無人化・情報化施工技術の高度化を実現する建設 ICT 実験棟 - 大成建設

大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
無人化・情報化施工技術の高度化を実現する建設 ICT 実験棟
森 直樹*1・上野 純*1・加藤 崇*1・梅津 匡一*1・
江田 正敏*2・片山 三郎*2・新見 孝之*2・栗原 庸聡*2
Keywords : ICT, electromagnetic shield, unmanned construction, computerization construction
ICT,電磁シールド,無人化施工,情報化施工
1.
はじめに
2.
近年,ICT(Information and Communication Technology)
いわゆる情報通信技術の進歩は目覚ましく,社会的に
建設 ICT 実験棟の概要
2013 年 3 月に完成した建設 ICT 実験棟の外観を写真
-1 に,内観を写真-2 に示す。
も幅広い市場分野での核となる技術である。その ICT
の利活用により,建設施工分野において高効率・高精
度な施工を実現するのが情報化施工である。また,一
方で,自然災害等により人の立入りが困難となった危
険作業区域などにおいて,遠隔通信手段により,建設
機械を操作しながら復旧作業等を行うのが無人化施工
である。これら情報化・無人化施工技術は,今後の社
会情勢を鑑み,益々進化してゆくものと推測される。
当社技術センターでは,この様な社会ニーズに応え,
写真-1
無人化・情報化施工技術をより高度化させるべく,革
Photo.1
実験棟
外観
Outside of ICT Construction Lab.
新的な技術開発に取り組むための実験施設である「建
設 ICT 実験棟」を建設した。
本実験施設のコンセプトを図-1 に示す。
工事現場
建設生産性の向上
(高品質・工期短縮)
危険作業を
伴う場所
自然災害
要因
より安全に
悪条件下の
環境を再現
特殊環境実験
より高効率に
より高精度に
機械による
正確・高速作業
人ではなく
機械が作業
物理的要因
機能的要因
無人化施工
機械化工法
情報化施工
様々な工法を
検証・評価
写真-2
Photo.2
多目的実験
Fig.1
内観
Inside of ICT Construction Lab.
自動化施工
技術開発
図-1
実験棟
2.1
建物概要
建設 ICT 実験棟は,建築面積 360m2,最高高さ 13m
建設 ICT 実験棟のコンセプト
の多目的実験施設である。人の立入りが困難な劣悪環
Concept of ICT Construction Lab.
境下での建設ロボット等による遠隔無人化施工や,将
来の高効率・高精度な生産性向上を目指した情報化施
*1 技術センター 建築技術開発部 建築生産技術開発室
*2 技術センター 土木技術開発部
工に対応した技術開発の為の実験施設として利活用す
る予定である。以下の表-1 に建物概要を示す。
61-1
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
表-1
Table 1
建物概要
Building summary
建設ICT実験棟
用途
実験施設
(電磁シールド仕様)
S造
地上1階
360
19.5×15.2×12
可動式コンテナ
(電磁シールド仕様)
構造
階数
建築面積(m2)
実験棟部分(m)
遠隔制御室
遠隔操作用モニター
シールドモニタリングシステム
写真-4
本実験施設において,無人化・情報化施工の技術開
Photo.4
発を行うためには,建設機械やロボット,計測機器等
遠隔制御室
内観
Inside of Remote control room
の遠隔通信・制御技術が重要となる。より信頼性の高
い確実な無線通信システム等を構築するためには,施
建設 ICT 実験棟の電磁シールド性能
3.
設内で使用する電波が外に漏れない,または施設外の
様々な電波が中に入らないようにする必要があった。
本実験施設の電磁シールド特性を把握するため,代
そこで,施設を構成する建物各部位において電磁シー
表的な建物各部位における電磁シールド性能を測定し
ルド材料を使用し,施設全体を電磁シールド化した。
た。以下に,電磁シールド性能測定方法および建物各
2.1.1
天井部
部位の測定結果を示す。
デッキスラブの鋼板材を利用し,接合部はシールド
メッシュ処理を施した。
2.1.2
3.1
壁部
測定方法
本実験施設の各部位面を挟んで,電波発信器側のア
意匠・構造面を考慮して,キーストンプレート(0.8
ンテナと受信器側のアンテナを対峙させて設置した。
㎜厚)を採用した。
アンテナ間の距離は 2m とした。次に,電波発信器よ
床部
り 30MHz,100MHz,300MHz,1GHz の各周波数の水
2.1.3
土間スラブと保護コンクリートの間に,ステンレス
メッシュを敷設した。
2.1.4
V)を測定し,電波発信器からの基準送信電圧(dBμV)と
扉部
の差分をシールド性能値とした。
扉の 4 周に導電性のウレタンガスケットを取付け,
取手部は締付力向上の為,グレモンハンドルとした。
2.1.5
平偏波・垂直偏波を発信させ,電波受信機の電圧(dBμ
尚,基準送信電圧は,予め施設内で,何も対象物を
挟まない状態での送信電圧として設定した。
シャッター部
以下の図-2 に測定方法を示す。
大型搬入口として,W5m×H7m の国内初の電磁シー
ルドシャッターを採用した。
2.1.6
遠隔制御室
建設 ICT 実験棟と同等の電磁シールド性能を有し,
シールドモニタリングシステムを設置している。
写真-3 に遠隔制御室の外観,写真-4 に内観を示す。
(シールド性能 dB=(基準値 dBμV)-(シールド測定値 dBμV))
図-2
写真-3
Photo.3
遠隔制御室
外観
シールド性能の測定方法
Fig.2 Method of Electromagnetic shield
Outside of Remote control room
61-2
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
100
測定結果
3.2
90
建設 ICT 実験棟の代表的な各部位(壁面,扉面,シ
ル)のシールド性能測定結果を図-3 から図-8 に示す。
80
電磁シールド性能[dB]
ャッター面,窓面,屋上ハッチおよびフィルターパネ
70
60
50
40
30
20
100
10
70
100
60
図-6
50
40
窓面の測定結果
Fig.6 Measurement result of shield performance (Window)
30
20
測定状況
0
10
水平
100
垂直
90
100
1000
周波数[MHz]
図-3
壁面の測定結果
Fig.3 Measurement result of shield performance (Wall)
80
70
60
50
40
30
20
100
10
90
0
水平
80
垂直
測定状況
10
100
1000
周波数[MHz]
70
図-7
60
50
屋上ハッチの測定結果
Fig.7 Measurement result of shield performance (Roof hatch)
40
30
100
測定状況
0
10
100
水平
90
垂直
80
電磁シールド性能[dB]
20
10
1000
周波数[MHz]
図-4
扉面の測定結果
Fig.4 Measurement result of shield performance (Door)
70
60
50
40
30
20
水平
10
垂直
測定状況
0
10
100
100
1000
周波数[MHz]
90
電磁シールド性能[dB]
1000
周波数[MHz]
電磁シールド性能[dB]
電磁シールド性能[dB]
垂直
測定状況
0
80
10
電磁シールド性能[dB]
水平
10
90
図-8
80
70
フィルターパネルの測定結果
Fig.8 Measurement result of shield performance (Filter panel)
60
50
40
以上の測定結果より,本実験施設の電磁シールド性
30
20
能は,40dB 以上を確保していることが検証できた。
水平
10
垂直
測定状況
0
10
100
4.
1000
今後の展開
周波数[MHz]
図-5
シャッター面の測定結果
前章において,建設 ICT 実験棟の電磁シールド性能
を検証し,本実験施設内において様々な無線通信実験
Fig.5 Measurement result of shield performance (Shutter)
等を行っても,屋外の電波環境を妨害しない,また施
設内での各種実験が,屋外電波の影響を受けないこと
61-3
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
を確認できた。そこで,今後の本実験施設の利活用に
要していた現場管理作業等も短時間で行えるようにな
ついて,基本構想を以下に述べる。
った。この様な工事現場での各種電子情報のやりとり
も,様々な悪電波環境を想定しながら行わないと,誤
4.1
無人化施工の技術開発
情報が伝達されてしまう可能性がある。今後の工事現
過去において,雲仙普賢岳での災害復旧において,
場での省力化や工期短縮を目指すにあたっては,最新
当社は無人化施工に関する数多くの実績を残した。ま
の情報通信機器を有効活用し,かつ信頼性の高い通信
た,昨今の原子力発電所における災害復旧に際しては
システムが必要不可欠であり,本実験施設では様々な
これらの無人化施工技術が大いに活躍した。また,一
工事現場を模擬して,技術開発に取り組んでいく予定
方で,健康被害を伴うアスベスト除去工事において,
である。
できる限り危険な作業区域に人が立入らなくて済むよ
(写真-6 に開発事例を示す。
)
う,遠隔操作によるロボットを利用した無人化除去シ
ステムを開発した。さらには,近い将来の少子・高齢
化に伴い,工事現場での熟練作業員は減少傾向にある。
この様な社会情勢を鑑みれば,今後の建設分野におけ
る無人化施工のニーズは高まりつつあり,そのための
技術メニューを取り揃えておくことが重要となる。そ
の核となるのがマンマシンインターフェースであり,
鉄骨建方自動
無線通信技術である。いくら優れた機械装置を開発し
作業所内無線 LAN 電話利用
ても,その機能を十分に発揮させるための伝達機能に
不安定要素があれば役に立たない。また,優れた海外
製の機械装置があっても,その機能が早期に評価でき
写真-6
計測システム
情報化施工技術の開発事例
Photo.6 Development example of Computerization construction
なければわからないで終わってしまう。次世代の無人
technology
化施工システムを構築する上で,今後は強靭な通信制
御システム開発を念頭に置きながら,本実験施設をフ
ル活用して,技術開発に取り組んでいく予定である。
5.
おわりに
(写真-5 に開発事例を示す。
)
高性能な電磁シールド機能を有する建設 ICT 実験棟
が建設され,今後は本実験施設を十分に活用しながら,
様々な無人化・情報化施工技術の開発に取り組み,次
世代建設システムの構築に繋げてゆきたい。
謝辞
アスベスト
アスベスト除去ロボット 1
写真-5
建設 ICT 実験棟の建設に際し,本社設計本部および横浜支
除去ロボット 2
店の関係各位殿に深く感謝いたします。
無人化施工技術の開発事例
参考文献
Photo.5 Development example of Unmanned construction
1) 建設 ICT 実験棟電磁波シールド性能測定報告書 2013.3
2) IT ロードマップ 2011 年版:野村総合研究所
3) 建設ロボット技術の開発・活用に向けて ~災害・老朽
4.2 情報化施工の技術開発
化に立ち向かい、建設現場を変える力~:建設ロボット
に関する懇談会 2013.4
建築・土木の建設分野において,生産性向上のため,
technology
より高精度で,高効率に施工することは,今後におい
ても重要な課題である。昨今の情報システム技術や計
測技術等の進歩は著しく,様々な電子機器やコンピュ
ータソフトの機能向上により,これまで膨大な時間を
61-4