構造解析編

構造解析編
Ⅰ. 構造解析法の分類
近年、化合物の物理的性質を利用した構造解析法 (機器分析法)が多用されている。
その測定原理から,次の四つに大別できる。
構造解析法の分類と特徴
分析法
原
理
情報と目的
○ 紫外・可視スペクトル法
紫外・可視光線の吸収
(電子スペクトル)
共役二重結合系の
存在 (定性)
○ 赤外吸収スペクトル法
赤外線の吸収
(振動スペクトル)
ラマンスペクトル法
光の散乱
(振動スペクトル)
蛍光スペクトル
光学的分析法
1.
蛍光分光法
屈折率測定法
旋光分散と円二色性分光法
光の屈折率
光の旋光性と偏光
官能基の特定
(同定・定性)
官能基の分析
赤外分光法と相補的
芳香環系の存在
誘導体化して検出
純度の検討
光学活性部位の構造
磁気分析
2.
○ 核磁気共鳴法
電子スピン共鳴法
③
質量分析法
4.
X線結晶解析法
原子核の磁気モーメント
電子の磁気モーメント
イオン化と質量分離
X線の回折
分子中の水素・炭素
の存在状態
ラジカルの構造
不対電子の分布状態
分子量と分子式の決定
同定と構造解析
分析機器の検出
分子の絶対構造解析
これらの測定法を組み合わせることにより、有機化合物の構造を決定する。
1
Ⅱ. 電磁波(光)の性質
①
C = λν
速度 (光速):C
λ: 波長
ν : 周波数 (振動数)
(Hz)
ν = C /λ
エネルギー:E
h : プランクの定数
E = hν
→
波長が短いほど(周波数が高いほど)
,エネルギーは大きい
波数(cm-1):1 cm あたりの波の数
cm-1 = 1 /λ = 10000 /λ (μm)
Ⅲ. 測定に使用する電磁波
→
200 nm
Ⅳ. 紫外・可視吸収スペクトル法
( ultraviolet-visible absorption spectrometry, UV-VIS 法 )
紫外 (200 380 nm),可視 (380 780 nm) 領域の光を吸収して得られるスペク
トルは、分子の電子スペクトルである。
光を吸収すると、結合電子が基底状態から高エネルギー状態へ励起される。
t = I / I0
I0 入射光 ,
t:透過度
T =
I / I0 ×100
A =
−log (I / I0) = −log t
= t×100
1 cm , 1 mol/L
1 cm , 1 % (w/v)
2
(%)
I 透過光
T:透過率
A:吸光度
→
→
モル吸光係数(ε)
比吸光係数(E 1%1cm)
電子の遷移と吸収波長
σ→σ*
n→σ*
紫外部
200 nm
n→π*
π→π*
可視部
380 nm
π共役系が存在すると,紫外・可視部の光を吸収する。
共役系が2個、3個と増えるにつれて、吸収帯は長波長側に移動する。
1,3-ブタジエン
1,3,5-ヘキサトリエン
1,3,5,7-オクタテトラエン
ベンゼン
ナフタレン
アントラセン
λmax (nm)
C=C−C=C
217
C=C−C=C−C=C
258
C=C−C=C−C=C−C=C
290
(1)
261
(2)
312
(3)
375
(π→π*)
λmax =217
1,3-ブタジエン
Abs
波 長 (nm)
日本薬局法では医薬品の確認試験に用いる
→
薬品の確認や純度検定
試料溶液の吸収スペクトルを測定 → 参照スペクトルと吸収極大を比較
特定の吸収極大の比を利用して確認
→ (アムホテリシン B)
試料の固有値である比吸光係数
→
確認,純度試験
不純物の特定吸収
→
不純物の許容限度 (エピネフリン)
3
Ⅴ.赤外スペクトル法
( infrared absorption spectrometry ,IR 法 )
②
赤外線 ( 波数 4000 400 cm-1 , 波長 2.5 2 5μm) 領域の吸光スペクトルである。
これは、分子中の原子核間の 振動(伸縮,変角)スペクトルでもある。
○
1300∼650 cm-1 の領域
この部分は指紋領域と呼ばれ、構造を反映するため、化合物の確認に用いる。
○
4000∼1300 cm-1 の領域
水酸基やカルボニル基などの官能基の吸収帯がみられる。
各々の官能基は特定の波数領域に吸収帯を示すので、官能基を特定できる。
国試対策
→
官能基を特定するためには、最低限の吸収帯の位置を覚えておく。
官能基の特性吸収帯の位置
指紋領域
3600
3000
O−H
2300
1800
NH 塩
N−H*
* NH・塩
** 1650~1800 C=O ,
*** C−H 面外変角
1650
C = O**
ケトン
アルデヒド
カルボン酸
エステル
アミド
800
700
芳
香
環
***
3000~2300 (cm-1)
1200 付近に吸収
→
エステル
強度は H が少なくなると弱くなる
4
650(cm-1)
ア
3100
2800
1260
780
OH
NH 塩
エステル or エーテル
ベンゼン環
イ
1760 C=O →
エ
3200 OH or NH
1210
エステル
5
→
a
→
c
→
b
問題 10
各スペクトルの帰属
③
ア
← NH 塩
←ベンゼン環
OH →
イ
C=O →
← エステル
CO-O-
ウ
← OH
ア
→ a
、イ → c
、
ウ →
6
b
答
2
IR スペクトル
3000 付近
OH or NH
,
1696 , 1656
C=O
UV スペクトル
254 nm の吸収
π共役系 or ベンゼン環
7
2 種類 ,
704
ベンゼン環
問題 11
スペクトルの帰属
④
OH →
ベンゼン環→
C=O →
答
(参
考)
←
1
1. ケトプロフェン
2. トラネキサム酸
3. エプネフリン
4. クロールフェニラミン
(マレイン酸塩)
5. カンフル
練習問題
8
抗炎症・鎮痛・解熱
抗プラスミン・止血
気管支痙攣・ショック時の蘇生
抗ヒスタミン
筋肉痛・打撲・挫傷
9
問題 12
各スペクトルの帰属
⑤
ア
← OH
→
C=O →
イ
←NH 塩?
C=O →
OH →
←ベンゼン環?
ウ
OH →
*
*
* ヌジョール
エ
←NH 塩
C=O →
10
←ベンゼン環
ア
3300 OH or NH ,
イ
2800~3600
ウ
3000 NH or OH ,
エ
2600 NH 塩 ,
1600~1800 C=O
NH or OH ,
1700
2本
C=O
800 ベンゼン環?
1700
C=O ,
750 ベンゼン環
→
c
→
d
→
b
→
a
→
答
4
IR スペクトルから官能基を特定するためには、
最低限の吸収帯の位置を覚えておく
→
医薬品の確認試験(日本薬局法)
試料の吸収スペクトルを測定
→
標品または参照スペクトルと比較
主に 指紋領域 (1500 6 50 cm-1 ) で判定
↓
完全に一致するものはないので、判断するには熟練が必要
結晶形が異なる 結晶多形 の場合, 同じ溶媒から再結晶して比較
11