【課題】カロテノイド生産性微生物、好ましくは細菌、さらに好ましくはパラコッ

JP 2007-143492 A 2007.6.14
(57)【 要 約 】
【課題】カロテノイド生産性微生物、好ましくは細菌、さらに好ましくはパラコッカス属
細菌の培養において培養の途中に鉄塩の添加を行うことで、カロテノイド、特にAxを効
率良く生産する方法を提供する。
【解決の手段】微生物の培養によりカロテノイド類を生産する方法において、培養する微
生物菌体に含まれる無機元素組成比に合わせた初期培地により微生物の培養を開始し、微
生物の菌体密度が最大菌体密度の50∼90%に達したときに、初期培地に含まれた鉄塩
量の1/10∼5倍量(重量換算)の鉄塩を培養液に添加するカロテノイド類の生産方法
を用いる。
【選択図】なし
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(2)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の培養によりカロテノイド類を生産する方法において、培養する微生物菌体に含
まれる無機元素組成比に合わせた初期培地により微生物の培養を開始し、微生物の菌体密
度が最大菌体密度の50∼90%に達したときに、初期培地に含まれた鉄塩量の1/10
∼5倍量(重量換算)の鉄塩を培養液に添加することを特徴とするカロテノイド類の生産
方法。
【請求項2】
最大菌体密度が、鉄塩として初期培地含有分のみで微生物を培養したときに到達する最
大の菌体密度であることを特徴とする請求項1記載のカロテノイド類の生産方法。
10
【請求項3】
カロテノイド類が、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、アド
ニキサンチン、エキネノンおよびβ−カロテンからなる群より選ばれる1または複数種の
カロテノイドであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカロテノイド類の
生産方法。
【請求項4】
微生物が、細菌であることを特徴とする請求項1∼3のいずれかに記載のカロテノイド
類の生産方法。
【請求項5】
微生物が、パラコッカス属細菌であることを特徴とする請求項1∼4のいずれかに記載
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のカロテノイド類の生産方法。
【請求項6】
微生物が、パラコッカス属細菌N−81106株の改変株であることを特徴とする請求
項1∼5のいずれかに記載のカロテノイド類の生産方法。
【請求項7】
改変株が、自然突然変異または変異原物質や紫外線等による人為的操作で誘発された変
異株、または上記記載の微生物に遺伝子操作を施した組換え株であることを特徴とする請
求項6に記載のカロテノイド類の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
30
【0001】
本発明は、養殖サケ・マス・マダイの色揚げ剤や鶏卵の色調改善剤、健康補助食品、医
薬品として有用な化合物であり、脂溶性色素である天然アスタキサンチン(以下、「Ax
」という。)を微生物の培養により高収量に得る方法に関するものである。詳しくは、培
養の途中に鉄塩の添加を行うことで、カロテノイド類、特にAxを効率良く生産する方法
である。
【背景技術】
【0002】
β‐カロチンやリコペンなどに代表されるカロテノイド類の化合物のうち、アスタキサ
ンチン(Ax)は、オキアミ、カニ、エビなどの甲殻類やマダイ、サケ、マスなどの魚類
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、フラミンゴなどの鳥類、藻類や微生物等に広く分布する天然の化合物である。近年はサ
ケやマス、マダイ等の養殖魚の色揚げ剤や鶏卵の色調改善剤としてAxの需要が増加して
いる。またAxには抗酸化活性や抗癌活性などの様々な生理的作用が確認され、医薬品や
健康補助食品としての利用も注目されている。
【0003】
Axの製造方法としては、化学合成法、天然物からの抽出法、微生物による発酵生産法
などがあるが、現在は主に価格等の要因から化学合成法による製品が広く流通している。
しかし、化学合成法では原料に臭素および塩素を含むハロゲン系化合物や重金属類を使用
するため安全性に懸念があり(例えば、特許文献1参照)、消費者の自然、天然志向にと
もない天然物由来のAxへの要求が強くなっている。
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(3)
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【0004】
天然物からの抽出法としてはオキアミ等からの抽出法があるが、これらは含量が低く、
採取、抽出、精製などに多大な労力を要し、コスト的に問題があった。
【0005】
微生物を利用した製法としては、酵母ではファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodozyma)(例えば、非特許文献1参照)、藻類ではヘマトコッカス・プルビ
アリス(Hematococcus pluvialis)(例えば、非特許文献2参照
)の報告がある。しかしながらファフィア酵母は増殖速度が遅いため培養日数が長く、細
胞壁が強固なために抽出効率が低く、含量が少ないためコスト高である。またヘマトコッ
カス藻類は増殖速度が非常に遅いために培養日数が長く、光を必要とするため立地条件や
10
設備などに制約がある他、クロロフィルなどの夾雑物の除去が必要になりコスト高である
。
【0006】
これらの問題を解決する方法として海洋性アグロバクテリウム属細菌N−81106(
受託番号:FERM P−14023)の培養により得る方法が開示されている(例えば
、特許文献2参照)。当該発明によれば、藻類や酵母に比べて細菌は増殖が速く、また細
胞壁が脆弱であり、藻類と異なりクロロフィルなどのカロテノイド以外の色素を含まず、
酵母のように副生成物の多糖類を生産しないという利点がある。当該発明によればAxを
含有した菌体が迅速に得られ、さらに菌体を回収した後、アセトンなどの有機溶媒と菌体
を混和・攪拌するだけで容易にAxを抽出できるという利点がある。なお、この微生物は
20
後に16SリボゾーマルRNA遺伝子の配列解析が行われた結果、パラコッカス属細菌と
再同定された。海洋バイオテクノロジー研究所においてMBIC01143としても管理
され、その諸性質に関する情報の概略は国立遺伝学研究所日本DNAデータバンク(DD
BJ)や米国NIHのデーターベース(NCBI)に公開されている(例えば、非特許文
献3、非特許文献4、非特許文献5参照)。また該微生物を用いて変異育種を行ない、A
xの生産能が向上したTSUG1C11株(受託番号:FERM P−19416)やT
SN18E7株(受託番号:FERM P−19746)の取得例が報告されている(例
えば、特許文献3参照)。
【0007】
N−81106株は細胞中にAxを主なカロテノイドとして蓄積するが、その他にβ−
30
カロテン、エキネノン、β−クリプトキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、カンタキ
サンチン、3’−ヒドロキシエキネノン、シス−アドニキサンチン、アドニルビン、アド
ニキサンチンなどの多様なカロテノイドを蓄積し、これらの生成比率は培養条件により変
化することも知られている(例えば、非特許文献6参照)。
【0008】
当該微生物のAxの生合成経路はFraserらにより解明されている(例えば、非特
許文献7参照)。彼らはβ−カロテンからAxを合成する酵素の遺伝子であるcrtWお
よびcrtZを見出し、大腸菌にクローニングして製造した両酵素の性質を解析した。そ
の結果によれば、これらはそれぞれβ−カロテンの3および3’位にケト基を導入する酵
素、および4および4’位に水酸基を導入する酵素である。この発見に基づき、Axの生
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合成経路として(1)β−カロテンにcrtZが優先して作用してβ−クリプトキサンチ
ンを経てゼアキサンチンが第一に生産され、次いでcrtWが作用してアドニキサンチン
(4−ケトゼアキサンチンとも称される)を経てAxが生産される経路と、(2)crt
Wが優先して作用してエキネノンを経てカンタキサンチンが第一に生産され、次いでcr
tZが作用してフェニコキサンチンを経てAxに至る経路の、二つの経路が存在すること
が解明された。
【0009】
両酵素は機能発現のために鉄イオンを必要とすることも明らかにされている。すなわち
、本微生物の培養によりAxを得るためには鉄イオンが需要な因子であることが知られて
いた。しかしながら本微生物の培養方法において、反応の初期に鉄塩を添加することが行
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われてきたのみであり、培養途中に鉄塩を添加することなどの添加方法等の培養方法の改
善については全く知られていなかった。
【0010】
【特許文献1】米国特許第4283559号明細書
【特許文献2】特許第3570741号公報
【特許文献3】特開2005−58216号公報
【非特許文献1】Andrewes,A.G.ら、Phytochemistry,15
,1003,1976年
【非特許文献2】Renstrom,Bら、Phytochemistry,20,25
61,1981年
10
【非特許文献3】インターネット(海洋バイオテクノロジー研究所ホームページ)、株式
会社 海洋バイオテクノロジー研究所、MBIC(菌株コレクションデータベース)、[
online]、掲載年月日不明、9ページ目の「caracteristics」、「
strain name」及び「16s」の項、 [平成17年6月8日検索]、インタ
ーネット:<URL:http://cod.mbio.co.jp/mbihp/j/
index.html>
【非特許文献4】インターネット(国立遺伝学研究所ホームページ)大学共同利用機関法
人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 日本DNAデータバンク、「DNA Data Bank of Japan」、[online]、2002年10月8日、
3ページ目の「ORIGIN」の項、[平成17年6月8日検索]、インターネット<U
20
RL:http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.h
tml>
【非特許文献5】インターネット(米国National Institute of Healthホームページ)、National Institute of Heal
th、National Center for Biotechnology Inf
ormation、[online]、2002年10月8日、4頁目の「Source
origine」および「Features」の項、[2005年10月18日検索]
、インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov
/>
【非特許文献6】A.Yokoyama & W.Miki,FEMS Micoril
30
ogy Letters 128,139,1995)。
【0011】
【非特許文献7】Fraser P.D.ら、J.Biol.Chem.,272,61
28,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、カロテノイド生産性微生物、好ましくは細菌、さらに好ましくはパラコッカ
ス属細菌の培養において培養の途中に鉄塩の添加を行うことで、カロテノイド、特にAx
を効率良く生産する方法を提供することにある。
40
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題に関し鋭意検討した結果、本微生物の培養においては培養初期と
中期では菌体収量やAxの生産に好適な鉄塩の濃度が異なり、初期に鉄塩濃度が高い場合
には微生物の増殖には好ましく作用するがカロテノイド生産を阻害し、一方、培養途中に
鉄塩を追加することでカロテノイド生産量が向上することを見出した。さらに検討を行っ
た結果、特定の培養条件で培養を開始し、その条件で得られる菌体密度の50%から90
%、好ましくは50%から85%に到達した段階で、初期濃度の1/10倍∼5倍量以上
、好ましくは1/5倍∼3倍量の鉄塩を添加することによりAxの生産量が向上すること
を見出し、本発明の完成に至った。
50
(5)
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【0014】
すなわち本発明は、微生物の培養によりカロテノイド類を生産する方法において、培養
する微生物菌体に含まれる無機元素組成比に合わせた初期培地により微生物の培養を開始
し、微生物の菌体密度が最大菌体密度の50∼90%に達したときに、初期培地に含まれ
た鉄塩量の1/10∼5倍量(重量換算)の鉄塩を培養液に添加するカロテノイド類の生
産方法であり、さらに最大菌体密度とは、鉄塩として初期培地含有分のみで微生物を培養
したときに到達する最大の菌体密度であるカロテノイド類の生産方法である。
【0015】
また本発明は、生産対象のカロテノイド類が、アスタキサンチン(Ax)、フェニコキ
サンチン、カンタキサンチン、アドニキサンチン、エキネノンおよびβ−カロテンからな
10
る群より選ばれる1または複数種のカロテノイドである、カロテノイド類の生産方法であ
り、この内でもAxの生産性を向上させることができる。
【0016】
また本発明は、培養に用いる微生物が、細菌、さらにパラコッカス属細菌、特にパラコ
ッカス属細菌N−81106株またはその改変株であることが好ましく、また改変株が、
自然突然変異または変異原物質や紫外線等による人為的操作で誘発された変異株、または
上記記載の微生物に遺伝子操作を施した組換え株であるカロテノイド類の生産方法である
。以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明に用いる微生物としては、カロテノイドを生産する能力があるものであれば特に
20
限定はないが、培養に用いる微生物が、細菌、さらにパラコッカス属細菌、特にパラコッ
カス属細菌N−81106株またはその改変株であることが好ましく、また改変株が、自
然突然変異または変異原物質や紫外線等による人為的操作で誘発された変異株、または上
記記載の微生物に遺伝子操作を施した組換え株であることが好ましい。
【0018】
さらに具体的には、例えばパラコッカス属細菌を用いることができ、中でもパラコッカ
ス属細菌N−81106株(受託番号:FERM P−14023)やその改変株が好ま
しい。そのような改変株としてTSUG1C11株(受託番号:FERM P−1941
6)やTSN18E7株(受託番号:FERM P−19746)またはTSTT031
株(受託番号:FERM P−20689)のような変異株やこれらの遺伝子組換え株を
30
あげることができる。
【0019】
組換え株としては上記N−81106株やTSN18E7株を、N−81106株由来
のβ−イオノン環の4位のメチレン基をケト基に変換する酵素活性を有するポリペプチド
をコードする遺伝子、同株由来の4−ケト−β−イオノン環の3位および/またはβ−イ
オノン環の3位の炭素に一つの水酸基を付加する酵素活性を有するポリペプチドをコード
する遺伝子、同株由来のリコペンをβ−カロテンに転換する酵素活性を有するポリペプチ
ドをコードする遺伝子、同株由来のフィトエンをリコペンに転換する酵素活性を有するポ
リペプチドをコードする遺伝子、同株由来のプレフィトエン合成酵素活性を有するポリペ
プチドをコードする遺伝子、同株由来のゲラニルゲラニル2リン酸合成酵素活性を有する
40
ポリペプチドをコードする遺伝子等で形質転換した菌株が知られている(例えば、特願2
005−315070号参照)。なお、本明細書中では変異株と遺伝子組換え株を総称し
て改変株と称する。
【0020】
N−81106株は当初その菌学的性質よりアグロバクテリウム アウランティアカス
sp. Nov.として同定されて特許出願されたが、後に16SリボゾーマルRNA
遺伝子の配列解析により、パラコッカス属に再同定された。この情報の概略は国立遺伝学
研究所日本DNAデータバンク(DDBJ)や米国NIHのデーターベース(NCBI)
に公開されている(前記、非特許文献4、非特許文献5を参照)
本発明に用いる培地としては、細菌が増殖しカロテノイドを生産し得るものであればい
50
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ずれを使用してもよく、たとえば炭素源にはグルコース、フルクトース、マンノース、シ
ョ糖、デンプン、乳糖、グリセロール、酢酸、またはこれらを主成分として含む天然物(
例えば糖蜜)などが、窒素源にはコーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス、肉エ
キス、大豆粕等の天然成分や、アンモニア水、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等の
アンモニア及び、アンモニア塩や、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン等のアミノ
酸類が、無機塩にはリン酸2ナトリウム、リン酸1ナトリウム、リン酸2カリウム、リン
酸1カリウム等のリン酸塩等が、金属塩には硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸
第一鉄、硫酸第二鉄、クエン酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化
カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マンガン、塩化銅などが、ビタミン源として酵母エキ
ス、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ピリドキ
10
シン、ビオチン、葉酸、コリン等が使用できる。
【0021】
本発明のカロテノイド類の生産方法における培養条件については、培養温度およびpH
は上記菌株が生育する条件でよく、たとえば10∼40℃、pH6∼8とするのが好まし
い。培養時間は任意に設定できるが、カロテノイドが十分に生産される時間であることが
好ましく、通常は数時間∼200時間のいずれかの時間に設定される。
【0022】
本発明の核心部分となる培養条件下での鉄塩の使用法は、培養開始時に所定量の鉄塩を
添加しておき、培養に用いた微生物が所定量増殖した後に、一定範囲内の鉄塩を添加する
ことにある。すなわち、培養する微生物菌体に含まれる無機元素組成比に合わせた初期培
20
地により微生物の培養を開始し、微生物の菌体密度が最大菌体密度の50∼90%に達し
たときに、初期培地に含まれた鉄塩量の1/10∼5倍量(重量換算)の鉄塩を培養液に
添加するものである。
【0023】
培養に用いられる初期培地に含まれる鉄塩量は、通常の微生物の培養において用いられ
る量であれば何れの量にも設定することが出来るが、他の培地成分との存在比率が比較的
重要な因子となる。そのような組成比は通常は実験的に設定することされる。例えば様々
な組成比で培養を繰り返し、最も良い増殖やカロテノイド生産が得られる培地組成に設定
されることが好ましいが、特に好ましい方法として、菌体と培地の構成元素の組成比を一
致するように設定することが行われる。
30
【0024】
このように培地組成を決定した例としては例えばPHB(Poly hydroxy butyrate)生産菌のアルカリゲネス ラテゥス(Alcaligenes la
tus)細菌による報告例がある(例えば、T.Yamaneら,Biotechnol
.bioeng.,50,197.1996年、参照)。この場合は微生物菌体の元素組
成を予め任意の方法で分析しておき、培地成分の配合比を決定する。培地成分に酵母エキ
ス、ペプトン、糖蜜、コーンスチープリカーなどの天然原料を利用する場合にはそれらの
元素組成も測定し、それらを加味した上で配合比が決定される。
【0025】
元素組成の分析方法に特に限定はなく、既存の任意の方法で分析して得られた値が用い
40
られる。例えば、炭素、窒素、水素は元素分析計による分析法が知られ、硫黄、塩素は酸
素フラスコ燃焼にて分解後イオンクロマトグラフィーによる分析が知られている。リンや
マグネシウム、鉄などの金属類は硫酸や硝酸で菌体や天然原料を分解した後にICP発光
法(Inducticely Coupled Plasma Atomic Emis
sion Spectrometry)で分析する方法が知られている。また、分解した
後にイオンクロマト法やマススペクトロメトリーで分析することも可能である。酸素濃度
は上記の方法では定量的に知ることはできないが、測定した全元素重量の合計値と試料重
量との差異を酸素濃度とすることで推定される。
【0026】
培地組成の決定において、菌体の主要構成元素となる炭素、窒素、水素、および酸素に
50
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ついては上記の基準で培地に配合することも可能だが、これらが過剰に存在すると生育阻
害を引き起こすことがある。例えばグルコースなどの炭素源が高濃度に存在するとクラブ
トリー効果に代表される成育阻害や生産阻害を示すことがある。そこで、無機塩、金属塩
および酵母エキスやビタミン類のみを上記の基準で配合した培地も好ましく用いられが、
この場合も過剰に存在すると同様に生育阻害が生じる。そのため予め最適濃度および上限
濃度を調べておくことが好ましい。過剰濃度で増殖原因となる栄養源、例えば、炭素源、
窒素源、無機塩および金属塩等は任意の、しかしできるだけ低い濃度の初期濃度で培養を
開始し、微生物に消費された量を補給していく方法が好ましく行われる。この方法は流加
培養と呼ばれる。
【0027】
10
流加培養を行う場合には炭素と窒素の初期濃度に特に制限はなく、生育阻害や生産阻害
を起こさない濃度で任意に設定することができる。例えば微生物が良好な増殖を示すため
に十分な量を添加すれば良い。或いは培養開始後、一定期間経過後に流加を行う場合には
、流加を開始する前に目的の栄養源が消費しつくされない程度の量に設定される。この様
な培養法が行われる場合は培養液のpH変化や排ガス組成の変化などの物理量からのフィ
ードバックにより厳密に流加を制御することができる。フィードバックを行う場合は培養
初期には微生物菌体が少量であるため、これらの物理量の変化が小さく炭素源や窒素源の
消費量の変動が予測困難であるため、菌体が増加して物理量の変化が大きくなった後に流
加が開始される。
【0028】
20
炭素の供給源、すなわち炭素源としては糖質、炭化水素、アルコール、または有機酸お
よびその塩が用いられる。なお、炭素源は菌体の成分のみならず、菌体内で燃焼して微生
物が生命活動を行うためのエネルギー源として利用される分も加味してその量を決定する
必要がある。エネルギー源として利用された炭素源は炭酸ガスとして排出されるので、醗
酵の排ガス中の炭酸ガス量を定量することでその量を知ることができる。
【0029】
窒素源についてはアンモニア、硫安や塩安などのアンモニウム塩、硝酸や硝酸塩、蛋白
質、アミノ酸類またはアミン類などが利用できるが、窒素および水素以外の元素を含まな
いアンモニアがより好ましい。
【0030】
30
菌体の主構成成分のうち水素と酸素に関しては、炭素源や窒素源、供給ガスや培地中の
水分から補給されるために特に考慮する必要はない。
【0031】
その様に設定した培地の一例として表5に示す組成が上げられる。この培地はN−81
106株またはその改変株を用いる場合に好ましく用いられるものである。この培地では
炭素源としては糖質類、好ましくは単糖類や二糖類、さらに好ましくはグルコースの流加
を行うことを、窒素源としてはアンモニウム塩、好ましくはアンモニアの流加を行うこと
を前提に設定されている。表5の成分の組成比が維持されていれば、任意の倍率に濃度に
変更することもできる。例えば表5に示す濃度の1/10倍から3倍程度に各成分を一様
に増減して使用することも可能である。また、培地を構成する元素組成比が維持されてい
40
れば、塩類を構成するアニオンやカチオンの種類を任意にかえることもできる。
【0032】
なお、菌体の元素組成比に基づいて培地成分の組成比を設定する場合、菌体と培地の組
成比を厳密に一致させることは極めて困難であり、また厳密に一致させる必要もないが、
すべての元素の不足がないように設定する必要がある。例えば菌体と酵母エキスの元素組
成の例を表4に示すが、これに基づいて設定した表5の培地組成には表6に示す菌体組成
との乖離がある。しかしこの乖離は許容範囲内にあり、さらに大きく乖離しても大きな問
題とはならない。乖離の原因は炭素や酸素、水素を除く元素(流加に使用する糖類などか
ら供給されるため初期濃度の設定では無視できる)が、2種類以上ある培地成分において
、すべての元素が不足しないように最も必要量の多い元素にあわせるために起きる。例え
50
(8)
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ばリンを例にとると、表5の培地におけるリンの供給源は酵母エキス、リン酸1ナトリウ
ム、リン酸2ナトリウムである。ここで、酵母エキスはビタミン類の供給源として用いら
れ、また原料として高価であるため、その必要量はビタミンを十分に供給し得、かつ経済
的に問題の生じない範囲で第一に設定される。次いでリン酸の必要量をリン酸1ナトリウ
ムとリン酸2ナトリウムの量の調整で設定される。しかしリン酸1ナトリウム、リン酸2
ナトリウムはリン以外にナトリウムの供給源でもあり、リン酸の必要量に調製した場合は
ナトリウムが不足することになり、ナトリウム量を十分量に調製した場合にはリンが過剰
になる。硫黄(硫酸)とカリウムについても同じ関係があり、このような調整を炭素、窒
素、水素、酸素を除く全ての無機元素に対して行ったものが表5に示した組成である。
【0033】
10
なお、本発明では菌体と培地の元素組成比の乖離の指標として下式(1)で定義される
余剰度(「i」と表記)を使用した。
余剰度i = (Mi
m
− Mi
x
)/Mi
x
(1)
式(1)中、余剰度iは培地中の任意の元素iの余剰度(単位は重量%)を、Mi
地中の元素iの含有量(単位はmg/L)を、Mi
x
m
は培
は培地中の菌体密度がX(単位はg
/L)の場合に菌体内に存在する元素iの培地中における含有量(単位はmg/L)を示
す。
【0034】
表5の培地は、予め本願発明の微生物を任意の培地で培養し、得られた菌体の元素組成
を分析し(表4)、次いで菌体が150g/Lの密度で存在する状況を想定して、各元素
についてMi
x
20
を求め、余剰度iが各元素について最小になるように上記のように無機塩
の組成比を調整して設定したものである。なお、ここで150g/Lの菌体密度は、微生
物菌体の生産目標値として暫定的に設定した数値である。
【0035】
またここで示す余剰度は少なければ少ないほど好ましいが、上記に記載したように全て
の元素が過不足なく設定することは困難である。余剰度は1.0以下が好ましく、より好
ましくは0.5以下である。余剰度が上記のごとく一定範囲に収まる範囲とした培地、す
なわち、培養する微生物菌体に含まれる無機元素組成比に合わせた初期培地により微生物
の培養を開始することとなる。
【0036】
30
上記の条件で培養を行って菌体密度が最大値の50∼90%となった時点、より好まし
くは55∼85%となった時点で、初期培地に含まれた鉄塩量の1/10∼5倍量(重量
換算)、好ましくは1/5倍∼3倍量の鉄塩を培養液に添加する。
【0037】
追加を行う時間は以下のように設定される。まず培養途中の鉄塩の添加操作を行わずに
上記のような条件で微生物を培養して、その条件における最大菌体密度、すなわち、鉄塩
として初期培地含有分のみで微生物を培養したときに到達する最大の菌体密度を調べる。
菌体密度の測定の仕方に限定はなく、一定量の培養液を遠心分離やろ過などの方法で回収
したのちに回収した菌体を任意の方法で乾燥させて重量を測定する方法、培養液の濁度か
ら推定する方法、微生物の呼吸による酸素の消費量や炭酸ガスの発生量から推定する方法
40
などが上げられる。このうち乾燥重量を測定する方法は正確に菌体密度が測定できるが、
測定に時間がかかる。濁度を測定する方法は微生物の種類に依存するため予め検量線の作
製が必要であるが、簡便である。炭酸ガスの発生量から推定する方法は、培養中にオンラ
インで測定できる利点があるが、濁度と同様に予め検量線を作製する必要があり、さらに
微生物菌体の密度が低い場合にはガスの発生量が少なく測定困難である。従って一般的に
は予め乾燥重量と濁度の相関式を得ておき、濁度から菌体密度を推定する方法で調べられ
る。
【0038】
次いで同様に培養を行い、培養液中の微生物の菌体密度が最大菌体密度の50∼90%
に達したとき、より好ましくは55∼85%となった時点で鉄塩を添加する。50%に達
50
(9)
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する前に添加を行うとAxの生産が阻害されるため好ましくない。また最大値となった後
では微生物の活性が低下しており、もはや添加を行っても十分な生産性の向上は望めない
。鉄塩の添加は一回行われるだけでなく、上記の期間内であれば複数回行うこともできる
。
【0039】
鉄塩の添加方法に特に限定はなく、鉄塩を粉末として添加することもできるが、添加し
た後に鉄塩を速やかに培養液中に分散させるために、水溶液として添加することが好まし
い。利用できる鉄塩としては硫酸第一鉄、硫酸第ニ鉄、塩化第一鉄、塩化第ニ鉄、クエン
酸鉄、リン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等、一般的に使用される鉄塩であれば特に限定はな
い。
10
【0040】
本発明におけるカロテノイドの定量方法は、菌体または培養液から安定に効率よく抽出
し定量できれば特に限定はなく、例えば抽出溶媒としてメタノール、エタノール、イソプ
ロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロ
メタン、クロロフォルム、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、酢酸エチ
ル等が用いられる。抽出されたカロテノイドの定量には、各種カロテノイドが分離され、
定量性に優れる高速液体クロマトグラフィーにより行うことが好ましいが、比色定量など
で行うこともできる。
【0041】
カロテノイドの回収方法にも特に限定はないが、菌体を回収してそのまま、或いは乾燥
20
して使用することができるし、定量の方法として述べたものと同様の方法で抽出して使用
することもできる。抽出液をそのまま用いることも可能であり、さらに精製して使用する
こともできる。またこれらの菌体、抽出物或いは精製物を、それぞれ単独で用いることも
でき、これらを任意の割合で混合して用いることもでき、また他の任意の物質と混合して
用いることもできる。
【発明の効果】
【0042】
本発明により、カロテノイド、特にAxの生産に対する鉄塩の供給が効果的に行うこと
ができるようになり、生産の効率を向上せしめることが可能となった。
【実施例】
30
【0043】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例の
みに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能である
ことは言うまでもない。
【0044】
(カロテノイドの抽出と定量法)
適量な培養液を1.5mL容エッペンドルフチューブを用いて、15,000回転、5
分間遠心分離を行ない菌体を得た。この菌体に20μLの純水に懸濁し、次いで240μ
Lのジメチルホルムアミドおよび240μLのアセトンを加え約1時間振とうし、カロテ
ノイドを抽出した。この抽出液を15,000回転、5分間遠心分離により残渣を除去後
40
、TSKgel ODS−80TMカラム(東ソー社製)を用いた高速液体クロマトグラ
フィー(以下、「HPLC」と略記する。)でアスタキサンチンを定量した。なおAxの
分離はA液として純水とメチルアルコールの5対95の混合溶媒、B液としてメチルアル
コールとテトラヒドロフランの7対3(容積比)の混合溶媒を用い、1mL/minの流
速でA液を5分間カラムに通過させた後、同じ流速A液からB液へ5分間の直線濃度勾配
を行ない、さらにB液を5分間通過させることにより行なった。Ax濃度は470nmの
吸光度をモニターし、既知濃度のAx試薬(シグマ製)で作成した検量線より濃度を算出
した。
【0045】
(実施例1) 元素組成の分析
50
(10)
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表1に示した組成の培地300mLを500mL容のバッフル付き三角フラスコに入れ
121℃、20分間で滅菌後、N−81106株の変異株の一つであるTSN18E7(
受託番号:FERM P−19746)を植菌し、25℃で1日間、毎分100回転の振
とう速度で前々培養を行なった。
【0046】
【表1】
10
20
次いで表2に示した組成の培地100mLを500mL容のバッフル付き三角フラスコ
に入れ121℃、20分間で滅菌し、上記培養液5mLを植菌して25℃で約18時間、
毎分100回転の振とう速度で前培養した。
【0047】
【表2】
30
40
さらに、表3に示す組成の培地約1.4Lを3Lの発酵槽に入れ、121℃、20分間
50
(11)
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で滅菌後、得られた上記培養液90mLと金属塩を添加し本培養を開始した。培養装置は
千代田製作所社のTFL−3を使用し、排ガス分析装置はエイブル社のDEX−2562
を使用した。培養温度は22℃、pHは7.0∼7.4とした。培養時のpH調整はアル
カリに2Nの水酸化ナトリウム水溶液を、酸には2Nの塩酸水溶液を用いて制御した。ま
た通気は1.5L/minの速度で空気を供給し、毎分400回転の回転速度で撹拌した
。
【0048】
【表3】
10
20
約116時間培養を行ったのち、遠心分離により菌体を回収した。100℃の乾燥機中
で恒量になるまで乾燥し、元素分析、ICP発光分析、イオンクロマトグラフィー等の常
法により分析した。また同様にディフコ社の酵母エキスの元素組成を分析した。それらの
結果を菌体と酵母エキスの構成元素組成として表4に示した。
【0049】
30
(12)
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【表4】
10
20
さらに酵母エキス、グルコース、および硫酸アンモニウム等の濃度を一般的な細菌培養
用の培地成分を参考に、150g/Lの菌体収量を想定した表5に示す組成および濃度の
培地を設定した。表5の培地および菌体150g/L中の各元素量について比較した結果
を表5の培地における各元素量と150gの菌体の各元素量の比較として表6に示したが
、余剰度は約0.3に収まり良好だった。なお、余剰度の計算法は、(表5培地中の各元
素量−菌体150g中の各元素量)/(菌体150g中の各元素量)として、求めた。
【0050】
30
(13)
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【表5】
10
20
【0051】
【表6】
30
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(実施例2) 最大菌体密度の測定
表1に示した組成の培地300mLを500mL容のバッフル付き三角フラスコに入れ
121℃、20分間で滅菌後、N−81106株の変異株の一つであるTSTT031株
(受託番号:FERM P−20689)を植菌し、25℃で1日間、毎分100回転の
50
(14)
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振とう速度で前々培養を行なった。
【0052】
次いで表2に示した組成の培地100mLを500mL容のバッフル付き三角フラスコ
に入れ121℃、20分間で滅菌し、上記培養液5mLを植菌して25℃で約18時間、
毎分100回転の振とう速度で前培養した。
【0053】
さらに、表5に示す組成の培地約1.4Lを3Lの発酵槽に入れ、121℃、20分間
で滅菌後、得られた上記培養液90mLと金属塩を添加し本培養を開始した。培養装置は
千代田製作所社のTFL−3を使用し、排ガス分析装置はエイブル社のDEX−2562
を使用した。培養温度は22℃、pHは7.0∼7.4とした。培養時pHは微生物の増
10
殖に伴って低下するので10%アンモニア水の添加により所定範囲に制御した。空気を1
.8L/minの速度で通気し、毎分510回転の回転速度で撹拌した。また、回転速度
を24時間ごとに溶存酸素濃度が0.1ppmを超えない範囲で上昇させることで、微生
物の増殖により酸素供給量が不足することをおぎなった。培地中のグルコース濃度が5g
/L以内を維持されるように、700g/Lのグルコースを用いて流加した。送液にはワ
トソン・モーロー社の定量ポンプ101U(低速型)を使用し、培養中はグルコース分析
計(装置名;YSI社2700)を用いて定期的にグルコース濃度を測定した。
【0054】
この培養の結果を図1に示した。菌体密度をあらわす660nmの濁度は培養開始後、
約140時間で最大値に達した(濁度430、単位は任意単位)。また、本発明の鉄塩の
20
添加を行うべき最大値の50∼90%の菌体密度には培養開始後約60時間から120時
間の間に達することが判明した。
【0055】
表7には鉄塩の初期濃度と追加量および培養終了後の培養液濁度(菌体密度を表わす)
とカロテノイド生産量を示すが、この培養によりAx(255mg/L)、アドニキサン
チン(105mg/L)、フェニコキサンチン(256mg/L)、カンタキサンチン(
174mg/L)、エキネノン(386mg/L)そしてβ−カロテン(54mg/L)
が生産された。なお、表中、Axはアスタキサンチンを、Adはアドニキサンチンを、P
xはフェニコキサンチンを、Cxはカンタキサンチンを、Eqはエキネノンを、βCはβ
−カロテンを、TCは総カロテノイドを、それぞれ示す。
【0056】
30
(15)
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【表7】
10
20
30
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表7において、実施例2は鉄塩を追加添加せず培養して最大菌体密度を測定するもので
50
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あり、以下の鉄塩添加時期を設定するための基準となる。
【0057】
(実施例3) 鉄塩の追加実験1
実施例2と同様に培養を開始したが、培養開始後72時間目に100mMの硫酸第一鉄
水溶液を12.6mL(終濃度0.7mM)加え、その後は再度実施例2と同様に培養を
継続した。鉄塩の添加時の培養液の濁度は約250であり、菌体密度は最大値の58%だ
った。この培養の結果を図2に示した。この培養で得られた最終的な培養液の濁度は37
0であった。また、カロテノイドの生産パターンを図3に示した。鉄塩の添加を行った7
2時間目以降、Axの生産は急速に加速された。この培養によりAx(524mg/L)
、アドニキサンチン(87mg/L)、フェニコキサンチン(255mg/L)、カンタ
10
キサンチン(167mg/L)、エキネノン(158mg/L)そしてβ−カロテン(1
0mg/L)が生産された。
【0058】
この培養により、菌体密度が最大値の58%に達した時点で初期濃度の1/3量の鉄塩
を添加することにより微生物の増殖は抑制されるもののAxの生産量が大きく向上するこ
とが確認された。
【0059】
(実施例4) 鉄塩の追加実験2
追加する硫酸第一鉄水溶液の量を25.2mL(終濃度1.4mM)としたことを除き
、実施例3と同様に培養を行った。140時間培養した後の濁度は410であり、Ax(
20
514mg/L)、アドニキサンチン(74mg/L)、フェニコキサンチン(360m
g/L)、カンタキサンチン(265mg/L)、エキネノン(252mg/L)そして
β−カロテン(25mg/L)が生産された。実施例3と比較して菌体密度とAx収量は
同等だったが、前躯体カロテノイドの生産量が向上した。初期量の2/3量の鉄塩の添加
でカロテノイド生産量がさらに向上することが確認された。
【0060】
(比較例1) 培養初期での鉄塩増量
表3に示す硫酸第一鉄の濃度を2.1 mMから2.8mMに変更したことを除き、実
施例2と同様に培養を行った。130時間培養した後の濁度は440であり、菌体収量は
実施例1と同等だった。しかしながら、生産されたカロテノイドはAx(328mg/L
30
)、アドニキサンチン(219mg/L)、フェニコキサンチン(71mg/L)、カン
タキサンチン(55mg/L)、エキネノン(91mg/L)、β−カロテン(6mg/
L)であり、実施例1に比較するとAx収量が向上したものの全体的なカロテノイド収量
は低下した。また、実施例3および4と比較するとAxの収量も低いものだった。以上の
ことから培養開始時に鉄塩を30%過剰に加えるとカロテノイド収量が低下することが確
認された。
【0061】
(実施例5) 鉄塩の2回追加実験
実施例3と同様に培養したが、さらに80時間目(最大菌体密度の約80%に達した時
期)において、2回目の鉄塩追加を行った。追加量は1回目の追加と同量とした。即ち、
40
終濃度0.7mMを2回、合計1.4mMを追加した。
【0062】
2回目の追加により微生物の増殖は急激に抑制され、140時間培養後の濁度は330
に留まった。しかしながらAxの生産量が著しく向上した(603mg/L)。この他に
アドニキサンチン(214mg/L)、フェニコキサンチン(119mg/L)、カンタ
キサンチン(75mg/L)、エキネノン(89mg/L)、β−カロテン(1mg/L
)が検出された。以上の結果より、初期量の2/3量の鉄塩を当該発明の対象となる期間
内に2回に分けて添加することで、微生物の増殖には好ましくない影響があるものの、カ
ロテノイド、特にAxの生産量が向上することが確認された。
【0063】
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(17)
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(比較例2)
実施例5と同様に培養を行ったが、鉄塩の添加を60時間目(菌体密度は最大値の47
%)及び72時間目(同じく55%)とした。140時間培養した後の濁度は430であ
り、またAx収量は415mg/Lであり、実施例2に比較すると菌体収量はほぼ同等で
あり、Ax収量は向上した。しかしながら実施例3、4および5に比較してAx収量は低
いものだった。また全体的なカロテノイド生産量はいずれの実施例に比較しても低いもの
だった。以上のことから当該発明の期間に達する前に初期濃度の1/3量の鉄塩を追加す
ることでカロテノイドの生産が抑制されることがさらに確認された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
10
【図1】本発明による培養においての最大菌体密度を調べるための菌体密度の推移を示す
図であり、図中、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、Y軸(縦軸)は660
nmの濁度(単位は任意単位)を示し、●は濁度の測定値を示す。
【図2】本発明による培養においての、培養途中の鉄塩の添加を行った場合の菌体密度の
推移を示す図であり、図中、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、Y軸(縦軸
)は660nmの濁度(単位は任意単位)を示し、●は濁度の測定値を示す。図中の矢印
は硫酸第一鉄の添加を行った時点を示す。
【図3】本発明による培養においての、培養途中の鉄塩の添加を行った場合のカロテノイ
ド生産量の推移を示す図であり、図中、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、
Y軸(縦軸)はカロテノイド濃度(単位はmg/L)を示し、●はアスタキサンチン、○
はアドニキサンチン、◆はフェニコキサンチン、▲はカンタキサンチン、*はエキネノン
を、それぞれ示す。
【図1】
【図2】
【図3】
20
(18)
フロントページの続き
Fターム(参考) 4B024 AA03 AA05 BA80 CA02 DA05 GA11
4B064 AH01 CA02 CC09 CC10 CD01 DA01 DA10
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