全文をダウンロードする:「インテリジェント・シティの台頭」 - Accenture

サステナビリティ
インテリジェント・
シティの台頭
ブルーノ・バートン、フィリップ・ギタート
世界の都市化が一段と進む中、将来の都市が魅力的であるためには 2つの目標を
積極的に追求する必要がある。すなわち、持続可能性の見地に立ったリソース管理
と、市民、企業、自治体が共生、活動、交流できる魅力的な経済・社会環境の創生
である。
42
100年前、
都市に住む人口は世界全体の7分の1にすぎなかった。
今日、
世界人口の半分が都市に住み、
その割合は年々着実に高まっている。
大都市に移り住む人の数が増えるにつれ、
技術、
企業、
自治体の形態、
資源の消費、
生活の質といった様々な面で、
都市がもたらす影響は著し
く強まっている。
多くの人が集中することで、個人の生活や仕事上の好機、豊かな 創造性、
経済の活性化、
生産性の向上につながる可能性があり、
人々に 良い影響をもたらすことができる。
しかし同時に、
大規模な都市化は人口
過密、
CO2排出量や廃棄物の急増、
非再生可能資源の大量消費といっ
た形で、
地球環境にリスクをもたらしている。
その意味で、
都市は、
そこに
住む人々の意識を変え、
環境を効果的に管理する大きな責任を負ってい
る。
都市の構成要素である自治体はもちろんのこと、
経済成長を牽引す
る主体である企業や住民にも大きな責任がある。
こうして持続可能性の視点に立ってリソース管理をしていくことは、
市民、
企業および自治体が共生、
活動、
交流する魅力的な経済・社会環境を
創造するという必要性と、
表裏一体の関係となっている。
企業が顧客獲得を目指して競争するように、
都市も市民や企業の獲得
のために競争する。
そこでさらに重要になるのが、
都市全般の魅力と、
いかにそれらの魅力を市民や企業に実体験として提供することができ
るかである。
例えば、
都市が提供するサービスの価値、
行政の安定性、
経済・雇用機会、学校、物理的環境の質、文化・芸術資源、高等教育
機関、
生涯教育の機会、
住宅、
治安、
地域参加、
開放性、
多様性など、
都市の魅力や実体験は様々な側面に現れる。
44
経済・社会的な魅力を増進させつつ環境 管理をも推進するという二重の目標こそ
が、
「インテリジェント・シティ」の中核を 成 す。企 業の 拠 点が 都 市に所在 する、
あるいは自治体を相手に事業を行う場合 ( ほとんど の 場 合ど ちらかであ ろう) 、
都市のインテリジェント化や魅力度を高め
るのに協力すれば、企業にとっても大きな
メリットをもたらすだろう。
テクノロジーにとどまらない
都市の「インテリジェント化」とはどういう
ことなのだろうか。その1つの重要な側面
は、都市がいわゆるスマートテクノロジー
を用いたサービスを提供するケースが増
えている事実だ。スマートテクノロジーを 活用することで、都市のインフラストラクチ
ャにインテリジェンスを組み込み、従来に
比べ低コストでサービス効果を高めること
ができる。
スマートテクノロジーの活用は、発電量の
モニタリングや電力・水道利用の最適化 から、通行ゲートが 不要な道 路 通行 料 金徴収システムの導入に至るまで、都市 サービスの様々な分野に広がる可能性を
持っている。テレマティクスや電子タグを
使ったこうした「マシーン・ツー・マシーン」
のテクノロジーに加え、発電や給電の効率
化を促進するスマートグリッド、インテリ ジェント・ソフトウェアやサービス、そし
て関連する都市、市民、企業のサービス 全てを結び付ける高速通信ネットワーク
などの重要なテクノロジーがある。これら
は全て、アクセンチュアが「インテリジェン
ト・インフラストラクチャ」と呼ぶ都市の 総合テクノロジー環境を構成する要素で
ある。
同時に、各都市の自治体はこれらテクノロ
ジーの活用や統合面で困難な課題に直
都市化の波
現在、世界人口の50%以上が巨大都市やその他の都市に居住している。国連の予想によると、この比率は2050年には70%にまで増加
するため、都市をインテリジェント化し、持続可能で、魅力にあふれ、住みやすい環境にすることに対し緊急性が高まっている。
人口(10億人)
都市部人口
農村人口
10
8
6.6
5.8
6
4.9
1.7
2.0
2.3
2
2.6
7.3
9.1
9.2
8.4
5.0
5.3
5.7
6.1
6.4
8.0
6.2
5.3
4.4
4
6.9
7.7
8.8
8.5
2.9
3.2
3.5
3.8
4.2
4.6
2.7
2.9
3.0
3.2
3.3
3.4
3.4
3.5
3.5
3.4
3.4
3.2
3.1
3.0
2.8
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
70%
0
出典:Population Division of the Department of Economic and Social Affairs of the United Nations Secretariat, World Population Prospects: The 2006 Revision and World Urbanization Prospects:
The 2007 Revision, http://esa.un.org/unup
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真にパイオニア的な都市
は取り組みを一過性に終わ
らせることなく、よりオープ
ンな環境下でテクノロジー
やサービス、マネジメント
の 連携を効果的に行うと
している。
面している。その原因となっているのが、
統合の妨げとなることが多い旧システム
で、この問題に苦闘している自治体は多
い。このようなシステムは、オープン・シス
テムと異なり、特定メーカーで構成され閉
ざされた非汎用的なシステム基盤やテクノ ロジーで構成されているのが 通 常 だ。 また、情報システムは時間の経過とともに
独り歩きをするようになり、メンテナンス 費用がかさむようになる。自治体のある 部門の情報システムを他部門の情報シス
テムと統合するのは容易なことではない。
こうした分断化が引き起こすマイナスの 影響は、コストの上昇、サービスの質低下、
将来ニーズに迅速に対応できないインフ
ラストラクチャ、といった形で現れてくる。
とはいえ、テクノロジー中心の視点だけ
では都市を持続可能で魅力的にすること
はできない。統合にあたっての課題には、
テクノロジー以外にも、エネルギー資源の
管理、交通、オフィスビルや住宅、健康と
安全、廃棄物処理、教育、文化、観光や
行政などの都市サービスや能力の全ての 領域が含まれている。
つまり、最終的に都市に住む価値をもた
らす全ての領域において、統合が必要と
なる。特に重要なのが、自治体の組織お
よびその設計・運営方法である。世界の
主要都市は、イノベーションに積極的に 取り組み、一連の都市サービスをさらに
インテリジェント化している(補足記事参
照)。しかし、真にパイオニア的な都市は
取り組みを一過性に終わらせることなく、
よりオープンな環境下でテクノロジーや サービス、マネジメントの連携を効果的に
行うとしている。
カーボンニュートラル
インテリジェント・シティ化のメリットと 課 題について理 解を深めるため、先 駆
的 都 市 であるアムステルダム市の 例を
検証してみよう。同市は、CO 2 排出量を
46
削減するとともに、市を魅力的な生活と 労働の場にすることを目指した持続可能
で費用対効果の高い取り組みを策定し、
積極的に実行に移している。
この取り組みには 3 つの大きな環 境目
標が設定されている。1つ目は、2 025年 まで に C O 2 排 出 量を1 9 9 0 年 度 比 で
40%削減すること。2つ目は、2025年まで
に再 生可能エネルギー源からのエネル ギー調達量を全体の20%にすること。そし
て、2015年までにカーボンニュートラルを
達成することである。
目標の達成には、スマートメーター、電気
自動車、インテリジェント・ビルの設計な
ど、様々なテクノロジーやアプローチを結
集することが求められる。それによって、
公共輸送や、住宅、商業ビル、官庁ビルの
建設・管理のエネルギー効率を向上させ
ることができる。これら全ての基盤となる
のがスマートグリッドである。スマートグ
リッドにより電力網と情報・通信テクノロ ジーを相互に結び付け、最終的には、CO2
の 排 出 量を 削 減し な がら 安 定 的 で、
安全で、低価格な電力を供給することが
できる。
アムステルダム市は、慎重かつ段階的に 実務を進め、各段階やパイロット・プロ ジェクトで得られた教訓を次の段階に生
かすことにより、取り組みの規模を徐々に 拡大してきた。
同市の取り組みは2カ年計画で3つの段階
に分かれている。スマートグリッド計画の
第一弾は2009年にスタートしたが、それ
には、スマートメーターの設置と「クライ メート・ストリート」と命名された革新的
なプロジェクトが含まれていた。同プロジ
ェクトは同市のユトレヒト通り沿いにある 人気のショッピング・レストラン街の一角
を中心に行われており、目玉は、持続可
能な廃棄物収集、極めて効率的な街灯、
持続可能で魅力的な都市
今日、主要都市では、
スマートテクノロジーや環境をさらに意識した 都市計画により、都市の持続可能性と魅力を増すイノベーションが 次々と推進されている
(本文参照)。
そのようなイノベーションは、
インテ
リジェント
・シティが提供するサービス全般にわたっている。以下にいく
つか例をあげる。
住宅およびオフィスビル
ビルの新築工事が環境に与える負の影響を削減するために、建物 改築と認証制度を活用し、
エネルギーや水の使用量の削減に取り組
んでいる都市もある。
またスマートメーターやスマートな建築技術も活用
して、
エネルギー消費の最適化を図ろうとしている。
例えばシカゴでは、2020年までに40万戸の住宅のリフォームを目指し
ている。
これは、新しい照明器具の設置や古い窓の交換など様々な
方法で建物のエネルギー効率を上げ、全体のCO 2 排出量を削減し
ようという取り組みである。同市は市庁舎の改築を行い、2004年から
2008年の間にエネルギー・コストを6百万ドル節約した。
スマートビル化
のもう1つの取り組みに、
マンションの住民やビルのテナント企業が利用
するエネルギー、水道使用量の最適化がある。
アムステルダムやシド
ニー、
シカゴといった都市は、
顧客にエネルギー使用量とそのコストを
リアルタイムで知らせる先進的なスマートメーターの実証実験を行って
いる。
建築基準法や建築確認も建物のスマート化を図る上で重要な手段
となる。
多くの都市では、
ビルの新築や改築に際して、
エネルギー効率
に関する基準を強化している。
例えばソウルでは、
2030年までに、
全て
の新築ビルに対してグリーン・
ビルディングの認証を義務づけようとして
いる。
シンガポールは、2030年までに既存建物の80%に同国の建設
局が発行するBCAグリーン・マークの認証を取得させる目標を掲げて いる。
エネルギー資源の管理
都市で使うエネルギーの供給に関しては、
多くの都市が市民に供給
するエネルギーのCO2 排出原単位の削減や、
供給ネットワークの信頼
性・効率性の向上に努めている。
従来の発電所の発電効率は33%にとどまる。発電のために燃やし
た天然資源(その大半は天然ガスや石炭)
の3分の2が発電、送電、
配電の過程で失われる。都市は、
分散型発電能力を増強することに
よってエネルギーの損失を大幅に削減することができる。例えばシド ニーでは、分散型電源ネットワークを構築し、天然ガスや排ガスを変
換して電気や暖房、冷房に利用するトリジェネレーション・システムに よって2030年までに同市の電力供給量の70%を賄う計画が進んで いる。
再生可能エネルギー、特に水力や風力の比率を高めることもエネル
ギーミックスの重要な要素である。2010年までに、100を超える国が 再生可能エネルギーの利用目標を設定した。
これは、
2005年の時点
では55カ国にとどまっていたものである。最近では、
その目標を15%か
ら25%の間に置き、2020年までに達成することを計画している国もあ
るが、
さらにその先を行く地域も現れた。例えばサンパウロ州は現在、
同州のエネルギー消費の56%を再生可能エネルギーで賄っている。
健康と安全
革新的な情報通信技術を活用することで、
市民、
特に高齢者や在宅
患者に対する遠隔医療サービスの提供が大きく変化している。
例えば
台湾では、政府が遠隔医療のパイロット
・プロジェクトを実施しており、
特に急速に老齢化が進む同国の高齢者にとってどのようなメリットが
あるかを検証している。
このプロジェクトの根幹を成すのが、
患者が住
む地域の医療機関、
患者宅、
介護施設などで収集した医療データを
電子的に送信することである。
このプロジェクトには新しいテクノロジーも導入されている。一部の患
者には、血圧と血糖値の測定ができる機器とともに、
テレビに接続す
ることで測定結果を遠隔医療サービス・センターに送信できる機能を
備え、
テレビの上に設置された送信機が配布されている。
センターの 看護士は送られてきた測定結果を分析し、
追加のケアを提案する。
こ
のプロジェクトの利点の1つは、
患者が遠出をしたり、
自宅を離れたりし
なくても基本的な医療サービスを受けることができることだ。
教育と文化
インテリジェント
・シティの教育・文化という中には、
公立・私立の教育シ
ステム、
特に新しいテクノロジーの導入によりそのレベルの向上を図る
ということが含まれる。
また、音楽、劇場、
スポーツやその他のレジャー
活動を行うための文化施設や娯楽施設、観光事業も含まれる。
しか
し、
啓発活動を通じて市民の行動を変化させ、
都市全体の持続可能
性や環境の向上に関わらせることも、
インテリジェント
・シティと教育の
関係において同様に重要になる。
持続可能性目標についての市民教育や市民参加で先行している都
市がいくつかある。例えばメルボルンは、
連邦政府や州政府、
地方政
府が地域社会と協働する枠組みやモデルを構築し、持続可能性に 伴う課題に対応している。
この取り組みに基づき、
メルボルンは、
2010年のリー・クアン・ユー世界都市賞(活気があり、住みやすい、
持続可能な都市共同体の創設に顕著な貢献をした個人および組織
を隔年で顕彰する国際賞)
を他の2都市とともに受賞した。
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電気を消費するだけでなく発電も行う 路面電車の停留所などである。同市は、
スマートメーターを活用して「クライメート・
ストリート」のエネルギー消費状況をモニ
タリングすることができ、それに基づいて
当該地域の企業や商店のオーナーとその
情報を共有している。
インテリジェント・シティが
持つ最も重要な特徴の1つ
は、相互利用が可能で拡張
性があり、都市が提供する
全てのサービス分野にわ
たるインターフェースの構
築や維持が容易なプラット
フォームである。
アムステルダム市 や 同 様 の 取り組 みを 行っている都市が直面する課題の1つに、
エネルギー、水 道 、交 通 、建 築など市の 担 当局が 異なる様々なサービス分 野の 統 合 がある。市 の 各 担 当 局をテクノロ ジー的に統 合することも大きな課 題だ。 統合対象には、通信とデータ、検出と制御、
顧客対応のためのハードウェアやアプリケー ションなどが含まれる。
こうした技術的な能力は都市のインテリ ジェント化にとって重要な要素となる。 これらの能力を持つことで、CO2 排出量の
削減が最大化すると同時に、環境を担当
する部局と雇用や投資、観光を担当する 部局との連携を推進する。
アムステルダムのような都市が次世代のイ
ンテリジェント・シティを目指して努力を 重ねる中で、今後はテクノロジーや管理に
対するよりオープンなアプローチが不可欠
となるだろう。インテリジェント・シティの
設計、運営、管理にあたっては、技術だけ
でなく、戦略、人材、プロセスも含めて考え
る必要がある。
真にインテリジェントな都市が持つ最も 重要な特徴の1つが、相互利用が可能で
拡張性のあるプラットフォームで、汎用的
なコードやインターフェースがそのベース
となる。このシステム基盤は、オープンな
テクノロジーやアーキテクチャを用いてお
り、
それによって都市が提供する全サービ
ス分野にわたるインターフェースの構築や 維持が容易になる。
このプラットフォームによって、全ての必要
なサービスが1つのスマートシステムに集
約される。その結果、共通の技術を利用す
る都市の様々な分野やサービスはセントラ
ルハブを経由することになるため連携が
効果的になる。
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このような相互利用性が、効率的でスマー
トな交通管理システムの実現にどのように 寄与しているかを見てみよう。交通の流れ
を円滑にするための手段として、通行ゲー
トのない道路通行料金の自動徴収システ
ムはすでにいくつかの主要都市で稼働して
いる。
センサーの導入によって交通渋滞が 緩 和され (そのうえC O 2 排 出 量も削 減さ
れる)、混雑時に通行料金を課金する制度
を導入すれば市の歳入増加も期待できる。
例えば、ストックホルムやロンドンでは 特別区域を設定し、混雑する市の中心部
に乗り入れる車両から通行料を徴収して
いる。シンガポールはさらにその一歩先を
行き、1日の時間帯に応じてリアルタイムで
通行料を調整するダイナミックな料金制度
を導入している。
しかし、こうした交通管理の取り組みが 効果を発 揮するには、都 市物流、大 量 輸送交通機関、救急サービスなどの分野
との連携が必要になる。そして、車両には
スマートグリッドに対応する技術を搭載す
る必要がある。ここで役に立つのがオー プン・プラットフォームだ。
また、新サービスを素早く追加したり、既存 サービスを拡張・縮小したりすることもオープ
ン・プラットフォームによって容易になる。柔軟
でオープンなインターフェースでデータ交換
が容易になり、新たな取り組みやサービスを
アプリケーションとしてプラットフォーム上で 利用できるようになる。
例えば、欧 州連合 内では、多くの 企 業
や自治体が協力してCVIS(Cooperative
Vehicle-Infrastructure System)と呼ばれ
る取り組みを行っている。
この取り組みが目指すのは、車両が路上
機器や他の車両と交信し、交 通状況や 道路状況のデータ共有技術を開発するこ
とである。またこの他に、スマートフォン
のように必要に応じてアプリケーションの 追加が簡単に行えるオープン・プラット フォームも開発中であり、間もなく市場 展開の予定となっている。
どのようにしてインテリジェント・シティになるか
インテリジェント
・シティへの道筋を描くにあたって考慮すべき、
特に重要な要素について述べる。
新たなリーダー像や統括体制を描き、実現する
都市や企業のリーダーは、
インテリジェント
・シティのコンセプトを積極的に受け入れ、推進し、
市民や顧客との対話においてその課題と成果を明確に伝えていかなければならない。都市の
リーダーはパートナー企業の信頼と支持を必要とし、企業も都市のリーダーのサポートを必要 とする。
各ステークホルダーの利害を一致させ、参画させる
インテリジェント
・シティのビジョンを現実化するためには、都市のリーダーは、市当局、企業や 市民など、
コミュニティ各層の利害や目標が一致するように努めなければならない。横浜市の 市民参加プログラムは、
単に受け身で環境規制に従うのではなく、
積極的に自らの行動を変え、
地域社会全体のためになる共通目標を追求する市民を作り出す、
ベスト
・プラクティスの一例で
ある。
能力を結集して、オープンなインテリジェント・インフラストラクチャを構築する
都市の最高情報責任者は直ちに、
オープンなインテリジェント
・インフラストラクチャの中核を成す
テクノロジーやコンセプトについて検討を開始する必要がある。
インテリジェント
・シティ化に向け
た取り組みに参加するテクノロジー・ベンダーやインテグレーターとの会議や的を絞った討議は、
具体的なインテリジェント
・シティ化プロジェクトを推進する上で、
基盤となる知識と経験の構築に
役立つ。
交通やエネルギー管理など特定のサービス分野で範囲とリスクを限定してパイロット
・プロジェク
トを行うことにより、
インテリジェントなインフラの開発が促進される。
また、
都市はそれぞれが実施
したパイロット
・プロジェクトからお互いに学ぶことができる。
今後の課題や機会に対応できる金融モデルの創出
通常、
インフラ投資に用いられる標準的な金融モデルは、
インテリジェント
・シティの創生という 課題に十分対応できない。
そのため、
新たなモデルやアプローチが必要になる。
例えば、
スマー
トメーターなどの成熟しつつある技術で節減できた費用を活用すれば、
インテリジェント
・インフラ
ストラクチャで用いる他の技術の研究開発に資金を回すことができる。
多くの場合、
官民パートナーシップが都市の活性化に必要となるインフラ投資に資金を提供す
ることになる。例えば、1990年から2009年の間に、1,400を超える官民パートナーシップが欧州 連合全域で設立され、
インテリジェント
・シティの目標達成のための投資を行っている。
合計投資
額は約3,500億ドルに達している。
各都市の自治体は、
公共部門と民間部門とを結び付ける触媒となって、
双方が有効なパート ナーシップを構築するのみならず、新たなビジネスモデルやオペレーションモデルを積極的に 受け入れるようにする必要がある。
これを実施するためには、
各参加者がばらばらにプロジェクト
を実施するのではなく、
参加者全員が協調してプロジェクトを実施することが求められる。参加
者の協調関係を強めることで、
お互いの利害関係が一致するようになり、
リスク分担の均衡が 図られるようになる。
49
さらにオープン・プラットフォームにより、
都市サービスの提供を効率化させること
ができる。全ての関連するサービスをイン
ターネット接続可能な1つのユーティリテ
ィに統合することにより、各都市固有の ニーズに素早く対応できる基本機能を1つ
のサービスとして提供することができる。 これにより、初期投資額が削減するだけ
でなく、従量課金制で運営・維持コストを
下げ、都市サービスを提供するコストの 削減につなげることができる。
スマートテクノロジーは、
国全体あるいは地域全体
で連携して開発、実施にあ
たることで初めてその真
の効果が発揮される。
つまり、オープンでインテリジェントなイ
ンフラストラクチャにより、閉鎖的で非汎 用的な仕様で構築されたソリューション
に比べ 、構 築までの期間が 短く、運営 効率が高く、コストも低いソリューションの 設計、実行が容易になる。
スマートテクノロジーは、国全体あるいは
地域全体で連携して開発、実施にあたる
ことで初めてその真の効果が発揮され
る。このことは、欧州委員会で新・再生 可能エネルギーおよびエネルギー効率
改革部門を担当するマリー・ドネリーに よっても強調されている。同部門はスマー
トシティ・コミュニティ・イニシアチブやイ
ンテリジェント・エネルギー・ヨーロッパな
どの政策の立案と実施を担当している。こ
れらの政策は「20-20-20」という目標を掲
げており、温室効果ガスの20%削減、エネ
ルギー効率の20%向上、再生可能エネル ギー資源の使用量の20%増加を目指して
いる。
ドネリーは、エネルギー管理フローやプロ
セスを適切に分析することは、いかなるテ
クノロジー設計においても不可欠である
と述べている。「地域全体にわたるエネ
ルギー・フローまでを含んだこうした分析
は、
今までは一般的に行われていませんで したが、それは絶対に不可欠です。エネル
ギー管理フローを明確化しないままにシ
ナジーを見つけ、フローの最適化を行お うとしても、具体的な目標達成は困難と なります」
50
高い相互接続性
欧州が直面している課題の1つに、エネ
ルギー・グリッド・システムの地域性があ
る。人口密集地域の多くは国の中心部に ある。それに対して、太陽光、陸上や海上
の風力など様々な再生可能エネルギーは、
その多くが各国の周辺部で生成される。 ドネリーは、
「エネルギーが必要とされる
場所で利用できるためには、グリッドそ
のものやプロセスが十分に堅固なもので
なければなりません。グリッドの相互接
続性を十分確保し、欧州連合内でエネル ギーが 効率的かつ効果的にやりとりさ れる必要があるのです」と指摘する。
都市自体もお互いの団結を強め、グルー
プとしての影響力を高めようとしている。 例えば、2010年にメキシコのカンクンで 開催された第16回国連気候変動枠組み 条約締約国会議(COP16)に先立ち、世界
の40の大都市からなるグループの「C40」 は、都 市こそが世界のCO 2 排出問題を
解決するカギを握るとの共通の考え方に
基づき、同会議への参加と、発言の機会
を求めて会議関係者に働きかけた。
オープン・プラットフォームの非常に大きな
利点は、様々な自治体や企業を結集しコ
ラボレーションやイノベーションの効果を 高めることができることだ。こうしたコラ
ボレーションはインテリジェント・シティの
目標を前進させる上で不可欠となる。
誓約によるアプローチ
ド ネリー が 推 進して い るコラ ボ レ ー ションの取り組みの1つに、「市長誓約」
と呼ばれるものがある。これは、各市長
がそれぞれの自治体でのCO 2 の排出量
を2 02 0 年までに少なくとも2 0%削減す
ることに同意する誓 約システムである。 「誓 約システムを使ったアプローチは、
欧 州で 大きな支 持を 獲 得しています。 現在、約2,50 0人もの市長が大幅なCO 2
排 出 量 削 減目標 に 賛 同して 誓 約に 加 わっているのです」と、ドネリーは述べて
いる。
CONCERTOと呼ばれる関連プログラム
では、現在、欧州の約6の小さな町や村が
インテリジェント・インフラストラクチャを
活用したソリューションを実行して、ビル 設計および再生可能資源や他の資源を 使ったエネルギー生産によるエネルギー
効率向上を目指している。これらの町や
村では様々な再生可能エネルギーのパイ ロット・プログラムが 実 施されており、
他の町村がそこから学べるようになって いる。これらの町村の取り組みを都 市
の規模に拡大するのがスマートシティ・ コミュニティ・イニシアチブ で、エネル ギー以外に交通や情報通信技術に関する
課題も視野に入れた包括的で革新的な アプローチを使って都市計画の推進を 図っている。
ドネリーは言う。「このようなアプローチ
をとって明白になったものがあります。 それは、持続可能性で魅力的な環境を 創 造する新しいテクノロジーの開 発・ 展開を抽象的に議論しても意味がない
という事実です。そのようなテクノロジー
の開発・展開にあたっては、専門家を結
集し、お互いの経験を共有させることが 必要です。また、市民と企業のニーズに 応えることも必要となります。そうすれば
支援の輪が大きく広がります」
インテリジェント・シティの構築と運営で
もう1つ重要なことは、オープンなインフラ
を活用した情報提供活動を通じて、市民
を啓発することである。これを、横浜市役
所地球温暖化対策事業本部長の信時正
人氏は環境変化の「社会システム」と名付
けている。同氏は、
「インフラの整備だけ
では十分ではありません。市民の意識の 変化も重要なのです」と述べている。
リサイクルや廃棄 物削減活動を行うに
は 市 民 の 啓 発 が 不 可欠 であることを
横 浜市は正しく理 解していた。同市は 20 03年、2010年までに可燃ごみの30% 削減を目指したG30プラン(Gは「ごみ」を
表す)と呼ばれるプロジェクトを立ち上げ
たが、予期以上の成果をあげ、目標を5年
前倒しして達成した。
G30の成功に力を得て、同市は2008年、
「横浜市脱温暖化行動方針(CO-DO30) 」
を立ち上げた。
これは、環境意識の高い市
民を育てる環境啓発プログラムで、2025年
までに一人あたり温室効果ガス排出量の
30%以上削減を目指している。CO-DO30
というプログラム名はG30計画との連動性 を意 識したもの であり、日本 語 の 行 動
(CODO)を連想させることも狙っている。 「CO-DO30 」 は、CO 2 排出削減を実現し
「環境行動都市」になるという同市のコミット
メントの象徴でもある。
都 市 は、都 市こそ が 世 界
の CO 2 排出問題を解決す
るカギを握るとの共通の
考え方に基づき、お互いの
団結を強め、グループとし
ての影響力を高めようとし
ている。
またこのプログラムは、日本語の「行動」
が、「指 針」を意 味 する英 語 のコード
(code)と音が似ている点に着目したもので
もある。市民に対する広報活動では、市民 を「コード(指針)」から「モード(様式)」に導
くことが同プログラムの真の意図である
ことが何回も強調されている。言い換え
ると、横浜市が真に市民に求めているの
は、
受け身で指針やルールを守るのではな
く、
積極的に自らの行動様式を変えていく ことである。
信時氏は、
「規制があるからそれに従うと
いうことではなく、市民が喜んでCO 2 排出
量削減の行動を起こすという状況を横浜
市に創りたい」と述べている。
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横浜市の成功の秘訣は何
であろうか。それは、強い
リーダーシップと長い時間
をかけても市民と対話を
続けるという強い姿勢だ。
横浜市の啓 発プログラムのもう1つの取
り組みが「子供省エネ大作戦」だ。これ
は、環境をよりよくするためには何をすべ
きか、小学生に自由に考えてもらう夏休
みを利用した取り組みだ。昨年は、横浜
市の小学3年生から6年生の12万人のうち 3万2,000人(対象児童の25%)がこの取り組
みに参加した。さらに別な取り組みである
ヨコハマ・エコ・スクール(YES)には、3万
2,000人の生徒の申し込みがあった。こち
らには81を超えるNGOが参加し、省エネ
意識の向上や気候変動がもたらすリスク
に対する理解を深めるなどの啓発活動を
行った。
横 浜市の成 功の秘訣は何であろうか。 それは、強いリーダーシップと長い時間
をかけても市民と対話を続けるという強
い姿勢だ。信時氏は、
「当市の職員は1万
1,000回を超える市民との対話集会に参加
し、取り組みの内容を説明し、リサイクル・
プログラムへの参加を直接呼びかけま した」と話す。こうした啓発プログラムが
評価され、横浜市は2010年、環境(エコロ
ジー)と経済(エコノミー)の両面で健全な都
市を顕彰する世界銀行の「Eco 2 都市」の
1つに選ばれた。
インテリジェント・シティが他の都市と異なるのは、持続可能性があり魅力的である からだ。インテリジェント・シティの環境への取り組みは、それが道徳的な義務だからとい
うだけで推進されるものではない。持続可能性も重要だ。なぜ重要かといえば、持続可能 性は社会に良い結果をもたらすだけでなく、市民が健康的な生活を送り都市や企業が 繁栄するような住みやすい環境を創出する上で大きな要因となるからだ。
都市はそれぞれ異なる個性を持っている。だからこそ、インテリジェント・シティとなるため
に必要な一連のケイパビリティを取得することができる唯一の「正しい」道があるわけで
はない。しかし、それぞれの都市が持つ独自の地理的、経済的、政治的状況を踏まえた 出発点を設定することが第一歩となるという点は共通している。そこを起点に、都市は予想
されるコストに基づいて様々なシナリオの評価を行うと同時に、各取り組みが及ぼす影響 やその間発生するプラスマイナスの検証を行った上で、必要なテクノロジー、戦略、プロ セス、トレーニング、統治方法、運営方法などを決定し準備にとりかかることができる。
都市が地球の環境に与える影響を考えれば、都市のインテリジェント・シティ化は地球上に
住む全ての市民にとって重要な課題となる。各都市が取捨選択を行いコスト効率の高いア
クションをとり、都市が提供する全てのサービスにインテリジェンスを組み込むのであれば、
適切な基盤 – まずスマートなサービスを提供し、その後は都市のニーズの拡大に応じ規模 の拡張ができるオープンでインテリジェントなアーキテクチャ – の構築に努力する必要が ある。
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筆者について
ブルーノ・バートン(Bruno Berthon)は、アクセンチュア・サステナビリティ・サービスのグ ローバル・マネイジング・ディレクターである。消費財、リテール、通信、メディアなどの業界
における多国籍企業の変革という課題に取り組んだ経験を持つ。過去16年間は、グロー
バリゼーションや大規模なオペレーティング・モデルの変革、イノベーション、サステナビリ
ティの分野に特化してコンサルティング活動を行っている。同氏はパリを拠点として活動し
ている。
フィリップ・ギタート(Philippe Guittat)は、アクセンチュアのインフラストラクチャ・輸送イン
ダストリーのグローバル・マネイジング・ディレクターである。陸上交通、公共輸送、鉄道旅
客輸送、建設などの様々な産業や地域における顧客の価値創出を担当する。また、公共
輸送機関の電子チケットへの切り替えに関する取り組みを主導している。アクセンチュアの 経営幹部でもある同氏は、輸送・自動車産業分野におけるアクセンチュアのイノベーション に重要な役割を果たし、いくつかのテクノロジー分野の責任ある職務を経験している。 同氏はパリを拠点として活動している。
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