超新星の観測的タイプとメカニズム

特別講演
超新星の観測的タイプとメカニズム
山岡
均(九大・理)
Abstract
超新星の分類は、観測的な特徴に基づくものであった。分類は次第に細分化
されていったが、この観測的分類と、超新星のメカニズムとの対応付けには、
歴史的な経緯もあって、誤解や理解不足な記述が後を絶たない。観測的タイプ
についてちゃんと復習し、メカニズムとの対応をしっかりと身につけてもらう
ことが、今回の講演の目標である。
1. 超新星の観測からわかること
超新星に限ったことではないが、天体、特に点源としか見えない恒星の観測
からわかることは、大雑把に以下にまとめられる。
a) 位置の測定(astrometry)
天体の位置を測ることは、その天体を同定する、ほぼ唯一の方法といえる。
超新星の場合、出現前後で同じ位置を見ることで、超新星爆発を起こした星(親
星)の情報を得ることができる(島田, 山岡, 2008)。
b) 明るさの測定(測光、photometry)
天体の明るさは、光度(真の明るさ、絶対等級)
と天体までの距離の情報を与える。超新星などの変
光天体の場合、時間と明るさの関係(光度曲線)に
特徴が表われ、さまざまなタイプに分類される。バ
ンド(波長帯)ごとに明るさを測り、その差=色指
数を知ると、その天体の温度がある程度わかる。
c) 分光(spectroscopy)
光を波長別に分ける分光観測は、さまざまな情報
を与えてくれる(図1)。連続成分は b)と同様、天
体の温度を与える。輝線・吸収線は、分子・原子・
図1
原子核の種類に特有の波長であるため、組成の指標
線スペクトル
連続スペクトルと
となる。特に可視光のエネルギーは、原子の殻内電子の遷移エネルギー程度で
あり、可視光分光は「原子を見る」ことになる。
ただし、ただでさえ暗い天体からの少ない光を、さらに波長別に分けるので
あるから、暗い天体の分光には大口径の望遠鏡が必要になる。天体の特性や波
長別にどれくらい細かく分けるか(波長分解能)にも依存するが、R ~1000 程
度(爆発天体でよく使われる分解能で、観測波長の 1000 分の 1 刻みで分ける)
であれば、同じ望遠鏡で撮像と分光を行なう場合、5 分露光で撮像したときの限
界等級より 5 等級ほど明るい天体でないと、現実的な露出時間(1 時間程度)で
は分光できない(シグナル/ノイズ比が稼げない)。
さらに、輝線・吸収線は、線を形成する領域が観測者に対して視線方向に運
動していれば、ドップラー効果によって波長が移動する。このため、爆発天体
のスペクトルは、たいへん特徴的な線輪郭を
持つ。はくちょう座 P(P Cyg)と名付けられ
た、表面爆発を起こした星で最初に観測され
たため、P Cyg 型線輪郭(P Cyg profile)と
呼ばれているが、長波長側が輝線、短波長側
が吸収線となっている形状である(図2)。こ
のような形状は、図3のようなメカニズムで
形成される。すなわち吸収線は、光球面から
の光を私たちに近づいてくる領域のガスが吸
収することで生じるため、短波長側に現れる。
図3
図2
P Cyg 型線輪郭
P Cyg 型線輪郭が形成されるメカニズム
一方、輝線を形成する領域は、私たちから遠ざかる部分と近づく部分の両方が
あるので、輝線は中央波長の前後に広がる。この両者の組み合わせが、P Cyg
型線輪郭なのである。吸収成分のみが顕著な場合もあるため注意しよう。
d) その他の方法
可視光域ではこのほか、偏光や干渉を用いることによって、天体の形状を知
ることもできる。また偏光は、天体と私たちの間の星間吸収の指標ともなる。
さらに、可視光以外の観測手段も利用される。超新星からの電波・X 線は、
超新星爆発によって高速で膨張する本体と、爆発前に放出された星周物質との
衝突をものがたる。放射性元素が出すラインガンマ線は、超新星爆発によって
生成された原子核の種類と量を教えてくれる。
また、電磁波以外の方法もある。超新星からのニュートリノは、電子捕獲の
結果であり、また重力崩壊のために生じた超高温高密度状態の反映である。大
エネルギーの宇宙線粒子は、超新星が残した中性子星によって加速されたと考
えられている。
2. 超新星の分類ことはじめ
学問・研究の常道として、実例の数が増えてくると、ひとつひとつを個別に
調べるよりも、類似するものをひとまとまりにくくっていくことで、現象の奥
に潜む本質に迫ることができる場合が多い。超新星の場合ももちろん例外では
ない。
光度曲線やスペクトルによって、その特徴をとらえ、分類がなされるように
なったのは、1930 年代末からのようだ。Zwicky 分類として今も知られる、I 型
図4
典型的な「I 型」
「II 型」超新星の極大期のスペクトル。なお、この稿での
超新星のスペクトルは、注記のないものはすべて CfA Supernova Archive
http://www.cfa.harvard.edu/supernova/RecentSN.html より引用している。
と II 型という分類だが、初出としては Minkowski (1941)がよく引用される。
この論文では、極大期のスペクトルに水素がなく光度曲線が一様な I 型が 9 例、
水素の輝線が見られ、ひとつひとつの個性が強い II 型が 5 例報告されている(図
4)
。この分類は、現在の超新星分類の基本となっている。
これを拡張する、III 型、IV 型、V 型が提唱されたのは 1964 年のことである
(Zwicky 1964)。1961 年に出現した超新星に、これまで知られていたものと性
質が異なる例があり、それらを別のタイプへ分類しようとしたものだ。しかし
これらのタイプは現在では用いられず、III 型、IV 型は、II 型の変種と考えられ
ている。一方 V 型は、大質量の青色超巨星の表面爆発(Luminous Blue Variable:
LBV)と判明し、星全体の爆発である超新星とは異なる現象であることが明ら
かになったために、現在では超新星とは分類されない。
3. 超新星の細分類と重力崩壊型超新星
超新星の起源として、古くから大質量星が言及されている。Baade, Zwicky
(1934a)は、通常の新星よりも明るい現象として「超新星」を提唱した。それ
と同じ誌面で彼らは、通常の星から中性子星への遷移が超新星の原因であろう
と述べている(Baade, Zwicky, 1934b)。電子縮退で支えられる白色矮星の質量
限界(Chandrasekhar, 1934)が導かれたのと同じ年である。Oppenheimer ら
に よ る 中性子星 の構造 ( Oppenheimer, Volkoff, 1939 )と重力収縮の理論
(Oppenheimer, Snyder, 1939)を経て、Hewish, Bell et al.(1968)がパルサ
ーを発見し、中性子星と同定された。これらを総合して、大質量星の重力崩壊
が超新星のひとつのメカニズムであること、この超新星は水素に富む II 型超新
星として観測されることが、広く合意されるようになった。1987 年に大マゼラ
ン銀河に出現した超新星 1987A により、この推定は確固たるものとなった。
一方の I 型超新星は、起源が不明なままであった。典型的なものについては
5.で記述するが、一様であると思われてきた I 型超新星の中に、1980 年ころか
ら亜種が報告されるようになってきた。それまで観測された I 型超新星では、ケ
イ素による 615nm 付近の吸収線(実験室系では 635.5nm で、-10000km/s 程
度の視線速度のために青色偏移している)が顕著であった。ところが I 型超新星
のなかに、この線が見られず、代わりに 570nm 付近に吸収線が見られるものが
発見されるようになったのだ(図5左、Wheeler, Levreault, 1985; Uomoto,
Kirshner, 1985)。この線は中性ヘリウムの 587.5nm の線に同定され、この種の
超新星は Ib 型、既存のものは Ia 型と呼ばれることとなった。さらに、ヘリウム
の線も見られない I 型超新星も出現し、Ic 型と呼ばれることとなった(図 5 右、
Filippenko et al., 1990)。Ia 型超新星はすべての型の銀河に出現する一方、こ
図5
Ib 型、Ic 型超新星の極大期のスペクトルの例。
れらの亜種の超新星は星形成が活発な領域にしか出現しないこともわかり、同
様の傾向を持つ II 型超新星との類似が考えられた。
Ib、Ic 型超新星には水素が観測されない。これは、水素外層を失った大質量
星が重力崩壊を起こしたものと考えると話が合う。Ib 型はヘリウム層が、Ic 型
はさらにヘリウム層も失って炭素・酸素層があらわになった星の爆発であると
のモデルが、スペクトルや光度曲線の再現に成功し、広く受け入れられている
(モデルと光度曲線は、Ib 型は Shigeyama, Nomoto, et al., 1990、Ic 型は
Nomoto, Yamaoka, et al., 1994 など)。
さらに、1993 年に M81 に出現した超新星 1993J は、爆発当初は水素輝線が
顕著で II 型超新星と分類されたが、極大後に水素線が弱くなって Ib 型超新星に
酷似したスペクトルとなった。光度曲線も Ib 型超新星のものにたいへんよく似
ている。Nomoto, Suzuki, et al.(1993)は、少量の水素外層を持った大質量星
が爆発したとするモデルで、この超新星をよく再現することを示した。
これらを総合すると、新たに観測的な分類がなされた超新星は、
II 型:水素外層を大量に保持したままの爆発
II b 型:水素外層をわずかに残した星の爆発
Ib 型:水素外層を失い、ヘリウム層が表面にあらわれた星の爆発
Ic 型:さらにヘリウム層も失い、炭素・酸素層が表面である星の爆発
というひとつの系列で説明できることとなった。
爆発の引き金はいずれも、進化の末に起きる恒星中心核での重力崩壊である。
メカニズムは同じでも見た目は大いに異なるわけである、超新星研究者の間で
は、このようなコンセンサスが 1995 年ころには得られていた。ただし、どうや
って外層を失うのかのメカニズムについては、星風、連星系の相互作用などが
考えられ、今なお不明である。
4. 変わり種の超新星
重力崩壊型超新星は、上記のものだけではない。特に近年話題になった、ふ
たつのタイプの超新星についてみておこう。
a) 極超新星 = 特異な Ic 型超新星
ガンマ線バーストの残光が初検出されたのは 1997 年のことである(Costa, et
al., 1997)。その後、可視光残光探しが活発になり、ガンマ線バーストの研究は
飛躍的に進んだ。
そのひとつ、1998 年 4 月 25 日に発生したバーストでも可視残光が捜索され
たが、典型的な残光は観測されず、そのかわりに吸収線の幅がたいへん広い超
新星が検出された(Galama, et al., 1998)。線の幅と青色偏移から推定される膨
張速度は、典型的な超新星の 3 倍ほどにもなり、放出質量が同じならば運動エ
ネルギーは 10 倍もあることになる。スペクトルの吸収線から推定される組成は、
炭素・酸素コア星の爆発と考えてよいも
のであった。このような星に通常の 10
倍程度のエネルギーを与えたモデルは、
光度曲線などをたいへんよく説明する
(Iwamoto, et al., 1998)。運動エネルギ
ーが通常より 1 桁大きい、この種の超新
星は、極超新星(きょくちょうしんせい、
hypernova)と呼ばれるようになった。
この前年に名寄市の佐野康男氏が発見
した超新星 1997ef、2002 年に茅ヶ崎市
の広瀬洋治氏が発見した超新星 2002ap
も、同じく極超新星であった。特に後者
は、発見の翌夜にぐんま天文台・美星天
文台で分光が行なわれ、極超新星である
ことが世界に先駆けて解明された(図6、
Kinugasa, Kawakita, et al., 2002)。
その後、2003 年 3 月 29 日に発生した
ガンマ線バーストにおいて、典型的な残
光が弱まったのちに極超新星のスペクト
ルが観測され、
(継続時間の長い)ガンマ
線バーストとこの種の超新星の関連が確
立した(Stanek et al., 2003)。
図6
超新星 2002ap のスペクト
ルを、他の極超新星や、典型的な
Ic 型超新星 1994I と比較したも
の(Mazzali et al., 2002)
b) 輝線の幅が狭い超新星―IIn 型、Ibn 型
a)とは逆に、幅の狭い輝線が特徴的な超新
星も存在する(図7)。このような超新星は、
水素線が狭い(narrow)ことから IIn 型と分類
されることとなった。爆発前に星から放出さ
れた星周物質に、超新星本体からの衝撃波が
ぶつかって、ゆっくりと膨張しながら光って
いるものと考えられている。
山形市の板垣公一氏が発見した超新星
2006jc は、やはり細い輝線が特徴的であった
が、これは水素起因ではなくて中性ヘリウム
の輝線であった(図8)。星周物質の組成が
ヘリウムに富むということは、超新星爆発前
図7
IIn 型超新星のスペクトル
図8
超新星 2006jc のスペクトル
にヘリウム層を失った星と考えられる。この
天体は超新星爆発の2年前にも増光してい
たことがやはり板垣氏によって捕捉されて
いる、このときには超新星の親星が表面爆発
を起こして、ヘリウム層を放出していたのだ
ろう(Pastorello, Smartt, et al., 2007)。
5. 核爆発型超新星
Ia 型超新星以外は、いずれも重力崩壊型超新星であると解釈されることにな
った。それでは Ia 型超新星はどういうメカニズムなのだろうか。Arnett(1969)
は、生まれたときの質量が太陽の 4~8 倍である星は、電子が縮退した状態で中
心核での炭素核融合が起き、反応が暴走して星全体が吹き飛ぶという説を唱え、
これが I 型超新星(当時の分類)の起源であるとした。しかし、この爆発ならば
水素の線が見えないわけがない。この質量の星の寿命は数億年以下で、楕円銀
河で I 型超新星が出現することを説明できない、星数からすると超新星出現率は
観測よりずっと多いはず、など難点が多い。現在ではこの質量範囲の星は、ヘ
リウム殻燃焼段階(AGB の段階)で外層を失い、白色矮星になるとされている。
この難点を解決したのが、連星系内の白色矮星が爆発したとするモデルであ
る。連星の一方が白色矮星となったのち、もう一方の星からの降着で質量を増
やした星が爆発したと考えると、水素の問題、寿命の問題、出現率の問題はい
ずれも氷解する。白色矮星の爆発を数値計算した Nomoto, Thieleman, Yokoi
(1984)は、Ia 型超新星の標準モデルである。もう 25 年も前の話だ。
6. まとめと+α
I 型と II 型でメカニズムが違うとか、重力崩壊=II 型とかの記述は、もはや
時代遅れである。I 型は連星系内の白色矮星、というのも不正確だ。理科年表で
も 2005 年版まではこのような記述がなされていたが、2006 年版からは修正さ
れた。しかし、質量が太陽の 4~8 倍の星の終末は、Arnett(1969)そのままの
記述が今なお散見される。学問の進展は、すべての分野で顕著だ。宇宙の「加
速」膨張が知られて 10 年だが、すでに広く定着している。超新星・突発天体の
分野でも、新たな進展を伝え教えるために、さらなる努力が必要であろう。
References
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Baade, Zwicky, 1934b, Proc. Nat. Acad. Soc., 20, 259.
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Stanek, et al., 2003, ApJ, 591, L17.
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