にして外部からの熱侵入を防ぐとともに、粉末状また
はブランケット※6状の断熱材を充填してより断熱性を高める方法です。
※6 ブランケット:ガラス繊維や岩綿などを毛布状に成形した柔軟な多孔質材料で、吸音材や断熱材に用いられます。
4.おわりに
燃料電池車が普及していくためには一定の時間が必要だと思いますが、近い将来、自動車の主役にな
り得る要素をたくさん持っていると思います。社会的に認識が広まり、国・企業が本腰を入れて対応し
ていけば燃料電池車がスタンダードになる日もそう遠くではないでしょう。
(研修部/鈴木竜太)
6
自研センターニュース 2008年 9月号
輸入車インフォメーション
フォルクスワーゲン パサート
(3CAXZF)
の合成樹脂部品の補給形態
フォルクスワーゲン パサート
(3CAXZF)の合成樹脂部品の材質と補給形態情報をお知らせします。
なお、2008年5月発行の「No.J-509構造調査シリーズ」フォルクスワーゲン パサートにも他の情報
と共に掲載されていますので是非ご利用ください。
合成樹脂部品の使用個所
7.リヤビューミラーキャップ(外板色)
2.ラジエータグリル (メッキ)
9.ドアプロテクションストリップ
(メッキ)
1.フロント
バンパカバー
(外板色)
3.ライセンスプレート
ブラケット
6.キャップ(外板色)
(無塗装)
4.スポイラ
(無塗装)
5.プロテクトストリップセンタ
(外板色)
8.サイドメンバトリム(無塗装)
10.アウタハンドル(外板色)
11.リヤバンパカバー
(外板色)
13.トウイングアイカバー(外板色)
12.スポイラ
(無塗装)
番号
部品名
材質記号
材質
補給形態
PP+EPDM+TD10
ポリプロピレン+EPDMゴム
プラサフ済
ABS+PC
ABS樹脂+ポリカーボネート
(メッキ)
PP+EPDM+TD10
ポリプロピレン+EPDMゴム
無塗装
1
フロントバンパカバー
2
ラジエータグリル
3
ライセンスプレートブラケット
4
スポイラ
PP+EPDM+TD10
ポリプロピレン+EPDMゴム
無塗装
5
プロテクトストリップセンタ
PP+EPDM+TD10
ポリプロピレン+EPDMゴム
プラサフ済
PC/PBT
ポリカーボネート/PBT樹脂
プラサフ済
ABS
ABS樹脂
プラサフ済
PP+EPDM+TD10
ポリプロピレン+EPDMゴム
無塗装
ABS
ABS樹脂
(メッキ)
6
キャップ(ヘッドランプウォッシャ)
7
リヤビューミラーキャップ
8
サイドメンバトリム
9
ドアプロテクションストリップ
10
アウタハンドル
PA6−GF30
ポリアミド−ガラス繊維
プラサフ済
11
リヤバンパカバー
PP+EPDM+TD10
ポリプロピレン+EPDMゴム
プラサフ済
12
スポイラ
PP+EPDM+TD10
ポリプロピレン+EPDMゴム
無塗装
13
トウイングアイカバー
PC+PBT
ポリカーボネート+PBT樹脂
プラサフ済
*無塗装は、素地色のまま装着するものをさします
(指数部/高地公子)
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7
REPAIR REPORT
リペア リポート
マツダ アテンザ(GHEFW、GH5FS、GH5AW系)の
助手席側エアバッグ展開時の
ハーネスについて
現在、各メーカの大多数の新型車両には、運転席側、助手席側エアバッグが標準装備として設定され
ています。しかし、エアバッグが展開した場合の再使用不可部品や補給形態は、各メーカ、各車両によ
って異なります。
ご存知のとおり、エアバッグは、エアバッグモジュール内にあるインフレータの爆発により窒素ガス
を発生させ、パットを展開させています。
このため、展開時にインフレータが高温になり、エアバッグモジュールに取付けられているエアバッ
グコネクタが、インフレータの発する熱影響を受けて溶けてしまいます。
運転席側のエアバッグが展開した場合では、写真
の右側にあるクロックスプリングのコネクタが溶け
てしまい再使用が不可能となるため、クロックスプ
リングを取替える必要があります。
部品名称:クロックスプリング
参考品番:D651-66-CS0(2008年8月現在)
助手席側のエアバッグが展開した場合では、助手席側エアバッグハーネスの縁切りが、エアバッグモ
ジュール側でしか行うことができないような車両の場合、室内側メインハーネスを取替える必要があり
ます。
このメインハーネスは10万円前後の非常に高額な部品であり、取替時の作業時間もかかるため、修理
費用に大きな影響を与えてしまいます。
2008年1月発売のマツダ アテンザ(GHEFW、
GH5FS、GH5AW系)の助手席エアバッグには、
補給部品にエアバッグコードショート
(中間ハーネス)
が設定されました。そのため、助手席側エアバッ
グモジュールが展開した場合でも、従来の車両に
比べて大幅に修理費用を低減させることが可能と
なりました。
8
自研センターニュース 2008年 9月号
以下、マツダ アテンザ(GHEFW、GH5FS、GH5AW系)の助手席側エアバッグモジュールが展開し
た場合の補給形態について紹介します。
アテンザ(GHEFW、GH5FS、GH5AW系)のイ
ンストルメントパネルの写真です。
黄色の破線で囲った部分が、助手席側エアバッ
グモジュールの内蔵部分です。
黄色の破線部の裏側です。
写真の赤丸の位置2箇所で縁切りが可能になり
ました。
取外したエアバッグコードショートです。
部品名称:エアバッグコードショート
参考品番:G2Y7-67-SH3(2008年8月現在)
マツダ アテンザ(GHEFW、GH5FS、GH5AW系)のように中間ハーネスの設定がある車では、助手
席側エアバッグモジュールが展開した場合、メインハーネスを取替えることなく中間ハーネスの取替作
業だけで修復できます。
今後、各メーカの助手席側エアバッグモジュールに、中間ハーネスが設定がされた車両が、数多く出
てくることを期待しています。
(技術開発部/石川陽介)
自研センターニュース 2008年 9月号
9
輸
入
車
指
数
作
業
ト
ピ
ッ
ク
このコーナーでは自研センターにて輸入車の指数を作成していくにあたり、その車種特有の修理作業について取り上げてまいります。
ドアアウタパネル取替作業の紹介
対象車種:VW ゴルフプラス GLi
型 式:GH-1KBLX
1.はじめに
2007年2月発売のVW ゴルフプラス GLiには、ドアアウタパネルの補給設定がされています。
今回はドアアウタパネルの取替作業を行いましたので紹介します。
2.構造および補給部品
補給部品の詳細は以下の通りです。
補給形態
qドアアウタパネル
①部品名称:ドアアウタパネル(RH)
部品番号:5M0 8 106 B
②部品名称:リーティングストリップフロント
(RH)
部品番号:5M0 831 308 A
③部品名称:リーティングストリップリヤ(RH)
部品番号:5M0 831 300 B
eリーティングストリップリヤ
wリーティングストリップフロント
3.使用特殊工具および接着材
ドアアウタパネル取替作業には、下記の特殊工
e-A
w
e-B
具および専用の接着剤が必要です。
①接着剤専用ヒータ(品番:V.A.G
1939A)
②接着剤塗布用ガン(品番:V.A.G
1628)
③−A∼E ドアアウタパネル固定および隣接パ
ネルとの隙間調整用工具(品番:T10237)
e-E
q
y
e-C
*③−A∼Eは上記品番でセット補給のみ
r
*③−Eはフロントドアおよびリヤドアを同
時取付時に使用。
t
④セッティングゲージ(品番:3371)
⑤ガラス/塗装用プライマ
(品番:D 009 200 02)
⑥接着剤(品番:DH 009 100 03
(品番:DH 009 100
110ml)
300ml)
*先端カット済のノズルはセット補給
10
自研センターニュース 2008年 9月号
e-D
4.事前準備
(1)両面粘着の貼付け
(2)専用ヒータで接着剤を暖める
e-A
両面粘着テープ貼付状態
e-B
ドアアウタパネル固定用工具に両面テープを貼り
付ける。
(自研センターでは③−A
6個、③−B
2
専用ヒータで接着剤を20分ほど暖める。
*1パネルあたり、約1本の接着剤が必要。
個使用)
*自研センターでは住友スリーエム株式会社(3M)の両面粘
着テープ4213(15mm幅)
を使用
5.作業
(1)仮合わせ
リーティングストリップフロントおよびリーテ
ィングストリップリヤをドアインナパーツに既在
のボルトで仮留めをする。
(フロント、リヤ共に5
箇所程度)
ドアインナパーツ下面に③−D(ガイドボルト)
を取付ける。
(任意2箇所)
〈注意〉
③−D(ガイドボルト)のねじ込みが浅いと
ロッカパネル部をボルト頭部で傷付けてしまうの
で注意が必要です。
自研センターニュース 2008年 9月号
11
新品ドアアウタパネル下面を③−D(ガイドボ
○:e-B
:e-C
ルト)に差し込み、隣接パネルを傷付けないよう
に注意しながらリーティングストリップフロント
およびリーティングストリップリヤに立掛ける。
[新品ドアアウタパネル]
e-C
[
ア新
ウ品
タド
パア
ネ
ル
]
[ロッカパネル]
図−1
図−2
ロッカパネル部およびドアパネルとの隙間調整は、新品ド
アアウタパネル側に貼付けた③−Bの突起部(図−1:○部)
およびセッティングゲージを使用する。
ロッカパネルおよびドアパネルとの隙間は③−C(ゴム製く
さび)を差込んで調整する。(図−2参照)
*隙間が調整できない場合は、ドアヒンジ部で本体を調整する。
(2)接着作業
新品ドアアウタパネルを取りはずし、リーティ
ングストリップフロント、リーティングストリッ
プリヤおよびドアアウタパネルの接着面を清掃お
よび脱脂し、ガラス/塗装用プライマを下塗りす
る。
12
自研センターニュース 2008年 9月号
隣接パネルとの隙間をセッティ
ングゲージで計測。
暖めておいた接着剤を、接着剤塗布用ガンに装
着し、ノズル先端をリーティングストリップフロ
ントおよびリーティングストリップリヤに直角に
当てて塗布する。
新品ドアアウタパネル下面を③−D(ガイドボ
ルト)に差し込み、隣接パネルを傷付けないよう
に注意しながらリーティングストリップフロント
およびリーティングストリップリヤを接着剤塗布
―:接着剤箇所
箇所に立掛ける。
フロントフェンダおよびドアパネルとの隙間微
調整を行う。
(図−1参照)
□:e-A
○:e-B
:e-C
ロッカパネルおよびドアパネルとの隙間微調整を
行う。
(図−2参照)
隣接パネルとの段違いを確認しながら、③−A
を隣接パネルと新品ドアアウタパネルにまたいで
貼り付ける。これより段違い補正と新品パネルの
固定を一度に行う。
*自研センターでは、新品ドアアウタパネルが隣接パネ
ルより出ている箇所に6個貼付けました。
新品ドアアウタパネルの補正と固定が終了後、接着剤が硬化するまで車両を動かさない。
(硬化時間:
最低1時間30分)
接着剤硬化後、③−A∼C全ての隙間調整工具を取りはずし、車両に残った両面粘着テープを除去する。
(指数部/牛村祥子)
自研センターニュース 2008年 9月号
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BMW MINI COOPER(R56)MF16系
「エンジンフードモール取替作業の紹介」について
お詫びと訂正
2008年7月号、21ページに掲載の「エンジンフードモール貼付け位置(参考)
」に、表中の記号および
矢印位置の誤りと、同ページ「エンジンフードモール貼付け作業」の内、取付補助材の補足説明に誤り
がありましたので、お詫び致しますとともに訂正させていただきます。
21ページについては、以下の内容に差替え願います。
3.エンジンフードモール取外し作業
(1)エンジンフードモール貼付け位置(参考)
寸法(mm)
計測位置
a
3.0
エンジンフードモール後端部(内側)
∼ エンジンフードパネル後端部
b
1.5
エンジンフードモール後端部(外側)
∼ エンジンフードパネル後端部
c
5.0
エンジンフードモール前端部(内側)
∼ エンジンフードパネル前端部
d
7.0
エンジンフードモール前端部(外側)
∼ エンジンフードパネル前端部
e
215.0
エンジンフードモール前端部(内側)
∼ エンジンフードパネル中心線
f
286.0
エンジンフードモール後部(内側)
∼ エンジンフードパネル中心線
※計測位置は噴射ノズル上部
(注)計測値は自研センターでの実測による参考値
噴射ノズル
中心線
エンジンフードモール後端部
b
a
b
a
f
噴射ノズル上部(中心線より)
e
エンジンフードモール
f
c
d
中心線
中心線
c
d
e
エンジンフードモール前端部
14
自研センターニュース 2008年 9月号
エンジンフードモール前端部
(中心線より)
(2)エンジンフードモール取外し作業
ヒータガンを使用し、エンジンフードモールを
取外します。
エンジンフードモールはデカールタイプで非常に
薄いため、温め過ぎないように注意してください。
4.エンジンフードモール貼付け作業
(1)位置合わせ
新部品を計測した場所に仮合わせし、マスキン
グテープでマーキングをします。
(2)脱脂、取付補助材塗布
エンジンフードおよびモール表面を脱脂し、タ
ッククロスを使用して細かいゴミを取り除きます。
なお、台紙を剥がす際には静電気により細かい
ホコリが付着しやすいので、モール表面および裏
側は丁寧に拭いてください。
エンジンフードおよびモールに取付補助材を塗
布します。
*取付補助材
スプレーボトルに中性洗剤と水を1:19の割合で入れた
(指数部/牛村祥子)
ものです。
「構造調査シリーズ」新刊のご案内
No.
車 名
型 式
自研センターでは新型車について、損傷した場合の復元修理
520
フォルクスワーゲン ゴルフプラス
1KBLK
の立場から見た車両構造、部品の補給形態、指数項目とそ
521
ニッサン ティアナ
J32系
522
ホンダ フリード
の作業範囲、ボデー寸法図など諸データを掲載した「構造調
査シリーズ」を発刊しておりますが、今月は右記新刊をご案内
GB3・4系
いたしますので、是非ご利用ください。販売価格は1,120円
お申し込みは自研センター総務企画部までお願いします。
です(送料別)
。ただし、J-520は、2,160円(送料別)です。
TEL
047-328-9111
FAX
047-327-6737
自研センターニュース 2008年 9月号
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REPAIR Information S
リペア インフォメーション S
トヨタ エスティマ(ACR50W)
インテリジェントパーキングアシスト
システムの初期化(舵角中立点のずれ修正)
インテリジェントパーキングアシストシステム
(以下IPA)とはHDDナビゲーションシステムのデ
ィスプレイ画面上に表示される車両後方の映像と
音声案内に加えて、ステアリング制御を加えるこ
とで、車庫入れや縦列駐車の操作をアシストする
ものです。
写真はトヨタ エスティマです。(写真1)
損傷車両の修理のときなどでバッテリターミナルの
写真1
取外しなどを行うと、IPAの初期化が必要になります。
以下、初期化の方法について紹介します。
初期化がされていない状態でエンジンを始動
し、シフトポジションを“R”にするとディスプ
レイに車両後方の映像とともに『システム初期化
中』と表示されます。この時にディスプレイ右下
のヘルプを選択します。(写真2)
写真2
選択後、ディスプレイに表示される指示通りに
ステアリングホイールを左右にいっぱい切ること
で初期化をすることができます。
(写真3)この時、
平坦路で作業を行います。
ヘルプを選択しない状態で、ステアリングホイー
ルを左右にいっぱい切ることでも初期化を行うこと
ができます。
写真3
初期化を行うとディスプレイは写真のように表
示されます。(写真4)
(技術開発部/佐々木孝一)
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自研センターニュース 2008年 9月号
写真4
自動車補修塗装技術懇談会を開催
2008年度、自動車補修塗装技術懇談会を7月に開催しました。
今回は、各塗料メーカの方々と忌憚のない意見交換が行えるように個社ごとに懇談の場を設けました。
参加していただいたのは、イサム塗料、関西ペイント、大日本塗料、デュポン、BASFコーティング
スジャパン、日本ペイント、ロックペイント(あいうえお順)の7社で合計27名のご参加をいただき、大
変有意義な懇談が行えました。
懇談会は、主に補修用水性塗料について行い、弊社が数年にわたって行ってきた補修用水性塗料の性
能比較調査結果を報告し、その後、質疑応答、懇談を行いました。
新車ラインでの水性塗料化はかなり進んでいるものの、補修用となるとその普及率はまだまだこれか
らのようです。
各塗料メーカも補修用水性塗料の普及に向け、各地でデモンストレーションを行っていますが、そこ
での関心は非常に高く、導入に向け準備段階の工場は多いとのことです。
しかし、関心が高い割には本格導入が進まない理由として、
① 法律(現時点では事実上修理工場に罰則規定がない)
② 設備面での導入費用、原色の塗料価格
③ 生産性の低下
などがあげられていました。
現在、各塗料メーカが販売している(一部未発売のメーカもある)補修用水性塗料は各地でのトライ
アルなどを踏まえて完成度を高めており、従来の溶剤系塗料と比べても遜色のないレベルに達している
とのことなので、補修用水性塗料の普及に向けて、今後は自動車メーカ、塗料メーカ、自研センターが
協力していく必要があります。
これからも定期的に塗料メーカとの懇談の場を設けるとともに、協力関係を深めていきたいと思います。
今回、ご参加いただきました塗料メーカの皆様に於かれましては、この場を借りて厚くお礼申し上げ
ます。
(技術開発部/大川光治)
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Researching The Skeletons
リサーチング ザ スケルトンズ
スバル エクシーガ
(YA4・5系)
この「Researching The Skeletons」では外部からは確認することができないフロントサイドメンバおよびリヤサイドメンバ内側のリーンホースメント等
の位置や板厚を分かり易く紹介していくもので、データは実際に自研センターで調査した内容を転載したものです。
今回は2008年6月に発売されたスバル エクシーガ(YA4・5系)を取り上げます。
概要
フレームサイドコンプリート、リヤフロアリヤフレームコンプリート等の主要骨格部位には高張力鋼
板を採用しています。(富士重工業株式会社発行のボディ修理書より)
フロント
①フロントバックビームコンプリートは左右のフレームサイドコンプリート先端にボルトで取付けられ
ています。
(写真1)
②ラジエータアッパパネルコンプリートは溶接で取付けられています。(写真2)
③フェンダエプロン部の構成パネルは全て単品補給となっておりAssy補給の設定はありません。
(写真2)
④フレームサイドコンプリートのリーンフォースメントは前部、中央部(フロントサスペンションクロ
スメンバコンプリート取付位置)
、後部に配置されています。(写真3、4)
⑤フレームサイドコンプリートはフロントフロアパン下部まで伸びていますが、ダッシュパネル手前に
て取替作業が可能です。
(写真3、4)
フロント正面
フロント上面
eフェンダエプロン部
wラジエータアッパパネルコンプリート 0.7mm
写真1
qフロントバックビームコンプリート
フレームサイドコンプリート左外側
r1.0mm
r1.7mm
r1.0mm r1.5mm
写真3
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自研センターニュース 2008年 9月号
t
写真2
フレームサイドコンプリート右外側
r1.7mm
r1.0mm
t r1.5mm r1.0mm
写真4
Researching The Skeletons
⑥フレームサイドコンプリートには差厚鋼板(注)が採用されています。(写真5、6)
⑦ボディ修理書によるフレームサイドコンプリート半裁作業カット指示位置です。
(写真5、6)
⑧フレームサイドコンプリートの形状はスバル インプレッサ(GH2・3・7・8系)やスバル フォレス
ター(SH5系)に類似しています。(写真5、6)
(注)
厚さの異なる鋼板を突合せ溶接し、1枚の鋼板にしたもの。
フレームサイドコンプリート左内側
フレームサイドコンプリート右内側
1.5mm
1.5mm
uカット位置 y板厚変化部位 1.7mm
写真5
t
1.7mm
y板厚変化部位
t
uカット位置
写真6
リヤ
⑨リヤバックビームコンプリートは、リヤフロアリヤフレームコンプリートにナットで取付けられています。
(写真7)
⑩リヤフロアリヤフレームコンプリートはリヤフロアクロスメンバCコンプリート後部にて取替作業が
可能です。(写真10)
リヤ正面(リヤスカートコンプリート取付状態)
リヤ正面(リヤスカートコンプリート取外し状態)
oリヤバックビームコンプリート
写真7
写真8
リヤ上面(リヤリヤフロアパンコンプリート取付状態)
リヤ上面(リヤリヤフロアパンコンプリート取外し状態)
!0
1.6mm
リヤフロアリヤフレームコンプリート1.8mm
2.4mm
写真9
写真10
リヤ下側
写真11
(指数部/上田 修)
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http://www.jikencenter.co.jp/
お詫びと訂正
2008年4月号の「作業事例紹介」
トヨタエスティマ(ACR50W)フロントフェンダについて10頁の写真2
の説明で「*フロントフェンダ取外しの付帯作業についてはJKCニュース2006年3月号に掲載済みです。」と
ありますが、正しくは2007年3月号の間違いでした。訂正しお詫び申し上げます。
自研センターニュース 2008.9(通巻396号)平成20年9月15日発行 昭和51年5月27日 第三種郵便物認可 発行人/池田直人 編集人/小林吉文 C 発行所/株式会社自研センター 〒272-0001 千葉県市川市二俣678-28 Tel(047)328-9111(代表) Fax(047)327-6737
⃝
定価336円(消費税込み、送料別途)
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