引佐総合公園グラウンドナイター照明設計 ~照明光が周辺環境に与える影響~ ㈱フジヤマ 小栗隆輔 1. はじめに 引佐総合公園「すぽるてん」は、標高 32.0mの引佐市街地を一望できる高台に位置しており、敷地面積は 9.4 ha、主な施設としては多目的グラウンド(2.0ha)・児童公園及びテニスコート(6 面)より構成され、整備 面積は敷地面積の概ね 50%(4.5ha)となっている。 引佐総合公園周辺において、西側に工場及び水田・畑地、東側には果樹園が広がっており、特に周辺農地への 環境への配慮が整備における課題となっていた。 このため、特に農作物の生育環境に影響を及ぼす夜間照明について、光源の配置・高さ・器具数についてシミ ュレーションを行い、光害のない設備計画を行うことにより、農地への環境への配慮を行うこととした。 下記にその事例報告を示す。 位置図 S=1:40,000 ①南西方向の眺望 ②西側に広がる水田・畑地と隣接する工場 ① 果樹園 (ミカン) テニス コート 多目的グラウンド 駐車場 水田・畑地 メイン ゲート ② 児童公園 ③児童公園から見た多目的グラウンド ③ 工 場 ① 図 1-1 平面図 :果樹園(ミカン) :水田・畑地 :写真位置と方向 S=1:5,000 2. 計画条件 各施設用途を満足する照明施設の計画条件は以下の通りである。 1) 照 度 多目的グラウンドの照明施設については、軟式野球場1面、サッカー及びソフトボール各2面の利用となり、 各競技において必要な照明照度を設定した。 表 2-1 照明平均照度一覧表(JIS 基準照度はレクリェーション対応) 対 グラウンド 象 JIS 基準照度(Lx)〔均斉値〕 設計照度(Lx)〔均斉値〕 既存施設(実績) 軟式野球 150~300(内野)〔0.5 以上〕 75~150(外野)〔0.3 以上〕 500(内野)〔0.5 以上〕 300(外野)〔0.3 以上〕 500(内野) 300(外野) ソフトボール 75~150(内野)〔-〕 30~ 75(外野)〔-〕 250(内野)〔-〕 150(外野)〔-〕 300(内野) 200(外野) サッカー 75~150〔0.25 以上〕 150〔0.25 以上〕 - 【既存施設について】 引佐総合公園は、旧引佐運動広場(旧引佐町東黒田)の第二東名建設に伴い、移転代替として整備されたもの で、町としては旧引佐運動広場と同等以上の照度を希望しており、本施設に反映させるに至っているものである。 2) 光 源 多目的グラウンドの光源の選定にあたっては、太陽光(自然光)に近いメタルハライドランプを中心に、経済 性を考慮して高圧ナトリウムランプとの混交照明(メタルハライド 8:高圧ナトリウム 2)とした。 表 2-2 ランプ特性(参考) ランプの種類 電 力 (W) 光 束 (lm) 効 率 (lm/w) 色温度 (k) 平均演色 評価数(Ra) 定格寿命 (h) メタル ハライド ランプ 高演色型 MT1500~2000B/D 1500~2000 125000~170000 85 6000 75 6000 高圧 ナトリウム ランプ 低パルス 始動型 NH660LS~NH940LS 660~940 95000~138000 144~147 2050 25 12000 ※目安として、太陽光(自然光)で 6000~7000(k)、100(Ra)程度 3)照明塔の配置及び照明器具の取付高さ、器具数 ◆照明塔の配置 野球 1 面 ソフトボール 2 面 S-1 S-2 照 S-8 S-3 S-7 S-4 18 灯用 S-6 明 塔 8 灯用 S-5 サッカー2 面 図 2-1 照明塔配置の決定 野球・ソフトボール・サッカー競技が重複可能な 各照明塔位置を調整し、計画配置を決定した。 (S-1~8、計 8 塔) ◆照明器具の高さ JIS Z 9120・9121 により照明器具の取付高さはグラウンド面からH=21.0(m)となった。 ◆照明器具数 各競技ごとの照明計算を行い、必要器具数を決定し、各照明塔に適切に配分した結果、S-1~5 と S-8 は 18 灯、S-6、7 は 8 灯で、合計器具数は 124 灯となった。 これより上記計画条件のもと、各競技ごとの照度分布のシミュレーションを行いながら、グラウンド面の必要 照度と周辺への漏光の確認を行った。 その中でも「野球」については、特に周辺への漏光量と拡散が大きい配光分布となった。 0.5 0.5 10 1 2 20 50 1 100 2 200~500 5 5 100 50 100 50 20 20 10 10 2 単位:Lx :果樹園(ミカン) :水田・畑地 図 2-2 照度分布図(光害対策前) 西側に広がる水田・畑地 東側斜面の果樹園(ミカン) 3. 光害対策と照明設備の再検討 前述より、隣接する果樹園や水田・畑地へ、1~5Lx の漏光が確認されたことから、夜間照明光が農作物へ与え る影響を調べ、漏光対策のために照明施設の再検討を実施することとした。 1)周辺農作物への光害の影響について 光害の影響について文献等によれば、水稲やホウレン草は夜間光の影響を受けやすいとされている。 水稲については、数ルクスの照度でも出穂が遅れ実が育ちにくい品種があり、照度の強さや日数によっては不 出穂のケースも見られる。 またホウレン草においては、光に対し敏感な性質をもっていて、照度の強さや日数によっては“糖”が蓄積し 出荷時には商品価値を失ってしまう。果実(ミカン・モモ・ブドウなど)についても同様に光に対する影響が確 認されている。 よって下記参考文献を基に、光害対策の条件として表 3-1 を満足するように照明設備の再検討を行った。 表 3-1 周辺への漏光照度の設定 漏 水 稲 ミカン 光 照 度 (終 夜 照 射) 2Lx を超えると出穂遅延などが見られ、籾数及び重さが減少する。 2Lx 以下 10Lx 程度の夜間光の場合、緑化時期から新芽の成長に至るまで、生育の遅れが見ら れ、実も 10%程度減少するが、夏期の摘果を経て最終的には収穫に影響はない。 10Lx 以下 参考文献 : 1)和歌山県農林水産総合技術センタ-研究報告第 1 号 「水銀灯による夜間照明が水稲の生育・収量に及ぼす影響」 ・・・・・川村和史-農業水産総合技術センター農業試験場 2)総合研究所「道路照明ランプが温州ミカン樹と果実品質に及ぼす影響に関する試験」 ・・・・・真子正史・大垣智昭-神奈川園試根府川分場 企画調整部 3)「漏光検討書」・・・・・小糸工業(株)照明技術部 2) 照明設備の再検討 複数競技が共有する多目的グラウンドの照明塔の配置及び照明器具の高さ及び器具数については、各競技のプ レーに支障のないよう JIS 基準に従い決定してきたことから、周辺への漏光対策については光害対策型照明器具 の性能を再検討することで、光害への対応を図ることとした。 光害対策型照明器具については、従来品(丸型投光器)に上方へ漏れる光をカットする遮光ルーバーを装着した タイプと光害対策専用器具タイプがあり、双方について比較検討した。 その結果、上方へ漏れる光を抑え、無駄なく照射効率が高い照明器具で、さらに従来品との価格差が少ない、 MA社製の光害対策型照明器具を採用することとなった。 以下に、各メーカーの光害対策型照明器具の比較表と構造について示す。 表 3-2 光害対策型照明器具比較表 耐 候 性 価格比 (同一照度設計時) ①照度同等の場合 1000w 時は灯数約 4 割増 1500w 時は灯数同等 ②灯数同一の場合 1000w 時は照度 30%減。 1500w 時は照度同等 本体はアルミダ イカストアクリ ル焼付塗装によ り、充分な耐候 性を有する。 従来の丸型投光器に比べ 150%(1000W時) 130%(1500W時) 上方光束比 約 70%カット、 器具総合効率 60% 程度 ①照度同等の場合 1000w 時は灯数同等 1500w 時は灯数約 3 割減 ②灯数同一の場合 1000w 時は照度同等 1500w 時は照度 40%増 アルミダイガス トで耐食性、堅 牢性に優れ、灯 具黒塗装により 本体の反射光を 抑える。 従来の丸型投光器に比べ 100%(1500W時) 上方光束比 約 70%カット、 器具総合効率 60% 程度 ①照度同等の場合 1000w 時は灯数同等 ②灯数同一の場合 1000w 時は照度同等 アルミダイガス トで耐食性、堅 牢性に優れ、灯 具黒塗装により 本体の反射光を 抑える。 従来の丸型投光器に比べ 115%(1000W時) 器 種 投光器諸元 光学性能 (従来型に対し) 効 率 (従来型 1000w に対し) KI 社製 メタルハイドランプ 1000・1500W 光害対策用遮光ルー バー装着投光器 上方光束比 50~60%カット 器具総合効率 40% 程度 MA 社製 メタルハイドランプ 1000・1500W 光害専用角型灯具 (ルーバ内蔵) IW 社製 メタルハイドランプ 1000W 光害専用角型灯具 (ルーバ内蔵) ◆従来の丸型投光器に光害対策用の遮光ルーバーを取付けたタイプ KI社製 + = 一般的な遮光板 丸型投光器 (従来品) 丸型投光器に光害対策用 の遮光ルーバーを取付け た投光器。 光害対策型遮光ルーバー ◆ランプケースから専用に製作された光害対策型投光器で、遮光ルーバーが内蔵されている。 各メーカーでランプケース内面形状が異なるため、照射効率等に違いが現れる。 MA社製 光害対策型遮光ルーバー内蔵 光害対策用ケース IW社製 光害対策型遮光ルーバー内蔵 光害対策用ケース 1 2 5 10 0.1 20 0.5 1 50 100 2 0.5 200~500 10 100 20 5 10 100 0.1 1 2 5 20 50 50 1 0.5 :果樹園(ミカン) 単位:Lx :水田・畑地 図 3-1 照度分布図(光害対策後) 光害対策後の多目的グラウンド照度分布のシミュレーションを行ったところ、グラウンド周辺敷地における照 度は、図 3-1 より最大 1Lx 以下となり、日没から 22 時までの夜間点灯においては、2Lx 以下を条件とした水稲及 びミカンにおける照度を満足することができ、光害の影響は生じない結果となった。 またコスト面においても、従来品とほぼ同価格に抑えることが出来た。 4. おわりに 今回の多目的グラウンド照明設計では、光害対策の検討と合わせて、照明光への集虫対策も併せて検討した。 照明塔を中心に周辺 1km 範囲の夜蛾やカメムシなどの虫が集虫し、消灯後には周辺樹林・農地へ拡散する対策と して、照明塔に電撃殺虫器を設置し、対応することとした。 照明施設の整備後に、周辺の農地及び自生樹林地等の環境の変化を調べることが好ましいが、現時点において、 周辺農家から農作物の品質・収穫量についてクレーム等もないことから、光害の影響を抑える等の効果があったと考 えている。 照明を整備する環境は、中心市街地・繁華街から郊外・農村部までさまざまであり、光害に対する認識の多様化 と対策・防止等の要請も高まってきているなかで、この事例が、農地に隣接する道路照明施設の整備等における環 境対策の一助になれば幸いである。
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