技術資料 発汗データロガーシステム SWEAT-L ルーセット・ストラテジー株式会社 SNT-T12ZY15 発汗(水分蒸散)の計算方法 一般に水分蒸散を測定するには、下の図のように一定方向の蒸気流の中に2個の湿度センサを 配置します。 free perspiration F [g/m2/s] H2 [g/m3] H1 [g/m3] skin L センサ出力をH1およびH2とすると、自然拡散であり、かつ皮膚〜H1〜H2の距離が短けれ ば、次の近似式が成り立ちます。なお、現象を正確に捉えるには、1次元ないし2次元の拡散方 程式(偏微分方程式)を立てて、数値解を求める必要があります。 水分蒸散量(発汗量)[g/m2/s] F = D H1 - H2 L D:diffusion constant [m2/s] このような2センサ式大気開放モデルの測定器は市販されていますが、上方(大気側)の空気 の揺らぎの影響を受け、測定は容易ではありません。周囲で手が動いただけでH 出力が変動し 2 ます。そのため、身体装着型の製作は不可能でした。 この欠点を補うために、大気開放せずに密閉し、空気ポンプで空気を循環させる方法が考案さ れました。この場合、揺らぎの無い直流(一定量)の空気を送り続けられるかどうかが、精度の 鍵を握りますが、それ以上に小型化が難しく、日常生活場面での発汗測定は困難でした。 そこで、SWEAT-Lのシステムでは、密閉型で、なおかつ自然気流を生かす方法として、シリ カゲル乾燥剤を用いました。皮膚とシリカゲルとの間の湿度差により自然な水蒸気流が作られ、 またシリカゲルが⻑時間にわたり一定の湿度を保つので、センサH2は不要となります。 F = D H1 - H s L シリカゲル湿度 Hs [g/m3] free perspiration skin H1 [g/m3] L 発 汗量 計算 の流 れ チャンバー内絶対湿度(その変化) [g/m3] 発汗量ではない! 水蒸気拡散モデルを仮定 発汗データロガー 絶対湿度2(一定値) シリカゲル 水蒸気流(自然拡散) 絶対湿度1(測定値) 温湿度センサ 発汗量(その変化) [g/m2/min] 積算 発汗量 [g/m2/min] 総発汗量 [g/m2] 時間[s] 測定時間間隔 総測定時間 積算値 (総発汗量) 総測定時間 平均発汗量 [g/m2/min] ※専用ソフトTED99での処理は「発汗量(その変化)」までです。 総発汗量、平均発汗量は、目的の時間を切り出す必要がありま すのでので、Excellなど表計算ソフトをご使用下さい。 右のグラフは,温湿度センサ出力から 絶対湿度を求めたものです.湿度の急激 な立ち上がりが発汗現象を表します.気 温がやや低く肌寒い日のため,歩行直後 は大きな発汗は見られませんが,約40 分後から,急に汗が噴き出す様子が見て 取れます. 電車内 (椅座位) 持続歩行 買い物 室内 湿度データ ※測定日:5月4日 天候:曇り,歩行中に雨 気温:15℃ 測定部位:胸部(左肋骨下部) 測定サンプリング間隔:1秒 従来,発汗は単位皮膚面積あたりの量 (g/m2/min)で表すので,装置底面蒸気 孔面積と測定室容積,測定サンプリング 間隔等の数値を用いて,センサ室からシ リカゲル室への蒸気拡散方程式から求め ます.この際,両室の距離は3[mm],拡 散係数は26.4[mm2/s](303[°K])としま 経過時間[h] す. 専用ソフトTED99ではこの値を 「PsS」と表示しています. 一方,湿度の立ち上がりを拡大して見 ると(右図),発汗がパルス的に生じ, 乾燥剤により次第に吸収される様子が分 かります.完全に吸収される前に次の発 汗が起こるので,右図のように山が連な った状態になります. すなわち,赤線のような基線を求め, これを元の値から差し引けば,発汗のタ イミングと相対的な発汗の大きさを知る ことができます(右赤線グラフ). TED99ではこの計算結果を「P sD 」とし て表示しています. なお現時点で一般に湿度センサの応答 特性は悪く,時定数5~数十秒(本機は 8秒)ですので,絶対的な山の高さの精 度(信頼性)は低いと思われます.しか し応答速度は速いので,発汗タイミング は比較的正確です. 基線(bottom line) 発汗変換後のデータ 10 8 6 4 2 0 0 1 2 3 4 経過時間[h] 発汗ロガー専用ソフトTED99は,データ収集の条件設 定,収録データのダウンロード,基線抽出(上記), 発汗計算,結果のCSV形式保存を行います. ※このページのデータはすべて,金沢大学・大学院医学系研究科・ 保健学専攻 根本鉄教授に依頼し測定して頂いたものです. 【皮膚電位活動との比較】 手掌に皮膚電位計と発汗ロガーを装着 し同時測定した例を右に示します. 右図の上段(赤)は皮膚電位水準 (skin potential level; SPL;上向きが 負)を示し,下段(青)が発汗を表しま す.発汗と皮膚電位反応(skin potentilal response; SPR)は比較的よく 一致します. 【換気カプセル型発汗計との比較】 発汗を計測する装置は,これまで換気 カプセル型しかありませんでした.これ は定量空気を皮膚面の小カプセルに送風 し,前後の湿度差を計量するものです. ポンプや電池などの部品の大きさや送風 チューブ配管の煩わしさにより,行動が 束縛されます. 発汗ロガー(青)と換気カプセル型 (緑)との同時計測例を右に示します. 単位は異なりますが,応答変化はほぼ一 致しています. 【測定部位の差】 右のグラフは,発汗ロガーを手掌と前 腕部に装着し,精神性発汗と運動性発汗 を観察した例です.心拍数変動(黄色) も同時に測定しています. 手掌の発汗(青)は暗算課題の前後に 変動が見られ,一方,前腕部(水色)は 運動時のみ反応しています. ※発汗ロガーSNT-200は,パソコンに接続し たまま,リアルタイムの計測器・記録計 としても使用できます. ルーセット・ストラテジー株式会社 ホームページ:http://www.rousettes.com/index.html eメール:[email protected] 技術資料 身体装着型 発汗ロガー SNT-200 ルーセット・ストラテジー株式会社 SNT-T11Z27 SNT-200の構造 発汗ロガーは,マイコン基板, センサ基板,容器からなります. マイコン基板には,マイコンの ほかデータの送受信を行うUSBシリアルインターフェイス接続コ ネクタ,電源およびデータロギン グ状態表示用LED,電池ケースな どが搭載されています. センサ基板には下面に3×3mm の小型温湿度センサが取り付けら れています.センサ基板は,皮膚 接触底板に取り付けられた高さ 1.5mmの枠に接着され,温湿度測 定室を形成します. 皮膚に接触する底板には直径 3mmの穴4個が開けられており, ここから蒸気(発汗)が測定室に 取り込まれます. センサの信号はI2Cフォーマッ トでマイコンへ送られます. マイコン基板とセンサ基板の間 の空間にシリカゲル(乾燥剤)を 充填し,センサ基板の蒸気孔から 流入する蒸気をすべて吸収しま す. USB-シリアル インターフェイス コネクタ LED マイコン基板 ボタン電池 ケース I2C信号線 センサ基板 蒸気孔 センサ (下面) 容器 (シリカゲル 充填) 蒸気孔 皮膚接触底板 測定室枠 標準品の大きさ: 直径33mm,高さ20mm (突起部を除く) 【発汗測定の原理】 マイコン基板 マイコン基板枠 Oリング シリカゲル センサ基板 左の図はSNT-200の組立て断面図 です.上向きの矢印で示すように, 発汗による蒸気は,温湿度センサで 検知された後,シリカゲルに吸収さ れます. このときのセンサ出力を見ると, 発汗によって一時的に湿度が上昇す ることが分かります(次ページの 図). 特許出願 - 特願2010-73544,特願2010-246833
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