社長インタビュー 新中期経営計画 −「組織力」と「モノつくり力」で 新たな成長軌道へ マクセルグループを強い企業集団に変えて いくとともに、世界トップレベルの 「モノつくり 力」 にさらなる磨きをかけることで、 「成長への 変革」 を果たしていきます。 Q 2007年3月期を最終年度とした中期経営計画 を見直し、新中期経営計画がスタートしました。 改めて新中期経営計画を策定した理由を聞かせ てください。 A 2007年3月期を最終年度とする中期経営計画のも と、当期までの2年間、グループ全社が一丸となって推 進してきた構造改革は、収益体質の強化として実を結 びつつあります。しかし、当社グループの基幹事業領域 における市場競争激化による製品単価の下落、原油高 角田 義人 騰による原材料費の上昇が予想を上回るピッチで進行 執行役社長 したこと、さらにはそのような市場環境の変化に対する 対応が遅れたことなどにより、中期経営計画における最 終年度の目標を達成することは極めて厳しい状況とな 2011年3月期の 「マクセル創業50周年」 に向けてさらな りました。 る規模と収益性を成長させていくことを経営ビジョンに こうした事態に陥ったことの原因究明と対策の検討を 掲げています。 重ねてきた結果、将来のマクセルのあるべき姿を再定義 そして、基幹事業の技術面での深掘りや事業領域の し、計画に事業環境の変化に適応するための対策をき 拡充を柱とした 「基幹事業の再構築と新展開」 と、今後 ちんと盛り込んだうえで、新たな目標にチャレンジする の成長ドライバーの強化と新たな成長の芽の育成を ことが、マクセルの今後の飛躍につながると判断したこ テーマとした 「新規事業の早期戦力化と将来への新技術 とが新中期経営計画を策定した理由です。 の仕込み」、さらには、これら戦略を着実に遂行してい く基盤となる人と組織力の強化を掲げた 「組織力の強化 Q 新中期経営計画の概要を聞かせてください。 と発揮」 をビジョン実現に向けたアクションプランの基 軸に据えています。 A 新中期経営計画では、「成長への変革」を図りマクセ 目 標 経 営 数 値としては、2 0 0 9 年 3 月 期 に 売 上 高 ルをさらに成長性のある企業に変えていくこと、さらには 2,500億円、営業利益率6%、ROE5%以上を掲げて 7 いますが、これをひとつの通過点として「マクセル創業 して、まだまだ高い市場ポテンシャルが存在します。ま 50周年」という大きな節目を迎える2011年3月期に向 た、当社が誇るコア技術を磨き上げていけば、新しい けて、さらなる飛躍を目指していきたいと考えています。 市場を切り拓いていくことも十分可能です。その際に重 要なことは、それぞれの事業分野をどのような切り口で Q 目標経営数値は挑戦的な計画と見る向きもありま す。 計画達成に向けたシナリオを聞かせてください。 強化すべきかを明確化することだと考えています。新中 期経営計画では、そのような明確化プロセスで定めた 各事業の重点強化領域を徹底的に強化していくことで、 A 目標経営数値を2006年3月期実績と比較すると、売 基幹事業を売上、収益の双方で伸ばしていきます。 上高は1.2倍、営業利益は2.7倍となり、ROEでは3% 「新規事業の早期戦力化と将来への新技術の仕込み」 以上の改善を要します。一見すると挑戦的な目標にも は、計画数値を達成していくために重要な取り組みで 見えますが、アクションプランを一つひとつ着実に遂行 あるだけではなく、当計画以降を見据えた施策でもあ していけば、十分達成可能な目標であると私は考えて ります。競争優位性が確立できると判断した領域へ経 います。そのアクションプランの中で大きな要素を占め 営資源を投下していくことで、新規事業の早期収益貢 るのが、「基幹事業の再構築と新展開」と「新規事業の 献を実現していくとともに、新たに導入したビジネスプ 早期戦力化と将来への新技術の仕込み」の2つです。 ロジェクトを通じ、研究開発のフェーズから事業化まで まず、「基幹事業の再構築と新展開」についてご説明 のプロセスのスピードアップを図っていきます。 します。当社の基幹事業の領域については成熟市場の また、これらふたつのアクションプランを実行していく イメージがありますが、コンピュータテープをはじめと 過程で、事業的、技術的な補完性があると判断した場合、 新中期経営計画の概要 2010年度 (創業50周年) に向けて、 規模と収益性をさらに追求 成長への変革 マクセルをより成長性のある企業に変える 2005年度 (実績) 売上高 営業利益 ROE 2006年度 (予想) 目標経営数値 2008年度 (目標) 2,041億円 2,060億円 2,500億円 56億円 57億円 150億円 1.7% 1.7% 5%以上 アクションプラン 基幹事業の再構築と新展開 新規事業の早期戦力化と将来への新技術の仕込み 組織力の強化と発揮 8 社長インタビュー 新中期経営計画−「組織力」と「モノつくり力」で新たな成長軌道へ または迅速な事業化につながると判断した場合には、 M&Aや事業提携も選択肢に入れていく考えです。 Q 基幹事業については、具体的に各事業をどのよ うな切り口で強化していきますか。 A コンピュータテープ、光ディスク、一次電池、リチウム イオン電池という事業群は、 「技術」 「販売」 「市場」 「ビジ ネスモデル」 という着眼点の中から重点強化分野を絞り 込み、その分野を徹底的に伸ばしていきます。 まずコンピュータテープでは 「技術」 を徹底的に追求し ます。コンピュータテープはマーケット性がニッチで競合 メーカーも限られます。その一方、情報化社会の進展に 目標経営数値は、アクションプランを一つひと つ着実に遂行していくことで達成していきます。 より記録されるデータ量は飛躍的に拡大しているため、 テラバイトを超える高付加価値製品に対するニーズは日 増しに高まっています。この6月には800GBという業界 発を進めるなど、今後の展開強化に向けた準備も着々と 最高容量となるコンピュータテープの製品化を行うなど、 進んでいます。また、これに並行して製造技術の面での マクセルは、常に最先端の記録フォーマット製品を他社 プロセス革新や原価低減にも取り組んでいきます。 に先駆けてマーケットに送り出してきました。今後もコア 光ディスクは 「技術」 と 「ビジネスモデル」 を伸ばしてい 技術を磨き上げていき、マイグレーションパスを先行追求 きます。記録型DVDのマーケットは、PCドライブやDVD していくことで、高付加価値品の領域でのプレゼンスを レコーダーの普及により拡大を続けていますが、HD さらに高めていきます。さらに独自開発の球状磁性体 DVDやBlu-rayディスクといった新フォーマットの登場 「NanoCAP」技術を活用した10テラバイト級の製品開 は、さらなる市場拡大をもたらすものと思われます。そこ 基幹事業の事業別重点強化マップ 事業ごとに重点強化分野を絞り込み、 それらの分野を徹底的に伸ばす 視点 事業 技術 販売 市場 ビジネスモデル コンピュータテープ 光ディスク 一次電池 リチウムイオン電池 重点的に強化していく分野 9 ム電池や、水銀・鉛を使用しない環境性に優れた酸化銀 電池で新領域を切り拓いているとおり、差別化技術を活 かした高付加価値品にリソースを集中することで、新しい マーケットを開拓していきます。 また、成長分野であるリチウムイオン電池は 「技術」 と 「市 場」 、そして 「ビジネスモデル」 を徹底的に伸ばしていきます。 世界的な携帯電話の普及に後押しされ、リチウムイオン 電池の市場は拡大の一途をたどっています。また、第三 世代の携帯電話の普及により、内蔵されるリチウムイ オン電池にはさらなる高容量化、高エネルギー密度化が 求められています。そこでこの分野では、まず世界最高 基幹事業は、製品領域ごとに重点強化分野を 絞り込み、それらの分野を徹底的に伸ばして いきます。 容量品をスピーディーに開発し、マーケットの成長を確実 につかんでいく一方で、携帯型ゲーム機など、携帯電話 分野以外のアプリケーションでも、これら高付加価値製 品が応用可能なマーケットをさらに開拓していきたいと で、この分野ではマクセルが優位性を確立している技術 考えています。さらに、中型リチウムイオン電池などの新 を活かし、次世代製品を先行開発していきます。すでに世 しいマーケットに向けた製品展開も図っていきます。 界初となる追記型HD DVD-Rディスクを商品化しており、 また、マクセルの電池には、創業以来蓄積してきたさ 2006年中にすべての記録型次世代光ディスクを市場に出 まざまな技術が凝縮されており、部材ひとつをとっても、 していく計画です。一方で、記録型DVDのマーケットは、 高い技術優位性を誇っています。電極をはじめとしたそ ますます市場での競合環境が激化すると考えられます。 れら部材のさらなる高機能化や、電池システムという新た そのため、生産体制についてはこれまで以上に総合原価 な製品領域への進出も視野に入れるなど、ビジネスモデ 低減を徹底していくとともに、 高付加価値製品は自社生産、 ルの面でも新たな展開を図っていきます。 ボリュームゾーンの低価格製品は生産委託を行うなど、ビ ジネスモデルの面での強化も図っていきます。 Q 新規事業はどのような分野へ「選択と集中」を行 い、早期戦力化を図っていきますか。 一次電池のうち、アルカリ乾電池は 「販売」、マイクロ 電池は 「市場」 を重点強化領域としていきます。アルカリ 乾電池の市場は厳しい環境にありますが、販売手法を これまでに立ち上げてきた新規事業のうち、将来性が高 変えればまだまだ伸びる余地はあります。「ダイナミッ く差別化技術を有する 「光学部品」 と 「機能性材料」 に集中 ク」などの高性能製品はこの数年でシェアを伸ばしてお 的に経営リソースを投下し、早期戦力化を図っていきます。 り、今後新たな流通ルートを通じて拡販していくことで、 国内シェアトップを目指していきます。 光学部品ではマクセルは後発に位置しますが、設計か ら開発、製品化までの一貫した体制と、光学設計技術、 マイクロ電池の分野では、高度な技術が必要とされる 高精度金型加工技術、精密成形プロセス技術といった 市場分野を強化していきます。高い耐温度性や耐湿度性、 差別化技術で着実にマーケットでの地歩を固めつつあり 耐漏液性を実現する技術は、マクセルが圧倒的な優位性 ます。この製品分野ではそれらの強みを活かし、徹底し を確立している技術領域です。すでに自動車のタイヤ空 た高付加価値化を推進していきます。 気圧センサー向けの耐熱コイン形二酸化マンガンリチウ 10 A 具体的には、携帯電話向けカメラレンズユニットでは 社長インタビュー 新中期経営計画−「組織力」と「モノつくり力」で新たな成長軌道へ 薄型設計や高分解機能をさらに強化していくことで、携 新たに導入したビジネスプロジェクト制度を 通じ、次代のマクセルを担う技術・事業を生 み出していきます。 帯電話の薄型、軽量化に対応していきます。また、車 載・監視カメラ用レンズユニットでは超広角を追求してい くことで高付加価値化を図っていきます。高い光利用効 率を求められる光学ドライブ用ピックアップレンズでは、 需要予測、収支などについて、経営陣の了承を得て進め あらゆる記録・再生方式に対応する独自の高次非球面レ ることでプロジェクトの 「見える化」 を図り、従来よりも事業 ンズの開発を通じて、差別化を図っていく考えです。 化もしくは事業化中止の判断時期を大幅に早め、開発の 機能性材料では、プラズマテレビ、液晶テレビに利用 効率化を図ることが可能となります。また、開発部門にも されるフラットパネルディスプレイ向けの機能性フィルム 採算性に対する強い意識を植え付けるとともに、社員の士 に特化し、高次元で求められるニーズに独自の高品質・ 気向上もねらいとしています。 高性能の複合光学フィルムで応えていきたいと考えてい 第一弾としては、SVOD (体積記録型光ストレージ)技 ます。また、独自の塗布方式による低コストのLCD用輝 術を活用した薄型光ディスクの早期商品化を目指すプロ 度向上フィルムの開発にも注力することでシェアの拡大 ジェクトチームを立ち上げました。今後は、有望なテーマ を目指していきます。 ごとにプロジェクトチームを立ち上げていき、次代のマク セルを担う技術の育成に積極的に活用していきたいと Q 「将来への新技術の仕込み」の柱となるビジネス 考えています。 プロジェクトとはどのようなものですか。 A 2006年4月から導入したビジネスプロジェクト制度は、 開発テーマから事業化すべきと判断したテーマを対象に、 開発、生産、営業部門などの人材によるプロジェクトチー ムを発足し、プロジェクトリーダーが責任を持って商品化 することにより、事業化のスピードアップを図っていく制度 です。チーム発足前にプロジェクトの概要と計画、予算、 SVOD(体積記録型光ストレージ) カートリッジ ビジネスプロジェクト ● 特徴 プロジェクトの詳細について経営陣の了承を得て進めていくことで、 事業化もしくは事業化中止の 判断を早めることができる。 ● これまで プロジェクトチームは、 開発、 生産、 営業など社内横断的な人材で構成される。 ● 採算性に関する開発部門の意識を高める。 開発フェーズ 事業化フェーズ 事業化判断 ビジネス プロジェクト 開発フェーズ 事業化フェーズ 事業化判断 事業化のスピードアップ 11 社長インタビュー 新中期経営計画−「組織力」と「モノつくり力」で新たな成長軌道へ 成長性・収益性が高い事業ポートフォリオへの転換 材料・デバイス・電器 情報メディア 材料・デバイス・電器 情報メディア 18% 電池 19% 2006年 3月期 実績 25% 2011年 3月期 計画 63% 50% 25% 電池 Q 「組織力の強化と発揮」をアクションプランに掲 Q げているねらいを聞かせてください。 A これまでに 「基幹事業の再構築と新展開」 「 新規事業 2011年3月期に向けて規模と収益性をどのよう に追求していきますか。 A 経営資源の重点的な投下を通じ、新規事業を当グ の早期戦力化と将来への新事業の仕込み」 などマクセル ループの主力事業に育成していき、事業構造そのものを を成長性のある企業に変えていくための方策をお話して 売上成長性・収益性の高い事業ポートフォリオに転換して きましたが、それらを実行していくのは、いうまでもなく いきたいと考えています。具体的には、成長性、収益性 「人」であり「組織」です。幸いにもマクセルグループには優 が高い電池や光学部品、機能性材料を重点的に強化し 秀な人材が数多く存在し、技術力とは別のマクセルの大 ていくことで徐々に構成比を高めていき、2011年3月期 きな強みともなっています。そのような人材が持つ高いポ までには、 「電池」 と 「材料・デバイス・電器」 の2つのセグ テンシャルを引き出す環境を整備すること、そして挑戦・改 メントをあわせて、 「情報メディア」セグメントと同水準に 革を行っていくためのマインドを醸成していくことが計画 まで引き上げていく計画です。 遂行のためには不可欠であると考えています。そのため に、私はまずマクセルグループが目指すべき企業像を明 Q 最後にステークホルダーの皆様へメッセージをお 願いします。 確化するところから着手しました。そして現在は、数多くの 社員との対話を通じ、意識改革を促しています。 組織を強化していくためには地道な努力が必要です A マクセルグループは、「成長への変革」に向けた新た が、私のこのような考えが全グループに浸透し強い企業 な挑戦を開始しました。起業家精神に溢れた人材を基 集団となったマクセルグループを、その成果としてお見せ 盤としつつ、世界トップレベルの 「モノつくり力」 にさらな できると確信しています。 る磨きをかけることで、新しい価値を次々に生み出して いく 「新生日立マクセル」 の今後にご期待ください。 執行役社長 12
© Copyright 2024 ExpyDoc