seminar_abstract.pdf (262KB) - 香川大学医学部

第 26 回日本救急医学会中国四国地方会
救急隊員セミナー
「最先端と全体底上げのバランス」
日
時:2010 年 5 月 14 日(金)14:45~18:00(受付 14:00~)
会
場:サンポートホール高松
第2小ホール(ホール棟5F)
プログラム
●パネルディスカッション 14:45~16:45
「消防学校救急科教育」
座長 県立広島病院救命救急センター長
座長 高松市消防局消防防災課長
山野上 敬夫
橋本 敏之
1
香川県消防学校における「救急科」について
岡本 司(香川県消防学校)
2
広島県消防学校における救急科教育
坂田 博文(広島県消防学校 教諭)
3
山口県消防学校救急科教育の特色
河端 隆之(山口市消防本部)
4
岡山県消防学校の救急教育の現状と課題
出口 弘徳(岡山県消防学校)
5
救急救命士による救急科教育の現状
池本 敏幸(愛媛県消防学校教務課長)
6
消防学校教育における救急救命士の役割について
橋本 健治(鳥取県西部広域行政管理組合消防局)
7
消防学校における救急隊員教育
森脇 英治(出雲市消防本部)
●教育講演 17:00~18:00
司会 鳥取大学医学部救急災害医学
本間
正人
「救急救命士の処置拡大と再教育の現状と将来」
帝京大学医学部救急医学講座教授 坂本 哲也
香川県消防学校における「救急科」について
香川県消防学校
岡本
司(おかもと
つかさ)
近年の救急需要の高まり、救急救命士の処置拡大など救急業務は大きく変貌を遂げてい
ます。そのため救急救命士と共に救急隊員のレベルアップは必要であり、その事が救急
業務の底上げにつながると考え、次の3つの取り組みを行っている事を発表します。
①解剖・生理学
入校後に即始まる解剖・生理学をスムーズに教養できるように、本校では「救急科」
開始1ヶ月前に入校予定者に「救急隊員標準テキスト」を配布して解剖・生理の項目を
事前学習してもらいます。入校後はより内容のあるテキストを使用して講義をしていま
す。そして最後に香川大学医学部の協力で解剖実習見学を行っています。
平成13年より上記方法で実施してからは、充実した解剖・生理学の講義により、そ
の後のカリキュラムに良い影響があります。また学生からも事前学習の効 果で講義が良
く理解できたとの声が多数聞かれます。
今後も独自のテキスト作成、解剖実習の方法などを検討してより良い内容を目指しま
す。
②JPTEC(外傷病院前救護ガイドライン)
香川県メディカルコントロール協議会において、救急活動中の外傷についてはJPT
ECの活動に基づき実施するとの見解が示されており、救急隊員はJPTECを理解す
るとともに、救急活動にそれを取り入れることが必要不可欠となっています。
このため「救急科」にそのカリキュラムを導入し、その技術と知識の習得に努めてもら
う必要があると判断し、従来行っていた「一般外傷」を「JPTEC」として導入した
ものです。
導入以前の講義でも「JPTEC」の概要説明はしておりましたが、シミュレーショ
ンを行っておらず、不十分でした。
そこで「香川県消防学校救急科クローズコース」を4日間コースとしてとして開催し
てプロバイダー認定書の交付を行う事としました。
週 1 日の4日間コースであることから、シミュレーションを多く取り入れることが可
能となり、さらに全寮制を生かし、多くの学生が自主学習でより深く「JPTEC」を
学ぶ事が出来ました。
各消防本部からも「救急科JPTEC修了者」は活動理念を理解しているので、現場
活動がスムーズに実行できるとの声が多数聞かれます。
③PSLS(脳卒中病院前救護)
香川県における事後検証はCPSS(シンシナティ病院前脳卒中スケール)の項目が
あり、また香川メディカルコントロール協議会においてもPSLSの活動に理解を示し
ている事から、救急隊員もPSLSの活動概念を理解する事が必要と考え「救急科」に
取り入れたものです。
講義は半日コースですが、
「JPTEC」と同様のアルゴリズムがあり、スムーズな講
義が行えています。
「意識障害の評価」においても基本的な考えを講義しており、次のステップのCPSS
の項目も理解できております。さらに救急現場でよく遭遇するその他の意識障害につい
ても適切に対応する事が出来ると考えています。
そして救急講習などで「市民が発症に気づく」重要性を広報できるなどのメリットが
あると考えています。
【考察】
JPTEC、PSLSの標準プログラム化されたコースを取り入れる事によって、
①教育に対する一貫性がもたらされる。
②観察、処置、判断の精度が向上する。
③救急救命士と救急隊員が同じ認識で活動できる。
などの効果があると考えています。
今後も継続していく事により同コースの概念が広く普及する事が期待でき、ひいては
病院前救護に寄与できるものと考えています。
広島県消防学校における救急科教育
広島県消防学校
教諭
坂田博文(さかた
ひろふみ)
広島県消防学校における救急教育は、救急科(前・後期)のほかに、初任教育(前・後
期)ではJPTECミニコースの実施や応急手当指導員の資格取得を行なっている。また、
救助科でもJPTECミニコースを実施し、救急救命士再教育ではICLS、JPTEC
認定コースを年2回実施している。
本校の救急科は、国の定める基準時間数は250時間であるが、281時間実施してい
る。このうち128時間は、県内34名の医師を講師に招いて講義と訓練指導を行なって
いる。
教育内容の特徴的なものとしては、解剖生理と想定訓練の総合評価があげられる。解剖
生理においては、広島大学医学部における医学生の解剖実習の見学を行なっている。今回
は、想定訓練の総合評価について詳しく報告する。
これは、想定訓練の総仕上げを目的として実施しているもので、医師と救急救命士の講
師2名が2組に分かれて指導に当たり、頭痛、胸痛、窒息、外傷について班別に分かれた
学生が本番さながらの緊張感あふれる想定訓練(15分/班)とその検証を2日間にわた
って実施している。
訓練は、想定内容により傷病者役に生体もしくは訓練人形を使い、医師の指示により、
傷病者の状態や様態変化をさせながら進行している。
さらに、訓練の様子を一部始終ビデオ撮影し、訓練終了後ただちに会場を移し、医師か
ら訓練実施班に対して、撮影したビデオを使って細やかな検証、指導を行うなどのフィー
ドバックが行なわれている。
また、訓練と検証を並行して行っていることから、学生が見学できない訓練が生じるた
め、後日、各班の想定内容や医師から指導を受けた事項等を提出させ、担当教官が取りま
とめて学生に資料として配布している。
本校の救急科をはじめとする充実した救急教育は、ひとえに広島大学病院、県立広島病
院や県内各医療圏域で救急医療に携わる医師の献身的な協力により成り立っている。
山口県消防学校救急科教育の特色
山口市消防本部
河端隆之(かわば
たかゆき)
消防学校での救急科教育は、救急隊員の育成とともに救急隊員の資格取得のため必要
不可欠な教育であり、山口県消防学校としても特に重要視している教育である。 現在
山口県消防学校では、年2回救急科教育を実施し、約100名の救急隊員育成を行って
いる。 限られた期間の中で成果を上げるため、県内の医師、救急救命士を中心に多く
の講師を招き特色ある教育を実現している。
J P T E C :救助科との合同教育で県内の救急救命士(JPTECイ
ンストラクター)を招き7時限実施
多数傷病者対応訓練:指揮隊訓練も合わせた総合訓練を7時限実施
惨 事 ス ト レ ス 対 策 :講義及びグループミーティングなど3時限実施
防災航空隊合同訓練:消防防災ヘリ「きらら」との救急搬送連携、ヘリ誘導訓
練を7時限実施
上記などの実技訓練を多く取り入れ、同時にシミュレーションを特に重点的に実施し、
教育終了後所属において即戦力として活躍できることを目的に、救急科教育を推し進め
ている。
岡山県消防学校の救急教育の現状と課題
岡山県消防学校
出口弘徳(でぐち
ひろのり)
現在の本校の救急教育は、専科教育の救急科と特別教育の薬剤投与講習、気管挿管講
習、及び隔年で行っているJPTEC、ICLSとがあり、昨年度はこれにPSLSも
行った。
教育カリキュラムの作成・実施については、岡山県の救急医療体制の特性を考え、概
ね国の基準の時間配分で本校が案を作成し、講師選定では統括的医師のもとで、各病院
の教育にあたる医師を選んでいただき実施している。
教育カリキュラムで重視したのは、救急科を受講する100名を超える学生のほとん
どが拝命1年目の者で消防経験が浅く、卒後において救急現場活動に不安を感じている
ものが多いと判断されるため、可能な限り実技・実習時間を多く取り入れ、現場活動に
支障がないように配慮をしている。また救急救命士教育では、県で決めている各種プロ
トコールに基づいた蘇生手技、隊員への的確な指示、病院連絡などの活動が円滑に行え
ることを最終目標とし、検証医師が講義・実技指導の中核を占める。
幸いなことに本校は、年4回開かれる県MCWG検討会にオブザーバーとして参加で
き、そこで討論された岡山県救急医療体制の質的向上のための施策を聴くことや救急救
命士、救急隊員の資質向上のための教育アドバイスを受けることも可能で、実際に本校
教育への要望もある。
このように教育を行う環境には恵まれ、地域の救命効果を高めるには、何が教育的課
題で何が不足しているのか、それを改善するための教育カリキュラムを毎年提案し、教
育にあたる医師や救急救命士との連携もとれていると思っている。しかしながら、その
本校救急教育が、必ずしも岡山県の傷病者の救命率の向上には結びついていないのも事
実で、そこに新たな課題も見えてくる。
救急救命士による救急科教育の現状
愛媛県消防学校教務課長
池本
敏幸(いけもと
としゆき)
【現
状】
愛媛県では、救急Ⅰ課程を平成 9 年度、救急Ⅱ課程を平成10年度で廃止し、平成
11 年度からは救急科(救急標準課程)教育のみを実施している。時間数として 294 時
間の教育を行い、シミュレーション実習を充実させるとともに救急救命士の講義指導
43 時間、実技指導 63 時間を取り入れ、救急救命士が救急救命研修所及び現場で習得
した知識、技術を救急科学生に伝えている。また、14 時間の効果測定も行い教育効果
を上げる一方策としている。
【調 査】
救急科教育に対する救急救命士の意識調査として県下の救急救命士(297 名)全員
を対象に次の内容でアンケート調査を行った。
* 講義時間数及び講義内容について
* 実技指導時間数及び実技指導内容について
* 効果測定実施方法について
* 過去 3 年以内に講義を行った救急救命士の意識調査について
【結 果】
アンケート結果から、救急救命士の多くが「救急隊員は我々救急救命士が育ててい
くべき」という意識を持っている。また、一部には「救急救命士は日常業務及び研修
等で負担が大きく、現場を離れた者及び退職した救急救命士を活用すべき」との意見
もあった。ただ、多くは「基礎医学、臨床医学は医師に、現場に関係する講義分野は
救急救命士に」
「教育指導は救命士自身の知識、技術の向上につながる」との意見であ
った。
消防学校教育における救急救命士の役割について
鳥取県西部広域行政管理組合消防局
橋本
健治(はしもと
けんじ)
【はじめに】 鳥取県消防学校(以下「学校」という。)で開催される各種救急教育に対
しては、県下各消防本部が学校の要望を受け、救急救命士を講師として派遣協力を行っ
ています。今回、各種救急教育の概要と救急救命士が携わる学校教育の役割について報
告いたします。
【概要】平成18年薬剤講習が追加されたことにより、救急課程、気管挿
管講習の講義に加え更に薬剤講習も医師が行えば大変な負荷となることが予測された。
そこで、県下消防長会、学校長の協議により、救急課程の一部特殊科を除く全てのカリ
キュラム、気管挿管講習および薬剤投与講習のシミュレーションを含む実技、各種試験
問題作成を救急救命士が行うこととなった。
【結語】1)学校教育は、医師、鳥取県 MC、
各消防本部の協力の上に成り立っている。2)多忙な医師の負担軽減。3)指導者の更
なるレベルアップが必要。
消防学校における救急隊員教育
出雲市消防本部
森脇
英治(もりわき
ひではる)
【はじめに】
救急救命士法が平成 3 年 4 月に施行されて以来、平成 16 年 7 月には心肺停止患者に
対し、救急救命士による気管挿管が認められ、さらに平成 18 年4月に薬剤投与が実施で
きるようになった。しかしながら、現有する救急救命士資格取得者を(財)救急振興財
団への派遣等、尐数の講習体制では認定資格取得までにかなりの時間を要する問題が発
生した。この問題を解決すべく島根県では消防学校従来のカリキュラムの合間を使用し、
消防職員特別教育カリキュラムを編成した。ここでは、その概要と結果について報告す
る。
【消防職員特別教育】
第 1 回の教育は、平成 17 年 1 月に教育期間 12 日間のカリキュラムで「気管挿管講習」
が実施された。続いて、第 2 回の教育は、平成 18 年1月に「気管挿管・薬剤投与講習」
が教育期間 42 日間のカリキュラムで組まれ、同内容で、平成 19 年 1 月に第 3 回目講習、
平成 20 年 1 月に第 4 回目の講習がそれぞれ実施された。
この結果、平成 22 年 3 月末現在で、県内の救急救命士総数 219 名の内、気管挿管認
定者は 84 名で、全体の 30%を占め、薬剤認定者にあっては 184 名、全体の 84%と高割
合を占めることとなった。気管挿管者認定率が薬剤認定率に追従しないのは、病院内研
修受け入れ枠が 1 名単位であり、さらに研修症例が 30 症例と定められているためである。
消防職員特別教育を実施した結果、当初の問題は解決できたものと考える。
【今後の課題】
県消防学校で 4 年間をかけ多数の認定救急救命士を育成した。しかし質の担保をどう
するのか、このことについては大きな検証対象となる。ここでは当本部の検証結果を紹
介する。
気管挿管については、適応の窒息、異物及び溺水の事案が尐なく検証対象とはなり得
なかった。一方、静脈路確保について平成 17 年から平成 21 年の間を見ると、心肺停止
症例 860 症例中、596 症例に対し静脈路確保を実施し、確保できたのは 384 症例であり、
成功率 64%となっている。成功率の推移を見ると、60%ラインを中心に推移している。
このことは、訓練等により質の維持はできていると考えるが、今後、さらなる成功率の
上昇に努めたい。
【まとめ】
現在、救急救命士の処置拡大の検討がなされている。救急救命士数は、時代のニーズ
にも後押しされ増え続けており、講習のあり方、質の担保さらには救命率の向上等、よ
り一層の努力が必要と考える。