1B03 微小推力測定装置の開発

微小推力測定装置の開発
1B03
○萩原啓司(東海大学・院)
,與那嶺仁(東海大学・院)
,大塩裕也(総合研究大学院大学)
,
佐藤博紀(総合研究大学院大学)
,堀澤秀之(東海大学・工)
,船木一幸(JAXA/ISAS)
Development of very low thrust measurement system
Keiji Hagiwara, Hitoshi Yonamine, (Department of Aeronautics and Astronautics, Tokai University)
Yuya Oshio, Hiroki Sato (The Graduate University for Advanced Studies)
Hideyuki Horisawa (Department of Aeronautics and Astronautics, Tokai University),
Ikkou Hunaki (JAXA/ISAS)
Key Words: Micro-plasmajet Thruster, low power CW laser thruster
Abstract
To estimate the thrust characteristics of a low-power CW laser thruster, a single-wire torsion balance thrust stand was
developed. Here, to suppress the displacement of the target during the thrust generation, a PID control system was also
developed. As a result, suppression of the displacement of the target was achieved and its position on the focal point of
the focusing lens was successfully kept. Moreover, from the control signal, the thrust force could be estimated. Some
preliminary thrust characteristics were also obtained.
1.
はじめに
推力計測システムの構築
2.
近年の宇宙開発におけるキーワードは大型化と小
2.1.
捩り振り子式スラストスタンド
型化である.ミッションの要求の高度化によって衛
我々が目標とする推進機の推力オーダーは数~十
星はこの二極化が進んできている.その中でミッシ
数 μN で,その推進性能の評価を行うため,過去に高
ョンコストの約3割を占める打ち上げコストを軽減
感度のスラストスタンドの製作が行われている. 製
するために小型化が注目され,重量数 kg から数十 kg
作されたスラストスタンドの写真と概略図を図 2,
の micro-sat, nano-sat 等とよばれる小型衛星の研究・
図 3 に示す.図に示すように,このスラストスタン
開発が世界中で行われている(1).
ドは,上下から固定されたワイヤ中央にアルミ製の
レーザ推進のコンセプトは世界中に数多く存在す
アームからなる。アームの片側には推進剤および静
るが,低強度の CW (Continuous Laser) レーザを用い
電アクチュエータを,反対側にはカウンターウエイ
(2)
た方式は世界でも例が無く新しい試みである .この
トとして同様の物を設置した.推力発生に伴う中央
方式は低強度の CW レーザを集光し,推進剤として
ワイヤの捩り変形,すなわちアームの変位を計測す
不活性固体をアブレーションさせプラズマの発生お
ることで推力を算出する方式である.単純な構造で
よびその反作用で推力を発生することを期待してい
はあるが,ワイヤに張力を加えることにより,安定
る.この方式では,液体推進剤を用いる推進機と比
した再現性を得ることができるようになった.微小
較し,高圧タンク,配管系,バルブなど複雑な構成
推力を計測する上で,計測を困難にする主たる要素
部品を省くことができるので簡素な構造および高信
は,真空チャンバ外部からの振動ノイズである.こ
頼性を達成できる. 図 1 は低強度 CW レーザ推進
れを除去するために渦電流式ダンパーを用いた(4).ダ
の概念図である.推進剤はアルミ箔である.
ンパーには,φ 10 mm,厚さ 5 mm のサマリウム・コ
本研究では,低強度 CW レーザ推進機の推力特性
評価のために,微小推力測定装置の開発を行った.
推進剤
図 1
上部に設置した.これにより,外部からの振動を緩
和でき,推力測定時には不要な運動エネルギを排除
CW レーザ
推力
バルト磁石を 8 個用い,スラストスタンドのアーム
(アルミ箔)
低強度 CW レーザ推進の概念図
することでアームの変位を短時間のうちにゼロ点
(原点)に復帰させることができるようになった.
2.2.
スラストスタンド変位の制御
上述の通り,本スタンドにおいては,その計測原
理上,発生する推力のためアームの原点が移動する.
そのため,レーザ推進における推力計測の場合,レ
真空チャンバ
CW レーザ
電磁アクチュエータ
ーザ集光点からターゲットが移動してしまう.レー
ザ推進では,レーザをレンズで集光することでパワ
レンズ
ー密度を上げている.そのため,測定中に焦点距離
からターゲットが移動することは,レーザ推進機の
レーザ変位計
推力
正確な推力計測の妨げになる.
本研究では,この問題解決のため,ターゲット位
置すなわちアームの変位を抑制しつつ推力を計測す
る制御システムの開発を行った.すなわち,アーム
の変位を打ち消すように発生する推力の方向と反対
の制御力を発生させ,これを推力として計測するシ
PC
ステムとした.図 4 に実験装置全体の概略図をしめ
す.
図 4
スラストスタンドの制御においては,アーム(す
制御システムの概略図
なわちターゲット)への推力の入力に対して,アー
ムの一方向への変位という 1 入出力システムである
ため,PID 制御を用いた.図に示すように,スタン
ド制御システムの構成要素は,アームの変位計測用
磁
石
のレーザ変位計 (KEYENCE, LK-G400),アームの変
位制御用の電磁アクチュエータならびに制御用コン
ピュータ(PC,A/DD/A ボード (ADA16-8/2 (LPCI) L)
コイル
を搭載)である.
電磁ダンパー
スタンドのアーム
推進剤
図 5
2.3.
電磁アクチュエータの概略図
電磁アクチュエータ
これまでの研究では,スラストスタンドのアーム
静電アクチュエータ用極板
変位量の制御用に非接触で反力を発生させる方式と
して静電アクチュエータを利用してきた.この方式
は,極板を二枚平行に配置し,これらに電圧を印加
図 2
スラストスタンドの写真
することで静電力を発生させる仕組みである.しか
しながら,このアクチュエータを利用して制御を行
釣り下げワイヤ
うと,スタンドが目標値に収束するまでに 15 s 以上
要した.また,制御を行うたびにスタンドの原点が
移動し,発生する静電力が小さくなる傾向もみられ
た.これらの原因は,静電アクチュエータの変位が
電圧の入力に対して非線形であり,また斥力を発生
させることができないために原点への収束に時間を
推進剤
要したと考えられる.
これらを解決するために,電磁アクチュエータの
図 3
スタンドの概略図
一種であるコイル・マグネットアクチュエータを製
作した.概略図を図 5 に示す.これまでの静電アク
チュエータと比較して,入力電圧に対して線形的に
PC の DA 変換ボードからの出力が最大± 10 V である
比較的大きな電磁力を発生させ,かつ斥力を発生さ
ので,1 kΩ の抵抗を用いた.本実験条件においては,
せることが可能である.また,所要の電磁力の発生
磁石とコイルの相対位置が 10 mm のときに発生する
は比較的小電力で充分で,すなわち,PC からの出力
電磁力が最大となるので,アームに取り付けた磁石
電流をそのまま利用することも可能である.
とコイルとの距離は 10 mm とした.
以下に,電磁アクチュエータの基本原理を示す.
まず,コイルが発生させる磁場
は,ビオ・サバー
ルの法則より表わされる.
推力計測を行う前に制御システムの PID コントロ
ーラゲインを設定する必要がある.このとき,各ゲ
インは限界感度法を用いて,調整した.限界感度法
では,比例ゲインを安定限界まで上げ限界ゲイン
とし,このときの持続振動の周期から限界周期
を定める.この
( 2.1 )
,
の値から,表 3 に示すよう
な調整則を用いてゲインを決めていく(6).しかし,こ
の方法で求めたゲインは実際の制御に用いると,ア
クチュエータの操作量が限界値をオーバしてしまう.
がコイルの巻き数, がコイルと磁石間の距離,
がコイルの長さ,
がコイルの半径を表している.
求めたゲインより小さく調節した.
の磁石
ゲインの設定後に,アームの位置を原点に維持す
に作用し式( 2.2 )のように電磁力を発せ
るように制御し,推力を計測した.この推力の算出
このコイルが発生させる磁場
の磁荷
そのため,実際に用いるゲインは,限界感度法から
が,厚さ
は,制御に用いたアクチュエータ入力した操作量を
させる.
用いて反力を算出することで見積もった.この値を,
CW レーザ照射中に発生する推力とした
( 2.2 )
スラストスタンドアームの変位制御の利点は,集
光レンズとターゲットの相対位置を維持したまま推
式( 2.2 )から,このアクチュエータは電磁力が電圧に
力計測を行える点である.この点を生かして,レー
対して線形であることが確認できる.
ザ光の集光レンズ-ターゲット距離の変化に対する
推力の関係,すなわち,レーザ光のパワー密度に対
する発生推力の変化を確認した.
実験装置および方法
3.
図 4 に実験装置全体の概略図を示す.使用したレ
ーザ装置は,CW レーザビームの最高出力が 25 W で
実験結果及び考察
4.
発信波長が 1090 ± 5 nm のファイバーレーザ (SPI
ゲイン決めの結果を図 6 に示す.スタンドの目標
Lasers, SP-25C-0001) である.ファイバーレーザは
値を-0.08 mm,0.08 mm,0 mm(原点)と順次変更し
優れた単一光を得られるため,容易に集光すること
ている.図 6 より,偏差が残っておらず,目標に素
が出来る.表 1 に仕様を示す.アームの変位の計測
早く ( 5 sec 以内) 追従している.また,操作量が限
には,レーザ変位計 (KEYENCE,LK-G400) を用い
界値 (± 10 V) を越えていないことを確認できる.今
た.
回最終的に制御に用いたゲインは
= 1,
= 0.6,
= 0.6 であり,限界感度法により求めたゲインは,
実験に用いた真空チャンバおよび排気系は以下の
通りである.真空チャンバは内径 600 mm,長さ 1000
比例ゲイン
mm の円筒形(株式会社クリエテック)で,排気速
ン
= 1,積分ゲイン
= 2.4,微分ゲイ
= 3.75 であった.
度 1000 L/sec のターボ分子ポンプ (SEIKO SEIKI,
推力計測の結果を図 7 に示す.図より,推力計測
STP-H1000) および排気速度 840 L/min の油回転真
中のスタンドの変位が抑制されていることが確認で
空ポンプ (芝浦エレテック株式会社,DRP-800) で排
きる. このとき,PC からの操作量によるアクチュ
気した.また,実験時の最高真空到達度は 1.1 x 10 Pa
エータ反力が発生している。この操作量から電磁力
である.
は 2.64 µN であった.従って,アーム変位量の制御中
-3
実験で使用した自作電磁アクチュエータの仕様を
表 2 に示す.このアクチュエータは PC から出力さ
れる最大 ± 10 mA のアナログ電流で動作する.なお,
に発生した推力は 2.64 µN と推定できる.
計測したレーザの出力と推力の関係を図 8 に,レ
ンズ-ターゲット位置と推力の関係を図 9 に示す.
レーザの出力に対して推力は,ほぼ線形に増加して
いることが確認できる.さらに,レンズとターゲッ
トの相対位置が 17~18mm の推力のピークが確認でき
る.よって,図より確認できる傾向からは,レーザ
のパワー密度と発生する推力の間には依存性が存在
するといえる.
表 1
ファイバーレーザの仕様
パラメータ
値
単位
ビーム出力
25
W
発振波長
1090 ± 5
nm
バンド幅
≤ 2.5
nm
調整可能出力
2 - 100
%
出力の安定性
<2
%
表 2
図 7
スタンド制御中の推力計測
図 8
レーザの出力と推力の関係
自作電磁アクチュエータの仕様
パラメータ
コイル
磁石
値
単位
巻き数
10
回
半径
15
mm
素線径
1.5
mm
厚さ
表面磁束密
度
半径
14
mm
280
mT
7.5
mm
厚さ
10
mm
表 3
限界感度法の調整測
P
0.5
―
―
PI
0.45
/1.2
―
PID
0.6
0.5
/8
図 9
5.
レーザの焦点距離と推力の関係
まとめ
スラストスタンドアームの変位量の制御系の開発
を行った.これにより,推力発生時にレーザの焦光
点と推進剤の相対位置を一定に制御した状態におけ
る推力の計測を可能にした.その結果,レーザの出
力に対して推力は,ほぼ線形に増加していること,
ならびにレンズとターゲットの相対位置が 17~18mm
図 6
ゲイン決めの結果
とき推力のピークを取ることを確認した.この結果
から,CW レーザ推進機の発生推力はレーザのパワ
ー密度に依存しているといえる.今後は,推力発生
の機構について細かく調べる予定である.
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