テレビカメラ屋の30年 - 映像情報インダストリアル

巻頭A/ソニー 99.3.30 6:48 PM ページ 41
◆ 映像情報の30年
「映像情報」の画像分野における貢献度は、業
務用の画像に携わる仕事人達にとって、他にない
リファレンスをいつももたらしてくれました。今
テ
レ
ビ
カ
メ
ラ
屋
の
30
年
後も業界のリーダ的役割を、誌面だけでなく、ホ
ームページなどでも提供し続けていただければと
思います。
1. はじめに
私は、ソニーというAV世界のリーダ企業の中で、
テレビカメラ分野のほんの少しの部分を業務とし
て携わってきただけなので多くを語る資格に乏し
いのですが、放送用、業務用、工業用、FA用など
のカメラを約30年見てまいりました。
「映像情報」
とほぼ同じ時代を業界の一端から覗いた1人とし
て、僭越ですが簡単に執筆させていただいた次第
です。
2. 撮像管カメラから固体撮像カメラへ
30年前のカメラは、イメージオルシコン管とビ
ジコン管が主流でした。今から思うとその性能は、
S/Nが悪く、周辺解像度も悪いものでしたが、その
頃はとても良い画質であると思い込んでいました。
B/Wの25万画素CCDカメラ程度のものが放送用に
使われていたと考えれば良いと思います。
撮像管は、取扱いが難しく、寿命も短い。面白
いもので、今でもこの時代からのカメラ屋は、撮
像面側を上にする(真空管内の残存成分が撮像面
を傷つけるため)くせがあります。固体カメラの
世代にはこの習性がまったくなく、すぐに世代が
わかります。オルシコン管がプランビコン管に替
わり(70年代)
、サチコン管が登場して画質が大幅
に向上し、これで長く撮像管時代が続くかと思わ
れました。しかし、日本のNEC、SONY、三洋
(CCD)、日立(MOS)、松下(CPD)などがカメ
田中 正俊
ソニー株式会社 ISC
インテリジェント イメージング商品部 部長
ラ用の素子を競争しあい、CCD時代があっという
まにやってきました(85年頃)
。
January 1998︱ 41
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3. CCDカメラの発展とカメラ市場のビ
ッグバンの始まり
固体撮像素子(特にCCD)が安価で、優れた画
質を実現するにしたがって、信頼性、扱いやすさ、
長寿命、小型化がすすみ今にいたっています。ハ
ンディカムはビデオ技術をあわせたその英知の結
晶といえます。
固体時代に大きく変わったのは、アドレスがき
ちんとしているセンサが、画像処理、ビジョン、
データ転送という市場を創出したことです。画像
情報は人間が観るためだけなくコンピュータの目
写真1 最初の超小型カメラ(19万画素)
XC-37の試作/1982年
として、つまり2次元情報として、いままでと異な
った多くの世界を生み続けています。
4. アナログからデジタル/DSPへ
固体素子になったのが撮像素子の大きな変革な
らば、回路のデジタル化は、それまでの複雑な調
整を要する量産困難タイプから自動化生産が可能
になったカメラを生みだし、デジタル接続を可能
としました。
メインテナンスの簡便さもコストダウンもリモ
ートアクセスも同時にやってきました。IEEE1394
写真2 最初の2/3インチHAD-IT CCD(38万画素)
ICX-022/1986年
などのシリアル出力カメラもその周辺にあります。
5. インテリジェント化とスマートセンサ
デジタル化によって私のような古いカメラ屋は、
LCDディスプレイ、シリアル画像出力(SCSI、
IEEE1394、RS232C、USBなど)の構成ブロックで
動作しています。スマート化、インテリジェント
何に驚いたか?それは、回路構成のみでなくバス
化はソフトウェアカメラへの流れを示していると
にカメラブロックが接続されたものへと変貌した
もいえます。
という事実です。カメラブロック部分、という表
現。すなわち、外観はカメラでもメモリ、CPUな
どの回路のなかの1部分が、従来のカメラパートに
6. 静止画と動画とネットワークカメラ
なってしまった事実です。マシンビジョン領域で
テレビカメラに要請されていたのは、長い間TV
は、CPU、ビジョンプロセッサを内蔵した高速の
方式の出力をもつ動画映像用撮影ボックスでした。
一体型カメラとして構成されるスマートセンサが、
しかし、マシンビジョンでの非同期外部トリガ静
時代の主流になりつつあります。
止画カメラ、デジカメの静止画カメラ、リモート
あまり目立たないけれども多くの技術革新を実
カメラとしてのインターネット静止画カメラ、TV
現しているのが、電子スチルカメラ。通称デジカ
会議用リモコンカメラ、TV電話用コーデックカメ
メといわれているカメラです。中身は、プログレ
ラなどは、静止画そのものまたは連続した静止画
スCCDのDSPカメラ、圧縮回路、メモリ、CPU、
による映像の伝送を主体とするようになりました。
42 ︱eizojoho industrial
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通信プロトコル(TCP/IPなど)の確立で、イン
カメラが続々出現すると思うと、とてもこれから
ターネットカメラはどこでも簡単に使えるように
が楽しみです。動画、静止画と多くの分解能の画
なってきました。そしてPHS電話の併用またはイ
像が混在し、用途に応じた使い方(画面分割、多
ンストール、ISDNのダイヤルアップによる映像伝
くのデータ表示、クリックによる画面拡大、ズー
送の利用法が増え、CPU、ホームページ内蔵の
ム、静止画の組み合わせソフトなど)に適したネ
LAN/WAN用カメラサーバが新たに導入されつつ
ットワーク放送用カメラと端末情報データカメラ
あります。
が、またまた必要となるでしょう。
映像データを伝送しコントロール信号を受け取
る、双方向通信するネットワークカメラもビジネ
ス用途にこれから活躍することでしょう。この分
8. 先人達の努力の上にあるいまのカメラ
野の将来は、FTTH、FTTCなどの高速光伝送時代
NHKの和久井氏が執筆された「ITVカメラ」と
になって、さらにカメラの新たな形態を要求する
いう本以後カメラの体系書をみたことがありませ
はずです。
ん。是非このような本が、「映像情報」によって、
後進のために残されればいいなといつもぼんやり
7. デジタルTV放送時代のカメラ
思っています。
ソニーの山県氏、池上、日立、JVC、松下、東
在来のNTSC、プログレス方式(SDTV)とXGA
芝、NHK技研、浜ホトなど放送、業務用カメラで
クラスの方式、1,080のHDTV方式が放映されるの
立派な足跡を残された多くの方々によって、今日
が目前にせまっており、IT化とともに多くのソフ
があります。ありがとうございました。
トウェアが開発され、いままでとは視点が異なる
CCDカメラに造詣の深い田中氏は、画像処理の世界でも顔が広い。昨年、日本電気制
御機器工業会での講演を、小誌97/2月号に収録した。撮像管から固体撮像素子カメラへの
歴史の旅は非常に好評であった。
「映像情報」と、カメラは切っても切
り離せません。今後も“カメラ”の情報
には、細心の注意を払う所存です。
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