新たな物流施策大綱への反映 - 国土技術政策総合研究所

●施策への反映
新たな物流施策大綱への反映
室長
港湾研究部 港湾計画研究室 高 橋 宏直 室長
主任研究官
道路研究部 道路研究室 塚 田 幸広 河野 辰男
1.はじめに
位置づけられた。
わが国の物流対策の体系である総合物流施策大
綱は、1997 度に初めて策定され、2001 年度に第一
2)進捗状況の把握のための新たな指標
次改訂(以下「13 年大綱」という)がなされたが、
従来のモーダルシフト化率とは異なる指標とし
その後の施策の進捗状況や経済社会の変化、構造改
て、自動車輸送との連続性の高い、鉄道コンテナ、
革の進展を踏まえて、2005 年 11 月新たに「総合物
RORO船注 2)、コンテナ船、フェリーの輸送モー
流施策大綱(2005-2009)」が閣議決定された。この
ドによる分担率を設定した。モーダルシフト化率と
大綱には、国総研が関係部局と連携して、大綱のフォ
の主な相違点は、次のとおりである。
ローアップに必要な評価指標や道路交通の負荷を軽
①対象品目:一般貨物から全品目を対象とする。
減するための物流対策の提案を行ってきた結果の一
②対象輸送距離:輸送距離 500km 以上から、1,000km
部が反映された。
以上を対象とする。
本稿では、採用された新たな評価指標や大綱に反
③解析方法:解析に用いるデータの精度誤差に対処
映された路上荷捌き対策と商慣行の改善について報
するために3年間移動平均とする。
告する。
この新指標の算定結果の推移を図−1に示す。そ
の結果、モーダルシフト化率での低下傾向とは異な
2.新たな評価指標の提案
り、増加傾向を確認することができた。
1)13 年大綱における指標の課題
13 年大綱では物流施策の進捗状況を把握する指
標として、モーダルシフト化率
注 1)
(%)
23.0
等の指標が示さ
れている。しかしながら、このモーダルシフト化率
は全体に対する比率であることから、ある分野での
22.5
進捗状況が進展していても指標上の数値として明確
にならないという課題が従前から指摘されていた。
22.0
具体的には、鉄道や内航海運による輸送量が増大し
ているにもかかわらず、それ以上にトラックによる
21.5
長距離輸送量の増大が著しいことから、モーダルシ
1997
フト化率としては逆に低下傾向を示す結果となって
新たな指標:1,000km以上の国内輸送トン数全体に占める鉄
道コンテナ、コンテナ船、RORO船、フェリーに
よる輸送トン数のシェア いる。
このため、新大綱の策定に際して、本省からの
1998
1999
2000
2001
図−1 新たな評価指標の推移
要請に基づき港湾研究部港湾計画研究室において、
あらたな指標の検討を行った。その結果は、新大
注 1)モーダルシフト化率: 長距離の一般貨物輸送に占める鉄
道・内航海運による輸送量比率 注 2)RORO船: 岸壁から車両が直接船内に走り込んで荷を
積み込む方式の貨物船
綱に関連して開催された、関係省庁の局長等によ
る総合物流政策会議において「今後推進すべき具
体的な物流施策」における新しい評価指標として
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●施策への反映
3.物流対策の提案
イチェーン(SC)の全体最適化が有効である。こ
1)路上荷捌き対策
れらの実現シナリオとして、企業の社会的責任の意
交通渋滞や交通事故の一因となる無秩序な路上荷
識向上や商慣行改善による物流と貨物車交通合理化
捌きが社会問題化している。この問題への対策の一
の考え方の普及、改善効果の周知等に向けた広報・
環として、空間的制約が大きく路外に荷捌き駐車場
啓発活動、並びに企業へのインセンティブ付与、等
用地を確保できない地域における短時間の荷捌き需
の施策を提示した。
要に対応するために、走行車線に影響を与えずに荷
捌きができるスペースを路上に確保する路上荷捌き
SCの全体最適化:
統合物流プラット
ホーム、実売情報の
共有など
物流データの見える化:
輸送費の分離、ミルクラ
ン、実売情報など
駐車施設の整備手法を検討した。
図−2は、道路法に基づく路上荷捌き駐車施設の
店着価格制
の是正
流通の多層性・
多段階性の是正
整備イメージであり、荷捌き車両を短時間で効率的
物流コスト削減に
より無理な多頻度・
小口配送の減少
に回転させるために長時間駐車を抑制するような駐
車料金施策を執るとともに、違法駐車の取り締まり
取引条件のルール化・
文書化:最小取引ロット
や配送頻度など
多頻度・小口配送
の是正
積載率の向上
輸送トラック台数の削減
や罰則の強化等も合わせて実施することが有効であ
凡例
対象とした商慣行
ることを示した。
凡例
商慣行の改善策
凡例
物流コストの削減
重要な波及過程
改善策の波及過程
料金徴収器 植
樹
帯
車体ロック器 駐車マス
2 5~3 0m
5 0m
車道
3.5~4.0m 2.5 ~3.0
バリカー スロープ
駐車マス
歩道
26.5~28.0m 環境負荷の低減
SC(サプライチェーン):商品の製造から販売までの
すべての工程を一つの流れとして捉える考え方。
供給連鎖。 ミルクラン:工場が部品を調達する物流手法の一つで、
工場側から決まった順番で複数の部品メーカを巡
回して部品を集める方式。物流費を工場側がコン
トロールできる。 2.0m 2.0m
18.5~20.0m 走行台キロの減少
改善効果
街
路
樹
図−3 商慣行の改善策
従来の車道・歩道の境界
・車体ロック式を採用し、車道との分離工作物として バリカー(横断防止柵)
・車体ロック式を採用し、車道との分離工作物としてバリカーを設置する。
を設置する
・2台分の
スペースを1セットとして隅切りを行い、駐車マスを区画線で示す。
・2台分のスペースを1セットとして隅切りを行い、駐車マスを区画線で示す
4.おわりに
新大綱では、各指標を施策の進捗状況の把握およ
図−2 路上荷捌き駐車施設の整備イメージ
びフォローアップや施策の充実強化に活用すること
としているので、今後とも積極的な対応を進めてい
2)商慣行の改善策
くとともに、物流施策大綱の推進に寄与する制度・
物流面で非効率を招いている商慣行の影響と問題
技術の提案に向けた研究を実施していく予定であ
点を把握した上で、貨物車交通の効率化に資する改
る。
善策と実現シナリオを提案した。貨物車交通への影
響が大きい多頻度小口配送に繋がる商慣行は店着価
【参考文献】
格制であり、これに着目した改善策を図−3に示す。
1)河野辰男,塚田幸広:物流対策としての交通
店着価格制では、製品価格と輸送費が分離されてい
空 間 の 活 用,IATSS Review,Vol.30,No.4,
ないため物流コストが認識されず、購入側荷主は過
2005.12
度な輸送サービスを要求しがちで、結果として多頻
2)河野辰男,塚田幸広:商慣行の改善が貨物車交
度小口配送に繋がり、貨物車交通効率化の阻害要因
通に与える影響に関する研究,土木学会論文集・
となっている。
第Ⅳ部門,No.807,pp.67-76,2006.1
そこで、改善策としては、製品価格と輸送費の分
離や取引条件のルール化・文書化、さらにはサプラ
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