ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 日皮会誌:117(7) ,1107―1119,2007(平19) Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 皮膚科セミナリウム なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 第 27 回 物理・化学的皮膚障害 1.熱傷 臼田 要 俊和(社会保険中京病院) 約 き疾患であろう. 本稿では,通院で治療可能な小範囲の熱傷から,一 熱傷の治療のポイントは,重症度と病期を考えて対 人医長であっても皮膚科医である以上は対処せねばな 応することである.熱傷の診断では受傷面積,深度に らない(対処することができる)中等度∼亜重症の熱 加えて,年齢,部位,持病や合併症の有無などを総合 傷を中心に,診断から治療までの要点を述べる. して重症度を把握することが大切である.初期治療で 熱傷の原因,疫学 は,入院や輸液療法の適応の有無を的確に判断する必 要がある.局所療法は受傷早期,感染期,回復期の熱 熱による皮膚・皮下組織の損傷は,熱量(温度)と 傷創面の状態に応じて,外用剤を選択・変更していく. 作用時間(接触時間)の相関によって決定される1).通 自然上皮化が困難な深い熱傷では,漫然と外用療法を 常の接触では熱傷とならない温度でも,長い作用時間 続けずに,壊死組織除去と植皮術による早期創閉鎖を と圧迫による局所の循環障害が加わった状態において 目指すべきである. は,いわゆる低温熱傷を生じることになる2)3). はじめに 熱傷の原因は,時代背景・生活環境の改善・安全装 置の発達によって変化してきてはいるが,日常生活と 軽症から重症まで程度の差はあるものの,誰にでも 関連した過熱液体や火焔,高熱固体が主体であり,年 “やけど”をした経験があるように,熱傷(burn, ther- 齢層としては小児が大半を占めている4)5).成人では mal injury)は非常にありふれた外傷性皮膚疾患(物理 労災関連や火災,老人に多い着衣への引火による熱傷 化学的皮膚障害)である.熱傷では高熱刺激によって のほか,自殺企図によるもの(多くは灯油での焼身) も 皮膚組織が損傷(変性,凝固,壊死)を受ける結果, しばしば認められる. 皮膚のバリア機能や生理的機能が失われてしまうた 気道熱傷(inhalation injury)は火焰,ガス爆発,高 め,体液の漏出や感染をはじめとした多くの問題を生 温水蒸気,有毒ガスなどの吸入によって生ずる呼吸器 じてくる.また,対処すべき問題点が時間経過ととも 系障害の総称であり,確定診断には気管支鏡検査が必 に次々と変化して行くことも,熱傷の大きな特徴であ 要となる.厳重な呼吸管理を早急に開始することが必 る. 須であり,専門施設 (熱傷センター, 救命救急センター) 熱傷の経過は,受傷面積や部位,熱傷深度によって での集中的管理を要する. かなり異なり,対処の仕方によっては予後も大きく左 電撃傷(electric burn)は感電,落雷などの電気的障 右されかねない.とくに,局所療法は病期に対応して 害による損傷で,電流による組織損傷(true electrical 適切に変更して行くことが大切であり,熱傷治療のポ injury) と電気火花による電気火傷に大別される.電撃 イントの一つでもある.熱傷は軽症例から重症例まで 傷の予後は,体表の受傷面積よりも損傷体積によって 多種多様であるが,整った設備と多数のスタッフによ 決まるので,重傷度の判定の際には注意が必要であ る集学的管理が必要となる超重症熱傷は別にしても, る6). 皮膚の専門家である皮膚科医が,積極的に取り組むべ 化学熱傷 (chemical burn)は,酸,アルカリ,薬品, 1108 皮膚科セミナリウム 第 27 回 毒ガス,重金属などの化学物質による皮膚組織の破 物理・化学的皮膚障害 度(dermal burn) ,III 度(deep burn)に分けられてい 壊・腐蝕であり,化学損傷(chemical injury)が用語と る.水疱を形成する II 度熱傷は,さらに浅達性 II 度 しては適切である2).酸よりもアルカリの方が傷害作 (superficial dermal burn,SDB)と深達性 II 度(deep 用が強く,化学物質では肝,腎,神経などに対する二 dermal burn)に分けられるが,両者の臨床経過は大き 次的な障害(中毒症)にも注意を要する. く異なる.受傷早期では SDB か DDB かの判別はしば しば困難であり,経時的観察を行ってはじめて確定で 熱傷の診断 きることも多い.受傷早期での簡便な深度検査方法と 予想される経過を推定し,適切な治療計画を立てる しては,pin-prick test や抜毛試験があり,痛みが減弱 第一歩となる熱傷の診断では,熱傷深度の判定と受傷 したり消失している場合は DDB∼III 度と判断でき 面積の算定に加えて,重症度を総合的に評価し,入院 る. 治療,輸液療法,専門施設への転送の要否などについ 7) ∼11) て,的確に判断することが求められる . 熱傷深度がわかれば熱傷創の一般的治癒経過が予想 できるので,深度診断は重要であるものの,受傷早期 では難しい場合も少なくないので,経過観察による最 終的な判定が必要である.また,同じ熱傷創の中にお (1)基本的な確認事項 ①年齢,体重,性別,職業. いても深さは均一ではなく,混在しているのが普通で ②持病・基礎疾患の有無,内服中薬剤の有無. ある(図 2) . ③受傷した時間,原因,場所(屋内か屋外かなど) ,受 (3)受傷面積の診断(図 3) 傷部位. ④受傷してからの尿量,尿回数(長時間の無尿と乏尿 全体表面積に占める熱傷面積の割合(%)で示され の場合には,熱傷ショックや臓器障害に注意する) . る.成人では 9 の法則を用いて概略の面積の算定がで ⑤応急処置の有無と方法,冷却処置の有無. きる.幼小児の場合には,成人とは体型が異なって頭 ⑥小児虐待による熱傷が疑われる場合には,家族や付 部の占める割合が大きいので,5 の法則を用いる.正確 添い者の観察. な受傷面積の算定を行う際には,Lund & Browder の ⑦骨折,ガス中毒などの合併症の有無. chart を使う必要がある.小範囲の熱傷では手掌法 (熱 傷患者の手のひらを約 1% として算定) が簡便である. 受傷直後では受傷範囲が不明確なこともあるので, (2)熱傷深度の診断(図 1) 日本熱傷学会の分類では I 度(epidermal burn) ,II 受傷面積と受傷部位は 1∼2 日後に再確認することが 図 1 熱傷深度と病歴・所見からの診断 文献 7 )より改変 1.熱傷 図 2 熱傷深度の正確な判定は初期では難しい 図 3 受傷面積算定法 1109 1110 皮膚科セミナリウム 第 27 回 物理・化学的皮膚障害 望ましい. 表 1 熱傷重症度の診断(文献 7)より引用) (4)熱傷重症度の診断(表 1) 熱傷患者の予後を総合的に判断し,治療方針を決め 1.Ar t zの基準(1957) ①重症熱傷(熱傷専門病院または総合病院で治療) 1)体表面積の 25%以上の I I度熱傷 2)顔,手,足,外陰部の I I I度熱傷,または 10%以上 のI I I度熱傷 る上で重要となるのは,重症度の診断である.熱傷深 度と受傷面積に加えて,受傷範囲や部位,年齢,既往 歴や合併症を総合して重症度を把握することが必要と 3)気道損傷,広範な軟部組織の損傷,骨折を合併し た熱傷 なる.気道熱傷や電撃傷は,受傷面積の大小とは関係 4)電撃傷 なく重症度の高い熱傷である.糖尿病,腎不全,脳血 ※上記以外でも,基礎疾患として糖尿病,心不全,慢 性腎障害などの基礎疾患がある場合は,重症熱傷 のリスクグループとして扱う 管障害などの基礎疾患の存在は,熱傷の治療を行う上 で大きな障害となりやすい. 重症度の判定基準として代表的なものは Artz の基 ②中等度熱傷(一般病院で治療) 1)15~ 25%の I I度熱傷 12)13) 準(1957)である .一般的には Burn Index(BI)や 2)10%未満の I I I度熱傷,ただし顔面,手,足,陰部 の熱傷は除く 予後熱傷指数(PBI)が広く用いられているが,受傷早 期の時点では SDB と DDB,DDB と DB の明確な判 別は難しく,判定者によってもバラツキが大きい.専 ③軽症熱傷(通常は外来治療で可能) 1)15%未満の I I度熱傷 門的知識がなくても判定できるように工夫されたもの 2)2%未満の I I I度熱傷 として SCALDS score(熱傷スコア)があり(図 4) , 実地臨床的には有用である14)15). (5)小児熱傷の特徴と注意点16) ※但し乳幼児では短期間の入院加療も考慮する 2.Bur nI ndex(BI )(Sc hwa r t z1956) BI=(第 I I I度熱傷面積)+(第 I I度熱傷面積)×1/2 10~ 15以上の場合は重症 ①小児の皮膚は薄いため,成人の場合よりも熱傷深 ※ PBI= BI+年齢 度は深くなりやすく,瘢痕や拘縮を生じやすい. ②小児は細胞外液量の占める割合が多く不感蒸泄も 盛んなため,熱傷ショック(脱水ショック)を生じや 3.SCALDSs c or e(中京病院,1983) 熱傷スコアの総点数 10点以上が重症 すい. ③日常生活と関係した高熱液体によるものが,受傷 熱傷の治療 原因として大半を占める.背が低いため,卓上の高熱 液体を頭からかぶって受傷する症例も多い. ④小児虐待による熱傷も稀ではないので注意を要す る(被虐待児症候群の一症状としての熱傷に注意) . 軽症か重症かによって,熱傷の治療はかなり異なっ てくる.軽症の場合には局所療法が主体となるが,広 範囲重症熱傷では輸液療法によるショックの防止,多 臓器障害・感染症対策,手術治療(壊死組織除去と植 (6)入院治療の判断基準 成 人 の 15% 以 上 の II∼III 度 熱 傷,小 児・老 人 の 7∼10% 以上の II∼III 度熱傷では,入院・輸液療法が 皮術)と多岐にわたる.この際に大切なことは,軽症 でも重症の場合でも熱傷の病期(表 2)に応じて適切な 治療法を選択することである18). 必須である.これ以下の受傷面積でも,顔面∼頸部, 熱傷初期治療の標準化へ向けて,ABLS(advanced 手指,足,陰部の II∼III 度熱傷の場合には,整容的・ burn life support)コースの早期導入も試みられてい 機能的予後を考慮して治療に当るべきであろう.小児 る19). 虐待による熱傷が疑われる場合には,小範囲であって も経過観察入院の適応となる. 注意メモ (1)初期治療…輸液療法と尿量の確保 小児では受傷直後の来院時には元気そ 熱傷ショックを防止するため,初期治療では輸液療 うに見えても,数時間後には急速に熱傷ショックに陥 法を優先して行うことが必要である.中等度∼重症の ることもあるので,慎重な対応が求められる17). 熱傷では毛細血管の透過性亢進が全身に及び,血管外 への血漿成分漏出と創面からの滲出液によって,循環 1.熱傷 図 41 熱傷スコア(表) 1111 1112 皮膚科セミナリウム 第 27 回 物理・化学的皮膚障害 図 42 熱傷スコア(裏) 1.熱傷 1113 表 2 重症熱傷の病期分類 熱傷の病期 受傷後の時間経過 主な症状 主な治療法 熱傷ショック (血管透過性の亢進によ る低容量性ショック) 輸液療法 (乳酸加リンゲル液) 24時間以降のコロイド液 滲出液対策の局所療法 ショック期 48時間まで ショック離脱期 (利尿期) 2日~ 1週 血管への r ef i l l i ng 大量の排尿 肺水腫,心不全 呼吸器系,循環器系管理 体位変換 創面保護の局所療法 1週~ 4週 肺炎 敗血症 多臓器不全 bur nwo unds eps i s 貧血 抗生剤投与 局所療法,局所化学療法 温浴療法 debr i deme nt 植皮術 熱傷潰瘍 肥厚性瘢痕 瘢痕拘縮 色素沈着,脱失 瘢痕潰瘍 植皮術,瘢痕拘縮形成術 外用療法,内服療法 圧迫療法 機能訓練 遮光療法 急性期 感染期 回復期 4週~ 表 3 代表的な輸液の公式(文献 26)より引用) <Br o o kef or mul a >(一部改変) 0 . 5 ml × 熱傷面積(%)× 体重(kg)………………………a(膠質液) 1 . 5 ml × 熱傷面積(%)× 体重(kg) ……………………b (電解質液) 維持水分量 ……………………………………………………c cの値は年齢・体重に応じて加減する 0kgまで 100 ml /kg 兼 体重 1 券 献 献 1 , 000 ml+ 50 ml /kg献 献 10~ 20kg 験 20kg以上 1, 500 ml+ 20 ml /kg鹸 a+ b+ c a+ b+ c ,つぎの 1 6時間で ,総量は 1 0, 000 mlまでとする. 兼受傷時から 8時間までに 2 2 献 a+ b+ c 験翌日の 24時間は ,5 0%以上の熱傷は 50%として計算する 2 <Ba xt e rf or mul a > 4 . 0 ml × 熱傷面積(%)× 体重(kg) 兼最初の 24時間は全量を乳酸加リンゲルで輸液する.輸液の速度は Br ookef or mul aに準ずる 献 (小児の熱傷でこのまま適用すると輸液量が不足する場合がある) 験 <中京病院方式>(最初の 24時間) 1 )尿が出るまでハルトマン液(pH8 )を急速に輸液*1 2 )尿が出たら時間尿量 50 ml (小児 1. 5~ 2ml /kg)に輸液量調節*2 3 )1 6時間目より冷凍血漿を血漿蛋白 6g/dlを目標に輸液*3 兼*1 :尿量が目安のため利尿薬禁忌 *2:尿がよく出る場合でも最低 Br ooke量は入れる 献* 3 :重症例で血漿蛋白 3 g / d l 以下になった場合は冷凍血漿を 1 0 時間目より開始 験 血液量,機能的細胞外液量が減少する結果,低容量性 計算量に必ずしもとらわれる必要はなく,時間尿量 ショック(hypovolemic shock)に陥ってしまうが,適 (1.5∼2ml! kg! h)と全身状態を指標として輸液管理す 切な輸液を行うことによって防止することができる. る方法が簡便・確実なことが多い24).成人の 10% 以 20) 最も古典的・基本的な輸液法は Evans の公式 であ 上,小児の 7∼10% 以上の熱傷では,輸液療法が必要 るが,現在ではさらに改良された Baxter 法 (Parkland と考えた方が安全である25).受傷後 16∼24h 経過し 21) 22)23) 法) や Brooke 法 が一般的となっている(代表的 て,低蛋白血症による乏尿や循環不全を認めるように な輸液公式を表 3 に示す) .10∼25% 程度の熱傷では なれば,膠質液の投与を考慮する必要がある.循環動 1114 皮膚科セミナリウム 第 27 回 物理・化学的皮膚障害 態の保持や利尿の目的で昇圧剤や利尿薬を使用するこ 局所療法・外用療法 とは,初期治療において最も避けるべき治療法であ る26)27). 熱傷の局所処置・外用療法は,受傷後の時間経過と 創面の状態に適した方法を選ぶことが何よりも大切で (2)全身管理,呼吸管理 輸液療法に伴った肺浮腫・肺水腫,心不全に対する 注意が必要であるが,絶対安静にする必要はなく,ラ ある.基剤の特性と配合剤の薬理作用をよく理解して, “何を目的として外用療法を行うのか”を考えて外用剤 7)28) を選択すべきであろう(表 4) . インやモニターの数もできるだけ少なくしておいた方 が,管理はかえって楽に行える場合も多い.体位変換 も可能な限り頻回に行った方がよい. 中等度∼重症熱傷の呼吸管理は,通常はバイタルサ (1)受傷直後の処置 ①受傷直後には,水道水などの清浄な流水による冷 却・洗浄が最も大切.熱傷深度の進行を防ぐとともに, インのチェックのみで十分である.気道熱傷のある場 創面の汚れも洗い流すことができる. 合には,挿管や気管切開による厳重な呼吸管理を要す ②衣服の上からの熱傷の場合は,冷却後に脱がせるか る. ハサミで衣服を切り除く. ③小児の場合は低体温に気をつける. (3)必要な検査 ④酸やアルカリによる化学熱傷の場合も,流水による ①バイタルサインと時間尿量の経時的測定. 希釈と洗浄が第一選択となる. ②血液検査では,末梢血一般,電解質,血清総蛋白 (T. ⑤冷却後は清潔なガーゼやタオルなどを当てて医療機 P) ,腎機能値,肝機能値,HBs 抗原,HCV 抗体,梅毒 関へ. 血清反応など.受傷後 48 時間頃までは Hct 値と T. P ⑥消毒(特に色のある消毒薬)や民間療法(アロエな は変動が激しいので,経時的に測定を行う. ど)は禁忌である. ③胸部 X 線, 心電図は, 臨床症状に応じて施行する. (2)救急来院時∼受傷早期の局所処置 (4)初期治療と薬物投与 受傷早期では創面の保護と滲出液対策を主体に考え ①急性期は輸液(乳酸加リンゲル液)と尿量による管 る.熱傷創面を消毒することは,かえって創傷治癒を 理が第一. 阻害し,創面への刺激や接触皮膚炎の原因となりやす ②ステロイド薬の投与は原則として不要. いので,できるだけ使わない方が良い. ③鎮痛薬などの投与は,なるべく避けるほうが賢明 (全 ①創面を微温生理食塩水やシャワーで洗浄. 身状態の把握が困難となりやすい) . ②水疱はハサミで小孔をあけて内容液を排出させるの ④抗菌薬の投与は,熱傷創の汚染がひどくなければ, みとし,水疱膜は除去しない方がよい. 基本的には受傷後数日してからの開始でよい. ③ガーゼが創面に固着しないようにチュールガーゼを ⑤筋注・皮下注による薬物投与は不適切(熱傷による 当て,厚目にガーゼで被覆して弾力包帯で軽く巻いて 浮腫のため吸収・効果発現までの時間が不明確) . おく(浮腫できつくなりすぎないようにする) . ⑥屋外での受傷や汚染された熱傷創の場合は,破傷風 ④油紙やラップ,疎水性の軟膏は,滲出液を貯留させ に注意する. て不潔になりやすいので注意. ⑤抗菌薬配合の外用剤は初期には不必要. (5)経口摂取と栄養管理,早期離床 ショック期,再吸収期を脱して消化管の活動が回復 したら,経口摂取をなるべく早くから開始する.熱傷 ⑥創傷被覆剤の最も良い適応は II 度熱傷(疼痛緩和, 滲出液減少)で,III 度には無意味(壊死組織の上に植 皮することと同じ) . 後は創治癒と身体防御のためにエネルギー代謝は亢進 しているので,通常よりも高カロリーを摂取する必要 があるが,バランスの良い食事が基本である. 急性期を過ぎたら,可能な限りラインやカテーテル 類を減らして,早期離床への取組みが大切となる. (3)受傷後数日∼感染期の局所処置 壊死組織の融解や細菌感染が明らかとなったら,抗 菌外用薬 (ゲーベンクリームⓇ,テラジアパスタⓇなど) による処置が必要となる.創面の状態と外用剤の特性 1.熱傷 1115 表 4 外用剤(熱傷局所治療剤)の分類(文献 7)より改変) 基剤による分類 ※油脂性軟膏(疎水性軟膏) 配合剤による分類 ※サルファ剤 ・創面保護作用 テラジアパスタ ・痂皮の浸軟,除去 ・浸出液貯留しやすい ゲーベンクリーム など 白色ワセリン,流動パラフィン(プラスチ ベース),亜鉛華軟膏 など ※抗生物質 ゲンタシン軟膏,クリーム バラマイシン軟膏 アイロタイシン軟膏 など ゲンタシン軟膏,プロスタンディン軟膏, アズノール軟膏 など ※乳剤性軟膏(クリーム) (ソフラチュール) ※消毒薬 ・経皮浸透力あり イソジンゲル ・水で洗い流せる ユーパスタ(白糖ポビドンヨード) ・界面活性剤,防腐剤を含む ・刺激・皮膚炎に注意(びらん,潰瘍面) ①水中油型(o/ w) :バニシングクリーム ゲーベンクリーム スルプロチン軟膏 など オルセノン軟膏 ②油中水型(w/o):コールドクリーム リフラップ軟膏 ソルコセリル軟膏 ※水溶性軟膏 ポリエチレングリコール(PEG) 兼 分子量 1000以下…常温で液体 献 〃 以上… 〃 固体 験 〃 ・浸出液吸収,創面乾燥化 ・伸びがよい ・水で洗い流せる ※壊死組織除去剤 エレース C軟膏 ブロメライン軟膏 リフラップ軟膏 ※肉芽形成促進剤 オルセノン軟膏 アクトシン軟膏 リフラップ軟膏 ソルコセリル軟膏 フィブラストスプレー など ・刺激痛あり,時に接触皮膚炎 R マクロゴール軟膏(ソルベース○ ) テラジアパスタ(サルファ剤配合) アクトシン軟膏(ブクラデシン Na配合) ブロメライン軟膏 ※外用液剤 イソジン液 ヒビテン液 など ヒビテン液 など ※非ステロイド系鎮痛消炎剤 アンダーム軟膏,クリーム コンベック軟膏,クリーム ※創面保護,上皮形成促進剤 亜鉛華軟膏 アズノール軟膏 アクトシン軟膏 ※外用散剤 エレース カデックス など ※懸濁性基材 FAPG基材 ハイドロゲル基材(ソフレットゲル)など が合ったものを選択することが大切である(表 4) .滲 (4)熱傷潰瘍は植皮術の適応 出液や膿によってドロドロになった前日の外用剤や壊 受傷後 2 週間以上経過しても上皮化が見込めないよ 死組織を,シャワー洗浄や温浴療法で洗い流してから うな場合には,外用療法を漫然と続けずに,植皮術に 新しい外用剤を貼付することが,外用療法を効果的に よる早期創閉鎖を計るべきである.感染期の熱傷患者 行うポイントである. では持続的な発熱がしばしば認められるが,どんなに 優れた抗菌薬を投与しても植皮術による創閉鎖が行わ れない限りは,無熱状態を得ることは不可能である. 1116 皮膚科セミナリウム 第 27 回 ① ① ② ② ③ ③ ④ ④ ⑤ ⑤ ⑥ ⑥ ⑦ ⑦ ⑧ ⑧ 物理・化学的皮膚障害 図 5 植皮術の実際(文献 2 9 , 3 0参照) 1 7歳男性.湯たんぽによる低温熱傷. ①手術前(受傷後 2 5日目).②壊死組織、黒色痂皮をカミソリで除去.③点状出血す るまで de br i de me ntする.止血はアドレナリンガーゼで数分間圧迫止血.④大腿より 極薄分層植皮片を採皮.⑤植皮片をヘラに載せて植皮.⑥ソフラチュールで植皮片を ズレないように被覆.⑦ t i e o ve r固定する.⑧弾力絆創膏で固定し,さらに弾力包帯 で巻く. 1.熱傷 1117 図 6 31歳女性 両下肢 6%の DDB~Ⅲ度熱傷の治療経過 意識消失中に熱湯で受傷 ①受傷後 3 6時間.右下肢の浮腫が著しい.②受傷後 2週。局所療法のみでは上皮化は 困難で植皮術が必要.③受傷後 3週(手術前).④植皮術後 1 0日.極薄分層植皮片の 生着は良好.⑤術後 9カ月.肥厚性瘢痕は軽度.⑥術後 1年 3カ月.肥厚性瘢痕は消 褪しつつある. 抗菌薬の投与は,あくまでも手術までの繋ぎ的療法で 要がある.また,なるべく複数のスタッフで手術は行 あることを理解しておくべきであろう. う方がよい.広範囲熱傷で植皮部が不足する場合には, 他家植皮や培養表皮を用いる方法も行われてい (5)手術治療(図 5,6) る31)32). 早期から焼痂除去と植皮術を行う場合もあるが,創 の自然上皮化の有無が明確となる熱傷後 2∼3 週を手 (6)開創,術後療法 術時期の目安として考える方が合理的である29)30).手 術後数日間は,植皮片のズレや血腫を防ぐため安静 術方法は壊死組織を除去(debridement)して自家植皮 が必要であるが,できるだけ早期離床を目指すように を行うのが一般的である.広い範囲の手術では,出血 する.開創は術後 5∼7 日に行うが,ガーゼ汚染が目 量をできるだけ減らすために手順よく短時間で行う必 立ったり悪臭がするようなら早めの開創を行う. 1118 皮膚科セミナリウム 第 27 回 物理・化学的皮膚障害 植皮片の生着が良好であれば, コンベック軟膏Ⓡ,リ いることもしばしば見受けられる.予想される経過, ンデロン VG 軟膏ⓇやテラジアパスタⓇ処置をし,シャ 予後,注意事項などについて,平易な言葉を用いてわ ワー浴も開始する.肥厚性瘢痕を予防・軽減するため かりやすく説明すること16)33)が大切であり,無用なト Ⓡ Ⓡ に,ヒルドイドソフト の外用やリザベン の内服のほ ラブルを避けることもできる. か,症例によっては圧迫療法も考慮しておく(肥厚性 おわりに 瘢痕の生じ方は,熱傷深度,部位,体質によってかな り異なる) .遮光も忘れてはならない後療法の一つであ る.できるだけ長期間の経過観察を行うべきであろう. 熱傷はありふれた疾患であるにもかかわらず,民間 療法に代表されるような誤った治療法が,未だに行わ れていることもまた現実である.皮膚と外用療法の専 患者,家族への説明 門家である皮膚科医が,熱傷の治療に更に積極的に参 “やけど”をした患者さんや家族の不安と心配は,大 変大きなものである.病状やキズ跡の残り具合,食事, 加,活躍することが,今後ますます求められるものと 考えられる. 入浴など,どのようにしたらよいか分からずに困って 文 1) Moncrief JA : Causes of thermal injury, Burns-A team approach, Artz CP et al, WB Saunders Co, Philadelphia, 23―25, 1979. 2)日本熱傷学会用語委員会:用語解説,熱傷用語集 日本熱傷学会,1996. 改訂版,51―73, 3)臼田俊和:低温熱傷,MB Derma, 57 : 63―69, 2002. 4)井砂 司,野崎幹弘:発生頻度と原因,救急医学, 20 : 2―3, 1996. 5)岩崎泰政:熱傷,最新皮膚科学体系 第 2 巻,皮膚 科治療学・皮膚科救急,玉置邦彦ほか編,中山書 店,東京,p. 236―250, 2003. 6)大橋正次郎:電撃傷,熱傷,23 : 9―24, 1997. 7)臼田俊和:1)熱傷を読む,皮膚科診療プラクティ ス 15, 難治性潰瘍を治すスキル(第 1 版) ,東京: 文光堂,2003 : 70―78. 8)木所昭夫:熱傷の初期治療,外科治療,91 : 457― 464, 2004. 9)Azad S, Falder S, Wilkinson D, et al : A GP guide to treating burns, Practitioner, 248 : 638―651, 2004. 10)Allison K, Porter K : Consensus on the prehospital approach to burns patient management, Emerg Med J, 21 : 112―114, 2004. 11)DeSanti L : Pathophysiology and current management of burn injury, Adv Skin Wound Care, 18 : 323―332, 2005. 12)Artz CP, Moncrief JA : Disposition of burned patients, The Treatment of Burns, 2nd Ed, WB Saunders Co, Philadelphia, p. 94―96, 1969. 13)Moylan JA : First aid and transportation of burned patients, Burns-A team approach, Artz CP et al, WB Saunders Co, Philadelphia, p. 151―158, 1979. 14)臼田俊和, 井澤洋平:SCALDS score (熱傷スコア) による熱傷重症度の早期判定,熱傷,8 : 229―235, 1983. 献 15)岩崎泰政ほか:小児重症熱傷の治療経験と問題点 の検討一成人例との比較,日皮会誌,107 : 1253― 1261, 1997. 16)臼田俊和:境界疾患・事故関連疾患, (6)熱傷,市 川光太郎編,内科医・小児科研修医のための小児 救急医療治療ガイドライン,診断と治療社,東京, p. 395―401, 2004. 17)鈴木恒夫,濱邊祐一:救急初療医へのアドバイ ス―37 熱傷,初期対応が不十分であった症例,救 急医学,26 : 587―589, 2002. 18)臼田俊和:熱傷,植木宏明ほか編,皮膚科専門医テ キスト改訂 2 版,南江堂,東京,p. 243―249, 2002. 19)佐々木淳一:熱傷初期治療の標準化―ABLS コー スの日本導入に向けて,第 32 回日本熱傷学会,仙 台,2006 年 6 月 9 日. 20)Evans EI, et al : Fluid and electrolyte requirments in severe burns. 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