留数による級数の和

第72回数実研レポート
留数を用いた級数の和の求め方
2010.2.6.ニッセイMKビル
札幌平岡高校
長谷川
-1-
貢
級数の和の求め方
長谷川
貢
級数の和は、数学Ⅲの科目で初めて目にする不思議な計算であるが、その方法は数学B
で学習した数列の和の公式を直接使うことのできる方法と、数学Ⅲで学習する区分求積法
の2種類に限られる。しかし、それらの方法を使うことのできない問題も数多くある。
今回は留数を用いた方法について考察する。そのために必要な道具から始める。
「岩波講座
応用数学
複素関数論Ⅱ
森
正武
杉浦正顕
著」を参考にした。
定義7.2
f(z)が0<|z-a|<Rで正則であり、そこで
∞
f z =
(7.1)
n
cn z-a
n=-∞
の 形 に Laurent 級 数 に 展 開 さ れ た と す る 。 こ の と き 、 展 開 係 数 c - 1 を f ( z ) の z = a に
おける留数という。
c -1は f ( z ) を C で 囲 ん で 積 分 し た 値 に 他 な ら な い 。
定義7.2
f(z)が0<|z-a|<Rで正則なとき、
1
2πi
z-a =r
f(ζ)dζ
(0<r<R)
をf(z)のz=aにおける留数という。
定理7.1
( 留 数 定 理 ) f ( z ) は 、 単 純 閉 曲 線 C の 内 部 で 有 限 個 の 孤 立 特 異 点 a 1、
a 2、 … , a m を 持 つ が , そ れ ら を 除 け ば 周 も 含 め て C の 内 部 で 正 則 で あ る と す る 。 こ の
とき
m
C
f z dz=2πi
Res f,αk
k=1
無限遠点における留数
定 義 7 .3
f( z )は R < | z | < ∞ に お い て 正 則 で ,Γ r を | z | = r( R < r < ∞ )
なる正の向きの円周とするとき,
1
2πi
Γr
f z dz=-
-1
1
2πi
Γr
f z dz
を f ( z ) の 無 限 遠 点 に お け る 留 数 と い う 。 た だ し 、 Γ r-1は Γ rの 向 き を 逆 に し た 円 周
である。
定理7.2
単 純 閉 曲 線 C の 外 部 に あ る 有 限 個 の 点 a k( k = 1 , 2 , … , m ) お よ び 無
限遠点∞を除いて,f(z)はCの外部ではその周上を含めて正則であるとする。このと
き,
m
C
f z dz=-2πi
Res ak,f +Res ∞,f
k=1
( 無 限 遠 点 に お け る 留 数 は , R e s ( f , ∞ ), R e s ( ∞ , f ) で 表 す 。)
-2-
CR
C1
C2
×
×
a1
a2
C
Cm
×
am
図7.1
証明】
CR
f z dz=
C1
f z dz+
C2
f z dz+…+
Cm
f z dz+
C
f z dz
よ り 、 C Rに 沿 う 積 分 は - 2 π i × ( 無 限 遠 点 に お け る 留 数 ) を 与 え る か ら , こ れ か ら た
だちに上式を得る。
留数の計算法
p ( z ), q ( z ) を z = a で 正 則 か つ , q ( a ) = 0 , q ’( a ) ≠ 0 , p ( a ) ≠ 0
をみたす関数として,関数f(z)がp(z)/q(z)の形に表されるとする。このと
き,f(z)はz=aに単純な極をもち
lim z-a
z→a
p z
=
q z
lim
p a
q z -q a
z→a
=
p a
q’ a
z-a
である。したがって,そこでの留数は
c-1=
p(a)
q’(a)
によって計算できる。
三角関数の留数
f z =πcotπz=
πcosπz
sinπz
と す る 。こ の と き ,z = 0 ,± 1 ,± 2 ,… ,k ,… は f( z )の 留 数 の 単 純 な 極 で あ り ,
lim z-k πcotπz=lim
z→k
=lim
h→0
z→k
(z-k)πcosπz
sinπz
πhcosπ k+h
coskπ
=
=1 ( 但 し 、 z = k + h
sinπ k+h
coskπ
-3-
とおいた)
fz=
π
sinπz
と す る 。こ の と き ,z = 0 ,± 1 ,± 2 ,… ,k ,… は f( z )の 留 数 の 単 純 な 極 で あ り ,
そこでの留数は次のようになる。
c-1=
π
= -1
πcoskπ
k
となる。
と す る 。こ の と き ,z = 0 ,± 1 ,± 2 ,… ,k ,… は f( z )の 留 数 の 単 純 な 極 で あ り ,
そこでの留数は
π
c-1=
d
dz
z=k=
sinπz
π
= -1
πcoskπ
k
となる。
有理関数の無限区間における積分
P (x )は m 次 , Q (x )は n 次 の 多 項 式 で , n ≧ m + 2 か つ Q ( z ) は 実 の 零 点 を も た な
いとする。このとき
∞
P x
-∞
Q x
N
dx=2πi
Res
k=1
P z
Q z
,ak
…①
た だ し , a k( k = 1 , 2 , … , N ) は P ( z ) /Q ( z ) の 上 半 平 面 に あ る 極 で あ る 。
証明】右の図のように積分路Cを考える。
積分路Cは,実軸上の積分(-R,R)
と 原 点 を 中 心 と す る 半 径 R の 半 円 周 Γ Rを つ
な い だ も の で あ る 。 た だ し , 極 a kは す べ て
Cの内部に入るようにRは十分大きくとる。
CR
このとき,留数定理より
C
×
P z
dz=
Q z
R
P x
-R
Q x
dx+
N
=2πi
Res
k=1
×
×
CR
P z
Q z
P z
dz
Q z
,ak
-R
ak
O
R
…②
となる。一方,仮定n≧m+2より,Rを十分大きくとればMをRによらないある定
数 と し て | z 2 P ( z ) /Q ( z ) | ≦ M が 成 り 立 つ か ら
ΓR
P z
dz ≦
Q z
ΓR
P z
Q z
dz =
-4-
ΓR
z2
P z
Q z
1
z2
dz
≦
M
Mπ
πR=
→0
R2
R
定 理 7 .4
し た が っ て 、② で R → ∞ と す れ ば 、① を 得 る 。
(R→∞)
f( z )は 有 理 関 数 で ,分 母 の 次 数 は 分 母 の 次 数 よ り 2 以 上 大 き く ,f( z )
は整数の極をもたないとする。このとき
∞
f n =-
n=-∞
Res fσ1,ζj
但し、f z =
j
1
z2+a2
である。
た だ し , ζ jは f ( z ) の す べ て の 極 で , 和 は す べ て の 極 に つ い て と る 。
具体的な例題
次の和を求めなさい。
∞
S=
n=1
1
(a>0)
n2+a2
解 】 f z σ1 z =
πcosπz
z2+a2 sinπz
とおく。
f ( z ) σ 1( z ) の 孤 立 特 異 点 は , ± a i , 0 , ± 1 , ± 2 , ± 3 , … , ± n , … で あ
る。また,その点での留数を求める。
z=aiのとき
z-ai πcosπz
π
2i
e-πa+eπa
=
lim
z+ai sinπz 2ai e-πa-eπa
2
z→ai z-ai
=
π 1+e-2πa
2a 1-e-2πa
z+ai πcosπz
π
2i
eπa+e-πa
=
lim
z+ai sinπz -2ai eπa-e-πa
2
z→-ai z-ai
π 1+e-2πa
=
2a 1-e-2πa
lim
z→k
π z-k cosπz
πcoskπ
1
=
=
z2+a2 sinπz
k2+a2 coskπ
k2+a2
よって
∞
1
n=-∞
n2+a2
=-
π e2πa+1
=
a e2πa-1
∞
答
n=1
1
n2+a
=
2
π 1+e-2aπ
2a 1-e-2aπ
∞
また,
n=-∞
+
π 1+e-2aπ
2a 1-e-2aπ
∞
1
1
=2
+
n2+a2
n2+a2 a2
n=1
1
π e2πa+1
2
a e2πa-1
1
-
1
a2
-5-
より
この式のaを0に近づける。
ここではロピタルの定理を用いて計算する。
π e2πa+1
1
πa e2πa+1 - e2πa-1
-
=lim
a e2πa-1
a2
a2 e2πa-1
a→0
lim
a→0
=lim
a→0
π e2πa+1 +πa× 2πe2πa-2πe2πa
2a e2πa-1 +a2× 2πe2πa
πe2πa+π+2π2ae2πa-2πe2πa
=lim
a→0
2ae2πa-2a+2πa2e2πa
=lim
a→0
=lim
a→0
=lim
a→0
=
-2π2e2πa+2π2e2πa+4π3ae2πa
2e2πa+4πae2πa-2+4πae2πa+4π2a2e2πa
4π3ae2πa
2e2πa+8πae2πa-2+4π2a2e2πa
4π3e2πa+8π4ae2πa
4πe2πa+8πe2πa+16π2ae2πa+8π2ae2πa+8π3a2e2πa
4π3
π2
=
12π
3
よって
∞
lim
n→0
n=1
1
n2+a2
=lim
∞
このことは,ζ 2 =
a→0
1
=
2
n=1
n
1 π e2πa+1
2 a e2πa-1
π2
6
-
1
a2
=
1
2
×
π2
3
=
π2
6
の答と一致することになる。
問題】次の級数の和を求めなさい。
∞
n=1
-1
n
n2+a2
(ヒント…σ2 z =
π
sinπz
-6-
,f z =
1
z2+a2
とおく。)