「発振回路の評価方法1」公開。 (250KB)

Technical Notes
発振回路の評価方法(1)
発振回路を評価するための作業(周波数マッチング
【序文】
一般的に安定な発振を得るためには、水晶振動子と発振回路のマッチングが重要になります。マッチング
がうまくとれていない回路構成では、十分な周波数の安定度が得られない、発振が止まってしまう、発振が
安定しないなどの問題が生じます。水晶振動子をマイコンとともに使用するときには、発振回路の評価が必
要で、その水晶振動子と発振回路のマッチングを確認するには最低限、
「発振周波数(周波数マッチング)」
「発
振余裕度(負性抵抗)」「励振レベル」の3つの評価作業が必要となります。今回ここでは水晶振動子と発振回
路のマッチングを確認するための評価作業に関して解説致します。
【1】 発振周波数(周波数マッチング)評価の前準備
基本的に水晶メーカーでは回路設計者側から提示される水晶振動子の発振周波数(FL)、負荷容量(CL)、
発振周波数の許容偏差(Δf)の3つの数値を元に、負荷容量(CL)に合わせ振動子を発振させながら、発振周波
数や許容偏差の合わせ込みをおこなっております。
ただし、あらかじめ指定された負荷容量(CL)には、実際の基板にさまざまな要因で発生する静電容量(浮遊容
量)は考慮されていないことに注意が必要です。浮遊容量は発振周波数の精度を劣化させてしまう要因になる
ため、その影響も考慮して、水晶振動子そのものの発振周波数を水晶メーカーに変えてもらうか、回路設計
者側で負荷容量を再度調整します。これが発振周波数マッチング作業の大枠になります。
実際のマッチング評価の前に、評価用水晶振動子において以下3つの仕様を確認します。
1.標準の負荷容量値
負荷容量は水晶振動子の側から発振回路を見たときの静電容量です。
基本的には回路設計者側から指定した値になります。
2.標準の負荷容量における水晶振動子の発振周波数(FL)
発振周波数(FL)とは標準の負荷容量を持った発振回路で水晶振動子を駆動したときの発振周波数です。
常温における値を使い、浮遊容量などは考慮されていません。
3.水晶振動子の等価回路定数
等価直列抵抗(R1)、等価直列静電容量(C1)、等価直列インダクタンス(L1)、等価並列静電容量(C0)や、
負荷容量を考慮しない水晶振動子そのものの発振周波数(Fr)などです。
水晶振動子の等価回路定数の測定には一般的にインピーダンス測定器やネットワークアナライザを使用し
ます。水晶振動子をネットワークアナライザで測定して、等価回路定数を測定することが理想的ですが、
十分な機材が揃わないといった理由など回路設計者側で水晶振動子の測定が困難な場合は、水晶メーカー
に要求することをお勧めいたします。
【2】発振周波数(周波数マッチング)評価
ここから実際の評価作業についてご紹介いたします。
まずは水晶振動子(評価用振動子)を発振回路とともに基板に実装した状態で発振周波数の確認をします。
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このことを、周波数マッチング状況を確認するといいます。基板に実装したときの発振周波数と標準の
負荷容量における発振周波数の差を把握することは、基板の実際の静電容量(回路側容量)と、あらかじめ
指定した標準の静電容量との差がどれだけ生じているかを確認することに繋がります。ここでいう基板の
静電容量とは水晶振動子から発振回路を見たときの静電容量(負荷容量)のみならず、基板の配線パターンなど
に起因した浮遊容量も含めた容量です。
次に水晶振動子と発振回路のマッチングを評価するために必要な測定機器類を準備します。
評価に必要な基本的な測定器は、直流電源、周波数カウンター、オシロスコープ、FET プローブ、電流プロ
ーブなどです。(一例として基本的な測定器の構成を図 1 に示します)
図1周波数マッチングの評価に必要な測定器の基本構成
図2FET プローブを水晶振動子の HOT 端子に当て発振波形を確認している様子
まず FET プローブを水晶振動子の HOT 端子に当てる(図 2)と、オシロスコープに波形が現れ周波数カウ
ンターには周波数が表示されます。
例えば負荷容量を考慮しない水晶振動子そのものの発振周波数(Fr)が 12MHz の水晶振動子について、標準の
負荷容量における水晶振動子の発振周波数(FL)が 12.000034MHz だとします。
こ の 水 晶 振 動 子 を 基 板 上 に 実 装 し 、 FET プ ロ ー ブ を 介 し て 実 際 に 測 定 し た 発 振 周 波 数 ( FR ) が 、
12.000219MHz だと仮定すると、両者(水晶振動子を基板に実装したときの発振周波数(FR)と標準の負荷容量
における水晶振動子の発振周波数(FL))の差は+185Hz で、+15.4ppm の差が生じていることがわかります。
この差を限りなくゼロに近づけることが周波数精度の向上に繋がります。
上記の差(FR と FL)をゼロに近づける方法は2つあります。
1つは水晶メーカーから購入する水晶振動子の発振周波数(中心周波数)を今までより+15.4ppm ずらしたも
のにすることと、もう1つは発振回路の負荷容量を微調整して発振周波数を合わせこむ方法です。
次項では負荷容量を微調整してマッチングをとる方法を紹介します。
【3】負荷容量の微調整による周波数マッチング手法
負荷容量の計算には前述でも紹介した数値が必要になります。
・水晶振動子の等価回路定数(Fr、R1、C1、L1、C0)
・基板に実装したときの発振周波数(FR)
これらの数値を基に以下の式を使って負荷容量(CL)を計算します。
FR  Fr
C1

Fr
2  (CL  C0 )
... (1)式
具体的な計算をしてみます。
公称周波数が 12MHz、発振回路の負荷容量(CL)が 7.8pF という仕様の水晶振動子があると仮定します。
ここでいう公称周波数とは規定の負荷容量の発振回路を使った時の発振周波数(FL)です。
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この水晶振動子をネットワークアナライザで測定した各定数が以下の通りだったとします。
FR=12.000219MHz
Fr=11.998398MHz
R1=33.7Ω
L1=70.519mH
C1=2.495fF
C0=1.11pF
繰り返しになりますが Fr は水晶振動子そのものの発振周波数です。これらの定数を先の(1)式に代入すると、
CL=7.11pF と求めることができます。
先に指定した仕様である発振回路の負荷容量(CL)の 7.8pF という値との差は-0.69pF であることがわかり
ます。この差をゼロにすれば、あらかじめ指定した発振回路の負荷容量とプリント基板に実際に水晶振動子
を実装したときの静電容量が一致するため、理論上は周波数偏差もゼロになりあらかじめ指定した発振周波
数が得られます。
実際に発振回路の負荷容量を調整するときは、図 3 の Cg、Cd を変更して、あらかじめ指定した標準の静電容
量に合わせこむようにします。このとき Cg と Cd の目安値は以下の(2)式を使って計算することができます。
Rf
Rd
Ci 
X’tal
Cg
図3
C g  Cd
Cg+Cd
+ CS ... (2)式
Cd
発振回路の負荷容量(Cg と Cd)
ここで Ci は発振回路の実際の負荷容量(CL)、Cs はプリント基板の配線容量や部品の寄生容量などを表してい
ます。Ci=あらかじめ指定した標準の静電容量 CL(振動子単体容量 CL)となればよいので、以下(3)式、(4)式と
計算できます。
C g  Cd
Cg+Cd
Cg  Cd
Cg+Cd
+ CS  振動子単体容量C L ... (3)式
 振動子単体容量C L - CS . .. (4) 式
すなわち Cg と Cd は所定の振動子単体の負荷容量から Cs を引いた値になります。これはあくまでも目安値で
すので、実際には Cg と Cd を変更し、発振周波数を確認しながら周波数を合わせこむことを推奨します。
もし発振回路の Cg と Cd の変更が難しいときは、振動子単体の負荷容量を調整することで周波数をマッチン
グさせることができます。この場合は水晶メーカーに振動子単体容量を回路側容量に合わせこんでもらい、
その水晶振動子を購入し、再度マッチング評価を実施し、結果を確認してください。ただし注意点としては、
回路側負荷容量が小さいときは発振周波数の変化量が大きくなるので、発振回路のわずかな特性変化の影響
を受けやすく、周波数安定度の悪化原因になります。そのため機器の用途に応じた適切な条件設定が重要に
なります。
【次回に続く】
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