サンプルテキスト - 社会人のための数学教室 すうがくぶんか 統計学

「初級物理学」 第一回 株式会社 すうがくぶんか
1 物理学を学ぶ前に
1.1 物理学の歴史
1.1.1
物理学の始まり
物理学 (physics) を自然の根本的な性質を探求する学問であると定義すると、その始まりを見
つけることは不可能である。なぜなら人間は(あるいは人間以外も)そのような活動を、この地
球に存在し始めた頃から行っていたであろうからである。例えば、ギリシアに生まれたアリスト
テレスは「自然は4つの元素(火、水、土、空気)からなる。
」という四元素説を唱えた。我々の
現在常識からすれば、火や水や土や空気は物質を構成する基本的な要素ではない。しかし、この
ある仮説が世界をうまく説明できているとすれば、それを物理学と呼ばない理由は無いように思
える。
一般に物理学の起こりは、コペルニクスの唱えた地動説であるとされ、ここから 1920 年代く
らいまでの物理学を 古典物理学 (physics in the classical limit) と呼ぶ。初めに定義した自然の
根本的な性質を探求する学問が物理学だとすれば、アリストテレスの四元素説も物理学の一種で
あると考えることができてしまう。しかしながら、アリストテレスの四元素説は物理学の始まり
とは通常みなされない。これはなぜだろうか。
もしかすると、このように考える人がいるかもしれない。「四元素説」は 間違っていて、
「ニュー
トンの運動の法則」は 正しい からだと。その考えは間違っている。なぜなら「ニュートンの運
動の法則」は正しくないからである。アインシュタインの相対性理論は「ニュートンの運動の法
則」が間違っていることを示したのだから。
【アイザック・ニュートン】
これらの違いは、一般にこう説明される。アリストテレスの四元素説は「思索」を元に し、コ
ペルニクスの地動説は「観測」を元にする からと。検証や追試可能な科学としての性質を持って
いないならばそれは、一般的な意味での物理学とは呼ばないのである。
それゆえ、一般に物理学の始まりは 17 世紀、コペルニクス、ケプラー、ガリレイ、ニュート
ンなどの興した、「観測」に基づく物理学であるとされる。
問題1 数学もまた、真実探求を目的とした学問であるが、では数学と物理学の違いはどこに
あるのだろうか。そのことについて考えてみよ。
1
最も高名な物理学者といわれる
ニュートン。アインシュタインに
その理論を塗り替えられたとは
い っ て も 、未 だ に 大 抵 の 範 囲 で
ニュートンの力学は正しく未来を
予測します。その輝きには一遍の
陰りも無いと言ってよいでしょう。
1.1.2
古典物理学の発展
前項で述べた古典物理学は、17 世紀∼19 世紀末までの物理学をいう。この頃の物理学は
巨視的(マクロ)世界の物理学 と呼ばれている。巨視的とは 微視的(ミクロ)と対になる言葉
で、我々の手に触れることができるような対象、もしくは我々が感じることができるよう
な現象についての理論である。ここには、ニュートンが作りあげた「力学 (mechanics)」とマ
クスウェルにより完成をみた「電磁気学 (electromagnetism)」、さらに熱に関する理論である
「熱力学 (thermodynamics)」が含まれる。後に学ぶ、
「音響学 (acoustics)」や「光学 (optics)」は
これらの応用として考えられる。
この古典物理学は 19 世紀末には、ほとんどの部分が完成し、さまざまな分野へと応用されて
いった。しかしそれと同時に、もう物理学には研究すべき対象は残されていないと多くの人が考
え、研究をやめてしまうこともあったといわれている。「現代物理学」の創始者である、マック
ス・プランクは自分の指導教官に、「物理学(熱力学)は終わった学問だから、他にやることを
探したほうが良い」と言われたというエピソードは有名である。
古典物理学は、17 世紀∼19 世紀の間に一気に発展したが、その後大きな発見がないまま、20
世紀を迎えるのである。
1.1.3
現代物理学
【アルベルト・アインシュタイン】
20 世紀になると、物理学は新たな展開を迎える。古典物理学では説明のつかない現象(例えば
光の振る舞い、放射線・X線等)が次々に見つかったからである。
こうして、1900 年あたりから、今までの巨視的世界の物理学から、微視的世界の物理学への大
転換が行われた。このとき出来上がった理論が、量子力学 (quantum mechanics) と呼ばれる分
野である。この分野の開拓には、多くの天才(ボーア、ハイゼンベルグ、ド・ブロイ、ディラッ
ク、湯川、朝永など)が協力し一つの理論体系を構築していった。
それとは対照的に、ほぼ独力で新しい理論を打ち立てたのが、アインシュタインである。アイ
ンシュタインの 相対性理論 (theory of relativity) は、それまでの物理学では扱うことが無かっ
た、超高エネルギーの物体に対する物理学である。
この2つの理論をあわせて 現代物理学 (modern physics) という。現代物理学が導く結果は、
到底我々には受け入れがたいようなものが数多く存在する。例えば、相対性理論から導かれる結
論「超高速で移動する物体では、時間の進みが遅くなる(ウラシマ効果)」などは有名であろう。
この結論はなかなか受け入れがたいことだが、実験により実証されており、現実に応用されても
いる。
しかし、これらの新理論によって 世界の成り立ちすべてが解明されたというわけでは、全くない
これらの理論をもってしても、理解し得ない現象がたくさん存在するのだ。物理学者達は現在も
自然の真の姿を解明するために、精力的に活動しているのである。
問題2 20 世紀は物理学の世紀と呼ばれる。それは現代物理学がその理論に留まらずに、現
実に応用され多大な貢献をしたからである。現代の物理学の応用について知っていれば、例をあ
げなさい。
2
アインシュタインの名は物理学
に全く興味がない人でも、一度は耳
にした事があるのではないでしょう
か?相対性理論の創始者として有名
なアインシュタイン博士は、人間と
しても大変魅力的な人物で数々の名
言を残しています。大抵素晴らしい
人間性を感じるようなものが取り上
げられていますが、結構辛辣なこと
を言ってたりもするんですよね。
これなんか私好きです。『愉快に
隊列をなして行進する人間は、そ
れだけで私の侮辱に値する。彼は間
違って大きな脳を授かったのだ・・・
と言うのも、彼にとっては脊髄だけ
で十分であるから。
』
問題3 古典物理学と現代物理学には、理論と現実の関係に逆転生じていると言われる。そ
の逆転について考えてみよ。
1.2 物理学の諸分野
ここでは、今回の講座で取り扱う物理学の分野についての概説を行う。物理学は、様々な分野
から構成され、その目的も方法も様々である(自然を理解するとか、数学の言葉を用いるなどの
原理は変わらないが)。
1.2.1
力学
【放物運動】
力学は、物体に働く力とそれが引き起こす運動を分析することを目的とした、物理学の基礎と
もいえる分野である。この分野の主な目的は、ニュートンの運動方程式(F = ma)に従い、働
いている力から運動を予測することにある。またその逆に、運動から働いている相互作用につい
て分析することも多い。物理学に「∼∼力学」という分野は数多い(熱力学、流体力学、量子力
学等)のだが、単に「力学」といった場合はニュートンの作り上げた古典力学、ニュートン力学
のことを指す。
1.2.2
電磁気学
電磁気学は、電気と磁気に関する現象を扱う物理学である。この分野の目的は、もちろん電気
と磁気に関する種々の現象の根本原理 (マクスウェル方程式) を明らかにすることにあるが、実
3
物体の動きを制御するには、どの
ような力を加えればよいかは、力学
の主要な関心の一つです。
用上の観点から、電気回路についての理論的考察についても行うのが普通である。電気抵抗、コ
ンデンサなどの電子機器の構造を分析の対象とする。
1.2.3
熱学
熱の正体は、分子の運動の激しさである。よって熱についての根本を解明するには、微視的な
分子の運動を解明すればよいことになる。これは力学の範囲に属する現象であるように思えるか
もしれない。しかしながらここで言う熱力学では、熱という対象をより巨視的な視点で捉え、あ
る系の中でのエネルギーの移り変わりを研究する。熱学が発展した背景には、蒸気機関等の熱を
利用した熱機関の存在がある。現在でも、熱機関は広く利用されており(例えば発電所など)
、そ
の効率的な運用には、熱力学の知識が応用されている。
1.2.4
波動(音響学)
波 (wave) とは、何らかの物理量が周期的に変化し、それが空間に伝播する現象のことをいう。
物理学では、あらゆる現象は波か粒子のどちらかによって引き起こされるものと考える。そのよ
うに考えるほど、波とは物理学において本質的な概念である。ここでは特に音響学と呼ばれる、
音波に関する知識を研究する。音の正体は振動、すなわち波であり、その波が引き起こす物理的
現象を数学的に解明することが、音響学の目的である。
1.2.5
光学
光学は光の振る舞いとその性質及び、光を用いた光学機器と呼ばれる道具の性質について研究
する学問である。光の正体は、古典物理学の範囲では電磁波と呼ばれる、波であるとされてい
る。しかしながら、実は光は粒子としての性質も併せ持つという不可解な性質をしめす特異な現
象なのだが、この光学という分野では主に波としての光の性質を取り扱う。反射、屈折等の基本
的な光の性質とともに、レンズなどの光学機器や、回折格子による干渉実験など、光が引き起こ
す様々な物理的現象の原因を解明することが、この分野の目的である。
1.2.6
量子力学
量子力学は古典力学の範囲では説明することができない、微視的な現象を説明するために作ら
れた物理学である。主な研究対象は、原子や電子、素粒子と呼ばれる、非常に小さな物質である。
ニュートン力学においては、初期条件と運動方程式さえ与えられれば、運動は完全に予測可能で
あると考える。しかし、微視的世界においては、このニュートン力学の考え方は通用しない。位
置と運動量を同時に正確に測定することは不可能だからである。このことを不確定性原理とい
う。量子力学は現在も発展し続けている理論であり、半導体、超伝導素材の研究など様々な分野
に応用されている。
1.2.7
相対論
相対論は、アルベルト・アインシュタインが創造した物理学の分野であり、一般に 2 つの領
域からなる。一つは 1905 年に発表された、特殊相対性理論 (special relativity) であり、もう一
つは、1916 年に発表された、一般相対性理論 (general theory of relativity) である。前者は慣
性系と呼ばれる、加速度の働かない系に関する物理学であり、後者は加速度系や重力場の効果
を含めて、一般化された理論である。相対性理論は「相対性原理」と「光速度普遍の原理」と呼
ばれる 2 つの公理のもとに作られており、この前提から出発したときにおこる現象について
4
の体系である。この相対性理論からは、かの有名な (E = mc2 ) という数式が導かれ、それが
原子力エネルギー の発見に繋がったことはあまりに有名である。
1.3 物理学において必要な数学
物理学は、自然科学の中でも飛びぬけて数学との親和性が高い分野である。物理学の諸成果は
数学の言葉をもって記述される。したがって物理学を学ぶときにはどうしても数学の知識が必要
となってくる。
この講座では、初めに実際の現象を定性的に分析したあと、それを数学的に記述するために
は、このような数学が必要だという順序で順次数学の知識を導入していく。このような体系的で
ない方法をとる理由は、一言で言えば、「なぜそのような数学が必要となるのかが分かりやすい」
からである。
初学者にとって、もっとも苦痛なのは何に使うのかも分からぬまま、数学の定義や公式を叩き
込まれることであり、それは苦痛以外のなにものでもない。そういう学び方をすると、大抵それ
が役に立つころには、その公式や定義を忘れてしまっているか、もしくは物理自体に興味を失っ
ている。
しかし、中には意欲ある人や、学問の体系を重んじる人がいるかもわからないので、ここでは
この講義を理解するために必要な数学的知識を先に提示しておきたい。具体的な説明は後に譲る
が、余裕のある人は、先にこれらの分野だけでも予習しておくと、学習がはかどるかもしれない。
1.3.1
微積分
微分・積分は物理学に最も大きな貢献をした数学の分野であるといって、異論がある人はいな
かろう。そもそも、微積分を作ったニュートンは同じく力学の創始者でもあり、むしろ物理学的
な興味から、微分積分学を構築していったのである。つまり成立の初期段階から、物理学と微積
分は密接に関係していた。
ところで、微分 (diferencial) と 積分 (integral) とはいったい何なのだろうか?大雑把に
言 う と 、微 分 と は 瞬 間 的 な 変 化 率 を 測 ろ う と す る 試 み で あ り 、積 分 と は 連 続 的 に 変 化 す
る 量 の 足 し 算 で あ る 。そ し て こ れ ら は 互 い に 逆 の 演 算 と な っ て お り 、こ の 性 質 の こ と を
微分積分学の基本定理 (fundamental theory of calculus) とよぶ。
物理学では、様々な局面で微積分学の知識を用いるが、初学の際に特に重要なのは、いくつか
の関数の導関数を導けることと、積分の計算(つまり微分の逆算)ができること、また数式中の
∫
微分積分記号(dx や )の意味をきちんと把握できることである。
1.3.2
ベクトル
ベクトル (vector) とは、大きさと向きを持った量のことである。例えば速度(ベクトル量)は
10[km/s] という数値だけでは情報として不完全で、これに向きの情報を加えてやらねばならな
い。例えば北に 10[km/s] といった具合である。
速度と速さは別のものです。一
方はスカラーで、他方はベクトルで
しかしこれとは逆に、例えば温度は数値の大きさだけで記述することが可能である。このよう
な量を スカラー (scalar) と呼ぶ。物理学においては、ある量が、ベクトルなのかスカラーなの
かを区別しておくことが非常に大切である。
す。また物理学では、向きと方向と
いう言葉も区別して用います。この
違いは何かわかりますか?
5
例えば、力はベクトル量だが、エネルギーはベクトル量ではないとか、磁束密度はベクトルか
スカラーか?など様々な場面で物理学の理解に欠かせない基本的な概念である。初級の物理学と
いえどもベクトルの概念については、よくよく学んでおいたほうが良い。
1.3.3
三角関数
三角関数を覚えているだろうか。あの sin、cos、tan、という厄介な代物である。物理学では
この sin、cos、tan があちらこちらに、やたらと登場する。力の分解などの基本的使い方はもち
ろん、単振動、円運動、波動などといった現象の記述には、三角関数を用いる。それゆえに三角
関数については基本的な知識を身につけておく必要がある。特に波動の式の記述には、三角関数
の位相というものの理解が欠かせない。
1.4 科学的世界を観るために必要な基礎知識
物理学を学んでいく上で、重要だと思われる科学的な知識について、ここでは学んでいく。物
理学はあらゆる科学の基礎となる学問である。だから本来は物理学から始めて、この世界を理解
できる必要がある。しかしながら、ある程度この世界の成り立ちについて初めに(天下り的とは
いえども)知っておいたほうが、物理的現象についても理解しやすい。そのため、簡単にではあ
るが、物理学の理解に欠かせないと思われる科学的な知識や、自然科学における決まりごとにつ
いてお話しする。
1.4.1
原子
【R.P. ファインマン】
量子電磁力学を大きく発展させた、R.P. ファインマンは世界一有名な物理学の教科書「ファイ
ンマン物理学」の冒頭で以下のように述べている。
もしいま何か大異変が起こって、科学的知識が全部なくなってしまい、たった一つの文章だけしか
次の世代に伝えられないということになったとしたら、最小の語数で最大の情報を与えるのは、ど
んなことだろうか。私の考えでは、それは原子仮説(原子事実、その他、好きな名前でよんでよい)
だろうと思う。すなわち、すべてのものはアトム―永久に動きまわっている小さな粒で、近い距離
では互いに引き合うが、あまりに近づくと反発する―からできている、というのである。これに少
しの洞察と思考とを加えるならば、この文の中に、我々の自然界に関して実に膨大な情報量が含ま
最も有名な物理学の教科書『ファ
インマン物理学』は日本語にも翻訳
され、世界的なベストセラーとなっ
ています。この本の特徴は実況形式
であること。最近、大学受験などの
参考書に「実況!∼∼の英語講義」
なんてのがありますが、あれはファ
インマン先生のこの本がハシリなの
ではないでしょうか。 随所に実況ならではの面白い記
述があり、物理の世界に引き込まれ
ます。
れていることがわかる。
有史以来、人は物質の究極の構成要素について思いをめぐらせてきた、物質をどんどん小さく
小さく分けていったとき、何にたどり着くのだろうか?ある人はそれを、水だといったり、火だ
といったり、数だといったりした。現在では小さな 原子 (atom) と呼ばれるものが、物質の究極
の構成要素であると考えられている。しかし、実は原子はそれ以上分けられない最小の単位では
もうなくなってしまった。原子の内部構造について次第に明らかになってきたからである。この
原子を構成するさらに小さな物質を 素粒子 (elementary particle) という。
1.4.2
原子の構造
前段で原子は物質の最小の単位だと述べたが、じつは原子はさらに小さな物質のあつまりであ
ることが、現代では分かっている。原子はその中心に 原子核 (atomic nucleus) を持ち、原子核
の周りにはマイナスの電荷を持つ 電子 (electron) が飛びまわっている。この原子核は通常、壊
れたり、変化したりすることはない。我々が目にする科学的現象のほとんどは、原子核の周りを
飛び回る、電子の相互作用の結果である。
6
さ ら に そ の 原 子 核 の 中 に は プ ラ ス の 電 荷 を 持 つ 陽子 (proton) と 電 荷 を 持 た な い
中性子 (neutron) が 強 い 力 に よ っ て 結 び つ い て い る 。通 常 、電 子 は 陽 子 と 同 じ 数 だ け 存
在し、電気的中性が保たれる。陽子数は原子の特性を表す最も基本的な特徴であり、これを
原子番号 (atomic number) とも言う。原子は陽子の数によって区別されているのである。
【原子モデル】
中性子数は陽子数と同じであることが多いが、必ずしもそうとはいえない。ある原子で
安 定 的 に 存 在 で き る 、陽 子 数 と 中 性 子 数 の バ ラ ン ス は 決 ま っ て い て 、そ の よ う な 物 質 を
安定同位体 (stable isotope) と呼ぶ。安定的でないものは中性子を放出したりしながら、安
定同位体に近づこうとする。そのような物質を 放射性同位体 (radioisotope) という。
また原子の質量のほとんどは原子核に集中しており、電子は陽子や中性子と比べるとほんのわ
ずかな質量(陽子と中性子の質量比はほぼ 1:1 だが、電子は陽子の 1/1840 程度の質量しかない)
しか持っていない。そのため、原子の重さはほとんど陽子と中性子の数に依存している。した
がって、陽子と中性子の数を足した数を 質量数 (mass number) とよび、これが大きい原子ほど
原子一つあたりの質量が大きいことを示す。
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原子よりさらに小さな世界での
出 来 事 は 、見 る 事 が 不 可 能 で す 。
そのような微視的なものを取り扱
うときに必要なのが量子力学で
す。そこでは見るということの意
味さえ通常の世界とは異るのです。
1.4.3
分子
原子が、なんらかの理由で2つ以上(ただし、原子1つでも分子と呼ぶ物質もある。たとえ
ば、Ar アルゴンなどはそう。)結びついた電気的に中性な物質は 分子 (molecule) と呼ばれる。
この世界では、ほとんどの原子は原子のままで存在せず、他の原子と結びついて分子の形で存在
している。したがって化学反応の主体となるのは、この分子である。原子が結びつく理由は様々
だが、一般に電子共有による安定化、電気的引力によるもの、金属の自由電子に関連するものな
どのように、基本的に 電子の相互作用によって結びついている ことが多い。
1.4.4
モル
物質を量的に表すには、通常、質量や体積をもちいることが多い。しかし、化学変化等を記述
するときなどは、粒子の数で物質の量を記述 できたほうが、何かと便利であることが多い。例え
ば、2H2 + O2 → 2H2 O などという反応を考えるときは、水素 2 分子、酸素1分子が、水 2 分子
の変化すると考える。
ところが原子1つは軽すぎて(陽子1つの質量は 1.673 × 10−24 であることが分かってい
るが、これは現代だからわかることである。)測ることができない。そこで、いくつかの原子
をまとめて重さを測るしかない。よく我々が、12 個のことを1ダースといってまとめるのと
似たようなことをすればよいのである。原子の場合そのまとめを 1モル (1[mol]) という。1
[mol] は 6.02 × 1023 個のことである。6.02 × 1023 個のことをこの概念の発明者の名前を取って
アボガドロ定数 (Avogadro constant) といい NA で表す。
なぜこのような個数集めるのだろうか?じつは、1[mol] の原子や分子を集めると、その質量は
質量数と一致するのである。これは大変便利なので、物質の量を粒子数で測るときは、この束に
なった単位を使うことに決めたのである。このことから以下の式が導かれる。
物質量 [mol] =
粒子の個数 [個]
NA [個/mol]
また物質 1[mol] あたりの質量のことを モル質量 (molar mass) といい、それを定義すれば以
下の式が導かれる。
物質量 [mol] =
物質の質量 [g]
モル質量 [g/mol]
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モル質量はたいてい原子の質量数を用いて導かれるため、ある物質何 [g] が、何 [mol] に相当
するかを、上式で求めることが可能である。
問題4 モル質量という単位が必要な理由は何だろうか。(そもそもこの質問の意図は何か?)
1.4.5
単位
物理学を初めとする、自然科学において、単位 (unit) は大変重要な役割を果たしている。昔
は、国や地域など固有の単位系が様々に存在したが、単位が違うと何かと不便なことが多いの
で、現在では物理学の分野では SI 単位系 (The international system of unit) と呼ばれる国際単
位系が採用されている。SI 単位系は、MKS 単位系と呼ばれていた、長さ [m]、質量 [kg]、時間
[s] を基本的な単位として、その組み合わせでその他の単位を表す単位系を拡張したものであり、
国際度量衡総会において決められた自然科学の共通言語である。
SI 単位系における 基本単位 (basic unit) は以下の7つである。
【長さ】 メートル [m]
【質量】 秒 [s]
【時間】 キログラム [kg]
【電流】 アンペア [A]
【温度(絶対温度)】 ケルビン [K]
【物質量】 モル [mol]
【光度】 カンデラ [cd]
上記7つの基本単位を用いてほかの単位を構成していく。それには現在あるその他の単位の定
義や数式を基準にする。例えば、物理学で最も大切なニュートンの運動方程式を観てみよう。
F [?] = m [kg] × a [m/s2 ]
9
左辺 F は力、右辺は m は質量、a は加速度である。このとき力の単位は右辺の単位の計算の
結果出なければならない。したがって力の単位は [kg ・m/s2 ] となる。このようにして組み立て
られた単位のことを基本単位に対して 組立単位 (derived unit) と呼ぶ。
ただし、あまりにも単位が複雑で長くなりすぎる場合は、新たな単位を定義することもある。
例えば力の組立単位 [kg ・m/s2 ] はニュートン [N ] と呼ばれ、通常はこちらを用いることが多い。
1.4.6
有効数字
実 験 を 伴 う 科 学 に お い て 計 測 の 誤 差 は つ き も の で あ る 。物 理 学 も そ の 例 外 で は な い 。
有効数字 (significant figures) はその誤差にまつわる概念である。例えば、ある人の身長が
1.6[m] と 1.60[m] と書いてあったとする。数学的にはこれらは全く違いが無い(よって 1.60 の
末尾は普通省略される)わけだが、実は科学の分野ではこの2つの表記には明確な違いがあるの
である。
実際の計測が伴う数字においては、末尾は誤り含む数字だと考えられている。したがって
1.6[m] の末尾の 6 は誤差が含まれていると考える。一方 1.60[m] の場合は末尾の 0 には誤差が
含まれる可能性があるが、6 は確定していると考える。すなわち、1.6 よりも 1.60 の方が測定の
精度が高いのである。
<有効数字の概念を含む数字同士の計算>
問題5 以下の計算をして、答えを(通常の)有効数字の考え方に従って記述しなさい。
1) 1.73+0.2
2) 1.73×0.2
10