心を動かす、 ITソリューションを。 - 電通国際情報サービス

座談会
心を動かす、
ITソリューションを。
Web2.0、次世代IMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)などが
注目される今、ITソリューションに何が求められているのだろうか。
「日本発世界一」のITソリューションをめざして
チャレンジし続けるISIDの各分野の担当者が、関西大学の水野教授を迎え、
「マーケティング」
、
「コミュニケーション」の視点から語った。
席
聡
出
者
村
野
俊
之×
飯田
荻原
)×
哲夫×
水野由多加(司会
克
新
×
行
野
1
人の心の奥にある
欲求を顕在化できるのが、
ISIDの強みだと思う。
①荻原克行(おぎわら・かつゆき)
②アウトソーシング事業部 ITコンサルティング 統括マネージャー
③1
990年ISIDに入社。
入社後一貫して電通戦略システム開発関連業務に従事。
現在ISIDにおける次世代マーケティングビジネスの
戦略プラン策定も担当している。
①氏名
②在籍部署・役職名
③略歴・仕事内容
「感性」をコンピュータでどう数値化するか
期段階ではお絵描きツールを作り、ブランドの構造をコン
ピュータ上に描いて皆でシェアするようなシステムを構築しま
水野
本日は、ITソリューションの最前線で活躍されている皆
した。しかし直近では、どのようなコンテクスト
(文脈)で、どん
さまにお集まりいただきまして、いろいろお話をいただきたい
なメッセージをどのコンタクトポイント
(消費者との接点)で伝
と思っています。私は文学部出身ですので、ITの世界では素人
えるか、トータルに検証できる次世代IMCツールを電通のノウ
です。とは言いながら、私自身、電通に23年おりまして、ISID
ハウとしてISID内で開発しました。
については「知らない」
と言うと怒られるみたいな、ユーザーの
水野 それはシミュレーションなんですか。
一人であったのだと思います…。
荻原
な要素に置き換えてみる。商品属性のどの部分が、商品購買す
が、かつて
「マーケティング」
という言葉が持っていた革新性や市
る人たちの心理状態につながっているかなど、誰にどのような
場志向、合理的な計画づくりは、この時代、まさにISIDのITソ
メッセージをどこで訴求すればいいのかをプランナー自身が分
リューションが実現しようとしているのではないかと思います。
析を繰り返しながらシミュレーションできるシステムです。
では、まず、皆さんの日頃のお仕事についてお話しください。
水野
荻原
てくれて、どこから人間が考えなきゃいかんとか、プランナーは
私の所属はアウトソーシング事業部で、電通のシステム
それは発想支援のツールですよね。どこまで機械がやっ
開発を担当しています。この事業部では電通の会計系、人事系
分かっているんでしょうね。いや、勉強になりますね。
といった基幹系システムから、戦略系マーケティングシステム
村野
までを一括で請け負っています。私自身は戦略系システムを担
企業をITで支援するのですが、基本的に製品の設計や開発でい
当しています。
かに期間を短縮するか、品質を上げるか、我々は「開発力」と
1990年からこの部署にいるのですが、90年代までは、個人
2
そうです。例えばある商品を擬人化して、人間の心理的
※という言葉がよく使われるようです
いま広告業界では
「IMC」
私は製造システム事業部という部署にいます。メーカー
言っていますが、これをITを使っていかに上げるかに取り組ん
視 聴 率 データ や 消 費 者 調 査で ある ACR( Audience and
でいます。要はコンピュータの中で製品を仮想的に作ってみて、
Consumer Report)調査データを用いてオプティマイザー(最
品質なり性能なりを検証してみる。なぜ仮想かというと、実際
適化)
と呼んでいる広告予算最適化システムなどをメインに開
にモノを作ると非常に高いわけです。自動車は1台試作すると
発していました。これは最大の広告効果を出すためには、どの
数 億 円 する。ところ が、3 次 元 CAD(Computer Aided
メディアにどれくらい予算を振り分ければいいか、自動的にコ
Design)という、パソコンの中で動くCGのようなもので作って
ンピュータが最適解をはじき出すシステムで、我々理科系的コ
しまえば、何百台作ろうが、非常に安く、速く、正確に作るこ
ンピュータ屋にしてみれば、専門に近くやりやすい時代でした。
とができるわけです。
ところが2000年に入ってから、ブランドやIMCというものが出
水野 設計だけでなく、デザインもされるのですね。
てきました。ブランドという、数値に置き換えにくいものをコ
村野
ンピュータでどう解析表現していくかを考えるものでした。初
カッコいい悪いで商品の評価が決まってしまうようなケースは、
はい。意匠性の高い商品、いわゆるデザイン、見た目が
金融市場に
双方向コミュニケーションの
インフラができつつある。
①飯田哲夫(いいだ・てつお)
②金融ソリューション企画部 シニアコンサルタント
③入社以来、一貫して金融ソリューションを中心に担当。
1996年ISI-Dentsu of Europe勤務、
インダストリアルデザイナーが3次元で外観を作り、設計者が内
2002年英国マンチェスター・ビジネススクールの
側の実装の設計をする。性能面で言うと、例えば強度、どのく
MBAコース留学(キャリアプラス制度第1期生)。
らいの力で曲がるのか、壊れるのか、熱くなるのかをCAE
金融ソリューションの企画業務に加え、
オープンソースビジネスの展開も担当。
(Computer Aided Engineering)
と言うのですが、これも仮
想的に力なり熱をコンピュータ上で加えてみて、いろんな選択
肢の中で「最適化」設計を支援するというものです。
水野 「金型職人が話す言葉をデータ化して伝えていく」
という
話も聞いたのですが、これもそちらの部署の仕事なんですか。
村野
そうです。職人さんの、いわゆる暗黙知というか、形式
化しづらいノウハウを、次世代や海外に伝承していく。そのた
めに3次元の形にして設計意図を伝えることを支援する。ある
いは思考プロセスを形式化する。その組み合わせをやっていま
す。
「ナレッジ・マネジメント」
と言われている分野ですが、まだ
まだこれからですね。
水野
確かに、野中郁次郎先生
(一橋大学大学院教授)
の
「暗黙
知」
を
「形式知」
にというのは、
「ナレッジ・ブランディング」
と電通で
も言われていますが、批判的なマーケティングの先生は、形式知
にならないから暗黙知なんだとおっしゃる方もおられますね。
※IMC(Integrated Marketing Communication)
=統合型マーケティング・コミュ
ニケーション。企業の経営やマーケティング目標を達成するために、コミュニケー
ションの視点から捉えて、一貫性のあるマーケティング活動をとること。
個人が市場形成に参加する時代へ
飯田
私は金融ソリューション事業部で企画を担当しています。
のほうへ出ていくようになった背景には、何があるのか。今ま
もともとISIDの金融ソリューションの強みは、例えば銀行の海外
ではキャピタルマーケットは金融機関が価格を形成してきた。
店向け勘定系システムだったり、金融機関が市場で為替やデリバ
それが個人投資家がどんどん進出してきた結果、金融機関より、
ティブを取引するための仕組みだったり、というように領域的に
むしろ個人の力で価格が変動してくる。コミュニケーションとい
表からは見えにくい分野なんですね。ただ、最近の動きを見ると、
う視点から見ると、これまでは単に価格を提示されるだけだっ
1999年に日本初のJavaアプリケーションサーバを採用した大規
た個人が、ある意味、市場に影響を与えていくという双方向の
模インターネット・バンキング・システムを大手銀行向けに構築し
コミュニケーションのインフラができつつあるように思えます。
たり、さらに最近では、イー・トレード証券で個人投資家向けのオ
新野さんのところで出てくると思いますが、同じ考え方が金融リ
ンライン取引の仕組みを構築するような案件が出てきた。
テールマーケティングの領域では、
「イベントベース・マーケティング」
と
もともと金融機関のバックオフィスの仕組みばかりをやって
いう形で実現しつつある。これも金融機関が自分の都合で新しい
いたISIDが、リテール・ビジネス
(個人顧客向けビジネス)支援
商品を売り出したという一方向的な流れから、個々のお客さんが意
3
「知っているけれど、
気づいていないこと」
それをいかに見つけるか。
①水野由多加(みずの・ゆたか)
②関西大学社会学部マス・コミュニケーション専攻教授
③慶應義塾大学文学部社会・心理・教育学科卒業、
青山学院大学大学院経営学研究科博士後期課程満期退学。
1979年電通入社、2002年退社後、
京都工芸繊維大学デザイン経営工学科教授を経て、04年より現職。
主な著訳書に『マーケティング・ダイアログ』
(白桃書房/共著)
、
『デジタルライフ革命』
(東洋経済新報社/共著)
、
『広告効果論』
(電通/共著)
、
『ブランド!ブランド!ブランド!』
(ダイヤモンド社/共訳)
、
『統合広告論』
(ミネルヴァ書房)がある。
図的ではないにしろ、メッセージを発していく双方向のコミュニケー
ションに変わっていくがゆえに出てきている領域かなと思います。
ケーションなりの領域で新しいことができつつあるのかなと
水野
なるほど。90年代に大手都市銀行の企画部門の友人と
思っています。少し前に話題になりましたが、福井県のある割
しゃべっていて、びっくりしたのは、大手町にいる彼のボキャブ
烹料理店が商売がうまくいかなくて、店を閉めようかと思って
ラリーの中で「マーケティング」
という言葉は、
「自転車に乗るこ
いたところ、インターネットのサーチワードというものを広告手
と」だったんですね(笑)。
「定期預金を獲得するために住宅街を
法として活用できるという話を知って、店の自慢料理だった
「さ
自転車に乗って走るんだ」
と。昨今では、金融業界でどんな文
ば寿司」
というキーワードを買った。
「さば寿司」
というキーワー
脈で一番マーケティングという言葉が出てきますか。
ドでネット検索されたら、検索結果のページに広告が出るよう
飯田 「マーケティング」
が金融ビジネスのコンテクストの中でしっ
にしたわけですね。そしたらいきなり全国から注文が舞い込ん
かりと定義されるのは、まさにこれからではないかと思いますね。
で、最初は月に10万円ぐらいだった売り上げが数百万円まで
新野
増えた、という話です。これって、ITによって新しく市場が創造
あるいは、
「マーケティング=広告宣伝、ないし販売促進
活動」と解釈している人や会社もあるかもしれませんね。
「コ
ミュニケーション」も
「マーケティング」もビッグワードなので、
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最近、ようやくITによって質的にマーケティングなりコミュニ
できたといういい例ですよね。
私が最近クライアントに提案しているのは、先ほど飯田さん
使う人によって、領域が違ってくるから難しいですよね。私の部
が言われたように、
「タイミング」に着目した新しいマーケティン
署は、マーケティング・ソリューション部と言いまして、ビッグ
グ手法で、
「イベントベース・マーケティング」と言っています。
ワードが2つ並んだような(笑)部署でして。私は2年前に電通
結婚、転職など、お客さんがある商品なりサービスに興味を持
からISIDに出向してきたのですが、電通時代からクライアント
つかもしれないタイミングを、取引動向やさまざまな行動デー
企業がITを使ってマーケティングを行なうことをどう支援できる
タから自動的に検出して、企業がコミュニケーションをとるこ
かに携わってきました。
とによって成功確率を増すというものです。これが今、金融機
マーケティングやコミュニケーションと
ITソリューションとの連携が
ますます求められている。
①新野聡(にいの・さとし)
②戦略ビジネス事業部 マーケティング・ソリューション部長
③ 2004年電通より出向。電通時代には、
インタラクション・デザイン手法を用いた
インターネット・バンキング開発プロジェクトなどを通じ、ISIDと協業。
現在は、クライアント企業にとって本質的な意味での、
全マーケティング領域においてITソリューションを
提供する事をミッションとしている。
関などの企業に非常に注目されているんですね。
誰も気づかなかったのは、
1本しかきていない電灯線を二股にし
水野
て使う着眼です。これも技術がイノベーションをつくったのではな
ありがとうございました。それぞれ最先端のお仕事をな
さっているということがよく分かりますね。
く、社会の文脈、受け手の文脈で市場が立ち上がった例だと思い
ます。多分マーケティングにおいては一番肝心な部分であると。
「市場が立ち上がる」瞬間
村野
いま、
「立ち上がる瞬間」
というお話をされましたが、僕ら
もお客さんにシステムを提案しに行って、
「こんなに素晴らしいん
新野
これもいきなりビッグな質問で恐縮ですが、先生は
「マー
です!」
と説明する。でも価格はえらく高いわけです。5000万と
ケティング」
という言葉をどう使われているんですか。
か、場合によっては1億とかする。お客さんはピンとこないわけで
水野
これは私のオリジナルな言説ではないんですけど、マーケ
す。ところがあるタイミングで
「これを使うと自分たちの仕事はこ
ティングとは
「市場、つまり欲望が立ち上がることに関する知識であ
んなふうになるのかなあ」
というイメージがポッとお客さんの中で
る」
と言うんですね。例えば、ウォシュレットという商品があるでしょ
起きる瞬間みたいなものがある。そこに訴求できれば顧客の心
う。いま日本の世帯の半分ぐらいが使っているんですが、なぜあれ
を動かせる。人が車を買うのと同じで、エンジンが高性能だから、
が必要だったか。皆さんご記憶にあると思うんですが、戸川純とい
燃費がいいからではなく、この車で街中を走ったら自分の暮らし
うタレントさんがコマーシャルに出て、
「お尻だって、洗ってほしい」
と
はどんなふうになるのか、リアルなイメージをお客さんに訴求で
言って、手のひらに水性の絵の具を付けて、紙で拭いても落ちない
きればいいのかなと。ともすればツールの機能ばかりを訴求して
のに、水で洗うときれいに落ちる。で、後ろ姿のかっこいい男を
しまうのですが、お客さんの
「暮らし=仕事」がどう素晴らしく変
じっと見て、
「あの人にもちょっとついているかもしれない」
みたいな
わるのか、そこをISIDとしてどう描けるか。そこがうちの事業部の
ことを言うわけですよ
(笑)
。確か新発売のとき、14万9000円ぐら
マーケティングと言えるんじゃないかなと思いました。
いしたと思う。生まれてから紙以外使わなかった人たちが、あのコ
荻原
マーシャルを見て、ふとどこかで、
「より清潔な習慣というのは、こう
、
を欲しいのか」
、
「どうすれば買いたい、使いたいと思うのか」
なのかなあ」
と思えた時に、14万9000円はお尻の病気の人のた
それは先ほどの暗黙知を形式知に、じゃないですけど、人の心
めのものだけではないと見える。この違和感というか、衝撃という
の奥にあるさまざまな欲求を、ITによって表層化、顕在化させ
か、これが欲望の立ち上がるとき。これを非常にマーケティング的
る仕組みの提供じゃないかと思っています。それがISIDの強み
な話だと私は思っているんですね。これは技術で立ち上がった欲
にしていきたい部分です。
望ではないのは明らかだというのが私の立場です。
水野
結局我々が実現しなくてはならないのは、
「消費者は何
理工系の先生と仕事を一緒にしたとき驚いたことの一つ
松下幸之助さんが発明した二股ソケットもまったく同じです。
は「科学技術」
という言葉はウソだと。
「科学」はサイエンス、
「技
世の中のほとんどの人はラジオというものがあるのを知っている。
術」はテクノロジーだ。
「この2つ、なんも関係あれへんで」
と言
だけど、電灯線が1本だけしか来ていないので、それが使えない。
うんですよ
(笑)。そうするとマーケティングは上手に言えば「市
5
僕らができるのは、
ITで「コラボレーション」を
実現すること。
①村野俊之
(むらの・としゆき)
②製造システム事業部 ソリューション推進部長
③自動車メーカーでの研究開発に5年間従事した後、
1991年にISIDに入社。
3次元CADの導入支援、
CPC(Collaborative Product Commerce)などの経験を経て、
2003年より新規ソリューションの企画に携わる。
現在は、組込みソフト分野、3Dデータの活用、
流通、保管ソリューションなどを推進中。
レーティングシステムを無償で公開することまでやり始めている。
ただ、無償で公開することによって、その後のビジネスにつなげて
場技術」だと言えなくもないんです。皆が「知っているけれど気
いく。そういう形にビジネスを変えざるを得ないような状況にまで
づいていない」ものに一晩で出合うこともあるだろうし、何年も
きている。多様性を取り込んでいこうとしたときに、外側にたくさん
かけて、非常に組織的に合理的に追い詰めていって分かる場合
あるオープンソースのコミュニティみたいなものをどういう形で活用
もあるような気はするんですね。
していくか。それによってISIDの独自性が薄まってしまってはしかた
ないので、多様性を取り込んでいくことによってISIDを強くできない
多様性をいかに取り込むか
か、というのが一つの課題かなと思っています。
水野
荻原
6
現在、データベース・マーケティングの手法では、データ
多くの方がそれを追っかけて、スパッとしたことが言え
ないというのが現状じゃないかと思うんですね。Linuxコミュ
に対する数学的な分析に基づいた方法論が主流となっていま
ニティについては佐々木裕一さんという人が電通在籍時代に
す。私は別の方法論として、人間の持つ、ある意味、直感も含
『Linuxはいかにしてビジネスになったか』
(NTT出版/共著)
と
めたマーケティングセンスをシステムとの対話によって引き出
いう本を書いていらっしゃいますが、まだまだ上手くいくため
しながら、商品や消費者の本質に迫っていくことができないか
の隠された条件がある。もうひとつ、ムジ・ネットの取締役を
と考えています。理科系的な分析と文科系的な直感をミックス
やってらした西川英彦さんという方が「ユーザー・デザイン」
とい
しながら、マーケティングストーリーを作成していくシステムを
う博士論文を書かれた。どんな商品がほしいかをユーザーに
構築する、というのは夢物語ですか。
募って開発していく。受注開発、受注数確定生産の販売ですが、
水野
それは組織論みたいな、経営学者の中での話なので、私
今まで採算ベースに乗って製品化できたのは数えるほどだそう
は門前の小僧でしかないんですけど、組織の多様性が大きいほ
です。ネット上の口コミとか、ユーザー主導の製品開発とかい
ど、その組織の生産性は高まるという実証命題はあるみたいで
うのは、今までの常識が逆立ちしていて、魅力的に見えるだけ
すね。じゃ、多様性はどう定義するかというと、前職とか、前に
に、まだまだよく分かってないという感じですね。
所属していた部署の幅、ダイバーシティはあったほうがいいと。
飯田
飯田
イベントベース・マーケティングの考え方は近いところがあり
多様性で教えていただきたいことがあるのですが、いま
ますよね。そこから製品開発をというわけではないですけれど、個
オープンソースという世界が広がってきていて、ISIDのようにソフト
人が意図するしないにかかわらず、その動きを捉えて、こちらから提
ウェアをライセンスとして販売するビジネスを脅かすぐらいになって
案を仕掛けていく。メッセージはこちらから出すというより、向こう
きている。例えばLinuxというオープンソースがシェアを拡大する
側から出てくるのを拾うというところに近いものを感じます。
中で、サン・マイクロシステムズは、一生懸命お金をかけてきたオペ
新野
ダイレクト・マーケティングとかデータベース・マーケティングと
かいろんな言い方がありましたけれど、顧客なり見込み客というマス
をどうやって細分化して、欲しい商品なりサービスを提供していくか、
という発想だったのですが、結局はどんどん細分化され、最終的に
は一人になってしまう。すると、その
「一人」
へのマーケティングのルー
村野
ルを自動生成できるような本とかCDのようなジャンルでは効率的な
ボレーション」
という言葉を使います。コミュニケーションがさ
マーケティングができるわけですが、それ以外の業種については、
まざまな意思、感情などすべてのメッセージ交換を指すのに対
かえって非効率になってしまうところにジレンマがあったと思うんです。
し、コラボレーションとは、ある目的に非常に近いところでの
イベントベースという考え方は、ユーザーの大事なタイミングを捉え
情報が精査されて、効率性が非常に高い情報の交換みたいな
ることによって、コミュニケーションを発生させるわけですから、タイ
ことだと思うのです。僕らができるのは、ITでコラボレーショ
ミングという切り口で切ると、ビジネスとして十分インパクトのあるボ
ンを実現すること。人が判断しなくても、本当に必要な情報を
リュームの件数が発生するわけですね。そこでコミュニケ−ションを
共有、交換できるようにすることかなと思っています。
開始してみて、初めてお客さんの背景にあったイベントが何なのかを
飯田
理解することで、適切な商品をおすすめすることができるわけです。
の位置づけが大きくなって、個人投資家が金融市場に影響を与え
従来の手法では検知できなかったタイミングで企業からアプローチ
るようになってきている。一方で、これまで金融業界ってすごく規制
できるというのが、今やろうとしているマーケティングの手法で、そこ
に守られて、都銀、地銀、信託、保険という業態ごとに、やるべき
に今までと違う新しさがあると思います。
領域がきれいに分かれていたのに、その領域がいま崩れつつある。
水野
コミュニケーションのアカデミズムからすると、メッセージ
そうすると、金融機関と個人に加え、今度は金融機関と金融機関
が流れるところをチャネル、マーケティングからすると、物が流れ
のコミュニケーション・ネットワークが重要になってきて、そこに対す
るところをチャネルと言うんです。で、マーケティングからはコミュ
るインフラが求められてくるという動きになる。金融機関と個人の
ニケーションのチャネルをメディアと呼ぶんですね。先ほどの商品
お客さまとのつながり、あるいは金融機関と金融機関のつながり
開発の件ですが、ユーザーに投票させてある一定数を超えたら開
の関係が徐々に変わっていくところに、何かが立ち上がってくるだろ
発しますよ、というのは、あるところまではチャネルだと思ってい
う部分をうまくとらえてビジネスにできたらと思います。
た。売り場だと思っていたのに、ある瞬間メディアになったんだ
荻原
と。チャネルとメディアが交錯した瞬間に立ち現れたものがあっ
難しいなんて言われていますが、よりISID社員の能力を活かして
たんだというのが、西川先生の説です。非常に簡単なことなのか
競争力を獲得するためには、コミュニケ−ション能力ーー実はそ
もしれないけれど、それはやっぱり新しいことだったんですよ。
れを鍛えるための社是が
「人間魅力」だと思いますがーーをベース
僕ら製造業は「コミュニケーション」
ではなく、よく
「コラ
最初にお話しさせていただいたように、金融における個人
いまSIの世界はコモディティ化され、付加価値の発揮が
に顧客に向き合って、ニーズを吸い上げてシステムを作っていく。
求められる
「洞察力」
「直観力」
そこに競争力を求めるべきだと思っているし、それが十分にでき
る会社かなと思っています。そもそもコミュニケーション能力が発
水野 これからのことについて少しお伺いしたいと思います。今まで
揮されるためには、明るく楽しく生きる必要があると思われ、そ
お話しいただいたことを踏まえて、これからどうされていきたいか。
う考えるとI
S
ID社員にはそういう人が多いし、そういうところがあ
7
飯田
ITの業界って、外から持ってくるという流れのほうが圧倒
的に大きかったりするので、日本のIT産業は次はどこへ行くんだ
というときに、
「日本から世界へ」
というビジョンが必要だと思う
んです。実際、
「日本から世界へ」
というのは、本当のチャレンジ
る意味いいシステムを作れる源泉なのかなと思います。
だと思います。ゲームソフト業界などではあるんですが、ビジネ
新野
ス向けのソフトウェア領域で日本発世界一というのは、非常に
ISIDのビジネスは業務を処理するためのシステムを作っ
たり、あるいはソフトウエアを販売することです。それは、当
先見の明のある考え方で、半年とか1年で実現するというより、
然「人が使うもの」なので、どうすれば、よりよく、より効率的に
5年、10年先を見据えながらやり続けることだと思います。
業務を遂行できるのかに関しては、やはり
「洞察力」
とか、
「直観
新野
的 な 把 握 力 」が 必 要 とさ れる 局 面 が 多 い と 思うんです ね 。
というパターンが多いですね(笑)。それを
「日本発世界一」にし
ISIDって、多様な人が集まっていますので、実は経験の中から
たいということ。
そういったことを反映しながらシステムを提案してきたと思う
村野
んです。今後はそういうことを明確に意識してやっていくことが、
るんですが、
それに、ISIDの世界初の知見やノウハウを仕込んで、
ISIDの競争力に資することなんだと思います。
世界でも売ろうという、
「フィンランド発日本経由世界一」
という
それから、電通の観点からすると、マーケティングやコミュニ
これまでのISIDのビジネスって、わりと
「世界発日本一」
製造システム事業部でフィンランドの商品を仕入れてい
(笑)、そういうのもありだろうと。もともとあった良いものに、
ケーションというのが、ますますITソリューションと不可分のもの
ISIDの知見を加えて、さらに世界一に仕上げていくのも、一つの
になっていくというか、そこの連携度合いがますます求められてい
やり方かなと思います。そういうDNAは日本人にあると思うん
く。この方向は疑いのないことなので、電通のビジネス、または
です。
グループのビジネスをより深めていく、広げていくところにISIDの
水野
ITソリューション能力が活きていくんだろうなと思っています。
と思っているんです。MBAやPh.Dなどアメリカの価値観が世界
実はアメリカ最大の輸出産業というのは留学じゃないか
のスタンダードになっている。それからすると日本の教育産業は
「日本発世界一」をめざして
完全に負けているわけですが、アメリカの大学院で提供できない
教育が、日本の
「合宿」だとある先生が言っています
(笑)
。ウソみ
8
水野 「日本発世界一」
というのが、ISIDのスローガンになって
たいな話だけどね。合宿に行くことが、ひょっとすると日本の輸出
いるそうですね。
商品になるかもしれないと。先ほどの暗黙知にも関係するだろう
新野
し、一緒に何かやることで、こいつ一見優等生風だけど、意外とい
そうですね。もともとは電通本社内にTSS局を創設して、
アメリカのGE社と技術提携して、日本初のタイムシェアリング・サー
い奴だなとかね、いろんなことが分かったりするんですよ。お話を
ビス
(コンピュータの共同利用)
を開始したのが始まりで、ISIDのビ
伺っていて、何かがそこにちょっとあるような気がいたしました。
ジネスには歴史的に見ても
「日本初」
というのが多いですね。新
村野
しモノ好きというか、世界で一番新しいものにいち早く着目して、
客さんと箱根へ行って、朝から晩までブレストやってお酒も飲む。
それをビジネスに転換するという運動神経なり着眼力が非常に
よその事業部からするとすごい違和感あるかもしれないですが。
あると思います。今回はトップから明示的に、
「日本発世界一」
を
水野 金融ソリューション事業部ではどうですか。
めざすんだという言葉がありまして、それを大事な行動指針にして
飯田
いるわけです。それはISIDの動き方の中にすでにあったものです
ります。トラブル対応で…(笑)
。
が、それをより明確に発揮していこうということだと思います。
水野 「日本発世界一」
で期待しております。
合宿ってよくやるんですよ、うちの事業部は。例えば、お
お客さんと大手町で夜を明かしたという経験は私もあ