第7回新潟出版文化賞 - 新潟県

第7回新潟出版文化賞
○新潟出版文化賞の概要・・・・・・・・・・・・・・
1
○第7回新潟出版文化賞受賞作品紹介・・・・・・・・
2
○講評「第7回新潟出版文化賞
4
選考を終えて」・・・
選考委員長
新井
満
選考委員(記録誌部門)
池田
哲夫
大田
朋子
花ヶ前
(文芸部門)
盛明
佐藤
和正
本間
由美子
若月
忠信
○応募作品目録・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
○第7回新潟出版文化賞募集要項・・・・・・・・・・24
新潟県
新潟出版文化賞の概要
1
趣旨
新潟出版文化賞は、新潟県在住者の執筆した自費出版図書に光を当て広く紹介するこ
とを目的に、平成11年から隔年で募集を行い、優れた作品を顕彰している全国でも珍
しい文学賞です。
2
募集部門
・
記録誌部門(自分史、地域史、民俗記録、郷土史、人物伝、旅行記等)
・
文芸部門(小説、エッセイ、童話、詩集、歌集、句集、絵本等)
3
応募数
第7回新潟出版文化賞には、記録誌部門78作品、文芸部門76作品。合計で154
作品の応募がありました。第1回から第7回までの応募総数は1,054作品です。
4
審査基準
・
地域の文化振興に寄与すると認められること
・
商業出版にない自費出版ならではの質を備えていること
・
独創性に富んでいること
・
記録誌部門においては着実な調査を踏まえ、自己の出版物としてまとめていること
以上の4点を審査基準とし、なかでも「地域性」と「独自性」を重視しながら、新潟
県の「文化の宝もの」にふさわしい作品を選考します。
5
第7回新潟出版文化賞
選考委員(順不同、敬称略)
・
委 員 長
新井
満
・
記録誌部門
池田
哲夫(新潟大学教授)
大田
朋子(エッセイスト)
花ヶ前
・
文芸部門
(作家)
盛明(郷土史家)
佐藤
和正(知足美術館副館長)
本間
由美子(フリーライター)
若月
忠信(文芸評論家)
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第7回新潟出版文化賞受賞作品紹介
大
賞
新潟県満州開拓史 (高橋健男、見附市、文化)
辛酸をなめた戦前、戦中の旧満州開拓移民の記録を残そうと懸命に資料を博捜した努力
に脱帽である。忘れてはならない戦争のもつ、もう一つの悲劇の記録でもある。
選考委員特別賞(新井満賞)
現代語訳
塵壺 河井継之助記 -蒼龍への熱き想い- (竹村 保、長岡市、雑草出版)
500ページ以上にもなる力作。河井継之助を研究している人にとって貴重な解釈本。
その解釈部分が読み物としても分かりやすく、文芸部門の作品として価値がある。
優
親鸞
秀
賞
越後の風景 (内藤 章、上越市、考古堂書店)
親鸞の越後時代の史料は極めて少ない。その中で県内の親鸞旧跡を歩き、伝説を集めて、
今も民衆の心に生きている「宗教家親鸞」の姿を求めた高著である。
欠けたヴィーナス (Yuuko、新潟市、編集工房ノア)
これは詩集か。もっといい呼称はないか。乳がん手術後の10年間を、追伸も入れて
37編の詩に昇華させたもの。孤独の深さ、完成度の高さ、美しいとまで言えるこの詩集
を、私は読んで沈黙した。
飴屋今昔
あめ屋が書いた飴の話
(宮越光昭、上越市、北越出版)
筆者は上越市高田名物の老舗の主である。この道ひと筋ならではの着眼点と探究心が
「飴」を軸に展開され興味深い。明治・大正・昭和の歴史・文化・習俗も丁寧な調査と筆
致で読ませる。
み お ぞ う
信念と不屈の画家
市村三男三 (なかむらみのる、阿賀野市、光陽出版社)
「イチムラを知っているか?」友の何気なく発した一言から無名の画家、
市 村 三 男 三 を 知 る た め の <旅 >を 始 め る 。 そ し て つ い に は 横 越 で 「 生 誕 100
年記念展」の開催までにこぎつける著者の 思 い が 熱 く 伝 わ っ て く る 感 動
の物語である。
- 2 -
記
録
誌
部
門
賞
『柏崎日記』に見る食風景 -幕末下級武士の喰倒れ日記 (田中一郎、長岡市、新潟日報
事業社)
食を考える、いわば「地産地消」の知恵として学ぶべきことの多い書である。江戸末期
の食の姿を克明に記した本書は、時代を生き抜く人々の食文化の集大成ともいえよう。
割地慣行と他所稼ぎ -越後蒲原の村落社会史- (中村義隆、新潟市、刀水書房)
新潟平野(蒲原地域)の複雑な土地所持慣行の意義と、そこに生きた人々の生活全体の有
り様を村落の社会史として著そうとした意欲作である。
ほうよう
近世越後諸藩放鷹制の研究 (小池豊一、上越市、放鷹文化研究会)
近世越後諸藩における放鷹(鷹狩)制についての研究である。県内では、この種の研究
成果は皆無といってよい。古文書をもとにまとめた点、学術的に高く評価できる。
おーい世界遺産 佐渡金銀山夢追いものがたり (逸見 修、佐渡市、新潟日報事業社)
島民の悲願、「佐渡金銀山を世界遺産に・・・」地元相川小学校校長を務めた筆者の情
熱の一冊。登録への取り組み、思いと絆、そして子供たちの郷土と人を愛する意識づくり
が伝わってくる。
文
芸
部
門
賞
しようめい
笑 迷 (川合笑迷、新潟市、柳都川柳社)
これまでも川柳の応募作品が多かった。その中でもこの作品は、にやっと笑ったり、シ
ビアだったり、「うん、そう、そう」と相槌を打ちたくなる句が盛り沢山だった。
川柳句集
ホームの窓から「こんにちは」
-出あい
ふれあい
ひとりごと-
(田村淳子、新潟市、郁朋社)
私は、こんな本を密かに待っていた。老後を、どんなところで、どんなふうに過ごし、
死んでいくか。これらの問いを、正確なデータと実践例で過不足なく答えてくれている。
いま、入居しているホームからのレポートは、とびっきり新鮮だ。
上海シバ 第二巻・第三巻 (野澤宣弘、阿賀野市、新潟雪書房)
アフリカの貧困、中国の国際進出、レアメタルの発掘権、児童臓器の売買問題、原
子力再処理問題などわれわれが抱えるさまざまな問題をBGMのごとく、背景に奏で
ながら、大勢の人物を登場させ、時代の<今>を“物語”としてクローズアップさせた
力作。
田舎魂 第十二集 (岡崎利孝、佐渡市、著者本人)
自費出版の良さの一つは自分の思いの丈を書き、自分で出版すること。その代表的な作
品と言える。分かりやすい文章で、ときどき声を出して笑う部分もあり、郷土性もある。
- 3 -
講評
新井
「第7回新潟出版文化賞
選考を終えて」
満(作家)選考委員長
1999年から1年おきに行われてきた新潟出版文化賞(新潟県主催)は、本年で7回
目を迎えた。回を重ねてくると、やはり気になるのは応募作品数の変化である。さらに、
大賞が文芸部門から出たのか、記録誌部門から出たのか、という点にも興味がわく。ちょ
っと振り返ってみよう。
第1回(1999年)
82点
記録誌
第2回(2001年)145点
記録誌
第3回(2003年)148点
文芸
第4回(2005年)208点
文芸
第5回(2007年)158点
記録誌
第6回(2009年)159点
記録誌
第7回(2011年)154点
記録誌
大賞の出身部門は、記録誌が優勢である。応募作品数はどうやら150台に定着したら
しい。本賞は、どちらかというと地味で初版部数も少ない“自費出版物”を対象としてい
る。そのような文学コンクールに、毎回、100点以上の応募があるというのは、すばら
しいことである。新潟県の文化水準がいかに高いかがよくわかる。新潟県民は、本賞の存
在を大いに誇り、自慢して良いと思う。
さて、このたび最終選考会に残ったのは、記録誌部門が8作品、文芸部門が9作品。合
計17作品であった。会の冒頭、このたびも私は、応募要項に記されている4つの選考基
準を読み上げ、その中でもとりわけ
①
内容にオリジナリティはあるか
②
新潟県というローカリティはあるか
以上2つが重要である旨をお話した。選考の結果、大賞に『新潟県満州開拓史』(高橋
健男
文化
5500円)が決まった。埋もれていた歴史資料、手記、入植地図、当時の
新聞記事などの発掘。現地訪問による確認と写真撮影などなど、長年にわたる努力と情熱
がなしとげた労作である。新潟県から送り出された全ての満州開拓団と全ての青少年義勇
軍の全貌が、本書によって初めて明らかになった。本書冒頭で、元新潟県開拓民自興会第
5代会長・長田末作氏は次のような言葉を寄せている。「…本来なら私どもがまとめなけ
ればならなかった歴史事実を、戦後生まれの方がまとめてくださったことに頭が下がる思
いです」。多くの選考委員の支持を得て、堂々たる大賞受賞となった。
次に、文芸部門の『現代語訳
塵壺
河井継之助記
- 4 -
―蒼龍への熱き想い-』(竹村保
訳
雑草出版
2835円)について。ある選考委員から「この作品を選考委員特別賞(新
井満賞)に押したい」という提案があり、私も賛成することにした。最近の私は、
「老子」
から「般若心経」まで“自由訳”と称した現代語訳にとりくんでいる。本書の現代語訳は、
竹村流の自由訳とも言うべきもので、面白いこころみだと思う。
なお優秀賞として、記録誌部門から『親鸞
80円)と『飴屋今昔
越後の風景』(内藤章
あめ屋が書いた飴の話』(宮越光昭
考古堂書店
北越出版
16
1200円)の
2作品が選ばれた。前者は、約800年前、越後に流された親鸞ゆかりの地を訪ね歩いた
もの。オリジナリティとローカリティの両面をかねそなえた好著で、本賞にふさわしい受
賞となった。
また文芸部門からも、次の2作品が選ばれた。『信念と不屈の画家
むらみのる
ア
光陽出版社
市村三男三』(なか
1000円)、『欠けたヴィーナス』(Yuuko
編集工房ノ
2100円)。後者は、乳癌をモチーフにした散文詩集である。選考委員に支持者が
多く、私も一票を投じた。受賞された皆さん、まことにおめでとうございました。
池田
哲夫(新潟大学教授)記録誌部門選考委員
今夏も季節の暑さとは別の、熱いまなざしと気迫を背に感じながら応募作品を全部読ま
せていただきました。頁をめくるたびに、行間にあふれる著者の強い思い入れを感じ、深
いため息をつくこともしばしばでした。
今回の応募作品の中には、戦後世代の方が戦争中の出来事を書き綴った記録もあり、
「戦
争を風化させてはならない」という強い思い入れを感じました。私も戦後生まれの世代で
すが、戦争は小さなマチやムラも例外にはしなかったことを、いまさらながら作品を通し
て痛感しました。
新潟県は、海、山、平野、川、湖ありと地理的にも大変バラエティに富んでいますが、
そうした土地に刻まれた人々の生きた歴史や民俗を、これが記録誌と言わんばかりの迫力
ある作品に仕上げた個性的なものが多かったのも、今回の特徴だと思います。
記録誌部門への応募作品のほとんどが、入念な調査や丹念な史資料の収集の成果にもと
づき書き上げられており、そこに至るまでの大変なご苦労とご努力に脱帽します。
毎回、仕事として、立場上応募作品に序列をつけることをしなければならないのですが、
そのこと自体に大きな戸惑いを感じています。応募作品を拝読した限り、作品に甲乙をつ
ける資格など私にはないことを自覚するばかりでした。それほどにすぐれた作品が多く目
立つ部門でもありました。幸いなことに選考会では、私の取りあげた作品と他の選考委員
の取りあげた作品がおおかた一致したことで胸をなでおろしました。
日本を語るには、まず地域を知らなければなりません。地域を知るための手引きとして
も重要な、記録誌群という大きな財産が今回も多く誕生したことを喜びたいと思います。
- 5 -
大田
朋子(エッセイスト)記録誌部門選考委員
省エネ、エコ・ライフと言いつつも、世の中はハイテクに頼る時代だが、誰が何と言お
うと本のページを手でめくり、活字を直接目する行為は「紙の書籍」に限ると秘かに思っ
ている。紙の手触りやインクの匂いを五感で感じ、作者の熱い思いと対峙できるこの時間
こそ貴重で至福の真夏の出来事でもある。
今年もまた新潟出版文化賞の選考の時期がやってきた。限られた時間の中で、初めて出
あう作品は、ページをめくる音も紙やインクの匂いも新しい。今回も個性的な作品が目立
ってきたように思え、質の高さがうかがえた。作品に出会うことと読む楽しみ、知る喜び、
そして選ぶことの難しさを感じたように思っている。
そんな中、新潟ならではのひと・もの・こと、そして筆者の熱意や人柄(と表現すると
不遜だが、あえてこう表現する)が伝わってくる作品、読んでいて人の息遣いや体温が感
じられる作品を選考していった。特に記録誌は、ともすると史実の記録に重きを置くあま
り、門外漢を拒絶する傾向にあるが、当文化賞は新潟の宝物をできるだけ多くの人に知っ
てほしいということもあり、筆者や登場人物のイメージが想像できる作品に注目した。
『飴屋今昔
あめ屋が書いた飴の話』は、83 歳の筆者渾身の作。まさに「飴は飴屋」、
飴を通して越後高田藩の歴史・文化・習俗から日本の中の新潟の位置も見えてきて面白
い。文章にも氏の優しさがにじみ出ていて、読後、粟飴が食べたくなった。『『柏崎日記』
にみる食風景
-幕末下級武士の喰倒れ日記』は、江戸時代の武士の食を考察して、古来
より食王国新潟であったと確認させる。『近世越後諸藩放鷹制の研究』も本県の鷹狩りの
存在に光をあてた。今年の新潟文化祭のテーマは「新潟を照らす文化の光。」である。応
募されたすべての作者の創造の灯が、新潟の文化を照らす大きな光となって継承されてい
くことに期待したい。
花ヶ前
盛明(郷土史家)記録誌部門選考委員
私は今回、はじめて記録誌部門の選考委員になった。そのため、どのように対応してよ
いか、わからないまま78冊の応募作品を読みまくった。暑さと時間との戦いであった。
どの作品も着実な調査を踏まえた力作ばかりで、甲乙つけがたいものであった。私は自
分の研究の経験をもとに、じっくり読ませて頂いた。文章に作者のあつい思いがこめられ
ていて、私にひしひしと伝わってきた。私も常にそんな思いで執筆してきたからである。
全作品の中で、一番驚いたのは、『新潟県満州開拓史』であった。745ページにわた
る大作で、歴史資料・手記、当時の新聞などをもとによくまとめられたと感服した。ここ
まで出来るのか、と感じた。
学術的な作品として、『割地慣行と他所稼ぎ-越後蒲原の村落社会史-』『近世越後諸藩
放鷹制の研究』『関原町史』などを評価したい。
読破して心に残った作品は、『おーい世界遺産
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佐渡金銀山夢追いものがたり』『新潟の
妖怪』
『夫婦鉋』
『飴屋今昔
あめ屋が書いた飴の話』
『親鸞
越後の風景』などであった。
とくに『おーい世界遺産』は、相川小学校長を最後に定年退職された作者の佐渡金銀山
の世界遺産登録への熱い思い、生徒たちとの登録運動への軌跡が書かれている。
『夫婦鉋』
は鉋鍛冶・打ち刃物師の作者が、職人でなければ書けない貴重な作品である。
今後、注目したいのは『越後赤塚』第21号、第22号である。新潟県内各地に郷土史
研究会があり、それぞれ調査研究の成果を発表している。日々、歴史資料が失われていく
昨今、記録に残しておかなければならない。出版文化賞に加えるかどうかは別として、県
内各地の郷土史雑誌を一堂に集めることも必要ではなかろうか。どの研究会も会員の高齢
化、減少により存続があやぶまれている会もすくなくない。郷土史研究会の健闘にエール
を送りたい。
佐藤
和正(知足美術館副館長)文芸部門選考委員
自費出版文化賞は、ある意味で新潟県民の文化度を測るバロメーターであるといわれて
いる。地方財政の悪化の中で、縮小のシワ寄せはとかく文化の振興に寄せられがちな中、
この賞が本当に地域の文化の活性化を図りながら賞の存在を励みに独自の文化の芽を自分
たちの中で育てていっているだろうかが問われているに違いない。今回寄せられた作品群
を読んでいると、「伝えたい」「感じて欲しい」「残しておきたい」という叫びにも似た<
想い>の多さに驚き、自分なりのメッセージを織り込んだ書き手の息遣いが感じられる作
品に好感がもてた。文芸部門は76作品。
「いのち」
「闘病」
「老後」
「家族の絆」
「郷土史」
「災害」「ルポ」「趣味」「文化」など多彩なテーマが寄せられた。
なかむらみのるさんの『信念と不屈の画家
市村三男三』は市村三男三を「調べなきゃ」
と始めた、絵と人間の謎解き感に、著者自らの生きようを真摯な思いで重ね綴られていて、
一気に読ませる面白さがあった。あまりよく知らなかった主人公を探るプロセスに多少の
まだるっこさがあるものの、「生誕100年記念展」にまでこぎつけた地域との密着性は
評価が高い。野沢宣弘さんの『上海シバ』は第2,3巻が対象で、できれば第1巻も読み
たかった。物語の展開が劇画的で、スピード感がある。取り込みの多さが“難゛と言えな
くもないが、遊び心が随所に散りばめられていて、何よりもドラマ仕立てのうまさが光っ
た。
竹村保さんが訳した『現代語訳
塵壺
河井継之助記
-蒼龍への熱き想い-』は過去
に訳されたものに比して“竹村調”が色濃く、個性がにじみ出ているのがいい。継之助の
メモ書きを文章化するにあたって想像力を相当に加え、彼の人間性の内面にまで踏み込ん
だ訳は単なる翻訳を超えたものに仕上げてあるといえる。他に気になったのは『中国人の
DNA』(鷲尾謙治著)と『父として男として先輩として』(大島庸克著)の2点。特に今
後考えていかなければならないのは近年、非常な勢いで台頭しつつある電子図書である。
大島作品に見られるこのジャンルをどうフォローしていくか検討課題として残った。
- 7 -
本間
由美子(フリーライター)文芸部門選考委員
作品を読むたびに感じるのは、自分の想いを“形”にしたいという応募者たちの熱い気
持ちです。今回は残念ながら受賞作とならなかった作品の1冊1冊のページを開くたびに、
その熱い想いが伝わってきて、物を書くのを生業としている身としては襟を正すことも多
くありました。
それら応募作の文芸部門76点、記録誌部門78点、計154点の中から、応募者全員
の想いを受け取って受賞された14作の著者の皆さん、おめでとうございます。皆さんは
応募作の代表者です。多くの人たちの想いを受け取り、胸を張って授賞式に臨んでくださ
い。当日、お会いできるのを楽しみにしています。
今回の総評についてですが、作品の質はどんどん高まっています。それは洗練されてき
ているという意味でもあります。と同時に、郷土性がくっきり出ている作品も少なくなっ
ているように思います。
郷土性というのはある意味、土着っぽく、泥臭い面があります。新潟出版文化賞の良さ
はその土着性に根差したものの掘り起こしという部分もあるように思っています。受賞か
らもれた作品の中には、その郷土性、土着性をもっと前面に出すとよかったのに、と思う
作品もありました。大賞になった「新潟県満州開拓史」はその点、新潟ならではという郷
土性を前面に出し、ち密に構築した作品で圧巻でした。
文芸部門の選考委員としては、小説の応募作が少なかったのがとても残念でした。小説
は文芸部門の代表格です。次回はより多くの応募をお待ちしています。詩の応募作も今回
は少なかったのですが、その中で「欠けたヴィーナス」は文芸部門選考委員が全員で押し
た作品でした。特に同じ女性である私は、読み終わった後で泣きそうになりました。
ほかの受賞作も秀作がそろっています。多くの県民の皆さんに、受賞の全作品をぜひ読
んでもらいたいと願っています。
若月
忠信(文芸評論家)文芸部門選考委員
今回、文芸部門に応募した76作品、その1冊1冊を手に取って読みながら、こんなこ
とばを口にしている。
「自費出版したよろこびが伝わってくる。」
「労作だ。」
「力作だ。」
「感
動した。」そして、用意したメモ用紙に、寸評を書き込む。受賞作品を絞り込むために、
自分なりの記号も付け加える。このあと、他の二人の選考委員と話し合うときの、手がか
りのためだ。
今、手元にあるメモ用紙から、いくつか書き写してみる。本の題名と著者も一緒に。
「馬鹿にするな!」薄田健三郎
題が個性的でおもしろい。格言集のようだ。本音でものを言っているので読んでいて気
持ちがいい。
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「孤独に耐えて」河内視瑳
取り上げている内容の多様性は評価する。素直な文章は読みやすく、共感を呼ぶ。バラ
ンス感覚もいい。
「「コシヒカリ」のわが郷「一寸のムラにも五分の魂」」山﨑浩
問題提起と解決法に普遍性があり、他の問題にも応用可能だ。ドキュメントに迫力があ
る。楽しんで書いている。
「認知症になっても心は生きている
心からの言葉」等々力務
今、必要とされている分野本。豊富な事例の引用、実践を通しての発信は説得力がある。
「限りなく透明な世界
すずらん短歌集」上林洋子
小冊子だが、自費出版のよころびが、深く静かに伝わってくる。25年間に詠んだ短歌
が過不足なく引用され、美しい効果とまとまりをみせている。行動も思いも、母・娘・夫
もみんな詰まった小体の本だ。
「雪影」北村美都子
句集ならこれだ。「雪雪雪雪雪ねむくなるくすり」三好達治の詩の「太郎をねむらせ
太郎の屋根に雪降りつむ・・・・・・」の俳句バージョンだ。
「随筆集
雪の山里に住み継ぐ」高橋実
プロ並みの筆力。素材も文体も極上。
「鬼火
清水マサ詩集」清水マサ
長い人生の中から生み出された詩群。表紙のみごとさ。「花束」がいい。
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