PEC 海外石油情報(ミニレポート) 平成 18 年 6 月 7 日 PISAP ミニレポート 2006-004 燃料電池の開発状況(2005/11~2006/4) <水素・燃料電池> 環境規制がますます厳しくなるなかクリーンエネルギーとして期待される燃料電池の開 発が自動車、発電設備、モバイル機器分野で進められている。ここでは 2005 年 11 月から 2006 年4 月までの半年間にインターネットに掲載された公開情報に基づいて燃料電池の開 発状況を紹介する。 1.燃料電池自動車の開発状況 米国エネルギー省長官は 2006 年初め、燃料電池車の商業化のためのさらなる開発に 関連して、技術的問題の克服や製造上の挑戦を目的とした 1.19 億ドルの資金提供とロ ードマップを発表した。この資金のうち 1 億ドルは、高分子電解質膜、スタック内の水 の移動、陰極(カソード)触媒およびその担体、燃料電池のハードウェアおよび燃料電池 の性能への(燃料ガス中の)不純物の影響等を改良するための研究プロジェクトに、4 年 間にわたって支給される。残りの 1900 万ドルは、応募したもののなかから選定された 12 件の高分子膜研究プロジェクトに 5 年間にわたって支給される。12 件の研究機関は 殆どが大学で、民間では Giner Electrochemical Systems 社、FuelCell Energy 社、 General Electric 社である。これらのプロジェクトは、2020 年までに多くの米国民が 実用的で安価な燃料電池車を選べるべく、水素・燃料電池・インフラ技術を開発するも ので、ブッシュ大統領が 2003 年一般教書演説で発表した 12 億ドル「Hydrogen Fuel Initiative」の一部である。(資料 1) 燃料電池車の実用化に向けたテスト走行はダイムラークライスラーを中心に、 フォー ド、メルセデスベンツ等で実施されている。特にダイムラークライスラーは 2012 年ま でに燃料電池車を商業化できると信じており、現在世界各地で、100 台以上の実証化テ ストを続けている。その一環として、この度同社はファーミントンヒルズ市(ミシガン 州)とパートナーを組み、来年から同市でテストカーを走らせることとなった。使用さ れる燃料電池車は、F-Cell として知られるメルセデスベンツ A-クラス車である。ファ ーミントンヒルズが選ばれたのは、 近くのサウスフィールド市に水素ステーションが設 置されているためである。(資料 2) PEC 海外石油情報(ミニレポート) GM は同社の燃料電池車Sequel を 2005 年 12 月に試験走行する予定であったが経営不 振により 2006 年 6 月以降に先送りされることとなった。GM の最大の部品供給業者であ る Delphi 社が破産したが、GM のバーンズ副社長は「Delphi 社の破産は GM の燃料電池 事業に重大な影響を与えるものではないが、Delphi の部品を使っていたことは確かで ある。しかし部品業者の確保は出来た。 」としている。さらに、水素自動車開発計画に 変更はなく、2010 年までには燃料電池車を市場に出すとしている。(資料 3) 韓国の現代自動車(Hyundai Motor)は 2010 年から製造されるスポーツ車 Tucson SUV に燃料電池バージョンを加えると発表した。2009 年に米国で燃料電池車の路上テスト を実施し、2010 年までの商業化を目指す。同社はすでにオークランドにある大手輸送 会社 Alameda-Contra Costa Transit(AC Transit)社に燃料電池車 Tucson FCEV 2 台を 提供して、燃料電池車・水素インフラ技術を評価するため 5 カ年の実証テストを開始し ている。最終的には 10 台を予定している。Tucson FCEV は 152 リットルの水素タンク を搭載できるため航続距離は 300km を確保できる。また、-20℃での低温始動も可能で ある。(資料 4,5) さらに現代自動車は、 中国にガソリン電気ハイブリッド車と燃料電池車の導入を計画 していることを明らかにした。現代自動車と北京汽車(Beijing Automotive Industry Corp)との合弁会社が、2008 年の北京オリンピックまでにハイブリッド車の商業生産を 開始し、2010 年までに燃料電池車の製造を開始する。中国では昨年、トヨタが吉林省 でハイブリッド車プリウスの製造を開始したのを皮切りに、GM、フォルクスワーゲン、 中国吉利汽車(Geely)各社が 2008 年にハイブリッド車の生産を開始し、GM が 2010 年に 燃料電池車の製造も開始するとしている。(資料 6) 2.燃料電池発電設備の開発状況 燃料電池発電設備の実証化テストが実施されている一方、 石炭燃料電池の開発や新た な電極触媒の開発等も進行している。 まず実証化テストに関しては、米国 FuelCell Energy(FCE)社が欧州のパートナーで ある MTU CFC Solutions 社と共同で、FCE 社の内部改質型直接燃料電池(DFC)を組み込 んだドイツ北東部アーレンの都市下水処理施設の発電プラントの試運転を完了した。 下 水処理時に発生する嫌気性消化ガス(メタン)で稼動する欧州最初の燃料電池発電プラ ントとなる。250kW の電力は下水処理設備の動力源に使われ、余剰電力は配電網へ送ら れる。また併産する 180kW の熱は下水スラッジのガス化やビルの暖房に利用される。 (資料 7) PEC 海外石油情報(ミニレポート) また FCE 社は、米国エネルギー省(DOE)により Multi-Megawatt 級の石炭ベース・固体 酸化物型燃料電池(SOFC)発電システムを開発するプロジェクトの元請け業者に選ばれ た。DOE の「Fuel Cell Coal-Based Systems Program」は、出力 10 万 kw 以上、総合エ ネルギー効率 50%以上(現在、米国の石炭火力発電所は約 35%)、CO2 回収率 90%以上およ び発電コスト400 ドル/kW 以下(石炭ガス化およびCO2 分離工程を除く)等を目標として、 10 年間で約 8,500 万ドルが投資される。FCE 社の石炭ベース DFC/T(タービン)発電では エネルギー効率 56%という結果も得られている。本プロジェクトは、今までに成功して いる 5~10kW 級 SOFC スタックをスケールアップすることで、第 1 フェーズでは 3 年間 で10 万kW 級スタックの製作およびテストを、 第2、 第3 フェーズではさらに大型のSOFC システムの製作および最低 2.5 万時間のフィールドテストを行う。(資料 8) 石炭利用の燃料電池としては、ほかにカリフォルニア州の非営利独立研究機関 SRI International が、新しく直接炭素燃料電池(Direct Carbon Fuel Cell:DCFC)を開発し た。石炭を利用して安価でクリーンなエネルギーを生み出す DCFC は、固体酸化物型燃 料電池(SOFC)と溶融炭素/空気燃料電池(Molten Carbon/Air Fuel Cell)の技術をミック スしたもので、微粉炭を直接電気化学的に酸化して高効率で電力を得るものである。10 ~1000 ナノメートルの超微粉炭を 750~850℃の溶融炭酸リチウム・ナトリウム・カリ ウム混合物中に分散させ、これに酸素(空気)を反応させると電気と CO2 が得られる。石 炭をガス化する必要もなく、エネルギー効率は石炭火力発電の 2 倍に当たる 70%が確 保できる。(資料 9,10) 燃料電池用白金電極触媒は高価であるため、 白金量を減じた触媒や代替触媒等の開発 が行われている。 化学品メーカーの Cabot 社は固体高分子型やダイレクトメタノール型燃料電池に使 われる炭素担体上に白金が20~60%担持されている4 グレードの白金電極触媒を発表し た。これらの触媒は、より少ない白金使用量で燃料電池の性能と耐久性が最高水準に達 したもので、コマーシャルスケールで生産可能であるとしている。(資料 11) また、イタリアの触媒メーカーActa 社は、メタノール又はエタノールを原料とする 燃料電池用触媒「HYPERMEC」を開発した。この触媒は白金を含まず、鉄、コバルト、ニ ッケルの 3 金属を含み、室温で作動し、発電出力はアルコール直接燃料電池としては最 高の 5.5 万 kW/cm2 が得られた。特にエタノール燃料電池はメタノール燃料電池の最高 出力と同等又はそれ以上であった。(資料 12,13) 一方、オックスフォード大学は電極触媒を用いない生物学的燃料電池(Biological Fuel Cell)を開発している。大気から酸素と水素を取り込み発電する酵素ベースの生物 PEC 海外石油情報(ミニレポート) 学的燃料電池である。数%の水素を添加した大気で満たしたガラス容器内に、酵素で コーティングした 2 つの電極をセットして燃料電池を作る。 この酵素は代謝過程で水素 を使用するよう進化した自然界のバクテリアから分離されたもので、 一酸化炭素や硫化 水素のような従来の燃料電池では触媒毒になるガスに対する耐性がある。また酵素は、 高価な白金担体触媒に比べ安価であり、 また多くの燃料電池で必要とされる燃料分離膜 の必要性もない。 クリーンかつ安価な発電システムを世界に提供できるとして期待され る。(資料 14) (TT) (参考資料) 1.http://www.energy.gov/news/3098.htm 2.http://www.freep.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20060421/BUSINESS01/604210348/ 1014/BUSINESS 3.http://www.fuelcellsworks.com/Supppage3830.html 4.http://www.greencarcongress.com/2005/12/hyundai_plans_t.html 5.http://www.hyundai.com.au/company_news_050106_2.asp 6.http://www.fuelcelltoday.com/FuelCellToday/IndustryInformation/IndustryInforma tionExternal/NewsDisplayArticle/0,1602,7412,00.html# 7.http://www.corporate-ir.net/ireye/ir_site.zhtml?ticker=FCEL&script=412&layout= -6&item_id=779318 8.http://www.azom.com/details.asp?newsID=4962 9.http://www.sri.com/news/releases/11-11-05.html 10.http://thefraserdomain.typepad.com/energy/2005/12/direct_carbon_f.html 11.http://www.fuelcelltoday.com/FuelCellToday/IndustryInformation/IndustryInform ationExternal/NewsDisplayArticle/0,1602,7148,00.html 12.http://www.fuelcelltoday.com/FuelCellToday/IndustryInformation/IndustryInform ationExternal/NewsDisplayArticle/0,1602,6828,00.html 13.http://fcr.iop.org/articles/features/3/2/3 14.http://www.cleanedge.com/story.php?nID=4036 本資料は、 (財)石油産業活性化センター石油情報プラザの情報探査で得られた情報を、整理、分 析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは [email protected] までお願いします。 Copyright 2006 Petroleum Energy Center all rights reserved
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