3.光老化と対応

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日皮会誌:118(1)
,17―21,2008(平20)
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3.
光老化と対応
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船坂 陽子(神戸大学)
要
旨
1.光老化皮膚の特徴
高齢化社会の到来とともに,光老化に対する関心は
老化皮膚では,皮膚のたるみ,シワ,皮膚の乾燥,
高まっている.本稿では,光老化によるシワの発症メ
皮膚の菲薄化,表皮真皮境界部の平坦化(表皮突起の
カニズムについて述べ,シワの予防および治療につい
減少)がみられる.一方,光老化の臨床的な特徴とし
て概説した.
ては,皮膚の粗造化,シワ形成,不規則な色素沈着,
毛細血管の拡張,皮膚癌(および前癌症)があげられ
はじめに
る.これに対応する病理組織学的所見としては,表皮
皮膚の老化には自然老化と光老化の 2 種が存在す
では基底層角化細胞の形態変化,角化細胞数の減少,
る.自然老化に加え,慢性に太陽光に暴露された結果
表皮突起の消失,メラノサイトの数の減少,メラニン
生じる光老化では,比較的早期からより深くて不規則
の不規則な分布と増加が,真皮ではコラーゲンの減少,
なシワが目立つ.高齢化社会を迎え,若々しい外見を
日光性弾力線維変性(solar elastosis)がみられる(表
保持したいとの願望は強く,シワ改善治療のニーズは
1)
1)
.
高い.光老化皮膚の発症メカニズムを知った上で,治
光老化皮膚の表皮の変化としては,角化細胞の増
殖・分化の変調により,角層水分の保持能低下が2),ま
療を行うことが肝要である.
た真皮の変化としては,紫外線(ultraviolet,UV)照
表 1 自然老化と光老化の特徴
特徴
臨床的特徴
自然老化
光老化
細かいシワ
乾燥,たるみ
皮膚の粗造化
細かいシワ,粗いシワ
創傷遅延,易出血性
色素沈着,黄ばみ
乾燥,血管拡張
皮膚癌(あるいは前癌症)
真皮乳頭層
真皮網状層
菲薄化
表皮突起の減少
弾力線維の減少
線維芽細胞の不活性化
膠原線維
膠原線維の減少
表皮肥厚と菲薄化,細胞異型性
不規則な色素沈着,表皮突起の消失
変性弾力線維の増加(s
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線維芽細胞の増殖
マスト細胞の増殖,炎症細胞の浸潤
線維束および膠原線維の減少と均一化
配列の乱れた太い線維束
コラーゲン産生能の低下
コラゲナーゼ産生能の増加
エラスチン産生能の減少
グリコサミノグリカンの増加
減少
汗腺,脂腺の減少
毛成長の減少
コラーゲン産生能の低下
コラゲナーゼ産生能の著明な増加
エラスチン産生能の亢進
グリコサミノグリカンの増加
著明な減少,血管拡張
汗腺,脂腺の減少
毛成長の減少
組織学的特徴
表皮
間質
血管
附属器
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k,
1999,
p2776.
より引用
18
皮膚科セミナリウム
第 33 回
皮膚と老化
射によるコラゲナーゼ遺伝子の発現亢進・コラゲナー
ゼ産生の増加によるコラーゲンの崩壊亢進3),
およびグ
リコサミノグリカンと大型コンドロイチン硫酸プロテ
オグリカンの日光弾力線維変性部における沈着が明ら
かにされている.グルコースと蛋白アミノ基との酸化
触媒反応(メイラード反応)の結果産生される,後期
反応生成物,advanced glycation end-products(AGEs)
の一つである Nε-carboxymethyl-lysine(CML)が solar elastosis 部の弾力線維に存在することが示され,光
老化皮膚における solar elastosis の形成には,紫外線
による酸化反応が関与していることが示されている4).
中波長紫外線(UVB)または長波長紫外線(UVA)に
図 1 光老化における酸化ストレスの影響
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より直接誘導される,あるいは炎症により発生する活
性酸素が,メイラード反応を進行させる.従って,こ
れらの光老化現象は,紫外線の細胞 DNA への直接的
な損傷および,酸化ストレスを介した DNA や蛋白,
糖,脂質への傷害の結果生じるものと考えられる(図
5)
1)
.
図 2 紫外線によるシワ形成機構
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より引用
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3.光老化と対応
19
表 2 シワの予防および治療
2.光老化によるシワ発症メカニズム
光老化によるシワ発症メカニズムは,真皮マトリッ
予防
サンスクリーン剤
抗酸化剤
クスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase,
βカロテン
3)
MMP)に 注 目 し て 検 討 さ れ て い る(図 2)
.MMP
ビタミン C
はその活性中心に Zn を持つ金属酵素であり,その基
ビタミン E
質特異性の違いから 19 種類の MMP の存在が確認さ
れており,コラーゲンやエラスチン等の真皮マトリッ
コエンザイム Q10
治療
抗酸化剤
ビタミン C
クスを分解する酵素である.紫外線照射により活性酸
素種(reactive oxygen species,ROS)が生じ,チロシ
コエンザイム Q10
ンフォスファターゼを酸化することにより,その酵素
抗シワ化粧品
レチノイド
活性を抑制して,mitogen-activated protein(MAP)キ
ケミカルピーリング
レーザー・光線
ナーゼ等のシグナル伝達のカスケードの活性増強を導
く.活性化された MAP キナーゼは転写因子 activator
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protein-1(AP-1)を活性化し,MMP の発現を誘導する
温熱刺激
注入剤
ボツリヌス毒素注射
外科的手術
ことが明らかにされている.UVA 照射を受けた線維
芽細胞は MMP-1 の,UVB では MMP-1,-3,92kD gelatinase(MMP-9)の mRNA,蛋白の発現増加および
活性の増強が誘導される.また,NF-κB も紫外線によ
り活性化され,炎症性サイトカインや MMP-9 を誘導
する.MMP により真皮マトリックスが破壊されるが,
MMP-2,9 の抑制作用がある.また,コエンザイム Q
その修復が不完全なため,間欠的な紫外線照射により
(CoQ)10 はヒトでの 0.3% 含有クリームの外用試験に
不十分な修復を繰り返し受けた結果,光老化による真
て,しわが改善したとの報告がある9).したがって,紫
3)
皮の変化が進み, 深いシワ形成へと導かれる
(図 2).
3.シワの予防および治療(表 2)
外線による酸化ストレスを抑制することにより,光老
化皮膚の予防剤として働くことに加え,すでにできて
しまった小じわを改善することも期待されている.
a.サンスクリーン
日常生活およびレジャーにおいて皮膚が過度の紫外
c.レチノイド
線に暴露されないように防御するには,衣服およびサ
レチノイドを光老化皮膚に外用することにより,シ
ンスクリーン剤の外用があげられる.日本人の平均的
ワや色素沈着の改善がみられる.その作用機序として
なスキンタイプ(JS-II)では,1)日常生活においては
は,表皮細胞の TGF-β の発現を誘導,コラーゲン type
SPF10 以上,PA+以上,2)軽い屋外活動・ドライブ
I および III の発現を誘導,UVB によ り 誘 導 さ れ る
では SPF15 以上,PA++以上,3)晴天下でのスポー
MMP 遺伝子の AP-1 による転写を抑制,表皮細胞での
ツや海水浴,スキーでは SPF20 以上,PA+++以上の
ヒアルロン酸の産生亢進によるコラーゲン量の増加を
サンスクリーン剤の外用が推奨される.
導き,また角層直下の皮膚の水分環境を改善して,シ
ワに有効に働くものと考えられている.
b.抗酸化剤
ヒトでの内服試験において β-カロチンは UVB によ
d.ケミカルピーリング
る紅斑反応を抑制する6)こと,ビタミン C と E の外用
痂皮形成をきたさないレベル I,II のケミカルピー
はヘアレスマウスにおいて UVB 照射による皺形成お
リングにおいて,小ジワの改善効果が期待できる10).α-
よび皮膚癌形成を抑制する こと,
さらにヒトに対して
hydroxy acid は α 鎖に hydroxyl 基のついた有機酸で
ビタミン C の外用(イオントフォレーシス)はしわを
あるが,このうちグリコール酸と乳酸が頻用されてい
改善する8)ことが報告されている.ビタミン C にはコ
る.グリコール酸ではケラチノサイトから IL-1α や
ラーゲン産生促進,プロコラーゲンの水酸化促進,
TNFα の遊離を促進し,線維芽細胞において MMP-1
7)
20
皮膚科セミナリウム
第 33 回
皮膚と老化
図 3 光のスペクトラム
を誘導すると同時にコラーゲンの産生を上昇させて,
MMP-3 の発現を誘導し,
真皮のリモデリングが進むこ
真皮組織のリモデリングを誘導することが明らかにさ
と13),hormesis(軽微な刺激を反復して受けることに
11)
れている .
より,細胞の防禦能が高まり,細胞環境に徐々に適応
することにより,致死に至らず生き残ること)
により,
e.光・レーザー治療!
温熱作用
老化が遅らされる実験結果が示されている14)∼19).マイ
痂皮形成なくいわゆるダウンタイムのない治療法と
ルドな熱刺激を反復して加えることにより,細胞の酸
して,non-ablative laser や Intense Pulsed Light
化ストレスに対する対処力を増加させ,蛋白の cap-
(IPL)が用いられている.これらは,cooling 装置を
ping や refolding に関わる熱ショック蛋白を合成させ
用いて,表皮が温度上昇により破壊されるのを防御し,
ることにより,損傷を受けた蛋白の蓄積を少なくす
一定の熱を真皮にのみ付与する,もしくは低出力で照
る14)∼19).蛋白の酸化や糖化および糖の酸化は転写後の
射することにより,表皮を破壊するほどの熱を表皮に
修飾によるもので,老化と共に細胞内のレドックス状
発生させることなく,レーザー光を皮膚細胞に作用さ
態が不均衡となり,酸化ストレスが増加,あるいはレ
せるように設計されている.その光老化皮膚の改善機
ドックス状態と関連した酵素反応が変化することによ
序についての詳細は不明であるが,表皮を温存して,
り進行するが,熱刺激はこの老化による糖酸化物の蓄
レーザー光が照射でき,表皮剝離(abrasion)を伴わな
5)
積を抑制する
(図 1)
.前述したように,日光弾力線維
い照射を指す.用いられる光の波長は可視光線∼赤外
変 成 部 で は,糖 酸 化 産 物 の 一 つ で あ る Nε-
線領域である(図 3)
.
carboxymethyl-lysine(CML)が弾力線維に存在する.
Non-ablative laser 治療によるシワ改善は,熱作用と
光生物学的作用によるものと推測される.40℃ 以上の
熱刺激にて heat shock protein
(hsp)
47 が誘導されて,
従って,軽微な温熱刺激を反復すると,solar elastosis
の形成を予防できる可能性が示唆される.
一方,不死化ヒトケラチノサイトの HaCaT 細胞に
コラーゲン量が増加する11).さらに,被験者の顔面皮膚
おいて,40℃ の温熱刺激による DNA 鎖の切断のため
の表面が 40℃ 以上となるよう,
スチームで顔面の左半
に,染色体の増加や欠失が生じ,悪性形質に変換する
側に温熱刺激することを 1 日 10 分 2 カ月続けること
と 報 告 さ れ て い る20).HaCaT 細 胞 は p53 遺 伝 子 に
により,刺激側のしわ,たるみが有意に改善すること
UVB 特異的な変異を有するので,遺伝子変異をすでに
12)
が認められた .
熱刺激は,培養ヒト線維芽細胞において MMP-1 と
もつ細胞では,長期の持続的な熱刺激は癌化過程の cofactor として作用する可能性があることを示唆するも
3.光老化と対応
のである.
21
効果が得られるという経験的事実が先行している.今
後,これら治療法のシワに対するメカニズムの解析に
おわりに
より,外用剤を含め,どのような病態にどの治療法を
シワ発症メカニズムについては,その組織形態につ
ながる変化が分子レベルで解析されるようになった.
選択すればよいのかが明確にされることが要求され
る.
一方レーザー・光線などによる治療は,臨床的に改善
文
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