遷移金属触媒によるヘテロ小員環化合物の カルボニル化反応 Transition Metal-catalyzed Carbonylation of Smallring Heterocyclic Compounds A 01 東京大学大学院工学系研究科 中野 幸司 1.はじめに ヘテロ小員環化合物をカルボニル化すると、 ヘテロ原子官能基をもつカルボニル化合物を効率的に合成で きる 1。 例えば、 エポキシド、 アジリジンの環拡大カルボニル化では b -ラクトン、 b -ラクタムが得られ、 一 酸化炭素との交互共重合ではポリエステル、 ポリアミドが合成できる。 これらの化合物は医薬 ・ 農薬中間体 や機能性樹脂として有用な化合物であり、 効率的かつ選択的な触媒系の開発は重要な課題である。 今回、 ロジウム錯体をもちいたハロゲン化アルキル、 一酸化炭素、 エポキシドからの One-pot ハロヒドリン合成および コバルト-アルミニウム複核錯体をもちいたオキセタンと一酸化炭素との共重合に関して検討をおこなったので 報告する。 2.ハロゲン化アルキル、一酸化炭素、エポキシドからの One-pot ハロヒドリン合成 ハロヒドリンエステルは、 生理活性物質などの合成中間体として有用な化合物である。 このハロヒドリンエス テルのもっとも単純な合成法として、 酸ハロゲン化物とエポキシドとの反応が報告されている。 また、 パラジウ ム触媒をもちいたハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリールと一酸化炭素およびエポキシドの三成分連結 反応による合成法も報告されている。 しかし、 これらの手法では、 末端エポキシドをもちいた場合に、 位置 異性体が生じる。 一方これまでに、 アニオン性ロジウム錯体をもちいて、 ハロゲン化アルキル、 一酸化炭素、 エポキシドから位置選択的にハロヒドリンエステルを合成できることを見いだしている。 今回、 基質適用範囲な らびに反応機構に関する検討をおこなった 2。 触媒量の [PPN][Rh(CO)4] 存在下 ([PPN]+ = [Ph3P=N=PPh3] +)、 臭化ベンジル、 一酸化炭素、 プロピレン オキシドを反応させると、 プロピレンオキシドのメチ レン炭素に臭化物イオンが求核置換して生成する ハロヒドリンエステルを得た (Table 1, entry 1)。 ピ リジン誘導体を添加することで反応は加速され、 収 率 77% で目的物を得た (entry 2)。 一方、 同じ 9 族金属であるコバルト錯体をもちいた場合には、 目 的のハロヒドリンエステルに加え、 一酸化炭素が取 り込まれていないハロヒドリンエーテルも副生した (entry 3)。 また、 アニオン性金属中心の求核性が より高いと考えられるマンガン錯体をもちいた場合 には、 基質を回収したのみであった (entry 4)。 次 に、基質適用範囲に関して検討をおこなった (Table 2)。 エポキシドとして、 光学的に純粋な (S) -プロ ピレンオキシドをもちいると、 その絶対配置を保っ たハロヒドリンエステルが得られる (entry 1)。 また、 シクロヘキセンオキシドなどの脂環式エポキシドも -36- の官能基をもつエポキシドをもちいた際にも、 位置選択的に対応するハロヒドリンエステルが生成した (entries 3 and 4)。 一方、 ハロゲン化アルキルとしては、 塩化ベンジル、 ヨウ化メチル、 臭化アリル、 ブロモ酢酸メチ ルなどが適用可能であるが (entries 5−8)、 1- ブロモブタンや 2- ブロモブタン、 ブロモベンゼンなどでは反応 が全く進行しなかった。 想定している反応経路を Scheme 1 に示す。 まず、 [PPN][Rh(CO)4] に対してハロゲン化アルキルが酸化的 付加して錯体 5 が生じ (path a)、 一酸化炭素が挿入してアシルロジウム種 6 が生成する (path b)。 ピリジン 誘導体が存在しない場合には、 アシルロジウム種 6 に対してエポキシドとハロゲン化物イオンが反応してハロ ヒドリンエステルが生成するとともに、 [PPN][Rh(CO)4] が再生する (path c → d)。 一方、 ピリジン誘導体が存 在する場合には、 アシルロジウム種 6 がエポキシドとピリジン誘導体と反応してピリジニウム中間体 7 を生じた 後に (path e → f)、 ハロゲン化物イオンが求核攻撃してハロヒドリンエステルが生成し、 [PPN][Rh(CO)4] が 再生する (path g)。 path a の酸化的付加はアニオン性ロジウム種の求核攻撃を経て進行していると考えられ、 立体障害の少ないハロゲン化メチルやハロゲン化ベンジルなどの活性化されたハロゲン化アルキルの場合に 反応が進行する。 また、 ピリジン誘導体の添加により反応が加速されることから、 path c → d におけるエポキ シドの開環は遅いが、 より求核性が高いピリジン誘導体が共触媒として協奏的に機能することでエポキシドの 開環が加速されている (path e → f) と考えている。 -37- A 適用可能であり、 トランス体のハロヒドリンエステルが生成する (entry 2)。 エーテル基やブロモメチル基など 01 A 01 3.コバルト-アルミニウム複核錯体をもちいたオキセタンと一酸化炭素との共重合 オキセタンと一酸化炭素との共重合が完全に交互で進行すれば、 ポリ (4-ヒドロキシブチラート ) [ ポリ (g - ラクトン )] が得られる。 g -ラクトンは熱力学的に非常に安定であり、 高温 ・ 超高圧 (>100 °C, >1.0 GPa) と いった過酷な条件でしか単独では開環重合しないため、 本共重合が進行すれば、 ポリ (4-ヒドロキシブチラ ート ) の現実的な合成手法となる。 これまでに、 アシルコバルト錯体をもちいることでオキセタンと一酸化炭素 との共重合に成功しているが、 得られる共重合体は完全な交互共重合ではなくエーテル結合を多く含み、 ま た分子量も低いことがわかっている 3。 今回、 コバルト-アルミニウム複核錯体 8 をもちいてオキセタンと一酸 化炭素との共重合を検討した。 溶媒としてトルエンをもちいた場合、 対応するラクトンのみが生成する。 一方、 無溶媒下で反応させると、 共重合が進行した (Table 3)。 得られた共重合体はいずれもエステルユニットとエーテルユニットが混在した 共重合体であった。 反応温度の上昇に伴って得られるポリマーの収率およびエステルユニットの含有率は向 上するが、分子量は低下した(entries 1−3)。 以前に報告しているアシルコバルト錯体 9 をもちいた重合系では、 分子量が大きな共重合体を合成する場合にエステルユニットの含有率が極端に低くなる (entry 4)。 一方、 コ バルト-アルミニウム複核錯体 8 をもちいた場合、 収率は低いものの、 ある程度のエステルユニット含有率を 保ったままで高分子量体を合成することに成功した。 4.参考文献 (1)(a) Nakano, K.; Nozaki, K. Top. Organomet. Chem. 2006, 18, 223‒238. (b) Church, T. L.; Getzler, Y. D. Y. L.; Byrne, C. M.; Coates, G. W. Chem. Commun. 2007, 657–674. (2)Nakano, K.; Kodama, S.; Permana, Y.; Nozaki, K. Chem. Commun. 2009, 6970–6972. (3)Permana, Y.; Nakano, K.; Yamashita, M.; Watanabe, D.; Nozaki, K. Chem. Asian J. 2008, 3, 710–718. -38- Koji Nakano Carbonylation of heterocyclic compounds is an efficient methodology to give a variety of carbonyl compounds: ring-expansion carbonylation and ring-opening carbonylative polymerization of epoxides and aziridines produces b -lactones, b -lactams, polyesters, and polyamides, respectively.1 In the present study, we report (1) rhodiumcatalyzed regioselective one-pot synthsis of halohydrin-esters from alkyl halides, carbon monoxide, and epoxides and (2) copolymerization of oxetane with carbon monoxide (CO) by using a cobalt−aluminum dinuclear complex. (1) Halohydrin-ester synthesis2: The reaction of benzyl bromide, carbon monoxide, and propylene oxide in the presence of [PPN][Rh(CO)4] ([PPN]+ = [Ph3P=N=PPh3]+) gave the corresponding halohydrin-ester regioselectively. Addition of pyridine derivatives was found to accelerate the reaction. The corresponding cobalt and manganese complexes were not effective. Cyclohexene oxide, a representative alicyclic epoxide, benzyl glycidyl ether, and 3-bromopropylene oxide were also applicable to this transformation to give the corresponding halohydrin-ester with high selectivity. As organic halides, benzyl chloride, methyl iodide, allyl bromide, and methyl bromoacetate can be employed, while the reactions with normal- and secondary-butyl bromides and bromobenzene resulted in the recovery of the starting materials. The reaction probably proceeds via (i) oxidative addition of an organic halide to [PPN][Rh(CO)4], (ii) CO insertion, (iii) the reaction of the resulting acylrhodium species with an epoxide and a pyridine derivative, and (iv) nucleophilic attack to the resulting pyridinium intermediate by a halide ion, giving the halohydrin ester and [PPN][Rh(CO)4]. In this reaction pathway, a pyridine derivative works as a cocatalyst which accelerates the ring-opening of an epoxide. (2) Copolymerization of oxetane with CO: Copolymerization of oxetane with CO proceeded by using cobalt− aluminum dinuclear complex. The obtained copolymers contained both ester and ether units. The present dinuclear complex was found to produce high-molecular-weight copolymer with higher ester-unit content than the previously-reported acylcobalt complexes.3 References (1)(a) Nakano, K.; Nozaki, K. Top. Organomet. Chem. 2006, 18, 223‒238. (b) Church, T. L.; Getzler, Y. D. Y. L.; Byrne, C. M.; Coates, G. W. Chem. Commun. 2007, 657–674. (2)Nakano, K.; Kodama, S.; Permana, Y.; Nozaki, K. Chem. Commun. 2009, 6970–6972. (3)Permana, Y.; Nakano, K.; Yamashita, M.; Watanabe, D.; Nozaki, K. Chem. Asian J. 2008, 3, 710–718. -39- A Transition Metal-catalyzed Carbonylation of Small-ring Heterocyclic Compounds 01 中野 幸司 広報資料 1.論 文 (1) Regioselective synthesis of halohydrin esters from epoxides: reaction with acyl halides and rhodium-catalyzed threecomponent coupling reaction with alkyl halides and carbon monoxide, Nakano, K.; Kodama, S.; Permana, Y.; Nozaki, K. A 01 Chem. Commun. 2009, 6970-6972. (2) Alternating Copolymerization of Cyclohexene Oxide with Carbon Dioxide Catalyzed by (salalen)CrCl Complexes, Nakano, K.; Nakamura, M.; Nozaki, K. Macromolecules 2009, 42, 6972-6980. 2.講 演 (1) 中野幸司 “二酸化炭素を原料とする高分子合成 : エポキシドと二酸化炭素との交互共重合” 第 37 回東北地区高分子 若手研究会夏季ゼミナール, 2009 年 7 月 29 日蔵王 (山形), 招待講演 3.その他、特記事項 (1) 2010 年 10 月より科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ ・ 研究員を兼務 (ただし, 本特定領域研究での 研究内容とは異なる研究課題) -18-
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